着いて早々、隠れ家の引き戸をガラガラと勢いよく開けると、そこには、相変わらず呑気に調理器具を磨いていた味仙人の二人の姿があった。
「おう、二鳥にカカ! 久しぶりじゃねぇか! 20年近くバカップルやってると思ったら、今日は一体どしたんや?」
久しぶりのチチが、嘴をパカパカさせながら気さくに歓迎の声を上げてくれた。
「ほっほっほ、よく来たな、二鳥、カカ。お主たち、あ〜ん大好き夫婦が揃って顔を出すなんて、何か珍しいイベントでもあったか?」
ジジも満面の笑顔で大歓迎してくれた。が、あ〜んをまだイジるのか…この野郎…。
「チチ、ジジ、歓迎してくれるのは嬉しいが積もる話は後だ! 今はとにかく、カカさんをニトロの専門家として一刻も早く診てほしいんだ!!」
俺がこれまでにないほど声を張り上げると、ジジはただ事ではない空気をくみ取り、少し気怠げに上気しているカカさんを見つめて、真面目な顔で質問してきた。
「ただの惚気じゃなさそうじゃな。よし、二鳥。カカのその肉体に、一体具体的にどんな『症状』が出ているのか、詳細な情報を出すんじゃ」
「ああ。 今朝、先に目を覚ましたら、いつもより様子が違って気怠げで、少し息苦しそうにしていたんだよ。カカさん自身も『妙に胃の腑が気持ち悪い』と言っていて、『酸っぱいものが欲しい』と言ったから、俺が天晴モンで氷沢山のレモネードを差し出したら落ち着きました。それと、お腹の奥を撫でたら、ニトロには絶対に存在しないはずの小さくて驚くほど強固な『核』のようなものが完璧に形成され始めているんだ」
俺が一気に捲し立てるように症状を告げる。すると、それをじっと聴いていたジジは、触診をするために伸ばそうとしていたその手をピタリと止めると、なんともあっけらかんとした顔で、声を張り上げて叫んだ。
「――なんじゃ、そんなことかい! 診るまでもないわ! そいつの正体は、人間の世界で言うところの『つわり』じゃ!!!」
「えっ……! つ、つわり……っ!?」
俺の考えていた仮説が、ジジの言葉によって確定した事実へと変わった。俺の顔が一瞬で歓喜と驚愕に染まる。
――しかし。その答えをドカンと叫んだまさに一秒後。 叫んだ張本人であるジジ自身が、「……ん? 待てよ?」とでも言うように、自分の手を凝視したまま、突然体毛にかくれていた目を限界まで見開いて完全に硬直した。
「……つ、つわりじゃとぉお!? ――わっ!? わしゃ、今、自分の口から何を言ったんじゃぁああっッ!?」
ジト目で冷静だったジジは、体毛を激しく揺らしながら大慌てでちゃぶ台の周りをドタバタと走り回り、前代未聞の大パニックに陥って叫び散らした。
「つ、つわりじゃと!? ニ、ニトロがか!? この何百億年もの間、雌雄の概念がないニトロが愛し合って新しい命をその身に宿すことなんて構造上100%絶対にあり得ないはずの、このニトロという種族の肉体が、妊娠をしているというのかぁあああっ!?」
「おい、ジジお前落ち着けって! 鼻水垂らすなや! 汚いで!」
チチが大慌てでジジを押さえつけようとするが、ジジにとって目の前のおしどり夫婦がしでかしたこの『ニトロの常識をぶち壊す奇跡』は特大の大爆弾だったのだ。
大パニックで部屋中をドタバタと走り回っていたジジだったが、本気を出したチチにガシッと頭を押さえつけられると、ふぅ、ふぅ、と荒い息を吐きながらどうにか強制的に理性を取り戻した。
「ま、待て待て、取り乱してすまん……とにかく今わしが口走ったことが真実かどうか、この目で完璧に確かめるために診察をするぞ! 二鳥、そこの布団にカカを寝かせるんじゃ!」
「分かった。 頼むぞジジイ」
「イは余計じゃ!」
ジジのツッコミを無視し、俺はカカさんの軽い身体をベッドへと横にさせた。静まり返る味仙人の隠れ家で、ジジは恐る恐る手を差し出すと、カカさんの服の上からそのお腹――子宮付近へと、そっと指先を触れさせた。
――その、刹那だった。
「――っッ!?!?!」
ジジは、まるで落雷に打たれたかのように目を「カッ!」と限界まで見開いた。
「し、信じられん……これは間違いない…確かにカカの腹の奥に、これまでの数億年の歴史を完全に無視した『新しいニトロの卵』が…宿っておるわ……っ!!」
ジジは自らの感覚に伝わるその圧倒的な生命の胎動に、恐怖と畏怖すら抱くようにガタガタと震えながら、ズルズルと後ろへと腰を抜かしたように後退りしていった。
「……あ、あぁ……っ、二鳥さん……っ!! 私、本当に……本当に、母親になるのですね……っ!!」
カカさんはジジの太鼓判を聴いた瞬間、俺の胸元へと大号泣で飛び込んできた。両手で俺をぎゅっと抱きしめ、母親になれる喜びの涙分子をボロボロと溢れさせている。
(……え?)
