あいぎす日記 作:石を割るのだ!
6回目
余り時間は経っていないようだ。
変わらず湖畔の近く。
少々、体が清潔になっている気がした。
……髪が湿っているのが気持ち悪い。水分を熱気で吹き飛ばす。
その間に、己の周りを白い聖霊がクルクル回っている。
えぇい、ちょろちょろ鬱陶しい。
乾かした後、頭にへばりつかれた。
今は夜の君なの? だね! ピッコロさんって知ってる? とか質問を投げつけられる。
ふむ、昼の己は自分の存在を夢遊病の類と片付けていたが……意外と頭で理解はしていなくても体が何となく察しているのかもしれないな。
ところでピッコロとはなんだ? 手記にも書いてあったが人物名か?
……ロクでもなさそうだし、まあ良い。
聖霊には特に反応をせずに立ち上がり、気の向くままに進む。
さて、どちらに向かおうか……。
と、考えていると周囲が騒がしくなってきた。
雑魚魔物どもの知性を感じられない咆哮や、人間が上げる裂帛の怒声。
戦闘か?
白い聖霊がどうするの? と聞いてくる。
……情報が足りない。とりあえず、向かってみるか。
こちらを攻撃してくる奴は滅ぼしてしまえば何の問題もないだろう。
――忌々しい!!
雑魚どもがワラワラとどれだけ群れてくるのだ!
目に付く限りの魔物は全て塵に帰してやったが、奴らには本能というものはないのか?
どう考えても、己が格上で叶わないと分かるだろうに。
その魔物の群れを相手取っていた人間たちの様子には少し笑ってしまった。
既に疲弊して、オーガ程度に手間取っているような奴らだ。
オークやワーウルフ、ガーゴイル等が現れれば即刻殺されるだろうな。
……が、あの王子を名乗った男のカリスマは窺い知れん。
神殿を探しているようだったし、これから先も期待できる。
せっかくだから丁寧に指差しまでして、己が這い出てきた神殿を教えてやった。
……別に感謝されるいわれはない。これから先が面白そうだっただけだ。
白い聖霊がニコニコしてるのが気にくわない。
えぇい! 忌々しい! そんな微笑ましい目で見るな!!
思わず舌打ちをして人格を切り替えた。
7回目
ここは、何処かにつながる洞窟の中か。
洞窟の外に魔物の群れがいる。
滅ぼしてやろうと思ったが……結界か。
目障りだし塵に帰してやると踏み出そうとすると、自分が弾かれてしまった。
……どうやら、己は結界を通ることは出来ないらしいな。
仕方がない、洞窟の奥へと歩を進めてみることにしよう。
白い聖霊が頭にへばりついたのを確認すると、己のオーラで道を照らしながら下へと続く穴倉を降りていく。
しばらくおしゃべりな白い聖霊の話を適当に流して進んでいると、戦闘音が聞こえた。
……何も言わず静かになるのはいい子だと誉めてやろう。
静かに近づくと、グルゥ……だのガルゥ……だの擦れた言語。
物陰から覗く。武装したリザードマンに囲まれた青いドラニアがいる。
昔、魔王軍に竜人が所属していたはずだが、その類だろうか。
……? なんだ今の知識は。
まぁいい。
どうやらあの青いドラニアが殺される場面らしいな。
正直どうでもいいな。
が、お前らがいると先に進めないではないか。
物陰から姿を見せる。
己に気が付いたリザードマンどもが騒ぎ立て、此方に武器を向けてきた。
――ほう?
思わず口元を釣り上げてしまった。
武器を向けると言う事は、覚悟できているのだろう?
フハハ……! 雑魚どもが粋がるからこうなるのだ!!
襲ってきたリザードマンどもを蹴散らし、踏みつけておく。
何人か死んだだろうが、襲ってきたのはお前たちだ。
後悔するがいい。
そう思って穴倉の奥に進んでいこうとすると、白い聖霊に引きとめられた。
何故か悲しそうな顔をしている。
……忌々しい。
進む気が失せたので元来た道を戻ることにした。
最初に囲まれていた青いドラニアが此方を見ているが、無視だ無視。
……イライラする。
今回はここまでにすることにしよう。
8回目
『たいよー』という声で目を開ける。
……どうやら、己の肉体の名は夜月太陽というようだ。
なんだこの矛盾の孕んだ名前は。体が妙にイライラとする。
これは、別人格の感情だろうか?
しばらくこの衝動を抑えるように目を閉じて考察する。
見たこともない言語を解読した時の感覚。
あの神殿から感じている体と記憶と感覚の違和感。
……あの気にくわないメモ書き。
となると、己は封印されていた魔物と人間との配合体?
忌々しい。
手記の内容から、別人格がどの様な者か読み取る。
臆病で惰弱で……異界の者。
己は、魔物であった頃の人格なのだろうか?
性格が、僅かに丸くなっている気がするのも交じってきているからか?
目覚めた時ほどの破壊衝動は、あれから感じたこともないからな。
……しかし、太陽か。太陽は良い。
あれは膨大な熱量だからな。
名前だけは気に入った。
だが今の己は太陽を語れるほど、熱量を生み出せるわけではない。
日が落ちた後に登る『夜月』とでも呼ばせるか。
ふん。葡萄が好きだったと書いてあったな。
カバンに入れておいてやろう。
ところで、この青いドラニアはどこまでついてくるつもりなのだ?
9回目
夜あいだに歩を進める。
進んでいくと、森を抜けた丘に出た。
ようやく森を抜けたか。
森を抜ける途中で、いつも通り魔物の群れを蹴散らしたりした。
青いドラニアが意外と戦えたのには驚いたな。
あのリザードマンどもにやられていたから、ただの雑魚だと思っていた。
これなら惰弱な『太陽』とやらの体を守らせることもできる。
どうにも、昼の別人格は雑魚にすら劣るらしいからな。
……忌々しい。
一体異界ではどのような人種だったのだ。
戦闘をしていたとは思えんが、ガクランとか言うこの服は軍服だったのではないのか?
体の知識はそう語っているぞ。
参謀か何かだったのだろうか?
まぁいい。平和ボケしたような人種だと言う事は間違いないだろう。
丘を進んでいると朝日が昇ってきた。
白い聖霊が語りかけて来てうるさい。適当に聞き流す。
なんだと?
昼の人格だったら全部答えてくれるだと……!?
ええぃ、面倒な。
後は任せることにしよう。
幸いドラニアもいるし、後は任せたとだけ告げる。
慣れた様に意識を飛ばし、人格を切り替えた。
平和ボケした人間と混じって丸くなってきてます。
予想以上に感想(石)を砕いてくださる方いてびっくりしました。
ありがとうございます……ありがとうございます……!