気付いたら古代中国   作:銀鱈

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割と難産でした。

ただ、ねねは異様に書きやすかった。

ロリコンじゃないはず。ロリコンじゃないはず。



腹の探り合い

 文遠に起こされた後、俺達は謁見の間に向かってるわけなんだが、なんでそんな所に向かってるかっていうと、董仲穎に俺を会わせたいかららしい。荒野で会った時は、とりあえず情報が欲しかったから二つ返事で頷いたが、よくよく考えると妙なんだよな。俺と文遠は初対面だったわけだ。話した内容は日本酒と出身地、あとは気付いたら荒野で寝てたってこと。たったそれだけの話からなんで自分の主に会わせたいと思うんだ?意味がわからん。そういや奉先が俺を連れていきたいって言った時、文遠が占いがどうとか言ってた気がする。そこらへんが関係してるのか?

 

 まあ、占いが関係してるとして、内容が分からないんじゃ動きようがないよな。とりあえずそっちは置いておこう。恐らくはそれも交えてこれから話があるはずだ。

 

 それよりはこれからどうするかだ。少しずつ情報は集まって来てるが、肝心な『この世界に俺が居る理由』と、『どうやってこの世界に来たか』がわからない。元の場所に帰る手段。それに繋がるであろう一歩目の情報がわからないってのはなぁ。これ、大分詰んでないか?不味いなぁ。

 

 というかそもそもの話、本当に帰る手段ってあるのか?あるってのが確定してるならその手段を探すために大陸中旅するのも考えなくもないんだが、あるかどうかすらわからないんじゃな。闇雲に探すのは止めるべきだろうなぁ。無駄が多過ぎるし。

 

 ならまずは衣食住を充実させるべきだよな。そのためにも金が必要だ。あ、衣食住で思い出したが、腹が減ったと言ってた奉先は飯食えたんだろうか?一緒に昼寝しちゃったが。

 

 

「そういえば奉先、飯は良かったのか?一緒に昼寝しちゃっただろ?」

 

「大丈夫。霞と十蔵が八百屋見てるとき、先に城に帰って食べた」

 

「あん時の十蔵の熱中具合はほんま凄かったで。八百屋で鬼気迫れるんは後にも先にも十蔵だけちゃうか?恋が帰ったんにも気付かんかったしな」

 

 

 そ、そういえば途中から居なかったな。不覚だ。周囲の人が移動する気配に気付けないとか。まだまだ精神修養が足りないのか。

 

 

「すまないな。いろいろ気になることが多くて気付けなかったよ」

 

「・・・・・(フルフル)」

 

 

気にしてないって言ってるのかな?お言葉に甘えさせてもらおう。だがまぁ今後、精神的な鍛練を重点的にしていこうかな。まだまだ未熟だな。

 

道中そんなことを話しているといつの間にか大きな扉の前に来ていた。衛兵が両脇を固めているということは、相当重要な場所なんだろう。恐らくこれが―――

 

 

「着いたで。謁見の間や」

 

「思っていたより大掛かりなんだな」

 

「そら当たり前や。客の話を聞くための公式の場所なんやから。それだけあなたを重要に考えてますよー、っちゅう意味もあんねん。ま、ひっくるめりゃお互いの面子の為やな」

 

「成程ね」

 

 

 文遠の話に納得していると、衛兵が俺に向かってくる。

 

 

「お客人、腰の物をお預かりします」

 

 

 どうやら謁見の間に武器を携帯することは出来ないようだ。まぁ当たり前か。俺は董仲穎の部下ではないし。万が一を考えて、ということだろう。

 

 

「あぁ、わかった。済まないがこれも頼む」

 

 

 俺はそう言って刀とリュックを渡す。酒とジャーキーしか入ってないし、まあ問題はないだろ。

 

 

「お預かりします」

 

 

 衛兵は俺の荷物を受け取ると元の位置に戻って行く。俺はすぐに視線を扉に戻した。

 

 中にいるのは董仲穎と詠とかいう人だな。まぁ、もしかしたらほかにも居るかもしれないけど。というかいるんだろうな。あの董仲穎の軍がそんなに人材不足な訳は無いはず。

 

