※小説ではない※専門書 要約資料集 為替(換算)3.9万円でもらう 紐解集生成 専門 初入門 資料 作:{作者名}
> 学問の宇宙・数学の恒星群、派生分野。規格 §16.2 / 生産規定 §16.4 / 出典規律 §16.5 準拠。水準一〜四(前半)。
> 隣接: BOOK-0002(算術・数える技術の源流)/ BOOK-0025(幾何学・かたちの学問)。専門用語は初出説明+「(水準n: 定義)」注記。
# BOOK-0077 数学派生・離散数学 — 飛び飛びの世界の数え方(第1巻)
> 学問の宇宙・数学の恒星群、派生分野。規格 §16.2 / 生産規定 §16.4 / 出典規律 §16.5 準拠。水準一〜四(前半)。
> 隣接: BOOK-0002(算術・数える技術の源流)/ BOOK-0025(幾何学・かたちの学問)。専門用語は初出説明+「(水準n: 定義)」注記。
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## 入口の物語 — 数直線には隙間がある
算術(BOOK-0002)で出会った数直線を思い出してほしい。0、1、2、3……と並ぶ整数の間には、1.5も1.41421356……も、実は無限に多くの数が詰まっている。実数という物差しは、どこまでもなめらかに繋がっている——切れ目なく塗られた一本の線だ。
ところが、世の中には「なめらかに繋がっていない」対象がたくさんある。教室の生徒は37人いるか38人いるかのどちらかで、37.5人という生徒はいない。サイコロの目は1、2、3、4、5、6のどれかで、3.5の目は存在しない。友達関係の相関図も、AとBが「友達である」か「友達でない」かのどちらかで、その中間はない。こうした、**とびとびに(離散的に)しか値を取らない対象を扱う数学**を、**離散数学(りさんすうがく、水準一: 連続的でなく、とびとびの・数えられる対象を扱う数学の分野)**と呼ぶ。
離散数学は、算術や幾何学ほど古くから「一つの分野」として意識されてはこなかった。ところが20世紀後半、コンピュータ(BOOK-0010)が登場すると事情が一変する。コンピュータの中身は0と1の羅列であり、扱うデータは常に「個数」「順序」「繋がり」といった、とびとびの対象そのものだ。離散数学は今や、情報科学(BOOK-0066・BOOK-0070)を下支えする最重要の基礎科目の一つになっている。本巻(第1巻・水準一〜四)では、数え上げの技術・鳩の巣原理・グラフ理論の誕生・木構造・彩色問題・漸化式の入口までを、物語とアナロジーでたどる。証明の厳密な技法や、より進んだグラフ理論(彩色数の理論的側面など)は次巻(水準五〜六)に譲る。
この巻で扱う言葉: 離散数学(水準一)・和の法則・積の法則(水準一)・順列・組合せ・階乗(水準二)・鳩の巣原理(水準二)・グラフ・頂点・辺・次数(水準二)・木構造(水準三)・彩色問題(水準三)・漸化式(水準四)。それぞれ初出の箇所で必ず説明を添える。
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## 第一章 飛び飛びの数学とは何か — 連続との対比(水準一)
### なめらかな世界ととびとびの世界
幾何学(BOOK-0025)で扱う直線や円は、どこまでも滑らかに繋がっている。二点の間には必ずその中間の点があり、その中間にはさらに中間の点がある——これが**連続(れんぞく、水準一: 値と値の間に切れ目がなく、どこまでも細かく繋がっている性質)**という考え方だ。物差しで長さを測るとき、私たちは自然とこの連続の世界に立っている。
いっぽう、離散数学が扱うのは「数えられるもの」「区切りのあるもの」だ。人数、勝敗、選択肢、順番——これらは決して1.5個や2.7番目にはならない。とびとびの値しか取らないからこそ、「何通りあるか」「どの組合せが可能か」という**数え上げ**の問題が意味を持つ。連続の世界では「面積」や「速さ」を測るが、離散の世界では「場合の数」を数える。この対比が離散数学の出発点になる。
### なぜ離散数学が面白いのか
離散数学の面白さは、身近な謎——じゃんけんの組合せは何通りか、クラス全員で握手をすると何回の握手が起きるか、パズルを解くのに最短で何手かかるか——が、驚くほど厳密な法則で解けてしまう点にある。しかも道具は難しい数式ではなく、多くの場合「数える工夫」「絵に描いて考える」という素朴な操作だけで足りる。次章から、その道具箱を一つずつ開けていこう。
