転生ニトロ・兄弟三弟子   作:バナナアイス

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う〜ん…戦闘描写はやっぱり難しいものですね


最高級の資格

地中から這い出てきた王陸鮫を前に、俺の脳内は大パニックを起こしていた。

 

 (待て待て待て、落ち着け俺。原作の記憶を呼び起こせ……。王陸鮫の捕獲レベルって、確か4450とかじゃなかったか!? 対してブルーニトロは、個体差はあるにしても平均で4000前後のはず……!)

 

 数字だけ見ても普通に格上だ。しかも、だ。

 

 (俺、前世じゃただの大工だぞ!? 現場での口喧嘩くらいはあっても、命のやり取りをする実戦経験なんてゼロだ! いくらブルーニトロのむっちゃ強ぇ肉体があるからって、戦い慣れてない素人があんな化物に噛まれたら、ひとたまりもないよなぁ……!?)

 

 じわりと青い皮膚から冷や汗が吹き出す。勝てる気が全くしない。というか、シンプルに死にたくない。

 

 (え〜……やだぁ〜〜!! 行きたくないよぉ〜〜!!)

 

 俺は心の中で全力で駄々をこね、その場から一歩も動こうとしなかった。しかし、そんな情けない新入りの様子を後ろで見つめていた絶対強者は、完全に痺れを切らしていた。

 

 狼王ギネスが、わずかに細めた眼で俺を睨む。次の瞬間、巨大な前足が文字通り「軽く」俺の背中を小突いた。いや、小突いたというよりは

 

 ――ドゴォォォッ!!!

 

 「ギャベフッ!?」

 

 軽い蹴りですら音速を超え、凄まじい衝撃と共に、俺の身体は砲弾のように前方に蹴り飛ばされた。景色が一瞬で消し飛び、気がついたときには王陸鮫の狂暴な巨大アゴの、まさに目の前(デッドゾーン)に躍り出ていた…!

 

 「グルルルルアアアアッ!!!」

 

 突如として目の前に飛んできた青い鳥人に、王陸鮫が地響きのような咆哮を上げ、山のごとき巨大な口を開く。内側に並ぶのは、一本一本がビルほどもある鋭利な牙の列。

 

 (ひえええっ、来る、噛まれる!! 考えるな、思い出せ、前世の知識!! 鮫の弱点は――!!)

 

 絶体絶命の瞬間、大工としての観察眼と、かつてテレビのサバイバル番組か何かで見た知識が火花を散らした。

 

 (鼻先だ!! 鮫の鼻先にはなんちゃら器官っていう神経が詰まってるはず!! どんな化物でも、そこを叩けば――!!)

 

 俺は全神経を右腕に集中させた。大工として、何万回、何百万回と振るってきたハンマーのイメージ。狙うべき釘の頭(ジャストスポット)は外さない。ブルーニトロの強靭な筋肉が限界まで収縮し、巨大な腕が一本の「腕金槌(アームハンマー)」と化す!

 

 「これで、引っ込んでろぉぉぉっ!!!」

 

 ズゴォォォォォンッ!!!!!

 

 渾身のアームハンマーが、王陸鮫の巨大な鼻先にクリーンヒットした。凄まじい衝撃波が走り、周囲の地殻がバリバリと音を立てて陥没する。手応えはあった! 俺は打撃の反動を利用して、バックステップで一気に距離を取り、息を荒くしながら戦況を見つめた。

 

 「やったか……!?」※フラグ建設完了

 

 土煙がゆっくりと晴れていく。その向こうから現れたのは、鼻先をほんの少し赤くした(というか、ただ泥が落ちただけのような)王陸鮫の、全くの「無傷」の姿だった。

 

 「……え?」

 

 王陸鮫は、まるでハエにでもたかられたかのように首を一度だけ横に振ると、さらに目を血走らせて俺を睨みつけてきた。その怒りのボルテージは、先ほどの数倍に跳ね上がっている。

 

 「グルルルル……ガアアアアアッ!!!」

 

 (全く効いてねぇぇぇ!! むしろめちゃくちゃ怒らせちゃったじゃん!! 嘘だろ、やっぱりレベル4450は伊達じゃねえぇぇぇ!!!)

