転生ニトロ・兄弟三弟子   作:洋菓子職人II

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少し長くなるな…


改築① 下準備

 食後の温かいお茶を飲みながら、家族全員が一息ついたのを見計らい、俺は思い切って切り出した。

 

 「あの、アカシア様、フローゼ様。少しこの家について提案があるんです。これから二郎も大きくなりますし、俺の体格のこともあります。もしよろしければ、この家を丸ごと『改築(リフォーム)』させていただいても構いませんか?」

 

 大工としてのプライドと情熱を込めた進言。アカシア様とフローゼ様は一瞬顔を見合わせたが、すぐに穏やかな笑みを浮かべた。

 

 「ああ、それは一向に構わないよ。二鳥、君の好きなようにやりなさい」

 「ええ、私たちも少し手狭に感じていたところだから、大歓迎よ」

 

 二人はあっさりと、快く了承してくれた。俺は安堵すると同時に、職人の血を騒がせながら二人に問いかける。

 

 「ありがとうございます! それで、改築にあたって、何か新しく必要な部屋や欲しい設備、建造物などはありますか?」

 

 「そうだね……」と、アカシア様は少し腕を組んで思案した。

 

 「これから世界中を旅して、食材の正しい捕獲方法や調理方法を記した書物をたくさん残していくつもりなんだ。それらを未来へ安全に遺せるような、頑丈な『書庫』があれば嬉しいかもしれないな」

 

 (のちの『美食神の書庫』か……! 歴史的建造物の施工を任されるなんて、職人冥利に尽きるぜ!)

 

 胸を熱くしていると、今度はフローゼ様が少しはにかみながら口を開いた。

 

 「私は正直、これ以上欲しいものなんてないのだけれど……。そうね、敢えていうなら、もっとたくさんの食材を一気に美味しく調理できるような、少し大きめの『釜』が欲しいかしら?」

 

 「特注大釜ですね。お任せください、最高の火効率と耐久性を持ったものを設計します!」

 

 「俺はな!」と、横から一龍が快活に笑いながら身を乗り出してきた。

 

 「みんなで美味い飯を食って、くだらない話をして笑い合える、今いるリビングよりももっと大きな部屋があればそれで十分だ!」

 

 一番弟子のどこまでも家族思いな言葉に、食卓がふわりと温かい空気に包まれる。一龍らしい最高の注文だ。

 

 「そして、最後は二郎だな」

 

 俺は隣に座って、まだ上手く言葉が喋れずに大人しく首を傾げている二郎を見つめた。本人のリクエストが聞けないためどうしようかと考えていると、一龍が助け舟を出してくれる。

 

 「二郎には、思い切り暴れて遊べるような『遊具』なんかどうだ? エネルギーが有り余ってるみたいだしな」

 「遊具か……。だが、二郎の規格外の力に耐えられるほどの頑丈な素材、人間界の普通の木や鉄じゃすぐに粉々にされちゃうよなぁ……」

 

 俺が腕を組んで唸ると、一龍が「ハハハ!」と頼もしく胸を叩いた。

 

 「資材の強度なら心配するな! 俺がグルメ界や人間界の魔境から、いくらでも頑丈な岩石や大樹を収集してきてやるぞ!」

 「さすが一龍兄さん、頼りになりすぎる……!」

 

 しかし、俺の頭の中に大工としての別の懸念が浮かび上がった。

 

 「うーん……もし家に二郎のための遊び部屋を作って、そこが二郎の力で壊れなかったとしても、今度は家中に響き渡る『騒音』の問題があるよなぁ。毎日ドッカンバッカンやられたら、フローゼ様の仕込みの邪魔になっちまう」

 

 近隣トラブル(この場合は家族内トラブル)の防止は、一級建築士としての基本だ。俺は少し考え、パッと名案を閃いた。

 

