「・・・あるといいけどな。」
響は図書館にいた。
上手なキスの仕方を調べるために。
すずかとすれ違って以来、久々に来る。
いつもはアイシテルとリインも付いてくるので、なんとか理由をつけて1人で出てこれたのは幸いだった。
そんな本を読みにきたなど誰にも知られたくないし、誰よりも惚れてる女の子に知られたくない。
「出来れば夜の方の本もあれば・・・」
もちろんそんなものがあるはずが無い。
キスもそうだが、夜のほうの本などまず図書館には無いだろう。
子供も目にいれる可能性もあるのだからなおさらだ。
買えば良いのにと思うかもしれないが、そんな本を買っているのを見られたくない響としては遠慮したい。
母親の文香はもちろん、アイシテルもリインフォースにも。
エロ本は大抵見つかると相場が決まっているのだ。
エロ本とはちょっと違うが。
いざとなれば買ってその場で読んで捨てると言う方法もあるが、それはもったいないし公園やコンビニのゴミ箱は普通の燃えるゴミのカゴしかない。
そこに雑誌を捨てると言うのは少々以上にマナー違反というか行儀が悪い気がした。
こういうとき、気軽に話せる男友達がいればいいのに。と思って響はクロノに相談をしようとも思ったが、正直そこまで親しいかと言えば・・・どうなんだろう。
自分の友達の少なさに泣けそうになってきた響である。
「ひかり?」
「・・・ん?」
図書館に行こうとしていたところ、きょとんとした美女が目の前に立っていた。
紫の髪を持つその女の子は。
「えと・・・ひ、久しぶり・・・月村さん。」
「うん、久しぶり、ひかり。」
彼女は変わらず響をひかりと呼ぶ。
愛称のようなもので今も使っている。
一つここはあの日に回帰してみるとしよう。
嫌われて以来のすずかとの邂逅の日に。
すなわち9年前のある日に。
☆ ☆ ☆
「ふぅ。」
「どうしたの響。」
「いや、ようやく全て終わったなぁと思うとホッとしてさ。」
守護騎士の皆はまだリンディに身柄を預かられているらしいがもう死に掛けることは無い。
ゆっくりと。
のんびりと。
これからの時間をアイシテルと歩んでいくだけである。
家でコタツに入りながらのんびりする今の瞬間。
頭から足の先まで緩んでいくのが分かる。
「良く頑張ったね、響。格好よかったよ。」
「・・・え?」
ふと口を開いたアイシテル。
響が声の方をバッと振り向く。
アイシテルの赤面が視界に入る。
「えと、アイシテル?」
「何?」
「誉めてくれたの?」
「他にどう聞こえたのよ。」
「あ、ありがとう」
「別に見たまんまを言っただけ。」
「えへへ・・・そうかぁ、俺、かっこよかったか。」
「・・・抱く?」
「は?」
「いや、別にそういう意味じゃなくてね・・・その前に言ったでしょ?
抱きつかれるのが恥ずかしいって・・・」
「う、うん。」
「今の響ならその・・・恥ずかしさよりも抱きしめられたって気持ちの方が・・・強いから。」
アイシテルには珍しく、耳まで真っ赤に染め上がりながら顔を俯けつつそう言った。
その仕草と言葉にきゅんと来る響。
思わず立ち上がり、アイシテルッ!!と叫びながら抱きつこうとしたところで―――
「あいたっ!?」
「文(ふみ)母さんっ!?」
「文香ちゃんっ!?」
足を滑らしたのか引き戸の隙間からドタンと落ちてきた。
「あははは、ご、ごめんね。つい夢中になっちゃった。
良いわよね、恋愛って。」
「別にそれほど・・・」
「とか言いつつも顔が真っ赤なのは分かってるでしょ?アイちゃん。」
「・・・うるさいよ、ほっといて。」
「私の息子だもの。
惚れても仕方ないことよ。恥ずかしがる必要はないわ。」
「・・・別に恥ずかしがって無いもん。」
「ふふふふふ。私はお見通しよ。
そのままベッドに引き込んでエッチしちゃうつもりだったんでしょっ!?」
「ぶっ!?」
噴出したのは響かアイちゃんか。
それともどっちともか。
「か、母さんっ!?
