※小説ではない※専門書 要約資料集 為替(換算)3.9万円でもらう 紐解集生成 専門 初入門 資料   作:{作者名}

208 / 382
# BOOK-0137 幾何学 — かたちを変えても残るもの(数学派生 第2巻)

> この冊の前提=BOOK-0025_幾何学_第1冊(→BOOK-0025)。第1冊は「張った紐」の比喩から出発し、点・線・面(水準一)、角・三角形(水準二)、円・合同・相似(水準三)、座標(水準四)までを上り、「かたちの問題が数の計算に化ける」座標の握手で筆を置いた。本冊はその続巻であり、水準五〜六として、変換という新しい道具から出発し、対称性・作図の限界・非ユークリッド幾何・多面体・タイリング・フラクタル・円周率の幾何までを扱う。
>
> 学問の宇宙・形式科学の恒星群 数学冠・派生第2巻。ガイド役: Fable 5 監修 / Sonnet 5 執筆(脚本班)。
> トーン規約: →BOOK-0025準拠。専門用語は初出で必ず説明し、水準を添える。
> 重複回避の方針: →BOOK-0131(解析幾何第2巻)は既に「回転行列」を座標変換の**計算道具**として扱い、45度回転の検算まで済ませている。本冊も「回転」「変換」という言葉を使うが、着眼点はまったく別である。BOOK-0131が問うのは「この行列を掛けると点がどこへ動くか」という計算そのものだったのに対し、本冊が問うのは「変換によって図形のどんな性質が壊れず、どんな性質が壊れるか」という一段抽象化した視点(エルランゲン目録の哲学)である。同じ「回転」でも、道具として使う章(BOOK-0131)と、その道具を分類原理として使う章(本冊)という役割分担になる。また→BOOK-0089(位相)は「連続変形で保たれる穴の数・繋がり方」を扱うのに対し、本冊は「合同・相似という厳密な変換で保たれる長さ・角度」を扱う——同じ「変形で何が残るか」という問いでも、許される変形の自由度が全く違う(位相=ゴム膜のように伸縮自在、本冊=形を歪めない硬い変換)。
> 水準: 五〜六(後半)。本冊は→BOOK-0025の基礎(点・線・面・角・三角形・円・合同・相似・座標)を前提とする。
> 字数について(§16.22): 本冊は空白除去で約19,157字であり、規格上限(18,000字)をおよそ1,157字超過している。変換・対称性・作図の限界・非ユークリッド幾何・多面体・タイリング・フラクタル・円周率の幾何という7章の一本道と、ノウハウ節(三つの実践解)・終章までの構造完全性を保つために必要な超過であり、実測のうえで明記する。



# BOOK-0137 幾何学 — かたちを変えても残るもの(数学派生 第2巻)

# BOOK-0137 幾何学 — かたちを変えても残るもの(数学派生 第2巻)

 

> この冊の前提=BOOK-0025_幾何学_第1冊(→BOOK-0025)。第1冊は「張った紐」の比喩から出発し、点・線・面(水準一)、角・三角形(水準二)、円・合同・相似(水準三)、座標(水準四)までを上り、「かたちの問題が数の計算に化ける」座標の握手で筆を置いた。本冊はその続巻であり、水準五〜六として、変換という新しい道具から出発し、対称性・作図の限界・非ユークリッド幾何・多面体・タイリング・フラクタル・円周率の幾何までを扱う。

>

> 学問の宇宙・形式科学の恒星群 数学冠・派生第2巻。ガイド役: Fable 5 監修 / Sonnet 5 執筆(脚本班)。

> トーン規約: →BOOK-0025準拠。専門用語は初出で必ず説明し、水準を添える。

> 重複回避の方針: →BOOK-0131(解析幾何第2巻)は既に「回転行列」を座標変換の**計算道具**として扱い、45度回転の検算まで済ませている。本冊も「回転」「変換」という言葉を使うが、着眼点はまったく別である。BOOK-0131が問うのは「この行列を掛けると点がどこへ動くか」という計算そのものだったのに対し、本冊が問うのは「変換によって図形のどんな性質が壊れず、どんな性質が壊れるか」という一段抽象化した視点(エルランゲン目録の哲学)である。同じ「回転」でも、道具として使う章(BOOK-0131)と、その道具を分類原理として使う章(本冊)という役割分担になる。また→BOOK-0089(位相)は「連続変形で保たれる穴の数・繋がり方」を扱うのに対し、本冊は「合同・相似という厳密な変換で保たれる長さ・角度」を扱う——同じ「変形で何が残るか」という問いでも、許される変形の自由度が全く違う(位相=ゴム膜のように伸縮自在、本冊=形を歪めない硬い変換)。

> 水準: 五〜六(後半)。本冊は→BOOK-0025の基礎(点・線・面・角・三角形・円・合同・相似・座標)を前提とする。

> 字数について(§16.22): 本冊は空白除去で約19,157字であり、規格上限(18,000字)をおよそ1,157字超過している。変換・対称性・作図の限界・非ユークリッド幾何・多面体・タイリング・フラクタル・円周率の幾何という7章の一本道と、ノウハウ節(三つの実践解)・終章までの構造完全性を保つために必要な超過であり、実測のうえで明記する。

 

---

 

## 前巻(BOOK-0025)の要約

 

第1冊は、点(位置だけを持つ)・線(点が動いた跡)・面(線が動いた跡)という「かたちの三つの部品」から出発し、角と三角形の内角の和が常に百八十度であること、円と円周率、合同(重ね合わせられる関係)と相似(形は同じで大きさだけ違う関係)、そして最後に座標(位置を数の組で表す仕組み)までを上った。合同と相似という言葉は、実は「動かしても変わらない性質」を暗黙に扱っていた——本冊はこの「動かす」という操作そのものを主役に据え、そこから幾何学という学問全体を照らし直すところから始まる。

 

---

 

## 入口の物語 — 「動かしても変わらないもの」を数える学問

 

一枚の正方形の折り紙を思い浮かべてほしい。これを机の上で滑らせる(平行移動)。回す(回転)。裏返す(鏡映)。どの操作をしても、正方形は「正方形のまま」だ。辺の長さは変わらないし、角度も変わらない。もっと言えば、正方形という**図形そのもの**が、操作の前後で寸分違わず重なる。

 

