※小説ではない※専門書 要約資料集 為替(換算)3.9万円でもらう 紐解集生成 専門 初入門 資料 作:{作者名}
> 学問の宇宙・生命の惑星群 第1章(続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続)。
> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。
> 重要注記: 本冊は学問の読み物であり、**個別の医療・政策の是非を判定する手引きではない**。実際の判断は、公的機関と専門家が最新の情報に基づいて行うものである。
> 数値注記: 本冊の費用・効果・閾値などの数値は**考え方を示すための代表値**である。実際の値は国・制度・時期・対象によって大きく変わる。
> 第10冊が設計、第11冊が偏り、第12冊が数の扱い、第13冊が判断、第14冊が先読みを扱った。**本冊は「決める」を扱う。** 測る道具は揃った。次に来るのは、測った数で何を買うかである。
> **語の衝突についての断り**: 「効用」「価値」「便益」は分野をまたいで意味が割れる語である。本冊では**経済評価の中での用法だけ**を扱い、倫理学・哲学での用法には立ち入らない。
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----------------------------------------ΩΩΩ あっ流れ星!
# BOOK-0011o 衛生学 — その数字で、何を買うのか 第15冊
> 学問の宇宙・生命の惑星群 第1章(続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続の続)。
> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。
> 重要注記: 本冊は学問の読み物であり、**個別の医療・政策の是非を判定する手引きではない**。実際の判断は、公的機関と専門家が最新の情報に基づいて行うものである。
> 数値注記: 本冊の費用・効果・閾値などの数値は**考え方を示すための代表値**である。実際の値は国・制度・時期・対象によって大きく変わる。
> 第10冊が設計、第11冊が偏り、第12冊が数の扱い、第13冊が判断、第14冊が先読みを扱った。**本冊は「決める」を扱う。** 測る道具は揃った。次に来るのは、測った数で何を買うかである。
> **語の衝突についての断り**: 「効用」「価値」「便益」は分野をまたいで意味が割れる語である。本冊では**経済評価の中での用法だけ**を扱い、倫理学・哲学での用法には立ち入らない。
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## 入口の物語 — どちらも効く。予算は一つしかない
保健所の机に、二つの計画書が載っている。
一つは**高齢者の肺炎予防**。もう一つは**若年層の禁煙支援**。どちらも効果の証拠がある。第10冊の設計で組まれ、第11冊の偏りを潰し、第12冊の統計で有意差が出て、第13冊の検査で対象を絞り、第14冊の数理モデルで将来が描かれている。**十四冊ぶんの道具が、両方の計画書に使われている。**
そして予算は、片方ぶんしかない。
ここで十四冊ぶんの道具は、**一つも答えを出さない。** 「効くか」は測れた。「どちらを買うか」は測れていない。
> **効果の大きさと、買うべきかどうかは、別の問いである。**
> 効く対策は無数にある。**買えるのはそのうちの一部である。**
本冊が扱うのはこの隙間である。そして先に言っておくと、**この隙間を完全に埋める数字は存在しない。** 本冊が渡すのは、**決める人が何を見落としているかを点検するための道具**であって、決定そのものを機械に肩代わりさせる道具ではない。
> **一. なぜ「効く」では決まらないのか。** ——**機会費用**。
> **二. 効果を何で割るのか。** ——**三つの分析の型**。
> **三. 健康を一つの数にできるのか。** ——**QALYとDALY**。
> **四. 比べ方を間違えるとどうなるか。** ——**増分費用効果比**。
> **五. いくらまでなら払うのか。** ——**閾値**。
> **六. 将来の健康は、いまの健康と同じ重さか。** ——**割引率**。
> **七. 誰の財布を数えるのか。** ——**視点と感度分析**。
> **八. この物差しは何を測っていないのか。** ——**公平性**。
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## 第一章: 予算は有限である
### 「効く対策を全部やる」が成り立たない理由
第6冊が**ALARA**(第6冊で定義済み)を扱ったとき、そこには「費用や技術的な実現可能性を考慮しながら」という一句が入っていた。**あの一句が本冊の主題である。**
ある対策を選ぶことは、**同じ金で買えたはずの別の対策を選ばなかったということ**でもある。これを**機会費用(きかいひよう、opportunity cost、水準四: ある選択をしたために、あきらめることになった選択肢のうち、もっとも価値の大きかったものの価値)**という。
**機会費用は帳簿に現れない。** 支出の欄には「肺炎予防に1億円」としか書かれず、「そのせいで禁煙支援を見送った」とは書かれない。**見えない費用なので、数えようとしなければ数え落とす。**
> **医療・公衆衛生における機会費用は、金ではなく健康で表れる。**
> 1億円を肺炎予防に使うと、**禁煙支援で救えたはずの健康が失われる。**
> この失われた健康は、どこにも記録されない。
### 検算1 — 「両方やる」がなぜ不可能か
**検算**——年間予算が1億円の保健所に、次の二つの計画が出ている。
```
計画A(肺炎予防) 費用 8,000万円 / 救える生存年 40年
