転生ニトロは幸せを手放したくない   作:洋菓子職人II

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カカがターバン脱いだらどんな髪型なんだろ…?


温もり

 バタン!と勢いよく扉が開き、一龍兄さんが、チチとジジを引き連れてニヤニヤしながら入ってきた。俺とカカさんは慌てて離れたが、抱き合っていたところを完全に目撃されていたのは言うまでもない。

 

 「――よお、ごちそうさま。美味そうなスープの匂いが外まで盛大に漏れてたぞ?なぁ。チチ、ジジ?」

 

 一龍兄さんがわざとらしく肩をすくめて同意を求める。

 

 「おう、全くだ! あんなに熱烈なスープの誓いを見せつけられちゃ、こっちの当て当てが冷めちまうぜ!」

 

 とチチが笑い…

 

 「カカのやつ、あんなに顔を真っ赤にしおって。ニトロの歴史始まって以来の桃色スープじゃな」

 

 とジジが煙管をくわえてケラケラと笑う。

 

 「い、一龍……!! チチもジジも! あなた方、やはり最初から外で盗み聞きをしていたのですか!?」

 

 カカさんは羽毛が完全に茹で上がったように真っ赤になり、長衣の袖を振り回して激怒した。

 

 「そもそも防音性の高い建材を選定したのは二鳥さんですが、あなた方の聴覚細胞はグルメ細胞の活性化によって通常の生物の数十倍に跳ね上がっており、それを考慮していなかった私の計算ミスでして、それにしても盗み聞きなどという不謹慎な……」

 

 いつもの長話が戻ってきたことに、俺はホッとすると同時に、恥ずかしさで顔から火が出そうだった。そんな俺たちの様子を見て、兄さんはさらにニヤリと不敵な笑みを浮かべ、俺の前に歩み寄ってきた。

 

 「ところで、二鳥」

 「え? あ、はい、兄さん……」

 「お前、少し前にアカシア様の家を改築した時、俺がお前に『お前自身はどんな部屋が欲しいんだ?』って聞いたの、覚えてるか?」

 「ぶっ――!?」

 

 その瞬間、俺の脳裏に、凄まじい黒歴史の記憶がフラッシュバックした。そうだ。あの時、一龍兄さんに「お前がほしい部屋は?」と聞かれて、夢見る男だった俺は、つい職人のこだわりと独身の妄想が爆発して、「誰にも邪魔されず、恋人とイチャイチャする部屋」が欲しい、なんて口走ってしまっていたのだ。

 

 「に、兄さん! それは、その、ただの職人の妄想というか、男のロマンっていうか……っ!蒸し返さないでくれって…!」

 

 大慌てで手を振る俺を無視して、兄さんは俺の大きな青い肩を、ドン!と力強く叩いた。その瞳には、からかいの色だけじゃない、実の弟を見るような温かい光が宿っていた。

 

 「二鳥。お前は俺たちのために、そしてみんなのために、十分すぎるほど働いてくれた。最高の建物をいくつも作ってくれたよな。……だからさ、今度はお前が幸せになる番だ」

 

 兄さんはにっと豪快に笑い、部屋の出口を親指で指し示した。

 

 「お前が言ってた『恋人とイチャイチャする部屋』。誰にも邪魔されない特等席を、今度はお前自身のために、心を込めて作ってこい!」

 「……兄さん…!」

 

 その言葉に、胸の奥がじんわりと熱くなる。俺の『中身』が何者かなんて関係ない。この一龍という男は、ただ目の前にいる「二鳥」という弟弟子の幸せを、心から願ってくれているのだ。

 

 「……イチャイチャ、ですか?! それは人間界の言葉で、親密な男女が愛を確かめ合う空間設計を指す言葉のはずですが、二鳥さん、あなたはそんな破廉恥な部屋の構造をすでに脳内で設計されていたのですか!? それはいったいどのような間取りで、風通しや日当たりは……!」

 

 「カ、カカさん! 落ち着いてください! 違います、ただの妄想です! だけど……」

 

 俺は隣で真っ赤になって喋り続けるカカさんの嘴を抑え、それから一龍兄さんに向かって、深く頭を下げた。

 

 「よし……! 善は急げだ。一龍兄さん、俺、さっそく部屋を建てるための最高の土地を探しに行ってくる!」

 

 恥ずかしさの限界を超えた結果、俺の職人魂にヤケクソの火がついた。こうなったら大工のど根性を見せるしかない。

 

 抱えていた図面と大工道具をぐっと握り直し、さっそく隠れ家の扉へ向かおうとした時、後ろから「あ、あの……二鳥さん」と、衣服を衣擦れさせる音が聞こえた。

 

 振り返ると、カカさんがまだ赤みの引かない顔のまま、おぼつかない足取りで立ち上がろうとしていた。

 

 「私も……私も、ついていきます。その、未来の住居の、環境分析や地質調査、周辺の生態系のサンプリングなどは、私の知識がお役に立つはずです。決して、あなたと二人きりでその、土地を選びたいというような不純な動機ではなく、建築物としての施工安全基準をですね……!」