### 休憩所
離散数学は「とびとびの・数えられる対象」を扱う数学。連続(幾何学が得意とする世界)と対をなす、もう一つの数学の顔である。
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## 第二章 数え上げの技術 — 和の法則・積の法則・順列・組合せ(水準二)
### 和の法則 — 「どちらか一方」を数える
文房具店で、赤いペンが3本、青いペンが2本ある。「赤いペンか青いペンのどちらか1本を選ぶ」場合の数は何通りか。赤の3通りと青の2通りは同時には起こらない(一本を選ぶ以上、同時に赤でも青でもあることはない)ので、単純に足し合わせて `3 + 2 = 5` 通りとなる。この「同時に起こらない場合を、選択肢としてただ足し合わせればよい」という考え方を**和の法則(わのほうそく、水準一: 同時には起こらない複数の場合の数を、単純に足し合わせて求める数え上げの基本法則)**と呼ぶ。
### 積の法則 — 「両方とも」を数える
次に、シャツが3着、ズボンが2着あるとき、「シャツとズボンの組合せ」は何通りあるか。シャツをどれか1着選ぶごとに、ズボンの選び方が2通りずつ存在する。シャツの3通りそれぞれにズボンの2通りが対応するので、`3 × 2 = 6` 通りとなる。この「独立に選べる複数の段階を、掛け合わせて求める」考え方を**積の法則(せきのほうそく、水準一: 独立に選べる複数の場合の数を、掛け合わせて求める数え上げの基本法則)**と呼ぶ。掛け算が足し算の早業(BOOK-0002)だったように、積の法則は「同じ選択を段階ごとに繰り返す」場面の早業になっている。
### 階乗 — 全員を並べる場合の数
5人が一列に並ぶとき、並び方は何通りあるか。先頭に立てる人は5人の誰でもよい(5通り)。先頭が決まれば、2番目は残り4人の誰か(4通り)。3番目は残り3人(3通り)、4番目は残り2人(2通り)、最後の1人は自動的に決まる(1通り)。積の法則により、全部で `5 × 4 × 3 × 2 × 1` 通りの並び方がある。
このように「ある数から1ずつ減らしながら1まで掛け合わせる」計算を**階乗(かいじょう、水準二: ある正の整数から1までを、1ずつ減らしながらすべて掛け合わせた値。記号は `!`)**と呼び、`5!`(5の階乗)と書く。
> **検算1: `4! = 4 × 3 × 2 × 1 = 24`。4人が一列に並ぶ並べ方は24通りである。**
これは、たとえば4人でリレーの走順を決める場面にそのまま対応する。誰が1番手・2番手・3番手・4番手になるかの組合せは、確かに24パターンしか存在しない(全部書き出して数えても24個で尽きる)。
### 順列 — 一部だけを選んで並べる
5人の中から3人を選んで一列に並べる(たとえば表彰台の1位・2位・3位を決める)場合はどうか。1位になれるのは5人の誰か(5通り)、2位は残り4人の誰か(4通り)、3位は残り3人の誰か(3通り)。積の法則から `5 × 4 × 3 = 60` 通り。この「順序を区別して一部を選んで並べる」数え方を**順列(じゅんれつ、水準二: いくつかのものの中から一部を選び、順序を区別して並べる場合の数)**と呼び、`P(5,3)` のように書く(表記は流儀により異なる)。
### 組合せ — 順序を区別せず選ぶ
いっぽう、5人の中から3人を選んで「係」を決める場面(順序に意味がない場面)を考えよう。順列の考え方で3人を選んで並べると60通りだが、同じ3人の組でも並べ方が `3! = 6` 通り存在し、これらはすべて「同じ3人が選ばれた」という点では重複している。そこで60通りを6で割ると、重複を除いた「3人の組」の数が求まる。
> **検算2: 5人から3人を選ぶ組合せ `C(5,3) = 5!/(3!×2!) = (5×4×3)/(3×2×1) = 60/6 = 10`。5人から3人を選ぶ選び方は10通りである。**
この「順序を区別せず選ぶ」数え方を**組合せ(くみあわせ、水準二: いくつかのものの中から一部を選ぶが、順序は区別しない場合の数)**と呼び、`C(5,3)` あるいは `₅C₃` と書く。組合せは「順列を、選んだもの同士の並べ替え(階乗)で割って重複を消す」ことで得られる——これも第一巻を通じて繰り返す「早業を逆再生・調整する」発想の一例である。
