※小説ではない※専門書 要約資料集 為替(換算)3.9万円でもらう 紐解集生成 専門 初入門 資料   作:{作者名}

302 / 382
# BOOK-0347 作る力と生きる力: 紙とティッシュペーパーができるまで — 木から繊維、繊維から一枚の膜へ

> 学問の宇宙・応用の軌道ステーション群「作る力と生きる力シリーズ」計算機文明部 第8巻。ガイド役: Fable 5 監修 / Sonnet 5 執筆(脚本班)
> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。
> **安全枠(§16.18・絶対厳守)**: 本冊は工場の仕組みの解説にとどめる。家庭での薬品混合等の危険な自作合成手順(パルプ化学薬品・漂白剤の家庭内取扱いなど)は一切書かない。パルプ化・漂白・柔軟剤等の薬品に関する記述は、すべて工場内の密閉された専用設備の中で、訓練を受けた技術者が行う工程の説明にとどまる。本冊を読んでも、家庭で薬品を混ぜて紙を漂白したり柔らかくしたりする手順は再現できない(そのような手順そのものを本冊は示さない)。
> 接続先: →DIC-0020『紙と印刷の辞典』(紙の歴史・和紙・印刷方式の基礎)、→BOOK-0180『紙の折りと強度_折紙工学』(折り目という構造が紙の強さを生む仕組み)、→BOOK-0069『化学派生_化学結合』第1巻(セルロース繊維どうしを結びつける水素結合の基礎)。
> 水準: 一〜十二(木からどうやって紙になるのか、という素朴な疑問から、ティッシュペーパーの柔らかさ・吸水性を生む工程上の工夫までを扱う)。

---


# BOOK-0347 作る力と生きる力: 紙とティッシュペーパーができるまで — 木から繊維、繊維から一枚の膜へ

# BOOK-0347 作る力と生きる力: 紙とティッシュペーパーができるまで — 木から繊維、繊維から一枚の膜へ

 

> 学問の宇宙・応用の軌道ステーション群「作る力と生きる力シリーズ」計算機文明部 第8巻。ガイド役: Fable 5 監修 / Sonnet 5 執筆(脚本班)

> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。

> **安全枠(§16.18・絶対厳守)**: 本冊は工場の仕組みの解説にとどめる。家庭での薬品混合等の危険な自作合成手順(パルプ化学薬品・漂白剤の家庭内取扱いなど)は一切書かない。パルプ化・漂白・柔軟剤等の薬品に関する記述は、すべて工場内の密閉された専用設備の中で、訓練を受けた技術者が行う工程の説明にとどまる。本冊を読んでも、家庭で薬品を混ぜて紙を漂白したり柔らかくしたりする手順は再現できない(そのような手順そのものを本冊は示さない)。

> 接続先: →DIC-0020『紙と印刷の辞典』(紙の歴史・和紙・印刷方式の基礎)、→BOOK-0180『紙の折りと強度_折紙工学』(折り目という構造が紙の強さを生む仕組み)、→BOOK-0069『化学派生_化学結合』第1巻(セルロース繊維どうしを結びつける水素結合の基礎)。

> 水準: 一〜十二(木からどうやって紙になるのか、という素朴な疑問から、ティッシュペーパーの柔らかさ・吸水性を生む工程上の工夫までを扱う)。

 

---

 

## 入口の物語 — コピー用紙とティッシュ箱を両手に持って

 

中学2年生の海斗(かいと)は、職場体験の二日間を、家の近くにある製紙工場で過ごすことになった。持ち物は特に指定されなかったが、案内係の職員に言われて、家からコピー用紙を1枚と、使いかけのティッシュ箱をひとつ持ってきていた。

 

工場の入口で、案内係の職員はその2つを受け取り、両手で軽く握ってみせた。コピー用紙はパリッと固く、少し力を入れないと折り目がつかない。ティッシュはふにゃりと柔らかく、指の間をすり抜けるように形を変え、それでいて水を垂らすとみるみる吸い込んでいく。「この2つ、材料は驚くほど近いんだ」と職員は言った。「どちらも、木から取り出した細い繊維でできている。同じ材料から、これだけ手触りの違うものができあがる」。

 

