※小説ではない※専門書 要約資料集 為替(換算)3.9万円でもらう 紐解集生成 専門 初入門 資料   作:{作者名}

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# BOOK-0011k 衛生学 — なぜ数字は外れるのか 第11冊

> 学問の宇宙・生命の惑星群 第1章(続の続の続の続の続の続の続の続の続の続)。
> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。
> 重要注記: 本冊は学問の読み物であり、**個々の論文の当否を判定する手引きではない**。本冊の道具は「どこを疑うべきか」を示すもので、「この研究は誤りである」と結論する根拠にはならない。
> 数値注記: 本冊の数値は**考え方を示すための代表値**である。
> 第10冊は「誰を見るか」を扱い、**交絡の問題を意図して先送りにした**。本冊がそれに答える。
> **語の衝突についての断り**: 「直接法」「間接法」はボイラー効率の用語として BOOK-0153c に在り、「マッチング」は二部グラフの用語として BOOK-0128 に在る。**別の概念に同じ札を立てないため**、本冊では**標準化の直接法・標準化の間接法・対照のマッチング**と呼ぶ。「グラフ」は蔵書で水準二〜九に割れている語なので裸では使わず、**有向非巡回グラフ**として立てる。

----------------------------------------ΩΩΩ あっ流れ星! 


# BOOK-0011k 衛生学 — なぜ数字は外れるのか 第11冊

# BOOK-0011k 衛生学 — なぜ数字は外れるのか 第11冊

 

> 学問の宇宙・生命の惑星群 第1章(続の続の続の続の続の続の続の続の続の続)。

> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。

> 重要注記: 本冊は学問の読み物であり、**個々の論文の当否を判定する手引きではない**。本冊の道具は「どこを疑うべきか」を示すもので、「この研究は誤りである」と結論する根拠にはならない。

> 数値注記: 本冊の数値は**考え方を示すための代表値**である。

> 第10冊は「誰を見るか」を扱い、**交絡の問題を意図して先送りにした**。本冊がそれに答える。

> **語の衝突についての断り**: 「直接法」「間接法」はボイラー効率の用語として BOOK-0153c に在り、「マッチング」は二部グラフの用語として BOOK-0128 に在る。**別の概念に同じ札を立てないため**、本冊では**標準化の直接法・標準化の間接法・対照のマッチング**と呼ぶ。「グラフ」は蔵書で水準二〜九に割れている語なので裸では使わず、**有向非巡回グラフ**として立てる。

 

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## 入口の物語 — 標本を10倍にしても直らないもの

 

第10冊の入口で立てた問いに戻る。

 

「この工場の近くに住むと、ぜんそくになりやすいのか。」

 

コホート研究を組んだ。**1,000人を10年追って、近くに住む群のぜんそく発生が2.1倍だった。**

 

ここで多くの人が次にこう考える。**「1,000人では少ないかもしれない。10,000人でやり直そう。」**

 

**これは、この場面ではほとんど無意味である。**

 

なぜなら、工場の近くに住む人は、遠くに住む人より所得が低く、喫煙率が高く、家が古い可能性がある。**10,000人集めても、その傾向はそのまま10倍になるだけである。** 2.1倍という数字は、10,000人でも2.1倍前後に落ち着く——**より確かに、間違ったまま。**

 

> **数字の外れ方には二種類あり、片方は人数で直り、もう片方は人数では絶対に直らない。**

> 「人数を増やす」は前者にしか効かない。**そして疫学で怖いのは後者である。**

 

本冊は、この「人数では直らない外れ方」を三つに分け、絵に描き、取り除く道具を並べ、そして**取り除けなかった分をどう扱うか**まで進む。

 

> **一. 外れ方は何種類あるのか。人数で直るのはどれか。** ——**偶然誤差と系統誤差**。

> **二. 誰が研究に入ったかで、どう外れるのか。** ——**選択バイアス**。

> **三. どう測ったかで、どう外れるのか。** ——**情報バイアス**。

> **四. 第三の変数は、なぜ厄介なのか。** ——**交絡**。

> **五. 調整してよい変数と、してはいけない変数をどう見分けるのか。** ——**有向非巡回グラフ**。

> **六. 取り除けなかった分を、どう正直に書くのか。** ——**感度分析**。

 

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## 第一章: 二種類の外れ方 — 人数で直るものと直らないもの

 

### 偶然と系統

 

測った値が真の値から離れる理由は、大きく二つに分かれる。

 

**偶然誤差(ぐうぜんごさ、random error、水準三: 測るたびに向きが変わり、何度も繰り返せば打ち消し合って平均が真の値に近づく外れ方)**。

 

**系統誤差(けいとうごさ、systematic error、水準三: 測るたびに同じ向きに外れ、繰り返しても打ち消されない外れ方)**。

 

**この二つの違いが、本冊のすべての土台になる。**

 

```

偶然誤差 … 標本を増やせば減る。信頼区間が狭くなる。**統計で扱える**

系統誤差 … 標本を増やしても減らない。信頼区間は狭くなるが、中心がずれたまま。**設計と解析で扱う**

```

 

**信頼区間**(第3冊で定義済み)**が狭いことは、正しいことの保証ではない。** 狭い区間は「偶然のばらつきが小さい」と言っているだけで、**中心がどこにあるかについては何も言っていない。**

 

### 的で描く

 

射撃の的にたとえると分かりやすい。

 

```

① ○ ○ ② ○○○ ③ ○ ○ ④ ○○○

○ ● ○ ● ○ ● ○○○ ●

○ ○ ○○○ ○ ○

(中心) (外れた位置に集中)

 

① 偶然誤差が大きく、系統誤差は小さい → 人数を増やせば直る

② どちらも小さい → これが目標

③ 偶然誤差が大きく、系統誤差も大きい → 人数を増やしても中心は戻らない

④ 偶然誤差は小さく、系統誤差が大きい → **いちばん危ない。自信を持って間違える**

