混乱した方や、なんぞこれと思った方、申し訳ありません。
そして、指摘ありがとうございます。まるで気づいてませんでした。
・「終幕への序章」と「漆黒の大空」との間に抜けていた話「解放」を追加しました。
・「漆黒の大空」と「不器用」の間に「堕ちる空と風穴」を追加しました。
・話の区切りの失敗を修正しました。
・一部誤字の修正もしました。
「知ってるか?アイシテル。リイン。」
「何よ?」
「何だ?」
家にて、響は神妙な顔でアイシテルとリインフォースに話しかける。
「地球での就職はな。難しいんだ。」
「・・・で?」
「最近調べて分かったんだが、どうも円高とやらが影響してるらしい・・・ついでに高齢化も。」
細かく説明すると面倒なので、簡単に説明すると。
円高と言うのは外国から入ってくる物が、商品、原材料などに限らず安くなり、逆に日本からの商品が外国で高くなるという状況。
日本円が強くなると言えばイメージ的には分かるだろう。
結果、日本の企業が外国に出て行って会社を作ってしまい(法人税の安さや建設費の関係など)、現地の人を安い人件費で雇ったりも出来るため、就職するための場所である就職先が徐々に無くなっていっているのである。
また、既に入社している人は滅多なことでは解雇されないように法律で保護されているため、高齢者が長く会社にい続けるのもまた一つの理由である。
実際にこうした高齢者に対して若者達が異議(アンチテーゼ)を上げると言うちょっと理不尽だけれども、就職の決まらない若者達からしたら仕方が無いような社会現象が起きた国もある。
そんな就職しづらい、よしんば出来たとしてもほんとにやりたいことが出来る可能性の低い道を行くよりも魔法使いとしての道を歩む方が有意義で楽しいんじゃないか?
ゆえに響は悩んでいるのである。
管理局ならば確実に就職できるだろう。
万年人材不足。
さらには響の実力からしてすぐにある程度は出世が出来る。
給料の面でも不安は無い。
が。
命の危険が出てくるかもしれない。
響にとってはそれだけで問題である。
命あってのものだねと言う言葉があるのだし、響としては命の危険が無い仕事がしたい。
が、だからといって毎日変わらぬ事務的な仕事を黙々とし続けるというのも味気ない。
平和が良いといいつつも、たまにはちょっと危険なこと、スリルあることを求めるのはおそらく大抵の一般人が思うことだろう。
だからこそ響は自分の采配で自由にスリルを味わいつつも、やろうと思えば平和な日々が送れる。
そんな職業につきたいと考えた。
特に没頭できる趣味も無い響にとって夢のある仕事だろう。
もちろん危険といってもちょっとヒヤッとするようなそういうレベルだ。
命の懸かった闇の書の件。
はやての時は酷いすれ違いで精神的に荒んでいたのを癒してくれたということから特別やる気を出していたが、本来はあれほど頑張れることは滅多に無いのである。
さてそんな都合の良い仕事があるかといえば、あるのだ。
そう、それがフリーの魔導師。
管理局のような会社員ならば下働きの悲劇、すなわち嫌でもYESと答えねばならないが、フリーの魔導師ならば嫌な仕事は断ってしまえばいい。
もちろんその分、フリー魔導師専用の仕事斡旋所から実力が無いと判断されればすぐに無職同然になるし、実りが良い仕事が少なかったり不安定な生活になるのはやむをえないことだが、そこそこ刺激的で比較的簡単にお金を稼ぐ立場に立てる。
簡単に言うなら派遣社員ならぬ派遣魔導師だ。
「というわけで、俺はフリーの魔導師になろうと思うんだけどどうだろう?」
「・・・まぁ無難じゃないかな?」
「私も異論は無い。」
響はもう管理局の監視はもちろん無償奉仕5年の刑期モドキも終えている。
自由の身である。
卒業したら、さっそくミッドに移住してもいいくらいだ。
昔にもちょっとやっていたのでそのツテがあるゆえ何も無いところから始めるよりかは楽なはずである。
「よし、そうと決まれば今日からまたフリーの魔導師として本格的に働くぞ!!」
「就職先が異世界だと文香ちゃんが一人っきりだけどどうするの?」
ここでちょっとした問題がある。
母親の文香だ。
家に1人だとやっぱり寂しいだろう。
なによりも彼女は響を溺愛してるのだから。
いずれ子供は巣立つものだが、それでも寂しさがないわけではない。
だがアイシテルやリインとしては二人きり、ではないけれど好いた男と一緒に一軒家で・・・というシチュエーションにはくるものがある。
仲の良い文香のことを思うとつれてってやりたいが、1人の女としては遠慮してもらいたいところである。
「・・・おう・・・そういえば・・・」
「移転すればいいんじゃないのか?」
リインフォースが言う。
「管理外の世界の人間が異世界で地に足をつけるとなると大変だと思うけどね。」
「うううむ。どうしたものか・・・」
「お金を稼ぎまくればいいのではないのか?」
「・・・気は進まないけどリンディさんに頼ってみるというのも?」
「ここで俺がなんとかする!とか男らしいことを言えば、惚れ直すって言うのに・・・」
「ほ、惚れッ!?」
「毎度思うけど、響ってやたらと初心だよね。私とお互いに好きあってから9年は経つって言うのに・・・いまだに手を出そうともしないとはね。ほんとヘタレというか・・・ヘタレすぎるというか・・・ヘタレなんだなぁ・・・」
「ヘタレヘタレ言うなよっ!!それは体が小さかったからじゃん!?
