FSS─翡翠の雷光─ 作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!
「なんか思ったよりも簡単に取り入ることができましたわね……」
「何か言ったかねイリスちゃん?」
「いぃえ〜、流石はユーバー大公様ですわ〜! もっとじゃんじゃん飲んでくださいまし〜!」
「うわっはっはっはっ! 美少女からの酌は実に美味いのう!! 君もどんどん食べなさい! 美味いぞぉ?」
「まぁ! 是非いただきますわ! でも今はユーバー様のかっこいいお顔を見ていたいんですの〜」
「ほぉ〜! まだ幼いのにワシのこのイケメンフェイスを分かるとは何とも有望なこだのぉ〜!」
「まぁ、ユーバー様はお褒めの言葉もお上手ですのね! イリス、将来はユーバー様みたいな素敵なおじ様と結婚した〜い」
「うわっはっはっはっ!! 嬉しいことを言ってくれるじゃないか!」
豪勢な食事が並ぶテーブルを前にして下卑た大笑いを上げてワタクシを横に侍るジャンルがジャンルなら竿役として出てきそうなでっぷりとした大男がいました。
この男こそ現バストーニュ領主、ユーバー・バラダ大公その人です。
デコースによって彼の前に通された時にワタクシは介抱された礼を程々に、彼にワタクシが予め用意していたカバーストーリーを告げたのですわ。
騎士としての力やマイトとしての才能があること、故郷では騎士について理解がなく酷い扱いだったこと。
親類のツテを辿り、アドラーにいる親類の家に転がり込んだこと。そこでマイトとしての師事をうけていたが、バストーニュでユーバーが騎士を集めてる話をきいたこと、ここでなら自分の力を活かせることを大袈裟にユーバーに言えば特に考えることなくユーバーはトントン拍子でワタクシを庇護下に入れたのですマル。
流石にワタクシも余りの呆気なさに拍子抜けしましたが、ユーバーの懐に潜り込めるのなら万々歳ですわ。
ってなわけで、ワタクシはユーバーにお抱えのマイトとして雇われることになったのです。
そして今行われてるのはワタクシの歓迎の宴みたいなことで、ユーバーはこの後のことを考えてワタクシをどうやって閨につれていこうか考えとるのでしょうねぇ?
というか少しは考える仕草を隠しなさいな。目にありありとワタクシの身体を愉しもうと考えてるか浮かんでますわよ? 今現在もしきりにワタクシの腰に手を回したり、二の腕を撫で回してるし……手つきが生々しくて気持ち悪くってすんごく鳥肌をたってます。
お姫様時代に使用人の忍者メイドからそういった演技な交渉事を習ってるから簡単には顔に嫌悪の表情を出さないように頑張ってますけど、キッチーですわ〜〜〜!
あの手この手でユーバーの魔の手を躱し、適度にユーバーを褒めちぎってヨイショし、手当たり次第に酒やら何ならを飲ませ続けてますが全然潰れませんわねコイツ……
「グフフフ、イリスちゃんの肌はすべすべだの〜!」
「うふふ、そんな触られてしまうと照れてしまいますわ〜」
寧ろアルコールのせいで理性のタカが外れてきてるせいでちょっと目つきと手つきが露骨になってきてますわ!
ちょ、やめろコラ! やめ、やめろって! やめろっっっってんだろ!! 離せ! はーなーせーですわ!
「…………仕方ありませんわ、緊急事態ってことで。オラ! 催眠!!」
「ぶひゃっ!? ────グゥzzZ」
マイトパワーでユーバーの体内の生命力を操作! 眠気を誘発させて酒に潰れるように偽装! おら! 良い子は寝る時間ですわよ! つか、寝ろ!!
……よし、寝ましたわね! スイマセーン! このおっさん酒に潰れたので後始末お願いしますー!
使用人に
「はー、疲れましたわ……ったく、あのオヤジ淑女の扱いがなってませわね」
ユーバーのせいですっかり酒臭い服を脱ぎ捨て、身体に染み付いた臭気を洗い流すために部屋に備え付けられたバスルームへと飛び込みます。
蛇口をひねり温度の調整したシャワーが床を叩き、シャワールームに水音が反響する中でワタクシは裸身を晒しながら耳に嵌めてたピアスへ触れますわ。
すると、宝石に見えるランプが点滅しコーリーングを繰り返すのを待つこと1分弱。
『はい、ズルッこちらレイラインですズルズルッ。どーしましたーズルルッ?』
「こちらイーリスフィアですわ。レイラ、そっちはどう?」
『はいぃ、ズルッただ今フルゴールの搬送作業の休憩時間でカップ麺を食べようとしたところですぅズルッ。
寂しく、味気なく、ひとりで、カップ麺をズズッ!』
「圧が強いですわねぇ……というか食べながら話すのやめなさいよ」
イヤリング型の通話機から聞こえてくるレイラの声の圧の強さに思わず耳を塞ぎつつ、近況報告を互いに交わしますわ。
「とりあえずワタクシの方はユーバーの庇護下に入ることができました。少しずつあの男に取り入ってゆくゆくは持っている全てのものをいただきたいところです」
『ひゃあ、こっちからは見えませんがお母様悪い顔してそうですねぇ。
私の方は噂話になりますが、なんだかジュノーに色んな物資が流れて言ってるって話ですぅ。なんでも、近々大きな戦いが起こるかもって』
「ふーむ、ワタクシが国を追われてから4年ですがそろそろ動き出すってことでしょうか……」
