旧版・とあるチートを持って!   作:黒百合

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高町夫婦

「キスの開き方はね・・・」

 

どうしてこうなったのだろうか?

てっきり仕事中で忙しいからと断られると思いきや、普通に厨房を借りれてしまった。

すずかが手馴れてる感じがあることから、日頃翠屋で料理を習っているのだろう。

今日もその行きだったのかもしれない。

確かに翠屋はここ海鳴市ではかなりの人気店でグルメ雑誌やグルメブログなどにも出るくらいだという。

その店を経営しているなのはの両親はそれはもう腕が良い。

 

そしてそのなのはの母、桃子に響はキスの開き方を教わっているところだった。

父親の司郎は店番である。

 

「あの・・・」

「何?」

「・・・えと、いいんですか?」

「何が?」

「ええと、高町なのはさんのことで・・・」

「あら…まだ気にしていたの?もうかれこれ10年近くも昔のことなのにまだ気にしていたのね。

まったく…律儀というか…べつにどうともないわよ。あの子も気にしてない。

これ以上言うことはあるかしら?」

「・・・いえ。」

 

優しく笑って答える桃子。

本当に気にしていないようだ。

とはいえ気まずさがなくなるわけではない。

 

「ほら、それよりも刃物を扱っているのだから、集中しなさい。

怪我してしまうといけないから。」

「あ、はい。」

 

なんだかんだで魚の開き方を覚えた響だった。

 

☆ ☆ ☆

 

魚の開き方、焼き方や味付けの仕方、ちょっとした豆知識も教わりつつ。

休憩することになった。

 

「はい、お茶でもどうぞ。」

「いただきます。」

「な、なんかごめんなさい。」

 

すずかが礼を言うのに対し、響は卑屈な言葉で応えた。

いきなり押しかけて、特別親しいわけでもない相手に気遣われるのは遠慮よりも申し訳なさの方が出てくるというものだ。

 

「迷惑だったかしら?」

「あ、いえ、別に・・・ただ申し訳なくて・・・」

「もちろん私の方も迷惑じゃないのよ。だから詫びの言葉を言う必要はないの。

迷惑だったらそもそも家に入れていないしね。

さて、となれば。

私が今言って欲しい言葉はなんでしょう?」

「えと・・・あ、ありがとうございます。」

「ふふ、よろしい。」

「・・・。」

 

なんだろう。

このお母さん感。

なぜこの人から何かあれば魔法でドーンのあの子が生まれたのか。

不思議でならない。

とはいえ、雰囲気は容姿が似てるのもあってそうだと分かるが。

 

「どうしたの?

・・・もしかして・・・ごめんなさいね。ついつい子供扱いしちゃって・・・」

「いえ、別に。」

「ついでにゴハンも食べていくと良いわ。」

「さすがにそこまでは・・・」

「いいのいいの。遠慮しないで。」

「ううんと、じゃあ、頂きます。」

 

本当に遠慮しないで良いという雰囲気を出されてはどうしようもない。

むしろどんなゴハンか気になるくらいだ。

頂けると言うならば頂いても構わないだろう。

 

でもって。

 

「ほう、久しぶりだね。響君。そして、すずかちゃんもこんにちは。」

「ひ、久しぶりです。たかま―――なのはさんのお父さん。」

「こんにちは、おじさん。」

 

昼休憩と言うことで父親の士郎もやってきた。

変わりに桃子が店番である。

響がなのはの父と会うのも、実に9年半ぶり。

なのはに謝りに行く際に、厳しい目でずっとこちらを見ていたのが今でも昨日のことのように頭をよぎる。

良くあるテンプレ展開ではニコヤカになりつつも殺気を振りまいているだとか、道場に連れ込まれてボコボコにされるだとか。

そんなことはもちろんありえず。

もちろん内面的に怒っていたとしても、常識的に1人の成人男性が9歳の子供に殴りかかるわけがない。

大人としての対応、社会人としての、父親としての対応をしたのだ。

相手の子供が真に反省しているかをニコリともせず、かといって特別怖い顔でビビらせると言うわけでもなく、ただただじっと見定める感じでこちらを見て、ただ黙して話を聞いていた。

