転生ニトロは幸せを手放したくない   作:元洋菓子職人II

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猿武を使うためには…単純であればいい。


理由など要らない

 「……鳥さん。二鳥さん……っ!!」

 

 身体を激しく揺さぶられる感覚と、鼓膜をこれでもかと叩く、ひどく掠れた声。その声に、俺は、闇の底から強引に引きずり戻されるようにして目を覚ました。

 

 (……あ、れ。俺、ただの休息を……)

 

 重い瞼をゆっくりと持ち上げる。100Gマウンテンの冷たい屍肉に塗れた視界の先、最初に飛び込んできたのは――懐かしいフードを振り乱し、大粒の涙をボロボロと流しながら、烈火のごとく怒っているカカさんの顔だった。

 

 そして、その腕の中では、小さなアポロが俺の顔を見て「ピーーーッ! ピーーーッ!!」と、ちぎれんばかりに羽をパタパタさせて泣き叫んでいる。

 

 「ど、どうして……ここに……っ!」

 

 声が出なかった。驚愕のあまり、思考が一瞬で真っ白になる。どうしてカカさんが、アポロがグルメ界のこんな最悪の重力地帯にいるんだ。

 

 そう思ったのも束の間、目を覚ました俺の姿を確認したカカさんは、「――っ、二鳥さん……!!」と、魂を振り絞るような叫びと共に、俺の胸元へともの凄い勢いで強く、強く抱きついてきた。

 

 「カ、カカさん……! 待って、俺、泥だらけの血だらけだし……カカさんの服が汚れちまうから、一回離れ――」

 

 汚れた身体で、大好きなカカさんを汚したくなくて、俺は残った左腕で彼女を押し戻そうとした。

 

――だが、離れられなかった

 

「……え?」

 

 びくともしない。それはそうだ、俺を抱きしめるカカさんの力が、弱りきっている今の俺よりも、ずっと、ずっと強かったんだから。

 

 「離しません……っ! 離すわけがないでしょう、二鳥さん……!!」

 

 カカさんは俺の胸に真っ赤な顔を埋めたまま、全身の羽毛を激しく逆立たせて、涙ながらに絶叫した。

 

 「地面に生体反応の著しく低下したあなたの巨体がうつ伏せで倒れているのを目視した瞬間、私の脳内データベースはあなたの心肺停止…そしてその先にある『死亡』という最悪のシミュレーションを弾き出しました……っ! その時、私の全身の細胞が全て、恐怖と絶望によって同時に限界突破の緊急活性化を起こしたのです!! 脳波も脈拍も、私のすべての細胞の思考が今、あなたを『絶対に手放さない』という唯一の愛のベクトルに向かって完璧に統一されているのです……っ!! それなのに、汚れるから離れろなどという非合理的な提案、私の細胞が1ミクロンたりとも受け付けるはずがありません……っ!!」

 

 泣きながら、怒りながら、怒涛の勢いでまくし立てるカカさんの長話。カカさんは、俺が死んでしまったと思って、自分の全ての細胞を一つにまとめて、俺をこの世界に繋ぎ止めるために全力で抱きしめてくれていたんだ。その、あまりにも不器用で、圧倒的なまでの愛の質量。

 

 (……あぁ、ダメだ。やっぱり俺、この人が、愛おしくてたまらないや)

 

 胸の奥が、張り裂けそうなくらいに熱くなる。前世の孤独な死のトラウマなんて、カカさんのその温かい涙が一瞬ですべて綺麗に洗い流してくれた。俺は、残っている左の腕をカカさんの背中に回し、壊れ物を扱うように、けれど絶対に離さないように、愛おしさを込めてぎゅっと抱きしめ返した。

 

 その、瞬間だった…

 

(……あ)

 

 不思議な感覚が、俺の全身を駆け巡った。カカさんを抱きしめている俺の左腕、胴体、脚、そして心臓。今すぐにカカさんを愛したい。この温もりを、全部受け止めたい。千切れて無くなってしまった、もう片方の右腕でも、カカさんを、アポロを、今すぐこの両腕で力一杯に抱きしめたい……っ!!

