FSS─翡翠の姫君─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
「おデコちゃん。プレゼント欲しいかい?」
ある日の昼下がり、エプロン姿のワタクシが師匠のご飯を用意していると師匠が変なことを言ってきました。
料理を盛り付けていた手を止め、怪訝な顔をしつつもワタクシは素直に欲しいものを師匠に言います。
「いきなりどーしましたの師匠? 因みに貰えるのなら
「流石にそこまでの小遣いは出せねぇなぁ。つか、そんな大金何に使うんだよ?」
「フルゴールの建造費ですわ!! マージで金が足りねぇですのよ!
クーされる前はワタクシの個人的な試算つぎ込んでも全く足りなかったから国庫からちょろまかしてどうにかしてましたけれど、今はそんなことも出来ないから材料の質とかを下げたり実装予定だった装備や機構を除外したりと四苦八苦しましたが、やっぱり足りねぇのです!!
ンア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!!! 五億兆万円欲しいですわぁぁぁぁっっっ!!」
金! とにかく金が足りねぇのですわ!!!
ワタクシたちがフルゴールを建造し始めてはや2年、その進捗は芳しくありませんでした。
当初の予定では予算内……多少の足が出ても足りる見積のはずだったのですが思った以上に部品の品質にムラがったり中古の建造機材の故障が多発してしまい、その度に資材を買い足したり機材の修理部品を用意したりとアクシデントが頻発してしまい気が付けば出費が嵩み、予算を大幅に超過してしまっていのですわ〜〜〜!!
「お姫様が出しちゃいけねー声出してんな。ウケる」
他人事だと思いやがってこの親父!! 何もしなくても星団中から色んなパテント料はいってくるからいい身分ですわねぇ!
1年でワタクシの祖国の運営費用を超える収入とかマジ裏山ですわ!
「お姫様やってたら金が天から降ってくるのなら幾らでもお姫様をやってやりますわよ! ンギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギギ!!!!!
というか、A.D.K.の皇帝アマテラスもやばすぎますわよ! なんですの!? 島1つを丸々空に打ち上げて船にするってバカの所業ですわバカの!!
同じ大きさの船作るよりよっぽど金かかってますわよアレ! はぁぁぁぁぁあっっ! 羨ましいですわ!
星団一の不動産王はやることが派手でいーですわねぇっ!!」
「落ち着け落ち着け、お前一応お姫様だろ?」
「…………?」
「マジかこいつ、自分がお姫様ってこと忘れてやがる」
「ここ4年ブラック労働してたら自分がどんな存在だったかなんて忘れますわよ!」
ワタクシお姫様なのに! なんで前世のブラックソ社畜リーマン時代以上のブラック労働してますの!?
騎士だから無駄に体が頑丈のせいで睡眠時間が凡そ3時間未満でも問題ねぇのが逆につれぇですわよ!
ひと月のウチの半分以上はカステポーに赴いてフルゴールの建造をやりつつ、もう半分は師匠の元ですマイトとしてのお仕事をする。
唯一休めるのなんてボォスとアドラーの移動の間だけですわチクショウメェェェェエエエエエッ!!!!!
「────ッスゥー…………お見苦しいところをお見せしましたわね師匠。ご飯食べましょうか」
一通り叫び散らかしたことでストレスを発散し、深呼吸をして落ち着かせたワタクシは大盛りのパスタ料理フェットゥチーネ・アルフレードをテーブルの上に並べ席に着きます。
師匠はなにやらドン引きしたような顔を見せますが、気にしませんわ。気にしませんったら気にしませんわ!
「それで、あのー、モラード様……マスターへのプレゼントってなんなんですか?」
おずおずと今の今まで気配を消していたレイラが手を挙げ、師匠へ尋ねればそれに師匠はワタクシの作ったパスタを食べる手を止め小さく頷く。
「おお、そうだったな。イーちゃんの奇行にちょっと驚いて忘れてたぜ。
とりあえず昼飯食い終わったら俺の工房に来てくれるか?」
「りょーかいですわ」
「分かりましたぁ〜」
師匠に言われワタクシとレイラは頷きました。気になりはしますが、今はとにかくご飯ですわ〜!
ボォスにいる間はとにかくフルゴールの建造に一分一秒も惜しかったので食事などは殆どがインスタントだったり払い下げのレーションで済ませてたのでこういった普通の温かいご飯には飢えてますの!
涙が出るっ……!
犯罪的だっ………………!
