『英雄の器は俺じゃない ~世界最強の盟主になった一般人は、人類最後の希望を演じ続ける~』   作:マスターBT

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ユーラシアの戦い

「隊列を乱すな!!視野を広く持て!!貴様ら一人一人の目が隣に!!前に!!後ろに居る同胞の命を決めていると思え!!」

 

「「「「「はっ!!!」」」」」

 

 雪が降り積もるユーラシア支部の本拠地とされる『エカテリンブルク』から、北東へ五キロ進んだ湖を目的地とした行軍が行われ、スラヴィクの指示が響き渡っていた。

 彼等の手には『AK-15』と呼ばれていたアサルトライフルをベースに主に、火力と装弾数に改造が施されたユーラシア支部の正式採用アサルトライフル『AK-M』が握られている。

 

「はっ、はっ、はっ」

 

 ユズリハの呼吸は僅かに乱れている。

 彼の先を歩くスラヴィクがしっかりと踏み固めているとは言え、銃と荷物を合わせれば約25 kg に至る重さを持ち踏ん張れば沈む雪道を進むというのは年齢も体格も小さい彼には過酷な環境だ。

 

「どうした?随分と息が上がっている様だが、もう休憩か?昼寝にはまだ早いぞお子様!!」

 

「ッッ、まだいけます!!」

 

「はっ!!なら呼吸を整えろ。身体の動かし方を頭で考え、最も楽にかつ進める最適な動かし方を導き出せ」

 

「はっ!!」

 

 寒い筈なのに流れてくる汗を拭い、ユズリハは言われた通りに呼吸を整える。

 口から入ってくる冷たい冷気が焦りという熱を奪っていくのを感じながら、酸素の一つ一つが身体を巡り細胞へと行き渡るイメージを持ちクリアになっていく頭で目の前を歩くスラヴィクの堂々たる動きを真似ていく。

 

──最もキツいのは、誰にも踏み均されていない雪道を歩くスラヴィク支部長だ──

 

 常人であれば膝下まで沈む雪道を、恵まれた身体で突き進むスラヴィクは微塵も疲れた様子を見せない。

 しかも大きな足で一歩、一歩、雪を踏み締め後続が歩きやすい様に進んでいるにも関わらずだ。

 

「……デカい人だ。色んな意味で」

 

「そうですね……」

 

 後ろを歩く同僚もスラヴィクの背を見て思うところがあったのか、感嘆の声を溢す。

 

「……どうやら貴様らは運が良いらしいな」

 

 何処までも踏み進めていくであろう力強い一歩が止まるのと同時に、ユズリハ達に緊張が走る。

 後ろ手に止まるように指示を出したスラヴィクの視線の先、白い大地に悠然と"ソレ"が立っていたからだ。

 

『グルル……』

 

 かつては白く美しかったであろう白い体毛の半分を、生命とは異なる輝きを放つ無機質な金属へと変質させ凡そ、生物としてはあり得ない真っ赤な光を輝かせる獰猛で無機質な瞳が彼等を射抜く。

 

「ッッ……アマルガム」

 

 部隊に緊張が走る──慣れない実戦というのもあるが、彼等の視線の先に居るのは()()()ではないからだ。

 何処に隠れ潜んでいたのか、或いは溶け込んでいたのか白い景色から染みのように現れる狼のアマルガムは三匹。

 

『アォォォン!!!!!』

 

 その中で最も肉体が大きい物が吠えるのと同時に三匹のアマルガムは走り出す。

 人間とは違う四本の足で強く、雪の大地を踏み締めながら沈むより早く前へと駆け出す彼等は正しく雪原の狩人に相応しい。

 

「ひっ!?」

 

「く、クソッ!!喰われてたまるかよ!!」

 

 それに対し、幾ら訓練を施されたとは言え駆け出しの軍人である彼等はアマルガムの咆哮に呑まれ、ガタガタと震える手つきでアサルトライフル『AK-M』を構える。

 

「ぼ、僕はまだ死ねないんだ……!!」

 

 彼等に続く様に恐怖心に突き動かされるユズリハもまた、『AK-M』を構えようとするがそれよりも早く、雪原の狩人達の咆哮よりも恐ろしい男の指示が飛ばされる事になる。

 

「訓練通り動け!!二人一組の基本を忘れるな馬鹿ども!!!陣形を横へ展開、隣人を信じろ!!背中を預ける仲間を信じろ!!」

 

「「「「ッッ!!」」」」

 

 一歩前へ、一切の恐怖心もなく足を進めるスラヴィクの号令が彼等の恐慌を瞬く間に打ち消したのだ。

 アマルガムは依然、迫ってきているが彼等は指示の通りに素早く陣形を整えていく。

 

──誰よりも最前線で仁王立ちする背中が何よりも信じられるからこそ──

 