計画B(禁煙支援) 費用 6,000万円 / 救える生存年 50年
両方やると: 8,000 + 6,000 = 14,000万円 > 10,000万円 … **予算超過**
```
**どちらか一方しか買えない。** そして「効果が大きいほうを選ぶ」と決めると計画Bになるが、**それは正しいだろうか。**
```
計画A 8,000万円 ÷ 40年 = **200万円/年**
計画B 6,000万円 ÷ 50年 = **120万円/年**
```
**1年を買うのにかかる金は、計画Bのほうが安い。** この場合は効果の大きさで選んでも、1年あたりの費用で選んでも、同じ答えになる。**だが、いつもそうなるとは限らない。** そこが第四章の主題である。
### 費用と効果を並べるという発想
**費用効果分析(ひようこうかぶんせき、cost-effectiveness analysis、CEA、水準四: 対策にかかる費用と、その対策が生む健康上の効果を並べ、効果一単位あたりの費用を求めて複数の選択肢を比べる分析)**が、本冊の中心になる道具である。
**この分析は「安いほうを選べ」とは言っていない。** 言っているのは次の一つだけである。
> **同じ金でより多くの健康が買えるなら、そちらを買うほうが、失われる健康が少ない。**
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## 第二章: 四つの物差し — 何を分母に置くか
### まず、この一群の呼び名を立てる
費用効果分析は単独の手法ではなく、**一群の手法の一つ**である。この一群をまとめて**経済評価(けいざいひょうか、economic evaluation、水準四: 二つ以上の選択肢について、かかる費用と生じる結果の両方を並べて比べる分析の総称)**という。
**「費用と結果の両方を、二つ以上の選択肢について」が定義の全部である。** 費用だけを見るもの(単なる原価計算)や、結果だけを見るもの(効果の検証)は経済評価に入らない。**片方しか見ていない分析を経済評価と呼ぶと、比べているつもりで比べていないことになる。**
### 分母の取り方で、名前が変わる
経済評価には四つの型がある。**違いは分母(効果の測り方)だけである。**
- **費用最小化分析(ひようさいしょうかぶんせき、cost-minimization analysis、CMA、水準四: 比べる選択肢の効果が等しいと確かめられている場合に、費用だけを比べる分析)**——効果を測らない
- **費用効果分析(CEA)**——効果を**自然単位**で測る。救命年、発見した症例数、防いだ入院数など
- **費用便益分析(ひようべんえきぶんせき、cost-benefit analysis、CBA、水準四: 対策の費用も効果も、いずれも金額に換算して差や比を求める分析)**——効果も円に直す
- **費用効用分析(ひようこうようぶんせき、cost-utility analysis、CUA、水準五: 効果を「質を加味した生存年」という共通の単位に換算して費用と並べる分析。費用効果分析の一種として扱われることが多い)**——効果を効用の単位に直す
```
CMA 費用(円) のみ **効果が等しいと示せた場合に限る**
CEA 費用(円) ÷ 効果(救命年・発見症例数 …) 分母は分野ごとにばらばら
CBA 便益(円) − 費用(円) 分母も分子も円。**引き算ができる**
CUA 費用(円) ÷ 効果(QALY) 分母が分野をまたいで共通になる
```
**費用最小化分析には落とし穴がある。** 「効果に有意差が出なかった」ことと「効果が等しい」ことは違う——第12冊が扱った区別がそのまま効く。**差が出なかっただけで費用最小化分析に切り替えると、実際には効果が違うものを費用だけで比べてしまう。**
### なぜ三つもあるのか
**CEAの弱点は、分母が分野ごとに違うこと。** 「一症例発見あたり50万円」の検診と「一入院回避あたり80万円」の予防接種は、**そのままでは比べられない。**
**CBAの弱点は、健康を円に直さなければならないこと。** 「一年の命はいくらか」を明示的に決める必要があり、**そこで議論が止まりやすい。**
**CUAは、その中間を狙った形である。** 健康を円には直さないが、分野をまたいで共通の単位には直す。**だから保健政策の評価では、CUAが使われることが多い。**
> **四つは優劣ではなく、何を共通単位にするかの違いである。**
> 円にそろえるのがCBA、健康の単位にそろえるのがCUA、そろえないのがCEA、測らないのがCMA。
> **そろえないぶん、CEAは同じ分野の中でしか比べられない。**
### 「費用に見合う」と「予算に収まる」は別の問い
経済評価と取り違えられやすい分析がもう一つある。**予算影響分析(よさんえいきょうぶんせき、budget impact analysis、BIA、水準五: ある対策を導入したときに、決まった期間の予算総額がいくら増減するかを見積もる分析)**である。
```
費用効果分析 … 一単位の健康を買うのに**いくらかかるか**(効率の問い)
予算影響分析 … 全部で**いくら要るか**(財源の問い)
```
**検算2**——ICERが100万円/QALY(閾値500万円/QALY)の対策がある。対象者が5万人で、一人あたり20万円かかるとする。
```
費用効果の判定: 100万円/QALY < 500万円/QALY → **費用に見合う**
予算影響 : 5万人 × 20万円 = **100億円**
```
**費用に見合うが、100億円は用意できないかもしれない。** 二つは別の問いであり、**片方が通っても、もう片方が通るとは限らない。**
> **費用効果分析は「買う価値があるか」に答え、予算影響分析は「買えるか」に答える。**
> **どちらか一方だけで導入を決めると、必ずどちらかの側で詰まる。**
---
