『英雄の器は俺じゃない ~世界最強の盟主になった一般人は、人類最後の希望を演じ続ける~』 作:マスターBT
私の人生は生まれた瞬間から死と隣り合わせでした。
「ぐっ……あぁ……」
「力まないで深呼吸して!!もう頭は見えているから!!」
「ひぃひぃ、ふぅぅ……ふぅぅぅ」
生まれる命よりも失われる命の方が遥かに多い世の中で、残っているまともな施設を使えたのは父が人甲連の役職持ちであったからで、そこだけは幸運だったけど16時間の激闘の末、産まれた私はアルビノを患っていた。
「髪が……それに肌も……」
「瞳も赤いですね」
健康児で生まれたとしても、三年生きれば良い方とされる世界でアルビノという先天性の欠陥を抱えた私を父は育てる気など全くなかった。
「娘はいない。それで終わりだ」
母がどんな会話をしたのかは知らないけど、あとで聞いた父はこのあまりに短い言葉だけで私と母を突き放したらしい。
普通なら絶望して、自殺してもおかしくない境遇に置かれたのに母は腕に抱く私を捨てる事をせず、メタリカに侵食された動物『アマルガム』から私を守りつつ、常に日光から庇ってくれた。
「チッ、無駄飯食らいが!!」
「働けもしないのに飯だけ食いやがって。それがどれだけ貴重か分かってんのか!?」
けど、母以外の世界は私に優しくなかった。
日光を少しでも浴びれば、紫外線を防ぐ術のない私の肌は焼け爛れ痛みから悲鳴をあげてしまう。
だから私は母が逃げ込んだコミニティで、仕事ができずただテントの中で過ごし運ばれてくる残飯に近いご飯を食べてどうにか生きながらえていた。
「アリッサ行ってくるからね。元気にしているんだよ」
「うん」
それでも仕事と言って、一度出たら二、三日は帰って来ない母の頭を撫でる手の温もりは暖かくてただ撫でられるだけで私は良かったんだ──その唯一の温もりすら奪われるまでは。
「アマルガムだ!!にげろぉぉ!!」
「ッッ!?アリッサ起きて!!」
ある日の朝、その日は昨日から母が居てくれたから久しぶりに優しい温もりに包まれている時だった。
テントの外から男性の恐怖に満ちた叫び声が聞こえ、飛び起きた母に手を引かれ外に出ると──そこは地獄だった。
『ガルル!!』
「うわっ!?た、たすけぎゃぁぁぁ!!」
「うわぁぁ!!」
野犬の群れが揃ってアマルガムに転じたのか、せいぜいが100人程度しかいない私達の集落に20匹以上のアマルガムが涎を垂らしながら逃げる人々を襲っていく。
それを母に手を引かれたまま、私は見つめ続けふと、こんな思いが駆け抜けた。
「(ザマァみろ。私を虐め続けるからバチが当たったんだ)」
……母以外、誰も助けてくれなかったのだから死んでも自業自得だなんて、傲慢で醜い感情だ。
それでも私は悲鳴をあげてアマルガムに食べられていく人々を見ると胸の奥がスカッとして、こうしている今も日に焼かれている痛みなんて微塵も感じていなかった。
だからきっと天罰が下ったんだ。
「きゃぁぁ!?」
いつも聞いている声なのに、その時聞こえてきたのは痛みと恐怖そして絶望に満ちた悲痛な声で何がなんだか、分からない私の顔を温かい真っ赤な液体が覆った──それが血である事に気がついたのはすぐ後だった。
「お、かぁさん?」
野犬のアマルガムが母の首元に噛み付き、凄い勢いで血が吹き出し私の世界を赤く染めていく中、徐々に小さくなっていくお母さんの悲鳴だけが耳にこびり着いて離れない。
呆然としているこの瞬間にも命を擦り減らしていく母。
「ッッ、助けなきゃ!!」
『グルル!!』
「きゃっ!?」
我に返って母を助けようと思ったけど、なんの力のもない鍛えてすらいない子供の力でアマルガムを引き剥がせるわけもなく、鬱陶し気に後ろ足で蹴られて無様に地面に倒れてしまう。
痛い……さっきまでの興奮もなくなったせいで、蹴られて転んだ痛みと日に焼ける肌の痛みが同時に襲ってきて涙が溢れだす。
「痛いよ……お母さん……」
「あ、が……アリッリリリリリリリリリ」
「お母さん?」
同じ言葉を繰り返すお母さんに伸ばしかけた手が止まり気がついた──あんなに噴き出していた血が止まっている事に。
恐怖に震えた目で私は見た。
血が噴き出していた首元が金属の様な色合いへと変化し、私を優しく見つめていた瞳は無機質で感情の籠っていない作り物みたいになっていくのを。
「ッッ!!」
逃げなきゃ!!そう思って、走り出したけど恐怖で縺れた足は二メートルも進まない内に私の言う事も聞かなくなった。
どさりと音と土煙を立てる私に、もう獲物を失った野犬のアマルガムと母の様に人から変異したラスティワンがゆっくりと向かってくる光景は思わず、振り返ってしまった私の心を折るには十分でした。
「……こんな人生なら生まれない方が良かったなぁ」
生まれた瞬間から死が隣にあるアルビノで生まれ、母以外の人からは偏見からくる差別と暴力を受け、こうして何者にもなれずに死んでいく……こんな人生に一体、何の意味があったんだろう?
「──よく逃げ延びましたね。これも全てアルタ様のお導きでしょう」
「ぇ?」
絶望の底に沈んだ私を掬い上げる様に聞こえてきた女性の凛とした声。
そこには一人に捧げる忠義の熱が込められていて、反射的に顔を上げた先には見た事がないくらい綺麗に整えられた服を着ている深い青色の長い髪の人でした。
「盟主アルタ様の代行者として、私、ライラ・ヘブライブが言語を解さぬ哀れな金属に裁きを下そうじゃありませんか!!感涙に伏せ、仰ぎ見ろ!!これが私の
ライラさんの身体が光ったかと思えば、女性的なシルエットを強く残したまるで女神の様な甲冑が展開され背中から大きく生える翼を羽ばたかせ、空に浮かび上がる。
「受けよ!!私の忠義の雨を!!」
手を翳すと共に展開された無数の剣がアマルガムやラスティワンへと降り注ぎ、その身体を貫き瞬く間に殲滅していくその姿を見て私は言葉を溢す。
「天の御使……」
もう私には母を失った悲しみよりも、生き残れた事に対する嬉しさそして何よりも翼を羽ばたかせる天使の美しさに魅了されていた。
「天の御使……その様に言われたのは初めてですが悪い気はしませんね。私が天の御使なら、即ち盟主アルタ様は正しく神の御使なのですから」
「だから、貴方様は神の御使なのです!!」
「ははっ……それは身に余る光栄ですね」
過剰表現が過ぎるだろ!!ライラさん!!!!!この子、目つきが狂信者とかそっちの類ですよぉぉぉ!!!
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