FSS─翡翠の雷光─   作:アマテラス、アンタちょっとガメツイよ!

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008:フリーダムな子供たち

「初めまして皆さん、ユーバー様より既にご通達なされているでしょうが、改めて名乗らせて頂きますね。

 ワタクシはイリス・クリィムヒルトと申します。マイトの末席を名乗らせている者ですの。

 本日より整備班の皆さんと共に働くことになりましたのでご挨拶に伺いました」

 

 優雅にカーテシーを行い集められた整備士の方々に頭を下げれば、皆様は何処か感心したような顔を見せます。

 現在ワタクシがいるのはバストーニュ領主館内にあるMH格納庫の一角で、その広いスペーフには現在は2騎のMHしか収められてきません。

 

「はー、こんなちんまい子がマイトとはねぇ……」

 

「ユーバーの奴が雇ったって聞いた時はどんなのと思ってたけど、凄いべっぴんさんでびっくりだよ」

 

「でも、こんな小さな子がMHのことなんてわかんの?」

 

「皆さんの疑問もよーく分かります。ですがこう見えて師匠からお墨付きもいただいておりますのよ?」

 

 ワタクシがそう言いますが、整備士の方々は半信半疑のようです。まぁ、しかありませんわよねぇ。なんの実績もない小娘がマイトといっても信じられないでしょうし。

 

 そう思いながらワタクシはなんとなしに彼らの背後のMH達に視線を向け、指を指します。

 

「まぁ、論より証拠といいましょうか。あの2機のMH『デヴォンシャ』と『バルンシャ』ですが診察させて頂いても?」

 

「そりゃ、構わんが。いいのか?」

 

「一応デコース様と『トローラ』様からは好きにやるようには言われてるし問題は無いだろ」

 

「じゃ、やらせて頂きますわね。エンジンを入れさせて頂きますわね」

 

 動きやすい格好にしておいて良かったですわね。ワタクシは2騎のMHの元へと向かえばそれぞれの機体に繋げられていたスターターのボタンを押します。

 すると程なくしてバルンシャとデヴォンシャのイレーザー・エンジンに火が灯り重々しい稼働音が格納庫内に響き渡りました。

 

 アイドリングから段々と甲高い音へと音域が変化していき、喧しいくらいの騒音が空気を震わせ耳栓もしなかったらすぐに難聴になりそうな空間の中でワタクシは2騎の調子を確かめます。

 

 ───デヴォンシャ、アイドリングからドライブ状態までに数秒の遅れ

 

 ───バルンシャ、エンジンの入りがコンマ数秒悪い

 

 手元も端末には稼動ログの写しが表示され、それぞれの部位の消耗度や摩耗率だったりパーツ交換の履歴をスクロールしつつ、機体に飛び乗るとそれぞれの部位へ打診棒を叩いて音の反響を確かめ始めました。

 

 ───デヴォンシャ、腰部関節、第1から第4シリンダーに微かな異音確認。続けて右腕肘関節、油圧シリンダーの負荷が多め。

 

 ───バルンシャ、脚部ショックアブソーバーと足首の油圧シリンダー、股関節部が通常よりもダメージが集中している。両手首も負荷多い。

 

 騎士殻へ身体を滑りこませ、整備モードに移行させ端末から四肢や上半身、下半身を僅かに動かす。

 

 ───両騎共にジェネレーターにエネルギーロスを確認。原因は伝達バイパスの漏電と酷使による経年劣化。加えて竜骨(メインフレーム)に歪みを確認、けれど修理可能範囲内。

 

「────ん、こんな物かしら。貴方たちは随分とご主人様に酷使されてきたのね……ご苦労様」

 

 労うように傷の目立つ装甲をひとなでしてから空中へてワタクシは踊り出し、難なく地面へと着地し整備士の方々の元へと近づき端末を渡します。

 

「2騎の修理箇所とパーツ交換の洗い出しが終わりましたわ。竜骨は力技で直す必要がありますが、その他の部分はパーツ交換で終わるはずですわ」

 

「もう!? 普通だったら数日かかるようなことをあれだけの時間で?」

 

「見せてくれ……おぉ、俺らが見つけ出せてなかった問題点が大量に洗い出されてるな」

 

「すご……こんな小さい子が?」

 

「どうでしょうか、ワタクシの実力の程は?」

 