## 第三章: 健康を一つの数にする — QALYとDALY
### 生きている年に、質の重みをかける
人は「生きているか死んでいるか」の二つに分かれるわけではない。**寝たきりの一年と、健康な一年を、同じ一年と数えてよいのか。**
そこで置かれるのが**効用値(こうようち、utility weight、水準五: ある健康状態で過ごす一年を、完全に健康な一年を1、死亡を0としたときにどれだけの価値とみなすかを表す数値)**である。
この重みをかけた年数が**質調整生存年(しつちょうせいせいぞんねん、quality-adjusted life year、QALY、水準五: 生存年数に、その間の健康状態の効用値を掛け合わせて求める、健康の量を表す指標)**である。
```
QALY = Σ(その状態で過ごした年数 × その状態の効用値)
```
**検算3**——ある治療について。
```
治療しない場合: 効用値0.5の状態で 4年生存
4 × 0.5 = **2.0 QALY**
治療した場合 : 効用値0.8の状態で 5年生存
5 × 0.8 = **4.0 QALY**
増分 : 4.0 − 2.0 = **2.0 QALY**
```
**年数は1年しか伸びていないのに、QALYは2.0増えている。** 質が上がったぶんが入っているからである。**逆に言えば、QALYは「延命」と「質の改善」を同じ数に混ぜてしまう。**
### 損失の側から数える — DALY
QALYは**得られた健康**を数える。逆に**失われた健康**を数える指標が**障害調整生存年(しょうがいちょうせいせいぞんねん、disability-adjusted life year、DALY、水準五: 早世によって失われた生存年数と、障害を抱えて過ごした年数の重み付き合計として、疾病による健康の損失を表す指標)**である。
```
DALY = YLL + YLD
YLL(そんしつせいぞんねんすう、years of life lost)
= 標準的な期待余命 − 実際の死亡年齢 … **早世による損失**
YLD(しょうがいせいぞんねんすう、years lived with disability)
= 障害を抱えて過ごした年数 × 障害の重み … **障害による損失**
```
**検算4**——期待余命80歳の集団で、60歳で死亡した一人。加えて、重み0.3の障害を10年間抱えていたとする。
```
YLL = 80 − 60 = 20年
YLD = 10年 × 0.3 = 3年
DALY = 20 + 3 = **23年**
```
> **QALYとDALYは向きが逆である。**
> **QALYは大きいほど良く、DALYは小さいほど良い。**
> 混ぜて読むと結論が反転するので、**どちらの指標かを必ず先に確かめる。**
さらに紛らわしい隣の語がある。**健康寿命(けんこうじゅみょう、healthy life expectancy、水準四: 健康上の問題で日常生活が制限されることなく過ごせる期間の平均)**である。
```
健康寿命 … 集団の**状態**を表す(何年、健康でいられるか)
DALY … 疾病による**損失**を表す(何年、失われたか)
```
**健康寿命は長いほど良く、DALYは小さいほど良い。** どちらも「質を加味した年数」だが、**片方は残高、もう片方は損失である。** 帳簿で言えば資産と費用にあたり、**足し引きしてはいけない。**
### 効用値はどこから来るのか
**効用値は測定値ではなく、人に尋ねて得た値である。** 尋ね方には複数の方法があり、**方法が違えば値も変わる。**
- **評価尺度法(ひょうかしゃくどほう、rating scale、水準五: 一端を完全な健康、他端を死亡とした目盛りの上に、その健康状態がどのあたりかを印で示してもらう方法)**——温度計のような目盛りに印を付けてもらう
- **時間得失法(じかんとくしつほう、time trade-off、TTO、水準五: 「その健康状態で一定年数生きる」ことと「完全な健康で何年生きる」ことが釣り合うかを尋ね、その年数の比から効用値を求める方法)**——時間を差し出させて釣り合いを探る
- **基準賭け法(きじゅんかけほう、standard gamble、SG、水準六: 「その健康状態のまま生きる」ことと「確率pで完全に治り、確率1−pで死亡する賭け」が釣り合う確率pを尋ね、そのpを効用値とする方法)**——危険を差し出させて釣り合いを探る
**検算5**——時間得失法の計算。「効用値を知りたい健康状態で10年生きる」ことと「完全な健康で6年生きる」ことが釣り合うと答えた場合。
```
効用値 = 釣り合った健康な年数 ÷ その状態での年数
= 6 ÷ 10 = **0.6**
```
**同じ健康状態でも、方法によって効用値は系統的にずれることが知られている。** 一般に**基準賭け法のほうが高めの値を出しやすい**とされる——死亡の危険を受け入れさせる問いなので、回答者が慎重になるためである。つまり、
> **QALYの数値は、健康状態そのものの性質ではなく、「誰に、どう尋ねたか」を含んだ数である。**
> **第11冊の情報バイアスが、ここでは測定方法そのものに入り込んでいる。**
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## コラム(a): なぜ「完全な健康=1、死亡=0」なのか
効用値の目盛りは、**端を二つ決めなければ動かない。** 長さを測るのに「0cm」と「1cm」を決めるのと同じである。
**上端を「完全な健康」に置くのは、比較的すんなり決まる。** 問題は下端である。**なぜ死亡を0にするのか。**
理由は素っ気ない。**0に置かないと、掛け算が壊れるからである。** QALYは「年数×効用値」なので、死亡の効用値が0.2なら、**死んだ状態で10年過ごすと2.0 QALYになってしまう。**
