「ブッカー少佐、地球側からの回答です。」
そう言いながら差し出された書類を、ブッカー少佐は引っ手繰るようにして受け取る。
「『FAF特殊戦第五戦隊所属 B-1 雪風を南極上空の空域において確認出来ず、墜落の痕跡もない。また、救難信号、国際緊急通信等の通信を受信した記録もない』────どういう事だ!」
クリップボードを机に叩きつけ、頭を抱える。
女性士官の退室の言葉すら、ブッカー少佐の耳には届いていなかった。
雪風が消息を絶ってから、数日が経つ。
冷静では居られなかった。必ず帰ってくるんじゃなかったのか、友よ。今、お前は何処にいて、何をしているんだ。
お前を失う訳には行かないんだぞ。
戦隊のためにも、俺の為にも。
どれだけ情報を集めようと、雪風が通路へ突入した後どうなったのか知ることは出来なかった。
ジャムが、通路へ飛び込んだ雪風を捕獲したのか、それとも地球側が撃墜、もしくは墜落したのを隠しているのかさえも、分からない。
戦隊機による通路への調査任務も、2日前から中央が計画中の大規模作戦の前段階として戦隊機がフル稼働で偵察任務を遂行中、という状況のため、クーリィ准将に素気無く却下されてしまった。
何か手はないか、とブッカーが思考している最中、
デスクのコンピュータに通知が届く。
『戦隊機へ導入予定のメイヴのラコックピットブロックの製造完了。しかし、機体フレームの製造に必要な素材の納入が未定のため、メイヴの納入時期は未定』
ファーンⅡの製造が最優先されている現状、仕方のない事だとは思ったが、やるせない気持ちにもなる。
せめてもう少し、我が戦隊に余力があれば...とブッカー少佐は思うが、余力はない。どうにか余力を自分で作るしかない。
ブッカー少佐は椅子から立ち上がり、整備工場へ向かう。
飛行時間がTBOに達した、戦隊の13番機『レイフ』のオーバーホール作業の進捗確認に行かなくては。
零達を探しに行く手立ては無いものかと考えながら、整備工場へ続く廊下を歩く。
ふと、考えが頭をよぎる。
そう言えば、レイフとメイヴの機体構造はコックピットブロック以外、殆ど差異が無い。
そして現状、メイヴへ改造するために必要なパーツは揃っている。
今ならば、すぐにレイフも有人機へと改造出来るはずだ。
ブッカー少佐は駆け足で、デスクへ戻る。
この案ならクーリィ准将も許可を出すだろう。
雪風が失踪してから、もう既に3日が経過している。
とにかく、急いでプランを作成する。
雪風を探しに行く口実をでっち上げるため、
ブッカー少佐は、デスクのコンピュータに齧りついた。
「機体喪失時において搭乗員が生還し、任務復帰可能な場合に備え、13番機を有人飛行能力を有する予備機として運用するための改造案、ね」
クーリィ准将が紅茶を啜りながら、計画書に目を通す。
「はい。現状、機体更新用のメイヴの納入が未定であり、戦力の増強、補充には目処が立っておりません。ですが、13番機は現在オーバーホール中、メイヴ搭載予定のライフポッドの製造完了の連絡が来ておりますので、立案しました。」
ブッカー少佐はファイルを持った手を、後ろで組みながら、言葉を続ける。
「試験飛行は換装予定のスーパーフェニックスMk.Ⅺの燃焼テストも同時に予定しています。基本的な操作のみで十分ですので、私がパイロットを担当しようと考えております。」
「FO席でのシステムモニタリングも必要でしょう?現在、我が戦隊は総力を上げてFTJ92の事前偵察を遂行中よ。今、戦隊機のフライトオフィサーを引っ張ってくる訳には行かないわ。それは認識しているでしょう、少佐」クーリィ准将が机に計画書を置き、軽食のサンドウィッチを口に運ぶ。
「それは...」
「クーリィ准将、頼まれていたプロファクティングの結果ですが...」
フォス大尉が報告書を持って、指令センターに現れる。
そうだ、以前、フォス大尉は雪風の後席に乗って飛んだ事がある。
彼女にレイフのシステムモニタリングを頼もう。
簡易的なものだから彼女でも問題はない。
何せ、雪風という前例がある。飛行中に問題が発生する可能性も低い。
「レイフのFO席には、フォス大尉に乗ってもらう。システムモニタリングといっても簡易的なものだ。問題は無いはずです、准将」
「え?」フォス大尉は状況を理解出来ず、困惑する。
「丁度、頼んでいたプロファクティングの結果を持って来た。次の指示もない。許可しよう、少佐。フライトプランは?」
「出来上がっております。こちらです、准将」ブッカー少佐が書類を渡す。
「地球大気圏中でのテストも許可しよう。だが、雪風を発見出来なくても、予定通り帰還しなさい。退室を許可する」
「イエス、マム。失礼します。」少佐は急ぎ足で整備工場へ向かう。
「雪風の捜索は不許可になったはずでは...それに、私がレイフに搭乗って、どういう事です?叔母様」とフォス大尉がクーリィ准将に書類を渡す。
「こういう時、ブッカー少佐は頑固なのよ。自分で行って見つからなければ、諦めがつくでしょう。実際、見つかるに越した事はない。詳しくは少佐に聞きなさい。退出してよし」
クーリィ准将は溜息をつきながら、渡された書類に目を通す。
「失礼します。」フォス大尉が退出する。
クーリィ准将は、皿に残った2切れ目を口に運ぶ。
これは戦争だ、損耗は覚悟している。
だが、戦力である戦隊機を失うのは痛い。
しかも深井大尉と雪風、桂城少尉はジャムに対するコミュニケーションの手段であり、我が戦隊の切り札でもある。
珍しくクーリィ准将は、雪風が発見される事を祈るのであった。
クロスオーバーのクの字も無いですが、もう少々お待ち下さい。
見切り発車だもん、書き溜めなんてねぇよ(白目)
現在(2026/07/13)、筆者が論文的なサムシングの執筆に忙しいので、次話は2週間後とかになります...
エタらせるつもりはないです...