```

 

**④が危ないのは、数字が安定して見えるからである。** 10,000人の研究で信頼区間が狭ければ、読む人は「よく測れている」と受け取る。**系統誤差は信頼区間には現れない。**

 

### 妥当性という語を二つに割る

 

**妥当性(だとうせい、validity、水準四: 測ろうとしたものを実際に測れているかの程度)**は、疫学では二つに分けて使う。

 

**内的妥当性(ないてきだとうせい、internal validity、水準四: その研究が、研究の対象とした集団について正しい答えを出しているかの程度)**。

 

**外的妥当性(がいてきだとうせい、external validity、一般化可能性、水準四: その研究の答えが、研究に入っていない別の集団にも当てはまるかの程度)**。

 

**順序がある。** 内的妥当性が無い研究の結果は、外に広げる意味がない。**まず自分の集団について正しくない答えを、他の集団に当てはめても意味がない。**

 

> **本冊が扱うのは、ほぼすべて内的妥当性の話である。** 外的妥当性は「誰を集めたか」の話なので、第10冊の設計の側に属する(実用的試験と説明的試験の区別がそれである)。

 

### 系統誤差の三つの姿

 

系統誤差は、**どこで入るか**で三つに分けるのが疫学の標準である。

 

```

誰が研究に入ったか → **選択バイアス**(第3冊で定義済み)

どう測ったか → **情報バイアス**(第3冊で定義済み)

第三の変数 → **交絡**(第3冊で定義済み)

```

 

第3冊はこの三つに名前を付けた。**本冊は、それぞれの中身を開く。**

 

---

 

## 第二章: 選択バイアス — 誰が入ったかで外れる

 

### 一族として並べる

 

第10冊で出てきた三つは、すべてこの一族だった。並べ直す。

 

| 名前 | 何が起きているか | 第10冊のどこ |

|---|---|---|

| 脱落による偏り | 具合が悪くなった人が来なくなり、残った人が健康に寄る | 第三章 |

| 有病‐罹患バイアス | 一時点で集めると、経過の長い症例ばかりが写る | 第七章 |

| 健康労働者効果 | 働ける人はそもそも健康なので、一般人口と比べると害が消える | 第三章 |

 

そして本冊で四つ足す。

 

**生存者バイアス(せいぞんしゃばいあす、survivorship bias、水準四: ある時点まで残った者だけを見て、途中で消えた者を数え落とすことで生じる偏り)**。

 

「この治療を受けた患者の五年後の状態を調べた」——**五年生きられなかった人は調査に入っていない。** 残った人だけを見れば、どんな治療もよく見える。

 

**バークソンバイアス(Berkson's bias、水準五: 入院患者だけを対象にすると、二つの病気の間に、実際には無い負の関連が現れる偏り)**。

 

病院基盤のケースコントロール研究に固有の罠である。**入院には「どれかの病気が重い」ことが要る**ので、病気Aで入院した人の中では病気Bを持つ人の割合が、一般集団より低くなりうる。

 

**免疫時間バイアス(めんえきじかんばいあす、immortal time bias、水準六: 治療を受けた群の観察期間に、まだ治療を受けていない=結果が起きていないことが確定している期間を含めてしまうことで生じる偏り)**。

 

「手術を受けた群のほうが長生きした」——**手術を受けるまで生きていた人だけが「手術群」に入れる。** 手術までの期間は、定義上「死んでいない期間」である。これを手術群の観察時間に足すと、手術群の死亡率が下がる。**手術が効いたのではなく、時間の数え方が効いている。**

 

**自己選択(じこせんたく、self-selection、水準四: 対象者が自分の意思で参加を決めるため、参加者が一般集団と系統的に違ってしまうこと)**。

 

健康に関心のある人が健診に来る。**健診を受けた人の死亡率が低いのは、健診が効いたのか、来る人が違うのか。**

 

### 対策は設計のときだけ

 

**選択バイアスのいちばん厳しい性質はこれである。**

 

> **選択バイアスは、解析では取り除けない。**

> 入らなかった人のデータは、手元に無い。**無いものは調整できない。**

 

交絡は(後述のとおり)測ってあれば解析で調整できる。**選択バイアスにはそれができない。** だから第10冊で「追跡率は研究の質を測るいちばん簡単な目印」と書いた——**設計と実施の段階でしか手が打てない。**

 

例外は、**入らなかった人について何か分かっている場合**である。脱落した人の年齢や初回の検査値が残っていれば、「脱落者は残った人とどう違ったか」を示せる。**直せはしないが、どちらの向きに外れているかは言える。**

 

---

 

## 第三章: 情報バイアス — どう測ったかで外れる

 

### 誤分類と、その二種類

 

情報バイアスの中心は**分類の間違い**である。

 

**誤分類(ごぶんるい、misclassification、水準四: 曝露の有無や結果の有無を、実際とは違う方に分類してしまうこと)**。

 

そして誤分類は、**曝露群と非曝露群で同じ割合で起きるか、違う割合で起きるか**で、まったく性質が違う。

 

**非差異的誤分類(ひさいてきごぶんるい、non-differential misclassification、水準五: 誤分類の割合が、比べる二群で同じである場合)**。

 

**差異的誤分類(さいてきごぶんるい、differential misclassification、水準五: 誤分類の割合が、比べる二群で違う場合)**。

 

### 非差異的でも安全ではない — ただし向きは決まる

 

「両群で同じように間違えているなら、差し引きゼロだろう」——**これは半分だけ正しい。**

 

> **非差異的誤分類は、関連を薄める。** ほとんどの場合、真の関連より**弱い値**が出る(ゼロの側へ引き寄せられる)。

 