「あ、あぁ。十分拝見させてもらったよ君の実力なら即戦力さ」

 

「それは良かったです。けれど、皆さんからも色々とご指導ご鞭撻の程をお願いいたしますね?」

 

「はは、俺たちから教えられるようなことがあればいいけどね」

 

 そんな会話と共に、ワタクシは整備士の方々と握手を交わしたのでした。

 

 

 

 

 砂塵が宙に巻い、重々しい地響きが地面を震わせる。

 

 甲高い悲鳴のような騒音が空気を震わし、劈くように金属同士がぶつかる音が立て続けに空間をたわませた。

 

『ハハハハ、すげぇ! デヴォンシャが思った通りに動きやがる! コイツってこんな素直だったか!?』

 

『膝の沈みからの立ち上がりがとんでもなくスムーズになってんな……オマケに四肢の動きが滑らかだ!』

 

 荒野の中を思い思いに動き、交差した瞬間にそれぞれの手に持った得物を叩きつける2つの巨人。

 

 土気色の外装は死刑執行人めいた見た目のMHバルンシャとデヴォンシャを駆るのはユーバーに雇われた不良騎士の2人、デコース・ワイズメルとその仲間であり友人の『トローラ・ロージン』だ。

 

 2人の駆る騎体は確かに優秀ではある。しかし、2人が手に入れたのはカステポーの闇市に売りに出されていた中古品であるため、これまで数々の不調や不具合などが多発していた。

 それでも戦果を上げているのはひとえに2人の技量が優れているのもあるが、それでもやはり不満はある。

 

 過去に何度も騎体を整備屋に出しても完全には直らず、2人とも半ば諦めていたのだがユーバーの館に常駐している整備士たちに渡したのが帰ってきて試し乗りをしてみれば驚くことにこれまでの不調など綺麗さっぱりきえうせていたのだ。

 

 それどころかエンジンの調子や追従性、可動部の動きのクセ等が自分達の操縦にピッタリとハマっているではないか。

 新品以上の具合となって帰ってきた愛騎に2人は興奮を隠せず、慣らし運転のつもりが気がつけば模擬戦紛いのことをしてしまっているのは仕方ないだろう。

 

 それほどまでに騎体の具合がいいのだから。

 

「どうでしょうお二人とも。その子達の具合は?」

 

『最高だ! 俺のデヴォンシャってこんなに動けたんだな!』

 

『いやとんでもねーなマイトってのは。ボクちんも機嫌が良くなっちまうよ!』

 

 離れた地点で待機しているエアドーリーの運転席でワタクシは2騎が駆け回る様をモニタリングしながら尋ねれば、通信機越しの2人からは興奮した答えが返ってきました。

 

「ご満足いただけたようで何よりですわ。トローラ様は大振りを用いた重撃が得意なようなので上半身などを重点的に強化し、デコース様のほうは足回りなどを主に調節さて貰いましたわ」

 

 事前にワタクシが2騎の過去の稼動ログを漁り、2人がどのように動くかなどを洗い出したことでそれぞれにあった整備とチューニングを施したんですから当然ですわね。

 

 歴戦の騎士の騎体を弄れるだけでも大分勉強になりましたし、こっそりと戦闘ログのほうもコピーさせてもらいましたからこれくらいはサービスしますとも。

 

 お陰でポラリスの教材集めが捗りましてよ〜〜! 

 

「お二人ともそろそろ時間ですので、慣らしを終わりにしてもらってもよろしいでしょうか?」

 

『あいよ! けど』

 

『最後にもう一回やっとくかぁ!』

 

「……はしゃいでますわねぇ」

 

 ワタクシが声をかければより一層激しく動き始めたことに呆れつつも、彼らの内心には理解を示します。

 長年連れ添った相棒の調子が良ければ嬉しいですもんね〜。

 

 でも、それはそれとして。

 

「直したばかりなんですから壊すマネは辞めてくださいまし!」

 

 

 

 

「イリスちゃんや、2人のMHを整備したらしいの。大層具合がいいと喜んでおったよ」

 

「ええ、はい。かなり酷使されていたようですので全体的にメンテナンスをさせて頂きました。

 整備士の方々の協力もあって短時間で済ませることができましたの」

 

「ほう! 素人ゆえ専門的なことは分からぬが、あの二人のMHは素人目から見ても相当くたびれていただろうに良くやるのぅ」

 

