『英雄の器は俺じゃない ~世界最強の盟主になった一般人は、人類最後の希望を演じ続ける~』 作:マスターBT
人甲連が所有する実験施設は約5.7ヘクタール程ある二階建ての建物であり、一階には今回適正テストを受ける12人がそれぞれ、上から覗ける簡易的な仕切りによって分けられておりアルタ達は二階にある強化ガラス越しに彼らを見下ろしていた。
「今回は12人ですか」
「はい。前回より5人ほど多く、見て頂いた通り家族連れの者達もおり恐らく被験後の混乱は酷い物になるかと」
「……メタリカに適応出来るかは適正があってもなお、3.1%でしたね。当然、家族全員が無事などという奇跡はないでしょう」
「ですがアルタ様が受けた時のテストは1%も満たしていませんでした。それに比べれば」
「ライラさん。それは今から家族を失うかもしれない人達にとってなにも慰めにはなりませんよ」
肉体の記憶からこれから行われるテストがどれだけ残酷な数値を叩き出しているのか知ったアルタの顔は、良心の呵責から少し歪んでいるが控えているライラには見えていない。
「申し訳ありません」
「……いえ、私も強く言い過ぎましたね。共に見届けましょう、人類がこの地獄を生き延びる為の進化を」
これから最悪の場合、12人の命を奪う事になるアルタは、その命の重みを感じていない様に両手を広げ平坦な声で告げ指示を受けた者達が黙々とテストの準備を終えていく。
そんな人甲連の盟主として相応しい振る舞いを見せるアルタの胸中など、背後に控えるライラですら知る由はなかった。
「(……冗談でしょう。たった3.1%に命を賭けるしかないなんて!!ディストピア過ぎる)」
アルタが平然を保つ事が出来ているのは偏に肉体の記憶に引っ張られているだけで、魂である現代日本を生きた一般人の精神は成功率の絶望的な数字と自分がこれから背負う事になる命に悲鳴をあげていた。
だが、その悲鳴を表に出す事はアルタの肉体が許さず、誰にも気づかれる事なくテスト開始の合図が告げられる事となった。
「アルタ様、テストの準備が完了いたしました」
「そうですか。では始めなさい」
「はっ」
彼等のいる司令室から現場へと指示が飛び、被験者達は目の前に用意された四角形の機械へと利き手を乗せ椅子へと座る。
「拘束開始」
第一段階、メタリカとの不適合を起こした際、暴れる被験者を拘束する為の枷が彼等に施され両手、両足が通常の人間の力ではピクリとも動かせなくなる。
「被験者達の心拍、体温共に許容範囲。低濃度メタリカ注射開始」
第二段階、拘束具を通して被験者達の体調を最終確認すると、彼等の動脈に合わせて低濃度のメタリカが封入された注射が打たれる。
「今、この星では大気中にですら微量のメタリカが含まれています。故にこの低濃度では暴走する事は稀の筈ですが……」
「……被験者達の変異兆候なし。続いて中濃度メタリカ注射開始」
第三段階、低濃度メタリカによって被験者達が最低限の資質を得ている事を確認後、本格的に変異が始まる可能性が生じる中濃度メタリカが注射される。
低濃度までは、このディストピアと化した世界で生きていれば当然吸引する程度ではあるがこの中濃度からは本来であれば、避難が推奨されるレベルであり事前テストで適正があったとしても此処で変異を起こす者も少なくない。
「ッッ、試験番号3番、11番に変異の兆候あり!!」
「地下へ回収しなさい」
「はっ」
二名脱落とアルタが小さく呟くのと同時に、該当番号の被験者が装置ごと地下へと回収される。
彼等はこの後、変異の度合いを確認されその変異次第で役割は変わるが──その末路が死である事に変わりはない。
「被験者達のバイタルに乱れありですが許容範囲です」
「続けなさい」
「はっ。高濃度メタリカ注射開始」
最終段階、適正が少しでも足りなければ変異は確実とされる高濃度メタリカが注射される。
高濃度とはどれほどかと問われれば、用意されている注射器内部が全てメタリカであると答えるしかない──一切、加減なく100%濃度のメタリカを人体へと注射しているのだ。
