「子供か・・・オムツとか用意した方がいいのかな?」
『このくらいの子供なら要らないんじゃないかなぁ・・・デバイスの私にもさすがにそんな知識は無いし。』
響はというとさらってきた少女。
ぶっちゃけヴィヴィオであるが、その扱いに困っていた。
そら一時的に相手をする。すなわち遊んであげるだけならばともかく、今求められているのは日々の世話である。
育児費も貰っているわけであるし、しっかりと世話をするのは当然のことである。
ただ。
ただ、響とアイシテルに5歳児、6歳児の子供の子育て経験などあるはずも無く、一体何を食べるやら何が必要なのやら全く持って分からなかった。
離乳食はもう要らないのかな?とか予防接種とかは要らないのかとか、デバイスってもう用意してあげるべきなのかな?とかもろもろの疑問が沸く。
中にはさすがに分かるだろ?と思うような疑問もあるのだが、残念なことに響は阿呆。
阿呆ゆえにあまり分からなかった。
ついでに言うと、おなじみの緊張で頭が働かないというのもある。
そしてそんな感じでミッドの仮住まいにて、アイシテルと一緒にうんうんと唸っているとヴィヴィオが目を覚ます。
プロジェクトFで生み出されて始めての意識の顕現、
ヴィヴィオの取った行動は泣くことだった。
もちろん慌てる響とアイシテル。
ようやく落ち着かせたときには日が暮れていたりした。ところが。ところがである。
「ママは?」
「開口一番にママか・・・子供としては正しいのかもしれないけど、普通ここがどこかとか気にしないだろうか?
まぁ・・・いいけど・・・ええと・・・ママは・・・いるの?」
厳密には開口一番は泣き声だが。
「なんでお兄ちゃんが聞くの?」
「え?
だって・・・いないよね?」
「私に振らないでよ・・・」
もちろんヴィヴィオにママどころかパパもいない。
クローンで作り出された人間なのだから。
そして響はここで気づく。
ヴィヴィオが泣きそうになっていることに。
「いや、やっぱりいるよっ!?
いるよいるっ!!」
「どこ?」
「ええと・・・君が良い子にしてたら迎えに来るってさっ!!」
「ほんと?」
「ああ、ほんとだともっ!!」
嘘だが。
響は泣かれたくなかったがためについ嘘を付いてしまった。
「お兄ちゃん・・・私と同じ目してるね。」
「・・・お、おう。」
何よりも響がヴィヴィオを苦手としているのは彼女の両目にあった。
オッドアイ。
人間の場合には虹彩異色症と呼び、先天的に左右の目の色合いが違うもの、後天的に何らかの病気の症状や、後遺症として目の色が左右で異なる病のことを言う言葉だ。
事故などの端的外的要因によっても引き起こされることもあり、とにかく現実で言えば非常に珍しい状態と言えよう。
ネコの品種の内にオッドアイが出やすい種類や、そもそもオッドアイが出るようになっている品種などがいるが人間では起こり辛くマイナーな病気であった。
ところがである。
昨今では少年少女漫画のキャラクターなどから発生してわざわざ瞳の色を変えるカラーコンタクトや左右の目の色が違うことに憧れを抱く少年少女が続出。
厨ニ病の代名詞や、コスプレイヤーが羽目を外して楽しむ際に・・・などという感じになり、次第に有名となる。
結果、響も若気の至りで銀髪でオッドアイなどと言う今思うとばかばかしい・・・どうせ頼むならもっと良いチートを貰うべきだったと後悔したこともあったわけだが・・・
さて。ここまで話したところでおさらいとしよう。
ヴィヴィオはオッドアイである。
響は原作を知らない。
オッドアイは非常に珍しい。
この世界には響を除き、すでに山田君と言う転生者がいることを響は知っている。
響は一般人思考。
結果。
ヴィヴィオに対して「こいつ、転生者じゃね?」という警戒心を抱いているのである。
先に言ってしまえばこの世界にいる転生者は響と山田君しかいない。
ゆえにヴィヴィオが転生者であるはずも無く。
また、憑依されているわけでもなく。
そもそも原作組みなワケで。
『アイシテル・・・この子オッドアイだ!?』
『今更っ!?』
念話で作戦会議をし始めた響達。
『転生者かも・・・ていうか確実にそうだよね?』
『ううむ・・・見た限りじゃただの子供って感じだけれど・・・』
『でも良く考えてみ?
