FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
現在も小競り合いの続く激戦区バランカ領アトキ、その後方に幾つものテントや臨時格納庫が密集する場所がある。
様々な人員が入り乱れ、モーターヘッドの悲鳴のような駆動音、怒声を環境音にひとりの兵士が歩いていた。
その兵士は野戦陣地の一角、複数のテントが密集する区画へ足を踏み入れれば慣れた足取りでほかのテントよりも一回り大きなテントの入口をくぐる。
「隊長、調査結果が来てます」
略式の敬礼をした後、告げればテントの奥で執務をしていた存在へ声をかけた。
その隊長と呼ばれた男は顔を上げ、作業の手を止めると小さく頷く。
「そうか。見せてくれ」
「はい」
部下は持っていた封筒を隊長へと手渡し、受け取りペーパーナイフによって封を解けば開封されていた書類を机の上へ広げた。
「…………やはり、か」
「…………そのお顔を見るに、あの方が?」
「そうだ。声紋及び、骨格、歩き方の癖……全ての誤差が0.19%以内に加え、王城地下の極秘工房から回収された幾つかの設計図の断片からあの翠のモーターヘッドの
そしてあの宣言からみてあの人物はイーリスフィア殿下その人だ」
「ッ……やはり、ですか。信じたくはなかったですが」
「俺もそう思いたいよ。だが、数字は嘘をつかんさ。6年前から姿を見せること無かった殿下が何故コーラス……我々に剣を向ける理由など…………いや、あるか」
「我々国家騎士団には何一つ教えられてませんからね。ただ、いきなり縁もゆかりも無いハグーダと同盟を結んだうえに、コーラスへ攻め込むことを告げられたのですから」
「ふん、お上は何も教えてくれないからな。あの貴族のボンクラ共め……なにが凡庸な国家騎士団は我々エリートの騎士団に従っていればいいだ。
ろくな戦術も理解していない無能が」
「隊長、そこまでに。誰が聞いてるか分かりません」
「……すまない。はぁ、殿下がお隠れになる前はこんなことになどなるとは思いもしなかったんだがな」
「ですね」
2人は共に重々しいため息を零す。
「……それで隊長、こうして本来我々が忠義を向けし殿下が敵側にいるのなら今も本国にいる殿下を名乗るナニモノはどう致すので?」
「……予定通りコーラスにいる近衛騎士団団長へ接触するしかあるまい。次の戦闘のどさくさに紛れ使者をバレないように向こうへ送れ」
「ハッ、拝命いたしましたリーヴァル大隊長」
「よろしく頼む」
部下を下げ、椅子へ深く座り込むリガリエッテ公国国家騎士団第2大隊隊長『リーヴァル・エコロヴァルツ』大佐は気怠げにテントの天井を見上げる。
「まったく、クソッタレだよ本当に」
そんな呟きは灰皿に押し付けた煙草の紫煙と共に空気へ解けるように消えていった。
「さて、では政治的な話はこれくらいにしておこうか。姿勢を崩しても構わないよ」
場の空気を切り替えるようにしてコーラス陛下は言いました。ぶっちゃけ助かりますわ! 正座で足が痺れる目前でしたからね!
あ、お茶いただきますわね〜。
「粗茶だが構わないね?」
「全然構いませんわ〜。あ、いちおうお茶菓子持ってきたのですが食べます?」
「ぜひ貰おう。ちなみにどんなものだい?」
「とらやの羊羹ですわ〜」
「おお、あそこの羊羹は絶品だ。感謝する」
コーラス陛下は手を軽く叩くと部屋の外に控えていた従者の方が入室し、ワタクシの持っていた羊羹の入った紙袋を受け取り音を立てずに退室しました。
多分切り分けて盛り付けに行ったんでしょうね。程なくしてお皿に盛られた羊羹がそれぞれに運ばれ、ちょっとしたお茶会が開始します。
「それにしても最初に報告を聞いた時は驚きを隠せなかった。まさかアトキでのこちらの軍の撤退戦のさなか乱入し、撤退の支援をした上で数に勝る敵軍を少数で蹴散らすとはね」
「敵軍が浮き足立っていたのに加え、消耗してましたからね。そこへ歴戦の騎士が万全の状態に加え性能的に勝っているモーターヘッドでかちこめば誰にだって出来ますよ」
「ふっ、勇ましいことだ」
「弱気な騎士など戦場にいては直ぐに死ぬでしょう?」
「違いない」
ワタクシの軽口にコーラス陛下は肩を竦め、ワタクシも微笑んで羊羹を食べます。んー、甘くて美味しい!
