2人で向かい合い、気まずい沈黙。
響はただオロオロと。
すずかは今にも泣きそうに。
アイシテルがあまりの気まずさに離脱した。
さすがのアイシテルも面白がれる空気では無かったようだ。
唯一の心の支えも逃げてしまい、響も泣きそうに。
とりあえず話を―――と思って「ネコは元気?」とあからさま過ぎる気まずさを誤魔化すためのしょうもない話題フリをしたのだが、その答えは沈黙。
特別スベってないのにスベった感が出てしまって恥ずかしさもこみ上げてくる響だった。
そもそもあそこまで徹底して環境を整えた上で捨てネコを引き取っているくらいのすずかのこと。
元気?とか言う話は愚問であり、むしろ侮辱されていると捉われても仕方ないくらいのレベルのダメダメな話のフリである。
内心冷や汗だらだらで頭も真っ白になりがら懸命に響は話題を探すが、焦れば焦るほど頭が真っ白になるのは人たるもの自然の反応であり、最早響の頭の中には何の黄染みも許されないほどに漂白剤をぶちまけた黄ばんだ白シャツ並みに真っ白であった。
もとい普通に白いシャツ並みの真っ白さで、すなわち頭は真っ白であった。
しつこい?
すまぬ。
「・・・ひかり、ごめんなさい。」
「は?」
そしてようやくすずかが口を開いたと思ったら、ごめんなさいと。
侘びの言葉を貰う響。
あまりの唐突さ、ワケの分からなさに声が漏れた。
「今日ね、確かめに来たつもりだったの。」
「・・・えと?何を?」
「なのはちゃんからね。聞いたの。
あの日。
ひかりに私とアリサちゃんが助けられた日。
誤解らしいってこと。」
要領を得ない説明だが、すずかはあの日。
響が屋敷にお邪魔した際、ひかりが響本人だとバレた。
アイシテルのいたずらにより魔法を隠せないと判断した山田君やなのはにより魔法のことを聞き、そしてジュエルシードで自分たちを惚れさせてハーレムを作ろうとしたと聞いた。
でもそれは誤解で、それですずかは一方的に響を嫌っていた。
図書館で会ったのも待ち伏せしていたのだろうという山田君の言葉を真に受けたこと。
自分の目で見たひかりを―――響を信じれなかったこと。
それを詫びているのだ。
山田君のせいじゃない。
響のそれまでの行動のせいじゃない。
山田君は一応恐らくということを言っていたし、響は改心していたという判断も出来たはずだ。
友達として。
一緒にいた人として。
自分で見て、感じた相手を信じれなかったことが何よりも悔しくて悲しくて辛くて。
そして実際、彼は改心していて、ただ純粋に私と仲良くなっていたことを思って。
時たま図書館で会うことになっても努めて無視していた自分に腹が立って。
色々な感情が爆発しそうで泣きそうで。
謝りたい。
ただ自然とそう思った。
だがしかし、それは自分の罪悪感を軽くするためのもので自分が響を疎んでいたことに変わりは無く。
それでも罪悪感のために謝ってしまった自分がなんだか汚いように思えて。
すずかは号泣してしまった。
「えええええええっ!?
あ、ちょっと?
え!?
なにこれっ!?
なんで泣くの!?」
特別鈍いわけでもないが、鋭いわけでもない響にそんな心情の欠片も理解できるはずもなく。
そもそも響としてはアイシテルのいたずらと今までの行いからして無理も無いという考えだったので、すずかが自分自身を責めてるなどと思うはずもなく。
言葉として聞かされているものの、そんな懺悔の言葉を9歳児よりちょっとませたボキャブラリーしか持たない児童に泣きながらとつとつと語られても要領を得ず、分かりにくいことこの上なく。
とどのつまり響はイキナリ泣き出してしまったすずかの扱いに困ってしまったのだった。
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい・・・」
「いや、謝られても良く分からないというか・・・謝るよりも泣き止んで欲しいな・・・と思ったり・・・」
「ぐず・・・うん、ごめんね、迷惑だよね。」
「いや、そんなことは・・・」
あると思いつつもさすがにそれはいえない響だ。
そりゃ響からしたら良く分からずイキナリ泣き出すのだから例え美少女の涙といえど正直、扱いに困ると言うのは否めない。
そもそもあまり泣き顔が好きというわけでもないし。
「なんか良く分からないけど、月村さんが謝る必要は無いと思うけど・・・」
「ううん、私が悪かったから・・・」
「・・・どうしてそんな結論に至ったの?」
「私がひかりを信じれなかったのが悪いの。
・・・ごめんね、ひかり。本当にごめんなさい。」
良く分からない響としては、本気で頭がどうかしちゃったのだろうか?と失礼なことを思っていた。
とりあえず流すことにして、響は話を進める。
「えと・・・つまり今日は謝りに来たの?」
「・・・うん。わざわざ押しかけるのは迷惑だと思ったけど、一刻も早くひかりに―――あ、響だったね。
響君に謝りたかったの。罪悪感で押しつぶされそうだったから。
・・・身勝手で呆れた?」
「いや・・・その・・・」
身勝手と言うよりも「こいつ本当に9歳児か?」という戸惑いの方が大きかった響である。
思考回路もそうだが、どんな育て方をしたらこんな娘が仕上がるのか月村家に真面目に訊ねに行きたくなった響であった。
「・・・ひかり・・・じゃなくて、響君。あのね。」
「ひかりで良いよ、別に。」
「えと・・・うんそれじゃそう呼ばせてもらう。
ひかりさえ良かったら私と友達になってください。」
「・・・・・・そう。」
「ど、どうしたのっ!ひかりっ!?」
響は知らず知らずに涙を流していた。
「いや、その・・・なんというか、月村さんは・・・俺の始めての友達らしい友達だと思っていたから・・・その、なんか良く分からないけど嬉しくて・・・」
すずかと話さなくなってからと言うもの、響はもちろん傷ついたのだが、一番に傷ついたのは自分を信じてくれなかったこと。
それでも「彼は自分の友達だ」的なことを言ってくれず、後日なんでもないように忘れ去られていたのが一番、辛かった。
所詮そんなものか、と。
もちろんこっちの正体を偽っていたのもあったし、知り合ってからそこまで日が経ってないというのもあった。
でも、そうしたことを望んでしまうというのは我侭だろうか?