だが――愛しいカカさんをその両腕で強く抱きしめ返しながらも、俺の脳は、完全にそこから動かなくなっていた。
(…俺が……父親……? 父親になる…のか……!?)
前世の孤独の中、誰にも看取られずに飢えて一人きりで死んでいった、あのただの人間だった俺。今世でブルーニトロに転生し、カカさんという世界一愛しい妻に出逢い、約20年間バカップルとして惚気まくってきたけれど……
まさか自分が…この不条理な世界で、自分とカカさんの遺伝子と愛を受け継いだ新しい『命』の父親になる。そのあまりにも壮大で、あまりにも尊すぎる事実の前に、俺の脳は完全にキャパシティを超えて、ただただ唖然として真っ白な顔のまま固まるしかなかった。
「……おめでとうじゃ、二鳥、カカ。……ほっほっほ、こいつはとんでもない『奇跡』が爆誕しちまったわい……!」
「愛は理屈を超える…てか?」
チチとジジの野郎どもが目元を熱くしながら、最高に誇らしげに俺たちを祝福してくれる。
「――よし! そうと決まれば二鳥、お前はすぐにアカシアたちの元へ行ってこの『奇跡』を報告してこい! 妊婦は安静にしなければならないからのう。カカの体調は、わしら味仙人が責任を持って世話して診ててやるからな!」
腰を抜かしていたジジが身体をシャキッと立ち上がらせ指示を飛ばしてくれた。だが、その言葉を聴いたカカさんは、俺の胸元に顔を埋めたまま、その顔を少しだけ膨らませた。
「……ジジ、大変不躾な意見なのですが。安静を第一の規約とするならば、私はこの味仙人の隠れ家よりも……二鳥さんが、私のためにすべての愛を賭けて建ててくれた『我が家』の方が、構造的にも精神的にも100%一番落ち着くのですが……」
どこまでも俺への絶対的な愛を隠さずにおねだりをする最愛の妻。
「ギャハハハ! ほれ見ろジジ、カカのやつ、20年近く二鳥に甘やかされすぎてすっかりおのろけ新妻になっちまってるぞ!」
チチが大爆笑するとジジも「やれやれ、仕方のないバカップルじゃのう!」とやれやれ顔で肩をすくめた。
「分かったわい! それじゃあ仕方ないから、わしたちも一緒に二鳥の家まで移動するぞ! 」
「チチ、ジジ……! 本当にありがとうございます!」
父親になるというあまりにも尊すぎる真実に、まだ脳、意識がフワフワとしていた俺だったが、ジジ達の頼もしすぎる言葉に弾かれたように意識を繋ぎ直された。
俺はシャツの袖を引き、ベッドに横になっていたカカさんの軽い肉体を、もう一度これ以上ないほど優しく、力強くお姫様抱っこで抱え上げた。
「さあカカさん、俺たちの温かい我が家へ帰ろう。俺のこの腕の中にいれば、どんな天変地異が起きたとしても、一ミリもカカさんと赤ちゃんには伝わらせないからね」
「はい……っ、二鳥さん……っ。新米パパになった二鳥さんのその大きな手の温かさ、私の全細胞が、これ以上ないほどの絶対的な安心感で満たされています……っ!」
カカさんは嬉しそうに涙を溢れさせながら、俺の首の後ろへとその細い両手をぎゅっと愛おしそうに回してホールドしてきた。
俺は2つの大切な宝物を落とさないようにしっかりと抱き抱え、ジジとチチの二人の味仙人を完璧に先導して我が家へと向かっていった。
「カカさん! 我が家に到着したらさ、俺の手で、カカさんと赤ちゃんが世界一健やかに過ごせる最高の『新米ママの特別育児部屋』を一瞬で増築してあげるからね!」
「育児には二鳥さんも参加してくださいね?わたしは育児の仕方を何も分かりませんから…」
