魔物を操る魔法   作:さくらいJAN

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3話

 

勇者ヒンメルの死から28年後

 

 

 

 

グラナト伯爵領に到着したフリーレン一行は宿を取り休んでいた。

当然フリーレンとフェルンが同室。シュタルクは別部屋だ。

そして就寝前、一日自由行動をしていたフェルンから聞いた話で、

フリーレンは古い記憶を思い出した。

 

 

「今日街中で劇をやっているのを観ました。

とある大魔族が魔族を操る魔法使いに打倒されるという話です。

30年近く前に実際にあったことらしいですが、眉唾ですね」

 

 

劇自体は面白かったですが。

とフェルンは言葉を紡ぐ。

その話を聞いてフリーレンは遠い昔のことを思い出した。

 

 

「……ああ、懐かしい話だね。

魔族を操る魔法使い。

師匠から聞いたな。

彼はエルフだよ」

 

「え?

本当に存在するんですか?」

 

「私は会ったことないけどね。

本当だと思うよ。

師匠はそのエルフに助けられたらしいし」

 

「大魔法使いフランメがですか?

まるで神話ですね」

 

 

何年生きてるんですか。

とフェルンが呟く。

フランメが死んだのが1000年以上前なので神話と言われても反論できない。

 

 

「私にとっても遠い過去の話だよ。

いつかは会うかなと思っていたけど会えずじまいだったから、

てっきり死んじゃったのかと思っていたけれど、生きていたんだね」

 

「そんなに昔から戦ってるのに知られてないんですね。

なんだか少し、寂しいです」

 

「彼だけじゃないよ。

武勇なんてものはいずれ忘れられる。

例え魔王を倒した勇者(ヒンメル)であってもね」

 

 

だから私が覚えておくんだ。

フリーレンはそう呟いた。

フェルンはその様子を寂しそうに眺める。

 

 

「当然、フェルンのことも忘れないよ。

初めての弟子だからね」

 

「ありがとうございます」

 

 

フェルンとの会話で心が温かくなる。

ヒンメルとの別れは悲しかったけれど、

おかげで私は人を知ることができた。

だからきっと魂の眠る地(オレオール)でも笑顔で感謝できるはずだ。

 

まあ、今でも偶に怒らせてしまうことはあるけれど。

学習途中なので見逃してほしい。

フリーレンはそんなことを思いながら、過去を回想する。

 

 

「でも150年前くらいまでは割と聞いたんだけどね。

魔族同士の勢力争いで片方が壊滅、みたいな話は。

恐らく彼の仕業のはずだ。

魔力量で明確に格付けされる魔族は同族狩りをしないからね」

 

「なるほど、見る人が見れば分かる戦果が有ったのですね」

 

「そう。

そんなことができるのは彼だけだからね。

昔聞いた時は凄い魔法だなとしか思わなかったけど、

魔法を1000年研究した今だから分かる。

彼の魔法はすさまじいよ」

 

「魔族を操る魔法がですか?」

 

「うん。

せっかくだから魔法について簡単な講義でもしようか」

 

 

フリーレンはそう言って紙とペンを取り出した。

 

 

「私がヒンメルたちと旅をしていた時に会った魔族に

断頭台のアウラというやつがいてね。

あいつは魔力量が自分より低い者を操る魔法が使えた」

 

「それは……」

 

 

恐ろしいですね、とフェルンが呟く。

長く生きた魔族は基本的に人間より魔力量が多い。

しかも戦士であるシュタルクは魔力ではなく鍛錬で

あの理不尽な力と耐久力を誇っている。

つまり自分とシュタルクは接敵と同時に操られてしまうということだ。

 

 

「それだけならまだ理解できる。

精神に干渉する魔法は多いから、イメージできないこともない。

だけどアウラの魔法は対象が死んでいても操ることができた。

しかも生前の戦闘技術を再現可能な状態で」

 

「そんなことが」

 

「そう、イメージできるはずがない。

生きている人間と死体は全くの別物だ。

よく薄情だと言われてしまう私にとっても当然のこと」

 

 

フリーレンが紙に生きている人間と死体を書き、=で結ぶ。

魔族とは本当に相容れないのだと強く認識させられる図だ。

 

 

「死んだら塵となる魔族だからなのか、

それともやつがイカレてるのか、私には分からない。

でもやつにはそれができた。

私たち人間からしたら理解不能な呪いとも言える魔法だ」

 

 

いつの間にか旅の魔法使いに討伐されていた腐敗の賢老の魔法、

人を殺す魔法(ゾルトラーク)のように人間にも理解、解析できる魔法と違って、

人間ではイメージできない、理解不能な魔法。

魔族の使うそれは呪いと称される。

 

 

「そして彼、エルフの魔法使いエルロンドは魔族を操る。

師匠が言うには何をしても反応しない心臓に穴の空いた魔族。

言うなれば魔族の死体だ」

 

「え?

でもそれは塵になるはずじゃあ……」

 

「うん。

だから彼は魔法でそれを留めている。

しかも彼に操られた魔族は魔法を使う。

やつら固有の魔法をね」

 

「意思のない体を操っているのに魔法を?」

 

「ね、意味わからないでしょ?」

 

 

魔族は死ねば塵になる。

魔法にはイメージが必須。

イメージするには意識がなければならない。

 

それら全ての常識を無視している。

それこそ呪いのような魔法だ。

 

 

「師匠の師匠に、生きた魔導書とも言えるのエルフがいるんだけどね、

彼女にもエルロンドの魔法は再現どころか解析も不可能らしい」

 

「なんというか、本当に神話のような話ですね。

現実とは思えません」

 

「ああ、だから彼の戦果は魔族同士の抗争だと判断されてきた。

長命のエルフである私には、それがあり得ないことだと分かるけど、

人間はそうは思わないからね」

 

 

フリーレンは魔族の生態をフランメから聞いていたし、

実際に目撃してきた。

 

しかし人間の一生は短い。

本にそう書いてあっても、実際に魔族の生態というものを目にしなくては、

人間には当たり前に存在する同種の争いというものに違和感を抱けないのだ。

ゆえに魔族を操る魔法使いの存在は御伽噺として忘れ去られてしまった。

 

 

「まあ彼は1000年以上人間の味方として活動してる。

魔族みたいに恐れる必要はないよ。

なんならそこらの兵士の方が怖いくらいさ。

魔族と違って、人間は何かと理由をつけて同族狩りをするからね」

 

 

フリーレンはそう言って紙とペンを閉まった。

なんとも言えないオチだなあ、

とモヤッたフェルンだが、師匠のそういった部分には諦めている。

そうですね、とだけ呟いて明かりを消し眠りについた。

 

 

 

 

 

 

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