 「そうだ……!この家から少し離れた敷地に、二郎の力でも絶対に壊れないアスレチックがあって、ついでに二郎以外の人間界の子供たちも一緒に集まって遊べるような、馬鹿デカい『公園』を丸ごと作るなんてどうかな?」

 

 「公園!? 家族以外の奴らとも遊べる場所か! それは面白そうだ!」

 

 一龍が目を輝かせる。アカシア様とフローゼ様も「子供たちのための遊び場か!」「それはとても素敵なアイデアね!」と嬉しそうに頷いてくれた。

 

 二郎も、何が起きるのかは分かっていないだろうが、みんなの楽しそうな気配を察して「あー!」と小さく両手を上げて喜んでいる。よし、設計図(プラン)は固まった。美食神の書庫、特注の大釜、最強の大家族が集う特大リビング、そして未来の子供たちのための超頑丈な大公園!

 

 「一龍兄さん、明日からさっそく現場に入るぞ! 食材(資材)の調達、手伝ってくれ!」

「おう! 任せろ、二鳥親方!」

 

 翌日からの大工事に向けて、俺のブルーニトロの肉体と大工の魂は、かつてないほどの興奮でパチパチと熱く燃え上がっていた。

 

 「よし、明日の大仕事に備えて、三人とも今日のうちにしっかりお風呂に入ってきなさい」

 

 アカシア様にそう優しく促され、一龍は「はい!」と元気よく返事をしながら、まだおぼつかない足取りの二郎の手を引いて廊下へと歩き出した。俺もその後ろをトコトコとついていく。三人の足音が遠ざかり、静かになったリビングで、アカシア様とフローゼ様は自然と視線を合わせ、互いにふっと微笑み合った。

 

 「明日からは、我が家も少し騒がしくなりそうだな」

 

 アカシア様が、どこか父親としての喜びを隠しきれない様子で呟く。フローゼ様もクスッと悪戯っぽく笑いながら、温かい眼差しで廊下の方を見つめた。

 

 「いいじゃない、賑やかで楽しいわ。それに……あの子たち、もうすっかり本当の兄弟みたいよ」

 

 ◇

 

 一方、脱衣所では、初めて見るお風呂という場所にテンションが上がってはしゃぎ回る二郎を、一龍が「こら、暴れるな!」と器用に捕まえ、服を脱がせていた。

 

 「よし、二郎はこれでよし。……二鳥、お前も服を脱げよ!」

 

 一龍にそう促されたが、そもそも俺は服など一切着ていない。生まれた時からブルーニトロの青く硬質な皮膚むき出しの全裸スタイルだ。

 

 「いや、兄さん……俺、最初から何も着てないんだけど」

 「えっ? ああ、そうか! 確かにそうだな!」

 

 一龍は少し目を丸くした後、まじまじと俺の全身を見回した。そして、ふと何か重大なことに気がついたかのように、俺の股間へと視線を一点集中させた。青年らしい、純粋ゆえに遠慮のない驚愕の表情が一龍の顔に広がる。

 

「二鳥…お前ち◯こ生えてないのか!?」

 「なっ……何てこと言うんだ兄さーーーんっ!!!」

 

 今日一番の大声を出して、俺は脱衣所で絶叫した。ブルーニトロの鳥頭が恥ずかしさで一気に沸騰し、顔面が真っ赤に染まる。

 

 「デカい声で下ネタ言わないでくれ! 恥ずかしいだろ!! 俺にはそういう器官はないんだよ!!」

 「ガハハハハ! いや、わりぃわりぃ! 初めて見たからついな!」

 

 一龍は腹を抱えて大爆笑している。隣の二郎は何が起きているのかよく分かっていない様子だったが、脱衣所の熱気と目の前のお湯が気になって仕方ないらしく、「あー! うー!」と早くお風呂に入りたいアピールをしながら、一龍の腕をグイグイと力強く引っ張った。

 

 「おう、待て待て二郎、今入るからな」

 