「もちろんだよ。一緒に育てよう」
◆
「……おい二鳥、カカ…… お主らのこの家……20年前にわしたちが見た時よりも、一段と不条理なほど頑強で立派になってないか?」
我が家に到着した瞬間、ジジが目を丸くして俺の大工人生最高傑作を見上げた。
「あはは、分かるか? あの後もカカさんの要望に合わせ、俺の執念で何回か劇的なリフォームや増築を繰り返してきたからね」
俺はカカさんを愛おしそうに両腕でお姫様抱っこしたまま、誇らしげに笑ってみせた。そして俺たちはそのまま引き戸を開け、温かい我が家の玄関へと足を踏み入れた。
――チチとジジの二人も後に続いて上がろうとした、まさにその刹那だった。
「――ぶっはぁああっッ!?!?!」
「ごふっ……! なんじゃあぁ、この常軌を逸したピンク色の空気はぁあああっ!!!」
玄関をくぐった途端、ニトロの持つ超精密な嗅覚が家中に隙間なく充満していた『とてつもなく甘い空気』をダイレクトに感知し、二人は同時に白目を剥きそうになりながら派手にひっくり返った。
「お主ら、20年間どんだけ毎日毎夜愛し合っとんじゃあぁああっ!! 家の分子のすべてが惚気の糖度でベッタベタにコーティングされとるわい! なんじゃこの空気は! グルメピラミッドのメープルシロップ数百倍の糖度をもつ『メロウコーラ』より遥かに甘くて胃が焼け死ぬわぁああああっッ!!!!」
ジジが体毛を激しく揺らしながら大パニックのツッコミをぶち上げる。
「うるさいですね、ジジにチチ!!」
すると、俺の胸元でお姫様抱っこされていたカカさんが大赤面をしながらも、髪を激しく揺らしてフンスと猛烈に怒り狂った。
「私と二鳥さんが世界一愛を隠さない無敵のおしどり夫婦であることなど、20年前のあ〜んの段階から前もって知っているでしょう! 今更我が家の甘い空気にパニックを起こすなど、味仙人としての劣化を疑わざるを得ませんよ……っ!!」
「カカさん、そんなに激しく声を荒げちゃダメだよ。 怒ると血圧が急上昇して、お腹の中の可愛い赤ちゃんに悪い影響が出ちゃうかもしれないから……」
新米パパの自覚が早くもジワジワと滲み出し始めていた俺は、早くもとんでもない過保護モードのスイッチが入り、大慌てでカカさんを宥めながら寝室のふかふかモフモフベッドの上へと彼女を優しく、優しく横に寝かせた。
「ふぅ……。カカさん、天晴モンのレモネードの予備はここに置いておくからね。絶対に無理をしないで、大人しく俺の帰りを待っててね」
「はい……っ、二鳥さん……でも…その…」
「わかっているよ。ふふ…」
俺は愛しいカカさんの額に優しく行ってきますのキスを落とした。
そして、未だに「あうぅ、糖度が高すぎる……」と胃を押さえているチチとジジの元へと戻る。
「ジジ、チチ! カカさんとお腹の赤ちゃんの看病、頼むよ! 俺、今から超特急でアカシア様や一龍兄さんたち所にこの奇跡を報告しに行ってくるから!!」
「……おう、任せとれ新米パパ! お前が帰ってくるまでに、カカのバイタルは安全圏を維持して介護してやるわい!」
二人の心強い返声を背に受け、俺は我が家のドアを開け、アカシア様の家に向かって全力で爆走するのだった。
◆
二鳥が家を飛び出していった、まさにそのすぐ後のことじゃ。
「――ギャハハハハハハ!!! いやぁ~、それにしても傑作じゃねぇか、カカ!!」
新米パパの過保護な気配が玄関の向こうへ完全に消え去ったのを確認するや否や、わしの隣にいたあの助兵衛なチチが、鼻をヒクヒクさせながらケラケラと下品に笑い声を弾ませた。