うますぎるっ……………………!
労働のほてりと……………… 部屋の熱気で…… 暑苦しい体に…… 1ヶ月ぶりの
染み込んできやがる…………! 体にっ……!
本当にっ…………! 本当に……………… 本当にやりかねないっ………………!
ビール一本のために………… 強盗だって…………!
「なんかイーちゃんの作画的なのがすっげー、カクカクしてね?」
「マスター、働きすぎで少し情緒不安定になってるんですぅ」
ジュースを飲んで賭博黙示録のような作画になってる己の
ご飯を食べ終え、食器類を食洗機へぶち込めば師匠に連れられやって来たのはファティマを制作するための工房でした。
そこはなんというか例えるなら機械の子宮とも呼べるような場所です。沢山の用途不明のコードや管などが床や壁、天井に張り巡らされ等間隔でポッドなどが並ぶそんな空間。
そして、ワタクシはひとつの存在の前に案内されます。それはヒトコトで言うのなら人の顔のカタチをしたミジンコでしょうか?
巨大なシリンダー内部に満たされた培養液に沈み、時折気泡が浮かんでは消えていく。
「師匠、コレ……『エトラムル』ですの?」
「そうだ。友人から預かった胚を培養してた奴でな。今は
「はぁ……」
『エトラムラ・ファティマ』それはファティマの一種で、純然たる有機コンピューターに近い生命体です。
普通のファティマよりも更に演算装置としての機能に特化させた、ある意味ではファティマの最も正しいカタチ。
通常のエトラムルはなんというかグロテスクなミジンコなのですが、目の前のエトラムルは普通のエトラムルとちがって人の顔があり何処か神秘的な印象を覚えますわ。
「それで、これがプレゼントですの?」
「その通り。イーちゃんがカラミティにいた頃、俺に預けてた論文あるだろ?」
「えーと……確か『エトラムルを用いたMHの完全無人化運用』でしたっけ?
手慰みにやったものでしたから細かい内容は覚えてませんけど」
カラミティへ留学中に書いた論文を今更出された理由に検討がつかず、ワタクシが頭に? マークを浮かべてしまいます。
主語が足りねぇんですのよ! ワタクシ天才美少女ですけど、推測できる材料が無さすぎて意図が読めねぇですわ〜!
「ハハハ、意図が読めねぇって顔してるな? たしかに説明不十分だった悪い悪い。
実はお前さんの論文を友人に見せたんだがな、ソイツがその内容に興味を示して調度良いいからってコイツをお前さんに預けてみようって話になったんだ。
つまるところ、コイツのママになってくれ」
「え!?」
「わぁ〜、じゃあレイラインはお姉ちゃんになるんですかぁ?」
「そうなるなー。良かったなレイライン、お姉ちゃんだぞ」
「うわ〜い!」
「ちょ、ちょっと待ってくださいまし! ただでさえフルゴールの建造で忙しいのに、それに加えてエトラムルの教育なんてやってらんないですわ!!
とゆーか、めんどいですわ!! あとレイラ! 無邪気に喜ぶのはやめなさい!」
こんなん断固として拒否させていただきますわ! 既に過労死ライン踏み込んでるのにこれ以上の仕事なんて絶対何がなんでもやる訳には────────
「因みに受けてくれたらフルゴールの建造費用を幾らか融通してやるぜ?」
「是非受けさせてもらいマース!!」
勿論引受させていただきますわ! なんてったって恩師の頼みですから! ワタクシって受けた恩はかっちり返す人間ですもの!
「わぁ、手のひらくるくるですぅ」
「お金には逆らえないのですわ!」
これも全てお金がないのが悪いのです! お金が無い原因? クーですわね。クーが起きたのは? ハクーダのババアのせいですわ!
詰まりは全てハクーダが原因ですの! Q.E.D.証明完了ですわ〜〜〜!