 

 その、爆発するような強烈な「想い」に呼応するように。俺の全身のグルメ細胞たちのバラバラだった思考が、カカさんのそれと同じように、一瞬で、完璧に一つへと【統一】された。

 

 ガチリ、と、木組みが完璧に噛み合ったかのような、全細胞のシンクロ。飛んでくる衝撃をいなすとか、重力を受け流すとか、そんな難しい理論はどうでもよかった。

 

 ただ「愛する者をこの腕で抱きしめたい」という、人間の本質である最も純粋で、最も凶暴な『食欲』が、俺の身体の中で一つに溶け合ったんだ。これこそが。バンビーナが俺に、命懸けで教えようとしていた――「猿武」の真理そのものだった。

 

 細胞のすべてを一つの意志で「統一」する技術。その真理に気づいた――その、刹那だった。

 

 ドォォォォン……!

 

 凄まじい風圧と共に、山頂に帰ったはずの猿王バンビーナが、目の前の地面を爆発させて戻ってきたんだ。

 

 突然の王の再臨に俺とカカさんが息を呑む中、バンビーナの小柄な両手には、一本の「青い腕」が大切そうに抱えられていた。

 

 それは、俺が新しく再生させていた右腕じゃない。一番最初に、挨拶代わりの腕相撲で、この100Gマウンテンに一番最初に千切られた、俺の本物の右腕だった。

 

 「キキッ……♪」

 

 バンビーナは悪戯っぽく口を歪め、千切れた俺の腕を大事そうに抱えたまま、俺とカカさんを交互に見つめてにっと笑った。

 

 (……あぁ。そうか。そういうことかよ、王様)

 

 胸の奥が、言葉にならないほどの熱い何かでいっぱいになる。俺がこれまでに何本も無理やり生やしては千切られた腕には、ただの肉の塊としての機能しかなかった。

 

 だけど、バンビーナがわざわざ保存し、持ってきてくれた、その「一番最初の右腕」は違った。

 

 前世から転生して約20年、カカさんと出会い、あの新居の木の扉を開け、カカさんのあの小さな手をぎゅっと握りしめて、アポロを大切そうに抱き上げてきた――カカさんとアポロを、ずっと愛して、抱きしめ続けてきた「本物の右腕」だったんだ。

 

 (お前も……カカさんを抱きしめたいんだな? ずっと、あの家へ一緒に帰りたがってたんだな……!)

 

 持ち主である俺の魂が覚醒したことで、バンビーナが持っている俺の千切れた右腕の細胞までもが、カカさんへの愛(食欲)で激しく共鳴を始め、ウニウニと蠢いていた。

 

 飛んでくる衝撃を受け流す。全身の細胞を一つにする。

力を一点に集める。頭では、何度も理解しようとした。

けれど、できなかった。俺には「技術」として猿武を理解することができなかった。

 

 だけど――カカさんを抱きしめた瞬間、身体が理解した。「一つになりたい」それだけだった。

 

 バンビーナは、その腕を「ほらよ」とでも言うように、俺を抱きしめているカカさんにそっと手渡した。

 

 「え……? あ、二鳥さんの、お腕……っ!?」

 

 カカさんは驚きながらも、差し出された俺の千切れた右腕を、まるで宝物を扱うように愛おしそうに両手でしっかりと受け止め、胸元へ抱き寄せた。

 

 カカさんの胸に抱かれた俺の右腕は、指先がピクピクと愛おしげに震え、まるでカカさんを優しく抱きしめ返しているかのように見えた。

 

 「二鳥さん……っ、これ、は……!」

 「カカさん。……そっと、俺の右肩の断面に、それを近づけてみてくれ」

 「は、はい……っ!」

 

 カカさんは涙を流しながら頷き、抱きしめていた俺の右腕を、俺の右肩の千切れた断面へと、そっと近づけた。

 

――ガチリ。

 

 まだ完全に接触する前だというのに、断面同士のグルメ細胞が、まるで強力な磁石のように、猛烈な引力でお互いを引き寄せ合おうとしているのがハっきりと分かった。

 

 一分の狂いもない、完璧な木組み。いや、それ以上の、魂の結合。

 

 ピトっ………

 

 接触した瞬間、筋肉が心地よく震えた。断面の細胞が一瞬にして結合し、血管が、筋肉が、神経のすべてが、まるで最初から離れてなどいなかったかのように、みるみるうちに繋がっていった。神経が完全に開通し、俺の意思が、戻ってきた本物の右腕の指先まで100%の精度で流れ込む。

 

 「カカさん……」

 「……っ、二鳥さん……っ!!」

 