何を言ってるの!?
俺、9歳だよっ!?
まだそれは・・・その・・・キスもろくにできないのに・・・」
「あらあら?
じゃあそこは私が優しく教えて―――」
「必要ない、文香ちゃん。
私が教えるから。」
「ふふふ、熱いのね。」
「もうっ!!
いいから母さんは出てってよっ!!」
「そ、そんな・・・響ちゃんがグレて・・・」
「これでグレてるとなっ!?」
「という話はともかくとしてお客さんよ。」
「あっさりと流すのね。」
文香はちょっとニヤニヤしつつ言った。
「可愛いお嬢さん方が沢山。もう!
響ちゃんも隅に置けないのね。」
「は?
・・・可愛いお嬢さん方?
誰?」
「なのはちゃんたちでしょ?
響の知り合いでお嬢さん方と言ったらそれくらいしかいないじゃないの。」
「・・・えと、母さん、俺はいないってことに。」
「あら?
どうして?」
「ええと、彼女たちとは因縁が・・・というか苦手というか、決してよろしくない誤解を受けてるからその・・・あまり会いたくないなぁと・・・」
「誤解?」
「とにかく俺はいないってことにしておいて。
正直、もう彼女たちと仲良くする理由も必要も無いし。というか向こうもそうは思ってないでしょ。
ていうか何故家がばれた。」
「普通にリンディさんに聞いたとかじゃないの?
管理局員なんだからそのくらいは分かったでしょうし。」
「個人情報保護法はどこへ・・・」
「地球の機関じゃないし、適用されないんじゃない?
それ以前になのはちゃんたちなら大丈夫とか思われたんじゃないの?」
「なんという緩い危機管理感・・・」
「で、家に上げちゃダメなの?」
文香が良く分からない話に首をかしげる。
とりあえず話を進めることにしたようだ。
「えっと・・・そうだね。
図書館に行ってるってことにして。」
「だそうよ?
なのはちゃんたち。」
「・・・そのごめんね、そこまで会いたくないとは思わなくて・・・」
「・・・。」
フリーズする響。
引き戸の奥になのはたちがいた。
彼女達も予想以上に響に嫌われているらしいことを目の前で見せ付けられ、いづらそうな顔をしている。
「僕は相馬ひかり!
よろしくねっ!!」
「あ、そうなの?
久しぶり。私は高町なのは・・・って誤魔化されないよっ!?
そんなので誤魔化されるのは子供だけだよっ!?」
「いや、高町さんは子供でしょ?」
「アンタもね。」
「誰だこの金髪少女。
こんなに小さな頃からがっつり金色に染めるとは・・・不良とかマジ怖い。」
「余計なお世話ッ!!」
「がはっ!?」
アリサに失礼なことを言った響は殴られた。
仮にも子供の母親がいる前でその子供を殴るとは良い度胸である。
ちなみにその母親たる文香は仲が良い子がいるのねと微笑んでいたが、響としては笑いどころではない。
普通に痛かった。
「それじゃオバサンはここらで退散するわね。高町さん、今更だけどあの頃のことは・・・」
「大丈夫です。もう気にしてませんから。」
「・・・そう。
・・・ごゆっくりね。」
そのまま文香は部屋を出て行く。
そして残された響とアイシテル。
そこに向かい合うなのは、アリサ、すずか。
凄く気まずい雰囲気が漂う中、先に口を開いたのはなのはだった。
「その・・・全部説明してくれるよね?」
「ええと・・・何を?」
「今までのこと全部。
聞かせて。始めから・・・」
「えと・・・何から話したものか・・・」
どうもなのはたちは響に話を聞きに来たようだ。
何を、どこから、どう話そうか迷ったものだが、なんにせよ響としては今更話を聞く気になったんだと少々以上に悲しい。
もっと早めに話を聞いてくれても良かったよね?と思わずにはいられないが、自分も自分で途中から諦めていたのが悪かったし、そもそも昔の自分を思えば勘違いしてもしかたない。
なのはに至っては酷いことをしたのだし。
とりあえず昔、胸を揉んだことをもう一度謝り、その後にとつとつと語る。
とはいえそんなに詳しく話したわけではなく、自分の目的などの説明などだ。
「納得いかないけど・・・別にもう反省してるんなら気にしないよ。
今度こそ友達になろ?
