悶絶しながら激痛に呻く次郎を、俺と一龍兄さんで両脇から抱え、「よいしょ、よいしょ」と居間の中へと運び込んだ。
テーブルの横に次郎をそっと横たわらせても、俺たち三人の笑いは一向に止まらない。一龍兄さんは腹を抱えてゲラゲラと笑い転げ、三虎もフンスと満足げに鼻を鳴らしながら、これまでにないほど楽しそうな、いたずらっ子らしい最高の笑みを浮かべていた。
そんな俺たちの様子を見て、台所からお皿を運んできたフローゼ様が、腰に手を当てて一龍兄さんと俺の前に立った。
「ちょっと、一龍、二鳥。いくら喧嘩の仲裁だからって弟にあんな大人気ない罠を仕掛けて……お兄ちゃんとして、あまり感心しないわよ?」
「「す、すみません、フローゼ様……っ」」
有難いお説教に、俺と一龍兄さんは慌てて背筋を正した……が、よく見ると、お説教をしているフローゼ様自身の肩がプルプルと激しく震えている。
次郎の白目を剥いたあまりの情けない悶絶っぷりと、三虎の見事なキックの精度がツボに入ってしまったのだろう。フローゼ様は口元を手で覆いながら、笑いを堪えるのに必死な様子だった。
すると、テーブルの奥に座っていたアカシア様が、ゴホンと一つ大きく咳払いをして口を開いた。
「……まぁ、次郎の多大なる『犠牲』ありきではあるがね。二鳥の機転のおかげで、新しく来た三虎がこれほど早く一龍たちと打ち解け、笑顔を見せてくれたのは……間違いなく、とても良いことだよ…うん…」
そう言って俺の作戦を肯定してくれたアカシア様だったが、その表情はいつもの穏やかな美食神のものとは一線を画していた。
アカシア様は、未だに床の上で股間を押さえて「う、うぅ……っ、二鳥兄ちゃん、一龍兄ちゃん、マジで……許さねぇ……っ」と震えている次郎の姿を見つめながら、その端正な顔をピキキ……と珍しく激しく引きつらせていたのだ。
後に美食神となる男であっても、こればかりは例外だった。男にしか絶対に分からない、あの魂の奥底まで突き刺さるような「鈍い破壊の痛み」を脳裏で想像してしまい、アカシア様も無意識のうちに自分の股間をほんの少しだけ庇うように身を縮めていた。
「あはは、すみませんアカシア様。でも、これで我が家の四兄弟の絆は、完璧に強固なものとして築かれましたからね!」
俺は笑いながら床の次郎の背中をポンポンと叩いてやった。
「ほら次郎、いつまでも倒れてないで、早く飯を食おう。三虎も、もっと食べろよ!」
「……うん、ニトリ。俺、もっと食べる」
三虎は嬉しそうに頷くと、再びフローゼ様の料理へとがむしゃらに食らいつき始めた。
床の上で丸まって震えている次郎の様子をじっと見つめていたアカシア様は、やがてピキキ……という顔の引きつりをどうにか収めると、やれやれと肩をすくめた。
「……うむ。次郎がこの様子では、今日の過酷な訓練は流石に無理だね。今日の修行は中止としよう。次郎、しっかり安静にしているんだよ」
「う、うぅ……っ。ありがとうございます、アカシア先生ぇ……っ」
涙目で股間を押さえる次郎をその場に残し、今日の予定は急遽真っ白になった。 俺は傍らに置いていたシルクハットを手に取り、コートの裾を軽く払いながら腕を組んだ。
「修行が中止になっちゃったしどうしようかなぁ……。よし、それじゃあ俺は、人里へ行ってカカさんへのお土産でも買いに行こうかな」
我が家で「わぁ…!ありがとうございます二鳥さん!」と笑ってくれる愛しいカカさんの顔を思い浮かべていると、台所からフローゼ様が嬉しそうに顔を覗かせた。
「あら、街へ買い物に行くの? 二鳥、実は私も食材や日用品を買いに行きたかったのよ。もしよかったら、荷物持ちとして一緒についてきてくれないかしら?」
「ええ、もちろん良いですよ、フローゼ様!」
フローゼ様からの直々の頼みだ、怪力を持つ俺にとって、荷物持ちなんてお安い御用だった。すると、横でゲラゲラ笑っていた一龍兄さんもすかさず手を挙げた。
「おう、それなら俺もついていくぜ! 留守番して次郎の恨み言を聞くより、街をぶらついた方が楽しそうだからな!」