検算する。真のリスク比が3.0の状況で、曝露の判定が両群とも20%の確率で逆になるとする。

 

```

真の姿: 曝露群 300人(発症 30人・率 10%) / 非曝露群 700人(発症 7人・率 1%)

リスク比 = 10% ÷ 1% = **10.0**

 

20%が入れ替わると:

「曝露」と分類される群 = 曝露の80%(240人・発症24人) + 非曝露の20%(140人・発症1.4人)

= 380人 / 発症 25.4人 → 率 6.68%

「非曝露」と分類される群 = 曝露の20%(60人・発症6人) + 非曝露の80%(560人・発症5.6人)

= 620人 / 発症 11.6人 → 率 1.87%

 

測れるリスク比 = 6.68% ÷ 1.87% = **3.57**

```

 

**10.0 が 3.57 に薄まった。** 誤分類は両群で等しく20%だったのに、関連は3分の1近くまで縮んだ。

 

> **だから「差が出なかった」という結果を読むときは、測り方の粗さを訊く。** 粗い測り方は、**差を消す方向にしか働かない。**

> 逆に言えば——**粗い測り方で差が出たなら、真の差はもっと大きい可能性がある。**

 

**差異的誤分類は、向きが決まらない。** 関連を強めることも弱めることも、逆転させることもある。**こちらのほうが厄介である。** 第10冊の**想起バイアス**(結果を知っている人のほうが過去を詳しく思い出す)がこれにあたる。

 

### 向きを言うための二語

 

「どちらに外れるか」を言うには、語が要る。本冊で繰り返し使うので、ここで立てる。

 

**中心への偏り(ちゅうしんへのかたより、bias toward the null、水準五: 真の関連より弱い値が出る方向の偏り。関連が無い状態〈比なら1.0〉に近づく)**。

 

**中心から離れる偏り(ちゅうしんからはなれるかたより、bias away from the null、水準五: 真の関連より強い値が出る方向の偏り)**。

 

```

非差異的誤分類 → **中心への偏り**(向きが決まる)

差異的誤分類 → どちらにも動く(向きが決まらない)

交絡 → どちらにも動く。逆転もする

健康労働者効果 → **中心への偏り**(害が打ち消される)

検出バイアス → **中心から離れる偏り**(見つかる機会が増える)

```

 

> **向きが決まるものについて向きを書かないのは、持っている情報を捨てている。**

> 「非差異的誤分類があるので、真の関連は報告値より強い可能性がある」——**これは読む人の判断を変える。**

 

もう一つ、第10冊の生態学的誤謬と対になる語も立てておく。

 

**個人主義的誤謬(こじんしゅぎてきごびゅう、atomistic fallacy、水準六: 個人どうしの関係が、集団にもそのまま当てはまると決めつける誤り)**。

 

一人一人の所得と健康の関係が分かっても、**「所得の高い国のほうが健康」が成り立つとは限らない。** 生態学的誤謬が「集団から個人へ」の誤りなら、こちらは「個人から集団へ」の誤りである。**単位をまたぐ推論は、両方向で壊れる。**

 

### 測り方の良さを二つに割る

 

誤分類がどれだけ起きるかは、**測り方の良さ**で決まる。そしてこの「良さ」も二つに割れる。

 

**信頼性(しんらいせい、reliability、水準四: 同じものを繰り返し測ったときに、同じ値が出る程度)**。

 

**測定の妥当性(そくていのだとうせい、measurement validity、水準四: 測った値が、測ろうとした真の値に近い程度)**。

 

第一章の的の図がそのまま当てはまる——**信頼性は偶然誤差の小ささ、測定の妥当性は系統誤差の小ささ**である。

 

> **信頼性が高くても妥当性が低いことがある。** 目盛りが2cmずれた定規は、何度測っても同じ値を出す(信頼性は高い)が、常に2cm間違っている(妥当性が低い)。

> **逆はありえない。** ばらつく測り方は、平均が合っていても一回ごとの値は当たらない。

 

信頼性を数で表す道具が二つある。

 

**κ係数(かっぱけいすう、kappa coefficient、水準五: 二人の判定者の一致の程度から、偶然でも一致してしまう分を差し引いて表した値)**。

 

**偶然の一致を引くのが要点である。** 二人が「ほとんど陰性」と判定する検査では、**何も見ずに両方が陰性と言うだけで一致率は9割を超える。** κ係数はそこを差し引く。

 

```

観察された一致率 0.90 / 偶然でも期待される一致率 0.85 のとき

 

κ = (0.90 − 0.85) ÷ (1 − 0.85) = 0.05 ÷ 0.15 = **0.33**

 

→ 一致率90%が、κでは0.33。**一致率だけを見ると過大評価する。**

```

 

**級内相関係数(きゅうないそうかんけいすう、intraclass correlation coefficient、ICC、水準五: 連続した値について、測り直しのばらつきに対して、対象者どうしの違いがどれだけ大きいかを表した値)**。

 

血圧や身長のように数で出る測定では、こちらを使う。**同じ人を測り直したときのばらつきが、人と人の違いに比べて小さければ大きな値になる。**

 

### 測る側から入る偏り

 

**観察者バイアス(かんさつしゃばいあす、observer bias、水準四: 測る人が、対象者がどちらの群かを知っているために、判定が無意識に偏ること)**。

 

X線写真の読影、傷の治り具合の評価、問診の深さ——**どれも判定する人の手心が入りうる。** 対策は第10冊の**盲検化**である。

 

**検出バイアス(けんしゅつばいあす、detection bias、水準五: 一方の群でより熱心に検査が行われるために、結果の見つかる率が違ってしまう偏り)**。

 

「ある薬を飲んでいる人に、がんが多く見つかった」——**その薬を飲む人は定期的に受診している**ので、検査の機会が多い。**病気が増えたのではなく、見つかる機会が増えた。**

 

---

 

## 第四章: 交絡 — 第三の変数が作る「本物の」関係

 

### 交絡の三条件

 

