勇者ヒンメルの誕生から1000年と少し前
「……うう」
少女が一人草陰にうずくまっている。
正面には焼ける農村と角の生えた異形。
彼女の村は魔族によって焼き払われたのだ。
何人が生き残っているのかわからない。
彼女に分かっているのは、自分の家と家族が既に失われたということだけだった。
深い絶望に襲われつつも少女は隠れ、目に焼き付ける。
何としても生き延びて復讐する。
それだけが彼女に残された感情だった。
しかし、
『杭を出現される魔法』
彼女の村を襲った魔族が突然鏖殺された。
地面から生えてきた杭によって。
「……片付いたか。
私はいつも間に合わないな」
それはエルフの男だった。
少女は初めて見た。
しかもそのエルフは角の生えた異形、魔族を従えていた。
思わず飛び出す。
「私に戦いを教えてください!」
男はエルロンドと名乗った。
そしてそれに付き従う魔族に名前はないとのことだった。
「良い魔族もいるんですか?」
「いや、存在しない。
これは人形だ。私が操っているだけのな」
魔法とはそんなこともできるのかと驚いた。
同時に魔族に対する憎しみを失わなくていいのだと安心した。
そしてよく観察してみれば、魔族は心臓の位置に穴が空いていた。
なるほど、普通なら塵になっているはずである。
「人間にも魔法は使えますか?」
「ああ、だが才能が必要だ。
君は……とても優秀そうだな」
「本当に!?」
少女は驚き狂喜した。
私でも魔族を殺せるのだと。
復讐を果たせるのだと。
「私に魔法を教えてください!」
「……私にその資格はない。
それに、戦闘も苦手だ。
だから私の知る中で最も強い魔法使いを紹介しよう。
彼女に師事するといい」
彼はそう言って、魔族の形をした人形に私と彼を抱えさせて空を飛んだ。
彼女は思った。
魔族は憎い。
だが空を飛ぶのは悪くない。
復讐に濁った心でも、景色の美しさに感動するくらいには。
「そういった経緯で私は師匠であるゼーリエに会ったんだ」
「へえ。
そのエルフにはそれから会ったの?」
「いや、会ってないな。
だが魔族の軍勢同士の殺し合いは何度か目撃されている。
きっと彼の仕業だろう。
あいつらは生意気にも同族狩りはしないからな」
「ふーん」
魔族を従えた男のエルフなんてのは聞いたことなかった。
そもそもエルフは魔王軍に目の敵にされているから会うこと自体珍しいのだけれど。
エルフの少女、フリーレンはそう思考する。
「でも不思議な魔法を使うんだね」
「ああ、使えたら有用だから真似をしてみたんだが無理だったよ。
魔族を従えるだけならともかく、
体を崩壊させずに維持し、独自の魔法まで使用させるなんてね」
「よっぽど魔族の構造に詳しいはずだよ。
解剖してたりして」
「それは私もやってみた」
無理だったが、とフランメは言った。
フリーレンは少し引いた。
「まあもう諦めたがね。
ゼーリエにも無理だったし」
「それは……すごいね」
「だろう?
あの人に使えない魔法があるなんて初めて知ったよ」
からからと笑う師匠を見ながらフリーレンは思った。
自分以外にも魔族に打ち勝とうとする強いエルフがいる。
それはとても心強いな、と。