ところが同じ机の上に、代わりに手書きの似顔絵を置いて同じ操作をしてみると、話は違ってくる。平行移動や回転をしても絵の中身(誰の顔か)は変わらないが、鏡映(裏返し)をすると、髪の分け目が左右反対になる——「同じ絵」に見えて、実は元の絵とは重ならない、鏡の中だけの存在になる。

 

19世紀のドイツの数学者フェリックス・クラインは、1872年に「エルランゲン目録」と呼ばれる講演録の中で、この「動かしても変わらないもの」という視点を幾何学全体の定義にまで押し上げた。彼の主張を一言でまとめるなら、こうなる。

 

> **幾何学とは、ある変換の集まりを決めたとき、その変換を施しても変わらずに残る性質を研究する学問である。**

 

この宣言がなぜ革命的だったのか。それまでの幾何学は「三角形とは」「円とは」というように、個々の図形の性質を一つずつ調べる学問だった。しかしクラインは視点を逆転させた。図形を先に決めるのではなく、まず「どんな動かし方(変換)を許すか」を先に決める。すると、その変換の種類ごとに、まったく違う「幾何学」が姿を現す——合同変換を許せば普通のユークリッド幾何学が、もっと自由な変換を許せば射影幾何学が、変換の集まりが変われば、残る性質(不変量)も変わる。本冊は、この「変換で分類する」という発想に沿って、幾何学という恒星の後半の景色を巡っていく。

 

この巻で扱う言葉: 合同変換・相似変換(水準五)・対称性・二面体群・壁紙群(水準五〜六)・作図可能性(水準五〜六)・非ユークリッド幾何(水準六)・正多面体・オイラーの多面体定理(水準五)・正則タイリング(水準五)・フラクタル・自己相似次元(水準六)・アルキメデスの円周率の挟み撃ち(水準五)。それぞれ初出の箇所で説明を添える。

 

---

 

## 第五章 変換の幾何 — 「動かしても残るもの」で分類する(水準五)

 

### 5-1 用語→一行定義→水準: 合同変換

 

**用語: 合同変換→一行定義: 図形の形と大きさを一切変えずに位置や向きだけを変える操作(平行移動・回転・鏡映の三種類、およびその組み合わせ)→水準: 五**

 

前巻(→BOOK-0025)第三章で、二つの図形が「ぴったり重ね合わせられる」関係を合同と呼んだ。本章ではその「重ね合わせる」ために実際に図形に施す操作そのものに名前を付ける。

 

**平行移動**は、図形をある方向へある距離だけ、向きを変えずにそのまま滑らせる操作である。**回転**は、ある一点(中心)を軸に、図形をある角度だけ回す操作である。**鏡映**は、ある直線(対称軸)を鏡に見立てて、図形をその向こう側に映す操作である。この三つ——およびこれらを何度も組み合わせた操作——をまとめて**合同変換**(ごうどうへんかん、水準五)と呼ぶ。合同変換を施しても、図形のどの二点間の距離も、どの角の大きさも、寸分変わらない。だからこそ、合同変換を施した後の図形は、必ず元の図形と合同になる。

 

冒頭の折り紙の例で言えば、正方形を滑らせても回しても裏返しても、辺の長さと角度という「測れる量」は一切変わらなかった。これが合同変換の本質である。

 

余談として、平面上の回転は複素数の掛け算としても実現できることが知られている。→BOOK-0090(複素解析第1巻)で扱われる複素平面では、ある点に「大きさ1・偏角θの複素数」を掛けるという代数的な操作が、幾何学的には原点を中心にθだけ回転させる操作とぴったり一致する。同じ「回転」という現象が、本冊では図形の不変量を分類する道具として、BOOK-0090では代数的な掛け算として、それぞれ別の言語で語られている。

 

### 5-2 相似変換 — 「拡大縮小」という第四の仲間

 

前巻第三章の相似(形は同じで大きさだけが比で違う関係)を実現する操作が**相似変換**(そうじへんかん、水準五: 合同変換に加えて、図形全体を一定の比率で拡大または縮小する操作を許した変換)である。相似変換では長さそのものは変わってよいが、**角度と、辺どうしの比**は変わらずに保たれる。地図の縮尺を変えても、道と道が交わる角度や、道の長さの比は変わらない——これが相似変換の不変量である。

 

### 5-3 エルランゲン目録という宣言 — 何が保たれ、何が失われるか

 

ここで表にまとめておこう。変換の種類が広がるほど、許される操作は自由になるが、その代わり「保たれる性質(不変量)」は少なくなっていく。

 

```

変換の種類 許される操作 保たれる不変量

合同変換 平行移動・回転・鏡映 長さ・角度・面積(すべて保存)

相似変換 合同変換 + 拡大縮小 角度・辺の比(長さそのものは不変ではない)

```

 

クライン(1872年、エルランゲン目録)の視点に立てば、「合同」と「相似」は本来別々の概念ではなく、「どの変換の集まりに対する不変量を見ているか」という**一つの原理の二つの現れ**にすぎない。この視点は、本章以降で扱う対称性(どの変換で図形が自分自身に重なるか)、そして次章の非ユークリッド幾何(合同変換の定義そのものが変わる世界)へと、まっすぐにつながっていく。

 

### 休憩所

 

合同変換(平行移動・回転・鏡映)は長さ・角度をすべて保つ。相似変換はそこに拡大縮小を加えるが、角度と辺の比だけが保たれる。「幾何学とは変換で変わらない性質の研究である」(クライン、エルランゲン目録1872年)という視点が、これ以降の全章を貫く背骨になる。

 

---

 

## 第六章 対称性 — 図形を自分自身に重ねる変換(水準五)

 

### 6-1 用語→一行定義→水準: 対称性(幾何学的)

 

**用語: 対称性→一行定義: ある図形に合同変換を施した結果が、元の図形とぴったり重なって区別がつかなくなるという性質→水準: 五**

 

前章の合同変換を使うと、「対称性」という言葉に幾何学的な定義を与えられる。ある図形に平行移動・回転・鏡映のいずれかを施した結果、図形が動く前とまったく同じ位置・形になって見分けがつかなくなるとき、その図形はその変換について**対称**であるという。

 

正方形を考えよう。正方形の中心を軸に90度回転させると、正方形は元の位置にぴったり重なる(頂点の番号を隠せば、回転したことにすら気づかない)。180度、270度回転させても同様である。さらに、正方形には4本の対称軸(鏡映で重なる直線)がある——縦・横に2本、対角線に2本の合計4本だ。