 一龍は二郎を連れてガラガラと浴室の扉を開けた。しかし、中に入る直前、俺の方を振り返ってニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべた。

 

 「……なぁ二鳥。お前ち◯こ無いのに、いつか恋人とイチャイチャする部屋が欲しい、なんて考えてたのか?」

 「そこを蒸し返さないでくれぇぇ!! 俺の純粋な男のロマンを茶化すのはやめてぇ…!!」

 

 俺はさらに顔を真っ赤にしながら、逃げ込むように浴室へと足を踏み入れた。前世が独身のまま餓死した大工だからこそ、形は鳥になっても心は男の子なんだよ!と言いたいが、恥ずかしすぎて声にならない。

 

 「ははっ!分かったよ、もうからかわない。よし!」

 

 一龍は楽しそうな笑みを収めると、湯船の横に腰掛け、二郎を自分の前に座らせた。

 

 「俺はこれから二郎を洗うから、二鳥はまず俺の背中を流してやってくれ。その代わり、俺が後でお前の大きな背中をピッカピカに洗ってやるからな!」

 「……おう、任せろ、兄さん…」

 

 一龍のどこまでも気さくで頼もしい言葉に、俺の恥ずかしさも少しずつお湯の中に溶けていくようだった。俺はブルーニトロの大きな鉤爪を、一龍の背中を傷つけないように優しく加減しながら、大工の丁寧な手捌きでその背中にお湯をかけ、ゴシゴシと洗い始めた。

 

 湯気の中に響く、二郎の無邪気な笑い声と一龍の快活な声。明日の大リフォームに向けて、俺たちの『家族』としての絆は、お風呂の温もりと共にじんわりと、確かに深まっていくのだった。

 

 ◆

 

 翌朝、狭い部屋で川の字になって寝たが余り体調の晴れない俺とは対照的によく晴れた空の下で大改築に向けた作戦会議が始まった。俺は目の前でやる気満々に拳を握りしめている一番弟子に向き直った。

 

 「一龍兄さん、頼みがある。今日から工事に入るにあたって、できるだけ多くの建築資材を持ってきて欲しいんだ。今回は『木材を多め』でお願いしたい」

 「おう、任せろ二鳥! 最高に頑丈で美味そうな大樹を、山ほどハントしてきてやるからな!」

 

 一龍は快活に笑うと、文字通り風のような速さで弾丸のように資材調達へと飛び去っていった。頼もしい兄貴の後ろ姿を見送った俺は、静かにハチマキを締め直す(ような気分で鳥頭をキリッとさせた)

 

 「よし……。職人の仕事は、何よりもまず『設計図(プラン)』を書くところからだ」

 

 俺は前日の夜、寝る前にパパっと頭の中で書き起こしておいた、現在の家屋の構図を思い浮かべた。それをベースに、家族みんなのリクエストを形にするための脳内リフォーム番組を開始する。

 

 「まずはフローゼ様の調理場だな」

 

 神の料理人が求める特注の大釜。その巨大なサイズを想定すると、現在の調理場の広さでは全く足りない。火効率を最大まで高めるための排気ルートと、大釜を据え付けるための強固な土台。これらを計算し、調理場の壁を大きく外側へ拡張する設計を引く。

 

 (フローゼ様のことだ、人間界やグルメ界の規格外の食材をどんどん仕込むはず。食材を一時的に置いておくための搬入スペースや、保冷用のストックエリアも広めに作っておこう)

 

 次に着手するのは、調理場のすぐ隣にあるリビングだ。一龍は「今より大きな部屋がいい」と言っていた。だが、大工として避けて通れない最大の構造的構造問題がここで立ちはだかる。

 

 (リビングを今より大きく広げるとなると、梁を支えるための支柱をどこかに建てなきゃいけない。そうしなければ、真上にあるアカシア様の部屋の重みに耐えきれず、一階の天井ごと家全体が崩れてしまう……)

 

 しかし、ただリビングのど真ん中に不恰好な柱をドスンと建てるだけでは、空間の広がりが台無しになるし、何より家族の団欒の邪魔になってしまう。何処に柱を建てるべきか。大工としての経験とインスピレーションが、火花を散らす。――その時、パッと名案が閃いた。

 

 (そうだ! リビングの真ん中に、家族みんなで囲める大きな円形テーブルをまず配置する。そして、そのテーブルの中心に穴を空けて、そこから2階を支える太い大黒柱を通せばいいんだ!)