「歴戦のMHをこの手で弄ることが出来るのは得難い経験ですもの。寧ろユーバー様のおかげでこのような機会を得られたことに感謝してもしきれませんわ」

 

「はっはっは、これくらいで感謝されるとは嬉しいのう」

 

 にこやかに笑うユーバー、ワタクシは淡く微笑みを返します。

 

 ユーバーの元に来てから早数ヶ月、この男の元で専属のマイトとしてMHの整備をしたり彼の元で仕事を任されたりして政務官見習いのようなことをしていますわ。

 

「イリスちゃんが来てからなんとも館の中が華やかになっておるわ。どうだ、デコース達のようにワシの姪っ子にならんかね?」

 

「ふふっ、嬉しい申し出ですわ。でももう少し考えさせていただきますわね〜。

 ユーバー様、ここの帳簿の数字に誤差がありますわ」

 

「残念だのぉ。うむ、危うく見逃すところだったわありがとう」

 

「いえいえ〜」

 

 ユーバーの執務室で領主としての仕事の手伝いをする横でワタクシは脱税や汚職、横流し品の経路などの証拠をコンタクトレンズ型のカメラでパシャリつつ、世間話のように切り出します。

 

「ところでユーバー様」

 

「うん、なんだね?」

 

「実はワタクシってMHの設計をしているんですのよ」

 

「ふむ?」

 

 ワタクシの言った内容に興味が惹かれたのか、ユーバーはペンを握る手を止めて顔を上げました。

 視線は続きを促すように言っており、ワタクシは微笑んで続きを口にします。

 

「けれでも、一からMHを作るのはそれはもう色々と大変なんですの。スペースの確保だったり、機材の確保、資材を集めたりとそれはもう沢山」

 

「うむ、MHは維持するだけでも大金がかかる。それどころか一から建造するとなればかかる費用などそれこそ限りがないだろうとも」

 

「はい。師匠のもとで代理としてお仕事をしたりして建造費用などを捻出したりしてましたが、どう頑張っても足が出てしまいます」

 

 ほんと、マジで大変ですわよ……MH建造は。殆どのマイトが資産家だったり、お抱えだからこそ建造できるのであって間違っても本当に1人で作るようなものではないですもの。

 

 でもワタクシ頑張りましたのよ? 手に入らない部品は鋼材を削り出して作ったり、ドラゴンロードに放置されていたMHから使えそうなものを漁ったりを繰り返し、つい最近ようやっとフルゴールに一次装甲を取り付ける段階までいきましたし。

 加えて主兵装の『A.D.R.(アドバンスド・ディストーション・リリース)ソードスピアー』の開発にも手を出せるようになりましたもん。

 

 えほん、話が逸れました。ユーバーはワタクシの言いたいことが段々と理解してきたのか、面白そうな顔をしているではありませんか。

 

「ふむ、つまりはワシのもとで君はMHを作りたい、ということかな?」

 

「お話が早くて助かりますわ。ええ、そうです。貴方様の元でワタクシはMHを作りたいのですわ。

 三大MH『サイレン』『A・トール』『バング』を過去のものとし、星団に名を轟かす。そんな最強のMHを」

 

「はっはっはっ、それはなんとも大きな夢だな。ふむ、最強のMHか。なるほどなるほど……」

 

 贅肉によって隠れた顎をひと撫でしたユーバーが実に面白そうな顔をすれば机の引き出しから1枚の紙を取り出し、机の上へと置きました。

 

「これは?」

 

「うむ、必要な資材や機材、及び予算の申請書だ。好きなように使うといい」

 

「……宜しいので?」

 

「うむ、君が来てからワシの領主としての仕事も助かっているでな。まぁ、ほんのお返しのようなものだよ」

 

「まぁ、ふふっ。ありがとうございますユーバー様! 貴方ほどの器量を持ち合わせた領主はきっとこれからも現れることはないでしょうね」

 

「ハハハ! 褒めても出るのは金くらいだぞ?」

 

 それは是非とも欲しいですわね。というかくれですわ。

 

 

 

 

「てなわけでフルゴールをユーバーのところで建造できますわ〜!」

 

「すげーな、あのユーバーを完全に手懐けてやがるよ」

 

「ちなみに私はお邪魔してもいいんですか?」

 

「オ袋、スゲー」

 

 数ヶ月ぶりに訪れた師匠のお屋敷にてフルゴールをユーバーの領主館へ移すために回収しに来たのですが、そのついでに師匠たちへ報告をしました。

 

 師匠はなんとも言えない顔で聞き、レイラは質問し、なんか聞き覚えのある電子音声がドラム缶みたいなロボットから聞こえてきましたわ。

 

 一言いいですか? 