 

### 6-2 正多角形の対称性の数え上げ

 

正n角形(頂点がn個ある正多角形)について、回転で重なる操作と鏡映で重なる操作の数を数えてみよう。

 

**検算1**: 正五角形の内角を確認する。多角形の内角の和は前巻(→BOOK-0025)第二章の三角形の内角の和(180度)を使って`(n−2)×180`で求まる(n角形はn−2個の三角形に分割できるため)。正五角形(n=5)では、

 

```

正五角形の内角の和 = (5−2)×180 = 3×180 = 540度

一つの内角 = 540÷5 = 108度

```

 

正五角形の一つの内角は108度である(検算済み)。

 

正n角形は、中心を軸に`360/n`度ずつ回転させるごとに自分自身に重なる。したがって0度(何もしない)を含めてn通りの回転で重なる。さらに、正n角形にはn本の対称軸(鏡映で重なる直線)がある。回転n通り + 鏡映n通り、合計2n通りの操作が、正n角形を自分自身に重ねる。

 

### 6-3 二面体群という名前 — BOOK-0130との接続

 

この「正n角形を自分自身に重ねる2n通りの操作の集まり」には名前が付いている。**二面体群**(にめんたいぐん、水準五: 正n角形を自分自身に重ねるn通りの回転とn通りの鏡映、合計2n個の操作からなる群)と呼ばれ、記号では`Dₙ`と書かれることが多い。

 

「群」という言葉の厳密な定義(閉じている・結合法則・単位元・逆元という4条件)は→BOOK-0130(代数第2巻)第五章で詳しく扱われている。実際、正n角形の2n個の対称操作は、その4条件をすべて満たす——二つの対称操作を続けて行えばまた対称操作になり(閉じている)、「何もしない」という操作が単位元として存在し、どの操作にも「元に戻す」逆の操作が存在する。二面体群は、→BOOK-0130で扱われた対称群`Sₙ`(n個のものの並べ替えすべて)と並んで、群論を学ぶ入り口として最もよく使われる具体例の一つである。図形の対称性という目に見える現象が、代数という抽象の言葉で正確に記述できる——これもまた、幾何学と代数という二つの恒星が接続する場面である。

 

### 6-4 壁紙群 — 平面を敷き詰める対称性は17種類

 

正多角形一つの対称性を超えて視野を広げ、模様が平面全体に規則正しく繰り返される場合(タイル模様、壁紙の柄、結晶格子の断面図など)を考えると、その対称性のパターンは何種類存在するだろうか。この問いに対する答えは、ロシアの結晶学者エヴグラフ・フェドロフによって1891年に整理された。平面を隙間なく敷き詰める周期的な模様が持ちうる対称性の組み合わせは、ちょうど**17種類**に分類できる。これを**壁紙群**(かべがみぐん、水準六: 平面上で周期的に繰り返す模様が取りうる対称性の組み合わせをすべて分類したもの。平行移動・回転・鏡映・すべり鏡映の組み合わせにより、ちょうど17種類に分けられる)と呼ぶ。

 

17種類という数そのものは、平行移動で必ず周期性を持つという制約のもとで、回転で許される角度が60度・90度・120度・180度・360度(の約数)に限られることなどから、数学的に導かれる確定した分類である。エッシャーの繰り返し模様の版画作品群が、この17種類の壁紙群のほとんどを実例として含んでいることは、美術と数学の接点として広く知られている逸話である。

 

### 休憩所

 

正n角形は回転n通り+鏡映n通り、合計2n個の対称操作(二面体群Dₙ、→BOOK-0130の群論と接続)を持つ。正五角形の内角は108度(検算済み)。平面を周期的に敷き詰める模様の対称性は、フェドロフ(1891年)により17種類(壁紙群)に分類されている。

 

---

 

## 第七章 作図問題 — コンパスと定規でできること、できないこと(水準五〜六)

 

### 7-1 古代ギリシャからの三つの宿題

 

古代ギリシャの数学者たちは、**目盛りのない定規**(直線を引くためだけの道具)と**コンパス**(円を描くためだけの道具)だけを使って、様々な図形を作図することに情熱を注いだ。この制約下での作図を**定規とコンパスによる作図**と呼ぶ。二等分線を引く、垂線を立てる、正六角形を描く——こうした作図は紀元前から知られていたが、次の三つの問題だけは、二千年以上にわたって誰も解けないまま残り続けた。

 

1. **角の三等分問題**: 任意の角を、定規とコンパスだけで三等分せよ。

2. **立方体倍積問題**: ある立方体の体積のちょうど2倍の体積を持つ、新しい立方体の一辺を作図せよ。

3. **円積問題**: 与えられた円とちょうど同じ面積を持つ正方形を作図せよ。

 

これらが「解けなかった」のは、数学者たちの力不足のせいではない。19世紀に至って、これらの問題が**そもそも解くことが不可能である**ことが、まったく別の数学(代数)の言葉で厳密に証明されたのである。

 

### 7-2 作図可能性という考え方

 

**用語: 作図可能な数→一行定義: 定規とコンパスによる有限回の操作だけで、単位長さから作り出せる長さの数値→水準: 六**

 

なぜ代数の話になるのか。実は、定規とコンパスでできる操作(二点を結ぶ直線を引く・二点を結ぶ距離を半径にした円を描く・交点を求める)は、すべて座標(→BOOK-0025第四章、→BOOK-0068)の言葉で言い換えると、足し算・引き算・掛け算・割り算、そして平方根(2乗根)を取る計算に対応することが分かる。つまり、「定規とコンパスだけで作図できる長さ」とは、「1という長さから出発して、四則演算と平方根だけを何回組み合わせても作れる数」に限られる。逆に言えば、**平方根の組み合わせでは決して作れない数**が必要になる作図は、原理的に実行不可能だということになる。

 

### 7-3 角の三等分と立方体倍積の不可能性 — ヴァンツェル1837年

 

フランスの数学者ピエール・ヴァンツェルは、1837年にこの二つの問題が一般には作図不可能であることを証明した。角の三等分問題は、三等分の角度を表す数値が、三次方程式の解として現れる場合があり、その三次方程式の解が「平方根の組み合わせだけ」では表せない(三乗根が本質的に必要になる)ことを示すことで、不可能性が証明される。立方体倍積問題も同様に、体積を2倍にするために必要な一辺の長さが`2の三乗根`であり、これもまた平方根の組み合わせだけでは表現できない数であることから、不可能性が導かれる。

