旧版・とあるチートを持って!   作:黒百合

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アイシテルのたくらみ3

「・・・憂鬱だ。」

 

響はというと憂鬱真っ盛りである。

なんせ今回はお茶会!

そう、きやつらが来るお茶会なのである。

 

すっぽかせたらと何度思ったことか。

 

 

「本当に大丈夫なんだろうな?」

『大丈夫、大丈夫。私にまかせなさい!!』

「アンタだから不安なんだが・・・」

 

えっへんと胸を張るアイシテル。

胸は無いんだけれども。

実に不安だ。

 

「ばれたらホント頼むよ。」

『だから分かってるってば。まったく女々しいな。』

 

ほうっておけ。

そんな感じのことを言いたそうに顔を顰める響だった。

 

☆ ☆ ☆

 

どうやら俺が一番乗りのようで月村さんと2人きりでお茶を飲む。

うむ。平和だ。

平和すぎてつい猫なで声で月村家のぬこをナデナデするのも仕方がない。

なぜなら平和だからだ。

平和ゆえに腑抜けたのであって、日ごろはこんなバカな真似はしない。

それがこの俺。相馬 ひびーーーひかりである。

近くには月村さん付きのメイドとか言うファリンさんとやらが一緒になって話をしているのだが、従者がそんなことでいいのだろうか?

 

さらに言えば、どうやらドジッ娘に分類されるようで、ここに来て早々服を汚され、脱がされ、入らされ(風呂に)、着させされた。

都合よく男物の服があるわけもなく。

なぜか月村さんのパジャマを着ているというこの状況。

結局女装することになってしまった。

いや、女装というほどでもないか。

パジャマなのでスカートというわけでもなく、デフォルメされたネコがプリントされているだけのもの。

外見年齢も相まって女装している感は無い。

知らなければ女の子に見えるのは確かだが、子供の時は男の子も女の子も大して変わらないし、女物の服を子供に着せる親はちらほらいる。今の姿はその程度である。

何が言いたいかというと、別に女装じゃないんだからねっ!!と言っておきたいのだ。

自分のパジャマを見られることになって少し恥ずかしがっていた月村さんが可愛かったとは言って置く。

 

ちなみにもう1人のメイド長のノエルさんとやらは至って普通のメイドさんだった。

きっとファリンさんは月村さんのお友達としてーーーの意味合いが強いに違いない。

でなければ常識的に考えて、召使の類が主のお客と席を並べてお茶を飲むなんてこと許されるはずがないからだ。

 

そして尋ねたい。

なぜにこんなにもネコが多いのかと。

 

まぁ撫でてる分にはなんら問題はないのだが、如何せん、ぬこが可愛すぎてノックダウンされそうだ。

ネコの多い理由でも考えて気を紛らわせないことでもしないかぎり、俺はきっと鼻血を出して気絶するだろう。

なんてことはなく。

 

普通に気になった。

 

「それはね、保健所のとか・・・野良猫なんかを引き取ってるうちに・・・」

 

これまた恥ずかしそうにそうの給う月村さん。

本当にエエ子や。

もちろんであるがこうした人は少なからず居る。

偽善と呼ぶ人もいるだろうが今回のコレは偽善ではなく完全な善と言ってもいいんじゃ無いだろうか?

見れば分かることであるが、この家のネコはある種、異状だ。

本来、ネコは群れる事を嫌う。

 

漫画やアニメなどで集会のように集まるシーンはあっても現実には滅多に無い。

犬のように仲良く一つの餌皿で餌を食べるなんて行為もしないのだ。

本を読んでて学んだ知識なんだが、この家のネコは非常に珍しい。

 

よっぽどしつけが良いのか、はたまたそうした協調性を持ってでもここにいたいと思わせるのか。

 

次に注目すべきは毛並みや健康状態である。

もちろん世の中には野良犬、野良猫や保健所で殺処分される捨てられた犬猫を保護し育てる保護団体や個人の人々がいる。

が。

保護団体はともかく個人の場合は独りよがりな善意であることが多い。

 

単純な話。

資金が無いのだ。

一般家庭の人がネコや犬を複数飼うとなるとその餌代や予防注射代(国で義務とされてる狂犬病など。酷い場合予防注射が一切されず、人間に危険が発生する)だけでも、かなり高額の世話代がかかる。

糞尿の処理だってかなりの手間暇がかかるはずだ。

時には群れに馴染めなかった個体が虐めで酷い怪我を負うこともあるし、糞を処理しきれずに病気となり死んでしまう場合もある。

 

