ある少女は自分自身を信じることが出来なかった。
ある少女は自身の存在価値を他人に委ねた。
ある少女は最後に決断をすることが出来なかった。
――これは罪の物語。過ちを背負った少女たちの物語だ。
◇◆◇
トコ、トコ、と、ろくに整備もされていない獣道を進む。周囲は見渡す限りの鬱蒼とした木々ばかりで、人工物らしきものは何一つ見当たらない。私は自分の薄い方向感覚だけを頼りに、とにかく森の出口を目指して歩いていた。が、
「……どこまで行っても森やんけ」
歩けど歩けど、景色が一切変わらない。かれこれ一時間はこうして彷徨っている。私は代わり映えのしない森にすっかりうんざりし、水色の髪をパタパタと揺らしながら、せめてもの抵抗にと足早に駆け出した。
「あ、奥が明るい!」
少し走ったところで、木々の隙間から眩しい光が差し込んでいるのが見えた。ようやくこの森から抜け出せる。そう安堵して、勢いよく最後の一歩を踏み出した。
しかし、その足は虚空を蹴った。
「……え?」
なかった。そこにあるはずの地面が。私の身体は、容赦のない重力に従って真っ逆さまに落ちていく。
(あぁ……お父さん、お母さん、今までありがとう。心残りしか残ってない人生だけど、これ絶対に死ぬわ)
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
――ドガンッ!!
凄まじい衝撃。そのまま私は地面へと激突した。次に目を覚ます時は、閻魔様の前か地獄の業火の中かな。アディオス、私の短い人生。
「……い」
うう、たぶん私の死体、見るも無残にぐちゃぐちゃなんだろうな。最初に見つける人がトラウマにならなきゃいいけど……。そんなことを暗闇の中でぼんやりと考える。
「おーい、生きてるかー?」
ふと、強烈な違和感が這い上がってきた。なんで私は、死んだはずなのにこんなにハッキリ思考できているんだろう。それに、よく考えたら骨が折れたような痛みも全くない。まさか……。
「全然生きてるぅ!?」
「わぁ! びっくりしたぜ!」
勢いよく叫びながら跳ね起き、目を開ける。
すると視界に飛び込んできたのは、目を丸くして驚いている金髪の少女だった。どうやら私の大声のせいで、肝を冷やさせてしまったらしい。
「何よもう、うるさいわね」
奥の方から、不機嫌そうな声と共に紅白の巫女服をまとった少女が歩いてきた。私が落下した場所は、どうやら神社の境内だったらしい。巫女服の少女は、地面にへたり込む私と、金髪の少女を交互に見比べた。
「魔理沙、この子は何?」
「さぁ、私もよく分からないんだぜ。ここで倒れてたから声を掛けただけだ」
「はぁ。とりあえず、あんた里の子? 元気ならさっさと帰りなさいよ」
「あの、私、連れてこられたんです。八雲紫っていう人に」
八雲紫。その名前を口にした瞬間、巫女服の少女の表情が、一気に険しいものへと変わった。
「ってことは、あんたも訳アリの『幻想入り』ってわけね。はぁ、面倒くさい……」
あんたも、と彼女は言った。言い方からして、私以外にも同じように連れてこられた人間がいるのだろうか。
呆然とする私の肩を、金髪の少女――魔理沙がぽんと気さくに叩いた。
「じゃあ、お前も博麗神社で一時保護だな! 私は霧雨魔理沙。よろしくだぜ!」
「……まぁ、そういうことなら仕方ないわね。私は博麗霊夢。ここ、博麗神社の巫女よ」
流れるような連携で自己紹介をしていく二人。置いてけぼりになりかけながらも、私も慌てて自分の名前を名乗った。
「えっと……私の名前は
「さん付けなんて堅苦しいのはナシよ。霊夢でいいわ」
「私もタメ口でいいんだぜ! その方が気楽だろ?」
「あ、うん。……じゃあ、一つ聞いてもいい?」
「ん? 何よ」
私は、胸の中でずっと渦巻いていた疑問を口にする。
「ここは、一体どこなんですか? 八雲さんには『幻想郷』っていう場所に連れていく、としか言われてなくて。それから……さっきの言い方だと、私以外にもここに連れてこられた人がいるんですよね?」
「そうね、一つずつ話しましょうか。ここは幻想郷。簡単に言うと、外の世界で『あり得ないもの』として忘れ去られた人間から、妖怪、神様まで、有象無象が文字通り共生してる世界よ」
「へー……なるほど……」
「案外冷静なんだな、凛愛」
魔理沙が意外そうにつぶやく。実を言うと、ここに来る道中で恐ろしい妖怪の類をまだ見ていないせいで、非日常が
「あと、もう一人の外来人についてだけど――」
「とうちゃーく!」
「私もとうちゃーく♪」
霊夢が説明を続けようとしたその瞬間、神社の鳥居の向こうから、二人の人影が姿を現した。
一人は、黒いパーカーのフードから深海のような深い青髪をたなびかせた少女。そしてもう一人は、私をこの世界へと誘拐した張本人、八雲紫だった。
「お、丁度いいところに来たんだぜ、二人とも」
「紫! あんたねぇ~!!」
姿を見るや否や、霊夢が怒髪天を突く勢いで紫へと一直線に飛びかかる。対する紫は、慌てる風もなく空間にすっと裂け目を作り出し、そこから出現させた看板のようなもので霊夢の体当たりを器用に防いだ。
「ちょちょ、霊夢、一旦ストップ! 落ち着きなさいって」
「落ち着いてられるか! 短期間に二人も外来人を寄越しやがって。どうせこの凛愛って子も、すぐには外へ帰せないんでしょ!」
「まあ、そうなんだけど……これには、深ーい理由があるのよ?」
ひらひらと扇を揺らしながら霊夢を
「君が、新しく幻想入りした子?」
「あ、はい。箕崎凛愛、っていいます」
「凛愛ちゃんか! よろしくね! 私は
「あ、うん。よろしく、叶」
叶は人懐っこい笑顔で私の手を握ると、ぶんぶんと勢いよく振り回した。彼女の明るさに、少しだけ緊張がほぐれる。
「そういえば叶、お前は紫と一緒に来たのか?」
魔理沙の問いに、叶は握っていた手を離して頷いた。
「あぁ。私が修行してたら、紫が急にスキマから現れてさ。『新しく連れてきた子がいるから、なぜあなたたちを呼んだのか、まとめて話しましょう』って連れてこられたんだ」
「本当はね、もう一人連れてきたはずなんだけど……何故か見つからないのよねぇ」
「ひゃい!?」
気づけば、私のすぐ耳元で紫の声がした。まるで最初からそこにいたかのように、音もなく、気配もなく隣に立っている。その神出鬼没さに、心臓が跳ね上がった。
「まぁ、その子は追々探すとして――」
さっきまでの、霊夢とじゃれ合っていたような軽い雰囲気が、一瞬で霧散する。
紫の切れ長の瞳が冷たく細められ、その場の空気が、肌がひりつくほどに重くなった。
「凛愛、叶。あなたたちをここに呼んだ理由を話すわ」
彼女は、扇で口元を隠しながら、告げた。
「今、この幻想郷に、かつてない危機が迫っているの。……その『異変』を解決してもらうために、私はあなたたちをここに招いたのよ」
うおー