俺だってやろうと思えばそれこそ野獣のように・・・」
「野獣のように?」
「手を繋げるんだ!!」
「・・・。」
なんともいえない沈黙があたりを包んだ。
「どうだ!?
恐れ入ったろう?
たかだか手を繋ぐだけで野獣のように興奮する。
これこそ最強の肉食系男子だとは思わ―――」
「思わねぇよっ!!」
「ごはぁっ!?」
思わず言葉が荒くなったアイシテルだった。
響は殴られて、どうして?という顔をする。
彼は女性に手を出せない草食的ヘタレではない。
ただのアホだったのがこれでばれてしまった。
「え?
本気で思ってるの?
バカなの?死ぬの?」
「いや、ちょっと待て。結構野獣っぽいと真面目に言ってるつも―――がはっ!?」
「余計に悪いわ!!」
「じゃ、じゃあアイシテルはどういうのが野獣っぽいって思うのさっ!!」
「えうっ!?そ、それは・・・あれよ・・・」
いきなり振られたことにアイシテルは顔を赤くして戸惑う。
正確には振られた時にこうされると嬉しいと言う妄想が沸いて出てきて、それゆえに赤面したのだが。
「あれじゃ分からん。」
「た、たとえば・・・いきなりこう・・・ズキューンってキスするとか・・・」
「あ、は・・・え・・・?
いや、その・・・それは遠慮したいかな・・・」
「わ、私とじゃ嫌なのっ!?
ちゃんと歯磨きだってしてるし・・・す、好きなのに・・・」
「そ、そうじゃなくてっ!!」
「じゃあ・・・何?」
「その・・・キスが上手く出来る気がしなくて・・・」
アイシテルに手を出さず、キスをしたのも9年前のアイシテルからの一回以外は無いという体たらく。
これはキスが上手く出来ないと言うことに起因する。
キスが上手じゃないと嫌われたり、夜の行為で下手なだけで嫌われると言う話も中には聞く。
そうした不安から響はあまりそういった行為をしたいとは思うものの、その引っ掛かりが響から積極性を削っていた。
そしてやはりそうした好意はキスから始まってキスで終わるとも聞いたり聞かなかったり。
キスが上手く出来ない響としては手を繋ぐ以上は少々以上に後ろ髪を引かれる思いだったのだ。
キスさえ上手ければ。
せめてキスさえ上手くなれば。
今すぐにでもアイシテルをこの腕に抱いて、体全体で抱きたいと言うのに。
「・・・そ、それだけ?」
「えと・・・それだけっていうほど軽いことでも無いと思うけど・・・だって、キスが下手だと嫌われるって言う話も聞くしっ!!」
「・・・はぁ。」
ため息をつくアイシテル。
そんなことで嫌いになる程度の思いで響をずっと好きでいるわけが無いだろうに。
分かっていてもそう思わずにはいられない。そういう類のものかもしれない。
なんにせよ自分のことを本当に好いてるからこそそういった―――万が一でも嫌われたくないという臆病さを見せると言うならばむしろ嬉しいことだろう。
男女間でもビビリとは少し恐れ入ったが、それも含めて愛しいと思うのは最早病気だろうか?
などと思いつつ。
アイシテルはそれならばもう少しだけ待ってあげようと思わないでもないのだ。
「そういうことならば私で練習すると良い。
さぁ、響。いつでも良いぞ。」
さりげなくブッコむリインフォースを見て、そしてその程度の言葉で赤面する響を見て。
やっぱり待つのはやめようかとも思ったり。