### 休憩所
和の法則(足す)は「どちらか」、積の法則(掛ける)は「両方とも」。階乗は全員を並べる場合の数、順列は一部を選んで並べる場合の数、組合せは順序を区別せず選ぶ場合の数。5人から3人を選ぶ組合せは10通り、4人を並べる並べ方は24通り(検算1・2)。
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## 第三章 鳩の巣原理 — 必ず起きることを言い切る(水準二)
### 鳩と巣箱の話
10羽の鳩が9個の巣箱に入るとき、必ずどこかの巣箱には2羽以上の鳩が入る。なぜなら、もし全部の巣箱が1羽以下だったら、鳩は合計で最大9羽しか収容できず、10羽目の行き場がなくなってしまうからだ。この、当たり前のようでいて強力な考え方を**鳩の巣原理(はとのすげんり、水準二: n個の巣箱にn+1個以上のものを入れると、必ずどこかの巣箱には2個以上のものが入るという原理)**と呼ぶ。
### 身近な例で確かめる
「日本には人口が1億人を超える都市はない」としても、「同じ誕生日(月日)の組が必ずいる集団の最小人数」を考えると、鳩の巣原理の威力がわかる。1年の日数はうるう年を除けば365通り(**巣箱**)。したがって366人が集まれば(**鳩**が巣箱の数を超えれば)、必ず同じ誕生日の人が2人以上いることになる。実際には「同じ誕生日の組がいる確率が50%を超える」のはもっと少ない23人ほどで起きることが知られているが、それは確率の話であり、鳩の巣原理が保証するのは「366人集めれば100%確実に同じ誕生日の組が存在する」という、確率ゼロの余地もない断言である点が異なる。
### 鳩の巣原理のありがたみ
鳩の巣原理が面白いのは、**どの鳩がどの巣箱に入るか、具体的な中身を一切調べずに、「必ず重複が起きる」という結論だけを先に言い切れる**点にある。数え上げ(第二章)が「何通りあるか」を厳密に計算する技術だったのに対し、鳩の巣原理は「詳細を調べなくても、数の大小関係だけで結論が出せる」という、いわば数え上げの裏技のそのまた裏技だ。この考え方は、次章のグラフ理論でも姿を変えて登場する。
### 休憩所
鳩の巣原理は「n個の枠にn+1個以上を入れれば必ずどこかが2個以上になる」という、中身を調べずに重複を断言できる原理。366人集めれば同じ誕生日の組が必ず存在する。
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## 第四章 グラフ理論の誕生 — ケーニヒスベルクの橋(水準二)
### 一筆書きの謎
18世紀のプロイセン王国の都市ケーニヒスベルク(現在のロシア・カリーニングラード)には、プレーゲル川が流れ、川の中州を含む4つの陸地が7本の橋で結ばれていた。当時の住民の間で、「すべての橋をちょうど1回ずつ渡って、元の場所に戻ってくる(あるいは一巡りする)散歩道はあるか」という問いが話題になっていたという。
数学者レオンハルト・オイラー(1707年 - 1783年、スイス生まれの数学者)は1736年にこの問題を論文で扱い、**「そのような道筋は存在しない」ことを証明した**。この証明は、地図の正確な形や橋の長さを一切使わず、「陸地」と「陸地をつなぐ橋」という繋がりの構造だけに注目した点で画期的だった。オイラーは4つの陸地を点(頂点)、7本の橋を線(辺)に置き換え、地図を一つの図形——**グラフ(水準二: 点〈頂点〉と、それらを結ぶ線〈辺〉だけでできた、繋がりの構造を表す図)**——として捉え直したのである。これが今日のグラフ理論(グラフを研究する数学の分野)の始まりとされる。
### 次数という考え方
グラフの各点(**頂点〈ちょうてん、水準二: グラフを構成する点。対象そのものを表す〉**)から出ている線(**辺〈へん、水準二: グラフを構成する、頂点同士を結ぶ線。関係や繋がりを表す〉**)の本数を、その頂点の**次数(じすう、水準二: ある頂点から出ている辺の本数)**と呼ぶ。ケーニヒスベルクの4つの陸地をA・B・C・Dとすると、当時の橋の配置ではA・B・C・Dの次数はそれぞれ3・3・3・5になる(資料によって橋の呼び方の細部は異なるが、全頂点が奇数の次数を持つという構造は共通している)。
オイラーの発見した法則はこうだ。**一筆書き(すべての辺をちょうど1回ずつ通る道)が存在するのは、次数が奇数である頂点の数が0個か2個のときに限る。** ケーニヒスベルクの橋では4つの頂点すべてが奇数次数(3・3・3・5)だったため、この条件を満たさない。
> **検算3: ケーニヒスベルクの橋の問題は、4つの頂点すべてが奇数次数を持つため、一筆書き(すべての橋を1回ずつ渡る経路)は不可能である。**