そうして行き先が決まったところで、俺はテーブルの横で静かに座っている新しい弟分へと視線を向けた。
「三虎はどうする? 一緒に行くかい?」
「――っ」
俺の問いかけに、三虎はビクッと小さな身体を強張らせた。…無理もないか…生まれた瞬間から人間たちにゴミのように扱われ、殺意しか向けられてこなかった三虎だ。その瞳の奥には、今でも『人間たちの住む世界』への激しい恐怖と憎しみが渦巻いているのだろう。
小さな拳を握り締めながらブルブルと震えていた様子を見たフローゼ様は、何とも痛ましそうに目を細めると、三虎に寄り添うように優しく微笑みかけた。
「三虎、怖いことや、嫌なことは、何一つ無理をしなくていいのよ? ここでアカシアと一緒に、のんびりとお留守番していても――」
「……いく」
「え?」
フローゼ様の優しい気遣いを遮るように、三虎はカサカサに乾いた喉から、掠れた声をはっきりと絞り出した。恐怖に手足を震わせ、顔を真っ白にしながらも、彼は真っ直ぐに俺を見つめていた。
人間は怖い。街に行くのも恐ろしい。だけど……それ以上に俺から離れることの方が、今の三虎にとってはもっと怖かったらしい。
「三虎……」
俺は一瞬だけ驚いて目を丸くしたが、すぐに愛おしそうな満面の笑顔を浮かべた。
「そっか。ついてきてくれるか。よし、それじゃあ……三虎が少しでも怖い思いをしないように、こうして行こうな」
俺はその場に優しくしゃがみ込むと、左手をそっと差し出し、三虎の小さくて震える手を大きな手掌で包み込むようにギュッと優しく繋いだ。
温もりに、三虎の繋いだ手の震えが、少しずつ、だけど完璧に収まっていく。
「おいおい二鳥、お前は相変わらず弟に甘いなぁ」
その光景を特等席で見つめていた一龍兄さんが、ニヤニヤと笑いながら俺の肩をポンと叩いた。フローゼ様もまた慈愛の笑みを浮かべて目を細める。
「ふふ、でも、しっかりとお兄ちゃんをしていて本当に良いわね、二鳥は。とっても頼もしいわ」
「う、うぅ……っ。そんなことより、俺を置いて、みんなで、のんきに買い物かよ……っ。二鳥兄ちゃんも、一龍兄ちゃんも……マジで絶対に許さねえ……っ…!」
玄関へと歩き出す俺たちの背中に向かって、床の上でカチコチに悶絶している次郎からの哀れな恨み節が響き渡るが、俺たちは笑いながら引き戸を開けて外へと足を踏み出した。
眩しい朝の光が降り注ぐ荒野。俺の左手を一生懸命にぎゅっと握り締め、コートの裾に隠れるようにして一歩ずつ歩く三虎は、繋いだ手の温もりを確かめるように俺を見上げ、掠れた声をぽつりと響かせた。
「……二鳥の、兄者……」
「ん? どうした、三虎?」
「……ううん。なんでも、ない」
そう言って、三虎は少し照れくさそうに、だけど世界で一番安心したような最高の笑顔を浮かべて俺に寄り添ってきた。
『二鳥の兄者』――そう呼ばれた瞬間、俺の腹の底にある『お兄ちゃん魂』は、この不器用で愛おしい弟を、生涯をかけて絶対に守り抜くという強固な誓いへと変わっていた。
そのうち『どけぇ!俺はお兄ちゃんだぞ!』とかやり出すかもしれない。…なんだろう、知らないはずなのになんかネタにされてそうなフレーズだな…。
まあいい。この先どんな世界の激動が訪れようとも完璧に、絶対に守り抜いてみせると、俺は弟の小さな手をしっかりと繋ぎ直し、賑やかな家族と共に、人里への道を足取り軽く歩み出すのだった。
◆
人里の賑やかな街に到着すると、色とりどりの露店や飛び交う活気ある声が、俺たちを出迎えてくれた。
「それじゃあ二鳥、私たちは食材を探しに、あっちの専門市場の方へ行ってくるわね」
「おう、俺もフローゼ様についていくぜ。重い食材の荷物持ちは長男の役目だからな!」
フローゼ様と一龍兄さんはそう言うと、手を振りながら賑やかな食材コーナーの方へと歩いていった。俺はコートの裾を軽く整えながら、二人を見送る。
「よし、それじゃあ俺たちも買い物を始めようか。三虎、用事が終わったらあっちの食材コーナーで合流する約束だからね」
「……うん、兄者」
