ジメッとした空気の中。
「さて、こちらだね。」
「はい。ドクター。」
「なるほど。管理局の膿、引いてはこの私を探そうとしている勇敢な人間というのは・・・山田 ち―――」
薄暗く、どこかの洞穴のようにも見える場所。
そこで紫色の髪をした白衣を着た男と、独得なバリアジャケットに包まれた美女が居た。
「あ、ドクター。」
「なんだね?」
「イレギュラーとなりえる人物のリストアップが終了しました。」
「ふむ。出してくれたまえ。」
「高町なのは、フェイト・T・ハラウオン、八神はやて、クロノ・ハラウオン―――」
紫の髪をした男は次々に名前を読み上げていく。
どこか楽しそうに、面白そうに。
狂気を内包した点呼は止まらない。
とある名前で止まる。
結構簡単に止まってしまった。
止まらないと思ったのに。
「相馬 響か。
ふむ、興味深い。」
「ドクター。」
「ああ、分かっているよ。
確かに今回で一番のイレギュラーとなりえる可能性があるのは彼だ。
信じがたいことに女性の乳房を揉むことで対象にあらゆる効果をもたらす。
全く持って興味深い。
管理局の老害どもを殺すという目的が無ければ是非とも彼を襲って、捕まえて、その毛の先に至るまで調べつくしたかったというのに。」
そういって男は虚空に出てきたウィンドウの映像を穴を空ける勢いで凝視する。
「闇の書事件の最終決戦。
何度見ても不可解だ。
特別な魔法陣も無く、特殊な力が検知されているわけでもない。
実に興味深くも、面白い。
嗚呼、悲劇だね。
いや、喜劇かな。
欲しいものはすぐそこにあるというのに、わざわざ前座を見物しなくてはならない。」
「それが風情というものではないでしょうか?」
「・・・ふっ。言うようになったじゃないか、クアットロ。」
「それに美味しいものは最後までとっておくのもまた興が乗るかと。」
「嗚呼、確かにそのとおりだ。全く持ってそのとおりで、ゆえにこそ狂おしい。」
「そしてドクターこちらはどうしますか?」
そういってクアットロが向けた視線の先にはごろりと転がる人が1人。
「・・・ちっ。」
「さて、君に聞こう。
山田 ち―――」
「ジェイル・スカリエッティ。
オマエの目的は何だ?」
ごろりと転がる山田君が忌々しそうにスカリエッティの話を遮り、睨む。
その身体には特殊なバインドが巻かれていた。
「・・・ふうむ。いけないね。本当にいけない。人の話は聞くものだ、とお母さんに習わなかったかい?
といっても私に母などいなかったからそういうものだということを知っているに過ぎないが。ゆえに分からない。むしろたずねよう。母親は子供に人の話を聞くように教育する。そういうものなのかい?」
「そんなこと超絶どうでもいいわっ!!」
「・・・どうでもいい?
それは君が決めることではなく、私が決めることであって、むしろ君にはどうしようと分からぬことだろう?
むしろ不思議だ。皮肉や嘲りの意味合いは些少もない。ただ興味深く感じるほどに不思議なのだ。他意なく、純粋に。
どうして君は私が訪ねたことをどうでもいいと断じた?
私は君とは出会って初めて。すなわち初対面だ。もちろんのこと価値観や考え方。そんなことを分からせるほど分かり易い人格をしているという自覚は無いのだが・・・はて?
クアットロ、私はそこまで分かり易いだろうか?
いや、そもそもどうでもいいならば始めからそのような疑問は持たぬし、ましてや口になど出さないのだが。仮に分かり易いとしても初対面でばれるほど私はあけっぴろげでも、かといって彼が特別鋭い人間には見えないが・・・」
「いえ。目の前のこの方がただ阿呆なのかと。というよりも大抵の凡人どもは頭で考えるよりも先に口に出すのが概ねの形でしょうし。あまり気にしすぎなくとも良いかと思われます。」
「ふむ。まぁそうかね。それで?
とりあえず本題に入ろうか?まず第一に君の目的を聞いてあげよう。いやぁ、感謝したまえ。あ、もちろん私にではない。私を育ててくれた母にだよ。人の話をしっかり聞いてあげるような子に育ちなさいと育てられたからね。というのはもちろん嘘で、母もいないのだが。」
「それは先ほども仰いましたよ、ドクター。」
「そうだったね。確かに言った記憶がある。・・・まぁ大事なことは二回ほど言っても問題はあるまい。いや、さほど大事というほどでもないか。大事の前の小事。というべきだね。
そして小事が済めば大事だ。
大事な用件を聞こう。改めてね。
君はわざわざ単独でここに不法侵入をした挙句に、私たちに捕まった犯罪者さんなわけだが、さてはて。犯罪を犯してまでここに来た理由とはズバリ何だね?」
「それはこっちのセリフだ。ガジェットを作って、協力者まで作って何を考えてる?」
原作で概ねの流れは知っているものの、できれば六課襲撃や大事になる前にスカリエッティを捕らえたい。ゆえに山田君は無茶な探索を続けていた。
結果、疲労と特殊なバインドにより見事に捕まってしまったのだった。
「そういうことを聞いて私が素直に答えるとでも?