 

 これなら柱が邪魔になるどころか、家族が柱を囲んで美味しいご飯を食べるという、これ以上ない温かいシンボルになる。デザイン性と構造強化を両立させた完璧な職人技の解答だ。

 

 「よし、リビングはこれで決定。次はアカシア様の書庫だ」

 

 作るとなれば、アカシア様の部屋の隣に配置するのは確定だ。しかし、問題はその『広さ』だ。美食神がこれから遺していく世界の食の記憶。それが途轍もない膨大な書物(データ)になることは間違いない。最初からその全てを収める規模にするとなると、この家自体が城のようになってしまう。

 

 (……まあ、いいか! 最初から完璧を目指しすぎても工期が伸びるだけだ。まずは現実的に普通くらいの広さの書庫を作っておいて、将来本で埋め尽くされそうになったら、その時に俺がまた『増築』して広げてやればいいだけの話だろう!)

 

 現場の状況に合わせて柔軟に対応する。それこそが叩き上げの大工の強みだ。俺は爪の先をペンのように使い、グルメ細胞のエネルギーで脳内の設計図を次々と目の前の白紙(一龍が用意しておいてくれた皮紙)へと正確に書き起こしていった。ミリ単位の狂いもない、大工・二鳥の劇的ビフォーアフター設計図がここに完成した。

 

 「よし……! ひとまず家の図面はこれで完璧。二郎のための『公園』は、家を仕上げてから後回しでじっくり取り掛かることにしよう」

 

 書き終えた設計図を愛おしそうに見つめながら、俺の胃袋がワクワクと音を立てる。一龍兄貴が帰ってきたら、いよいよこの人間界での初現場が本格的に幕を開ける。前世の孤独な大工だった俺が、今度は大切な家族のために最高の「家」を建てるんだ――その高揚感に、俺の鳥肌は熱く粟立っていた。

 

 (よし……それじゃあ、まずは改築部分を解体する前に、2階が落ちてこないように『仮設の支柱』を建てなきゃな)

 

 俺が現場の段取りを考えていると、奥から出てきたアカシア様が「これを使うといい」と、手頃な太さの頑丈な角材をいくつか軽く用意してくれた。さすが美食神、こちらの意図を察するのが早くて本当に助かる。俺はその角材を支柱として固定するため、右手にエネルギーをググッと凝縮させた。大工の魂がそのエネルギーの形を脳内でカチリと成形する。

 

 「お前は今日から……『トンカチ』だ!」

 

 手元に具現化したのは、前世で何万回と握り締めてきた、馴染み深い形状のシンプルな金属頭のハンマー。俺がその『トンカチ』を構え、仮設の支柱を立てるために床や梁へとカン、カン、とリズミカルな音を響かせ始めた、その時だった。

 

 トコトコトコ……。

 

 (ん?)

 

 その規則正しい大工の物音に惹かれたのか、隣の部屋で眠っていた二郎が目を覚まし、寝室から出てきてこちらをじっと見つめていた。ノッキングで大人しくなったその瞳は、俺の手元で行われている「モノ作り」の光景に、もの凄く興味深そうだ。

 

 「二郎、そこは危ないからあっちに行きなさい。怪我するぞ?」

 

 親方として現場の安全第一を掲げ、少し厳しい声で諭してみる。だが、二郎は何故か言うことを聞かず、むしろ楽しそうな音に引き寄せられるようにジリジリと近寄ってくるではないか。

 

 (ちょ、待て待て! 釘とかが散らばっててマジで危ないって……!)