三虎は周囲の「人間」の多さに、相変わらずコートの裾をぎゅっと握りしめて、俺の背後に隠れるように小さくなっていた。だけど、俺がその繋いだ左手にそっと力を込めると、安心したようにコクコクと頷いてくれた。
俺は三虎を優しく促しながら、カカさんに新しく贈る普段着や、家に飾るちょっとした小物を探すために、賑やかな服屋や雑貨屋の並びを物色し始めた。
「あら! もしかして、二鳥さんじゃないの!」
少し離れたところから、嬉しそうな、聞き覚えのある高い声が響いた。 振り返ると、そこには以前俺が個人で請け負った大工仕事で、自宅の劇的な改築を行ってあげた人里のおばさまが立っていた。
「やっぱり二鳥さんだわ! いやだ、こんなところで会えるなんて偶然ね!」
「お久しぶりです。お元気そうで何よりです」
俺がシルクハットの端を指でツンと押し上げながら、いつものように挨拶すると、おばさまは我がことのように両手を叩いて弾んだ声を上げた。
「元気も何も、二鳥さんのおかげで毎日が本当に最高よ! あの改築をして頂いてからというもの、家の中が劇的に住みやすくなって家族みんな大喜びなの! それにね、大工の超技術って言うのかしら、あの家になってから不快な虫がただの一匹も出なくなったのよ! 本当に感謝してるわ!」
「あはは!喜んでもらえて良かったです。構造の補強ついでに、虫の侵入経路を完全に解体してシャットアウトしておきましたからね。良い結果が出て何よりです」
返事をしながら、俺はおばさまとの何気ない世間話を穏やかに楽しんでいた。ブルーニトロの怪物としての肉体を持ちながら、こうして人間の生活に溶け込み、職人として誰かに感謝される。この何気ない日常の温かさが俺の心を深く満たしてくれる…
すると、おばさまがふと、俺のコートの陰を覗き込むようにして、不思議そうに目を丸くした。
「あら? ……ところで二鳥さん、そちらの足元に隠れている、可愛い男の子はどなたかしら?」
おばさまの視線に気づいた三虎は、ビクッと身体を強張らせ、さらに俺の背後へと深く身を隠そうとした。上下に走る三本の傷跡を隠すように、繋いだ俺の手をぎゅーっと千切れんばかりの力で握りしめてくる。
俺はそんな三虎を安心させるように、その小さな頭を大きな手掌で優しく撫でながら、おばさまに向けて迷いのない、誇らしげな満面の笑顔を浮かべた。
「ああ、この子ですか? ――俺の、弟です」
「あらぁ! 弟さんだったの! ……でも、なんだか二鳥さんとは雰囲気が全く似ていないわねぇ?」
おばさまが素直な疑問を口にする。ブルーニトロである俺と、人間である三虎。見た目と雰囲気が全く似ていないのは当然のことだった。
「ええ、血は繋がっていませんからね。……だけど、そんなの関係ありませんよ。血が繋がっていなくたって、こいつは俺の世界で一番大事な弟です」
「――っ!」
俺のその一切の揺らぎのない想いがこもった言葉を聞いた瞬間、三虎はハッと息を呑み、その大きな瞳を限界まで見開いた。 血の繋がりなんていう不確かなものは、俺たちの前には何の意味もなさない。
お互いを大切に想うその心こそが、絶対に壊れない最強の家族愛というものなのだ。おばさまは俺の言葉の熱量に少し驚いたようだったが、すぐに「まぁ、素敵な兄弟ねぇ」と、本当に温かい笑顔を浮かべて目を細め、そして自分の買い物袋から小さな紙包みを取り出した。
「はい、可愛い弟さん。これ、さっきそこで買ったばかりのクッキーなんだけど、良かったら食べてちょうだい」
「――っ」
三虎はビクッと身体を強張らせ、俺のコートの陰からじっとおばさまの手元を見つめた。殺意や暴力ではなく、ただ親愛の印として差し出される、甘い焼き菓子の施し。
三虎は酷く気恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、繋いでいない方の手でおずおずとそれを受け取った。
「ふふ、良いお返事ね。……あ、そうだ二鳥さん。また今度、家の家具の買い替えや修繕の依頼をしたいのだけれど、受けてもらうことは可能かしら?」
「ええ、もちろん可能ですよ。俺の
俺が笑顔で対応すると、おばさまは「良かったわ!」と満足そうに笑った。