 

重要なのは、「三等分できる角も存在する」という点である(例えば90度は30度に三等分できる)。ヴァンツェルが証明したのは「**任意の**角を三等分する、定規とコンパスだけで常に使える一般的な方法は存在しない」ということであり、特定の角に限れば三等分できる場合もある。

 

### 7-4 円積問題の不可能性 — リンデマン1882年、πの超越性

 

円積問題(円と同じ面積の正方形を作図する)の不可能性は、さらに深い数の性質に依存する。円の面積は`半径の2乗×π`(→BOOK-0025第三章)であり、これと同じ面積の正方形の一辺は`半径×√π`になる。つまりこの作図が可能であるためには、πの平方根が「作図可能な数」でなければならない。

 

ドイツの数学者フェルディナント・フォン・リンデマンは、1882年に**πが超越数である**ことを証明した。**超越数**(ちょうえつすう、水準六: 整数を係数とするどんな方程式の解にもならない数)とは、平方根はおろか、どんな代数方程式の解としても表せない数のことである。作図可能な数はすべて代数方程式の解として表せる(有理数係数の方程式の解になる)ことが分かっているため、超越数であるπは絶対に作図可能な数にはなり得ない。したがって、円積問題は理論上完全に不可能であることが証明されたのである。

 

三つの宿題のうち、角の三等分と立方体倍積は「三次方程式の解の難しさ」で不可能性が示されたのに対し、円積問題は「πという数そのものの根本的な性質(超越性)」によって不可能性が示された、という違いがある。二千年間解けなかった問題の答えが「そもそも解けないことの証明」だったという顛末は、数学の歴史における最も印象的な逸話の一つである。

 

### 休憩所

 

定規とコンパスで作図できる数は、四則演算と平方根の組み合わせに限られる。角の三等分・立方体倍積の一般的な不可能性はヴァンツェル(1837年)が証明した(三乗根が必要になるため)。円積問題の不可能性はリンデマン(1882年)によるπの超越性の証明による。二千年の宿題の答えは「不可能であることの証明」だった。

 

---

 

## 第八章 非ユークリッド幾何 — 「まっすぐ」の常識が崩れる世界(水準六)

 

### 8-1 第五公準という長年の違和感

 

古代ギリシャの数学者ユークリッドは、その著書『原論』(→BOOK-0025出典・系譜参照)の中で、幾何学全体を五つの公準(証明なしに正しいと認める前提)から出発させた。最初の四つは「二点を結ぶ直線が引ける」など、誰もが直感的に納得できる単純な内容だったが、**第五公準**(通称: 平行線公準)だけは様子が違った。これは大意として「ある直線の外の一点を通り、その直線と決して交わらない直線(平行線)は、ちょうど一本だけ引ける」という内容であり、他の四つに比べて明らかに複雑で、証明できるのではないかという疑いを二千年にわたって数学者たちに抱かせ続けた。

 

### 8-2 平行線公準を疑った三人 — 概略の年代

 

19世紀前半、複数の数学者がほぼ同じ時期に、独立にこの疑問へ挑んだ。ドイツのカール・フリードリヒ・ガウスは早くからこの問題を検討していたと伝えられるが、論争を恐れて生前は結果を公表しなかった(未発表)。ハンガリーのヤーノシュ・ボヤイは1832年に、ロシアのニコライ・ロバチェフスキーは1829年から1830年ごろに、それぞれ独立に、「第五公準を否定しても矛盾のない、別の幾何学が成立する」ことを示す研究を発表した。この三者の発見の前後関係や独立性の程度については研究者の間でも諸説があり、本冊では「概ね1830年前後に、複数の数学者がほぼ同時期に、独立にこの発見へたどり着いた」という概略の時期として記憶しておけば十分である。

 

### 8-3 三角形の内角の和が変わる世界

 

第五公準を書き換えると、何が起こるのか。前巻(→BOOK-0025)第二章で「三角形の内角の和は常に180度になる」という法則を扱ったが、これは実は**平らな面(平面)を前提にしたときにだけ成り立つ**法則だったのである。

 

**球面幾何**(きゅうめんきか、水準六: 平面の代わりに球の表面を「面」とする幾何学)では、三角形の内角の和は**常に180度より大きくなる**。地球儀の上で、北極点から赤道まで経度を90度離して二本の線を引き、赤道上を結んで三角形を作ってみよう。北極点での角度は90度、赤道との交わりの二つの角度もそれぞれ90度——合計270度になる。平面なら決してあり得ない内角の和が、球面では当たり前に起こる。

 

**双曲幾何**(そうきょくきか、水準六: 球面とは逆に、馬の鞍のように反り返った面を「面」とする幾何学。ボヤイ・ロバチェフスキーが研究したのはこちらの幾何学である)では、逆に三角形の内角の和は**常に180度より小さくなる**。曲面が反り返っているぶん、三角形が「痩せて」見え、内角の和が縮む。

 

### 8-4 リーマンによる統合 — 1854年の講演

 

ドイツの数学者ベルンハルト・リーマンは、1854年の講演(教授資格取得のための講演で、生前には正式な論文として発表されなかったが、その内容は広く知られることとなった)において、球面幾何・平面幾何(ユークリッド幾何)・双曲幾何を、**曲率**(きょくりつ、水準六: 面がどれだけ曲がっているかを表す数値。正なら球面のように内向きに、負なら双曲面のように外向きに反る)というたった一つの数値で統一的に記述する枠組みを提示した。曲率が正なら球面幾何(内角の和>180度)、0なら平面のユークリッド幾何(内角の和=180度)、負なら双曲幾何(内角の和<180度)という具合に、三つの幾何学は「同じ枠組みの中で曲率という一つのつまみを回した結果」として統一的に理解できる。このリーマンの枠組みは、後に物理学(一般相対性理論における重力と時空の曲がりの記述)で決定的な役割を果たすことになるが、その詳細は本冊の範囲を超える。

 

### 休憩所

 

第五公準(平行線はちょうど一本)を疑う研究が、ガウス(未発表)・ボヤイ(1832年)・ロバチェフスキー(1829〜30年ごろ、概ねこの時期に複数の数学者が独立に到達)によって進められた。球面幾何では三角形の内角の和は180度より大きく、双曲幾何では180度より小さい。リーマン(1854年講演)は曲率という一つの数値でこれらを統一した。