・・・決まっている。
全ての探求さ。」
「犯罪まで犯して、周りに迷惑かけて、何が探求だっ!!…ってか、答えるんかいっ!?」
思わずツッコム山田君。
「ほう?
異なことを言う。
別に私は迷惑などかけていないよ?」
「何をふざけたことを・・・」
「実際、一般人に被害が出たことなど無かろう?
私は研究者でありさえするが、悪人でもなければ善人でもなく。犯罪者でもない。
むしろ
私はただの善良な―――とは言えないか。かといって悪徳研究者というわけでもないのに。強いてあげればそういうことをしていると糞に群がるキンバエのように管理局員がワラワラとどこからともなく沸いてくる。いや、実際は沸くというよりポッと出る・・・の方が正しい表現だろうね。転送で虚空からポッと出現するのだし。」
「何をふざけたこと・・・」
「おいおい?
ふざける?
バカを言うな。真面目に人が話しているのにわざわざここでフザケル必要などどこにも無いだろう?
そもそも研究者肌で未だろくに人との接点を持たない私に、初対面の人間と面白おかしくふざけるほどの凡夫足りえる能力が備わっているとでも?
ああ、もちろんこの場での凡夫はありふれたというニュアンスで使ったのであって、別にその能力自体をバカにしているわけではない。むしろ人間の社会体系で生きていくうえでは重要かつ重視されるべき能力であって、ありふれているからと軽視や侮蔑をするような人間はただのひねくれものに過ぎない。私は・・・ひねくれ者かもしれないが、研究者という仕事上、観測することにおいてひねくれた物の見方はするつもりなどないよ。むしろ肯定的に。いや、好意的に受け止めるだろう。スポンジが水を吸収するように素直に簡単に粗雑にしかし丁寧に。とはいえ、その観測結果を素直に相手に伝えるかといえば否。であるがね。当然だろう?
面白おかしくもったいぶって喋らねばせっかく調べたことが勿体無いではないか?
そうは思わんかね?」
「話がなげぇっ!
子供の感想じゃないんだからもっと伝えたいことを明瞭にして答えろよっ!?ていうか何話してたか忘れたわっ!?」
「私の目的だろう?そこに君の安っぽい正義感を挟んできたんだ。
悪いとは言わないよ。善悪の基準ほど不確かで不鮮明で不明瞭なことはない。君程度の人間が理解できないのも仕方ない。そもそも理解したとしても納得できないのが人間であり、それが短所で長所であるのも人間特有だ。
知っているかい?なんらかの原因で人間が絶滅したとしてだ。
二度と人間ほどの知能を持つ生き物が生まれることはない。それほどに今人間という生物が存在しているという事実は衝撃的で奇跡的でファンタスティックなのさ。その人間を調べつくす私のこの探究心。例え研究者でないといえど多少なりともは理解してもらえると思うのだが・・・あ、もちろん絶滅うんぬんというのは一説であり、可能性がゼロ。というわけではない。限りなくゼロに近い。と私は見ているけれども。」
「だから・・・いや、そもそも・・・」
頭を抱える山田君。
「今度はこちらからの疑問を答えてもらえると嬉しい。
君は私に付く気は無いかね?
今の世の中をひっくり返そうという野望は?」
「そんなことを聞くって事はひっくり返そうという野望を持ってるんだな?」
「おっと・・・これは一本取られたな。」
「それだけ聞ければ十分だ・・・じゃあな。」
そのまま山田君はボンと音を発てて姿を消した。
「クアットロ。」
「もちろんです。データはすでに。それにしても目的を知られても問題ないのですか?」
「問題ないよ。私の本当の目的は世界をひっくり返すことでも老害を殺すことでもない。
ただただ探求。この二文字あるのみだよ。研究者冥利に尽きるというものだ。
知られたところで阻止されたところでどうということはないし、どうすることもない。計画通りことを進め、私は祭りを楽しむのみだ。失敗しようと成功しようと極論的にはどうでもいい。その過程もまた知ることに私は楽しみを見出しているのだから。
むしろ私は彼の分身・・・高度な実体を持つ、データでは影分身とか言っていたね。それのデータが取れたからご機嫌だよ。」
「MPDバインドもしっかり効いていたようですね。」
「彼の魔法は魔法陣を有せずに、また既存の魔法とは違う形の魔法が数ある。
が、それは全て魔力があって効力を成すタイプのもの。
常に魔力を身体から抜き取るMPDバインドならば拘束して置けることも分かった。
クアットロ。分かっているね?」
「はい。
目下の優先目標は彼。通称山田君の捕獲。ですね。」
「ああ、そのとおりだ。幸い彼は迂闊なところがある。
まずはこちらから隙を見せようか。その隙が虎視眈々と磨いた虎の牙の隙間だったと知ったときの彼の顔が楽しみだよ。ふふふふ・・・あはははははははははっ!!」
盛大に笑うスカリエッティだった。