イナイレGO1〜フィフスセクターぶちのめします!〜 作:松兄
翌日―――、暴風雨が去り澄み渡った青空が広がるゴッドエデン。
今日も雷門メンバーはそれぞれ練習のためにそれぞれ練習場所に散らばる。
そして虎次朗は"チーム・アルテミス"のメンバーに連れられて【アルテミスの遺跡】へとやって来た。
鳥のさえずりが心地よく響く中、"ザッ"という遺跡の地面を踏みしめる音が静かに響く。
今頃天馬や先輩たちは、今日も島の大自然の中で円堂監督や風丸さんたちから地獄のような特訓を受けているはずだ。
だが、虎次朗はフィフスセクターのシードでありながらも自分たちに協力してくれる、"チーム・アルテミス"の少女たちと今日も練習に励んでいた。
虎次朗「よし……これで一通り、いいかな」
ウォーミングアップを終える虎次朗。
昨日の激しい嵐の夜を越え、過酷な特訓の果てに掴み取った新たな必殺シュート――『雷獣シュート』。
その手応えを胸に、虎次朗はグラウンドで対峙する少女たちを見渡した。
虎次朗「みんな、昨日までは付き合ってくれてありがとな。でも……ここからは実戦形式で頼む!」
虎次朗の言葉に、アルテミスのキャプテン、花帆がニヤっと不敵に口元を緩める。
花帆「試合じゃないけど、やっとまともに戦えるね! いいよ、そこまで言うなら手加減なしでいかせてもらうから!」
少女たちがそれぞれのポジションへと散る。
ゴールに立つのは、フィフスセクターの―――、ゴッドエデンが誇る最強クラスのシードの1人として、これまでどんな男子のシュートも完封してきたゴールキーパーの少女。桜。
桜はグローブを締め直し、鋭い視線で虎次朗を見据えた。
桜「来なさい! あなたの新しいシュート、私が完璧に止めてあげるわ!」
ホイッスル代わりの鳥が羽ばたく音が響くと同時に、実戦形式の稽古が始まった。
少女たちの連携は完璧だった。
朱里「貰うわ!」
小春「麗奈さん! そっち行くよ!」
麗奈「おっけー!」
一瞬の隙も許されない鋭いプレッシャー。
しかし、今の虎次朗は前とは違った。
いや、以前も虎次朗だけは―――この島のシードたちと互角に戦えていた。
だが、極限の特訓で研ぎ澄まされた体さばきでアルテミスのディフェンスを次々と躱し、
虎次朗「退けぇっ!!」
ドゴォオオオオオッ!!
恵梨香「きゃあっ!?」
相手の女子とは思えないパワーを誇るセンターバックの少女を、パワードリブルで返り討ちにして吹き飛ばす。
そして、絶妙なドリブルでボールを前方へと押し出す。
虎次朗(ここだ……! 距離も、角度も申し分ない!)
ペナルティエリアの手前、虎次朗は深く踏み込む。
足先が地面に擦り付けられ、地面を深く削り取る。
地面を蹴り上げ、激しい摩擦から生まれる黒い電光が、ボールと虎次朗の脚を包み込んだ。
空気が重く震え、凄まじい放電音が砂浜全体に響き渡る。
虎次朗「喰らい……つけぇぇぇっ!! [雷獣シュート]―――っ!!」
ドガァアアアンッ!!
森の静けさとアルテミスのメンバーの息遣いの中、桜は目を見張った。
空気が炸裂する爆音と共に放たれたボールは、大地を這う雷光となって一直線にゴールへ向かって突き進んだ。
桜「――っ!?」
桜は構える。どんな強力な必殺技が来ようと、正面から受け止める。それが桜の、シードとしての教示だった。
桜「[キルブリッ……!?」
だが、ボールがペナルティエリアに侵入したその瞬間――、地表を削りながら進んでいたボールが、鋭い摩擦回転によって突如として不規則に跳ね上がり、凄まじい速度と回転を伴って桜の顔面めがけて急浮上した。
高圧の電流と、空気すら切り裂く圧倒的な破壊の波動―――。
目の前に迫る、一閃の雷光。
そして何より、自分の顔面を容赦なく打ち砕かんとする圧倒的な……『威圧感』――。
桜(あ……ダメ……っ!!)