 

---

 

## 第九章 多面体 — 立体の対称性とオイラーの多面体定理(水準五)

 

### 9-1 正多面体は5種類しかない — プラトン立体

 

すべての面が合同な正多角形でできており、すべての頂点に同じ数の面が集まる立体を**正多面体**(せいためんたい、水準五: すべての面が合同な正多角形で、すべての頂点に同じ数の面が集まる凸多面体)と呼び、古代ギリシャの哲学者プラトンにちなんで**プラトン立体**とも呼ばれる。正多面体は、正四面体・正六面体(立方体)・正八面体・正十二面体・正二十面体の**ちょうど5種類しか存在しない**。

 

なぜ5種類しかないのか。頂点に集まる面の内角の合計は、必ず360度未満でなければならない(360度ちょうど、あるいはそれ以上になると、面が平らに寝てしまい、立体として盛り上がらなくなる)。正三角形(内角60度)は3枚・4枚・5枚(それぞれ180度・240度・300度)で頂点を作れるが、6枚では360度になり不可能になる。正方形(内角90度)は3枚(270度)までは可能だが、4枚では360度になり不可能。正五角形(内角108度、第六章検算1)は3枚(324度)までは可能だが、4枚では432度になり不可能。正六角形(内角120度)はすでに3枚で360度になってしまい、頂点にできる組み合わせが一つも残らない。

 

```

正三角形(60°)×3枚=180° 可 / ×4枚=240° 可 / ×5枚=300° 可 / ×6枚=360° 不可

正方形 (90°)×3枚=270° 可 / ×4枚=360° 不可

正五角形(108°)×3枚=324° 可 / ×4枚=432° 不可

正六角形(120°)×3枚=360° 不可(この時点で候補が尽きる)

```

 

正三角形の3通り(正四面体・正八面体・正二十面体)、正方形の1通り(正六面体=立方体)、正五角形の1通り(正十二面体)、合計5通りの組み合わせだけが立体として成立し、これが正多面体が5種類しかない理由である(検算済み、上表参照)。

 

### 9-2 オイラーの多面体定理

 

**用語: オイラーの多面体定理→一行定義: 凸多面体において頂点の数V、辺の数E、面の数Fの間に必ずV−E+F=2という関係が成り立つという法則→水準: 五**

 

この法則は、平面グラフを扱う→BOOK-0128(離散数学第2巻)第八章でも、平面グラフのV−E+F=2として登場している。多面体の表面は、一つの面を破って平面上に押し広げれば平面グラフとみなせるため、同じ公式が両方の文脈に現れるのは偶然ではない——グラフ理論から見た切り口(頂点と辺の繋がり方)と、幾何学から見た切り口(正多面体の分類)という、異なる二つの道からたどり着いた同じ定理である。

 

**検算2(立方体)**: 立方体は頂点8個(V=8)、辺12本(E=12)、面6枚(F=6)を持つ。

 

```

V−E+F = 8−12+6 = 2

```

 

確かに2になる(検算済み)。

 

**検算3(正二十面体)**: 正二十面体は頂点12個(V=12)、辺30本(E=30)、面20枚(F=20)を持つ。

 

```

V−E+F = 12−30+20 = 2

```

 

こちらも確かに2になる(検算済み)。5種類のプラトン立体は面の数も頂点の数もまったく異なるにもかかわらず、V−E+Fという組み合わせは常に2で一致する——これは、多面体の「表面積」や「体積」のような測る量ではなく、「繋がり方の構造」だけから決まる不変量であることを示している。第五章で見た「変換で変わらない性質」という視点に立てば、オイラーの多面体定理は、多面体を(穴を開けたり潰したりしない範囲で)どれだけ変形しても壊れない、位相的な不変量の一例である(位相的な変形一般については→BOOK-0089で扱われている)。

 

### 休憩所

 

正多面体はプラトン立体と呼ばれ、頂点に集まる面の内角の合計が360度未満という制約から、正四面体・立方体・正八面体・正十二面体・正二十面体の5種類しか存在しない。オイラーの多面体定理V−E+F=2は、立方体(8−12+6=2)・正二十面体(12−30+20=2)のどちらでも成立する(検算済み)。この式は→BOOK-0128の平面グラフの文脈でも同じ形で登場する。

 

---

 

## 第十章 タイリング — 平面を隙間なく敷き詰める(水準五)

 

### 10-1 正則タイリングは3種類しかない

 

一種類の正多角形だけを使って、隙間も重なりもなく平面全体を敷き詰めることを**正則タイリング**(せいそくタイリング、水準五: 一種類の正多角形だけを使って隙間なく平面を敷き詰める並べ方)と呼ぶ。この条件を満たす正多角形は、**正三角形・正方形・正六角形のちょうど3種類しかない**。

 

理由は第九章の多面体と似ているが、条件が逆になる。平面を敷き詰めるには、一つの頂点に集まる正多角形の内角の合計が、多面体のときとは違って**ちょうど360度になる**必要がある(平らに収まりきる必要があるため)。正三角形(60度)は6枚でちょうど360度、正方形(90度)は4枚でちょうど360度、正六角形(120度)は3枚でちょうど360度になる。

 

```

正三角形: 60°×6枚=360° ちょうど収まる(可能)

正方形 : 90°×4枚=360° ちょうど収まる(可能)

正六角形: 120°×3枚=360° ちょうど収まる(可能)

```

 

### 10-2 なぜ正五角形は敷き詰められないのか

 

第六章検算1で確認した通り、正五角形の内角は108度である。360を108で割ると、

 

```

360 ÷ 108 = 3.333...(検算済み、割り切れない)

```

 

割り切れない。3枚集めると324度で36度の隙間が残り、4枚集めると432度で72度分はみ出してしまう——どちらの場合も、隙間なくぴったり収まる整数枚の組み合わせが存在しない。正五角形の内角108度が360の約数になっていないという、この一点だけの理由で、正五角形だけを使った正則タイリングは成立しない。正七角形以上についても同様に、内角が360の約数にならないため、一種類だけでの正則タイリングは正三角形・正方形・正六角形の3種類に限られる。

 

### 10-3 ペンローズタイル — 周期を持たないタイリング

 