海斗は首をかしげた。「木を煮たり溶かしたりして、繊維をドロドロにするんですか?」。職員は笑って頷いた。「大まかにはそうだ。でも『ドロドロにする』だけなら、ただの木くずの塊にしかならない。そこから薄く均一な膜のような形に整え、水を抜いて乾かして初めて、紙という形になる。しかもコピー用紙とティッシュでは、その『整え方』がまったく違う。コピー用紙は繊維をぎゅっと押し固めて、平らで硬い面を作る。ティッシュは逆に、繊維同士のつながりをあえて緩め、空気を抱き込ませて、柔らかくふくらんだ構造を作る」。

 

海斗はコピー用紙とティッシュをもう一度見比べた。同じ「紙」という言葉で呼ばれていても、工場の中では、原料の下ごしらえから仕上げの工程まで、まったく別の道を歩んでいるらしい。「今日一日、原木置き場から、この2つが仕上がるところまで、順番に案内するよ」。案内係の職員はそう言って、工場の奥へと歩き出した。

 

この一日をたどることが、この冊子の道すじになる。木という素材が、繊維という共通の正体を経て、コピー用紙にもティッシュペーパーにもなっていく――その分かれ道がどこにあり、それぞれの工程がどんな工夫を積み重ねているのかを、水準一から水準十二まで、一段ずつ見学していく。

 

---

 

## 第一章: 紙とは何か — 繊維が結びついて生まれる膜(水準一)

 

### 「木からどうやって紙になるのか」という素朴な疑問

 

木は硬く、重く、紙とはまるで似ていない材料に見える。この見た目の違いを橋渡しする鍵が、**植物繊維(しょくぶつせんい、水準一: 植物の細胞の壁を作っている、細く長い糸状の構造)**である。木材や多くの植物の細胞壁は、**セルロース(水準一: 植物繊維の主成分となる、糖がひも状につながった物質)**という物質を主な材料として組み立てられている。木を構成している細胞ひとつひとつは、顕微鏡で見ると細長い繊維の形をしており、この繊維をばらばらに取り出して、水の中でほぐした状態にしたものを**パルプ(水準一: 木材などの植物繊維を水中でばらばらにほぐした、紙の原料となる繊維の集まり)**と呼ぶ。

 

紙という製品は、このパルプ(繊維が水に浮いた薄いスープのような状態)を、目の細かい網の上に薄く広げ、水だけを下に抜き、繊維どうしが絡み合って残った層を乾かすことで生まれる。繊維が乾く過程で、繊維の表面どうしが**水素結合(すいそけつごう、水準一: 分子の中の水素原子を介して、隣り合う分子どうしが弱く引き合う結びつき。→BOOK-0069参照)**という弱い力で無数に結びつき合い、糊を使わなくても、繊維の網目全体がひとつのまとまった膜として成立する。この「繊維をほぐし、薄く広げ、水を抜いて繊維どうしを結びつける」という一連の流れそのものが、紙作りの土台であり、コピー用紙もティッシュペーパーも、この土台の上に成り立っている。

 

### コラム — 繊維の網目という考え方

 

紙を光にかざすと、繊維が縦横不揃いに重なり合った、フェルトのような網目模様がうっすらと見えることがある。これは偶然の模様ではなく、パルプが網の上に広がるときに繊維がランダムな向きで積み重なった結果である。1枚の紙は、いわば「細い繊維を無数に編まずに絡ませただけの不織布」に近い構造をしており、この構造そのものが、紙の強さ・柔らかさ・吸水性のすべての土台になっている。以降の章で扱う工程の工夫は、すべてこの繊維の網目をどう組み立てるかという一点に集約されていく。

 

---

 

> **定着量の目安(第一章)**: 植物繊維・セルロース・パルプ・水素結合という4つの用語と、「繊維をほぐす→薄く広げる→水を抜く→繊維どうしが結びつく」という紙作りの基本の流れを、自分の言葉で説明できるようにするには、用語当てドリルを15問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第二章: 原木から木材チップへ — 原料の下ごしらえ(水準二)

 

### 針葉樹と広葉樹、二つの原料

 

見学の最初の場所は、丸太が積み上げられた原木置き場だった。案内係の職員によれば、製紙用の木材には大きく分けて**針葉樹(しんようじゅ、水準二: マツ・スギなど、細長い葉を持つ樹木の総称。製紙では繊維が長めであることが特徴とされる)**と**広葉樹(こうようじゅ、水準二: ユーカリ・ブナなど、平たい葉を持つ樹木の総称。製紙では繊維が短めであることが特徴とされる)**の2種類が使われている。針葉樹の繊維はおよそ2〜4mm程度、広葉樹の繊維はおよそ0.7〜1.5mm程度とされ、長い繊維は紙に強さを、短い繊維は紙の表面の滑らかさを与える傾向があるため、多くの製品では両方をブレンドして使う。