チチのやつは寝室のベッドで横になっているカカの元へとトコトコ歩み寄ると、カカの指輪がはまっている手掌をニヤニヤと見つめながら、これ以上ないほど小気味良くからかい始めたんじゃ。
「お前、20年前のあの頃を思い出してみろよ! 最初にあの隠れ家で二鳥と出会った時はさぁ、『私が、あのブルーニトロに……!? あり得ません、絶対にあり得ません! !』とか、『私が人間のような……そんな破廉恥で、甘苦しい感情を抱くなど、天地がひっくり返っても絶対に、絶対にあり得ないことです!!』なーんて言ってあんなに猛烈に警戒して、爪の先ほども近づこうとしなかったじゃねぇか! そのうえ、二鳥のことが好きで好きでたまらねぇっていうのに、あの重すぎる『恋煩い』を、お前は限界まで大赤面しながら頑なに認めようとしなかったのによぉ!」
チチはお腹を抱えて可笑しそうに捲し立てる。
「それがお前、20年間毎日あのメロウコーラより甘いリビングでバカップル生活を貪り尽くしてさぁ、今や正真正銘の『
――しかし。 チチが調子に乗ってカカの初心な過去の記憶を特等席でほじくり返した、まさにその刹那。
「――チチ。大変不躾ながら、味仙人としての私の分析を言わせていただきます」
カカはベッドのシーツをきゅっと握り締め、その顔から一切の笑みを完全に消し去った。そして、チチの放つ助兵衛なエネルギーの波形を真っ正面からじっと見据えると、流暢な詳細解説の皮を被った、とんでもない威力の『精神的ナイフ』をチチの心のど真ん中へとド直球で思いきり突き刺したんじゃ!
「チチがそのように他者の高潔な情愛の思い出を面白半分に愚弄し、ご自身の中身スカスカな助兵衛データばかりを四六時中出力している……だからこそチチは、何億年経ってもカブトムシの雌一匹からも全くモテず、生涯を孤独な独り身のまま非モテとして推移させているのですよ? 貴方はいつまで彼女いない歴イコール年齢を続けるつもりですか?」
「――ぶ、ぶふぉあぁっッッ!?!?!」ドスッ!!!
と、居間の空間にチチの心臓が物理的に砕け散るような、凄まじい衝撃音が響き渡った(ような気がした)。
カカのあまりにも容赦のない、そして的確すぎる「非モテの真実」の全否定直撃アタックを受け、チチは顔を一瞬で真っ白にさせて白目を剥き、そのまま力なく床の上へとズルズルと這いつくばって完全撃沈してしまったんじゃ。
「ぐ、ぐわああ……っ! カカのやつ、二鳥の重すぎる愛を受けすぎて、口から吐き出す言葉の殺傷能力が凶悪に進化してやがるぞおおおっ……!!」
「ほっほっほ! ほれ見ろチチ、自業自得じゃわい! 妊婦をからかって返り討ちに遭うなど、味仙人の面目丸潰れじゃのう!」
わしが横で腹を抱えて大爆笑していると、カカは少しだけ溜息をつき、自身の左手でまだ見ぬ我が子が眠るその愛らしいお腹を、無意識のうちに、それはそれは愛おしそうにそっと優しく撫でるのじゃった。
そして、床の上で完全消し炭状態になって這いつくばっておるチチの姿を見下ろしながら、わしは愉快そうに髭を揺らして笑い声を響かせておった―のじゃが…
その皺だらけの顔に浮かべた能天気な笑みとは裏腹に、わしの頭の中では味仙人としての激しい、狂おしいほどの生体考察が嵐のように飛び交っておった。
(ニトロが妊娠……… やはり、生物学的に考えても、そんな構造は『100%あり得ん』のじゃ……!!)