### オイラーの握手補題
もう一つ、グラフ理論の入口で必ず押さえておきたい基本法則がある。パーティーで何人かが握手を交わすとき、「全員の握手の回数を足し合わせた数」は、必ず「実際に行われた握手の総数の2倍」に等しくなる。なぜなら、1回の握手はちょうど2人が関わる行為であり、握手のたびに双方のカウントが1ずつ増えるからだ。これをグラフの言葉に翻訳すると、**すべての頂点の次数を足し合わせた値は、辺の総数のちょうど2倍に等しい**という法則になる。これを**握手補題(あくしゅほだい、水準二: グラフの全頂点の次数の合計は、辺の数の2倍に等しいという法則)**と呼ぶ。
> **検算4: 4本の辺を持つグラフでは、全頂点の次数の合計は必ず `4 × 2 = 8` になる。**
たとえば4つの頂点がそれぞれ次数2・2・2・2(合計8)の四角形のグラフを考えると、確かに8になる。次数の合計が奇数になることは決してない——これも、鳩の巣原理と同じく「中身を細かく調べなくても言い切れる」構造的な法則の一例だ。
### 休憩所
グラフとは頂点と辺だけでできた繋がりの図。オイラーは1736年、ケーニヒスベルクの橋の問題を「奇数次数の頂点が0個か2個でなければ一筆書き不可能」という法則で解決し、グラフ理論を生んだ。握手補題により、次数の合計は必ず辺数の2倍になる。
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## 第五章 木構造 — 枝分かれする繋がり(水準三)
### 家系図というグラフ
グラフの中でも特別な形が**木構造(きこうぞう、水準三: 頂点同士が輪〈閉じた経路〉を作らず、枝分かれだけで繋がっているグラフ)**である。家系図を思い浮かべてほしい。ある人物を根(**ルート**)として、その子、孫、ひ孫……と枝分かれしていくが、家系図の中で「同じ人物のところに二通りの経路でぐるりと戻ってくる」ことは(近親婚などの特殊事情を除けば)基本的に起きない。この「輪を作らずに枝分かれする」構造こそが木構造の本質だ。
トーナメント表も同じ構造を持つ。決勝戦の頂点から、準決勝、準々決勝……と枝分かれして末端の選手にたどり着く。木構造には、頂点の数を `n` とすると辺の数は必ず `n - 1` になるという性質がある。輪を作らないので、頂点を1つ増やすごとに、それを繋ぐための辺がちょうど1本増えるだけだからだ。
### 休憩所
木構造は輪を作らず枝分かれだけで繋がるグラフ。家系図・トーナメント表がその代表例。頂点n個に対し辺は必ずn-1本になる。
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## 第六章 彩色問題 — 地図を何色で塗り分けられるか(水準三)
### 隣り合う国を同じ色にしない
地図を塗り分けるとき、「隣り合う国(あるいは県)には必ず違う色を使う」というルールを守りたいとする。このとき、**平面上のどんな地図であっても、4色あれば必ず塗り分けられる**という主張が**四色定理(よんしょくていり、水準三: 平面上のどんな地図も、隣接する領域が同色にならないように4色以内で塗り分けられるという定理)**である。
この定理は19世紀半ばから予想されていたが、証明が非常に難航した問題として知られる。1976年、ケネス・アッペルとヴォルフガング・ハーケンは、地図のパターンを膨大な場合分けに帰着させ、**コンピュータによる計算を用いて**四色定理を証明したと発表した。これは数学の歴史上、コンピュータの計算を本質的な手段として使った初期の大きな証明の一つとして注目された。ただし、この証明は人間が手作業で全過程を検証できないほど膨大な場合分けを含んでいたため、発表当初は「これを本当に『証明』と呼んでよいのか」という議論が数学者の間で起きたことも記録されている(その後、証明の骨子や計算過程の検証・整理は進んだが、計算機に依存する証明のあり方をめぐる議論があったこと自体は史実として明記しておく)。
彩色問題は、地図の色分けにとどまらず、「同じ時間帯に開催できない試験のスケジュール調整」「同じ周波数を使えない無線局の割り当て」など、**互いに衝突してはいけない対象を、できるだけ少ない資源(色・時間帯・周波数)で割り振る**という広い応用を持つ。木構造(第五章)よりもずっと自由な繋がり方を持つグラフに対して、こうした割り当ての限界を考えるのが彩色問題である。