そういった人の多くは善意だけ押し付けて、結果的に苦しい生活を近隣住民や救うべき犬猫に強いることとなるわけで。

いわばありがた迷惑だ。

口先だけでろくに救えてない、満足に救えてないという状況になる。悪いというわけでもないが誉められた行動でもない。

って、俺みたいなやつが何を偉そうに言ってるんだろうね。

 

とにかく、ここのネコにはきっちりと管理が行き届いてることが分かるのだ。

糞も見た限りでは見当たらない。

糞はそのままでは肥料とはならずに有毒なアンモニアが発生し、それが草を枯らす。

土中の自浄作用以下の量ならばともかくこれだけいれば確実に分解されない糞が出てくるはず。

しかし、枯れた草が見られないことから目に当たる場所だけ掃除しているということもなさそう。

おそらく専門の世話係を雇いつつも、屋敷に住む人間が一丸となって世話をしているに違いない。

 

金持ちだからだろ!と言うヤツもいるだろうが、逆を言えば金持ちでもない限り下手な救いは中途半端になるだけでやめるべきということ。

そんな惨状を招くくらいなら政治家を目指して、犬猫の投棄を厳しく取り締まる法律を作るべく動いた方がよほど建設的で効率的だろう。

 

全部本の知識の受け売りだが、本当に彼女はネコを好きなようだ。

ただ可愛いだけと侮ることなく、世話に関する手間暇苦労も含めて猫を愛す。

可愛い部分だけを見て、軽い気持ちで飼ってしまうと飼育者にとっても飼われる側にとっても非常に不幸なことになる。

時には保健所に預ける際、「家のネコだけはちゃんと飼い主を見つけてあげてよね!」などという身勝手なことを言って捨てていく人間もいるらしい。

そんな人間が居る中で、彼女は本当のぬこリストと言っていいだろう。

 

 

「ど、どうかした?」

「ううん、なんでもないよ。月村さんは本当に偉いなって。」

「えっと・・・そんなことないよ?」

 

本当にーーー自分の黒歴史が惨めに思えてきます。

どうしてあんなバカだったんだろうね。

泣けてくらぁ。

 

泣きそうになりながらも、にゃんこを撫で回しているとピンポーンとインターホンの音が鳴り響いた。

いよいよ来たか。

 

ここまで来たら覚悟を決めよう。

 

「こんにちはー。」

「こんにちは。」

 

まずは高町さんとーーーなんだこのイケメン。イケメンか?うん、イケメンだ。あえてもう一度言おう。なんだこのイケメン?

イケメンかつ声までイケメン。もといイケメンボイスなんだが。

イケメンすぎるだろう。

 

「こんにちは、すずか、来たわよー。」

 

次にアリサ・バニングス。

高町さんの一件でぶん殴られて以来、とっさに逃げたくなった。

まてまて、大丈夫ばれないばれない。

ばれないばれない。

 

高町さんがこちらを見てくる。

そら、見覚えの無い人間がいたら気になるよね。

 

「こんにちは、皆。

・・・ほら。ひかり。言ったでしょ。」

「・・・あ、うん。」

「人見知りを直すためにも自分で自己紹介して。」

「わかってるよ、月村さん。」

 

何度も重ねて言うけど、別に人見知りじゃないんだけどね。君たち以外の人間ならば。

立ち上がって、口を開ける。

 

「わ、私は相馬 ひかりっていいます。よろしくおねがいします。」

 

無駄にかしこまって一人称まで変わってしまった。

月村さんは少し噴出していた。

行儀悪いよ?

 

 

「そうま・・・?」

 

高町さんがなにやら少し嫌そうな顔をした。

ばれたかっ!?

 

「・・・アンタにお兄さんとかいる?」

 

何か言いたそうにした高町さんよりもバニングスさんがこちらに問いかけてきた。

まぁ聞かれますよね。

名字同じだもの。

小さい声だけど、「・・・似てるわね。ていうか・・・瓜二つ・・・双子かしら?」とか言っている。

もちろんのこと。

 

「いませんよ?」

 

満面の笑みで応えてやったぜ!

ちなみに高町さんのお兄さんがこちらをじっと見ている。

その視線はどこか厳しい。

おい、9歳児に向ける眼光じゃねぇだろ。

普通の9歳児だったらこの時点で泣いてるわ。

というか、まさか気づいてる?なんてことは・・・いや、まてまて大丈夫大丈夫。

まだ疑ってる段階だろう。多分。

 

背筋が脂汗でびっちょりになってきたくらいの沈黙が終わったあと。

 

「そうよね・・・あれみたいなバカがこんな素直なわけないし。」

「・・・そうみたい。よかった。」

 

バニングスさんと高町さんがほっと一息つく。

そこまで警戒されるほどだったんですね。

俺、泣きそう。だって男の子だもん!