グルメ細胞の悪魔そのものであるわしらニトロという種族に、男女が愛し合って遺伝子を結合させ、新たな個体を産み落とすなどという『生殖の概念』は存在せん。
だと言うのに……今、目の前のベッドで愛おしそうにお腹を撫でているカカは、紛れもなく『妊娠』をしておる。
(そういえば……今日、二鳥がわしを訪ねてきた時に感じた、あの不可解な『歪み』……20年前の出会ったばかりの頃に比べ、二鳥のグルメ細胞のエネルギーレベルは、不自然なほどに低下、いや弱体化しておったな……)
通常、グルメ細胞の構造において、進化することはあっても『退化』することなど絶対にあり得ん。なのに、あやつの細胞レベルは明らかに下がっておる。つまりは――そういうことなのか?
(魂が人間である二鳥の、あの前世の餓死という不条理をぶち破るほどの強固な【執念】が……毎日、毎夜のあの過剰な検証実験を経て、自らのグルメ細胞のエネルギーのすべてをカカの肉体へと惜しみなく注ぎ込み、いや、『分け与えた』からこそ、あのあり得ない卵が形成されたというのか……?)
理論上、その仮説の可能性は確かにあり得る。ニトロの限界を人間の執念が凌駕したのだとすれば、説明はつくのじゃ。
――いや、違う。 わしの味仙人としての何億年の本能が、激しく警鐘を鳴らして叫んでおる。 何かが引っかかる。まだ完璧な答えとして噛み合っておらん。
20年前のあの初期の二鳥と、今の新米パパの顔をしておる二鳥……その二人の間には、決定的に、何かが違うのじゃ。
あやつの肉体の中に、細胞レベルの低下だけでは絶対に説明がつかないほどの『致命的な構造変化』が起きている気がしてならん。だが――それが一体何なのか、全このわしの頭脳をもってしても、どうしても掴めない、分からないのじゃ……!
わしがこの謎の引っ掛かりに悩んておると、カカの身に異変が起きた…!
「う…ううぅ……!」
「……!どうしたんじゃ!カカァッ!」
「い、痛いのです…!お腹が、張り裂けるように…!」
ま、まさか…これは前駆陣痛なのか?!出産が始まる数週間前に起こる不規則な痛み、身体が出産、いやこの場合は産卵の準備をしているサインじゃが、まだお産は始まらないはず…!
「カカ、息を細く長く吐き出すんじゃ!力を抜き、できるだけリラックスして体力を温存するんじゃ。チチ、少し硬いボール状のものを持ってこい!腰や仙骨あたりを押すと痛みが和らぐ!」
「わかっ…!まて、ジジ!布団をみろ!」
「なんじ…こ、これは――透明な液体…?」
布団へ溢れたそれを見た瞬間、わしの表情が凍りついた。
「これは……卵が産道を通るための潤滑液…?待て…まだ卵殻が形成途中のはずじゃ……!」
透明な液体…それは卵を通すために分泌された液体だった。カカのお腹の奥では、再び大きな収縮が起きていた。
「……くぅ……」
カカの口から低い声が漏れる。痛みというより、身体の内側から押し広げられるような圧迫感だろう。
「…くぅ…かは…あ、ああ…!」
また液体が流れた。その量は先ほどよりも多いこれから始まる産卵に備えるように、身体そのものが準備を整えているのだ……!
「……っ…!チチ!今すぐ二鳥を呼び戻せ!もうアカシアの家まで着いてるかもしれんが構うな!無理やりにでも連れ戻してこい!今すぐじゃ!」
「っ!わかった!」
「カカ、安心するんじゃ。お主の愛する夫を呼び戻す。それまで、なんとか痛みに耐えるんじゃ…!」
(これは前駆陣痛……いや、違う!)
人間の出産なら、まだこの程度の収縮で産まれる段階ではない。じゃが、カカは人間ではない。ニトロじゃ!しかも、この卵は普通の卵ではない。数億年の歴史をぶち破った、まったく新しい命。
ならば――既存のニトロの常識など、最初から当てはまらんのかもしれん!
これは前駆陣痛などではない。本陣痛じゃ…ニトロの異常すぎる細胞の活性化速度がこの痛みを作り出しておるのじゃ!
「二鳥…さん…っ!」
カカが何もない空間に手を伸ばしている。そしてそれは間違いなく、二鳥の手を求めていた…!
(くっ…!早く、早く戻ってくるのじゃ!二鳥!)
あ〜…早くアカシアに説明させてぇ…。説明したほうが楽になるんだけどな…多分20話くらい先になる気がするんだよな…説明回まで…。
皆さんはどっちだと思います?二鳥は…
-
攻め?
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受け?