### 休憩所
四色定理は「平面上のどんな地図も4色で塗り分けられる」という定理。1976年にアッペルとハーケンがコンピュータを使って証明したが、その証明のあり方(人手で全検証できない点)をめぐって議論があったことも史実として知られている。
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## 第七章 漸化式の入口 — ハノイの塔とフィボナッチ(水準四)
### ハノイの塔
3本の柱と、大きさの異なる円盤が何枚かある。すべての円盤は最初1本目の柱に大きい順に積まれており、「一度に1枚しか動かせない」「小さい円盤の上に大きい円盤を置けない」というルールを守りながら、すべての円盤を3本目の柱に移し替える——これが**ハノイの塔(水準三: 円盤の移動ルールに従い、すべての円盤を別の柱に移し替えるパズル)**である。
円盤が1枚なら、移動は1回で済む。円盤が2枚なら、まず小さい円盤を退避させ(1回)、大きい円盤を目的の柱に動かし(1回)、退避させた小さい円盤を大きい円盤の上に載せる(1回)で計3回。円盤が `n` 枚のときの最小手数を `T(n)` とすると、「上の `n-1` 枚を退避させ(`T(n-1)`回)、一番大きい円盤を動かし(1回)、退避させた `n-1` 枚を目的地に戻す(`T(n-1)`回)」という手順が最短になることが知られており、次の関係が成り立つ。
```
T(n) = 2 × T(n-1) + 1 (T(1) = 1)
```
このように、**ある項の値を、それより前の項の値を使って表す式**を**漸化式(ぜんかしき、水準四: ある項の値を、それより前の項の値を用いて定義する式)**と呼ぶ。漸化式を使うと `T(1)=1, T(2)=3, T(3)=7, T(4)=15……` と、1手ずつ実際に数えなくても次々に手数を計算できる。
> **検算5: 円盤3枚のハノイの塔は `T(3) = 2×T(2)+1 = 2×3+1 = 7` 手。実際に `T(3) = 2³ - 1 = 8 - 1 = 7` とも一致する。**
一般に `T(n) = 2ⁿ - 1` という式で書けることが知られている(漸化式を繰り返し展開すると導ける)。円盤の枚数が1枚増えるごとに手数はほぼ2倍に増えていく——これは「積の法則(第二章)が繰り返し積み重なると、あっという間に大きな数になる」ことを実感させてくれる好例でもある。
### フィボナッチ数列
漸化式のもう一つの代表例が**フィボナッチ数列(水準四: 直前の2つの項を足し合わせて次の項を作る数列。1, 1, 2, 3, 5, 8, 13……)**である。漸化式で書くと次のようになる。
```
F(n) = F(n-1) + F(n-2) (F(1) = 1, F(2) = 1)
```
3番目以降の項は必ず直前の2項の和になる(`2 = 1+1`、`3 = 1+2`、`5 = 2+3`、`8 = 3+5`……)。この数列は、うさぎの繁殖モデルという逸話とともに13世紀ヨーロッパの数学者フィボナッチの著作で紹介されたことで広く知られるようになったが、繁殖モデル自体は単純化された仮想例であり、自然界での正確な観測記録ではない点には注意が必要だ(向日葵の種の螺旋の数など、自然界にフィボナッチ数に近い規則が見られる例が報告されてはいるが、これは経験的な観察であり、数学的な必然として証明された法則ではない)。
漸化式は、ハノイの塔やフィボナッチ数列のように「前の状態から次の状態を機械的に作り出せる」対象を、驚くほど短い式に圧縮できる道具である。次巻(水準五〜六)では、この漸化式を解いて一般項を求める技法や、グラフ理論のより進んだ性質へと歩みを進める。
### 漸化式と数え上げの再会
ここで、第二章の数え上げの技術と漸化式が実は地続きであることにも触れておきたい。ハノイの塔の手数 `T(n) = 2×T(n-1) + 1` を思い出そう。この式の「2倍」の部分は、まさに第二章で見た積の法則の姿そのものだ。円盤が1枚増えるごとに、退避と復帰という作業がまるごと2回分繰り返される——だからこそ手数はほぼ倍々に膨らんでいく。逆にフィボナッチ数列 `F(n) = F(n-1) + F(n-2)` の「足し算」の部分は、第二章の和の法則の姿を宿している。つまり漸化式とは、和の法則・積の法則という数え上げの基本操作を、時間軸(番号が1つずつ進む方向)に沿って繰り返し適用するための書式にほかならない。離散数学の道具箱は、章が進むごとに別々の技を増やしているように見えて、実はどれも「数える・比べる・繋げる」という同じ根から枝分かれした部品なのである。