 

 咆哮と共に迫り来る、山のごとき巨体。王陸鮫がその巨大な顎を広げ、俺を肉片ごと地中へ引きずり込もうと襲いかかる。さっきの一撃が全く効かなかった恐怖で心臓が縮み上がるが、限界状況の中で、前世で培った「職人の脳」が驚異的なスピードで回転を始めた。

 

 (落ち着け……! パワーや質量じゃあっちが圧倒的に上だ。だけど、小回りとスピードなら、この小柄なブルーニトロの肉体の方が絶対に勝ってる……!)

 

 大工の仕事だってそうだ。重い資材を力任せに振り回すだけじゃ、ただの半人前。職人ってのは、道具を、身体を、ミリ単位の精度で制御してこそプロだ。死への恐怖が消えたわけじゃない。だが、それ以上に「ここで引き下がれるか」という職人のど根性が、俺のブルーニトロの細胞に火をつけた!

 

 (ただ殴るだけじゃダメだ。あんな頑強な構造物、まずは『施工』の準備をして、急所を狙い撃ちにする……!)

 

 緊迫する脳内に、前世で愛用していた道具たちのイメージが鮮烈に湧き上がる。同時に、ブルーニトロの肉体に刻まれた膨大な調理の記憶が、それらと完璧に噛み合った。

 

――閃いた…!大工の魂が、この世界で戦うための独自の技術を今、形にする!

 

 『墨出し・ロックオン』

 

 俺は目にも留まらぬ速さで地表を蹴り、王陸鮫の側面に肉薄した。爪の先からグルメ細胞のエネルギーを放ち、鮫の巨体に一本の鮮烈な「墨線」を引き走らせる。よし、解体予定の境界線は引いた!次は『下地作り』だ!

 

 「その凶悪な身を解体してやる。だがそのためには表面を均さねぇとなぁ!!」

 

 『プレナー・スライス』

 

 俺は王陸鮫の暴れ狂う頭部へと飛び移った。ブルーニトロの鋭い手刀を「鉋」のように構え、鮫の顎から鱗の表面へと、寸分の狂いもなく滑らせる!

 

 バリバリバリバリバキィッ!!!

 

 「グルルルアアアアアッ!?!?」

 

 王陸鮫が苦悶の声を上げる。『プレナー・スライス』――それは、硬い皮肉や食材の雑味、毒のある表皮だけをミクロン単位で均一に削ぎ落とす職人技。俺の手刀が通り過ぎた部位は、まるで鏡面仕上げを施された高級木材のように、美しく滑らかに削り取られていく。

 

 (っ、この野郎、めちゃくちゃ暴れやがる……!!)

 

 身をよじる王陸鮫。地殻を砕くほどの猛烈なローリングと、強烈なGが俺の身体を襲う。まともに振り落とされれば、そのまま地中の底で圧殺されるのは確実。だが、俺はブルーニトロの鉤爪を肉の隙間に深く突き立て、死に物狂いでしがみついた。

 

 「舐めるなよ……! 一日中、炎天下で重機並みの肉体労働に耐えてきた大工の根性、見せてやる!! 絶対に離さねぇぞ……!!」

 

 どれだけ暴れ狂われようが、俺は足の爪でガッチリとホールドしたまま、プレナー・スライスをさらに深く滑らせていく。王陸鮫の頑強な装甲がみるみるうちに削がれ、その下にある、骨の『結合点』が完全に露出を始めた!あとは、ここに一点集中の一撃を叩き込むだけだ――!

 

 (ここだ……! 墨出しは完了済み、下地も整っている!ここが、この構造物の『要』だ……!!)