**交絡(第3冊で定義済み)**を厳密に言うには、三つの条件がそろう必要がある。ある変数が交絡因子であるのは——

 

```

一. その変数が、**結果の原因になっている**(または結果の原因と関係している)

二. その変数が、**曝露と関係している**

三. その変数が、**曝露の結果として生じたものではない**(曝露より前にある)

```

 

三つ目が落ちやすい。**曝露のあとに起きたことは交絡因子ではない**(それは後述の中間変数である)。

 

入口の例で当てると——喫煙はぜんそくの原因になりうる(一)、工場の近くに住む人ほど喫煙率が高い(二)、そして喫煙は引っ越しの結果ではない(三)。**だから喫煙は交絡因子である。**

 

### 交絡は「間違い」ではない

 

ここに、交絡を理解するうえで大事な点がある。

 

> **選択バイアスと情報バイアスは「研究のやり方の傷」だが、交絡は「世界にある本物の関係」である。**

 

喫煙率が実際に違うのは事実であり、誤って測ったわけではない。**交絡は、正しく測った複数の本物の関係が、一つの数字の中で混ざってしまう現象である。**

 

だから対処の仕方も違う。**バイアスは「起きないようにする」もので、交絡は「分けて数える」ものである。** そして交絡は、**測ってあれば解析で分けられる**——これが選択バイアスとの決定的な差である。

 

### シンプソンのパラドックス

 

交絡がどれだけ激しく結論を反転させうるか、数字で見る。

 

**シンプソンのパラドックス(Simpson's paradox、水準五: 全体で見たときの関連の向きが、群を分けて見たときの向きと逆になる現象)**。

 

二つの病院の手術成績を比べる。

 

```

■ 全体

成功 失敗 成功率

A病院 720 180 **80.0%**

B病院 360 40 **90.0%**

→ B病院のほうが成績が良い

 

■ 重症度で分けると

【軽症】 成功 失敗 成功率

A病院 540 60 **90.0%**

B病院 315 35 **90.0%** ← 同じ

 

【重症】 成功 失敗 成功率

A病院 180 120 **60.0%**

B病院 45 5 **90.0%** ← Bが良い?

 

検算: A 540+180=720 / 60+120=180 [合] B 315+45=360 / 35+5=40 [合]

```

 

この数字では、軽症で同率、重症でBが良く、全体でもBが良い。**では、いつ逆転が起きるのか。** 数を変える。

 

```

■ 重症度で分けると(別の病院の組)

【軽症】 成功 失敗 成功率

C病院 90 10 **90.0%**

D病院 720 80 **90.0%**

 

【重症】 成功 失敗 成功率

C病院 480 320 **60.0%**

D病院 60 40 **60.0%**

 

■ 全体

成功 失敗 成功率

C病院 570 330 **63.3%**

D病院 780 120 **86.7%**

 

検算: C 90+480=570 / 10+320=330 [合] D 720+60=780 / 80+40=120 [合]

```

 

**軽症でも重症でも成功率はまったく同じ(90%と60%)なのに、全体ではD病院が86.7%対63.3%で圧勝している。**

 

理由は一つで、**C病院には重症患者が800人中、D病院には100人しかいない。** 重症度が交絡因子であり、**病院の実力ではなく患者構成の差が、全体の数字を作っている。**

 

> **「全体の数字」は、群の構成比で作られる。** 構成比が違う二つを全体で比べると、実力とは無関係な差が出る。

> これは第3冊の「比べた二群は比べていい二群だったか」の、いちばん劇的な形である。

 

### 交絡と取り違えられるもの一: 効果修飾

 

**交絡といちばん混同されるのが、これである。**

 

**効果修飾(こうかしゅうしょく、effect modification、相互作用、水準四: 曝露の効果の大きさが、第三の変数の値によって違うこと)**。

 

交絡と効果修飾は、**層別すると同じ操作で見つかる。** しかし**意味が正反対で、手当ても正反対である。**

 

```

層別したら…

 

① どの層でも同じ値 / 全体だけ違う → **交絡** → 調整して一つの数にまとめる

② 層ごとに値が違う → **効果修飾** → まとめてはいけない。層ごとに報告する

```

 

検算で示す。ある薬の効果を年齢で層別する。

 

```

■ 交絡の場合(層ごとに同じ)

若年層 リスク比 2.0 高齢層 リスク比 2.0 → 全体 3.2(構成比のせい)

手当て: 調整して「2.0」と報告する

 

■ 効果修飾の場合(層ごとに違う)

若年層 リスク比 1.0 高齢層 リスク比 4.0 → 全体 2.4

手当て: **「2.4」と報告してはいけない。** 若年には効かず高齢に効く、と報告する

```

 

**効果修飾があるのに全体の値だけを報告すると、両方の層について間違ったことを言う。** 若年層には「2.4倍」と言い過ぎ、高齢層には「2.4倍」と言い足りない。

 

> **交絡は取り除くもの、効果修飾は報告するものである。**

> **消してはいけないものを消すのが、この分野でいちばん多い間違いである。**

 

そして**効果修飾は研究の傷ではない。** 「この薬は高齢者に効く」は発見であって、欠陥ではない。

 

### 尺度によって現れ方が変わる

 

効果修飾には、直感に反する性質が一つある。**どの尺度で測るかによって、あるかないかが変わる。**

 

```

非曝露のリスク 曝露のリスク リスク比 リスク差

若年層 1% 2% 2.0 1%

高齢層 10% 20% 2.0 10%

 

→ **比で見れば効果修飾は無い(どちらも2.0)。**

→ **差で見れば効果修飾は有る(1%と10%で10倍違う)。**

```

 

**同じデータについて「効果修飾がある」と「ない」の両方が正しい。** どちらの尺度で見たかを言わなければ、この語は意味を持たない。

 

実務では**差の尺度のほうが大事なことが多い**——第10冊で見たとおり、対策に要る費用を決めるのはリスク差である。

 

