三虎が小さな菜園に種を植えてから、さらに1週間が経過した頃。ふかふかの土から顔を出したじゃがいもの青い芽は、三虎の毎日の丁寧な水やりとカカさんの農業座学のお陰で、ぐんぐんと力強く成長を続けていた。
そんなある日の午後、「よお、三虎の畑の進み具合はどうだ?」と、一龍兄さんと次郎、そして今回は珍しく節乃ちゃんの3人が揃って様子を見にやってきた。
「一龍の兄者! よく来てくれた!」
三虎は一龍兄さんの姿を見つけると、それまでの仏頂面を一瞬で消し去り、パァッと嬉しそうな笑顔を弾けさせて大喜びで歓迎した。そして、次にその隣に立つリーゼントの方を向く。次郎はニヤニヤと鼻を鳴らしながら、横にいるピンクの髪の女の子の肩をそっと抱き寄せた。
「へへん、三虎! 今日は俺の自慢の好きな子、節っちゃんを連れてきてやったぞ!」
「はじめまして、三虎くん! よろしくねぇ」
節乃ちゃんが未来のコンビらしい無邪気な満面の笑顔を三虎に向ける――だが、その瞬間。節乃ちゃんの姿をじっと見つめた三虎の顔が、みるみるうちに茹でタコのように真っ赤に染まり上がった。
「――っ、な、なんだその、ハレンチな格好は……っ!?」
三虎はこれ以上ないほど限界まで大赤面し、恥ずかしさのあまり自分の目を手で覆い隠しながら、激しい声を張り上げて叫んだ。
「女のくせに、そんな原始人みたいな……! 腹や足が丸出しの、そんな恥ずかしい服を外で着るな、バカァーーーッ!!」
「あら! 三虎くん、顔を真っ赤にしちゃって可愛い〜!」
節乃ちゃんはキャッキャと大喜びし、怒る三虎の赤面っぷりをすっかりお気に入りのおもちゃのように愛おしそうに見つめた。すると、今度は次郎が顔を真っ赤にして身を乗り出し、大慌てで叫びをぶつけた。
「ああ!? なんだよ三虎、節っちゃんの悪口を言うなよ! いいだろう、この原始人風の衣装、ワイルドでめちゃくちゃ可愛いじゃねえか!!」
「次郎、お前は本当にデリカシーの欠陥が酷すぎる……っ!」
弟たちのそんな大騒ぎの叫び合いを、俺はクスりと笑いながら見つめていた。だが…
「…はは。それじゃあ節乃ちゃん、少しの間、三虎とここで遊んでてくれるかい? ――一龍兄さん、次郎。ちょっとこっちへおいでよ」
「ん? なんだよ、二鳥兄ちゃん?」
俺は二人の長男・次男を菜園の少し離れた木陰へと呼び寄せた。そして、次郎に向かって鋭く、厳しい眼光を向けて問い詰めた。
「次郎。お前、正式に節乃ちゃんとコンビを結ぶための特訓をしてるくせにさ……節乃ちゃんに、新しい『服(プレゼント)』とかを贈ったりはしないのか?」
「――っ!?」
俺の突発的な質問に、一龍兄さんもすかさず腕を組んでニヤニヤとした笑みを浮かべて横から加勢した。
「そうだぞ次郎? 恋人がいつもあんなお腹丸出しの原始人みたいな同じ服ってのは、お前、一人の男としてどうなんだ? 寂しいと思わねえのか?」
「だ、だってさぁ……っ!」
二人の兄貴分から同時にド直球の正論で詰め寄られ、次郎は顔を真っ赤にしてリーゼントをガシガシと激しく掻きむしりながら、ばつが悪そうに言い訳を口にした。
「節っちゃんにさ、前に『何か欲しいもんあるか?』って聞いたらさ……『あたしは次郎ちゃんが隣にいてくれりゃプレゼントなんて何もいらないよぉ』って、笑って言うんだもん……だから、いらないのかなって……」
その次郎のあまりにも不器用で、恋愛の構造を完全に履き違えた返答を聴いた瞬間、俺と一龍兄さんは、同時にこれ以上ないほど深い、哀れみに満ちた溜息を「はぁぁ……」と揃えて漏らし、完全に呆れ返っていた。
「あのなぁ、次郎……欲しい欲しくないなんていう表面上の言葉は一切関係ないんだよ」
俺はシルクハットの端を指でツンと押し下げながら、既婚者としての絶対的なプライドを込めて厳しく諭した。
「一番大事なのはさ、お前自身が『節乃ちゃんに何かを贈りたい、喜ばせたい』と思わないのか、ってことだよ。大好きな女の子が、今よりもっと綺麗になって、お前の前で最高の笑顔を浮かべてくれる姿を、一人の男として見たくはないのかい?」