 

 暴れ狂う王陸鮫の猛烈なローリングに耐え抜き、俺は剥き出しになった脳天の骨の結合点(ジョイント)を見据えた。前世で数え切れないほどの木材にノミをあてがい、ハンマーで叩き込んできたあの感覚が、ブルーニトロの指先に宿る!右手の爪先を限界まで尖らせ、全パワーをその一点に集中させた!

 

 「穿てぇぇぇっ!!!」

 

 『ノミ・インパクト』

 

 ズバァァァンッ!!!!!

 

 トリコの釘パンチが広範囲の「破壊」なら、こちらは極小の一点への「穿孔」、最小限の力で、王陸鮫の硬い頭殻を綺麗に貫通した俺の指先が、脳天の結合点を正確に捉えた。

 

 瞬間、それと同時に引き絞られたのは、最初に仕込んでおいたグルメ細胞のトラップ、『墨出し・ロックオン』

 

 (――しまれッ!!)

 

 王陸鮫の巨体に走らせておいた「絶対に消えない黒い線」が、持ち主の意志に応じるように悍ましい輝きを放つ。墨線そのものが超高密度のエネルギーの刃となり、王陸鮫の身体をまるで細い鉄糸のように、猛烈な力で締め付け始めた!

 

 「グル、ル……ガアアアアッ!?!?!?」

 

 王陸鮫が、これまで聞いたこともないような悲鳴を上げて悶絶する。だが、容赦のない職人の墨線は構わず締め付け続け、肉を、骨を、バターのように滑らかに両断していく!

 

 ギチ、ギチギチギチ……パンッ!!!

 

 凄まじい肉の裂ける音と共に、体長数十メートルの巨体が綺麗にセパレートした。エラの下から綺麗に切り落とされた極上のカマ、そして内臓を一切傷つけることなく左右均等に切り分けられた、芸術的なまでの三枚おろし。ドサァァッ……と、大量の血飛沫と共に王陸鮫の巨体が地表に沈む。

 

 「はぁ、はぁ、はぁ……! や、やったか……!?」

 

 あまりの緊張感と、ブルーニトロの肉体を脳内の超高速思考でフル稼働させた反動で、全身の細胞から凄まじい疲労感が押し寄せる。膝をつきそうになりながらも、やり遂げた勝利の余韻が胸に広がった。

 

…その瞬間だった。

 

 「――グ、ル、ア、ア、ア、ッッ!!!」

 

 (――え?)

 

 背筋に、氷水を浴びせられたような戦慄が走る。切り落とされ、地面に転がっていたはずの王陸鮫の『首』が、血走った眼でなおも生を主張し、最後の一撃と言わんばかりに単身、俺に向かって飛びかかってきたのだ…!

 

 グルメ界の猛獣の、あまりにも狂暴で異常な生命力…疲労困憊で指一本動かすのがやっとの俺の身体では、音速で迫る巨大なアゴを避けることなど、絶対に不可能だ…。

 

 (あぁ…ダメだ……死んだ……)

 

 二度目の死を覚悟し、俺はギュッと目を瞑った……しかし、いつまで経っても、鋭い牙に身体を喰いちぎられる肉体の激痛も、闇に落ちていく感覚もやってこない。静寂のなかで、ただ「ドスン」という、地響きのような短い質量音だけが鼓膜を揺らした。

 

 「……あれ?」

 

 ゆっくりと、恐る恐る目を開ける。そこにあったのは、王陸鮫の鋭い牙ではなく、漆黒の、世界そのものを踏み潰すかのような巨大な肉球――狼王ギネスの右脚だった。

 

 ブチ、リ…

 

 王の脚がほんの少しだけ踏み込まれる。それだけで、先ほどまで俺を絶望させた王陸鮫の頭部が、まるで熟しすぎた果実のように、粉々に圧殺されて吹き飛んだ。

 

 ギネスは俺を見下ろすこともせず、ただ退屈そうに鼻を鳴らした。だが、その圧倒的な背中からは「合格だ」という無言のメッセージが、確かに伝わってきた。

 