『戦争ってことです?』
「間違いなく起こるでしょ。それもそう遠くない話に」
でなけりゃワタクシの国でクーなんて引き起こさないでしょうに。
『ひゃ〜、おっかないですね』
「だからこそユーバーなんて気持ち悪いやつに取り入ったのですわ。あの男の商人としての力は役立ちますもの。
レイラ、貴方はフルゴールを持ってきたら師匠のところで待機をしておきなさい。下手にワタクシの近くにいればアイツの目に入ってしまえばろくな事にはなりませんわ」
『は〜い、わかりました。お母様のことはモラード様に伝えておきますか?』
「ワタクシの方から言っておきますわ。お世話になってるのだから、スジは通しておくべきですもの」
『絶対怒りますよぉ?』
「でしょうねぇ……でも、まワタクシには必要なことですから勘当されたらそこまでですわ!」
『はーい。じゃあ作業に戻るので切りますね〜』
「ええ。心配はないと思いますが、くれぐれも人買いに気をつけなさいよ?」
『わかってますよ〜』
「ふふっ、言ってみただけですわ。じゃあおやすみなさい」
『はい、何かあったら連絡しますねお母様。おやすみなさい』
通話を切り外したイヤリングを化粧台の上に置き、ワタクシは通話を聞かれないように流しっぱなしだったシャワーを浴びて手早く汗を流します。
「ふぃー、サッパリしましたわ」
デリケートな場所は死守しましたが、身体のあちこちをまさぐられたりで本当に不快でしたからね。シャワーをとにかく浴びたかったんですの。
「さて、師匠に連絡をいれないといけませんわねぇ」
怒られますかね? やっぱり怒られますわよね〜……うにぃ……自分に非があるときのお説教って苦手なんですわよね〜……
でもお世話になってる手前、必要な事ですのでやりたくない気持ちを抑えつつも連絡するワタクシだったのです。
『こんっっっつの、大バカ野郎!』
はい、案の定メタクソ怒られてます。
内容を要約すると『年頃の娘が何危ないことしてるんだ』と『アイツの評判知ってるだろ!』と『自分の身体を切り売りするようなことをするな!』ですわ。
はい、全面的に師事の仰る通りですわ! でもでも必要なことなんですのよ!?
『でももヘチマもあるか! あぁー、ったく……一応聞くが本当に何もされてないんだな?』
「モチのロンですわ! ベタベタ触られましたがその前に寝させましたし、いざって時はマイトパワーでどうにかしますもの」
『そういう事じゃ……だぁ〜、もういいや。とにかく危なくなったら逃げるんだぞ?』
「りょ、ですわ〜」
『それと、この件はしっかりもシンクレアには伝えるからな?』
「エ"ッ"!? ちょ、ちょっと待ってくださいまし!! 彼女にだけはやめてクレメンスですわ!
このことを知られたら絶対ヤベーんですのよ!? 師匠だって彼女の怖さは知ってるでしょう! よくそんな人の心がないことをできますわね!?
てか、彼女らの安否は不明でしょう!」
『そんなおでこちゃんに朗報だ。ついさっき連絡が来たところなんだが、シンクレア含むクロイツェフを筆頭に王族近衛騎士団数名がMHを強奪してコーラス王朝に亡命してきたんだとよ。その中にはお前の弟妹達もいるらしい』
「まぁ! それは本当ですの? 弟と妹たちが! もちろんお母様もいらっしゃいますのよね?」
『……いいや、女王陛下は子供や騎士たちを逃がすために残ったらしい』
「そう、ですか。……いいえ、心配をするのはよしときましょう。お母様はとても強い魔道士ですもの」
『…………家族に連絡するか?』
「いいえ、それはやめておきますわ。今声を聞けばきっとすぐにでも飛び出してしまいそうになりますもの」
今の今まで不明だった家族の安否が知れただけでも万々歳ですわ。だから悲しそうな顔をしないで欲しいですわ師匠、ほらいつもみたいにスマイルスマイル!
『そうか、お前さんがそう思うなら俺は何も言わないさ』
「ふふっ、じゃあ師匠。あの子たちにはワタクシは元気でやってるって伝えておいてくださいまし」
『わかった。必ず伝えておくさ……シンクレアにもな』
「ホントマジで彼女にだけは勘弁してつかーさい! シンクレアだけは! シンクレアだけはやめて欲しいんですの!」
『いーやダメだね。お前さんの保護者としてきっちりとスジは通すのさ。ガハハハハ!』
師匠はそう言うと通話を切ってしまいツーツーという音が響くのがやけに物悲しいですわ。
なんとも言えない気持ちになりながらも、ワタクシの胸の内は安堵と嬉しさが満ちていました。
「……良かった、家族が無事で」
会いたい、今すぐ会いたい。
「でも、ダメですわ。再開するのは祖国を奪還する時ですもの」
そんな気持ちを振り払い、ワタクシは改めて決意します。必ず奪われた祖国を取り返し、裏切り者共を血祭りにあげ、こんなことを引き起こしたアルルメイヤの首をこの手で切り落とすのだと。
「……そのためには英気を養いますわ! さーて寝よ寝よ」
無駄に柔けーこの布団ならぐっすりと寝れますわー! おやすみ!
用語解説
忍者メイド
近衛騎士団の諜報担当の忍者。イー様とは歳の近い幼なじみのような関係。
よく仕事をサボってはシンクレアにしばかれてる光景が城内で目撃されている。
語尾に「っす」と着くのが特徴。