 はぁ、こっちの手札は少なすぎるぐらい少ないのに対して、あっちの手札は太守ということもあってたんまりだ。しかも何か重要な情報を持ってる。この状況で三国時代の英傑と腹の探り合いとか、どんだけ難易度高いんだよ。俺、あんまり頭良くないから苦手なんだよな。腹の探り合い。まぁ、劣勢のこの状態は、嫌いじゃないんだけどな。やっぱマゾなのか?死んだ親父にも言われてたし。自分の息子をマゾマゾ言って指差しながら笑う親父ってどうなんだ。

 

 あ、なんかイライラしてきた。

 

 

「十蔵?しかめっ面してどしたん?」

 

「いや、ちょっと嫌なことを思い出しただけだよ。気にしないでくれ」

 

「そか?んじゃ中入るで。月!詠!ウチの客連れてきたで!」

 

 

 衛兵が扉を開けようとしてるのをまどろっこしいと感じたのか、文遠自ら扉を開けて中に入っていく。

 

 広い部屋だ。机などはなく、奥に階段がありその上に椅子がある。恐らくその椅子に座っているのが董仲穎だろう。董仲穎の右に同じぐらいの背丈の緑色の髪をした女の子。階段の下には左右に一人ずつ。向かって右が薄紫色の髪の子、左がちみっこい緑の髪の子か。やっぱ全員女性なのか。というか董仲穎の横にいる子、眼鏡してる。この世界、技術進歩がぐちゃぐちゃだろう。何がどうなったらこうなるんだ。そういえば服装も現代物っぽいし。ファッションには興味がないからよくわからないけど。

 

 ん?なんかちみっこい子の目が光った気がする。

 

 

「恋殿ぉおおおお‼ 会いたかったですぞぉおおおお‼」

 

 

 うぉっ!?なんか凄い迫力で俺らのとこに来た!あ、てかこれ、奉先へ向かってきてるんだな。

 

 

「ちんきゅー・・・うるさい」

 

 

 奉先はそう言いながら向かって来たちみっこい子を躱した後、彼女の背中の襟を持って引きずりながら奥に向かう。シュールだ。

 

 

「あ、恋殿! 首が、首が苦しいのです! む!」

 

 

 ちみっこい子と目が合った。よくわからんが睨まれてるな。何かしたっけか?

 

 

「お前は誰なのです!・・・はっ!わかったのです‼ねねの恋殿を誑かそうとしている変態なのです‼そうは問屋が卸さないのですぞ‼ちんきゅーきぃっ・・・・ぐ、恋殿ぉ襟を離してくれないと恋殿を狙ってるあの狼を倒せないのです」

 

 

 なんかいつの間にか変態認定された。ていうかあの子すごい自由だなぁ。董仲穎は苦笑してるし、眼鏡の子は頭を抱えている。薄紫の髪の子に表情は変化がない。堅物なのか?

 

 

「ねねのせいでいろいろ台無しだわ。この際だから言っておくけど、霞、せめてこちらが合図してから扉を開けなさいよ。・・・・精神的に負荷をかけて主導権握るつもりだったのに」

 

 

 なんか最後の方よく聞こえなかったな。口元は動いてたから、何かつぶやいてたと思うんだが。

 

 

「ははは。ごめんなぁ。許してや。次気を付けるよって」

 

 

 そう言いながら、文遠も奥に進む。奉先と文遠が董仲穎の前を開けるように左右に並んだ後、俺も奥に向かった。

 

 これが、董仲穎か。薄紫の髪に儚げで可愛らしい表情だが、どこか簡単には折れそうにない強い意志を感じる。これは傑物だ。というか悪逆非道、酒池肉林どこいった。

 

 あ、ずっと黙ってても失礼か。形上は文遠の願いで俺をここまで連れてきたといっても、相手は太守だ。少し畏まって挨拶した方がいいかな。

 

 

「董仲穎様。お初にお目にかかります。張文遠殿の願いにより、ここに罷り越しました。姓は鈴居、名は十蔵と申します。隴西の街におきましては人々の笑いが絶えず、流石は天下に名高い董仲穎様治める地だと納得した次第です。私も一層努力をせねばならぬと考えています」

 

「あ、こ、これはご丁寧に」

 