そして**この置き方には副作用がある。** 効用値は**0より小さくなりうる**——「死んだほうがましだと答えられる状態」が存在するからである。負の効用値を認めるかどうかは分析によって扱いが分かれており、**ここは決着した話ではない。**
> **目盛りの端を決めるのは測定ではなく約束である。**
> 約束は計算を可能にするが、**約束したこと自体は計算からは出てこない。**
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## 第四章: 増分で考える — ICER
### 平均で比べると間違える
第一章の検算1では「費用÷効果」を計算した。これは**平均費用効果比(へいきんひようこうかひ、average cost-effectiveness ratio、水準四: ある選択肢の総費用を、その総効果で割った値。比較対象を置かずに単独で求めた費用効果の比)**であり、**比べる相手が「何もしない」である場合にしか意味を持たない。**
現実には、比べる相手は「いま行っている対策」であることが多い。そこで使うのが**増分費用効果比(ぞうぶんひようこうかひ、incremental cost-effectiveness ratio、ICER、水準五: 新しい選択肢と比較対象との、費用の差を効果の差で割った値。効果を一単位増やすのに追加でいくらかかるかを表す)**である。
```
ICER = (新しい対策の費用 − 比較対象の費用) ÷ (新しい対策の効果 − 比較対象の効果)
= ΔC ÷ ΔE
```
**検算6**——現行対策と新対策を比べる。
```
現行対策 費用 1,000万円 効果 20 QALY
新対策 費用 1,600万円 効果 24 QALY
平均で見ると:
現行 1,000 ÷ 20 = 50万円/QALY
新 1,600 ÷ 24 ≈ 66.7万円/QALY … 「新のほうが割高」に見える
増分で見ると:
ΔC = 1,600 − 1,000 = 600万円
ΔE = 24 − 20 = 4 QALY
ICER = 600 ÷ 4 = **150万円/QALY**
```
**平均では66.7万円、増分では150万円。** 二倍以上ちがう。
**決めるときに要るのは増分のほうである。** なぜなら、実際に払う追加の金は600万円であって1,600万円ではなく、実際に増える健康は4 QALYであって24 QALYではないからである。
> **平均費用効果比は、すでに払った金と、すでに得ている健康を混ぜてしまう。**
> **決定に要るのは、これから払う金と、これから増える健康である。**
### 費用効果平面と支配
費用の差と効果の差を、二本の軸に取ったものを**費用効果平面(ひようこうかへいめん、cost-effectiveness plane、水準五: 横軸に効果の差、縦軸に費用の差をとって、選択肢の位置関係を表す図)**という。
```
費用の差(ΔC)
▲
第二象限 │ 第一象限
高い・効かない│ 高い・効く
── **却下** │ **ICERで判断**
─────────────┼─────────────▶ 効果の差(ΔE)
第三象限 │ 第四象限
安い・効かない│ 安い・効く
**ICERで判断**│ ── **採用**(支配的)
```
第四象限——**安くて効く**——に入るものは、比べるまでもなく採るべきものである。この関係を**支配(しはい、dominance、水準五: ある選択肢が、比較対象より費用が低く、かつ効果も高い状態。このとき比較対象は選ぶ理由を持たない)**という。第二象限——**高くて効かない**——はその逆で、**比べるまでもなく落ちる。**
**判断が要るのは第一象限と第三象限だけである。** 第一象限は「追加の効果に追加の金を払うか」、第三象限は「安くなるが効果も落ちるのを受け入れるか」という問いになる。
> **四つの象限のうち、二つは計算しなくても答えが出る。**
> **計算が要るのは、費用と効果が同じ向きに動く場合だけである。**
### 三つ以上を並べると、もう一段の落とし穴がある
選択肢が三つ以上あるとき、**どれにも支配されていないのに選ぶ理由を失う**ものが出る。これを**拡張された支配(かくちょうされたしはい、extended dominance、水準六: 二つの選択肢を組み合わせたほうが、ある一つの選択肢より低い費用で高い効果を得られるために、その一つが選ばれなくなる関係)**という。
**検算7**——効果の小さい順に三つ並べる。
```
対策A 費用 100万円 効果 2 QALY
対策B 費用 400万円 効果 4 QALY
対策C 費用 500万円 効果 8 QALY
A→B の ICER = (400−100) ÷ (4−2) = 300 ÷ 2 = **150万円/QALY**
B→C の ICER = (500−400) ÷ (8−4) = 100 ÷ 4 = **25万円/QALY**
```
**効果を上げるほど単価が下がっている。** これは**並べ方が壊れている印**である。Bを飛ばして直接比べると、
```
A→C の ICER = (500−100) ÷ (8−2) = 400 ÷ 6 ≈ **66.7万円/QALY**
```
**A→C のほうが A→B より安い。** つまりBは、AとCに挟まれて**選ぶ理由を失っている**——これが拡張された支配である。**Bを落としてから、残りでICERを引き直す。**
> **ICERの表は、効果の小さい順に並べ、単価が下がる行を消してから読む。**
> **消さずに読むと、消えるはずの選択肢を採ってしまう。**
### ICERが壊れる場合
ICERは割り算なので、**分母(効果の差)が0に近いと爆発し、負になると意味を失う。**
```
ΔC = +100万円, ΔE = −2 QALY → ICER = −50万円/QALY
ΔC = −100万円, ΔE = +2 QALY → ICER = −50万円/QALY
```