 

 俺がブルーニトロの身体で二郎を遮りながら困り果てていると、タイミング良くキッチンの奥からフローゼ様が姿を現した。

 

 「ふふ、二郎。二鳥お兄ちゃんのお仕事の邪魔をしちゃダメよ。さあ、私と一緒に美味しい朝ごはんの準備をしましょうね」

 

 フローゼ様は優しい笑顔で二郎の手を引くと、抱き上げるようにしてあっさりと現場から回収していってくれた。

 

 (ふぅ……フローゼ様、マジでナイスタイミング。感謝です……)

 

 ホッと胸を撫で下ろし、俺は再び支柱の固定作業へと意識を戻した。だが、二郎の乱入で少し気が逸れてしまっていたのだろう。一瞬だけ、手元の感覚がブレてしまった。

 

 カーーーーンッ!!!!!

 

 (あ、やべ。ちょっと強く打ちすぎた……!)

 

 ブルーニトロの規格外のパワーが乗ってしまったその一撃。見れば、アカシア様が用意してくれた頑丈なはずの角材の頭が、俺のミスによって無惨にぐにゃりと凹んでしまっていた。このままでは負荷がかかった時にそこからポッキリ折れてしまい、仮設の支柱としての役割を果たせない。

 

 (クソッ、せっかくの新品の資材を一個無駄にしちまったか……? 待てよ、原作知識を思い出せ。この世界には確か、欠けた食材すらもとに戻す『再生包丁』なんていう凄まじい技術があったはずだ。……あれ、大工道具のハンマーでも真似できないかな?)

 

 壊れた構造を、グルメ細胞のエネルギーで無理やり『再生』……いや、職人らしく言えば『再利用』だ。俺はトンカチを握る手に今度は「修復」のイメージを込め、凹んだ丸太の頭を優しくコツンと叩いた。

 

 再利用金槌(リサイクルハンマー)

 

 ピキィィン……ッ!

 

 「……あ、戻ってる…」

 

 驚いたことに、叩かれた丸太の凹みは、まるで時間を巻き戻したかのように一瞬で元の真っ直ぐで綺麗な姿へと修復された。

 

 (え、どういう原理これ? 叩いて直るって、昔の昭和のテレビじゃないんだから……まあ、いいか! 大工としてはこれ以上ないくらい最高に便利な技だし、覚えておこうっと!)

 

 職人のアバウトな順応力で納得し、俺は無事に頑丈な支柱を建て終えた。その瞬間、家の外から「おーーーい! 二鳥ーーー!」と、地響きのような大声が響き渡った。

 

 ドササササササササァァァッッ!!!!!

 

 扉の向こうから現れた一龍は、一人で一個分隊が動かすような量の、大量の極上木材と、基礎に使うための頑強な石材、さらに補強用のレアな金属を山のように背負って戻ってきた。

 

 それだけでなく、何故かおまけとして「防寒用か何かに使えると思ってな!」と、何処かの巨大な猛獣から剥ぎ取ってきたであろう、ふっかふかの動物の毛皮まで器用に担いでいる。

 

 「待たせたな二鳥親方! 資材調達、完了だ!」

 (……一龍兄さん、木材多めとは言ったけど、いくら何でも持ってきすぎだろ。でも、これなら最高の家が建てられるぜ!)

