「こちらスネーク。アースラ艦に潜入、成功した。」
『あほ言ってないで、とっととシグナムを救出しなくちゃ。』
「・・・ちょっとくらいいいじゃないか。」
響は早速とばかりにアースラ艦に潜入した。
捉えられているならばここにいるだろうという考えの下。
ちなみにダンボールを被っている。
某、潜入(スニーキング)の達人もダンボールは最高だと言っていた。
ばれないに違いない。
「君は一体何をやっているんだ?」
「・・・。」
響はこそりこそりとダンボールを被った状態で歩いていく。
極限の緊張感の中、汗がたらりと流れ落ちる。
心臓が激しく脈打つ。
「おい、無視するんじゃない。」
「・・・。」
じとりとした脂汗で肌に張り付く服が嫌に気持ち悪い。
ばれれば命は無い。
そんな強迫観念が響を襲い、今にも足を外へ向けたくなる。
が、一度やると決めた以上やらねばなるまい。などという高い志は持たないがそれでも男の子としてのちっぽけな意地くらいは守ってみたい。
ただただ一心にそう考え、逃げそうになる足を叱咤し歩を進める。
「聞こえているのかっ!?」
「わおっ!?」
ダンボールをひったくられた響。
「な、なん・・・だとっ!?
バカなっ!?どうしてばれた!?」
「はぁ?」
先ほどから話しかけていたクロノは頭にクエスチョンマークを浮かべた。
「ええと・・・かくれんぼのつもりだったのか?
どう考えてもこんな怪しいダンボールがあればばれるだろう?」
「いや、だからこそ“こんなダンボールに人が隠れているはずが無い”という虚を突くわけで、普通の人間ならばスルーするはず。クロノ・・・オマエってヤツはKYだな。」
「はぁ・・・。」
クロノはただひたすら困惑するばかりである。
そもそも地球よりも遥かに文明の進んでいるミッドの人間にとってダンボールなどと言う前時代の遺物など下手なロストロギア以上に珍しいだろう。
衝撃吸収能力に優れた良い品なのであるが。
すなわち響から見たら完璧でも、ミッドの人間からすればむしろ響こそ異質でKYなのだ。
そしてよくよくKYとされるクロノだが、彼は決してKYなどではない。
職務に忠実で、真面目なだけだ。
たとえば周りが1人の人間を苛めてるからといって、俺も空気読んで苛めておこう!などという理屈がまかり通らないように、クロノは職員としてただ懸命なだけである。
決して彼はKYじゃない。
大事なことだから二度言いました。
「こうなってはクロノ、すまぬ。」
「は?って、いだっ!?」
「あれ?
ダメだな?気絶しない?」
「いだっ!?あいたっ!?ちょっ、君は突然何をするんだ!?いたっ!?やめないかっ!?あうちっ!?」
「なぜに?」
響はクロノを気絶させようとして首の裏をビシビシとチョップするのだが、クロノは気絶しない。
当然である。
最近になって剣が多少振れる様になった程度の人間に、そんな芸当がこなせるはずもないのだ。
このまま出来ないと、ちょっと格好つけて気取ったイタイやつ認定されかねないので、響はムキになってクロノの首裏をチョップし続けた。
アイシテルが忍び笑いしてたのもあって恥ずかしさが加速した。
気絶してよっ!
今気絶してくれないと自分がイタイやつになっちゃうじゃないかっ!!
「ちょっ!
だから痛いといってるだろうっ!?」
「あれ?何してるの?響君。」
「あ、エイミィさん。」
クロノの幼馴染らしいエイミィ。
クロノはなのはたちと変わらない外見年齢なのに、実は14歳。
さらにはこのエイミィも14歳。
見てみろよ?
これで同い年なんだぜ?信じられるか?
「いや、首裏にチョップで気絶させようとしたんですが・・・」
「なぜそんなことをするっ!?」
「え・・・そういえばなぜだろう?」
なんか見つかって、焦って、とりあえず口封じがてら・・・みたいな感じだったんだろうか?
「あははは、まったく響君ってば漫画の読みすぎだよ!
こういうのはコツがあってだね・・・こんな感じで・・・えいやっ!!」
ズビシッ!!
エイミィのチョップがクロノの首筋にクリーンヒットした。
あがっ!?と情けない悲鳴をあげて崩れ落ちるクロノ。
おおっ!?