**高くて効かない**対策と、**安くて効く**対策が、**同じ −50 という数になる。** 符号だけでは区別できない。
そこで使われるのが**増分正味便益(ぞうぶんしょうみべんえき、incremental net benefit、INB、水準六: 効果の差に閾値を掛けた金額から費用の差を引いた値。正なら費用に見合うと判断される)**である。
```
INB = (ΔE × 閾値) − ΔC
```
**検算8**——検算6のICER(150万円/QALY)を、閾値500万円/QALYのもとでINBに直す。
```
INB = (4 QALY × 500万円) − 600万円 = 2,000 − 600 = **+1,400万円**
```
**正なので費用に見合う。** そして**INBは割り算をしないので、象限にかかわらず一つの数で向きが決まる。**
> **ICERは比、INBは差である。**
> **比は分母が0に近づくと壊れ、差は壊れない。**
> ただしINBは**閾値を先に決めないと計算できない**——**壊れにくさと引き換えに、前提を一つ先出しする。**
---
## 第五章: 閾値 — いくらまでなら払うのか
### ICERだけでは決まらない
検算6で ICER = 150万円/QALY が出た。**これは高いのか、安いのか。**
**ICER単独では答えが出ない。** 比べる相手が要る。それが**支払意思額閾値(しはらいいしがくいきち、willingness-to-pay threshold、水準六: 健康一単位を得るために社会が支払ってよいと考える金額の上限。この値を超えるICERの対策は費用に見合わないと判断される)**である。
```
ICER < 閾値 → 費用に見合う
ICER > 閾値 → 費用に見合わない
```
この判定が通った状態を**費用効果的(ひようこうかてき、cost-effective、水準五: 増分費用効果比が、定めた支払意思額閾値を下回っている状態)**という。
**この語は日常語と意味がずれる。** 日常では「費用効果的」は「安い」「無駄がない」くらいの意味で使われるが、**ここでは「閾値という一つの数と比べて下だった」以上の意味を持たない。** 閾値を変えれば、同じ対策が費用効果的でなくなる。
> **「費用効果的である」は、対策の性質ではない。**
> **対策と閾値の関係である。** 閾値を書かずにこの語を使うと、何も言っていないことになる。
**検算9**——閾値を500万円/QALYとする。
```
検算6の ICER = 150万円/QALY < 500万円/QALY → **費用に見合う**
仮に新対策の費用が 1,000 → 4,000万円 だったとすると:
ΔC = 3,000万円 / ΔE = 4 QALY
ICER = 750万円/QALY > 500万円/QALY → **費用に見合わない**
```
**同じ効果でも、費用が変われば結論は反転する。** 当たり前に見えるが、**この当たり前が明示的な数として書かれるところに、経済評価の値打ちがある。**
### 閾値は科学から出てこない
**そして閾値そのものは、どこからも計算されない。**
閾値の候補としては「一人あたり国内総生産の何倍」といった目安が挙げられることがあるが、**それは目安であって導出ではない。** 閾値は**社会が決める数**であり、測る対象ではない。
> **ICERは測れる。閾値は測れない。**
> 経済評価が渡すのは「この対策は一年あたり○円」までであって、
> **「○円なら買うべきだ」は渡していない。**
第3冊の**予防原則**(第3冊で定義済み)が「科学的確証を待たずに」と述べたのと、構造が似ている。**どちらも、科学が答えを出し切らない場所に線を引く作業である。**
---
## 第六章: 時間 — 将来の健康を割り引く
### 来年の一万円は、今年の一万円より軽い
いま受け取る一万円と、十年後に受け取る一万円は、同じ価値ではない。この差を表すのが**割引率(わりびきりつ、discount rate、水準五: 将来に発生する費用や効果を現在の価値に換算するときに用いる、一年あたりの減価の割合)**である。
```
現在価値 = 将来の値 ÷ (1 + 割引率)^経過年数
```
**検算10**——10年後に発生する1,000万円の費用を、割引率3%で現在価値に直す。
```
1,000 ÷ (1.03)^10 = 1,000 ÷ 1.3439 ≈ **744万円**
```
**10年で約26%目減りする。** 30年なら (1.03)^30 ≈ 2.427 なので、**約41%まで縮む。**
### 健康も割り引くのか、という論争
費用を割り引くことには、あまり異論がない。**問題は効果——つまり健康——も割り引くのかである。**
割り引く側の言い分:
> **効果を割り引かないと、おかしな結論が出る。**
> 効果を割り引かなければ、「対策を1年先延ばしにすると、費用だけが割り引かれて効果は割り引かれない」ことになり、**先延ばしにするほど費用効果比が良くなってしまう。**
割り引かない側の言い分:
> **将来世代の健康を、いまの世代の健康より軽く扱う理由がない。**
> 金は運用できるから割り引く意味があるが、**健康は運用できない。**
**この論争は決着していない。** 実務では「費用も効果も同じ率で割り引き、割り引かない場合も併記する」という扱いが取られることが多い。
> **割引率は、予防の評価を体系的に不利にする。**
> 予防の費用はいま発生し、**効果は数十年先に出る**からである。
> **本冊が扱う公衆衛生の対策の多くが、この形をしている。**
### 検算11 — 割引率が結論を変える
**検算**——予防接種の効果が30年後に40 QALY出るとする。費用はいま1,000万円。閾値は50万円/QALY。
```
割引率0% 効果 40 QALY
ICER = 1,000万 ÷ 40 = **25万円/QALY** → 閾値内 → **採用**
割引率3% 効果 40 ÷ (1.03)^30 = 40 ÷ 2.427 ≈ 16.5 QALY