 

 相変わらずの早口で理屈を並べ立てようとするカカだったが、数日間の激しい恋煩いによる絶食が響いたのだろう。足元が大きくよろめき、その華奢な身体がふらりと前に傾いた。

 

 「カカさん、危ないぞ!?」

 

 俺の身体は、王陸鮫と戦っていた時を遥かに超えた速度で動いていた。 ブルーニトロの肉体を滑り込ませ、倒れかけるカカさんの身体を、大きな両腕でしっかりと受け止める。

 

――そのまま、片腕を彼女の背中に、もう片方の腕をその膝の裏へと回し、ふわりと宙に持ち上げていた。

 

 いわゆる、前世の言葉で言うところの『お姫様抱っこ』というやつだ。

 

 「え……? あ、あの……二鳥、さん……?」

 

 カカさんは、自分の身体が簡単に持ち上がった状況が理解できないのか、大きな瞳をパチクリとさせてフリーズしている。俺の頑丈な青い胸板に、カカさんの細い身体がすっぽりと収まっていた。

 

 自分の腕の中に伝わる、信じられないほどの軽さと温かさ。男としての恥ずかしさが今度こそ限界突破して、俺の顔は自分でも火傷しそうなくらい真っ赤になった。それでも、腕の中の愛しい人を絶対に離したくなくて、ぎゅっと腕に力を込める。

 

 「カカさん、まだ体力が万全じゃないんだから、無理しちゃダメだぞ? ……地質調査も環境分析も、全部俺のこの腕の中でやってくれ。一緒に、最高の土地を探しにいこう」

 

 「――っ、は、はい……! 喜んで……っ!」

 

 カカさんはもう言い訳する余裕すらなくなったように、真っ赤になった顔を俺の胸に完全に埋め、細い手で俺の衣服をぎゅっと握りしめた。羽毛が、まるで極上の食材のように艶やかに逆立っている。

 

 そんな俺たちのバカ熱いやり取りを背後で見ていた一龍兄さんは、これ以上ないほど満足げにニヤリと笑うと、わざとらしく大きな声をあげて、チチとジジの肩を組んだ。

 

 「おーう、二鳥! 土地探しは若い二人だけでじっくりやってこい! 俺たちは、ここの残りのリフォームの点検でもしといてやるからよ。なぁ、味仙人のじいさんたち!」

 「かっかっか! そうじゃな、若い者の邪魔をするのは無粋というものよ」

 「おいおい、一坊。点検が終わったら、祝いの酒を一杯奢れよ?」 

 

 一龍兄さんは、俺に「男を見せてこい!」と言わんばかりに親指をグッと立ててみせると、そのままチチとジジを連れて広間の奥へと引っ込んでいった。あえて身を引き、俺たち二人だけの時間を作ってくれたのだ。本当に、どこまでも粋で、最高に頼りになる自慢の兄貴だ。

 

 「……よし。それじゃあ行こうか、カカさん」

 「ええ……。あなたのプロフェッショナルな審美眼に、期待しています……」

 

 俺はカカさんを大切に抱きかかえたまま、新築の木の扉を力強く蹴り開けて、外の広大なグルメ界へと踏み出した。

 

 今の俺の腕の中には、守るべき最高に愛しい恋人がいる。背中を押してくれる最高の家族がいる。 この人と一生を過ごすための、世界一頑丈で、世界一温かい拠点を設計してやるんだと、俺は胸の鼓動を爆発させながら、カカさんと共に新たな一歩を踏み出すのだった。

 

 「兄さん! 最高の部屋、作ってきます!」

 「おう、行ってこい!」

 

 一龍兄さんたちの笑い声に背中を押され、腕の中にカカさんを抱き寄せ、新しく引いたばかりのブラインドの図面を捨てて外へと走り出した。これから作る二人の部屋には、お喋りな俺たちの声が何時間響いても誰も文句を言わない、最高の防音壁を仕込むつもりだ。

 

 ◆

 

 「カカさん、隠れ家からそんなに離れていない場所がいいですよね。何かあったとき、一龍兄さんや、まだ言葉がおぼつかない二郎の様子もすぐに見に行けますし……。あ、このあたりの地盤はどうですか? 粘土質の土壌に見えますが、基礎を打つならもう少し岩盤が近い方が――」

 

 大工としての職人気質が騒ぎ、周囲の地形を観察しながら早口で喋っていた俺は、ふと、自分の胸に伝わる妙な熱量に気づいた。

 

 「……あ」

 

 下を見ると、俺の胸に顔を埋めていたカカさんが、完全にフリーズしていた。白長衣のフードから覗くその顔は、昨日の比ではないほど真っ赤に染まっている。羽毛は限界まで逆立ち、その目は完全に泳いでいた。

 

 (あ、圧倒的な熱量です……!現在、私の末梢血管は最大まで拡張しており、これは極度の興奮状態、あるいは致死量に近い照れがもたらす自律神経の暴走であり、そもそも二鳥さんのこの胸板の温もりは、私の頭部を完全に包み込む設計になっており、その皮膚の摩擦熱が私の神経を直接刺激して、脳内の思考回路が…アワアワアワ……!!!)

