土日は余裕あるから連日投稿出来るかも
あの『枯れない花の指輪』の大勝負から、さらに数年の歳月が流れた。 時間が経つのは本当に早いもので、あどけなかった次郎もすっかり体が逞しくなり、力強い若者へと成長しつつあった。
そしてそれと同時に――あいつにも、ついにやってきてしまったのだ。
いわゆる『反抗期』というやつが…あれほど素直で、俺の後を「二鳥兄ちゃん!」とくっついて歩いていた次郎が、最近では何を聞いても「別に」「関係ないだろ」と素っ気ない態度を取るようになり、ついにはアカシア様から与えられる日々の過酷な修行を、何の説明もなく無断で休むようになってしまったのだ。
ついでに髪型もリーゼントになった。
「――はぁ。次郎の奴、今日も来なかったな」
修行の合間の休憩時間、一龍兄さんが大岩に腰掛けながら、困ったように頭を掻いた。その顔には、弟の反抗期にどう接していいか分からない長男特有の戸惑いが滲み出ている。
「本当にね。ここ数日、ずっと無断欠席だし……。アカシア様も特に何も言わないから、余計に心配だよ」
俺はコートの襟を少し触りながら、帽子の下で溜息をついた。この数年で、俺はアカシア様の訓練を完全に修め、大工としての精密な戦闘技術を完成させている。実力はすでに、グルメ界の猛獣ならば相手にならない程だ。
だけど、そんな俺でも、実の弟の反抗期をどうにかする技術だけは持ち合わせていなかった。
「なぁ二鳥。お前、あいつの兄貴分なんだからさ、ちょっと様子を見てきてくれないか? 俺が言っても『一龍兄ちゃんには関係ねえよ』って突っぱねられちまってさ。お前なら、ほら、俺よりお前の方が次郎に懐かれてるだろ?」
「うーん、俺が言っても聞いてくれるかどうか……。でも、放っておくわけにもいかないしね。分かったよ、一龍兄さん。今日の修行が終わったら、ちょっと次郎を探してみるよ」
一龍兄さんと約束を交わし、俺はその日の残りの訓練を地道にこなした。そして夕方。 俺は次郎の気配を五感で追いながら、グルメ界の荒野を歩いていた。あいつが修行をサボって一体どこで何をしているのか……。
もしかして、あの節乃ちゃんと何かあったのだろうか、それとも、他に何か悩んでいるのだろうか。あいつの兄として、悩みがあるなら解決してやりたいな。
「……見つけた」
遠くの岩陰に、一人で座り込んでいる次郎の背中を見つけ、俺は帽子の端を少し指で押し上げた。 反抗期の真っ只中にいる不器用な弟を前に、俺は優しい兄貴分の笑顔を浮かべながら、静かに歩み寄るのだった。
しかし…近づくにつれて、俺の耳には次郎がのんびりとあくびをしながら、とんでもなく気の抜けた独り言を呟いているのが聞こえてきた。
「あーあ、修行面倒くせぇなぁ……。アカシア先生のシゴキも一龍兄ちゃんの説教も、最近マジでキツいんだよな。それより、また節っちゃんとデートでもしようかな。あいつの作ってくれる飯、美味いしなぁ……」
――ピキ…
その瞬間、俺の頭の中で、大工が柱をへし折った時のような、決定的な怒りの音が響いた。気の迷いだとか、壁にぶつかったとか、そんな殊勝な悩みでは断じてなかった。ただの怠慢だ。
しかも、大事な修行をサボる言い訳に、あの純粋な節乃ちゃんとの逢瀬をだしに使っている…!