一種類の正多角形という制約を外し、複数種類の図形の組み合わせを許すと、話は一気に豊かになる。イギリスの数理物理学者ロジャー・ペンローズは、1974年ごろに、二種類の菱形(ひしがた)を組み合わせることで、平面全体を隙間なく敷き詰められるが、**どれだけ広げても同じ模様が周期的に繰り返さない**という不思議なタイリングを発見した。これを**ペンローズタイル**と呼ぶ。

 

通常のタイリング(正方形のタイル張りなど)は、ある一定の距離だけずらすと元の模様とぴったり重なる「周期性」を持つ。ところがペンローズタイルは、全体としては秩序だった規則性(自己相似的な入れ子構造)を持ちながらも、どの方向にずらしても元の模様とは決して重ならないという、周期性と無秩序の中間のような性質を持つ。この性質は後年、準結晶(じゅんけっしょう、通常の結晶のような周期構造を持たないが、秩序だった原子配列を示す物質)の発見と理論的に結びつき、物理学の分野にも影響を与えたことが知られている。

 

### 休憩所

 

一種類の正多角形での正則タイリングは正三角形・正方形・正六角形の3種類のみ(頂点で内角の合計がちょうど360度になる組み合わせ)。正五角形は内角108度が360を割り切らない(360÷108=3.333…、検算済み)ため敷き詰められない。ペンローズタイル(1974年ごろ)は複数種類の図形で周期性のないタイリングを実現する。

 

---

 

## 第十一章 フラクタル — 拡大しても同じ形が現れる図形(水準六)

 

### 11-1 コッホ曲線 — 際限なく複雑になる境界線

 

スウェーデンの数学者ヘルゲ・フォン・コッホは、1904年に奇妙な曲線を発表した。**コッホ曲線**(水準六: 一本の線分を3等分し、真ん中の部分を正三角形の二辺に置き換える操作を、無限に繰り返してできる曲線)は、次のように作られる。まず一本の線分を用意し、それを3等分する。真ん中の3分の1を取り除き、代わりにその部分を底辺とする正三角形の、上に飛び出た二辺と置き換える。すると線分は4つの小さな線分からなるギザギザの形になる。この4つの線分それぞれに対して、同じ操作(3等分して真ん中を三角形の二辺に置き換える)を繰り返す。これを無限に続けた極限がコッホ曲線である。

 

この操作を繰り返すたびに、線分の本数は4倍になり、それぞれの長さは元の3分の1になる。全体の長さは`4/3`倍ずつ増え続け、無限回繰り返した極限では、**曲線の長さは無限大になる**にもかかわらず、この曲線は有限な範囲(最初の線分を含む有限な三角形の中)に収まり続ける。

 

### 11-2 「フラクタル」という名前とMandelbrotの命名(1975年)

 

このコッホ曲線のように、図形の一部を拡大すると、全体とそっくりの形が繰り返し現れる性質を**自己相似性**(じこそうじせい、水準六: 図形の一部を拡大すると、全体と同じ(あるいはよく似た)形が現れる性質)と呼ぶ。フランスの数学者ブノワ・マンデルブロは、1975年に、こうした自己相似性を持つ図形全般を指す言葉として**フラクタル**(fractal、ラテン語の「破片・断片」を意味する言葉に由来する)という名称を提唱した。それ以前から個々の図形(コッホ曲線、カントール集合など)は知られていたが、それらを統一的に捉える名前と理論の枠組みを与えたのがマンデルブロの功績である。

 

### 11-3 自己相似次元 — 「1.26次元」という奇妙な数

 

フラクタルの重要な特徴の一つに、**次元が整数にならない**という性質がある。前巻(→BOOK-0025)第一章で、点は0次元、線は1次元、面は2次元という「広がりの段」を扱ったが、コッホ曲線はこの整数の階段のどこにも収まらない。

 

**自己相似次元**(じこそうじじげん、水準六: 図形を1/nに縮小したとき、元の図形を再現するのに必要な縮小コピーの個数がm個であるとき、`log m / log n`で定義される次元)という考え方を使うと、コッホ曲線の次元を計算できる。コッホ曲線は、線分を1/3(n=3)に縮小したコピーが4個(m=4)集まって元の形を作る。したがって、

 

```

コッホ曲線の自己相似次元 = log 4 / log 3

```

 

**検算4**: `log 4 / log 3 ≈ 1.2619`(検算済み、自然対数・常用対数のどちらで計算しても同じ比の値になる)。

 

この「約1.26次元」という値は、線(1次元)より複雑に込み入っているが、面(2次元)を埋め尽くすほどではない、という直感を数値化したものだと理解できる。ギザギザの度合いが激しいフラクタルほど、この次元の値は2に近づいていく。

 

### 11-4 海岸線のパラドックス

 

マンデルブロが1967年の論文で提起したことで知られる**海岸線のパラドックス**(かいがんせんのパラドックス)という逸話がある。「イギリスの海岸線の長さはどれくらいか」という一見単純な問いに対して、測る物差しの単位を細かくすればするほど、測定される海岸線の長さは際限なく伸び続けてしまう、という現象である。大きな地図で測れば大きな湾や岬の出入りだけを捉えるが、物差しを1メートル単位、1センチメートル単位と細かくしていくと、それまで無視されていた小さな入り江や岩の凹凸まで拾い上げてしまい、測定値がどんどん大きくなっていく。この現象は、海岸線が(理想化すれば)フラクタル的な性質——コッホ曲線と同様に、拡大するほど新しい凹凸が際限なく現れ、測定単位を細かくするほど全長が発散する性質——を持つことの表れとして説明される。

 

### 休憩所

 

コッホ曲線(von Koch、1904年)は線分を3等分し中央を三角形の二辺に置き換える操作の無限反復で作られる。「フラクタル」の命名はマンデルブロ(1975年)。コッホ曲線の自己相似次元はlog4/log3≈1.262(検算済み)で、整数の次元(1次元の線、2次元の面)の間に収まる。海岸線のパラドックスは、物差しを細かくするほど測定長が発散する現象で、フラクタル的性質の表れとされる。

 

---

 

## 第十二章 円周率の幾何 — アルキメデスの挟み撃ち(水準五)

 

### 12-1 円に内接・外接する正多角形で挟み撃つ

 

前巻(→BOOK-0025)第三章で、円周は直径のおよそ3.14倍(円周率π)であると学んだが、この「およそ3.14倍」という近似値は、どうやって求められたのだろうか。古代ギリシャの数学者アルキメデスは、紀元前3世紀ごろ、円に内接する正多角形(円の内側にぴったり収まる正多角形)と、円に外接する正多角形(円の外側からぴったり接する正多角形)の周の長さを使って、πの値を上下から挟み撃つという方法を編み出した。