改めて怨敵に向けて殺意を募らせつつ、ワタクシは自分の子供となるエトラムルを見やり師匠へ尋ねますわ。
「それで師匠、この子の名前なんて言いますの?」
「コイツの名前か? あー……実は無いんだよな。お前さんがつけるか?」
「えぇ、ワタクシィ……? んー、そうですわねぇ……」
いきなり言われても名前なんて思いつきませんわよ? 駄目ですわ、働きすぎでイマイチ名前が思いつきませんわね。仕方ない、今も培養槽に顔を張り付けてる
「レイライン、貴方の弟になるんですし貴方が名前をつけてあげたら?」
「えぇ!? 私ですか!?」
「ええ」
「うーん、うーん……そうですね〜……どんな名前がいいですか貴方は?」
レイラは悩ましげに、けれど楽しそうに目の前の自分の弟になる子へと語りかけます。しかし、とうの本人(本機?)はコールドスリープ状態のため答えることはありません。
そんな状態を続けるとことおよそ5分くらいでしょうか、いい名前が思いついたのか小さくレイラは頷きました。
「貴方の名前は『ポラリス』です。空に輝く道導の星から取りました。どうか貴方は誰かの為の道標のような輝きとなってください」
「ポラリス……いい名前ですわ」
「うんうん、いい響きだ。よし、今日からコイツの名前はポラリスだ」
エトラムル改めポラリスがこうしてワタクシの子供となったのです。
「ところで師匠、このポラリスを預けたご友人って誰なんです?」
「……いいかイーちゃん、世の中知らねぇほうがいいこともあるんだぜ?」
「怖いこと言うのやめてくださいます……?」
ポラリスがワタクシの子供となって1週間が過ぎました。
「へい、ポラリス。この盤面はどういたします?」
「ボードヲ掴ンデ相手ノ顔面ヘ超エキサイティン」
「Exactly! チャチな駒の打ち合いするよりも相手をワンパンで沈めた方がはぇーのですわ!」
「イェーイ」
「ルール違反以前の問題な気がしますぅ……」
「ルールハ破ル為ニ有ル」
「その通りですわ! ワタクシの教えがきちんと活かしてるようで何より!」
「変なこと教えないほうがいいと私は思うんですけどぉ……」
「師匠からは許可どころかじゃんじゃんやってくれって言われてますからモーマンタイですわ!」
「モット色々、知リタイ。オ袋、姉チャン教エテクレロ下サイ」
「うわぁーん! せっかくの弟が第2のマスターみたいなことになるのなんて嫌ですぅ!」
「実の親のまえでなんて失礼なこと言うのかしらこの子は!」
演算機能として特化してるエトラムルでしょうか、乾いたスポンジのごとくポラリスはワタクシの教えたことをどんどんと吸収していきます。
ワタクシの昔に書いた論文はエトラムル単騎を用いたMH制御を行う完全無人化といった内容であり、制御を行うためにはそれはもう膨大な思考能力が必要になるのに加えて高度な柔軟性が必要ですわ。
しかし、普通のエトラムルに意思は無くはないのですが殆ど無いようなもので詳しい人曰く『動きに優雅さがない』と言われるほど。
というか、ファティマと騎士のコンビの強さは人間らしい自由な思 考能力とパートナー同士の信頼からくる直観的判断があるからですわ。
まぁ、でもファティマは恐怖や不安、
それと違ってエトラムルの方はそんな問題が起きない純粋な兵器として扱えるメリットがあるのでそれぞれ一長一短ですが。
でも、いまのポラリスの性能ではファクトリー製のファティマにすら演算能力や予測能力の足元にも及びませんので色々と教育させないといけませんわねぇ。
「ですが貴方は素体としての性能はファティマに勝るとも劣らないはずですわ」
でなけりゃ師匠がワタクシに預けるはずありませんもの。そんな思いとともにワタクシはポラリスの収められたガラス容器を見つめます。
ワタクシの目指す運用としてはポラリスのようなエトラムルを親機とし、配下のノーマルエトラムル達搭載MHを指揮し都度最適化し遠隔操作を行うとうものですわ。
これが成功すれば国力に劣る我が国の防衛力が上がると共に無駄な犠牲を減らすことができます。
「だからあなたには期待してますわポラリス」
「ガンバですポラリス。お姉ちゃんは応援してますよ!」
「ガンバル」
電子音声でそう返すポラリスにワタクシは微笑みのでした。
用語解説
ポラリス
イー様がモラードから押しつ……与えられた特殊なエトラムル。通常のエトラムル・ファティマと違って整った顔をしている。
イー様が過去にモラードの元で勉学に励んでいた頃に手慰みに書き上げた論文の運用試験に丁度いいかと(無理やり納得して)イー様はこのエトラムルの教育を行う。
後の時代『魔導大戦』と呼ばれる全星団を巻き込んだ戦争において、イーリスフィアは素性を隠してポラリスを中核とした無人MH『ウィル・オ・ウィスプ』の部隊を稼働試験として実戦投入し各戦場において『死神』として混乱を振りまいていくこととなる。