 俺は新しく生やした腕なんかじゃない、カカさんをずっと愛してきた『本物の腕』で、俺の胸の中で泣きじゃくるカカさんの小さな身体を、今度こそ力いっぱいに強く、強く抱きしめ返した。

 

 「ただいま、カカさん……。心配かけて、本当にごめん」

 「う、うぅ……! お帰りなさい、お帰りなさい二鳥さん……っ!! あなたのこの二本の腕の熱量、そして皮膚の摩擦抵抗から伝わるこの固有の安心感は、私の60兆個の細胞すべてが……っ!!」

 

 カカさんは俺の胸に顔を埋めたまま、嬉し涙をボロボロと流していつもの長話を紡いでくれた。その胸の中では、アポロも「ピピピピッ、ピー!」と、お父さんの温もりが戻ってきたことを喜ぶように、元気に羽をパタパタと震わせて鳴いている。

 

 「キキッ、キキキッ! ♪」

 

 それを見たバンビーナは、我が事のように嬉しそうに飛び跳ね、100Gマウンテンの重力を吹き飛ばすようなステップで、楽しそうに猿武を踊り始めた。

 

 俺の意地、そして何よりもカカさんとアポロへの絶対の愛の力が、バンビーナの粋な計らいによって過酷な試練をすべてを完璧に調和させてみせたんだ。

 

 後ろの岩陰から、一龍兄さんが「やれやれ、最初から条件は満たしていたのだから、それに気づけば合格だったってわけか」と呆れつつも本気で嬉しそうに笑い、次郎が「すげぇや、二鳥兄ちゃん……!」と再び涙を流して俺たちの奇跡の抱擁を見守っていることなど、今の俺たちの耳には、ただの心地よい祝福の風の音にしか聞こえていなかったのだった。

 

 そして…俺のなかで根拠のない自信が湧き上がってきた。

 

 (今なら……踊れる気がする)

 

 本物の右腕が繋がり、全細胞のベクトルが完璧に噛み合った今、胸の奥からそんな自信が溢れ出てきた。論理的な理由なんてない。ただ、自分の身体が絶対に崩れないという確信があった。

 

 俺はカカさんを優しく腕から降ろすと、楽しそうにステップを踏んでいるバンビーナに向き直った。

 

 「なぁ、バンビーナ。今度こそ……俺と、猿武(ダンス)を踊ろうか?」

 

 かつて最愛の恋人と共にこの技術を極めた、孤独な猿の王。その王を相手に、俺の全細胞を統一した『猿武』をぶつけてみたい――そう思って誘ったんだ。

 

 だが。バンビーナは俺の誘いを聞くと、ピタッとステップを止め、不敵に口を歪めて「チッチッチ」と首を横に振った。

 

 俺とのダンスを、はっきりと断ったんだ。そして、その長くて細い人差し指を、俺のすぐ後ろにいるカカさんに向かってピシッと突き出した。

 

 「キキッ、キキキッ! ♪」

 

 (あぁ……! 成る程ね……。そういうことかよ、王様)

 

 俺は思わず苦笑いした。忘れていた。猿武の、本当の始まり。バンビーナがかつて踊っていたあのダンスは、一人で遊ぶためのものなんかじゃない。世界で一番大好きだった『恋人とのダンス』だったんだ。

 

 お前が本当に見たかったのは、俺とのキャッチボールの続きなんかじゃない。種の壁を越え、何千回もの夜を共にして、奇跡の新しい命まで紡ぎ出した俺とカカさんの『愛の統一(ダンス)』だったんだな。

 

 「ははは、良いだろうバンビーナ。お前がそこまで言うなら……俺とカカさんの、世界で一番熱い猿武(ダンス)を見せてやるよ!」

 

 俺は振り返り、まだ涙目で真っ赤になっている愛しい恋人に向かって、優しく右手を差し出した。

 

 「――なぁ、カカさん? 俺と、踊ってくれませんか?」

 「に、二鳥さん……っ」

 

 カカさんは驚いて大きな瞳を瞬かせ、それから羽毛を真っ赤に染め上げた。

 

 「突如として、何百年もの歴史を持つ王の前で、このような親密な身体的連動を伴うパフォーマンスを求められるなど、私の脳内シミュレーションには一片のデータも存在せず、精神的羞恥心は過去最高値の120%を記録してはいるのですが……っ!」

 

 いつもの、大好きな高速の長話。けれど、カカさんはそうまくし立てながらも、躊躇うことなく、その小さな、温かい手を俺の右手にそっと重ねてくれた。

 