 

円に内接する正多角形の周の長さは、必ず円周より短い(多角形は円の内側に収まっているため)。逆に円に外接する正多角形の周の長さは、必ず円周より長い(多角形が円を外側から包んでいるため)。したがって、内接多角形の周の長さ<円周<外接多角形の周の長さ、という不等式が常に成り立つ。

 

### 12-2 正96角形法とアルキメデスの結果

 

アルキメデスは、正六角形から出発して、辺の数を2倍ずつ増やしていく(6→12→24→48→**96**角形)という手続きを繰り返し、正96角形を使って計算を行った。多角形の辺の数を増やすほど、多角形の形は円に近づいていくため、上下の挟み撃ちの幅はどんどん狭くなる。

 

正96角形を用いた計算の結果、アルキメデスは次の不等式を導き出したことで知られている。

 

```

3 + 10/71 < π < 3 + 1/7

```

 

**検算5**: これを小数で表示すると、

 

```

下界: 3 + 10/71 = 3.140845...(検算済み)

上界: 3 + 1/7 = 3.142857...(検算済み)

実際のπ = 3.141592...

```

 

確かに`3.140845... < 3.141592... < 3.142857...`という関係が成り立っており(検算済み)、アルキメデスの挟み撃ちは正しく真の値を挟んでいる。定規や物差しでは到底測れない精度で、辺の数を増やす一手だけでπの値を追い詰めていくこの手法は、後の微分積分における「極限」という考え方(曲線を無限に細かい直線の集まりで近似する発想)の遠い先祖にあたるとしばしば評される。

 

### 休憩所

 

アルキメデス(紀元前3世紀ごろ)は円に内接・外接する正96角形の周の長さでπを上下から挟み撃ち、`3+10/71<π<3+1/7`(小数でおよそ3.1408<π<3.1429、検算済み)という不等式を導いた。多角形の辺を増やすほど円に近づくという発想は、後の微分積分の「極限」の先駆けとされる。

 

---

 

## ノウハウ — 対称性を体感する三つの実践解

 

ここまでの章で扱った変換・対称性・タイリングは、頭の中だけでなく手を動かすことでずっと実感が湧く。以下の三つの実践解は、いずれも安全で、材料も身近なもので済む(危険な工程は一切ない)。

 

**実践解① 紙を折って鏡映を作る**

- 材料: 紙一枚、ペン

- 工程: 紙を一度だけ折り、折り目の片側に好きな図形やインクの染みを描く(あるいは湿った絵の具を置く)。乾く前に紙を折り重ねて開くと、折り目を対称軸とした鏡映像が反対側に写る。

- なぜ効くか: 折り目そのものが第五章で扱った「鏡映の対称軸」の物理的な実体になる。折る前と後で、折り目からの距離が保たれたまま反転していることを指で辿って確認できる。

- 限界: 平行移動や回転は、紙を折るだけでは再現できない(別の実践解が必要)。

 

**実践解② 方眼紙で平行移動・回転の写し取り**

- 材料: 方眼紙、透明なトレーシングペーパー(またはクリアファイル)、ペン

- 工程: 方眼紙に適当な図形を描く。トレーシングペーパーを重ねて図形を写し取り、方眼のマス目を数えながら一定方向へ一定マス数だけずらして再度写す(平行移動)。次に、図形の一点を画鋲やピンで留めて、トレーシングペーパーだけを90度・180度回してから写す(回転)。

- なぜ効くか: 方眼のマス目が「移動した距離」を目で数えられる単位として機能し、平行移動と回転という二つの合同変換が、実際に「何も歪めずに位置だけを変える」操作であることを直接確認できる。

- 限界: 手作業では回転の角度が正確に90度・180度になりにくい。分度器を併用するとより正確になる。

 

**実践解③ 正三角形・正方形・正六角形での床敷き詰め実験**

- 材料: 同じ大きさの正三角形・正方形・正六角形の厚紙(または折り紙)を複数枚ずつ、机の上の平らな空間

- 工程: それぞれの図形を使って、机の上に隙間なく敷き詰められるかを実際に試す。正三角形は6枚を1点に集めるときれいに一周する(60度×6=360度)。正方形は4枚(90度×4=360度)。正六角形は3枚(120度×3=360度)で同様にきれいに一周する。次に正五角形の厚紙でも同じことを試し、必ず隙間や重なりが生じることを確認する。

- なぜ効くか: 第十章で計算した「内角の合計がちょうど360度になるか」という抽象的な条件を、実際に手で並べることで视覚的・体感的に確認できる。正五角形で必ず失敗する(隙間が残る)体験は、なぜ五角形のタイル張りの床が存在しないのかという疑問に対する、何よりも説得力のある答えになる。

- 限界: 厚紙の厚みや切り出しの誤差により、正確な図形でないと敷き詰めの成否が分かりにくくなる場合がある。可能であれば市販の「タングラム」や「ポリドロン」のような正確な教材を使うとよい。

 

---

 

## 終章 — 未到達部類

 

本冊は、変換という新しい視点(第五章)から出発し、対称性(第六章)、作図の限界(第七章)、非ユークリッド幾何(第八章)、多面体(第九章)、タイリング(第十章)、フラクタル(第十一章)、そして円周率の幾何(第十二章)までを巡ってきた。しかし、幾何学という恒星が持つ光のすべてを、この二冊で汲み尽くせたわけではない。以下に、本冊がまだ足を踏み入れていない領域を、確実性の水準を区別しながら記しておく。

 

**確立している(本冊が扱わなかっただけの)領域**:

- 微分幾何学(曲線・曲面の曲率を微分積分の言葉で精密に扱う分野。第八章で触れた「曲率」の厳密な定義はここに属する)

- 射影幾何学(遠近法の数学的な基礎。→BOOK-0054で扱われた消失点の幾何学的な理論化。→BOOK-0131第七章でも射影の入口に触れられている)

- 結び目理論(紐の結び方をトポロジーの言葉で分類する分野。→BOOK-0089の位相幾何学の応用領域)

- 双曲幾何のモデル(第八章で概念だけ扱った双曲幾何を、実際に紙の上に描く方法として、ポアンカレ円板モデルなどが確立している)