相馬・・・ううん、響君。」
「えと・・うん、まぁ。」
「アンタ、不満そうね。」
響の煮え切らない態度に不機嫌さを醸し出すアリサ。
「い、いや・・・別に。」
「ど、どうしてなのっ!?や、やっぱりその・・・誤解で攻撃したりしたことを怒ってる・・・の?」
嫌々了承したっぽい響を見て勘違いで攻撃したりしたことを怒っているのかとかんぐるなのは。
しかしあれはもともと山田君の早とちりと響のそれまでの行いのせいだし、彼女が気に病む必要は無い。
響が気にしているのはもっと別のこと。
彼女はこの世界の元となったアニメの主人公だ。
彼女と一緒にいては何らかのイベントに巻き込まれる可能性が高い。
命の危険などこれっきりにしたい。
昔の響は彼女欲しさに彼女と積極的に関わったものの、今となっては別にどうでもいい。
お近づきになる必要など惚れた女がいる今、最早無いのだ。
さらに言えば彼女と一緒にいると必然的に山田君にも会うことになるだろう。
また変な誤解を受けるかもしれないし、本当に心底からどうでもいいのである。
はっきり言えば彼女と関わりたいと思える理由が何一つ無いのだ。
「いや、まったく怒ってない。えと・・・うん。よろしくね、高町さん、バニングスさん。」
「名前でいいよ?」
「私も名前で良いわよ。こっちも名前で呼ぶから。」
「いや、遠慮しときます。」
「どうして?」
「ええと俺の中では名前で呼ぶのは、かなり仲良くなってからと言うポリシーがあってだね・・・」
「・・・何。そのポリシー・・・。やっぱり怒ってるの?」
名前で呼びたくないから嘘を付いたのだろうと思ったのか、なのはが不安げな表情を浮かべる。まぁ嘘だが。
響は響でどうしてこいつらはこう名前で呼びたがるのか、ちょっと馴れ馴れしすぎない?と思ってはいるものの、良く良く考えるとユーノもクロノも会って間もない内から名前で呼んでいたことだし、これが彼女達の普通なのだろう。
響としては名前で呼ぶと親しくなり易くなり、はやての時―――は少々特別な事情だったが―――のような親しくなった相手のために命を賭けかねない。
可能性が少しでもあるならば響としては遠慮被りたい状況である。
特に響は日本人。
日本人は平和な環境で育つため、仮に死ぬような目に会っても本当に本当の死ぬ寸前にならなければ「これで死ぬ」という実感が無い。
頭で理解していても、死にかける経験と言うのが無いため、死ぬと“知っているだけ”では情に流され易い。
それをはやての一件で漠然とでも理解した響はこれまた漠然と歩く死亡フラグ足るなのはに、またまた漠然と警戒心を示しているのだった。
どうせ賭けるならば、自分が好意を寄せているアイシテルとリインフォースのため。
それも逃げることをまず真っ先に、念頭にしていながらそれでもどうしてもダメな場合に限る。
結果、響はなのはの申し出を渋々ながら―――という態度で受けるのである。
おそらく友達とは名ばかりで響から避ける日々が始まるのだろう。
そんな話はさておき
なのはとアリサとしばらく雑談をして2人は帰るが。残った1人、月村すずかは帰らない。
というか彼女だけは雑談中もあいずちを打つだけでずっと気落ち気味だった。
響としては一体なんだろうと思いつつも、なのは達はその原因を知りながら気遣って敢えて触れていないという感じだった。