 「ですが……あなたと私の細胞のベクトルを一つに重ねることこそが、この新居を飛び出した私たちの、最大の目的地であり、合理的な着地点です……っ! 喜んで、お供いたします、二鳥さん……っ」

 

 本当に……愛しい人だ。俺のすべてを捧げて、絶対にこの未来を守り抜くと、繋いだ手のぬくもりから改めて誓う。

 

 「アポロ。お前も、そこで特等席で見ていなさい。お父さんとお母さんはな……こんなに、世界で一番愛し合っているんだぞ!」

 

 俺が腕の中の我が子にそう呼びかけると、バンビーナがどかっと泥の上に胡坐をかいて座り込み、その小さな膝の上に、アポロを「ヒョイ」と器用に乗せた。

 

 アポロは大きな王の膝の上で一瞬だけ「ピっ?」と驚いたものの、すぐに俺たちの姿を見て「ピピピッ、ピー!」と嬉しそうに羽をパタパタと震わせる。バンビーナは、まるで小さな孫を抱くおじいちゃんのように目を輝かせ、ワクワクしながら俺たちのダンスを待っていた。

 

 「所で二鳥さん…」

 「なに?カカさん。アポロとバンビーナが楽しみにしているんだけど」

 「二鳥さんは猿武の振り付けを知っているのですか?」

 「…………」

 「………ジトッ……」

 

 ははは…知ってるわけないじゃん…。グルメ界編はアニメやってないし、漫画でも千の振り付けは描写されていないんだから…。あ、まってカカさん…そんな目で見ないで…。

 

 「…食寶ペアの捕獲方法、および猿武の振り付けは私が記憶してあります。つまり二鳥さん、私が言いたいことは分かりますね?」

 「カカさん…分かった…!いくよ!」

 「私が二鳥さんをエスコートするんですから私がいう台詞な気がしますけど…まあいいです」

 

 カカさんはそう言うと、繋いでいた俺の手を一度離した。そして、すっと一歩後ろへ下がる。さっきまで真っ赤になっていた顔から、羞恥の色が消えていく。

 

 代わりに浮かんだのは――味仙人としての、鋭い眼差しだった。

 

 「では、始めます」

 「お、おう……!」

 「二鳥さん。最初は私の動きを目で追ってください。ただし、途中からは目で追ってはいけません」

 「え?」

 「猿武とは、相手の動きを見てから動くものではありません。相手の細胞の動きを感じ取り、次に何をするのかを予測し、自分の細胞を先に合わせていくのです」

 

 

 カカさんが、ゆっくりと腰を落とした。それに合わせるように、俺も腰を落とす。

 

 「そうです。その高さ」

 「こう?」

 「はい。では――」

 

 (右足を一歩、外側へ)

 右足を開く

 

 (左足も)

 さらに足を開く

 

 (腰を落として)

 ぐっ、と膝を曲げる

 

 (背筋は伸ばす)

 (こうか?)

 (完璧です) 

 

 カカさんが微笑む。

 そのまま両腕を胸の前へ持ってきた。

 

 (両手を握ってください)

 俺も両手を握る

 

 (親指を立てて)

 両方の親指を、ぴんと立てる

 

 「……これでいいのか?」

 「はい。そのままで大丈夫です」

 

 カカさんも同じように両手を握り、親指を立てている。

 こうして並んでいると、何だか妙な感じがする。

 戦闘技術だと聞いていたのに、やっていることだけを見れば、子供の遊びか何かにしか見えない。

 

 (次です)

 (おう)

 

 (右腕を、斜め上へ)

 右腕を上げる

 

 (左腕も)

 左腕も上げる。両腕が頭上へ伸びる

 

 (そのまま身体を左へ)

 腰を落としたまま、身体を大きく左へ傾ける

 

 (もっと)

 さらに身体を倒す

 

 (そうです)

 次の瞬間――

 

 (右へ!)

 身体を反対側へ流す

 

 (腕を伸ばして!)