これまで、練習相手の数々のシードのシュートを笑顔で止めてきた桜の脳裏に、初めて本能的な『恐怖』が奔走した。
身体が思考より先に反応する―――。
桜は目を見開き、顔を覆うようにしてその場にへたり込み、ボールの軌道から身体を背けて避けてしまった。
ズドォォォォンッ!!
ボールはキーパーの頭上をかすめ、ゴールネットを突き破って後方の遺跡の柱へと激突。
激しい煙と砂塵を巻き上げ、硬い石の柱に深い亀裂を刻み込んだ。
静まり返る遺跡。今の音で羽ばたく鳥の羽音だけが虚しく響く中、桜は荒い息を吐きながら、顔を上げた。
その瞳は微かに震えており、自身の手に残る恐怖の感覚に呆然としていた。
虎次朗「おい、大丈夫か!?」
駆け寄ってくる虎次朗の声で、少女たちはハッと我に返る。
虎次朗が手に入れたのは、ただの強力なシュートではない。
相手の闘争心すら打ちくだき、本能的な恐怖を植え付ける、まさに猛獣のような一撃だった。
そして、柱に深く刻まれた亀裂と、立ち込める粉塵。桜はまだ呆然と自分の手を見つめている。
誰もがその凄まじい威力を前に息を呑む中、重い沈黙を破ったのは——鋭い足音だった。
朱里「ハッ……何よそれ。冗談じゃないわね!」
ニッと不敵な笑みを浮かべ、前に出たのは、"チーム・アルテミス"のエースストライカーである朱里。
その瞳には、恐怖など欠片もない。
ただひたすらに、目の前で解き放たれた圧倒的な力に対する抑えきれない高揚感と、血気盛んな闘争心がギラギラと燃え上がっていた。
朱里「あんなの見せられたら、こっちの血まで騒ぎ出すじゃない! たった一発のシュートで調子に乗らないでよ、虎次朗!」
朱里はボールを強く足元で踏みつけると、虎次朗を指差し、不敵に挑発してみせる。
そして、花帆以外の少女たちが、苗字ではなく"虎次朗"と名前で呼んだ。
完全に虎次朗を認めた瞬間だった。
朱里「コイツのシュートにビビってるヒマなんてないわ。今のままじゃダメなのは……アタシたちの方じゃない!」
その言葉に、"チーム・アルテミス"の雰囲気が一変。
そして、桜の元へ静かに駆け寄り、優しく肩を叩いて立たせたのは、キャプテンである花帆だった。
花帆「大丈夫? 桜ちゃんよく避けたよ。あの軌道は、正面から受けたら本当に危険だったから……」
花帆は桜を気遣いながらも、その視線をゆっくりと虎次朗へと向けた。
凛とした佇まいを見せる花帆だったが、胸の奥では激しい鼓動が鐘のように打ち鳴らされていた。
地獄のような、自分たちとの特訓を耐え抜いた虎次朗。
そして、自分たちを置き去りにするかのような凄まじい一撃。
花帆(すごい……でも、遠くへ行かせない。……私を見てほしいの、伊月くん……!)
胸の内に秘めた虎次朗への想いが、花帆の誇りとストイックな情熱に火をつけた。
花帆は胸元をギュッと握りしめた後、意を決したようにきりっとした表情で前に進み出た。
花帆「伊月くん。今の『雷獣シュート』……すごい威力だったね!」
花帆の澄んだ声が砂浜に響く。
花帆「だけど、私達もここで引き下がるわけにはいかない。あなたを強くするための稽古は、もう終わり!」
花帆が右手をすっと掲げると、朱里をはじめとした少女たちが一斉に虎次朗を取り囲むようにポジションにつき直す。
その瞳には全員、先ほどまでの"指導者"としての余裕ではなく、"ライバル"としての鋭い牙が宿っていた。
花帆「ここからは——私たちが、あなたと一緒に強くなるための『合同練習』だよ!」
花帆の宣言に、朱里が「待ちきれない」とばかりにボールを高く蹴り上げる。
朱里「行くわよ虎次朗! アタシたちの新必殺技の実験台になってもらうからね!」
虎次朗「望むところだ……! 来いッ!」
虎次朗もまた、胸の奥から湧き上がる熱い衝動を隠さず、ニッと笑って身構えた。
単なる「しごき」の時間は終わった。嵐の去った無人島で、互いの限界を超えて高め合う、真の競い合いが始まった。
だが、虎次朗は―――
虎次朗(この子たち、花帆の事情は聞いたけど……本当に何でシードなんかやってんだ?)
― つづく ―
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