ICER = 1,000万 ÷ 16.5 ≈ **61万円/QALY** → 閾値超 → **不採用**
```
**割引率を0%から3%に変えただけで、採用が不採用に反転した。**
> **割引率は分析の前提であって、結果ではない。**
> **にもかかわらず、結論を左右する。** だから報告には必ず率を明記し、
> **変えたらどうなるかも併記する**——それが次章の感度分析である。
---
## 第七章: 誰の財布か、どれだけ揺れるか
### 視点を宣言しないと足し算ができない
**分析の視点(ぶんせきのしてん、analytic perspective、水準五: 費用と効果を誰の立場から数えるかという、分析の範囲の宣言。視点が違えば同じ対策でも数える項目が変わる)**を先に決めないと、**何を費用に入れるかが決まらない。**
```
保険者の視点 … 保険から支払われる医療費のみ
医療提供者の視点 … 病院が負担する費用
**社会の視点** … 医療費 + 患者の自己負担 + 休業による生産性の損失 + 介護者の負担 …
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**検算12**——ある治療について、視点ごとに費用を数える。
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医療費(保険から) 200万円
患者の自己負担 30万円
休業による損失 150万円
家族の介護時間の価値 80万円
保険者の視点 = 200万円
社会の視点 = 200 + 30 + 150 + 80 = **460万円**
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**同じ治療の費用が、視点によって2.3倍になる。** どちらも間違いではない。**間違いになるのは、視点を宣言せずに数を出したときである。**
> **視点の違いは、第11冊の選択バイアスに似た形で効く。**
> 何を数えるかを決めるのは対象ではなく分析者であり、
> **その決め方が結論を動かす。**
この検算で一番大きかった項目——休業による150万円——を**生産性損失(せいさんせいそんしつ、productivity loss、水準五: 病気や治療のために働けなくなることで失われる労働の価値。社会の視点をとるときに費用へ算入される)**という。**社会の視点を名乗るなら、これを外すことはできない。**
そして**生産性損失をいくらと数えるかには、二つの立場がある。**
- **人的資本法(じんてきしほんほう、human capital approach、水準六: 働けなかった期間の賃金をそのまま生産性損失として数える方法)**——休んだ期間ぶん、まるごと数える
- **摩擦費用法(まさつひようほう、friction cost approach、水準六: 代わりの働き手が見つかって元の生産水準に戻るまでの期間だけを生産性損失として数える方法)**——**置き換わるまでの期間だけ**数える
**人的資本法のほうが、生産性損失は大きく出る。** どちらが正しいという決着はついておらず、**どちらを採ったかを書かないと、他の分析と並べられない。**
### 比べられるようにするための約束 — 参照ケース
視点・割引率・時間の範囲・効用値の出どころ——**前提が分析ごとにばらばらだと、二つの分析を並べること自体ができない。** そこで、ある国や制度の中で**共通の前提を決めておく**ことがある。これを**参照ケース(さんしょうケース、reference case、水準六: 分析どうしを比べられるようにするために、視点・割引率・時間の範囲などの前提をあらかじめ統一して定めた標準の設定)**という。
> **参照ケースは「正しい前提」ではなく「そろえた前提」である。**
> そろえるから比べられる。**正しいからそろえているのではない。**
### 数が揺れることを、数で示す
分析に使った数値は、どれも推定値である。**推定値には幅があり**(第12冊の**信頼区間**(第3冊で定義済み)がそれを表す)、**幅があるということは、結論も揺れうるということである。**
そこで行うのが**感度分析(かんどぶんせき、sensitivity analysis、水準五: 分析に用いた前提の数値を変えてみて、結論がどれだけ変わるかを調べる手続き)**である。
- **一元感度分析(いちげんかんどぶんせき、one-way sensitivity analysis、水準五: 前提の数値を一つだけ動かし、他は固定したまま結論の変化を見る方法)**——**どの前提が効くかが分かる**
- **多元感度分析**——複数を同時に動かす
- **確率的感度分析(かくりつてきかんどぶんせき、probabilistic sensitivity analysis、水準六: 各前提に分布を与えて多数回の試行を行い、結論のばらつきを確率として示す方法)**——前提のばらつきをまとめて扱う
一元感度分析には、**答えを逆から求める使い方**がある。**閾値分析(いきちぶんせき、threshold analysis、水準六: ある前提の数値をどこまで動かすと結論が反転するかを逆算して求める分析)**である。
**検算13**——検算8のINB(閾値500万円で +1,400万円)が0になる閾値を求める。
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INB = (ΔE × 閾値) − ΔC = 0
→ 閾値 = ΔC ÷ ΔE = 600 ÷ 4 = **150万円/QALY**
```