 

 頼もしすぎる現場の若い衆(兄貴)と、無限にやり直せるリサイクルハンマーを手に入れた俺。二鳥親方の劇的ビフォーム大工事が、いよいよ最高の資材と共に、本格的な爆音を上げてスタートしようとしていた。

 

 (よし、資材は揃った。ここからはスピード勝負だ)

 

 俺は一龍兄さんがドサッと下ろした山のような木材の中から、手頃な大樹を一本選んだ。そして、ブルーニトロの鋭い爪を「ノコギリ」代わりにして、目にも留まらぬ速さでスパッと一太刀入れる。

 

 「一龍兄さん、これを見てくれ」

 

 切り出したのは、ミリ単位の狂いもない、俺が理想とする厚みと長さを持った一枚の綺麗な板材だ。

 

 「持ってきた木材を全部これと同じ厚さと長さに加工してほしいんだ。これを床材や壁の補強に使いたい」

 「おう、なるほどな! ……で、どれくらい必要だ?」

 

 一龍兄さんが大量の木材の山を見上げながら尋ねてくる。俺は少し頭の中で計算し、職人としての現実的な段取りを伝えた。

 

 「とりあえず、今持ってきた量の『三分の一』を板材にしてくれ。最初から全部やると時間がもったいないからな。足りなくなったらその都度また追加で加工すればいいさ」

 「ハハ、効率的でいいな! よし、すぐ終わらせてやる!」

 

 一龍兄さんが豪快に腕をまくり、大樹に向かって凄まじい手刀を振るい始める。兄さんが板材の量産に入ったのを確認し、俺は再び、家全体の重みを支えるための仮設の支柱建設へと戻った。トントン、カンカン、と小気味良い大工の物音が響く。すると、その音を聞きつけたアカシア様が、リビングの奥から様子を見にやってきた。

 

 「二鳥、順調そうだね。何か私にも手伝えることはあるかな?」

 

 美食神からの直々の「お手伝い」の申し出。俺は少し恐縮しつつも、現場で一番気になっていた『ある問題』を思い出し、アカシア様を見上げた。

 

 「あ、ありがとうございます、アカシア様! それなら、一龍兄さんがさっき木材と一緒に持ってきた『動物の毛皮』なんですけど……。野生の猛獣の匂いがちょっとキツくて、このまま家に置くのは厳しいんです。もし良ければ、匂い消しのために洗濯をしていただくか、消臭剤のようなものが欲しいのですが……」

 「なるほど…確かにこれはなかなかの匂いだね」

 

 アカシア様は毛皮に一瞬目を向け、少しバツの悪そうな顔で微笑んだ。

 

 「フローゼは今、二郎と一緒にみんなの朝ごはんの調理中だから、洗濯のために手を離すことができないんだ。よし、それなら私が今から街まで出かけて、強力な消臭剤を買ってこよう。少し待っていなさい」

 「すみません、助かります!」

 

 アカシア様はマントを翻し、風のように爽やかに家を出ていかれた。世界を救う美食神に消臭剤のお使いを頼んでしまったことに少し笑ってしまいそうになるが、おかげで現場の環境は劇的に良くなりそうだ。それからしばらくして。俺が改築エリアの天井を支える最後の支柱を、ガチッと完璧な位置に固定し終えた、まさにその瞬間だった。

 

 ズバァァァンッッ!!!

 

 「ふぅ! 二鳥親方、言われた通りの分、きっちり板材に加工し終わったぞ!」

 

 一龍が最後の大樹を綺麗にスライスし終え、額の汗を拭いながら声をかけてきた。見れば、俺が渡したサンプルと全く同じ厚さの板材が、寸分の狂いもなく綺麗に積み上げられている。一龍の驚異的な身体能力と、言われた通りの仕事を一瞬でこなす職人としての素質の高さに、俺は内心で深く舌を巻いた。

 

 「さすが一龍兄さん、最高の仕事だ! 支柱の建設も今ちょうど終わったところだよ」

 

 家の骨組みを支える準備は全て整った。床には、兄さんが用意してくれた極上の板材がズラリと並んでいる。

 

 「よし、それじゃあいよいよ、本格的な『解体』と『大釜の設置』の工程に入るか!」




まとめて書くと二万文字は超えそうだと判断し、分けます。続きは明日の18時に投稿を間に合わせます。
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