「しかし、君の作った騎体……
私の所管だが、あの騎体はきっと三大モーターヘッドに勝る名騎といえるよ」
「はい、ワタクシのフルゴールは星団において最強の騎体だと思っていましたわ」
「……いた?」
「……」
陛下はワタクシの言葉に違和感を覚えたのか首をかしげました。それにワタクシは手に持った湯呑みを覗き込み、脳裏にある事が過ります。
バストーニュの荒野で現れたあの黄金の騎士……あの特異なモーターヘッドを見た瞬間にワタクシは思ったのです。
────ああ、これは勝てないな、と。
いやー、なんなんですかねあのモーターヘッド? 明らかに既存のどのモーターヘッドよりも明らかに性能が隔絶してるってレベルの話じゃありません。
加えて、ワタクシは自惚れていたのだと無理やり
レディオス・ソープ、歴史の中で度々現れる素性不明のモーターヘッド・マイスター。そしてその正体は大国A.K.D.の皇帝アマテラスその人。
「あのお披露目の日、ワタクシは自分がまだまだだと理解させられました。
ですが、心折れるワタクシではありませんわ。確かにまだフルゴールはあの方の騎体に掠る程度です。
しかし、追い越しワタクシこそがワタクシのフルゴールこそが最高のモーターヘッドだと証明して見せますわ」
「ふむ、私にはよく分からないが君にとってあの日はとても大切な出会いがあったようだね」
「ええ、はい。世界は広いと思わせられましたわ」
「そうか。で、あるならば……君のモーターヘッドマイトとしての腕を見込んで力を貸して欲しい」
「それは、どういう……」
「あの日、君には言ったと思うが……私は今とある騎体を作っていてね」
「ああ、そういえば……」
陛下の言う通り、お披露目の時にコツコツと王としての仕事の傍らでとあるモーターヘッドを作っていると仰ってましたわね。そのあとのゴタゴタで忘れてましたわ。
「今、コーラスは重大な危機に陥っている。臣下たちは皆頑張っているが、前線のモーターヘッドの数は余りにも足りていない」
「ええ、それはワタクシも存じております」
アトキでの共食い整備でどうにか騎体を維持していた光景を思い出します。
「そうとも。その騎体を完成させれば私のベルリンを1騎、トリオに回せる。
そして、私も共にその騎体で前線へと出ることができれば兵たちの士気もあがるだろう」
「……その騎体は?」
「……この星の名を取り、コーラスの守護者となるモーターヘッド。名を『ジュノーン』」
コーラス3世は真っ直ぐに見据え、ワタクシへ頭を下げます。
「どうか、あの騎体を完成させるために君の力を貸して欲しい。イーリスフィア・ゼノ・リガリエッテ」
どこまでも真摯な願い。ワタクシもその瞳を見つめ、そしてゆっくりと頷きました。
「謹んでその要望を拝命させていただきます。不詳ながらイーリスフィア・ゼノ・リガリエッテがコーラス陛下の王騎ジュノーンの建造のお手伝いを」
「……感謝するよイーリスフィア」
「いえ、貴重な経験を積ませていただけるこちらが感謝すべきですわ陛下」
「ふふっ、では私の工房に案内しよう。……君たちもどうかな?」
コーラス様はいうとバルカス達へ声をかけました。
「うぇ、い、いいんですか? その、機密とか……?」
「盟友たるリガリエッテの姫君の臣下なのだ。加えて、力を貸してくれるのだからこれくらいの筋を通すのは当たり前さ」
「じゃ、じゃあ……そういうことなら」
騎士として、まだ見ぬ王騎に興味があったのかバルカスはいそいそと立ち上がります。
ジュノーン、コーラス王朝の新たな王騎。どんなモーターヘッドか気になりますわねぇ!
イーリスフィアは対面する。白き無垢の乙女に。
それは遥か遠い未来にて全星団を巻き込み、反逆の御旗となる偉大なる巨神。
そして、イーリスフィアに刻み込まれだろう。彼女にとって初めての挫折と痛みが。
用語解説
・リーヴァル・エコロヴァルツ
年齢:地球換算でおよそ37歳
リガリエッテ公国国家騎士団、第2大隊隊長を務める騎士。一般出身ながら現場の叩き上げで今の地位を築き上げ、部下からの信頼も厚い指揮官。
そしてクーデター前にはイー様と共にローカストの開発に携わっていた経歴を持つ。
現在の公国の現状を憂いており、ほかの国家騎士団の大隊のメンバーと共にとある裏工作をしている模様。