FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
唐突ですが、モーターヘッドの建造はとても時間がかかります。
既存の生産された量産騎などは機材と建材があれば数ヶ月程度で完成しますが、量産騎と言えども新規のものを一から生み出すとなると設計図を書くだけでも数年はかかり、
そんでもって組み上がったとしても思い描いた通りの騎体になる訳ではなく、最初のα騎でテストをして問題点が浮き上がれば改善し新たに生産したβ騎。そのβ騎でさらにテストをして改善を加えて生産したγ騎となっていきます。
そして諸々の改善点を修正してよーやっと完全な騎体が出来上がりますのよ。
才色兼備天上天下唯我独尊銀河一のスーパー美少女たるワタクシでさえ、フルゴールを完成させるのに30年近くも費やしたといえばその大変さが分かるでしょうか?
いや、まぁ。フルゴール自体特殊な騎体でワンオフですし、加えて建造途中でクーされたので無駄に時間かかったので例として出すには些か不適合でしたわねぇ。
でも、そんなあの子の建造の傍らにクーされる前にワタクシはローカストを作り上げましたが、それでも10年は使いましたわ。
スリービーストも作ってはいますが、あの子達はまだテスト段階のα騎だったのですよねぇ。
今回の戦争で問題点が粗方洗い出されているので、色々と落ち着いた時にあの子らの改善し、ワタクシ直下騎士団の正式量産騎にしていきたいですわよ〜。
えーと、どんな話でしたかしら? ……そうそう何が言いたいかと言うと才媛溢れ、エレガントに優雅に気品を併せ持ち文武両道を地で行く。
何れ星団歴に鮮烈なる名前が刻まれることを確約された類稀なるPerfect Princess(とても良い発音)のワタクシでさえ、モーターヘッドの制作にそれだけの時間をかけるといえばどれだけ大変かと理解できるかという話でしたわね。
んで、こう思う人もいますわよね。じゃあ時間さえかければ知識のある人なら誰でもモーターヘッドを作れるんじゃね? と。
ところがどっこい、そう話は上手く行きませんわ。いつか話したようにモーターヘッドの建造、ファティマの製作にはマイトが必要不可欠。
我々マイトは常人の天才とは文字通り次元とレベルが違うほど知能が超越しています。普通ならコンピュータや何日もかけて計算するような数式を一目見ただけで途中式など介さずに答えを弾き出したりできますわ。
そして、ファティマやモーターヘッドは既存のどの兵器群よりも遥かに複雑で高度な技術を要求し、そこにはどれだけ高性能なコンピュータを用いても作り出すことは不可能です。
完成させるにはマイトの力が必要、マイトでなければモーターヘッドは完成しえません。マイトとマイスター……そこには決して越えられない壁があるのですわ。
そんな人間スパコンでさえ、めたくそ時間がかかる。それがモーターヘッドなのです。
まぁ? そんな天才達の中でもとびきり天才なワタクシなら? フルゴールを建造する片手間に? ローカストやスリービーストのような傑作騎を生み出せるのですがね!! (隙自語)
「っぱ、ワタクシってば天才すぎか〜???」
「いきなり彼女は虚空に向かって何を言ってるんだい?」
「気にしないでくださいませ〜。マスターってばああいう所があるんです〜」
「時々とち狂うんすよねお嬢は」
「ふむ、そうなのか……とち狂うのか……」
「イーリス様は天才特有の変わった所をお持ちだとここ数年でよく理解出来ましたね」
そこ、聞こえますわよ!