### 交絡と取り違えられるもの二: 逆因果

 

**逆因果(ぎゃくいんが、reverse causation、水準四: 曝露が結果を引き起こしたのではなく、結果が曝露を引き起こしていること)**。

 

第10冊の横断研究の例(運動しないから腰痛か、腰痛だから運動できないか)がこれである。**交絡因子は曝露と結果の共通の原因だが、逆因果では結果が曝露の原因になっている。** 矢印の向きが違うので、調整では直らない。

 

対策は二つ。**一つは時間の順序を確かめること**——曝露が結果より前にあると示す。**もう一つは時点ゼロを工夫すること**である。

 

**時点ゼロ(じてんゼロ、time zero、水準五: 追跡を開始する時刻として、曝露群と非曝露群の両方に同じ規則で定める起点)**。

 

**新規使用者デザイン(しんきしようしゃデザイン、new-user design、水準六: ある薬を初めて使い始めた人だけを集め、使い始めた日を時点ゼロとして追跡する設計)**。

 

「すでに長く使っている人」を集めると、**合わなかった人はすでにやめている**(生存者バイアス)。また第二章の**免疫時間バイアス**も、時点ゼロを曝露群と非曝露群で別の規則で決めたときに起きる。

 

> **時点ゼロを両群で同じ規則にする。** これだけで、時間に関わる偏りの多くが消える。

 

---

 

## 第五章: 絵で描く — 調整してよい変数、してはいけない変数

 

### 矢印で描く

 

交絡・中間変数・合流点の三つを言葉で区別するのは難しい。**矢印で描くと、見た目で分かれる。**

 

**有向非巡回グラフ(ゆうこうひじゅんかいぐらふ、directed acyclic graph、DAG、水準五: 変数を点で、原因から結果への向きを矢印で描き、矢印をたどって元の点に戻らないようにした図)**。

 

「非巡回」は**自分が自分の原因にならない**ことを表す。時間は戻らないので、原因の図は必ず非巡回になる。

 

### 三つの形

 

```

① 交絡因子(共通の原因) ② 中間変数(途中の経路) ③ 合流点(共通の結果)

 

喫煙 運動 → 体重 → 血圧 才能 練習

↙ ↘ ↘ ↙

工場の近く → ぜんそく 入団できた

 

調整すべき 調整すると効果が消える 調整するとバイアスを作る

```

 

**①交絡因子**は、曝露と結果の**両方に矢印を出している**。この形のときだけ、調整すると答えが正しくなる。

 

**②中間変数(ちゅうかんへんすう、媒介変数、mediator、水準五: 曝露の結果として生じ、それがさらに結果を生む、経路の途中にある変数)**。

 

運動が血圧を下げる仕組みの一部が「体重が減るから」なら、**体重を調整すると、運動の効果のその部分が消える。** 「運動しても体重が同じなら血圧は変わらない」という結論が出るが、これは**運動の効果を測り損なっている。**

 

> **交絡因子は調整する。中間変数は調整しない。** そして両者は**時間の順序**だけで区別される——

> **曝露より前にあるのが交絡因子、後にあるのが中間変数。**

 

**③合流点(ごうりゅうてん、collider、水準六: 二つ以上の変数から矢印を受け取っている、共通の結果にあたる変数)**。

 

これがいちばん直感に反する。

 

**合流点バイアス(ごうりゅうてんばいあす、collider bias、水準六: 合流点にあたる変数で調整したり、その値で対象者を絞り込んだりすることで、元は無関係だった二つの変数の間に見せかけの関連を作ってしまう偏り)**。

 

野球チームの入団に「才能」と「練習量」の両方が効くとする。才能と練習量は、一般の人々の間では無関係だとしよう。

 

**ところが入団できた選手だけを見ると、才能と練習量の間に負の関連が現れる。** 才能が低いのに入団できた選手は、練習量が多かったはずだからである。**「才能のある選手は練習しない」という、存在しない関係が見える。**

 

> **バイアスは「調整し忘れる」だけで起きるのではない。** **調整することで作られるバイアスもある。**

> だから「調整する変数は多いほどよい」は誤りである。**何を調整するかは、絵を描いて決める。**

 

そして第二章で述べた選択バイアスの多くは、**この合流点の形で説明できる**——「研究に入ったこと」が合流点で、そこで絞り込んでいるのである。

 

### 絵は前提であって結論ではない

 

**有向非巡回グラフの限界を明示しておく。**

 

> **矢印の向きは、データからは決まらない。** 描く人が、分野の知識と時間の順序に基づいて置くものである。

> **だから絵が違えば、調整すべき変数も違ってくる。**

 

有向非巡回グラフの値は「正しい答えを教えてくれる」ことではなく、**「どの前提のもとでその調整が正しいのか」を、他人に見える形で書き出させること**にある。

 

---

 

## 第六章: 取り除く — 五つの道具

 

交絡は測ってあれば分けられる。道具は五つあり、**設計の段階で使うものが二つ、解析の段階で使うものが三つ**である。

 

```

設計で使う: 制限 / 対照のマッチング … 交絡因子が入り込まないようにする

解析で使う: 層別 / 標準化 / 多変量調整 … 入り込んだものを分けて数える

```

 

### 〇. 制限

 

いちばん単純で、いちばん見落とされる道具がこれである。

 

**制限(せいげん、restriction、水準四: 交絡因子の値を一つに限って対象者を集めることで、その因子が交絡しないようにすること)**。

 

喫煙が交絡するなら、**非喫煙者だけを集める。** 集団の中で喫煙率が変わらないなら、喫煙は曝露と関係しえない——交絡の三条件の二つ目が成り立たなくなる。

 

**利点は、完全に消えることである。** 層別や調整のように「粗く測ったぶんだけ残る」(残差交絡)ということが起きない。

 