「そうだぞ次郎。女の子の『いらない』を言葉通りに受け止めてんじゃねえよ」
一龍兄さんも深く頷く。
「俺がカカさんに贈った黒いワンピースや、今日だって三虎と一緒に人里の服屋で選んでるあの黒のセットアップだってさ……カカさんが『欲しい』なんて、事前にひと言も言ってないぞ? 俺がカカさんの美しさを極限まで引き出したいから、俺の独断で完璧に計算して贈って、毎回『これ以上ないほど綺麗だ』って大絶賛して大赤面させてるんだよ」
「そ、そこまで自信満々にノロケるなよ二鳥兄ちゃん……っ!」
次郎は俺の圧倒的なバカップルとしての無敵の惚気の前に、ガックリと激しく肩を落とし、完全に返す言葉を失って戦慄していた。
「ほら次郎、落ち込んでないでさ! 明日は既婚者の俺が人里の最高の仕立て屋まで完璧な『お買い物サポート』をしてあげるからさ。節乃ちゃんを世界一の美女にする最高の服、一緒に選びに行こうぜ!」
「う、うん……っ! ありがとう二鳥兄ちゃん! 俺、節っちゃんに絶対に最高の服をプレゼントしてやるんだからな……っ!」
「俺は戦力外かよ…」
「そりゃ…恋人居ないし…」
「グハッ…!」
「一龍兄さんは放っておいて戻るぞ次郎」
「俺を置いていくな…」
そんなこんなで俺と一龍兄さん、次郎の男三人が話を終えて三虎の菜園に戻ると、そこには信じられないくらいほんわかとする光景が広がっていた。
「しゃ、しゃぁぁぁーーーっ!!!」
「キーーーッ!! あたしたちのじゃがいもを荒らすやつは許さないんだからねぇ!」
なんと、節乃ちゃんと三虎が横一列に揃って、あの両手をバンザイのように大きく広げたレッサーパンダの可愛い威嚇をしながら、森から下りてきた害獣たちを一生懸命に追い払おうとしていたのだ。
はたから見れば、年の離れた姉と弟が一生懸命に背伸びをしているような、最高に微笑ましい姉弟の姿そのもので、見ていて本当に心が温かくなる。
…三虎がグルメ細胞の悪魔のオーラを纏っていなければ…いや、ギリ可愛いが勝つか。うん!俺の弟と弟の彼女は可愛い!よし!
ドタバタと可愛い威嚇で害獣を森の奥へ追い払い終えたところで、次郎がゴホンと一つ大きく咳払いをして、先ほど俺たちから受けた熱いお説教の成果を証明するように、節乃ちゃんの前へとバシッと踏み出した。
「節っちゃん! 明日、人里の一番大きな街へ、節っちゃんに一番似合う最高の服を買いに行こう! 俺が全部プレゼントしてやるからさ!」
「え……っ、次郎……っ」
いつもは「プレゼントなんていらないよ」と笑っていた節乃ちゃんだったが、次郎のその一切の迷いのないストレートで頼もしい誘いに、その頬をほんのりと赤らめながら、本当に嬉しそうに頷いてくれた。
「うん……っ! あたし、次郎と一緒に最高の服を選べるの、すっごく楽しみにしてるねぇ!」
コンビ結成前の若き二人の、なんとも初々しくて甘酸っぱい約束。お揃いの花の指輪が太陽に照らされてきらきらと輝くその光景を見ていた俺は一人の旦那様としての熱烈な『パッション』に猛烈に感化されてしまった。
「――よし! そういうことなら、俺だって負けてられないな!」
俺は研究所の中を駆け出し、台所で夕飯の仕込みをしてくれていた最愛の妻――カカさんの元へと弾かれたように突撃した。
「カカさん! 俺たちも明日人里の綺麗な街へ最高のデートに行こう! カカさんの美しさをさらに限界突破させるための新しい髪留めや化粧品を俺が全部エスコートしてあげるからさ!」
「はわ……っ!? ひゃ、はわわわわわわっ!?」
突然の俺からの情熱的でド直球なデートのお誘いに、カカさんは持っていたお玉を落としそうになりながら髪を激しく揺らし、一瞬にして顔をカッと限界まで真っ赤に染め上げた。
お揃いの指輪がはめられた自身の両手を胸元できゅっと握り締め、詳細すぎる長話すら完全にバグを起こしてシドロモドロになりながらも、彼女は嬉しそうに俯いて、その誘いを完璧に了承してくれた。