 

 なんかすごいペコペコ頭を下げられているんだが。あっれー?もうちょい上から来るかと思ったんだけど。そう考えていると「ぶほっ」って音が聞こえた。

 

 

「・・・あかん!あかんて!十蔵、なんて言葉遣いしてるん!全く似合ってへんて!はぁっ、はぁっ、腹痛いわぁっ。誰か助けてくれっ」

 

「十蔵、気持ち悪い」

 

 

 音の発生源見たら現在進行形で大爆笑中の文遠となんとなく嫌そうな顔してる奉先が居た。むう、そんなに変か?ショックだ。

 

 

「十蔵、普段通りでええで。そっちのがお互い楽やろ」

 

「・・・・(コクコク)」

 

 

 そう言われてもな、とりあえず董仲穎の方に顔を向けると、笑いながら頷いてくれた。太守自ら許可をくれたんだ。俺も畏まったのはあんまり好きじゃないし、口調を戻すか。

 

 

「それは助かる。畏まるのは苦手でね」

 

 

 そう言った瞬間、眼鏡の子の視線が鋭くなった。

 

 

「拱手はしないのね」

 

 

 拱手ってなんだったか。もしかしてあれかな、両手の掌を合わせたり、右手を左手で包んだりする奴。日本人じゃ普段そんなことしながら挨拶しないからな。不味かったかな。まぁちょうどいいと言えばちょうどいい。ついでに相手を少し揺さぶってみよう。さて、どう反応するかな。

 

 

「董仲穎殿の臣なわけでもないし、こっちは仲穎殿に会ってくれとお願いされた立場だ。拱手をする必要が?」

 

「貴様っ」

 

 

 右側の薄紫の子が声を荒げてきた。今にも掴み掛かってきそうだ。釣れたのはこの子だけか。

 

 

「君は?」

 

「我が名は華雄!我が主君、月様に対してそのような態度許せるものではないぞ!」

 

 

 華雄?華雄って確か、反董卓連合戦で、自分を侮辱され汜水関の守りを放棄して、冷静を欠いたまま負ける人だったか。成程、そうなったのも納得出来る。

 チラッと眼鏡の子を盗み見るとまずは状況を見極めるつもりのようだ。恐らく俺の無礼な言葉の意図にも気付いているだろう。これは手強いな。

 

 

「それで?」

 

「何っ?」

 

「仲穎殿を侮辱したという俺を君はどうするんだ?まさかその手元にある斧で客に斬りかかるのか?自分たちが呼んだ客に対してそのようなことをするとは、君を抱える仲穎殿の器も知れたものだ」

 

「なんだとっ‼」

 

「華雄さん。落ち着いてください」

 

「む、月様。しかしこ奴は」

 

「問題ありません。申し訳ありませんでした、鈴居さん。確かにあなたは私たちが招いた形になります。そのままの格好でお願いします」

 

 

 へぇ、自分が侮辱されたのを分かっているはずなのに、それは置いといて部下の為に頭を下げられるか。驚いた。先ほども思ったけど、これは傑物だ。

 

 

「いや、俺も大人気なかった。すまない。それで用件は何かな?」

 

「その前にこちらの自己紹介をさせて。名乗り出て貰ってるのに名乗り返さないなんて非礼だもの。私は、賈詡文和。董家の筆頭軍師をさせてもらってるわ」

 

「華雄だ」

 

 

 むすっとした顔で一応名乗ってくれる華雄。あれはまだ納得出来てない顔だな。

 

 

「知っとると思うけど、張遼文遠や」

 

「・・・・呂布奉先」

 

「ねねは陳宮公台なのですぞ!お前に恋殿はやらないのです!」

 

「私が董卓仲穎です」

 

 

 董卓、賈詡、呂布、張遼、華雄、陳宮て。英傑揃い踏みだなぁ。陳宮についてはあまり詳しくないけど、確か呂布が信頼した軍師だとかいう話だったか。まぁべったりだしな。奉先は少しうっとおしいこともあるようだが。

 

 

「自己紹介が終わったところで、十蔵連れてきた理由なんやけどな。ウチが考えるに十蔵が天の御遣いやと思うねん」

 

