『英雄の器は俺じゃない ~世界最強の盟主になった一般人は、人類最後の希望を演じ続ける~』   作:マスターBT

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二回行動


演じる覚悟

「はぁ……まさかライラさんから崇拝をそしてアリッサさんからは狂信を向けられるとは思っていませんでしたね」

 

 あの後、どうにか興奮するアリッサさんを落ち着かせ、俺はアルタ・ミカエールとして与えられている自室に戻って来ました。

 この身になる前からは考えられない程の濃い一日を過ごしたせいか、質の良い椅子に体重を預けたまま俺はすっかり動けずに右手で目の辺りをマッサージしながらボーッとしていました。

 

「……メタリカ……アマルガム……ラスティワン……メタモルフォーゼ……そして、ワンマンアーミー……情報量が多すぎますよ全く」

 

 ただの一般人、強いて言うなら少々オタクな程度の俺が突然放り出されるにしてはこの世界は過酷過ぎます。

 人の死が当たり前で、訳の分からない金属生命体が動物や人間を乗っ取って凶暴にさせたかと思えばきっちり適合すればメタモルフォーゼの様な特殊能力を得る……そんな世界の盟主が俺と。

 

「そう言えば俺となる前のアルタ・ミカエールが何を成し遂げて来たのかは知らないですね。今日はどうにか誤魔化せましたが、明日もこの状況が続くのであれば上手く誤魔化し続ける自信はない……それなら調べましょうか。文明の利器がすぐそこにあることですし」

 

 机の端末を弄り、恐らくネットだと分かるGが特徴的なマークのやつを起動させる……この世界でも使われているんですねこのプラットフォーム。

 検索欄にアルタ・ミカエールと入力すると一気に膨大な検索結果が表示されたのでその中から簡単に経歴を纏めていそうなものを選んでみると、何処かのジャーナリストが纏めた記事が出て来たのでこれに目を通してみますか。

 

『人類進化甲鉄連盟の盟主アルタ・ミカエールが成し遂げた偉業は数多いが、本記事では大きく分けて二つを紹介しよう。まず、この記事を読んでくれている読者諸君はもちろん、知っているとは思うがこれを紹介しなければアルタ・ミカエールを語る事は出来ない。

 

 彼が成し遂げた大偉業の一つ目は今から七年前、当時は空想とさえ揶揄されたメタリカに適合した新人類アマルガメイトを生み出す為の手術を受け無事、これに適合した事でしょう。なにせ、当時の成功率は1%に満たないどころか0.0001%であったのだから!!アルタ・ミカエールという唯一無二の成功例を得て、この手術は徐々に成功率を上げこの世界にアマルガメイトという新人類を生み出すに至りました』

 

「……3.1%ですら低いと思うのに当時の俺は凄い度胸ですね」

 

 自分の命をたった0.0001%に賭けるとか正気の沙汰じゃありませんよ。

 盟主という立場へ至ると分かっていたとしても、この手術を受ける事を選択出来る人がどれだけいる事か……少なくともこの世界に来る前の俺では無理ですね。

 

『そして二つ目の大偉業とはそう!!三年前、起きた衰退した人類に代わり地上で繁栄を始めていた猿の全てがメタリカによって、侵食されアマルガムと化し我々人類に牙を剥いてきた通称『メタルパレード』において、ただ一人で猿達の訳八割──その数、実に五万を引き受け、これを殲滅した事でしょう!!名実ともに彼こそが人類を預かるに足る盟主であると示した大偉業です!!』

 

「……は?」

 

『人類に近い種である猿の為か単なるアマルガムではなく合金活性(メタモルフォーゼ)を有する個体もいる中、アルタ・ミカエールはただ一人いえ、彼が有する金属の兵士達が猿の群れを滅ぼし戦いの最中、荒廃した大地でただ一人佇む彼の姿は世界の遺されたどんな名画よりも価値のある光景だったと語り継がれています』

 

 ……凄まじいですねアルタ・ミカエールは。

 自分の命を賭けることに何一つ躊躇いなどないのでしょうか?

 

「まるで神話の英雄。これを間近で見続けていたのだとしたらライラさんが崇拝を始めるのもおかしくはないですね」

 

 その後、人甲連の盟主としての称賛が書き綴られていくのを目を通し、記事を読むのをやめる。

 俺が宿る前のアルタ・ミカエールは俺の予想を裏切って、ラスボスの様な人間ではなくむしろ自分を差し出して人々を救おうとする主人公の様な人間性を有していました。

 

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「何故、こうして考えている今も元のアルタ・ミカエールの気配を感じないのでしょうか」

 

 記事を通して読んだ限り、アルタ・ミカエールという男は重荷を下ろすどころか自ら背負い善行という名の血に濡れた道を歩むことが出来る素晴らしい人間性を持っているはず。

 そんな男に憑依転生したとしても、ただの一般人である俺がこんな綺麗に自我を乗っ取り思考できる訳がありません。

 口調こそ引き摺られていますが、俺の精神はあの頃と変わらず人の死を見れば恐怖に震える癖に期待の眼差しを向けられれば強がってしまうどうしようもない程に一般人のまま。

 

「……一体、何処へ消えたというのですアルタ・ミカエール」

 

 俺という一般人に貴方が背負っていた重荷を担えなど……無理がありますよ。

 こうしている今も何処かで人類が死んでいくディストピア世界で、俺は少なくともライラさんとアリッサさんの信頼を一身に受けて生きなければならない。

 

「ですが、アルタ・ミカエールが存在しないとバレればこの世界は……」

 

 本当は放り出したい重荷ですが、この世界はただでさえギリギリ生存している世界です。

 ビッグネームで最大戦力である俺がこの役目を放り出せばどうなるかなんて考えるまでもありません──そして、俺という一般人は被害者となるであろう無数の命を背負うなんて無理です。

 

「ふぅ……やってやりますよ。盟主アルタ・ミカエールという役を。だから、戻ってきたら覚悟してくださいね本物のアルタ・ミカエール」

 

 憎たらしい程に綺麗な月明かりに俺は一人、覚悟を誓うのだった。




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