たまたま研究所を襲った相手がオッドアイ。
どんだけ低確率だって話だよね?』
『ううむ・・・まぁ確かにネ。』
オッドアイはただでさえ少ない外見的特徴な上、響がたまたま仕事先で出会った子供がオッドアイ。
そして将来確実に美人になるであろう可愛いお顔。
響としては自分と同じく容姿を弄った転生者だと思ったわけで。
『それにこのどこからどう見ても子供にしか見えない演技力。
多分演技力チートとかそんな感じのチートを貰ったに違いない。』
『で、どうするの?
それにたまたまオッドアイであったという可能性も無きにしも非ず。
下手に危害加えてただの子供だった時のことを考えるとかなりまずいと思うよ?』
『は、何を言ってるんだ?アイシテル。何年一緒にいる?』
『あ・・・うん、まぁ分かるけど。仮に転生者だろうと転生者じゃなかろうと響のやることは決まってるもんね。』
『おうさっ!!
自分よりも強い転生者だったときのことを考え、適度に親切にしつつ、適度に相手から距離を取る。あわよくば八神達になすりつけるっ!!
これぞ俺クオリティッ!』
『・・・かっこ悪いけど・・・うん、まぁいいんじゃないかな。』
すなわち一見幼女に媚を売りつつ、いつでも逃げられるようにしておくということである。
非常に情けないが、現状無難な手といえよう。
最善とも最悪ともいえないが。
『それにしてもこの転生者(仮)も可哀想に。
オッドアイとか・・・恥ずかしいチート特典を選んだものだ。
なんだろう?
この胸の内から湧き上がるホッっとする感は・・・これが同属意識っ!?』
『・・・で、とりあえず一見子供にしか見えないわけだし、最低限子供に必要なものを考えようよ。』
『おうさっ!そこで俺に名案がある!!』
『・・・ろくでもないとは思うけど、一応聞いておいて上げる。』
『幼女自身に聞けばいいではないかッ!!と気づいた。』
『・・・。』
「君が今欲しいものって・・・ああ、そういえば自己紹介がまだだった。
俺は響。」
「ひびき?」
「んでこっちの美人で可愛い女の人が俺の・・・ええと・・・まだ妻じゃないし、彼女?と言う感じはしないし・・・ええと・・・あ、愛してる人のアイシテル。」
「愛してる人の愛してる?」
「アイシテルが名前。」
「アイシテル?」
「紛らわしい名前で御免ね。」
首を傾げて聞きなれない名前に首を傾げるヴィヴィオ。
ソレに対して、腰を折り、膝を畳んで目線を合わせながらニコリと微笑みつつ謝るアイシテル。
「君の名前は何かな?」
「わ、私・・・?
私の名前・・・名前は・・・」
どうやら生まれたばかりでまだ名前が付けられてないらしい。
アイシテルは答えられなくて、ちょっと不安になっているヴィヴィオを宥めるように頭を撫でつつ、資料を展開して名前の欄を見る。
ヴィヴィオと書いてあるのを見て、そのまま呼ぶことにした。
「名前分からない?」
「う、うん・・・」
「じゃあ、お姉ちゃんが名前を付けてもいいかな?」
「お姉ちゃんが?
名前?」
「そう。君の名前。
ダメ?」
その言葉に横に首を振るヴィヴィオ。
「そ。それは良かった。
じゃあ、君の名前はヴィヴィオで。」
「・・・ヴぃ、ヴィヴィオ?」
「そう、ヴィヴィオ。
イヤかな?」
「ヴィヴィオ・・・ヴィヴィオ・・・ヴィヴィオ・・・」
小さな声で自分の名前を連呼するヴィヴィオだった。
気に入ったらしい。
「さて、ヴィヴィオ。
これからお姉ちゃんとお洋服買いにいこうか?」
「う、うん!」
そのままアイシテルに抱きついて手を繋ぐヴィヴィオ。
名づけられただけでここまで懐くものだろうか?
それとも目線を合わせて優しく語りかけたからなのか。
どちらにせよ、アイシテルの背後で普段とは違うアイシテルを見てちょっと赤くなった響だった。
「どうしたの?ほら、響も!」
「いや、ちょっと・・・子供がいたらこんな感じかなって・・・」
「な、何を言ってんのっ!!ばかちんっ!!」
「だっ!?」
照れ隠しに手が出るアイシテル。
迷惑である。