「天の御遣いってあの管輅とかいう占い師の?眉唾物だと思ってるんだけど」

 

「生まれが漢から海を渡ったとこにあるのに、気付いたら知らない荒野に寝てたねんて。見たことのない武具と見たことのない酒、干し肉はまぁあれやけど。それに普通におかしいねん。隴西の街も知らんのに何故か月の名前は知ってたんよ。隴西の街では、「民人は字を読めないのか?」って聞いてきたん。どう考えてもおかしいやん」

 

 

 文遠の言葉に口に手を当てながらぶつぶつ呟きだす賈文和。しかし、こうやって聞くと、俺って隙あり過ぎじゃないか?ちょっとへこみそうなんだけど。あぁ、精神的疲労を酒で和らげたい。それってちょっと駄目じゃないかと思ってても。というか早速占いの話が出たか。

 

 

「すまないな。ちょっと事情がわからないんだが、その占いってどんな占いなんだ?」

 

「管輅の占いを知らないの?今、国中で大騒ぎなのに?」

 

「あぁ」

 

 

 それを聞いてまたブツブツと呟きだす文和。なんか不味かったか?

 

 

「占いについて教えるわ。管輅っていう占い師がいてね。普段はあまり当たらないらしいんだけど、何故か今回の占いだけすごい勢いで国中に広まってるのよ。その内容は」

 

 

 

――天より飛来する流星。白く輝く衣を纏いし天の御遣いを乗せ、漢に降り立つ。

――その者、大いなる天の知恵を用いて乱世を鎮めん。

 

 

 

「だったかしら?」

 

 

 ふむ。つまりあれか。俺はその天の御遣いだと思われているのか。んな馬鹿な。しかし国中にその占いが広がっていくっていうことは、もうこの国不味いんじゃないか?それだけ国民が国に対して不安感、不信感を持ってるってことだろう。つまりは。

 

 

「そんな占いが広がるぐらいに、この国は腐敗しているということかな?」

 

「否定出来ないわね。国の中枢、洛陽では大将軍何進と十常侍を中心とした宦官が反目し合って足の引っ張り合いをしてるって話だし。そのせいで、大規模な政策は頓挫して個々の太守が自分の裁量で動くしかないっていう状況よ。むしろ動かないと、民に蜂起されるわ。この頃は、名家袁家の領地で民の蜂起が相次いでるっていうし。もちろん少なからずその余波はこちらまで来てるしね」

 

 

 思った以上にこの頃の時代は不味いんだな。このままだと国の腐敗は進む一方で、最も苦しむのは民ばかりってことか。最悪だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今、ボクは謁見の間で霞が連れてきた客人っていうのと話をしている。霞がいうには、この鈴居十蔵って男が、胡散臭い占い師の占いで出てきた天の御遣いだって話なんだけど。ボクはそんな占い信じてないしね。まぁ、もしも本当に天の御遣いだっていうなら、月を天下人にするっていうボクの野望が大きく前進するのは間違いない。人の噂って力だもの。最悪、全然関係ない人をあまり人目につかせず御遣いがいるっていう話だけで国を強くするっていう策もあるんだけど、そういうのは月が嫌うし。月の嫌なことはしたくないもの。それは使えないわ。バレタときの反動も怖いし。

 

 御遣いかどうかは抜きにしても、この男は悪くない。頭の回転は速いようだし、月を侮辱して、ボク達がどんな反応をするか試してたみたい。華雄はそれにまんまと乗っちゃったわけだけど。目線が華雄そっちのけで、ボクと月に向かってたわ。どうやらこの中で一番警戒されてるのはボクみたいね。一番の難敵を見極めて、その人の動き、思考を観察する。舌戦でそれが出来るってことは外交官の最低条件は満たしてるわ。

 

 天の御遣いじゃないとしてもこの男はうちに欲しい。月の下には武官は十分いるけど、文官が不足してるもの。ボクは月から離れられないし、ねねは戦略じゃなく戦術向きだわ。この男のような人材が今うちには居ない。

 

 

「ねぇ、質問があるんだけど」

 

「?なんだ?」

 

「あなた、算術は出来るの?あと文字の読み書きとか」

 

