リジェネレイト・トリップ~アルとアイザの星穹旅行記~ 作:自由山明
それは突然だった。
何も起こらず、いつも通りの世界間ワープとなるはずだった。
最初は最悪だと思った。
しかし、それがこんなにもたくさんの出会いと冒険を生み出すきっかけだったとは、この時は微塵も思わなかった。
◇◇◇
「マスター、安定している小型のワームホールを検知しました」
相棒のその一言で僕は思考の海から意識を引き戻す。
僕は重厚な宇宙戦艦スペースブレイカーの内部にある艦橋の艦長席に座っていた。
「ワームホールか、よくあることだけど何かあった?」
世界間ワープの際に数多の世界につながるワームホールに出会うことはよくある。
さして特別な事とは思えない。
「はい、このワームホール、避けようとすると我々の進路を阻むように再び開かれます。まるで我々に入って欲しいかのようです」
それは不自然だ。
ワームホールは本来自然現象で誰かが意図して開くことは本来ないはずなんだけど……。
「なるほど、この戦艦で入れそう?」
「ワームホールが小型なため人二人ほどしか通れません。どうされますか、マスター」
僕は重々しく腕を組み、考え始める。
やろうと思えば主砲でワームホールを消し飛ばせるが……。
「これも何かの縁ってやつかも。そんなに来て欲しいなら一回行ってみようじゃない! アイザ、発艦準備!」
「了解いたしました。ではスペースブレイカーはこの世界の狭間で待機させ、我々のみでワームホールへと向かいます」
数分後、対空砲の間にあるハッチがゆっくりと開かれる。
昇降台には、一機のアンドロイドと一機のガイノイドが並んでいた。
「マスター、発艦準備が完了いたしました。いつでも行けます」
小型のワームホールに向かってカタパルトの狙いを定める。
水色のガイドビーコンが光の線となって虚空に存在するワームホールへと重なった。
「よし、アルティマ式指揮官型アンドロイド」
「アイザ式指揮官型ガイノイド」
「「出る!」」
こうして、僕たちの旅は始まったのだった。
裏に潜む愉悦の意志が笑っているのを、この時はまだ検知できなかった。
◇◇◇
それはワームホールに入ってからすぐに起こった。
「警告、未知のエネルギーによりプラズマネットワークが断絶、本国およびスペースブレイカーとの接続がオフラインになりました」
「何だって!? ……しかも入り口がなくなっているじゃないか。最悪だ……仕方ない、後戻りできないみたいだしこうなったら先に進もう」
最後にもう一度振り返るが、入り口はものの見事に消えていた。
まるで、もう戻さないと言わんばかりに……。
「間もなく出口です。……3……2……1……0!」
不可思議なワームホールにさよならを告げ、未知の世界へと躍り出る。
ワームホールの先にあった景色は僕たちの知っている宇宙と大して変わりはなかった。
星々が無数に輝いており、きれいな青い惑星とそのそばに巨大な宇宙ステーションのようなものが確認できる。
僕たちはそんな宇宙ステーションに出現していた。
「機関出力100%、プラズマネットワーク以外の全システム、オールグリーン」
じっくりと辺りを見渡したいところだが、それを邪魔する異質な存在が接近していた。
「レーダーに感、アンノウンと人間です」
見ると、黒くどこか恐ろしい雰囲気を纏った人型のナニカが人を襲っていた。
両者ともこちらへと向かってきており、接触は避けられなさそうだ。
「アイザ、戦闘準備!」
「了解いたしました。援護します、マスター」
アンノウンはこちらを捕捉すると、優先排除対象と判断したようで進路を変え不思議なエネルギーを纏った金色の刃を振りかざしてきた。
負けじとプラズマエネルギーを手先に収束させ、プラズマブレードを展開する。
アンノウンの刃とぶつかり、鍔迫り合いを起こしながら反発し、強烈な衝撃と共に相手の刃が砕け散った。
(……!? 感触がおかしい……アイザ、アンノウンはこっちで相手をするから分析を優先して)
(了解しました、マスター)
プラズマ通信でアイザとやり取りをした後、反発していつものような威力が出ないプラズマブレードで刃が砕けたアンノウンの胴体を力任せに切り飛ばす。
霧散していくアンノウンを横目に見ながら、残り一体となった敵に向かって突撃する。
味方がやられてもアンノウンは怯まず、その虚ろな頭部でこっちを見ながら迎え撃ってきた。
最後のアンノウンも危なげなく倒し、殺伐とした雰囲気は静かなものへと変わった。
「マスター、先ほど解析が終わりました。どうやらアンノウンが内包しているエネルギーとこちらのエネルギーが反発して威力が減衰するようです」