「助かるわ。それじゃあ次に来てくれるときは、お金、たっぷり弾んどくわよ! じゃあね、二鳥さん、可愛い弟さん!」
おばさまは元気に手を振って、賑やかな人混みの中へと去っていった。それを見送った後、三虎は受け取ったクッキーの包みをじっと見つめ、それから不思議そうに俺の顔を見上げて、ずっと胸に引っかかっていた疑問を掠れた声で口にした。
「……二鳥の兄者。何故……兄者は鳥の怪物の見た目をしているのに、あんなに普通に受け入れられているのだ……? 俺のいた場所では、同じ人間同士ですら、手を取り合うことなんてできなかった。なのに、何故……」
世界のすべてが敵だった三虎には、異形の怪物が人間に深く感謝され、笑顔を向けられている光景が、どうしても理解できなかったのだろう。
俺は繋いだ三虎の手を優しく握り直し、歩きながら穏やかに語りかけた。
「あはは、不思議かい? 答えは簡単だよ。俺がこの街に姿を見せるようになってから、もうかれこれ10年以上の歳月が経っているからな。ここにいる人たちとは、大体みんな昔からの顔見知りなんだよ」
「10年……」
「それに、姿に関して言えばさ、人間たちの目には俺が『鳥の怪物』には見えていないのさ」
俺は自分の頭に被っている、長年愛用してきた黒いシルクハットをトントンと指先で叩いてみせた。
「このシルクハットの絶妙な陰影のお陰でさ、人間から見れば、俺はただの不気味な『ペストマスク』をつけた大工にしか見えないんだよ。それに、この厚手のコートの裏に尻尾を完璧に隠してしまえば、シルエットだってただの、ちょっと背が高くて大柄な男にしか見えないのさ。大工仕事の腕が良いから、多少の不気味さはみんな『風変わりな職人』ってことで、笑って受け入れてくれてるんだ」
アカシア様のお陰で俺は人里に顔を出せるようになった。それに俺はとても感謝している。今となってはこのシルクハットとコートが俺の体の一部と言ってもいいほど愛用しているくらいだ。
「……なるほど。兄者は、本当に凄いな……」
三虎は先ほどおばさまから貰ったクッキーを一口噛み締め、その『温かくて甘い』味に驚きながらも、俺のことを本当に誇らしそうに、眩しそうに見つめてくるのだった。
俺は小さな手の中にあったクッキーを噛み締めている三虎を見つめながら、俺は優しくその頭を撫でた。そして、これから新しい世界を生きていく弟のために、大工として、一人の兄として、最も伝えたかった大切なことを教えることにした。
「三虎。それにね……見た目の誤魔化しなんてことより、この街の人たちに受け入れてもらうのに、一番大事なことがあるんだ」
「一番、大事なこと……?」
三虎が大きな瞳をパチクリとさせながら、俺のコートを見上げてくる。俺は三虎の目をみてはっきりと、真剣に言葉を紡いだ。
「それはな――自分から、誰かに【手を差し伸べること】だよ」
「……手を、差し伸べる……?」
奪うことしか知らなかった三虎には、その言葉の本当の意味がまだピンときていないようだった。俺は繋いだ三虎の小さな手に少しだけ温もりを込めて、この10年以上の間に俺が人里で積み上げてきた『職人としての実績』を静かに語りかけた。
「そうさ。俺はこれまで、この街でたくさんの工事をしてきたんだよ。天災で崩れてしまった家の改築、家族が増えた家への増築。古くなった危険な建物の解体だけじゃない。街で大きな事件や事故が起きて、怪我人が出たときには真っ先に向かって傷の手当てだってしてきた」
俺は個人で人里へ誠実に尽くし続けてきたことを教え、そして三虎に一番伝えたいことを伝えた。
「誰かから力任せに奪うだけじゃ、周りには敵しか残らない。だけど、誰かが困っているときに真っ先に手を差し伸べて、たくさんの貢献をして、お互いの信頼という最高の土台を築き上げれば……どんなに不気味な見た目をしていたって、世界はこうして、笑顔で俺を受け入れてくれるようになるんだよ」
「――っ」
三虎はハッと息を呑んだ。 かつて自分が泥を啜り、砂を食べていた過酷な荒野。そこでは確かに、奪わなければ死ぬしかなかった。だけど、目の前にいる『二鳥の兄者』は、奪うどころか、自分を犠牲にするようにして誰かのために手を差し伸べ続け、その結果として、この暖かな笑顔に満ちた世界を土台から完璧に作り上げていたのだ。