 右腕を大きく横へ伸ばす

 

 その動きに合わせて、カカさんの身体も同時に右へ流れた。まるで鏡を見ているようだった。

 

 俺が動く。 カカさんが動く。

 

 いや――違う。

 

 俺たちは、それぞれが動いているんじゃない。

 

 二人で一つの動きを作っている。

 

 (左足を前へ)

 左足を踏み出す

 

 (右足を寄せて)

 右足を引き寄せる

 

 (腰を落としたまま)

 膝を曲げる

 

 (止まらないで)

 そのまま身体を前へ滑らせる

 

 「……速くなってないか?」

 「はい。ここからが本番です」

 「本番……?」

 

 カカさんが微笑む。

 

 「猿武は、ゆっくり覚えるだけのものではありませんから」

 そう言った瞬間――。

 

 (右!) (左!) (上!)    (下!)

 右へ  左へ  両腕を上げる 腰を落とす

 

 (前!)  (捻って!) (回って!)

 踏み込む 身体を捻る 一回転

 

 (もう一度!)  (止まらない!)

 さらに一回転  足を止めない

 

 右左上下 前後ろ腕を伸ばす身体を捻る足を踏み替える。

 

 まるで壁画に描かれていた無数の姿勢を、次から次へと身体へ叩き込まれているようだった。

 

 だが、不思議と苦しくはない。

 カカさんの指示が飛んでくるたび、身体が勝手に動いてくれる。

 

 (右手)   (私の手へ)

 右手を出す カカさんの掌へ重ねる

 

 ぱしっ!掌と掌が触れ合った。

 

 (そのまま押して)

 力を込める

 

 だが――

 

 (力を抜いて)

 すぐに力を抜く

 

 カカさんが俺の腕を引いた。

 身体が前へ流れる。

 

 (逆らわない)   (腰を回して)

 そのまま流される 腰を回す

 

 (右足!)    (その勢いのまま――)

 右足を踏み出す 身体がぐるりと回転する

 

 「――っ!」

 着地

 

 泥が大きく跳ねた。

 俺は思わずカカさんを見る。

 

 「今の……」

 「はい」

 「俺の力を、そのまま動きに変えたのか?」

 「その通りです」

 

 カカさんが嬉しそうに頷く。

 

 「猿武は相手の力を受け止め、消す技術ではありません。受けた力を、自分の動きへと繋げる技術です」

 「なるほど……」

 

 俺は自分の掌を見る。さっきまで確かに、カカさんに引っ張られていた。でも、引っ張られた感覚がほとんど残っていない。

 

 力がそのまま身体を通り抜けて、回転する力へ変わったような――そんな感覚だった。

 

 「面白いな……」

 「でしょう?」

 

 カカさんが、少し得意げに胸を張る。

 

 そして――

 

 (では、次です)

 (おう!)

 (ここからは私を見ないでください)

 

 「……え?」

 

 思わず声が出た。

 

 「どうして?」

 「先ほど説明したでしょう?」

 

 カカさんが、俺の手をそっと握る。

 

 「猿武は、相手の動きを目で追ってから合わせるものではありません」

 「……細胞で感じろ、ってことか」

 「はい」

 

 カカさんが目を閉じた。

 

 「私の動きを、二鳥さん自身の身体で感じてください」

 

 俺も目を閉じる。視界が消える。聞こえるのは、風の音。近くから聞こえるアポロの鳴き声。

 

 そして――カカさんの呼吸。

 

 (右) (左) (腰)     (腕)

 右足 左足 腰を落とす  腕を伸ばす

 

 (捻る)   (回転)

 身体を捻る 回る

 

 その頃には、カカさんの指示はもう「言葉」という形ではなかった。

 

 もっと直接的な何か。細胞の奥から、次に何をすればいいのかが伝わってくる。

 

 

 (――次)

 

 その一言と同時に俺の身体が動いた。

 

 右足左足身体を沈める腕を伸ばす身体を捻るそして――カカさんと同時に、身体を反転させる。

 

 ぴたり。

 

 足が止まった。

 俺はゆっくり目を開ける。

 カカさんも目を開けていた。

 

 「……今」

 「はい」

 「俺、次の動き……先に分かった」

 「私もです」

 

 カカさんが微笑む。

 

 「それが、猿武です」

 

 繋いだ手に、少しだけ力が込められる。

 

 「では二鳥さん――」

 「おう」

 「ここからは、もう指示を出しません」

 「……分かった」 

 

 俺も笑う。

 

 「キキッキー?」

 (練習は終わった?)

 

 ああ。終わったよ、王様。これから…最高の猿武をみせてやるよ!

 

 (――行こう)

 (はい)

 

 次の瞬間。

 二人の身体が、同時に動き出した。




ああ…猿武書くの難しい…。

皆さんはどっちだと思います?二鳥は…

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