「そうか……ありがとう、アイザ」
アンノウンとの戦闘データを分析していると、後ろから恐る恐る声をかけてくる人物がいた。
さっきまでアンノウンに追われていた研究者っぽい白衣を着た女性だ。
「あの~……助けていただいてありがとうございます」
「いやいや、気にしなくていいよ。襲われたから対処しただけだしね」
「いえいえ、それでも助けていただいたのは事実ですから。それで……お二人は服装からして外部の方ですよね? ならば防衛課の人たちがいる場所まで行きましょう。そこならば安全ですから」
職員さんと思しき人の案内で宇宙ステーションの内部を進んでいく。
途中で遭遇したアンノウンを何体か倒したり、職員さんの他にも襲われていたり迷っていたりしていた人を守りながら走っていく。
「この先のハッチを通れば防衛課の人たちがいる場所まであと少しです!」
そう言いながら職員さんがタッチパネルを操作し、ハッチを解放する。
その大きさに見合わず素早い動きで開いたハッチの外に出て職員さんたちを連れて行こうとすると……。
(……! マスター、こちらに大型アンノウンが接近中です)
上を見ると、巨大な竜にも似たアンノウンがこちらに向かって飛んできているところだった。
巨大アンノウンの突進攻撃を防ぐため、前に躍り出てプラズマシールドを展開する。
シールドと巨大アンノウンが衝突した衝撃で何人かが転ぶ中、僕はアイザに向かって迅速に指示を出す。
「アイザ、みんなを連れて安全な所に行って! 時間は稼ぐ!」
「了解しました。さあ、皆さん行きましょう。引き続き案内をお願いします」
「え……でもあの人が……」
「マスターなら心配には及びません。さあ、早く!」
巨大アンノウンの攻撃を防ぎながらみんなが逃げる時間を稼ぐため、僕はギアを一段階上げる。
「プラズマビーム!」
プラズマの奔流が巨大アンノウンに向かって突き進み、重低音を響かせながら外殻の一部を破断させる。
しかし、巨大アンノウンのエネルギーと反発しているせいか思っていたような威力は出ない。
「……でも効かないわけじゃない!」
そう自分を鼓舞しながら飛び上がり、機体のスラスターを吹かせて巨大アンノウンに肉薄し、プラズマブレードを突き立てる。
刺さりはするが、決して有効打では無い一撃に苦虫を嚙み潰したような表情をしながらも高速で離脱、機体の運動性で巨大アンノウンを翻弄しながら戦い続ける。
「クソ、向こうの攻撃は効かないけどこっちも決定打を与えられない……」
しかし、僕の目的は時間稼ぎのため無理に倒す必要はないのが幸いだった。
巨大アンノウンがイラついたようにその巨大な腕を振るう中、アイザ達が撤退していた方向から氷の矢が飛んでくる。
その矢は頭部に命中し、巨大アンノウンの気を引く。
「終末獣! アンタの相手はウチらだよ!」
「三月、あまり前に出過ぎるな」
「私もやる」
「そこの戦っているあなた、加勢するわ」
思わぬ助っ人にどこか安心感を覚えながらも、戦闘が仕切りなおされる。
助っ人の四人の攻撃は、僕に負けず劣らずのダメージを出し、着実に終末獣とやらを疲弊させていく。
ピンク髪の少女が後ろから氷の矢で援護し、黒髪の青年と灰髪の少女が前に出て終末獣を相手取る。
二人の隙は赤髪の女性が丸鋸のような武器が付いたバックで攻撃して補い、傍から見ても見事な連携だ。
こちらも負けじと終末獣に対し遠距離からの砲撃をお見舞いし続ける。
しかし、ボロボロになった終末獣は最後の悪あがきを敢行する。
ピンク髪の少女に向かって最後の光線を放ち、敵を一人でも道連れにせんとする。
僕は慌ててプラズマシールドを展開しようとするが、それは灰髪の少女の行動によって不必要となる。
灰髪の少女はピンク髪の少女を庇うために立ちふさがった。
普通ならピンク髪の少女もろとも光線の中に消えていくものだが、今回は違った。
灰髪の少女の胸部から光があふれだし、終末獣の光線を防ぐ。
そして、その光は次第に強くなっていき、果ては終末獣の存在をかき消した。
なおも強まり続ける光にこのままでは危ないと、僕は対抗策を実行しようとするが、思わぬ介入者によって光の暴走は鎮められた。
どこからともなくやってきた茶髪の男性が杖で灰髪の少女の頭をこつんと叩くと、先ほどまであふれんばかりのエネルギーを放っていた光は急速に収まっていった。
灰髪の少女はゆっくりと床に向かって落下し、ピンク髪の少女に受け止められる。
僕はゆっくりと降下し、集まり出した五人の元へと歩み寄っていく。
「ここは危険だ、場所を変えよう」
茶髪の男性の意見に従い、僕たちは終末獣との戦場を後にするのだった。