 

「・・・身振り手振りからすると・・・いや、だが・・・雰囲気があまりにも・・・ううむ・・・しかし重心の置き方といい・・・」

 

お兄さんはまだ疑っているようである。

ていうか、身振り手振りってなんじゃそれ?

え、この人どんだけ?

この人と面と向かい合ったのは一度のみ。高町さんの家に謝りに行く時だけ・・・だったはず。

ていうか重心の位置とか見て取れるんですね。

何、この人。怖い。格闘技とかやってるんですか?

いや、それ以前に格闘技やってても重心の位置で人の判別を取ろうとする変態はいないと思います。

 

ていうか、こいつは俺とはまた別のベクトルで変態では?と思え始めてきた。

ちょっとした振る舞いでバレかねん雰囲気がある。

只者じゃないっ!と思ったね、ぼかぁ。

 

さらに問題が積み重なった。

 

「あ、いらっしゃい。ちー君。」

 

ちー君とか親しげに相性で呼ばれた男はいつぞやの山田君(仮称)。

美少女に相性で呼ばれるとは羨ましい。

というか下手したら既にフラグを作っているのではないだろうか?

妬ましい。死ねばいいのに。

というか殺してしまおうか?

 

「・・・どう思う、アイシテル?」

『バカ言ってないで、気をつけないとーーーほら、彼は転生者だから・・・』

「・・・原作にいない・・・その顔・・・おまえっ!?

性懲りも無くまた来たのかっ!?」

 

や、やべっ!?

これは非常にまずいっ!!

 

「えっと・・・なんのことだか?」

「ああっ!?

馬鹿やろうっ!!てめえは居ないはずの人間だろうがっ!!なんでここにいるっ!!

またなのはにセクハラする気かよっ!?この厨二野郎がっ!!変装までしやがって・・・俺は騙されねーからなっ!!」

「ち、ちが・・・」

 

やばばばばばばっ!!

やばす!!

これは不味いっ!!

正義感溢れる山田君にしては端から敵対心MAXモードであるが、それが正しい。

あれだけ迷惑かけて彼の友達にセクハラしたのだから、むしろこれくらいが当然だろう。

何も聞かずに追い出されても文句は言えないくらいの酷いことだったわけなのだし。

お兄さんは山田君ほど敵対視しては居ないようだが(それはそうだ。仮にも子供なのだから)、いつでも高町さんの間に入れるようにさりげなく間に入っていた。

そのさりげなさがなぜか異様にぐさりと来ました。

 

周りの視線はまさかっ!?って感じである。

月村さんに至ってはその顔に凄まじいまでのガッカリ感―――といえば若干コメディ臭いが、10年来の恋人に突如「別れよう。実は俺・・・女だったんだ。」と言われた様な顔をしていた。

いや、そんな顔見たこと無いからこの例えが正しいのかは分からないが何はともあれ、こんな時こそ困った時のアイシテル頼み。

さぁ、存分に思いっきりやっちゃって下さいよ!!

アイシテルの姉御っ!!

 

『合点承知っ!!』

 

そしてアイシテルがやったことと言えば。

 

「ハァーハァッハァッハァッ!!

そいつは俺の偽者だっ!!本物はこの俺!!

ビューティフルひびーーー」

「死ねぇエエエエエエエエえっ!!昔の俺はいらんわぁっ!!」

 

いきなり月村家に突如出現した謎の厨房。

その正体は俺の昔のアレだった。

 

よって俺はつい反射的にぶん殴った。それこそ殺す勢いで。あらん限りの力をこめて。

 

「ごふっ!?

・・・強くなったじゃねぇか・・・ひびき・・・ガク。」

 

そのままズンと倒れこむ厨房。

なぜこれを出すっ!?

多分、同じ人間が2人もいるはずもないということで考えたことだろうが。タイミングと出現場所が意味不明すぎた。

なぜ月村さんのスカートの中からニュっと出てくる。

ほら、月村さんなんか倒れこんで・・・倒れこんで気絶して・・・ああ。

うん。これダメだ。

何より倒れ間際の厨房の言葉。

なぜ俺の名を言ってしまったのか。

 

『響も“昔の俺”とか言っちゃってるよ?』

 

そうだったな・・・終わった。

何もかも終わった。

が、どこかすがすがしいのはなぜだろう。

そう、きっとこれは。

 

友達を騙すことに引け目を感じていた良心の痛みが無くなったからだ。

それと同時に唯一の友達も無くなってしまったがな。

 

 

「・・・アイシテルのあほぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

 

俺は泣きながら月村家を後にした。

 

アイシテルには頼らないことを決めた記念すべき日でもある。

 

 

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