『英雄の器は俺じゃない ~世界最強の盟主になった一般人は、人類最後の希望を演じ続ける~』 作:マスターBT
「ユズリハ君、出向です」
「はい?」
四度目の訓練を経てもなお、
「なんでユーラシアに?」
「あそこの支部は
「……僕が使えないからって体よくお払い箱かよ」
「ふむ。それは心外ですね。俺が危惧しているのは君のその自己評価の低さですよ」
至近距離まで顔を近づけるアルタの整った顔の圧力に一歩下がるユズリハ。
そんな彼の頭をポンっと叩くとアルタは続ける。
「君は自分が強いというイメージが作れていない。メタリカに適合したアマルガメイトである自覚が足りず、誰かの庇護下にある弱者であるという思いがあるから
「ッッ」
人類を救った大英雄と言っても過言ではないアルタと、同期でありながらすぐに覚醒を果たしメタリカすら燃やすという脅威の能力を持つアリッサという自身と比較する事すら烏滸がましい人達に囲まれているユズリハが思っていた事を指摘され息を呑む。
「(俺は英雄アルタの記憶に従って力を使ってるに過ぎませんからね)」
そんな彼の反応を見て、本来であれば父親を殺した自分が導かねばならないと思うアルタであったが、英雄を演じているに過ぎない彼では真っ当に迷っているユズリハを導く力はない。
「先ずは自覚を持っていただきます。その為に必要な事はユーラシア支部のスラブィク支部長が教えてくれるでしょう」
「……はい」
「そう落ち込まないでください。きっと楽しいと思いますよ?」
そう言われても新天地に赴くというのは中々に気が重く、ましてや理由が楽しいものでもないためユズリハは肩を落としつつユーラシアへと旅立つ事になった。
きっと用意されたジェット機に乗っている時に彼は思いもしなかっただろう。
「足を止めるな!!!肺が凍てつくのなら、溶かすほどの声量を出せ!!足が止まりそうならそれ以上の一歩を踏み出せ!!心の臓が悲鳴を上げるのなら、それが貴様らの生きている証だ!!ぶっ倒れるまで走り続けろ!!」
「「「「「Ураааааааа!!!!」」」」」
「ウ、ウラー……」
「新入りのチビスケ!!声が小さい!!!!」
「ウ、ウラァァァ!!!!!」
「よしっ!!」
ユーラシアの極寒の大地を三十名ほどの男達と一緒に走り込む事になるなど。
「………………」
「お〜い、新人くぅん?だいじょーぶ?」
これが大丈夫に見えるなら眼科をオススメしますって言いたいけど、呼吸するのすらしんどいからむりぃぃ……てか、他の僕と一緒に走ってた人はなんでもう動けてるの??心臓や肺が鉄で出来てるの?
「ふん。情けないな、他の連中は適合者ではないというのに」
「………うそ………でしょ……」
「本当だよ〜今ここに居るのでアマルガメイトなのはボクだけ〜」
ふわふわと浮かぶ金属の球体にうつ伏せで全身を預けてるから、まぁ貴女はそうでしょうって思ってたけどこの人の声、すごく気が抜ける。
このまま聞いてたら疲れもあって、ぐっすり寝ちゃいそう。
「えっと……貴女は……」
「自己紹介してなかったねぇ。ボクはミリネ・ネーシャだよっ☆気軽にミーちゃんって呼んでくれると嬉しいなぁ〜」
腰くらいまである薄い水色の髪に、眠そうな金色の瞳と幼い顔立ちは緩い雰囲気も相まって本当に気が抜ける。
だよっ☆って、ピースをしてくれたのはちょっと可愛いなと思いました。
「何をゆっくりと話をしている。ユズリハ、貴様には次の訓練が待っているんだぞ」
「えっ」
「アルタの奴から
「ありゃ〜大変だねぇ。スラブィクの訓練は厳しいよぉ」
「分かったらささっと立て!!ミリネ、第二屋内訓練所へ案内してやれ」
「えぇ〜」
「面倒がるなこれくらい!!」
「えーん、怒られた〜。これ以上怒ってスラブィクの血管が破裂する前に行こっか〜」
「お前のせいだろうが!!!」
なんだろう、走ってる時はめっちゃ怖い軍人に見えてたんだけどミリネさんに揶揄われて叫んでる姿を見ると一気に親近感が湧いてきた。
よく見れば周りの人達も疲れて張り詰めていた表情から一転、スラブィク支部長にバレない程度の笑みを浮かべているしこの支部ではよくある光景なんだろうな。
そんな事を思いながら、どうにか立ち上がりミリネさんの案内の元、たどり着いた第二屋内訓練所はユーラシア支部らしくない一面、畳の空間だった。
「畳?」
「ニホンの伝統だ。まぁ、俺にそんな拘りはないが」
入り口で一礼をしてから入ってくるスラブィク支部長の素足で歩く音が聞こえ、僕達の前にやってくる。
「格闘技の訓練を行う。各自、隣の者と組み俺の動きを真似しろ……あぁ、ユズリハは俺の相手だ。こい」
「はい」
なんとなくそんな気がしてたよ!!ずっと視線が向けられたからね。
憂鬱な気分を抱えて、スラブィク支部長の前に立ったけどこの人デカイ……見上げてるこっちの首が痛くなるよ。
「体格差など気にするな。貴様らが戦う事になるアマルガム共は四足で駆け回ったり、この俺ですら見上げるほどに大きい物も居る。一々、大きさで怯んでいたら命はないぞ」
スラブィク支部長が言い切るのとほぼ同時に嫌な空気が顔の右側辺りに感じて、手を構えると凄まじい衝撃と共に身体が浮かび上がり畳の上を三回ほど転がる。
くっそ、いきなり仕掛けてくるとかどれだけスパルタなんだよあの人!!
「ほぅ。気絶させるつもりで殴ったが、防ぐとは中々やるな。それに立ち上がってすぐに俺を睨みつけてくる根性も気に入った」
「ッッ、アルタも貴方も手加減って知ってます?」
「ククッ、英雄サマを呼び捨てとは良い覚悟だなユズリハ。その一点だけで俺は気に入ったぞ?」
アルタ……あんた、この人に何をしたのさ?元々、悪人面な人だけどさっきまでの五倍くらい悪人の顔になってるんだけど。
その癖、心底楽しそうに笑ってるから口元が裂けた三日月みたいで怖いんですけど!?
「良いかよく聞け!!戦場に出たら男、女子供、老人、健康不健康なんざ関係ない!!ただあるのは目の前の敵を殺すかどうかのみ!!余力を残そうとするな。それは生きる余分だ。貴様らは生きる為に死へ近づけ!!使えるもん全て使って、泥を啜ってでも醜く生き足掻け!!──その力を俺が教えてやる」
実際に戦場を生き延びた男の言葉だからこその圧力ってやつなんだろう。
悪人面な事に変わりはないけど、突然の僕への仕打ちに小声で文句を言っていた人達も黙り込み支部長の動き、その一挙手一投足に意識を払っている気配を感じる。
「一ヶ月間で貴様らを使える兵士へ育て上げる。覚悟しておけ」
「「「「「はっ!!!」」」」」
「いやぁ〜カリスマだねぇ〜」
ミリネさんを除く全員の野太い返事が屋内に響き渡った。
その後全員、スラブィク支部長にボロ雑巾になるまで殴られ蹴られ投げ飛ばされて、性も功も尽き果てた状態で食べた缶詰の味に感激の涙を流す事になるのだが、この時の僕達はまだ知らない。
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