一龍兄さんがどれだけ心配していたか。アカシア様がどれだけ次郎の才能を信じて目を瞑ってくれていたか。そして何より、俺が、カカさんとの温かい我が家を守るために、どれほどの『執念』を抱いて血を吐くような訓練を耐え抜いてきたか。
その横で、このふざけた弟分は「面倒くさい」の一言でサボっていたのだ。 俺の中の冷静な理性が、一瞬でドス黒い、凄まじい『怒り』へと変貌する。
「……次郎」
「げっ、二鳥兄ちゃ――」
次郎がガタッと肩を揺らして振り返った瞬間、次郎はとんでもないものを見たように叫び声を上げた。
「ひゃ、ひゃあぁぁぁぁぁっ!?」
戦場では無敵の未来のノッキングマスターが、見たこともないほど顔を真っ青にして腰を抜かした。この数年、アカシア様の元で修行をし、敵を確実に一撃で『解体』できるその牙が、初めて身内へと向けられたのだ。
「お前……今、なんて言った?」
「あ、いや、その、俺はただ……っ」
「修行が面倒くさい、だと……?」
俺は帽子の端を指で静かにツンと押し下げた。その影に隠れた俺の瞳は、かつて真似菌をすり潰した時以上に、冷徹で容赦のないドス黒い光を放っている。
「一龍兄さんがお前をどれだけ心配して、俺に頭を下げて様子を見てきてくれって頼んだか分かってんのか? アカシア様やフローゼ様が、お前のためにどれだけ心を砕いてくれてると思ってんだ。それを面倒くさい?デートがしたいだと?」
俺は一歩、次郎へと歩み寄る。その足が地面を踏みしめるたびに、ズズズ……と地鳴りが響き、圧倒的な重力が次郎の身体を地面へと圧し折っていく。
「恋愛に段階を踏めと言ったのは、お前自身の誠実さを育てるためだ。サボるための免罪符にするためじゃない。……次郎。お前、未来のノッキングマスターの自覚が足りてないみたいだな。だったら、そのひん曲がった根性ごと、俺がこの手で完璧に『解体』して、土台から叩き直してやるよ…」
「ま、待って二鳥兄ちゃん! マジで死ぬ! 今の兄ちゃんのパンチ食らったら、俺の細胞ごと完全消滅するってえええええ!!」
涙目で這いつくばりながら必死に逃げようとする次郎。普段は温厚で家族想いの「二鳥兄ちゃん」が、家族の絆を汚されたことで、人生最大級のブチギレ大魔神と化していた。
だが…俺は拳に宿らせていたグルメ細胞の膨大なエネルギーを一瞬で完全に霧散させた。
ドス黒い殺気が消え、静寂を取り戻した荒野で、俺は這いつくばったままガタガタと震えている次郎を冷徹に見下ろした。
「……この場では何もしないでおいてやる」
低く、地を這うような俺の声に次郎がビクッと肩を跳ね上げる。
「ただし、明日の修行には必ず来い――いいな?」
有無を言わせない命令の響き。そして絶対的な威圧感。次郎は完全に恐怖に呑まれた顔で、言葉にもならずにただ何度もコクコクと激しく首を縦に振った。
それだけを告げると、俺はコートの裾を翻し、一言も交わさずにその場を去った。 向かう先は、一龍兄さんとアカシア様が待つ修行場所だ。
あの甘ったれた弟分をこのまま生温く放置しておくわけにはいかない。あいつの「修行面倒くせぇ、節乃ちゃんとデートしようかな」などというふざけきった発言を、一刻も早く一龍兄さんとアカシア様に共有するため、俺はグルメ界の荒野を爆走した。
研究所の前に到着すると、一龍兄さんが心配そうな顔で腕を組んで待っていた。その奥からは、アカシア様も静かに俺の様子を窺っている。
「おう、二鳥! 次郎は見つかったか? あいつ、何か深刻な悩みでも抱えてたのかよ……」
長男らしく心から弟を案じる一龍兄さんの言葉に、俺は帽子を脱いでちゃぶ台の横に置き、冷ややかな笑みを浮かべた。
「ええ、見つかりましたよ、一龍兄さん。……深刻な悩みどころか、あいつ、とんでもないことをぬかしてました」
「え? とんでもないことって、何だ?」
不思議そうに首を傾げる一龍兄さんと、静かに耳を傾けるアカシア様に向けて、俺は次郎の発言をそのまま一言一句違わずにぶちまけた。
「『あーあ、修行面倒くせぇなぁ。アカシア先生のシゴキも一龍兄ちゃんの説教も、最近マジでキツいんだよな。それより、また節っちゃんとデートでもしようかな。あいつの作ってくれる飯、美味いしなぁ……』――だそうですよ」
「……は?」
一龍兄さんの顔から、一切の表情が消え失せた。 あんなに優しく「様子を見てきてくれ」と頭を下げていた兄の顔が、みるみるうちに鬼の形相へと変わっていく。額には青筋が浮かび、怒りのあまりその巨体が小刻みに震え始めていた。
「……あの、クソガキが……ッ!!」
一龍兄さんの背後から、グルメ細胞の凄まじい覇気が大気へと吹き出す。 遠くで聞いていたアカシア様までもが、いつもならクスクスと笑うところを、今回ばかりは完全に目が笑っていない笑顔を浮かべ、静かに「ほう……」と呟いた。