ちょっと畏怖が篭った声で驚く響。
その容赦の無さはもちろんのこと、すっごい痛そうな音にドンビキした。
「大抵の素人さんは首筋ってことで下手に力をこめたら・・・みたいな感じで遠慮しちゃうんだけど、そうしちゃうと逆に難しい上に痛い思いをするのさ。大切なのは思い切ることだね。それじゃ、クロノは持ってちゃうけどいいよね?」
「あ、は、はいっ!」
「そんじゃね。」
呆然とクロノを引きずるエイミィを見送った。
まぁ、仮にも荒事を担当する管理局の職員だしそれくらいは出来るよね・・・そう納得しておくことに。
まぁ異質なんじゃ仕方ない。
ダンボールは諦め、普通に歩いてシグナムを探すことにした。
どうせ戦う上で自分が向こう側に付いたことなどばれるのは決定事項。
こっそり助け出して、できるだけ追われる立場になるのを後回しにしたかったのだが、覚悟を決める響。
いや、覚悟はすでに決めてあるはずだというのに未だに揺らぐ。
気が変わらないうちにとっととシグナムを助け出してしまおう。
そう思ってキリキリ歩いていく。
すると“仮牢”の札がある部屋へ付く。
軟禁状態ということか?
何にせよ、アイシテルに協力してもらって艦の防衛プログラムにハッキング。ロックを開けて入ってみた。
一応別の犯罪者が捕らえられていると言う可能性も念頭に、ブリッツフォームで開ける。
そこにはあられもない姿のシグナムが居た。
着替え中のようだ。
目線が逢う。
「ええと・・・ごゆっくり?」
「とっとと出て行ってもらいたいのだが?女であることは捨ててあるがそれでも幾許かの羞恥心くらいはある。」
「ご、ごめんなさいっ!!」
響は焦って外へ出た。
シグナムのおっぱいはデストロイ。
そんな感想を持った。
どんな感じかはニュアンスで理解して欲しい。
☆ ☆ ☆
響はシグナムに事情を説明した。
味方になることも。
「必要ない・・・と言いたいところだが、素直にありがたい。礼を言おう。」
「あ、いや・・・その・・・でも」
「迷いは無いのだろう?向こう側に付いてたことなど最早どうでもいいことだ。」
「・・・はい。」
「そうか。君が選択したことだ。いや、君と言うのも最早他人行儀か。響。
オマエが決めたことだ。私がどうこう言うことではない。できることならば巻き込みたくは無かった。が、それもまた意味がない。」
「シグナムさん・・・その、俺が言うのも難ですけど信用・・・してくれるんですか?」
「見くびるなよ?
これでも何百年と生きてきた。
そうした目をした人間は総じて強い。力がーーーではなく中身がな。ゆえに絶対の信頼とまでは行かずとも少なくとも私たちに不利なことはしない。そう断言できる。」
「・・・。」
そうなんだろうか?
響は自分がそれほど高潔な人間だとは思えない。
覚悟を持ってここにいるつもりだが、それこそ本当の窮地に至った時、彼女達を迷わず見捨ててーーー
「むっ!?」
「警報っ!?」
「ばれたのかっ!?」
『違うよ、そっちは私がハッキングをしてるから万全。チートデバイスの性能を舐めないでよね。これはヴィータちゃんたちが発見されたとかじゃないかな?えーっと今、モニター映像をーーーはい。』
そこには砂漠のようなフィールドで向かい合うなのはたちとヴィータたちがいた。
やはり追い詰められているようだ。
プレシアもいる。3日で回復したのはさすが元研究者と言えよう。若い子供ならばいざしらず、彼女は若くとも30代後半。
いくらなんでもリンカーコアが3日で回復すると言うのはありえない。
なのはですら全快までには一週間ほどを要したのである。
「くっ!
いますぐ援護を・・・」
しかしシグナムの手元にはもちろん武器たるレヴァンティンは無い。
「はい、これ。」
「これは・・・どこで?」
響が差し出したのはレヴァンティン。
先にレヴァンティンの回収をしておいただけだ。
「行こう。シグナムさん。」
「・・・ああ。恩に着る。それとさん付けはいらん。」
「いや、でもそういう雰囲気じゃないと言うか・・・」
「戦場の仲間に貴賎や上下など無い。必要なく畏まる事など微塵もないのだ。呼び捨てで結構。」
「わかった・・・シグナム。」
シグナムの言葉は信頼の現われであった。
初めての感覚。
初めての暖かさ。
これを守るために動いていると考えると今の状況も悪くないな、と考え始めた響であった。