前を歩いていたコーラス様とレイラ、その後ろにワタクシ、最後尾にバルカスとペリルがおります。現在ワタクシ達はコーラス城の地下へと続く秘密の階段を歩いており、目的地はその下にありますわ。
「それにしてもコーラス城にこんな場所があるのですのね……」
「私専用の工房さ。秘密基地ともいえるかな?」
「ワタクシも城の地下に専用の工房がありますわねぇ。留学から帰ってきた当初はほとんどそこに引きこもってたのもいい思い出ですわ」
「マスター、それでクレア様からよく引っ張りだされてましたよね〜」
「風呂とかご飯も最低限にひたすら工房にこもってフルゴールの建造してただけなんですがねぇ?」
「流石に1人の大人として言わせてもらうが、それはシンクレアが正しいと私は思うよ」
「バストーニュにいた頃もお嬢は時間さえあればフルゴールの製造に心血注いでたなぁ。
酷い時はレイラ様とポラリスが担ぎ上げて風呂に突っ込んでペリル達が含んだ4人で拘束して強引に身体洗ってたし」
「流石に1週間も風呂キャンしてたのは人としてダメですよね……」
「だぁぁぁあっ!!? なに言ってんですのよアンタら!! よりにも寄ってコーラス陛下のいるところでそんなこと言ってんじゃねぇーですわ!!
ワタクシの淑女として貞淑なイメージが無くなっちまうでしょうが!!」
「「「しゅく、じょ……?」」」
「き、きさまらー!!!」
「グワーッ!」
もう許さん!! じわじわと嬲り殺しにしてくれますわ〜〜〜〜!!!!
つんつん頭の毛根を噛み砕いてやりますわ〜〜〜!
「ハハハハ、君たちは随分と気安い関係なのだな。見ていてとても楽しそうだ」
コーラス陛下は朗らかに笑いながら、そう言うのでした。
けど、気安いというか舐められてませんコレ??? と思わずにはいられないワタクシですのよ〜〜〜!!! え、舐めてるんじゃなくて、寧ろ親しみやすい? …………ならよし!!
そんなこんなでたどり着いたるわコーラス城地下、陛下専用の工房です。
ワタクシの実家(王城)にも同じ施設はありますが、あそこよりも広さがダンチですわね!
あ、あの機材クーされる前でもバカ高くて手が出せなかったやつですわ!! 欲しいなー!
そんなことを思いつつ、薄暗い工房の奥へ奥へと進みます。天井はモーターヘッドの建造などを行うためにかなり高く、奥行もかなりのものですわ〜〜〜。
ここだけでモーターヘッドをかなりの数格納できるんでないのかしら?
数分ほど歩いたところでコーラス陛下は手首に巻いていた腕時計のような端末を操作すると天井の照明が光り、最奥に安置されていた存在の姿が顕となります。
その姿を見た瞬間、ワタクシ含むその場の全員が息を飲みました。
「綺麗……」
無意識にこぼれたレイラの呟きはきっと全員の総意なのでしょう。
照明によって照らされた白く滑らかな装甲には継ぎ目のラインには一切の隙間がないほど精緻であり、モーターヘッドが兵器という既存の価値観を破壊する衝撃を与えるほどの美麗な外観。
装飾も華美過ぎず、かといって主張していない訳でもない。工芸品と揶揄されるモーターヘッドだが、そんな悪評をする者はこの騎体を見れば口を閉じるだろう。
「これが、ジュノーン……」
無垢なる白き乙女、ジュノー守護神、コーラスの新たなる王騎。それが今、目の前にいます。
「君の目を見る限り、お眼鏡にかなったかな?」
「ええ、はい……これをコーラス陛下がおひとりで?」
「いいや、私一人の力ではないよ。パートナーがいるからこそコイツをここまで作り上げることができたのさ」
コーラス様は言うと慈しむようにジュノーンの脚の装甲を撫でました。
その瞬間、ジュノーンの瞳に光が瞬き微かな駆動音が鳴り響きます。すると、ファティマであるレイラとペリルはこの子が何を言ってるか理解したのかぺこりと頭を下げます。
「えーと、私はレイラインといいます。こっちの小さくて可愛い人は私のマスターでお母様のイーリスフィア様ですよ〜」
「私はペリルと申します。こちらの方は私のマスター、バルカス様です」