**閾値が150万円を下回ると、この対策は費用に見合わなくなる。** これは検算6のICERそのものである——**ICERとは、結論が反転する閾値のことでもある。**
一元感度分析の結果は、**どの前提が結論を大きく動かすかを、動かす幅の大きい順に横棒で並べた図**——**トルネード図(トルネードず、tornado diagram、水準六: 一元感度分析の結果を、結論を動かす幅の大きい前提から順に横棒で並べた図)**——として示されることが多い。**上の数本だけが実質的に効いている**ことが、たいていの分析で見てとれる。
確率的感度分析の内側で使われるのは、**乱数で多数回の試行を繰り返して分布を得る手続き**である。これを**モンテカルロ法(モンテカルロほう、Monte Carlo method、水準六: 乱数を用いた試行を多数回繰り返すことで、解析的に解きにくい量の分布を近似的に求める方法)**という。**第14冊の数理モデルが決められた式を解いたのに対し、こちらは式を解かずに数え上げる。**
確率的感度分析の結果は、**費用効果受容曲線(ひようこうかじゅようきょくせん、cost-effectiveness acceptability curve、水準六: 閾値をさまざまな値に変えたときに、その対策が費用に見合うと判定される試行の割合を描いた曲線)**として示されることが多い。
**この曲線が答えるのは、「費用に見合うか」ではない。** 答えるのは次の問いである。
> **「閾値がいくらなら、この対策は何割の確率で費用に見合うのか。」**
> 第12冊が「統計は何を言っていないかを覚えるほうが役に立つ」と書いた。
> **費用効果受容曲線は、言っていないことを図にしたものである。**
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## コラム(b): 費用効果的でも入らない、費用効果的でなくても入る
経済評価が「費用に見合う」と示した対策が、導入されないことがある。逆に、「見合わない」と示された対策が導入されることもある。
**これは分析が無視されたということではない。** 経済評価は**判断材料の一つ**であって、判断そのものではないからである。
導入されない理由としては、初期投資が用意できない、実施する人手がない、対象者に届かない、といった実行可能性の問題が挙げられる。**費用効果分析は「実施できたとして」の話をしており、実施できるかどうかは別に確かめる必要がある。**
導入される理由としては、公平性、社会の合意、緊急性、法令上の要請といったものが挙げられる。**とくに公平性は、次章で見るとおりQALYがほとんど扱えない軸である。**
> **経済評価の結論は、決定の入力であって出力ではない。**
> **「費用効果的である」は「採用すべきである」と同じ文ではない。**
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## 第八章: この物差しが測らないもの
### 誰の一年も同じ一年か
QALYの計算は、**誰の一年も同じ重さで数える。** 1 QALY は1 QALY であり、**それが誰のものかは問わない。**
**この性質は、平等に見えて、そうとは限らない。**
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もともと効用値0.4の人を 0.6 へ上げる … 増分 0.2
もともと効用値0.8の人を 1.0 へ上げる … 増分 0.2
**QALYの上では、この二つはまったく同じ価値である。**
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**だが同じだろうか。** 前者はより悪い状態にいる人であり、後者はすでに良い状態にいる人である。**「より困っている人を優先する」という考え方は、QALYの中には入っていない。**
さらに強い指摘がある。
> **効用値が低い状態にある人は、同じ延命でも得られるQALYが少ない。**
> 効用値0.5の人を10年延命すると 5 QALY、健康な人なら 10 QALY。
> **障害のある人への介入は、構造的に費用効果比が悪く出る。**
**これはQALYという指標の性質そのものであって、計算の誤りではない。** だから計算をどれだけ丁寧にやっても消えない。
### 公平性は別の軸で持ち込むしかない
**公平性(こうへいせい、equity、水準六: 健康や医療資源の配分が、集団の間でどれだけ偏っていないかという性質。効率とは別の評価軸として扱われる)**は、費用効果分析の中では扱えない。**扱うには、分析の外から明示的に持ち込む必要がある。**
公平性が損なわれた状態、すなわち**集団の間に生じた健康の差**を**健康格差(けんこうかくさ、health inequality、水準五: 社会経済的な立場・地域・職業などの違いによって、集団の間に生じている健康状態の差)**という。
**費用効果分析は、健康格差を広げる方向にも働きうる。** 届けやすい集団への対策は費用が安く済み、**届きにくい集団への対策は費用が高く出る**からである。
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都市部への検診 一人あたり費用 5,000円
へき地への検診 一人あたり費用 25,000円 … **同じ効果でもICERは5倍**
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**効率だけで選び続けると、届きにくい人が構造的に後回しになる。** これは計算の誤りではなく、**効率という軸がそういう軸だということである。**
方法としては、重み付け(困っている集団の効果を重く数える)、分布の併記(誰が得をして誰が損をするかを別表にする)、閾値の使い分けなどが挙げられる。**いずれも「公平性をどう定義するか」を先に決める必要があり、そこは分析ではなく合意の領域である。**
### 本冊のまとめ — 数は問いを絞るが、答えない
十五冊を通して、道具はこう並んだ。
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第10冊 どう集めるか … 設計