 「ウォォォォォォォンッ!!!!!」

 

 狼王ギネスが天を仰ぎ、世界を震わせるような咆哮を轟かせた。その遠吠えがグルメ界の重い空気を切り裂いた次の瞬間、何もない平原のはずだった周囲の空間から、音もなく、しかし圧倒的な質量を伴って漆黒の影がいくつも現れた。

 

 ギネスの直系であり、このエリア2を支配する最強の群れ――バトルウルフたちだ。その中には、ひときわ巨大で、顔面に荒々しい傷跡を持つ『隻眼の個体』の姿もあった。群れの紛れもないナンバー2だ。

 

 集まったバトルウルフたちは、地面に転がる王陸鮫の見事な死骸とカマ、そして三枚おろしにされた巨体を目にし、一様に感嘆の混じった気配を漂わせた。

 

 『……流石は我が王。地殻を泳ぐ王陸鮫を、これほど安々と、傷一つなく狩猟なさるとは……』

 

 彼らは主君の絶対的な武勇を称えようとした。だが、その賞賛の気配を感じ取った瞬間、狼王ギネスの瞳に獰猛な怒りの炎が灯る。

 

 『たわけが!』

 

 地平線が爆ぜるほどの凄まじい威圧感と共に、ギネスが群れの狼たちを鋭く一喝した。

 

 『お前たちは我が群れの戦士でありながら、誰がこの獲物を仕留めたかすら見分けがつかぬか、この愚か者めが!』

 

 王の想定外の憤怒に、バトルウルフたちが一瞬で静まり返り、耳を伏せる。しかし、王の意図を誰よりも深く理解している隻眼のNo.2は、すぐに王陸鮫の死骸の『切断面』に目を走らせ、すべてを察した。隻眼の狼は他の群れの仲間たちに向き直り、静かに、しかし厳格に事実を伝える。

 

 『……いや、王ではない。この王陸鮫を単身で仕留めたのは、そこにいるブルーニトロだ。この異常なまでの切断面を見ればわかるだろう。王の牙でも、我らの爪でもない。極小の穿孔からエネルギーを走らせ、ミクロン単位で肉を均し、驚くほど滑らかに両断した職人の技……これを成せるのは、このニトロしかいない』

 

 隻眼の個体の理路整然とした返しに、ギネスは「フン」と満足そうに鼻を鳴らした。己の手柄を掠め取るような真似を、誇り高き狼の王が許すはずがない。ギネスは群れの全個体を見据え、厳かに宣言した。

 

 『これより、このニトロを我が群れの一員に加える。――と同時に、お前たちに命じる。現時点において、お前たちは、この新入りよりも『力が劣っている』ということを、その胸に深く刻んでおけ』

 

 「資格」を証明した主人公への最高の評価であり、群れに対する絶対の命令。

 

……なのだが……

 

 (な、ななな、なんなの!? 急に全員でこっち見てるんだけど!? っていうかギネスが急にブチギレたの何で!? 俺なんか悪いことしたっ!? ひええええ……!!)

 

 当然、彼らの高度な意思疎通(狼の対話)なんて一切理解できない彼は、状況が読めずにただただ青い身体を小さく丸め、ビクビクと震え上がっていた。

 

 まさか自分が「群れで隻眼に次ぐ実力者」として公式に認定されたなど、露ほども思っていない。怯える新入りの様子などお構いなしに、ギネスは再び俺の背中の皮をその巨大な顎でガブッと咥え上げた。

 

 「ギャン!?(本日三度目の拉致ぃぃ!)」

 

 再びぶら下げられる俺。そして隻眼の個体を筆頭としたバトルウルフたちは、彼が芸術的に三枚におろした王陸鮫の巨体をそれぞれの顎で器用に持ち上げると、王の後に続くようにして、二狼の待つ彼らの根城へと凱旋の歩みを進めるのだった。




 次回、犬小屋建設の巻
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