相手は9歳児なのだから概ね妥当な反応である。

 

怒られる方としては、一番嫌な感じの怒り方。

響はもちろんのこと申し訳なく思ってるわけで。

不安げに瞳が揺れる。

そんな響を見てまず一言。

 

「久しく見てない間に中々面白い成長をしたようだ。

良い男になったじゃないか、響君。」

「は、はぁ・・・」

 

本来ならば、ここで気まずさゆえに視線を逸らすのが普通だ。

しかし響ははやてが昔に言ったように、例え不安でも特別視線を逸らすようなそぶりを見せなかった。

響にとって悪印象を持たれる事は慣れていること。

今更この程度の居心地の悪さ―――いや、好意的ではないが、特別敵対しされていないだけまだマシと言うものである。

ただ居辛いだけなのだから。

 

そして士郎はそんな彼の本来とは違うリアクションに面白さを感じたと言うことである。

その後も取りとめの無い雑談をしつつ、ご飯を食べ終わるころ。

士郎はおもむろにがらりと話を変えた。

 

「さて、雑談はこれくらいにして。

本題に入ろうか。」

「え、あ、はい。」

 

なんだろうか?と響は思うが、恐らくなのはのことだろうなとは思う。とはいえ、昔のことを気にした風でもないし、仮に気にしていたとしてもいちいち掘り返すような無粋な人では無いだろうと感じた響は少し身構える。

 

「うちの娘を避けて回ってるらしいじゃないか。」

「え゛」

「君ももう18だろう。

立派な男だ。

うちの娘を見て寄り付くならばともかく、避けるとは何事だい?」

「え、あ・・・へ?

いや、その・・・」

 

なんて言えば良いのだろう?

色々な理由から(一番はアイシテルたちに不快な思いをさせたくないため)あまり仲良くなる気になれず、そうあるとなのはの方もムキになり、いつの間にか一度手合わせすれば分かり合える的なノリになって尚のこと避けるようになった今現在。

むしろこっちが文句言っても良いんじゃ無いだろうか?

おたくの娘さんが絡んでくるんですぅ!と。

実際に言ってみた。

アホである。

 

 

「ほう・・・すなわち、あの子の方が悪いと?」

「い、いや、悪いと言うわけでは・・・」

「悪いといってるも同然だろう?

すなわち君はあの子を嫌っていると?」

「いや、嫌いと言うか、苦手と言うか・・・」

「ハッキリしてくれ。」

 

ギンと睨む士郎。ついでに少量の殺気も含めて。

ぶるりと震える響。

内心ソレを見て、士郎は感心する。

殺気と言うのは実戦を出て、相手にそれなりの敵意を向けられて初めて分かる感覚だ。

特別戦いを好むような男には見えない目の前の彼がそれに敏感に反応したのは少々以上に驚かされた。

やけに重心が安定しているのもあり、何か武道を嗜み、多少の死線は潜り抜けているのだろうと判断する士郎。

概ね間違いないが、少し過大評価かもしれない。

イタズラ心で殺気を少し込めてみたのだが、予想とは違った反応だった。

 

もちろん彼はなのはが悪いのだろうということはわかっている。

自分の娘なのだからおそらく言葉足らずで、思い込み一直線のあの子のこと。

目の前の彼―――響に無用な圧力を加えているのだろう。

器用なように見えて不器用。

見た目こそ妻の桃子にそっくりだが、中身の難儀な部分は自分に似てしまったようなのが多少の悩み事だ。

巣立ち始めたここ最近になるまで終ぞ、その癖は治らなかった。

今ではその間違いを正す良き友人もいることだし、そうした部分も含めてあの子だろうとほうっておいたのだが、如何せん他の人に迷惑をかけるのはよろしくない。

久しぶりに叱る必要がありそうだとも思いつつ。

 