**弱点は二つある。** 一つは**外的妥当性が下がる**こと——非喫煙者についての答えしか出ない。もう一つは**人が集まらなくなる**こと。制限を重ねるほど対象者は減り、第10冊の検出力が落ちる。

 

> **制限と効果修飾は、同じ操作の裏表である。**

> 非喫煙者だけで測るのは「制限」、喫煙者と非喫煙者で別々に測って違いを見るのは「効果修飾を調べる」。

> **前者は一つの答えを、後者は二つの答えを出す。**

 

### 一. 層別

 

**層別(そうべつ、stratification、水準四: 交絡因子の値ごとに集団を分け、それぞれの層の中で関連を測ること)**。

 

第四章のシンプソンのパラドックスで実際にやったことがこれである。重症度で分ければ、病院の実力が見える。

 

**層別の利点は、透明なことである。** どの層で何が起きているか、そのまま見える。**弱点は、層を増やすと一つの層に人がいなくなること。** 年齢5階級×性別2×喫煙3で30層、それに5層の変数を足すと150層——1,000人では一層あたり7人になる。

 

### 二. 対照のマッチング

 

**対照のマッチング(たいしょうのマッチング、matching、水準五: 症例一人ごとに、交絡因子の値が近い対照を選んで対にすること)**。

 

> **「マッチング」は離散数学では二部グラフの1対1対応を指す(BOOK-0128)。** 疫学のこれは過不足なく対応させる必要はないので、別概念である。本冊では**対照のマッチング**と呼ぶ。

 

利点は、**層別より少ない人数で効率よく交絡を抑えられること。** 弱点は二つある。

 

**一つ目——マッチングに使った変数の効果は、もう測れない。** 年齢でマッチングしたら、年齢の効果は消えている。

 

**二つ目——**これが罠である。

 

**過剰マッチング(かじょうマッチング、overmatching、水準六: 曝露と関係が深すぎる変数でマッチングしてしまい、曝露の効果そのものを打ち消してしまうこと)**。

 

職業曝露を調べるのに「同じ職場・同じ部署の人」を対照にすると、**曝露も同じになってしまう。** 交絡を消そうとして、測りたいものを消している。

 

### 三. 標準化

 

**標準化(第3冊で定義済み)**は、集団の構成比をそろえてから比べる道具である。二通りある。

 

**標準化の直接法(ちょくせつほう、direct standardization、水準四: 比べたい各集団の層別の率を、共通の基準人口の構成比に当てはめて、全体の率を計算し直す方法)**。

 

**標準化の間接法(かんせつほう、indirect standardization、水準五: 基準人口の層別の率を、比べたい集団の構成比に当てはめて「期待される件数」を出し、実際の件数と比べる方法)**。

 

> **「直接法」「間接法」はボイラー効率の用語として BOOK-0153c に在る**(燃料の投入熱量と直接比べるか、熱損失を引くか)。**同じ札だが、まったく別の概念である。**

 

間接法から出るのが**標準化死亡比(第4冊で定義済み)**で、実際の件数 ÷ 期待される件数である。

 

第四章のC病院とD病院に、標準化の直接法を当てる。基準人口を「軽症50%・重症50%」とすると——

 

```

C病院: 0.90 × 0.5 + 0.60 × 0.5 = **75.0%**

D病院: 0.90 × 0.5 + 0.60 × 0.5 = **75.0%**

```

 

**構成比をそろえると、二つは同じになった。** 全体で86.7%対63.3%だった差は、患者構成の差がすべてだったことになる。

 

### 四. 多変量調整

 

交絡因子が多いとき、層別では層が枯れ、マッチングでは測りたいものが消える。そこで数式の形で一度に調整する。

 

**多変量調整(たへんりょうちょうせい、multivariable adjustment、水準五: 複数の交絡因子を同時に式に入れて、それらの影響を取り除いた曝露の効果を推定すること)**。

 

**これは第12冊で扱う。** ここでは、**式に入れれば調整されるわけではない**という注意だけ置く——第五章で見たとおり、**中間変数や合流点を式に入れると、かえって答えが歪む。**

 

### 残るもの

 

四つの道具をすべて使っても、残るものがある。

 

**残差交絡(ざんさこうらく、residual confounding、水準五: 交絡因子を調整したつもりでも、測り方が粗いために取り切れずに残る交絡)**。

 

喫煙を「あり/なし」で調整しても、1日40本の人と2本の人は同じ扱いになる。**粗く測った交絡因子は、粗くしか調整できない。**

 

**未測定交絡(みそくていこうらく、unmeasured confounding、水準五: 交絡因子であるのに、そもそも測っていないために調整できないもの)**。

 

そして観察研究では、**未測定交絡が無いことを証明する方法は無い。** これが第10冊で「無作為化だけが、測っていない要因まで振り分ける」と書いた理由である。

 

---

 

## 第七章: 取り除けない分を、どう正直に書くか

 

### 感度分析

 

取り除けなかったものを「無いもの」として扱わない道具がある。

 

**感度分析(かんどぶんせき、sensitivity analysis、水準五: 前提や仮定を変えて計算をやり直し、結論がどれだけ動くかを調べること)**。

 

> **この語は測定の**「感度」(第3冊で定義済み)**とは別物である。** 検査の感度は「病気の人を陽性と判定できる割合」、感度分析の感度は「前提を動かしたときに結論が動く度合い」。**同じ札だが、別の概念である。**

 

「未測定交絡があるとしたら、どれくらい強ければこの結論が消えるか」を計算する。

 

```

観察されたリスク比 2.1

 

未測定交絡が

曝露と 1.5倍・結果と 1.5倍 の関係 → 調整後 約 1.7 … 結論は残る

曝露と 2.0倍・結果と 2.0倍 の関係 → 調整後 約 1.4 … 弱まるが残る

曝露と 3.0倍・結果と 3.0倍 の関係 → 調整後 約 1.0 … **消える**