「二、二鳥さん……っ…突然の突発的なロマンチックデータの充填には、私の細胞のバイタルが全く追いつかないのですが…………はいっ! 味仙人の、そしてあなたの妻としての私のすべてを賭けて……喜んで、ご一緒させていただきます、二鳥さん……っ!」
恥ずかしがりながらも、俺の胸元へと嬉しそうにすり寄ってくる最愛の妻。
「三虎、 明日は兄者2人が最高のダブルデートが控えているからお留守番を頼めるか?」
「うん、任せろ兄者!アカシアの家は俺が守る!」
「留守番は俺もだがな…」
俺たちはどこまでも賑やかな笑い声と確かな幸福を夕暮れの空へと響かせながら、世界で一番温かい我が家の食卓へと、仲良く歩み進めていくのだった。
◆
翌日。 俺はお揃いの指輪をきらめかせながらカカさんと共にアカシア様の家へと向かった。玄関を開けると、そこには普段の原始人風の衣装ではなく、今日のために少しだけ背伸びをした格好の節乃ちゃんと、それを見てすでに顔を茹でタコのように赤くしている次郎が、今か今かと待ち侘びていた。
「お待たせ、二人とも! 準備はバッチリかい?」
「はい、二鳥さん! 人里の雑踏において私がレッドニトロだと見抜かれないよう完璧なカモフラージュは完了いたしました!」
カカさんはそう言うと、顔を完全に隠すためのお茶目なお面をふわりと被り、三虎の選んでくれた美しい木製の髪留めをきらめかせ、黒のセットアップの裾をフンスと強気に張ってみせた。
「よし! それじゃあさっそく、街へ最高のデートに行こう――」
俺たちが笑顔で玄関の引き戸に手をかけようとした、まさにその瞬間だった。
「――おやおや。待ちなさい、みんな」
「あらあら、まあまあ……」
廊下の奥から、いつもの穏やかなアカシア様とフローゼ様の二人が並んで歩み寄ってきて、俺たちの足止めをするように優しい「待った」をかけてきたのだ。
「あれ? アカシア様、フローゼ様。どうしたんですか?」
俺が首を傾げると、アカシア様とフローゼ様は顔を見合わせ、それから俺たち四人に向けて、本当に楽しそうな、だけどどこか照れくさそうな大爆弾の宣言を告げた。
「実はね、みんな……今日のそのダブルデート、私たち夫婦も一緒に行こうと思っているんだよ」
「「「「――ええええええええええっッ!?!?!?」」」」
居間全体を激しく揺るがすほどの、本日朝一番の驚愕の絶叫が完璧にハモって轟いた。 次郎はリーゼントを激しく揺らしてひっくり返りそうになり、節乃ちゃんもその大きな瞳をパチクリとさせて硬直している。
まさかのダブルデートから、世界の頂点に立つ師匠夫婦まで巻き込んだ、前代未聞の『トリプルデート』への急激なバージョンアップ…
「ははは……いやね、昨日君たちの瑞々しい恋の熱量を特等席で見せつけられたらさ……私だって、久しぶりに最愛のフローゼと人里へ行って、のんびりとデートをしたくなってしまってね」
あのアカシア様が、衣服の襟元を少し弄びながら、まるで初心な少年のように顔をほんのりと赤くして恥ずかしそうに本音を白状した…
「ふふふ。アカシアがこんなに自分から積極的に誘ってくれるなんて、一体いつぶりかしらねぇ。夕飯の食材選び以外で街を歩くなんて、わたしも本当に心が弾んでしまうわ」
フローゼ様はいつもの圧倒的な美しい笑顔を弾けさせ、少女のように嬉しそうにアカシア様の逞しい腕へとその細い手をそっと絡ませた。
「――っ、あはははは! そいつは最高じゃないか! アカシア先生とフローゼ様まで一緒なら、今日の人里のお買い物、絶対にめちゃくちゃに楽しくなるぜ!!」
次郎が最初に驚きから復活し、男としてのプライドを滾らせながら、これ以上ないほど楽しそうに豪快に笑い始めた。
「よし! それじゃあみんな、準備は完璧だね! カカさんの手を引いて、次郎と節乃ちゃんのお洋服選び、そしてアカシア様たちの最高の逢瀬をエスコートしに――世界一賑やかな『トリプルデート』、出発進行だ!!!」
次に俺が復活し、トリプルデートを進行するために声を上げた。
「それじゃあ一龍、三虎、留守番を頼むぞ。一龍、私がいない間、三虎にしっかりと飯を食べさせるんだぞ?」