どうやら見知らぬ存在がいたから誰かを尋ねたらしいですわね。なら、ワタクシも自己紹介をすべきですわ。
「初めましてジュノーン、ワタクシはイーリスフィア・ゼノ・リガリエッテ。
貴方の父親たるコーラス陛下に貴方のことを任された者ですわ」
「あー、バルカス・バスタンクだ。俺は付き添い? ってやつだな。宜しく頼む」
返答は再びの小さな駆動音。そして瞳から光が失せます。どうやら二度寝したみたいですわ。
モーターヘッドは基本的に稼働時以外はほぼ寝てるんですわよね〜。
「素直な子ですね〜。フルゴールとは段違いです」
「ですね。
レイラとペリルがうんうんと頷きます。そこまで言われるほど
「ふむ、ファティマではないからモーターヘッドの言ってることは分からないが、ジュノーンは何を言ってたのかな?」
コーラス様が尋ねるとレイラはジュノーンの顔をチラリと一瞥して答えました。
「『こんにちは。ジュノーンって言います。ジュノーンはねむねむなので寝ます。ジュノーンでした』って言ってました〜」
「なるほど。ふふっ、そうか」
なかなか愉快な性格してますわね
てか一人称名前で言動が幼いのね、ジュノーンは。まぁ、基本的なモーターヘッドの知性は幼児レベルですから幼いのは当たり前ですかね。
フルゴールはこの前なんてなんか契約してたサブスクで映画見てたけど、あの子ってマジで例外な感じがしますわ。
「それにしても失礼な物言いになりますが、マイトではないコーラス陛下がこれほどの騎体を作り上げるとは……」
「政務の合間を縫って、だがね」
「それでも、です。きっと殆どの技術者がこの子を見て目を奪われてしまいますわ」
それほどの完成度なのですわ、このジュノーンは。
そして、これほどの騎体へ自分が関われるという事実に自然と背筋が伸びる思いですが、既にこれほどの完成度を誇る騎体……本当にワタクシの力が必要なのかしら?
そんな思いを汲み取ったのか、コーラス様は物憂げな表情と共にジュノーンを見上げながら話します。
「ジュノーンは確かに素晴らしい騎体だと私は胸を張って言える。普通に動かす分には問題は無いだろう」
しかし、と陛下は続けました。
「この騎体にはベルリンとは違う独自の機構を採用しているんだ。しかし、エンジンの相性問題か……出力が足りず安定しない課題があってね」
「なるほど……見たところ背中のユニットですか?」
「うん、その通り。コイツの背中についているのは機動力を上げるオプションユニットの『ランド・ブースター』に加え、主兵装の『パイドル・スピアー』に殆どの出力を取られてしまうのだ」
ジュノーンの背中にはベルリンには見られない大型のユニットが取り付けられています。
陛下が言うにはこのランド・ブースターや武装にエンジンのエネルギーの大半を持ってかれてるようですのねぇ……
けど、問題はありませんわ。エンジン関係についてはワタクシも一家言ありますもの! てか、フルゴールの時もエンジン関係で大いに頭を悩まされましたからね〜。
「とりあえずは設計図をお見せ頂いても宜しいですか? どこをどう改造するか考えたいので」
「もちろんだとも。設計図はこちらにあるから着いてきてくれ」
「はい」
陛下に案内され、ワタクシは着いていくとジュノーンのすぐ側の作業台に置かれていた端末を陛下はワタクシへと手渡してきます。
受け取った端末に電源を入れ、サラサラーっと流し読み。ふむふむ、なるほどー…………
「……まったくわかんねぇ」
背中から覗き込むバルカスが即座に根を上げますが、まぁ仕方無いですわな。知識のない人が見ても情報量の多さに目を回しますもの。
でも、コーラス様ってマイトの血が流れてないのにこれほどの設計図を書き上げるなんて凄いですわね……
「よし、だいたい分かりましたわ!!」
「……驚いたな。ほんの数分で?」
「ええ、はい。ワタクシって天っ才ですから?」
陛下のお言葉に胸を張って答えます。
「ええ! では、始めましょうか。ジュノーン改造計画を!!」
腕が鳴りますわねぇ!!