イナイレGO1〜フィフスセクターぶちのめします!〜 作:松兄
引っ越し
ゴッドエデンでの激闘を終え、夕暮れに染まる稲妻町―――。
天馬と虎次朗が暮らす木枯らし荘の前に、大きな荷物を抱えた少女たちの姿があった。
フィフスセクターの呪縛を断ち切り、これからは雷門の仲間として共に歩むことを決めた、チーム「アルテミス」の面々だ。
天馬「これからよろしくね、みんな!」
満面の笑みで迎える天馬。
その対面に立っていたのは、アルテミスのキャプテンの花帆。
少し緊張した面持ちながらも、彼女の瞳には新しい生活への決意が宿っている。
秋「話は聞いてるわ。今まで大変だったわね。歓迎するわ」
管理人である秋も声をかけ、彼女たちを代表して花帆が口を開く。
花帆「こちらこそ、急にこんなところに押し寄せてしまってごめんなさい。でも、今日からは同じ雷門の仲間として、よろしくお願いします!」
花帆が律儀に一礼すると、その背後で他のメンバーたちも荷物を抱え直した。
女の子たちの手には、お世辞にも軽いとは言えない段ボール箱や衣装ケースが握られている。
天馬「さあ、みんなの部屋は2階だね! よーし、一気に運んじゃおう!」
天馬がさっそく腕をまくり、段ボールをひょいと抱え上げた。
すると―――、
虎次朗「おいおい天馬、そんな小さな箱1つじゃ日が暮れちまうぞ」
呆れたように笑いながら一歩前に出たのは、虎次朗だった。
その、幼少期から家族を支えるために地元の商店街の手伝いや新聞配達で鍛え上げられた圧倒的な体格とフィジカルは伊達ではない。
虎次朗は花帆たちが「重っ……」と顔をしかめていた特大の段ボール箱の前に立つと、流れるような動作で腰を落とした。
虎次朗「……っよし」
短い気合と共に、虎次朗はなんと、大人が2人がかりで持つような重い荷物を、左右の腕で1つずつ、同時に抱え上げた。
分厚い胸板と逞しい腕の筋肉が、衣服越しにもきゅっと引き締まる。
小春「えっ……!? 虎次朗くん、それ1人で2つも持つの!?」
天馬「無理してない!?」
小春と天馬が目を丸くして声を上げる。
花帆も驚きに目を見張った。
花帆「待って虎次朗くん、それはさすがに重すぎない? 1つずつ運ばないと腰を痛めて――」
虎次朗「心配いらねえよ。これくらい、いつもやってる特訓に比べりゃ軽いもんだ」
虎次朗は不敵な笑みを浮かべ、涼しい顔で2つの巨体な荷物をしっかりとキープしてみせた。息一つ乱さないその堂々たる男らしさに、アルテミスの少女たちの間から「おぉ……」と感嘆の声が漏れる。
虎次朗「じゃあ、先に上がらせてもらうぜ」
重い荷物を2つも抱えているとは思えないほど力強い足取りで、虎次朗は木枯らし荘の階段を一段ずつ、確実に踏みしめて上がっていく。
その大きな背中を見上げながら、花帆はふっと表情を和らげた。
花帆「かっこいい……///」
顔を赤くしてウットリする花帆。
美咲「頼もしい仲間ね。……私たちも負けていられないわ、天馬くん、行きましょう!」
天馬「うん! 虎次朗に負けないように、俺も頑張るぞー!」
天馬の元気な声が響き、木枯らし荘の通路は一気に賑やかさを増していく。
ゴッドエデンでの殺伐とした戦いが嘘のように、彼らの新しい日常は、温かい活気に満ち溢れながら幕を開けた。
引っ越し作業が一段落する頃には、稲妻町の空はすっかり綺麗な夜空へと変わっていた。
木枯らし荘の大家である秋の計らいで、その日の夜は木枯らし荘の住人の共同食事スペースに全員が集まり、女の子たちの歓迎会が開かれることになった。
天馬、虎次朗、そして花帆をはじめとする女の子たちがぎゅっと集まる。
秋「さあ、みんなたくさん食べてね! 今日はすき焼きよ!」
秋がカセットコンロの上に置かれた大きな鍋の蓋を開けると、甘辛い醤油と出汁の香気が一気に部屋中に広がった。
ぐつぐつと音を立てるお肉や野菜を見て、一同から歓声が上がる。
花帆「わあ、美味しそう……! 秋さん、ありがとうございます!」
花帆が目を輝かせてお礼を言うと、秋は嬉しそうに微笑んだ。
秋「いいのよ。ゴッドエデンでは大変だったんでしょう? これからはここで美味しいものをたくさん食べて、元気になりなさい」
恵梨香「はい……っ!」
虎次朗「じゃあみんな、手を合わせろ!」
『いただきまーす!』
合図とともに、賑やかな夕食が始まった。
やはりここでも圧倒的な存在感を見せたのは虎次朗だった。
虎次朗「肉、どんどん入れていいぞ。ほら、花帆も遠慮すんな」
虎次朗は大きな体を器用に使いながら、取り皿に次々と肉や野菜をよそっては、アルテミスのメンバーたちに配っていく。
引っ越し作業で見せた男らしさとは一転、今度は大皿の肉を豪快に鍋に投入しながらも、周囲への細やかな気配りを忘れない。
花帆「虎次朗くん、ありがとう。……でも、あなたこそさっきあれだけ重い荷物を運んだんだから、たくさん食べないと」
花帆が恐縮しながら言うと、虎次朗はニカッと笑った。
虎次朗「おう、もちろん遠慮なくもらうぜ。飯を食うのも特訓のうちだからな!」
そう言うと、虎次朗は山盛りの白米をものすごい勢いで口に掻き込んでいく。
その気持ちのいい食べっぷりに、少女たちの間から自然と笑いがこぼれた。一方の天馬は、すでに肉の争奪戦に夢中になっていた。
天馬「あ! 朱里、そのお肉狙ってたのにー!」
朱里「早い者勝ちだよ、天馬くん!」
天馬「もう! じゃあこっちの焼き豆腐をもらうよ!」
桜「それ、アタシの!!」
麗奈「天馬くん! 食べ物の恨みは怖いのよ?!」
ギャー ギャー!
そんなみんなのやり取りを特等席で見ていた花帆は、胸の奥がじんわりと温かくなるのを感じていた。
フィフスセクターにいた頃は、食事といえば管理された栄養を摂取するための機械的な時間でしかなかった。
しかし、こうして仲間と鍋を囲み、笑い合いながら食べるご飯がこれほど美味しいものだとは、ついこの間、雷門と食べたカレーの時まで知らなかったのだ。
花帆「……ふふっ」
天馬「花帆さん、どうしたの?」
不思議そうに首を傾げる天馬に、花帆は首を振って、心からの笑顔を浮かべた。
花帆「ううん、なんでもないわ。本当に……ここに来られて良かったなって思って」
天馬「うん! これからはずっと一緒だよ、花帆さん!」
天馬が箸を握ったまま力強く頷くと、虎次朗も
虎次朗「おう、困ったことがあればいつでも頼れ」
と親指を立てて見せた。
湯気の向こうで弾けるみんなの笑顔。
ゴッドエデンを生き抜いた彼女たちにとって、この木枯らし荘での初めての夜は、忘れることのできない温かい味となった。
― つづく ―
次はいよいよ彼女たちの雷門編入ですね。