誰だってそう思ってしまうところはあるのではないだろうか?
どう思って今この場にいるのかは殆どわからないけれど、それでも自分のことを信じれなかったことを詫びている・・・らしい。
ということは今度こそ自分を信じるから友達になってくれないか?
そう解釈してもあながち間違いではないはずだ。
こんな自分に。
誰かのために頑張れる人間を羨み嫉妬する自分。
ビビってしり込みするばかりの自分。
先ほど全て簡単に話したのにも関わらず、自分と友達になってくれという。
そういえばなのはたちもそれを聞いたにも関わらず友達になってくれと言っているのだった。
嗚呼、なんていい人たちに関わっているのだろうと多幸感で涙する響。
何よりも目の前の彼女はもう二度と間違えるような阿呆ではあるまい。
「ひかり?」
「ううん、こっちからお願いするよ。
友達になってくれない?」
「え?
・・・う、うん!!」
こうしてまた友達になることが出来た二人だった。
その後、響による月村さんのパジャマの返却がされたのだったが、自分のパジャマを大事に持っている男の子。
正直薄気味悪さを感じ、早まったか?と思ったとか思わなかったとか。
☆ ☆ ☆
「これから翠屋に行こうと思ってるの。一緒に・・・どうしたの?ひかり?」
「あ、いや、ちょっとね。せっかくのお誘いだけどごめんね。行かなくちゃいけないとこがあるから。」
「そうそれは残念。フられちゃった。」
「・・・そういう発現は止めておけば?
男の人に勘違いされるよ?」
「ふふふ、勘違いしても良いんだよ?」
「は?」
「なんでもない。」
今の怪しい発言は言葉遊びであり、ちょっとしたすずかの気の迷いである。
別にフラグが立ってるわけじゃないんだからねっ!!
「どこに行くの?」
「図書館。」
「何か借りるの?」
「ああ。キスの―――開きの作り方かな。」
つい余計なことを話しそうになって「アブねぇっ!」と内心ほっとする響。
我ながらナイスリカバリーと思っていた。
すずかはどうも警戒心や頑なに秘密にしていることをぽろりと喋ってしまうような柔らかい雰囲気を醸し出しており、響もそれに知らず知らずの内に当てられていたようだ。
「ふぅん。
私とキスする?
キスの仕方教えてあげようか?」
「ぶふっ!?」
「どうしたの?」
「は、いや?
えっ!?」
「ん?
あれ?何か勘違いしちゃったかな?
キスするって、鱚(キス)を開くの略語だよ?」
「え?
あ、そうそうっ!
そうだよね!!知ってるしってる!」
にやりとしたすずかの笑みを見れば確信犯であることは誰でも分かるものだが、響は分からずにバレバレな誤魔化しをしていた。
そもそもキスの開きを略しちゃ誰も分からないだろうという。
ちなみにキスの開き方はまず鱗を丁寧に取り、頭を落とす。
そして内臓をとった後、背側から包丁を入れていく。
大きくても30にならないくらいの魚なので骨に身を残さないよう、少しずつ開いていくのがコツ。
尻ビレの身を切り離さないように気をつけつつ開けたところで裏返し、骨をまな板に合わせた後で骨の上の身を切り離していく。
腹回りの細かい骨ををとれば完成。
刺身、天ぷら、塩焼きなどがお勧め。
「教えてあげようか?キスの仕方。」
いちいちその言葉を聞くごとにドキっとする響だが、本当にキスの開き方を知りたいわけではないのでもちろん―――
「いや、それも悪いし、他にもサバやアジの開き方も知りたいから・・・」
魚の開き方ばっかりだなというツッコミをする人はこの場にいなかった。
というか大抵の魚の開き方は同じである。
鱗を落として頭を落とし、内蔵を落とし、骨から身を落とす。
要は落としまくれば良いのだ。
「それじゃ久しぶりに話したいし、私も付いていって探してあげる。
私、ずっと通ってたからどこに何があるかほとんど知ってるし、下手したら司書さんよりも―――」
ヤバイ。
響はそう思った。
これはネコの本の時のノリだ。
本当に見たい本が読めないあの展開。
ぶっちゃけ魚の開き方など微塵も興味が無い。というか文字と写真で理解するよりも普通に母親の文香にでも習った方がよっぽど手っ取り早い。
「いや、やっぱり迷惑じゃきゃ教えを請おうかな!!」
「そう、それじゃ丁度良いし、翠屋で厨房を借りましょうか。」
「はっ?」
「ほら、ひかり、行きましょ。」
「え、いや、あの家の家族に会うのはちょっと以上に嫌というか・・・」
こうして強引に翠屋に引っ張られていく響だった。
内心、仕事中だし迷惑だから断られるだろうとも思っていて、別にこのままでも凌げるかと思いつつ、一番怖いっぽいお兄さんは家にいることはほとんど無いようだし―――その実、腕を捕まれており、すずかの胸の感触が肘にこう―――ほわんとなるのに気が逸れてあまりろくに物事を考えられない響だった。
アイシテルやリインフォースが見たらどう思うことやら。