「算術、数学ね。簡単な物は出来るな。文字に関しては、文字自体はわかるんだけど、文法がわからないって言った方がいいか」

 

 

 その言葉を聞いて思わず小さく拳を握ってしまった。これは是が非でも欲しい。算術が出来るなら簡単な仕事はすぐに回せるし、文字自体はわかるってことは、文をどういう流れで読めばいいか教えるだけだもの。そういう書もあるし、一から教えるよりは断然楽だわ。

 

 

「武の方はどうなの?」

 

 

 ボクはそう言って、霞と恋を見る。

 

 

「十蔵は強いで。まず足腰がしっかりしとる。体の中心もぶれへんし。武器自体は小さくて馬の上で戦うのは厳しいやろうけどな。どっちかというと建物の中で戦うことで本領が発揮出来るんやないか」

 

「・・・・十蔵は強い。恋と十蔵殺し合いしたら、たぶんどっちも倒れる」

 

 

 

「「「「「「!!」」」」」」

 

 

 

 恋のその言葉に恋以外の全員が驚愕の顔をした。あの天下の呂奉先にそこまで言わせるって。恋はぽやぽやしたところがあるけど、武力はボク達の中で最強なのに。霞と華雄が二人掛かりで戦っても勝てない恋と同等の武力があるなんて。心なしか恋の言葉を聞いてウズウズしてるのが二人いるわね。なんとか耐えて試合は後にして欲しい。早く話を進めよう。

 

 

「鈴居十蔵、あなた月の、董卓仲穎の臣下にならない?」

 

「ふむ」

 

 

 即断で断られないということは少しは目があるのね。ここは畳みかけるべき。

 

 

「正式な臣下というのが迷っている理由なら、客将というのもあるわ。正式な臣下よりは給金は少ないけれど、その分、自由がきく。どう?」

 

 

 そういうと決断したのか鈴居が顔を上げた。

 

 

「じゃぁそれでいこう。いつまでになるかわからないが、よろしく頼むよ」

 

 

 ヨシッ‼とりあえずの囲い込みは成功ね。彼をさらに囲むためには、やはり天の御遣いだと吹聴するのが得策だわ。所々占いと違う所はあるようだけど、占いは占いだもの。小さな差異はなんとかなる。霞から聞く限り、全くの見当違いというわけでもないようだし。

 

 

「じゃぁ早速、あなたを天の御遣いとして噂を流すわ。そうすれば、今以上に人が集まって動きやすくなるし」

 

「あ、それはやめたほうがいいんじゃないか?」

 

 

 鈴居からそう言われてしまった。何故?何か不味いことがあるということ?

 

 どんな不味いことがあるか考えていると、鈴居が理由を言って来た。

 

 

「この国は帝を第一に考えているんだろう?確か、天子とかいう呼び方もあった気がしたんだが。『天』とつく国一番の権力者がいるのに、天の御遣いなんて名乗ったら後々、面倒じゃないか?下手な言い掛かりで全員首を斬られそうだ。俺の服装も占いとは違うようだし。俺もそんなこそばゆい呼ばれ方されたくないしな」

 

 

 鈴居の言うことを反芻する。確かに、洛陽にいる人間ならやりかねない。帝が止めようとしてもだ。こんなことにも気づかないなんて。もう少しで、月を危険に晒すところだったわ。ごめん、月。

 

 

「わかったわ。あなたを天の御遣いとして吹聴しないことにしましょう」

 

「ありがたいね」

 

 

 とりあえずは鈴居に任せる仕事の選別をしないといけないから、今日のところはここで解散よね。客将だって話だけど、使える人材を遊ばせとく食料も暇もないのよ。

 

 

「明日からいくつか仕事を任すわ。今日の所は、扉の外にいる者に部屋に案内してもらって。明日からよろしくお願いするわ」

 

「わかった。こちらこそ宜しく」

 

 

 そう言った後、鈴居は謁見の間を出ていく。思った以上の収穫ね。霞と恋には感謝しなきゃ。さて早速部屋に戻って鈴居の仕事を選別しよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あ、向こう一応客人で、明日から客将扱いになるのに最後に月に挨拶してもらうの忘れてた。月なら許してくれそうだけど、早く謝らないと。う~。ごめん月~。

 

 

 

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