```

 

**この計算が示すのは「正しいかどうか」ではなく、「どれだけ壊れやすいか」である。**

 

「3倍の関係を持つ未測定交絡がないと言えるか」は分野の知識で判断する問題になる。**そこまで持っていければ、議論が「ある/ない」の言い合いから「どのくらいの強さが必要か」に移る。** これは前進である。

 

この「結論が消えるのに必要な最小の強さ」を一つの数で表す指標が使われることもあり、**E値(E-value、水準六: 観察された関連を説明し去るために、未測定交絡が曝露と結果の両方に対して持たなければならない関連の強さの最小値)**と呼ばれる。

 

### 負の対照

 

もう一つ、仮定を検める道具がある。

 

**負の対照(ふのたいしょう、negative control、水準六: その曝露が影響するはずのない結果、あるいはその結果に影響するはずのない曝露を、あえて併せて調べること)**。

 

「工場の近くに住むとぜんそくが多い」の研究で、**工場の煙とは関係がないはずの結果(たとえば骨折)**も併せて調べる。骨折も同じくらい多ければ、**それは煙の効果ではなく、近くに住む人の別の特性の効果である**可能性が高い。

 

**負の対照で差が出たら、その研究は交絡を取り切れていない。** 何も出なければ、それは弱い安心材料になる(証明にはならない)。

 

### 交絡因子はどれだけ数字を動かすのか

 

「交絡があるかもしれない」と言うとき、**どれだけ動きうるのかを数で持っておくと話が早い。** 検算する。

 

真の関連が無い(リスク比 1.0)のに、交絡因子だけで 2.1倍が出る状況を作ってみる。

 

```

交絡因子(喫煙)が結果を 5倍にし、

曝露群の喫煙率 50% / 非曝露群の喫煙率 10% とする。

 

曝露群のリスク = 0.50 × 5 + 0.50 × 1 = 3.0(基準を1として)

非曝露群のリスク = 0.10 × 5 + 0.90 × 1 = 1.4

 

見かけのリスク比 = 3.0 ÷ 1.4 = **2.14**

```

 

**曝露そのものの効果が完全にゼロでも、2.14倍が出る。** 必要だったのは「結果を5倍にする交絡因子」と「喫煙率の40ポイント差」の二つだけである。

 

逆向きも同じ計算で起きる。**交絡因子が非曝露群に多ければ、本当は害があるのに「害が無い」あるいは「良い」という数字が出る。** 第二章の健康労働者効果がまさにこれだった。

 

> **交絡は、関連を作ることも、消すことも、逆転させることもできる。**

> だから「交絡の可能性がある」だけでは足りず、**どの変数が、どちらの向きに、どれだけ**を言う必要がある。

 

### 結局、いつ因果だと言えるのか

 

本冊は一貫して「外れる理由」を並べてきた。**では、何をどれだけそろえれば因果だと言えるのか。**

 

正直に答える。**一本の決まった手続きは無い。** 第10冊で見たとおり、喫煙と肺がんは**無作為化比較試験を一度も使わずに**確立した。そのとき使われたのは、次のような**複数の別の道の一致**である。

 

```

時間の順序 曝露が結果より前にある(第10冊の時間的前後関係)

関連の大きさ 弱い関連より強い関連のほうが、交絡で説明しにくい

用量反応関係 曝露が多いほど結果が多い(第6冊の用量反応)

一貫性 別の集団・別の設計・別の時代で同じ向きの結果が出る

可逆性 曝露を止めると結果が減る(禁煙で肺がんが減る)

生物学的機序 なぜそうなるかの仕組みが説明できる

他の説明の排除 交絡と偏りを潰したうえで残っている

```

 

**これは採点表ではない。** 項目を数えて合格点を出す道具として使うと間違える——**用量反応関係が無くても因果である場合がある**(閾値があるとき)し、**機序が分からなくても因果である場合がある**(スノウはコレラ菌を知らなかった)。

 

> **この一覧の使い方は「どれが欠けているかを言えるようにすること」である。**

> 「機序は分かっていないが、一貫性と用量反応と可逆性がそろっている」——こう書けるなら、

> 「因果かもしれない」よりずっと多くを伝えている。

 

そして**本冊の道具は、この最後の行(他の説明の排除)のためにある。** 偏りと交絡を潰す作業は、それ自体が結論ではなく、**残ったものを因果として議論する資格を得るための手続き**である。

 

### 三つを混ぜて書かない

 

最後に、報告の作法を一つ。

 

> **「バイアスの可能性がある」とだけ書くのは、何も言っていないのと同じである。**

> **どの種類か・どちらの向きか・どのくらいの大きさか**を書く。

>

> 「非差異的誤分類があるので、真の関連は報告値より**強い**可能性がある」——これは情報になる。

> 「選択バイアスの可能性がある」——これは情報にならない。

 

第三章で見たとおり、**非差異的誤分類は向きが決まっている。** 向きが決まるものについて向きを書かないのは、**持っている情報を捨てている。**

 

---

 

## 第八章: 商談と査読の席で何を訊くか

 

第10冊までで三十八になった問いに、五つを足す。

 

> **問い三十九: この数字の外れ方は、人数で直るものか。** ——信頼区間が狭いことは正しさの保証ではない。系統誤差は区間に現れない。

>

> **問い四十: 調整した変数の一覧に、曝露より後に起きたものが混じっていないか。** ——中間変数を調整すると効果が消える。交絡因子と中間変数は時間の順序だけで分かれる。

>

> **問い四十一: 調整した変数は、絵を描いて選んだのか、手元にあったから入れたのか。** ——合流点を入れると、無い関連が作られる。「調整は多いほどよい」は誤りである。