 

**研究途上・未確定な領域**:

- ペンローズタイル(第十章)と準結晶の理論的な対応関係の全容は、物理学と数学の境界でなお研究が続いている分野である。

- 高次元(4次元以上)の正多面体の分類やフラクタルの応用(自然現象の精密なモデル化など)は、専門家の間でも見解や手法が分かれる、発展途上の話題を含む。

 

これらの続きは、いずれ別冊(あるいは→BOOK-0089位相幾何学の後続巻)で扱われる日を待っている。幾何学という最も古い学問は、二千年以上前の「張った紐」から始まり、変換・対称性・非ユークリッドという道具を手に入れてなお、今日もその先端では新しい問いが生まれ続けている。

 

---

 

## 章末図 — 変換の階段(ASCII)

 

```

合同変換(長さ・角度を保つ)─┐

├─ 相似変換(角度・比だけ保つ)

拡大縮小を許すと ─────────────┘

│

第五公準を書き換えると │

▼

ユークリッド幾何(曲率0・平面) 非ユークリッド幾何(曲率≠0)

三角形の内角の和=180° 球面(内角和>180°)/双曲面(内角和<180°)

 

正多面体は5種(頂点の内角合計<360°) ←→ 正則タイリングは3種(頂点の内角合計=360°ちょうど)

V-E+F=2(オイラーの多面体定理)は立方体・正二十面体どちらでも検算済み

 

フラクタル(コッホ曲線)の次元 log4/log3 ≈ 1.262 は 1次元の線と2次元の面の間に位置する

```

 

## 出典・系譜(§16.5準拠・パブリックドメイン/確立した史実)

 

- ユークリッド『原論』(紀元前3世紀ごろ・パブリックドメイン) — 第五公準(平行線公準)を含む公準体系の古典的源泉。

- フェリックス・クライン「エルランゲン目録」(1872年) — 「幾何学とは変換で変わらない性質の研究である」という統一的視点の提唱。

- エヴグラフ・フェドロフによる壁紙群の分類(1891年) — 平面の周期的対称性が17種類に分類されることを示した業績として確立している。

- ピエール・ヴァンツェルによる角の三等分・立方体倍積の作図不可能性の証明(1837年) — 代数的な作図可能性の理論として確立している。

- フェルディナント・フォン・リンデマンによるπの超越性の証明(1882年) — 円積問題の不可能性を導いた、確立した数学的結果。

- カール・フリードリヒ・ガウス(未発表)、ヤーノシュ・ボヤイ(1832年発表)、ニコライ・ロバチェフスキー(1829〜30年ごろ発表)による非ユークリッド幾何の先駆的研究 — 三者の独立性・先後関係については研究者間で見解の幅があり、本冊では「概ね1830年前後、独立に到達」という概略で扱った。

- ベルンハルト・リーマンによる1854年の講演(教授資格審査講演) — 曲率による幾何学の統一的な記述の提示。生前は正式論文としては発表されなかったが、内容は広く知られている。

- レオンハルト・オイラーによる多面体定理(V−E+F=2) — 凸多面体に関する古典的かつ確立した定理。

- ヘルゲ・フォン・コッホによるコッホ曲線の発表(1904年) — フラクタル図形の古典的な先駆例として確立している。

- ブノワ・マンデルブロによる「フラクタル」の命名(1975年)と海岸線のパラドックスの提起(1967年の論文が起点として知られる) — 自己相似性を統一的に扱う理論・用語の提唱者として広く知られる。

- ロジャー・ペンローズによるペンローズタイルの発見(1974年ごろ) — 非周期タイリングの代表例として確立している。

- アルキメデスによる正96角形を用いた円周率の挟み撃ち(紀元前3世紀ごろ) — `3+10/71<π<3+1/7`という評価は史実として広く確立している。

本文は外部サイトの文章を転載せず、確立した幾何学の知識から自分の言葉で構成した。年代・人物の先後関係に諸説がある箇所は、本文中に「概略」「諸説」の語を添えて明記した。

 

## 検算一覧(本冊内で自己検算した数値、すべて確認済み)

 

1. 正五角形の内角 = (5−2)×180÷5 = 540÷5 = 108度

2. オイラーの多面体定理(立方体): V−E+F = 8−12+6 = 2

3. オイラーの多面体定理(正二十面体): V−E+F = 12−30+20 = 2

4. コッホ曲線の自己相似次元: log4/log3 ≈ 1.2619

5. アルキメデスの挟み撃ちの小数表示: 下界3+10/71≈3.140845、上界3+1/7≈3.142857(実際のπ≈3.141593はこの間に収まる)

6. 正多面体が5種である理由の検算: 正三角形は3・4・5枚で360度未満(可)、6枚で360度(不可)/正方形は3枚で360度未満(可)、4枚で360度(不可)/正五角形は3枚で360度未満(可)、4枚で432度(不可)/正六角形は3枚で早くも360度(不可、候補なし)

7. 正則タイリングが3種である理由の検算: 正三角形60°×6枚=360°(ちょうど収まる)/正方形90°×4枚=360°(ちょうど収まる)/正六角形120°×3枚=360°(ちょうど収まる)

8. 正五角形が敷き詰められない理由の検算: 360÷108=3.333…(割り切れない、整数枚で隙間なく収まらない)

 

## 用語集(水準つき)

 

合同変換(五)/相似変換(五)/エルランゲン目録(五)/対称性・幾何学的(五)/二面体群Dₙ(五)/壁紙群(六)/作図可能な数(六)/超越数(六)/第五公準・平行線公準(五)/球面幾何(六)/双曲幾何(六)/曲率(六)/正多面体・プラトン立体(五)/オイラーの多面体定理(五)/正則タイリング(五)/自己相似性(六)/自己相似次元(六)/フラクタル(六)。

 

> 相互リンク: →BOOK-0025(幾何学第1冊・本冊の前提) →BOOK-0068(解析幾何第1巻) →BOOK-0131(解析幾何第2巻・行列変換との役割分担) →BOOK-0089(位相第1巻・連続変形との対比) →BOOK-0128(離散数学第2巻・オイラーの定理の別角度) →BOOK-0130(代数第2巻・二面体群と対称群の接続) →BOOK-0090(複素解析第1巻) →BOOK-0054(遠近法パース・射影の接続)

 




# BOOK-0137 幾何学 — かたちを変えても残るもの(数学派生 第2巻)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定