「……手を、差し伸べる……」
三虎は俺の言葉を深く胸に刻み込むように何度も呟き、自分の小さな左手――二鳥の大きな手掌に優しく包まれているその手を、愛おしそうにきゅっと握り返してきた。
「さあ三虎、カカさんへのお土産を選んだら、一龍兄さんたちと約束した食材コーナーへ向かおうか。今夜は三虎の、最高に美味いお祝いの夜だからね」
「うん、兄者。俺、もっと色んなことを、兄者から教わりたい……!」
俺は弟の小さな手をしっかりと繋ぎ直し、世界で一番大好きな我が家で待つ最愛の妻の笑顔を想いながら、賑やかな街の雑踏を、これ以上ない幸福な気持ちで一歩一歩、力強く歩み進めていくのだった。
◆
おばさまと別れた俺たちは、そのまま人里で一番大きな服屋へと足を運んだ。
「うーん、これもカカさんにはちょっと派手すぎるかな……。こっちの生地は少し硬そうだし……」
店内にずらりと並ぶ婦人服を前に、俺はコートの袖を少し引きながら、あれこれと物色していた。しかし、職人としてのこだわりが邪魔をするのか、どれを見てもいまいちピンとこない。
せっかく贈るなら、カカさんのあの美しいストレートヘアや、しっとりとした雰囲気に完璧に調和する最高のものを選びたいのに、完全に迷子になっていた。
すると、俺のすぐ隣で、繋いだ左手とは反対の右手で、三虎がじっと棚を見つめながら何かを探し始めた。スープを作ってくれたカカさんのために、似合うものを物色してくれているのだ。やがて、三虎がクイ、クイと、俺のコートの袖を少し遠慮がちに引っ張った。
「……二鳥の兄者。あの、棚の上にあるのとか……どうだろうか?」
三虎が小さな指先で指さした場所を、俺は見つめた。そこにあったのは、服ではなく、木製の小さな箱に収められた綺麗な髪留めだった。
華美な装飾や目立つ宝石などは一切あしらわれていない。だが、磨き抜かれた深い色合いの木材と、洗練された流れるような曲線だけで構成されたその一品は、無駄がないからこそ、身につける者本来の『髪の美しさ』を極限まで強調させる、まさに職人好みの逸品だった。
「――っ、これは……素晴らしいな!」
俺は思わず目を見張り、その髪留めを手に取ると、隣にいる三虎を心の底から絶賛した。
「すごいぞ、三虎! お前、次郎よりも遥かにプレゼント選びのセンスがあるぞ! これならカカさんの綺麗なストレートヘアに、完璧に、これ以上ないほど似合うよ!」
「……っ、じ、次郎より……? 良かった、兄者に喜んでもらえて……」
次郎を引き合いに出して大絶賛すると、三虎は少し気恥ずかしそうに頬を赤くしながらも、俺の役に立てたことが本当に嬉しいようで、繋いだ左手から伝わってくる体温を少しだけ熱くした。
「よし、この髪留めは三虎が見つけてくれたカカさんへの最高のお土産だ。絶対に買おう。……それから、これに合わせるなら……うん、このシンプルな黒のトップスとボトムスも一緒に頂こうか」
俺はカカさんが気に入ってくれているあの黒いワンピースの予備としても使えるよう、上質な生地で仕立てられた黒のセットアップを併せて購入することにした。
カカさんの美しさを際立たせる最高の組み合わせが、新しく弟になった三虎のおかげで、より完璧な構造として完成したのだ。
「さあ三虎、カカさんへの最高のプレゼントも買えたことだし、一龍兄さんたちと約束した食材コーナーへ向かおう。カカさんの喜ぶ顔が楽しみだな…!」
「うん、兄者。俺、カカの驚く顔が……少し、楽しみだ」
俺は三虎の小さな手をしっかりと繋ぎ直し、包みを大事に抱えながら、約束の場所へと足取り軽く歩み進めていくのだった。
戦争が続いているのに何故街に活気があるのか?答えは一つ、二鳥のお陰である。
その証拠におばさまが言っていた『不快な虫』とは勿論害虫も含まれてますが…虫というのは…人間のことです……三虎みたいな…ね?
皆さんはどっちだと思います?二鳥は…
-
攻め?
-
受け?