さらにイタズラ心を発揮した士郎はそのまま彼を誘うことにした。

道場へ。

剣を交えれば人となりが分かる。

これは別に漫画やアニメ限定の現実ではありえないような現象かと思うかもしれないが、実際に現実でもある程度はこのことが言える。

たとえば、普通に打ち合うとき。

その剣がしっかりと型にはまったものであれば、日頃から努力を欠かさない人間であることが分かる。

たとえば、隙をわざと見せた時。

その隙に迷わず打ち込んでくるならば甘さの無い人間だと言えるだろうし、逆に罠だとかんぐらずに攻めを行うという迂闊さを表す。また、打ち込まないならばソレに気づかない愚鈍さが分かるかもしれないし、慎重さが分かるかもしれない。または臆病なのかもしれない。

負けそうなとき。どんな行動をするか。

逃げるか立ち向かうか刺し違えることを狙うか。

 

このようにその人間の性格の大まかな枠組みが分かるのだ。

剣を交えれば悪人かは分かるという言葉は何も全くの荒唐無稽な話ではないのだ。

 

「そうだ、少し手合わせしていかんかね?」

 

別に断るならば断るで構わない。

それも含めてのその人の人柄だ。

 

「手合わせですか?

手と手を合わせて幸せ的な?」

「は?」

「いや、なんでもないです。」

 

ボケてうやむやにしようと思ったのだが、無理だったようだ。

響はどうしようか迷った。

仮にも知人の父親だ。

それと取っ組み合うと言うのはちょっと以上に申し訳ない。

下手したら怪我させてしまうかもしれないのだ。

このとき、響はなのはの父、士郎が強いことを知らぬため、仮にも厨ニと特訓している自分が負けるはずが無いと思っていた。

なんの道場かはわからないが、実戦用として鍛えた自分の武道と、現代に至りスポーツ化した武道とは天と地ほどの差がある。

そう考えその旨を伝えて、断ったのだが。

 

「ほう・・・この私に気遣いとは・・・なかなかどうして心が沸き立つものだ。」

「は?」

 

逆効果だったようだ。

先も言ったように断るのも含めその人の人柄だと思っていたのだが、手合わせもせずに自分が気遣われる―――ありていに言えば下に見られるなどというのは男としても、武道かとしても許されることではない。

家庭に収まり、翠屋という接客業に納まったとて未だ彼は武道家としての全てを捨てたわけではない。

一先ず頭の片隅に追いやっていただけである。

何時の日かの武道魂というべき物がそれはもう、メラメラと音を発てて燃え上がる。

下に見られたままでいいのかと。

慟哭の叫びを上げる。

すずかはそんな2人を見て、少し心配そうに、でもちょっと見てみたさを加えた微妙な表情を浮かべる。

すなわち苦笑である。

 

 

「気遣いは無用だよ。響君。」

「いえ、ですが・・・」

「早速行こうじゃないか。さぁ!」

「あ、いえ、でも・・・」

 

強引に腕を引っ張られる響。

すずかも付いていくようだ。

 

「勝負は三本勝負。先に三本。クリーンヒットを当てれば勝ち。

もしくはギブアップで勝ちだ。」

「ええと・・・本当にやるんですか?」

「もちろんだとも。」

「防具とかは・・・」

「いらないよ。」

「いや、でも結構危ないのでは・・・」

「何、この裏手に良い医者がいる。即死でもない限り死なんさ。

それに君もなのはと同じく魔法を使えるのだろう?」

「あまり治癒系は得意じゃないんですけど・・・一応。」

「身体強化系の魔法があれば遠慮なく使ってくれ。」

「えと・・・」

 

響は乗り気ではないが、まぁたまには厨ニ以外の相手を戦うのも良いだろうと木刀を握りなおす。

もちろん身体強化など使うはずも無い。

はずだったのだが。

気楽さを一瞬で消し飛ばされた。

 

「っ!?」

「油断大敵と言う言葉を知ってるかい?」

 

一振り。

一振りの木刀を受けた。それと同時に脇腹に激痛が走り、苦悶の表情を浮かべる響。

脂汗を垂らしながら声を出すことも出来ない。

絶句する痛みである。

下手に切られるよりも痛い。

確実に肋骨が折れたような音もした。

すずかが声を上げ、かけよる。

 