『グルァァ!!』

 

 雪に足を捕られるため、陣形の展開が遅れる中、先駆けと群れの中で一番大きな個体が咆哮共に飛び出す。 

 

「フンッ!!」 

 

『ギャイン!?』

 

 が、機先を制するスラヴィクの拳が顎を真下から捉え、派手に吹き飛ばす。

 

「撃てぇぇぇい!!」

 

 常人であれば耳を塞ぐ銃声の大号令が響き渡る。

 改造により、取り付けられたドラムマガジンの装弾数──200発がアマルガムを撃ち破らんと迫る。

 

『グルァァ!!』

 

 しかし、その人間であれば容易く蜂の巣へと変えであろう弾丸の雨は金属の身体を持つアマルガムには効かないのか、甲高い金属音と共に火花を散らすのみだ。

 

「効いてない!?」

 

「狼狽えるな馬鹿者!!撃ちきった者から後ろと交代。連中を銃弾の雨に押し込め!!」

 

「は、はいっ!!」

 

 カチッと弾切れを知らす音共にユズリハは、後ろの者と交代し背負っていたリュックからドラムマガジンを取り出し、手早くリロードを済ませる。

 

「動けんだろう。貴様らの様な小型ほどこの戦術は有効的だ」

 

 スラヴィクはその風貌から、ゴリゴリの脳筋を想像させるがその実、軍略にも覚えがある叩き上げの軍人だ。

 自らの経験を下地に編み出された銃という点の武器を、人を用いて面へと変え相手の動きを縛る戦術。

 

 一つ、二人組を一つの駒とし、陣形を横へ広げる。

 

 二つ、二人組が前後となり、前の者が初めに射撃を行い弾切れ共に後ろと交代する。

 

 三つ、交代した者は素早く弾倉を入れ替え、次に備える。

 

「貴様らの身体は確かに銃弾を簡単には通さん。だが、生物であった名残りはいずれ限界を迎えると知っているぞ」

 

 止まる事ない銃弾が、アマルガムの身体で無数の火花を散らしその身体を少しずつ削り取っていく。

 

『グルッアア!!』

 

「ッッ!!」

 

 膠着を破るように飛び出す一匹。

 反射的に視線を向けるユズリハだが、すぐに視線を前に戻し引き金を引き続ける。

 

──あれを撃つのは僕の役割じゃない──

 

 『ギャ!!』

 

 メタリカによる金属化が甘かったのか、それとも銃弾の雨で削られていたのか飛び上がろうとした瞬間に銃弾が貫く。

 

 それが均衡が崩れる合図だったのか、次々とアマルガムの身体を銃弾が貫いていき、最も大きな個体が崩れ落ちた事で戦いはユズリハ達軍人の勝ちとなった。

 

「勝った……俺達、勝ったぞユズリハ!!」

 

「は、はい。お疲れ様ですジーンさん」

 

「「「うおぉぉぉぉ!!」」」

 

 互いを褒め合うユズリハ達の大歓声。

 ユーラシア支部がアマルガメイトではなくとも、軍人として扱うと知ってはいても、今日この瞬間までは捨て駒として扱われる覚悟をしていた者達の勝利の雄叫びは冷えた身体を一気に温める。

 

「(……持ち込んだ弾丸の半分以上を費やしたか。チッ、アルタが人民を動かせば良いものを)」

 

 歓声の中、一人冷静に戦果を吟味しているスラヴィクの視線の先、轟音に吸い寄せられた巨躯を捉える。

 

「……スラヴィクだ。見えているかミリネ」

 

『うん〜見えてるよぉ。新人達のチュートリアルはもう良いの〜?』

 

「狼共で十分だろう。アレはユズリハの教本とする」

 

『多分、何が起きたか分からないと思うけどねぇ〜』

 

「構わん……おい、ユズリハ来い」

 

「はいっ!!」

 

 雪を掻き分け、スラヴィクの横へ並ぶユズリハ。

 

「俺の指差す場所が見えるか?」

 

「え?……んっ!?」

 

 歓声を上げる者達はまだ気が付かないが、そう遠くない場所に大きな影が動く──ヘラジカだ。

 それも先程の狼よりもメタリカの侵食が進んでおり、身体の至る所には鋭い槍の様なものが生えていた。

 

「よく見ていろ。アマルガメイトの仕事を──撃て」

 

 空が青白い極光に染まり、一瞬の後に轟音と閃光が世界を照らし出すと異様な姿を見せていたヘラジカのアマルガムはその四肢を残し、肉体が消し飛ばされていた。

 

「……へ?」

 

『ふっふっふ〜〜これがボクの実力だよぉ☆』

 

 バチバチと電気の火花を散らす残骸にユズリハは頬を引き攣らせるのだった。

 

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