>

> **問い四十二: 曝露や結果の測り方は粗いか。差が出なかった研究なら、なおさら訊く。** ——非差異的誤分類は差を消す方向にしか働かない。

>

> **問い四十三: 未測定交絡について、感度分析はあるか。** ——「無いとは言えない」で止まらず、「どれくらい強ければ消えるか」まで出ているか。

 

**商談の問いは、これで四十三になった。**

 

---

 

## 次に待っている風景 — 第12冊への矢印

 

本冊は「なぜ外れるか」を三つに分け、絵に描き、四つの道具で取り除き、取り切れない分を正直に書く方法まで進んだ。

 

**しかし本冊は、数の扱いを一つも与えていない。**

 

「信頼区間が狭い」と何度も書いたが、**信頼区間がどこから出てくるのかは説明していない。** 「多変量調整」を四つ目の道具として挙げたが、**式は第12冊に預けた。** 第10冊で入口だけ示した**打ち切り**も、まだ扱う道具がない。

 

> **第12冊は「どう数えるか」を扱う。** ——点推定と区間推定、**統計的仮説検定**とp値が何を言っていて何を言っていないか、回帰(単回帰・重回帰・ロジスティック回帰)、そして打ち切りを正面から扱う生存時間解析、最後に第10冊と本冊で二度出てきた**多重性**の始末。

>

> **第13冊は「どう判断するか」**——第3冊・第10冊・本冊で繰り返し出てきた感度と特異度を、尤度比とROC曲線に組み直す。

>

> **第14冊は「どう先を読むか」**——SIRモデルと再生産数。

 

---

 

## 章末: 外れ方の階段図

 

```

取り除きやすさ ──────────────────────────────────────────────────────

 

取り除ける ┤ **偶然誤差** … 人数を増やせば減る。信頼区間が狭くなる。

│ 統計が扱う領域。

│ ▲

分けられる ┤ **交絡** … 世界にある本物の関係が混ざったもの。

│ **測ってあれば解析で分けられる**。

│ 層別・対照のマッチング・標準化・多変量調整。

│ ▲

│ 三条件(結果の原因/曝露と関係/曝露より前)

│ ▲

向きは言える┤ **情報バイアス** … 非差異的なら**差を消す方向**にしか働かない。

│ 差異的なら向きが決まらない。

│ ▲

│ 誤分類・想起・観察者・検出

│ ▲

設計でしか ┤ **選択バイアス** … **解析では取り除けない。** 入らなかった人の

防げない │ データは手元に無い。

│ 脱落・生存者・バークソン・免疫時間・自己選択

│ ▲

残るもの ┤ **残差交絡と未測定交絡** … 観察研究では「無いこと」を証明できない。

│ 感度分析・E値・負の対照で**壊れやすさを示す**。

```

 

**横の広がり(同じ層にある姉妹の考え):**

 

```

絵の三つの形: 交絡因子(調整する) ←(時間の順序)→ 中間変数(調整しない) ←(矢印の向き)→ 合流点(調整すると作る)

誤分類の二つ: 非差異的(薄める・向きが決まる) ←(群で同じか)→ 差異的(向きが決まらない)

妥当性の二つ: 内的(自分の集団で正しいか) ←(順序がある)→ 外的(他へ広げられるか)

道具の四つ : 層別(透明だが層が枯れる) ←→ 対照のマッチング(効率的だが過剰の罠) ←→ 標準化(構成をそろえる) ←→ 多変量調整(第12冊)

```

 

**現在のフロンティア(年号つき):**

 

- **1951年** シンプソンが記述した逆転現象は、それ以前から知られていた事例を整理したもので、**現在も行政統計の読み方の基本的な注意として引かれる。**

- **1986年ごろ**から整理された有向非巡回グラフによる交絡の定式化は、「どの変数を調整すべきか」を**議論できる形**にした。それ以前は経験と慣習で決められていた。

- **合流点バイアス**は現在も誤解されやすく、**「調整できる変数は全部入れる」という運用が残っている分野がある。** 絵を描く習慣が広がるかどうかは、分野ごとに差がある。

- フロンティアは**未測定交絡をどこまで扱えるか**である。感度分析とE値は「壊れやすさを示す」ところまでしか進めておらず、**観察データから因果を言う手法そのもの**は現在も更新が続いている——これが**第37冊(因果推論)**の領域になる。

 

**次の一手 ─────▶** 第12冊(生物統計)。本冊が何度も口にした「信頼区間」と「多変量調整」に、数の中身を与える冊である。

 

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## 参照文献(定番教科書・一般書)

 

1. Rothman KJ, Greenland S, Lash TL, *Modern Epidemiology* — 系統誤差の三分類、誤分類の方向性、有向非巡回グラフ、感度分析の標準的記述。

2. Hernán MA, Robins JM, *Causal Inference: What If* — 有向非巡回グラフ・合流点・中間変数の扱いと、調整してよい変数の判定。

3. Gordis L, *Epidemiology* — 交絡の三条件、層別、標準化の入門的記述。

4. Szklo M, Nieto FJ, *Epidemiology: Beyond the Basics* — 選択バイアスの各類型、過剰マッチング、残差交絡の詳細。

5. Simpson EH, "The Interpretation of Interaction in Contingency Tables" (1951) — 逆転現象の原典的記述。

6. VanderWeele TJ, Ding P, E値に関する方法論論文分野 — 未測定交絡の強さを一つの数で表す指標の提案。

7. Suissa S, 免疫時間バイアスに関する方法論論文分野 — 観察研究における時間の数え方の誤りの整理。

 

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(本冊子は現代学問宇宙図鑑シリーズ BOOK-0011k(衛生学 第11冊)。第10冊 BOOK-0011j が設計、本冊が偏りと交絡、第12冊が生物統計を扱う。次冊は BOOK-0011l(衛生学 第12冊: 生物統計)を予定。GAKUMON_UNIVERSE.md 進捗台帳を参照。)

 




# BOOK-0011k 衛生学 — なぜ数字は外れるのか 第11冊
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