 

「誰ですのコイツ!?」

 

「ポラリスです!」

 

「俺ダヨ俺、オ袋」

 

「ワッツ!?」

 

 エ"ポラリス!? このドラム缶にマジックハンドと棒みたいな脚の着いたクロマティ高校に出てきそうなロボットが!!? 

 

 そんな思いと共に2度見してみれば、ドラム缶のマジックハンドが何を思ったか胴体部分を摘み、パカリと開きました。そこ開くんですの!? 

 

 そして、開かれた内部には培養液に浮かぶポラリスの姿がありましたわ。

 

「えへ〜、ポラリスが出歩いてみたいって言ってたのでレイラが専用のボディを作りました〜」

 

「いちおう俺も手伝ったぜ〜。いやー、中々おもし────興味深い体験だったわ」

 

「オニューノボディ、カッコイー」

 

「は、はは〜……少し見ない間に随分とまぁ……」

 

 誇らしげにマジックハンドを鳴らすポラリスにワタクシは感心すればいいのか、呆れればいいのかよく分からない感情になりますわ。

 

 というか、こんなものいつの間に作れるようになったのかしらレイラは? 

 

「はい、マスターがユーバー大公のところにいる間暇だったのと、元々フルゴールの建造を手伝ってたので基礎知識は身につけていたから私、ポラリス、フルゴール、モラード様の4人で話し合いながら作りました! 

 外装のデザインはなんとフルゴール発案なんです!」

 

「兄貴ノデザイン。イカシテル」

 

「MHにゃ意識があるのは知ってたが、フルゴールのは別格でフリーダムだな。

 デザイン画を出力してきたのを見た時は珈琲を吹き出したぜ」

 

「混沌ん"ん"ん"ん"ん"ん"ん"〜〜〜!!」

 

 ワタクシがユーバーのところにいる間に子供たちは随分と楽しく過ごしてたのは喜ぶべきなのでしょうねぇ。

 モラード師事も楽しそうでなによりですわ! というか、フルゴールのやつ何してんですの!? 

 

「はぁ……まぁ、話は戻しますがフルゴール建造にはレイラもいた方がいいですから、ユーバーにはワタクシのパートナーとして紹介すれば手を出そうとはしないでしょう。

 加えて将来的にはポラリスも共に搭乗するのを計画してましたし、この外観ならワタクシのサポートドロイドっていえば多少驚からますがそばに居ても問題ないはずですわ」

 

「わーい、マスターと一緒にいられます〜」

 

「オ袋ノ仕事場楽シミ」

 

「「イェーイ」」

 

 楽しそうでいいですわねこの子達。

 

「あ、そういやイーちゃん」

 

「はい、なんですか師匠?」

 

「明日暇かい?」

 

「んー、まぁユーバーからはフルゴール移送のために暫く留守にすることは伝えてましたから暇ですわよ?」

 

「そりゃ良かった。じゃ、明日にバランシェん所行くから一緒に来てくれ」

 

「マジですの? あのバランシェ公のところに?」

 

「マジもマジ。アイツ、イーちゃんに興味示してたから次いでにポラリスやレイラインも見せてやろうぜ。

 絶対アイツ度肝抜くから」

 

「病人に刺激の強いことさせない方がいいと思いますけどねぇ……」

 

 てなことで四大マイトのバランシェ様に会うことなりましてよ! 畏れ多いですが、楽しみですわ!! 

 

 

 

 用語解説

 

 ・A.D.R.(アドバンスド・ディストーション・リリース)ソードスピアー

 

 The J.O.F.に実装予定の槍型主兵装。

 フルゴールのエンジンと直結し、刃部分に超高出力のプラズマエネルギーを纏わせ敵MHの装甲接触時に放出、装甲ごと内部を電磁崩壊させる。

 加えて出力を調整すればプラズマを遠距離攻撃として放出可能。

 

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