### 漸化式が教えてくれる「増え方の感触」
もう一つ、漸化式の実用的な価値として「増え方の感触をつかめる」という点がある。ハノイの塔の手数 `T(n) = 2ⁿ - 1` を見ると、円盤が1枚増えるたびに手数はほぼ2倍になっていく。円盤10枚なら `2¹⁰ - 1 = 1023` 手、20枚なら `2²⁰ - 1 = 1,048,575` 手と、あっという間に人手では数えきれない桁に到達する。これは、後の情報科学の分野(BOOK-0066)で扱われる「計算量」——ある手順を実行するのにどれだけの手間がかかるかを見積もる考え方——の最も素朴な入り口でもある。同じ「1枚増える」という小さな変化でも、足し算的に増えるのか(フィボナッチ数列のように緩やかに)、掛け算的に増えるのか(ハノイの塔のように急激に)で、増え方の感触はまるで違う。漸化式という短い式は、この「増え方の質そのもの」を一目で見抜くための、離散数学ならではの望遠鏡だと言える。
### 休憩所(最終)
漸化式は「前の項から次の項を作る」規則を表す式。ハノイの塔は `T(n)=2T(n-1)+1` で、円盤3枚なら7手(検算5)。フィボナッチ数列は `F(n)=F(n-1)+F(n-2)` で、直前2項の和を繰り返す数列である。
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## 次への一歩 — 水準五〜六で待っているもの
本巻は「飛び飛びの数学とは何か」から漸化式の入口までを上った。次の後半巻(水準五〜六)では、漸化式を解いて一般項を求める技法、グラフの彩色数や最短経路の理論、組合せ論のさらに進んだ技法(二項定理・包除原理など)が待っている。数え上げの技術は、情報科学の分野(BOOK-0066・BOOK-0070)でアルゴリズムの計算量を測る土台としても直接使われていく。
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## 章末図 — ケーニヒスベルクの橋と木構造(ASCII)
```
[ケーニヒスベルクの橋・簡略グラフ]
(B)
/ | \
/ | \
(A)---+---(C)
\ | /
\ | /
(D)
A・B・C・D すべてが奇数次数 → 一筆書き不能(第四章)
[木構造・家系図の例]
祖父
/ \
父 叔父
/ \
自分 弟
頂点5・辺4 → 頂点数 - 1 = 辺数(第五章)
```
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## 出典・系譜(§16.5準拠・パブリックドメイン/確立した史実)
- レオンハルト・オイラー(1707年 - 1783年)によるケーニヒスベルクの橋の問題の論文(1736年発表) — グラフ理論の起源とされる古典的業績。橋の本数・陸地の配置は当時の地誌に基づく伝承を含むため、細部(橋の呼称等)は資料により表記の揺れがある旨を明記する。
- レオナルド・フィボナッチ(13世紀イタリアの数学者)の著作にちなむフィボナッチ数列 — うさぎの繁殖モデルは著作中の例え話であり、実際の生物学的観測記録ではない旨を明記する。
- ケネス・アッペル、ヴォルフガング・ハーケンによる四色定理の証明(1976年発表、コンピュータによる場合分け計算を使用) — 発表当初、証明の検証可能性をめぐる議論が数学者の間にあったことも史実として明記する。
- 鳩の巣原理・数え上げの技術(和の法則・積の法則・順列・組合せ)は、特定の一人の発見に帰属しない、数学史を通じて確立してきた基礎技法として扱う。
本文は外部サイトの文章を転載せず、確立した数学的知識・史実から自分の言葉で構成した。
## 用語集(水準つき)
離散数学(一)/連続(一)/和の法則・積の法則(一)/階乗・順列・組合せ(二)/鳩の巣原理(二)/グラフ・頂点・辺・次数(二)/握手補題(二)/木構造(三)/彩色問題・四色定理(三)/漸化式・ハノイの塔・フィボナッチ数列(四)。
## 相互リンク
- BOOK-0002(算術 — 数える技術の源流。足し算・掛け算・因数分解の早業構造)
- BOOK-0025(幾何学 — かたちの学問。連続の世界の代表としての対比先)
# BOOK-0077 数学派生・離散数学 — 飛び飛びの世界の数え方(第1巻)