 

 「わ、悪いっ! カカさん! 俺、つい勢いで!」

 

 俺は自分が無意識に、カカさんお姫様抱っこしたまま走り回っていたことに気づき、心臓が跳ね上がった。いくら中身が人間とはいえ、今の俺の見た目はブルーニトロだ。

 

 トラウマを乗り越えてスープを振る舞ってくれたとはいえ、こんな風に強引に距離を近づけ続けられたら、また恐怖を思い出させてしまうかもしれない。焦った俺は、大慌てでカカさんを地面に下ろそうとした。

 

――しかし、離れなかった。

 

 「……え?」

 「……な、しません…!」

 

 カカさんの嘴から、消え入りそうな、けれど明確な意志を持った声が漏れた。見れば、俺の衣服をカカさんの小さな手が信じられないほどの力でぎゅっと、 爪が食い込むほど強く掴んでいたんだ。

 

 「カカ、さん……?」

 「離しません、と言っているのです二鳥さん……っ。確かに、私は、その……まだ自分の感情の処理が追いついておらず、脈拍のコントロールもできていませんが……。ですが、あなたがそのように、私が恐怖しているのではないかと先回りして、すぐに身を引こうとするその『中身の優しさ』に……私は、その……」

 

 カカさんは真っ赤な顔をさらに俯かせ、俺の衣服をもう片方の手でぎゅっと掴んだ。

 

 「……私は、あなたのその温かい熱を、もう自ら離したくはないのです。ですから……このままで、いてください。……これは、私の皮膚組織があなたの細胞の温もりを求めているという、生物学的な要求であり、決して私がその、あなたと……その………」

 

 素直すぎるカカさんの言葉が、俺の『魂』にダイレクトに突き刺さる。ブルーニトロの強靭な肉体を持ってしても、今にも破裂しそうなほど胸が熱くなった。

 

 「……あ……はい」

 

 俺はもう、格好良い言葉なんて一つも出てこなかった。人間だった頃の、ただの純情な男に戻ってしまったかのように、顔を真っ赤にしながら、カカさんの肉体を今度は優しく、けれど絶対に落とさないようにしっかりと抱き直した。

 

 「じゃあ……このまま、土地を探しましょう。カカさんが安心して、俺の長話を一生聞いていられるような……最高に日当たりが良くて、誰にも邪魔されない場所を、俺が絶対に見つけますから」

 「……ええ。楽しみにしています、二鳥さん」

 

 愛しい人を抱き上げたまま、俺はゆっくりと歩き出す。グルメ界から吹き付ける荒々しい風も、今の俺たちにとっては、二人の新しい家を建てるための、心地よい風通しのチェックにしか感じられなかった。

 

 ◆

 

 土地探しを終えた俺は、明日からの工事に備えてカカさんを一度隠れ家へと送り届けた。降ろす間際、彼女は「明日も、楽しみにしていますね」と、また数分ほど調理室の換気口の設計についての長話を添えて見送ってくれた。

 

 その余韻で胸を熱くしながら、俺はアカシア様たちの待つ家へと帰路についた。家の中に入ると、そこにはすでに一龍兄さんが戻っており、案の定、顔全体を歪めて盛大にニヤニヤとしていた。

 

 そして、食卓の奥からは、アカシア様とフローゼ様が、すべてを察したような顔で、優しい笑みを浮かべて、俺の報告をじっと待っている。

 

 「……ただいま戻りました」

 

 俺が恐る恐る声をかけると、一龍兄さんがすかさず「おう二鳥、おかえり。ずいぶん良い顔して帰ってきたじゃねぇか」と肩をくつくつと揺らす。アカシア様も温和な声をかけてくれた。

 

 「お帰り、二鳥。ニトロ達の隠れ家の改築、本当に素晴らしい出来栄えだと一龍から聞いたよ。それで……何か、私たちに報告したいことがあるんじゃないかい?」

 

 フローゼ様も、嬉しそうに目を細めて俺を見つめている。まだ幼く言葉もおぼつかない二郎が、アカシア様たちの足元で不思議そうに俺のシルクハットを見上げていた。

 

 ただの一般人だった俺にとって、この世界の偉大な親たちから向けられる温かい視線は、嬉しくもあり、同時に穴があったら入りたいほどの羞恥心を呼び起こす。俺は帽子の鍔をぐっと掴んで目元を隠し、ブルーニトロの大きな身体を精一杯縮こまらせながら、赤面して報告した。

 

 「こ、…恋人が、出来ました……!」




 これからこの2人は見ている人が砂糖を吐くくらい甘々な関係にします。

皆さんはどっちだと思います?二鳥は…

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