「お、おじさん!これはやりすぎですっ!!」

「あ、いや、すずかちゃん、これはだね・・・男と男の勝負で・・・」

 

士郎としても小手調べのつもりだったのだが、予想以上に簡単に決まってしまって拍子抜けである。

 

「・・・だ、大丈夫、月村さん。」

「ひ、ひかり?」

「下がって、て・・・」

 

響だって男の子である。

普段ならばここらで逃げ出すことを考えていたかもしれないが、響だって人間なのである。

ありていに言えば全く反応できなかったことが悔しい。

これでも今まで、もしアイシテルやリインフォースが襲われた場合の時を考え、逃げ出せないときのことを考え、厨ニとの特訓だけは毎日ちょっとでも欠かさずやってきた。

剣の稽古もそうだ。

それが通じない。

今までの9年間が全く通じぬままに終わるのはさすがの響だってヘタレ根性よりも悔恨の方が先立つと言うもの。

他にもどうしてこの親子はこうも俺をボコりに来るのかという怒りもある。

暴力と言うのは恐怖を植えつけるが、時には怒りを呼び覚ますこともあるのだ。

さらには女の子だって見てるのである。

男の子としてあまり見っとも無い姿は見せたくない。

また、負けても命を取られることも無い。

 

というもろもろの理由でもうちょっとだけ頑張るという響にしては珍しい現象が起きていた。

 

「次は油断しません。」

「・・・そうか。今度こそ楽しませてくれ。」

 

またもや一振り。

響はそれを木刀で受けるものの、受けた時には横腹に木刀が向かっている。

またおんなじ攻撃の組み立てに舐められていることを感じ、舌打ちをする響。

それをバックステップでかわして、瞬時に木刀を構える。が、次に来たのは腹に対する胴抜き。

辛うじて木刀の腹で受ける響。

が、後方に弾き飛ばされる。

 

「なんつーバカ力。」

「君が非力すぎるだけだろう。」

 

そのまま多少の距離を持ったまま、じりじりと距離を詰める両者。

 

「身体強化は使わないのかい?」

「そっちが使えないのにこっちが使うわけ無い。」

「意地を張ると怪我が増えるよ?」

「・・・うるさい。」

 

少し熱くなっていた響。そのため敬語が抜けていた。

熱いと言うよりはイラ付いているのだが。

 

どこをどう打ち込んでも打ち返されるビジョンしか浮かばない。

とてもじゃないけど今の自分では勝てそうに無い。

はっきり言ってかなりムカつく。

なんせ彼には趣味らしい趣味がなく、強いて言えばアイシテルたちを守るための魔法や剣の稽古が趣味だった。

なのにも関わらずそれが全く通用しない。

別に自分が単に趣味でやっていただけならばいい。

だが、これはアイシテルたちが関係してること。

どんなときでも一緒にいてくれたアイシテルとリインフォースを守るために鍛え上げた力。

アイシテルたちを守れない。

その可能性を間近で見せ付けられている。

イラついて当然だろう。

 

たかだか料理屋の店主に勝てないのだ。

それが悔しくて悔しくてしょうがない。

別にたかだか料理屋の店主と言うような人物ではないのだが。響は知らない。

 

「もっと脇を締めるんだ。」

「このっ!?

偉そうにッ!!」

 

打ち合いつつも響は一杯一杯。

対して士郎は余裕だ。

しかし、響が動く。

 

士郎の一振りに合わせ、自分の腕をぶつける。

骨が折れる嫌な音が響くが、それを無視して、もう一方の腕で叩きつけるように木刀を振るう。

が。

 

「悪手だな。」

「がっ!?」

 

感情が荒れると攻撃は単調に、大振りに。

すなわちゲームで言うところの避け易い大技のようになる。

ガードなり避けるなりカウンターを食らわせるなり。

自由自在だ。

 

「そして自分の身を省みないその手は私が最も嫌う手だ。」

 

 

 

思いっきり殴られ、響は気を失った。

 

 

 

 

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