「試験番号12番と7番を除く全てに変異反応!!ッッ、試験番号5番が拘束具を破壊しました!!」
「……確率を下回るところか、大外れまで出ましたか」
「アルタ様、今すぐ鎮圧部隊を」
「いえ、この失敗は俺が拭いましょう。鎮圧部隊の皆さんはどうぞ休んでいてください」
盟主であるアルタが真っ先に戦場に立つ、本来であればあり得ない提案であるのだが彼の言葉を受けた者達は止めるところか寧ろ、安心した表情を浮かべ彼が歩む王道を作るかのように動き始める。
「鎮圧にはアルタ様が御出撃なされるぞ!!他の変異者をすぐに回収しろ!!」
「適合者もだ!!万が一にでも、彼等を死なせてみろ!!アルタ様に顔向け出来ないぞ!!」
「近くまではお供致しますアルタ様」
「では、お願いしますねライラさん」
ライラを側に控えさせ、アルタは一気に騒がしくなった司令室を出て行く。
その足取りはとても自信に満ち溢れていて、これから戦場に立つという事に対する恐怖など微塵も浮かんではいなかった。
「(どうして格好付けちゃったかなぁ俺は!!)」
──ただ一人、彼の精神を除いて。
平和な暮らしが待っていると思っていた。
変な金属に包まれた野生動物や、会話も全く出来ない体の一部が金属になってる人間──僕達がずっと生きてきた世界はゆっくり眠るのも難しい場所で今日の試験?が終われば家族みんなで無事に過ごせるってお父さんが言っていたから。
「ユズリハ、明日になればこんなテント生活ともおさらばだ。みんなで頑張ろうな」
「うん!!」
「今日は奮発しましょうか!!こんな事もあろうかと、私用意していたのよ」
昨日はそう言ってお母さんが大事に隠していたお肉の缶詰を開けて、家族三人、大はしゃぎで食べたんだっけ。
僕には難しい話が分からなかったけど、きっとお父さんとお母さんは何かを察していたんだろうね。
「お、お父さ、ん?」
『ガァァァァァァァア!!!!!』
──だって今、僕の目の前には背中から金属の腕を2本生やして壁を壊して現れたお父さんが涎を垂らしながら吠えているんだから。
こんな姿を僕は外でたくさん見てきた……だから、もう目の前の存在がお父さんじゃない事は分かっているのに、逃げなきゃいけないのに拘束が外れた僕の足は震えてばかりで言うことを聞いてくれなかった。
『ガァァァ!!!!!』
「ひっ!?」
めちゃくちゃ大きくなった身体から振り下ろされる容赦のない拳が見えて、僕は意味がないのに咄嗟に身を丸くする。
僕の身体なんか簡単に包み込んで握り潰せちゃいそうな拳を、こんな風に丸まったところで吹き飛ばされて終わり──そう思っていたけど、僕が予想していた衝撃は訪れることなく、代わりに威圧感のある声と共に金属と金属がぶつかり合う甲高い音が聞こえてきたんだ。
「──やれやれ、回収出来て居ないじゃありませんか。
恐る恐る目を開けた先には、お父さんの拳を槍で受け止めている金属で作られた人?の背があった。
「そこの子供、立てますか?自力で避難が可能なら後ろにあるエレベーター、その入り口で立っている女性の元まで走りなさい」
「……えっと……あなたは……」
「……マイペースな方ですね。俺はアルタ・ミカエール、貴方達をこんな危険な目に合わせた人甲連の盟主ですよ」
僕を呆れたように見つめる半分金属のでも、整った顔をした人が名前だけは聞いたことがある
「えぇ!?」
「それだけの元気があるなら走れますね。早く逃げなさい」
「で、でもお父さんが……」
「……あぁ、そう言えば家族連れも受けに来ているとか言っていましたねぇ」
何処か遠くを見つめる様な視線になったアルタ様は、きっとお父さんを助けてくれる──そんな甘い理想を抱いていた僕を突き放す様に冷たい言葉で続けたんだ。
「ああなってはもう救えません。多くの被害を出す前に俺が殺します」
──僕の限界の心が折れるには十分すぎる言葉だった。
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