アカシア様が俺たちの横で、玄関の引き戸に手をかけながら穏やかにそう告げた。その腕には、いつもより少しお洒落をしたフローゼ様が嬉しそうに寄り添っている。
その言葉を聴いた瞬間、俺と次郎はその場に取り残された独り身の長男、一龍兄さんの姿をこれ以上ないほどニヤニヤとした意地悪な顔で同時に一瞥した。
(……はは。カカさんと俺のデートに、次郎と節乃ちゃんのデートそこにアカシア様たちまで加わったんだ。そこに置いていかれる一龍兄さんの寂しさたるや…馬鹿じゃなくても容易に計算できちゃうね)
俺たち二人の弟分は、言葉にすれば一龍兄さんの巨大な怒りの拳骨を喰らうと本能で察したため、敢えて何も言わずにただニヤニヤとした視線だけを真っ直ぐに突き刺して無言の圧力をかけた。
「――フフッ、分かっておりますよ、アカシア様」
一龍兄さんは額にピキピキと激しい青筋を何本も浮かべながら、それでも長男としてのプライドを保つために、顔をこれ以上ないほど不自然に引きつらせた【笑顔】を作り、声を絞り出した。
「アカシア様、フローゼ様。……そして、そこにいるバカップルども……精一杯、人里の街で楽しんできてください。留守番は、この『恋人のいない一龍』が完璧にこなしてみせま……!!」
パタン、と小気味良い音を立てて木造の頑強な扉が閉められ、一龍兄さんの恨み節を置き去りにしたまま、俺たちはトリプルデートへと賑やかに出発していった。
――静まり返ったアカシア様の居間。 外から楽しそうな笑い声が遠ざかっていく中、テーブルの前にぽつんと座っていた三虎は、大皿に盛られたフローゼ様特製のジューシーな肉をごくりと飲み込みながら、寂しそうに佇む一龍の兄者の元へと歩み寄ってきた。
「……一龍の兄者。そんなに悲しそうな顔をするなよ。兄者には…ほら、俺がいるだろう? この肉も、兄者が教えてくれた特製タレをいっぱいつければ、すっごく美味いからさ……俺が半分、兄者に分けてあげるよ」
かつては飯を分け与えた弟が、今度は寂しそうな兄を気遣って、自分の大好きな飯を優しく『差し伸べて』慰めてくれている…!
「……っ、三虎ぁ……っ!! お前はなんて優しい、最高の弟なんだよぉおおおっ!! 頼れるのはお前だけだぁあああっ!!」
一龍は三虎のその健気すぎる優しさに胸の奥を激しく締め付けられ、大粒の涙をドバドバボロボロ零しながら豪快に男泣きを始め、三虎を壊れんばかりの力でギュッと抱きしめた。
そして、一龍は涙を袖でゴシゴシと拭うと、真剣な眼差しを弟へと向け、兄貴分としての極めて重要かつ実践的な遺言?を、確かな熱を込めて語りかけた。
「いいか三虎、よく聴けよ。……お前はこれから、世界一の農家を目指して死ぬ気で勉強していくんだ。だがな……あの二鳥や次郎たち兄者どものあの『惚気て周りを置いてけぼりにする部分』だけは、何があっても絶対に真似するんじゃないぞ……っ!? ああなったら、男として終わりだからな……っ!!」
「……? 兄者たちの、あの部分……?」
三虎は頭の上に巨大な疑問符を浮かべながら、肉をモニュモニュと咀嚼し、一龍の兄者のその必死すぎる形相の教訓を何か新しい高度な座学データ?のように、静かに脳裏へと刻み込んでいるようだった。
(……よく分からないが……二鳥の兄者たちのように恋人ができると一龍の兄者を怒らせて青筋を立てさせる病気にかかるのだな……俺は将来、最高の仲間を集めてハイテク農業法人を作ることにだけ、全神経を注ごう……)
三虎の胸に、未来の食材独占組織『美食會』が丸ごと世界一のハイテククリーン農家として爆誕するための、これ以上ないほど強固な「仕事人間への誓い?」がまた一つ刻み込まれた瞬間だった。
次回はトリプルデート
皆さんはどっちだと思います?二鳥は…
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攻め?
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受け?