「なるほど、私のシゴキが面倒くさい、か。次郎は随分と頼もしく育ったようだね。……一龍、二鳥。明日の修行は、私が直接、あの子のために『特別メニュー』を組んであげよう。君たち兄弟も、全力で手伝ってくれるかい?」
「「もちろんです」」
俺たちがどれだけの死線を越えてきたか、明日、あの不器用な弟分に身を以て分からせてやる。
「よし、じゃあ俺は一度新居へ帰って、カカさんの美味い飯を食って明日に備えますよ。明日が楽しみですね、一龍兄さん」
「ああ、明日が待ち遠しくて仕方がねえよ、二鳥」
俺はコートの襟を引き締め、一龍兄さんとアカシア様の燃え盛るような怒りの気配を背に受けながら、不敵な笑みを浮かべて、世界で一番温かい我が家への帰路へと走り出すのだった。明日の、次郎の根性を土台から叩き直す「愛の鞭地獄」を見据えながら。
◆
翌日
集合場所であるアカシア様の研究所に、次郎は一応、約束通りにやってきた。
昨日の俺のブチギレっぷりがよほど骨身に染みたのか、顔を少し青く引きつらせ、俺や一龍兄さんと絶対に目を合わせないようにしながら、神妙な面持ちで立っている。
「……おはよう、次郎。ちゃんと来たな」
俺がいつも通りに声をかけると、次郎はビクッと肩を跳ね上げて「お、おはよう、二鳥兄ちゃん……」と蚊の鳴くような声で応えた。 その横では、一龍兄さんが腕を組んで、般若のような恐ろしい笑みを浮かべて待機している。
そして、そんな俺たち兄弟の前に、アカシア様が不敵な、だけどどこか楽しげな笑顔を浮かべて現れた。その手には、昨日宣言していた次郎のための『特別メニュー』の要項が握られている。
「よく来たね、次郎。昨日は私の修行が『面倒くさい』と言っていたようだからね。今日は君のモチベーションが最高潮に達するような、特別な環境を用意させてもらったよ」
「えっ……? と、特別メニューって、何ですかアカシア先生……?」
嫌な予感を察した次郎が、ゴクリと唾を飲み込んで一歩後退りする。 そんな次郎の背後、研究所の扉が静かに開き――そこからひょっこりと姿を現したのは、見間違えるはずもない、ピンクの髪色の女の子だった。
「あ、次郎ちゃん おはよう! 今日はアカシア様にお手伝いを頼まれて、修行の見学に来たんだよ!」
原始人さながらの衣装を纏った、次郎の最愛の想い人――節乃ちゃんが、無邪気な笑顔で手を振っていた。
「ひゃ、ひゃあぁぁぁぁぁっ!? せ、節っちゃん!?」
次郎はまるで、地球がひっくり返ったかのような驚愕の声を上げ、飛び上がった。そう、アカシア様が持ってきた『特別メニュー』とは、他でもない。次郎の想い人である節乃ちゃんの目の前で、一切の妥協が許されない地獄の修行をするという、あまりにも精神的に過酷すぎる公開処刑の試練だったのだ。
「カッコいいところを彼女に見せたいだろう? だったら、無様な姿は見せられないなあ、次郎」
一龍兄さんが、隣でボソリと悪魔のような声を囁く。
「修行面倒くせぇなんて言ってる余裕、もう一秒もないよな? ほら、気合入れろよ次郎。節乃ちゃんが、お前の『漢』としての本物のノッキング、特等席でじっと見てるぞ」
俺もコートの裾を翻し、完璧に研ぎ澄まされたブルーニトロの出力を僅かに解放しながら、意地悪くニヤリと笑ってみせた。
「あ、あのね次郎! あたし、次郎のノッキングしてるところ、すっごく格好いいと思ってたから、今日とっても楽しみにしてるね!」
節乃ちゃんのその純粋で熱烈な応援の言葉が、次郎にとって最大のエネルギーであり、同時に最強のプレッシャーとなって突き刺さる。もうサボるだの、デートに行くだのといった甘ったれた雑念は、あいつの脳内から一瞬で完全に消し飛んでいた。
「わ、わかったよ……ッ! やる、俺やるよ!! 節っちゃん、俺の最高にカッコいいノッキング、絶対に見といてくれよなーーーっ!!」
恥ずかしさとプライドが限界突破した次郎は、涙目で叫びながら、グルメ界の猛獣たちに向かって弾かれたように飛び出していった。 その背中を見送りながら、俺と一龍兄さん、そしてアカシア様は、今日一番のイキイキとした笑顔で、弟の根性を土台から叩き直す「愛の特別指導」を開始するのだった。
あ〜…書きたくねぇ…戦闘シーンは書きたくねぇ…
皆さんはどっちだと思います?二鳥は…
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攻め?
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受け?