第11冊 何がゆがめるか … バイアスと交絡
第12冊 どう数えるか … 統計
第13冊 どう判断するか … 検査
第14冊 どう先を読むか … 数理モデル
**第15冊 どう決めるか** … **経済評価**
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そして本冊の結論は、道具の限界の側にある。
> **経済評価は、選択肢を絞る道具である。決定する道具ではない。**
> **絞れるのは「同じ金でより多くの健康が買えるか」まで。**
> **誰の健康か、いつの健康か、どれだけ偏ってよいかは、絞れない。**
**それでも、絞らないよりはよい。** 機会費用は数えなければ見えず、見えない費用は**必ず誰かが払っている**からである。
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## 章末: 簡易階段図
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水準六 ┤ 揺れを数で示す … 閾値分析 600÷4 = **150万円/QALY で反転**
│ 確率的感度分析・費用効果受容曲線・トルネード図
│
水準六 ┤ 並べ方の罠を外す … 拡張された支配(A→B 150万 > A→C **66.7万** なのでBを落とす)
│ INB = 4×500 − 600 = **+1,400万円**
│
水準五 ┤ 増分と時間を扱う … ICER 600÷4 = **150万円/QALY**
│ 割引率3%・30年で 40 → **16.5 QALY**(41%)
│
水準五 ┤ 健康を一つの数にする … QALY 5年×0.8 = **4.0**・DALY 20+3 = **23年**
│ 時間得失法 6÷10 = **0.6**
│
水準四 ┤ 費用と効果を並べる … 8,000万÷40年 = **200万円/年**
│ 予算影響 5万人×20万円 = **100億円**
│
水準四 ┤ 選ばなかったものを数える … **機会費用**
```
**横の広がり(同じ水準にある姉妹概念)**
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水準四: 費用最小化分析 ←(効果を測る)→ 費用効果分析 ←(円に直す)→ 費用便益分析
↕(効用に直す)
費用効用分析
水準四: 平均費用効果比 ←(分母が総量か差か)→ 増分費用効果比(水準五)
水準五: QALY ←(向きが逆)→ DALY ←(残高か損失か)→ 健康寿命
水準五: 評価尺度法 ←(時間を差し出す)→ 時間得失法 ←(危険を差し出す)→ 基準賭け法(水準六)
水準六: ICER(比・測れる) ←→ 支払意思額閾値(測れない) ←→ INB(差・壊れない)
水準六: 人的資本法 ←(期間をどこまで数えるか)→ 摩擦費用法
水準六: 効率(費用効果分析) ←(別の軸)→ 公平性・健康格差
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**現在のフロンティア**
割引率を健康にも適用するか、適用するなら費用と同じ率でよいかは、**2020年代を通じて決着していない。** また、QALYが障害のある人への介入を構造的に不利に評価する点については、代替指標や重み付けの提案が続いており、**どれが標準になるかはまだ定まっていない。**
**次の冊子への矢印**
```
次の冊子(水準四〜六): 水源保護・膜処理・消毒副生成物 ─────▶
```
(第8冊が水処理の設計式を取ったので、残るのは各論と制度である。**未着手であることは巻立て表で確認した。**)
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## なぜ面白いか
本冊は、**十四冊ぶんの道具が一つも答えを出さない場所から始まった。**
そして最後まで、**答えを出す道具は出てこなかった。** 出てきたのは、**答えを出す人が何を見落としているかを点検する道具**だけである。
**それでも、この道具には値打ちがある。** 機会費用を数えなければ、失われた健康は誰の目にも触れない。閾値を明示しなければ、いくらで命を買っているかを誰も確かめられない。視点を宣言しなければ、二つの分析は足し算すらできない。
> **測れないことを測れないと言うために、測る道具が要る。**
> それが十五冊ぶんの結論である。
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## 参照文献
1. BOOK-0011(第1冊)〜 BOOK-0011n(第14冊)— **ALARAは第6冊、予防原則・信頼区間は第3冊、罹患率は第10冊で定義済み。** 経済評価・機会費用・費用最小化分析・費用効果分析・費用便益分析・費用効用分析・予算影響分析・効用値・評価尺度法・時間得失法・基準賭け法・質調整生存年(QALY)・障害調整生存年(DALY)・健康寿命・平均費用効果比・増分費用効果比(ICER)・費用効果平面・支配・拡張された支配・増分正味便益(INB)・支払意思額閾値・費用効果的・割引率・分析の視点・生産性損失・人的資本法・摩擦費用法・参照ケース・感度分析・一元感度分析・確率的感度分析・閾値分析・トルネード図・モンテカルロ法・費用効果受容曲線・公平性・健康格差の**37語は本冊で新たに立てた**(蔵書7,438枚の用語カードに書式へ乗った定義が無いことを、戸籍で一語ずつ確認した)。
2. GAKUMON_UNIVERSE.md — トーン規約・章末階段図規約・初出則。
3. BOOK-0011_衛生学_全巻立てと巻数見積り.md — 本冊は§四の枠13(リスク評価と管理)のうち、第6冊が取らなかった費用効果とQALYの部分を取る。
# BOOK-0011o 衛生学 — その数字で、何を買うのか 第15冊