 

原木は、そのほとんどが計画的に植林・伐採を繰り返す人工林から供給され、製材工程で出る端材(建築用木材を切り出した後の余り)も原料として活用されることが多い。

 

### 皮むきとチップ化

 

丸太は、まず**皮むきドラム(かわむきドラム、水準二: 丸太を大きな回転する筒の中で互いにこすり合わせ、樹皮をはぎ取る装置)**に投入される。樹皮は繊維として使いにくいうえ、後工程の薬品や漂白の妨げになるため、この段階で丁寧に取り除かれる。皮をむかれた丸太は、次に**チッパー(水準二: 丸太を数センチ角ほどの小さな木片〈チップ〉に切り刻む機械)**にかけられ、木材チップと呼ばれる小片へと姿を変える。チップの大きさは選別機(振動する網でふるい分ける装置)によって揃えられ、大きすぎるチップは薬品や熱が中心まで届きにくく、小さすぎるチップは繊維が傷みやすいため、この均一さが後の工程の仕上がりを左右する。

 

海斗は積み上げられたチップの山を見て、「もう木というより、コーンフレークみたいですね」と言った。案内係の職員は「うまい例えだ」と笑い、「ここからいよいよ、チップを繊維までほぐす工程に入る。ほぐし方には大きく2つの道があって、それぞれ向いている紙が違う」と続けた。

 

---

 

> **定着量の目安(第二章)**: 針葉樹・広葉樹の繊維長の違い、皮むきドラム・チッパーという2つの装置の役割を説明できるようにするには、装置名当てドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第三章: 機械パルプ — すりつぶして繊維をほぐす道(水準三)

 

### リグニンという「接着剤」

 

木材の細胞壁は、セルロースの繊維だけでできているわけではない。繊維どうしを固めて木に硬さを与えている**リグニン(水準三: 木材の細胞壁の中で、セルロース繊維どうしを固めている、接着剤のような役割を果たす物質)**という物質が、繊維の周りを埋めている。木材チップから紙用の繊維を取り出すとは、つまりこのリグニンという接着剤から、セルロースの繊維を引き剥がす作業にほかならない。

 

**機械パルプ(きかいパルプ、水準三: 木材を化学薬品でほとんど処理せず、物理的にすりつぶしたり削ったりする力だけで繊維をほぐして作るパルプ)**は、丸太を大きな回転する砥石に押し当てて削り出す方法や、チップを高温の蒸気で柔らかくしたうえで、回転する金属の円盤の間ですりつぶす方法(リファイナーと呼ばれる装置を使う)で作られる。この方法はリグニンをほとんど取り除かず、木材のほぼすべて(重さにして90〜95%程度)を繊維として回収できるため、原料の無駄が少ないという利点がある。

 

一方で、リグニンが繊維の中に残ったままなので、紫外線に当たると化学変化を起こして黄ばみやすく、繊維自体もあまり強くない。このため機械パルプは、新聞用紙のように短期間で読まれ、コストを抑えたい印刷物に向いた原料として使われている。

 

### コラム — 古い新聞紙が黄色くなる理由

 

古い新聞紙を数年放置すると、しばしば茶色っぽく変色する。これは、新聞用紙の多くが機械パルプを主な原料としており、繊維の中に残ったリグニンが日光(紫外線)を浴びて化学的に変化するために起こる現象だとされている。コピー用紙のような白い紙が黄ばみにくいのは、次章で扱う化学パルプによってリグニンの大部分があらかじめ取り除かれているためである。

 

---

 

> **定着量の目安(第三章)**: リグニンの役割と、機械パルプが「物理的にすりつぶしてリグニンをあまり除かずに繊維を取り出す方法」であることを説明できるようにするには、用語ドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第四章: 化学パルプとクラフト法 — リグニンを溶かして繊維を取り出す道(水準四)

 

### 蒸解釜という巨大な圧力鍋

 

機械パルプの説明を終えた案内係の職員は、海斗を工場の中でもひときわ大きな、金属製の塔のような設備の前に連れて行った。「これが蒸解釜(じょうかいがま)だ。中では、木材チップからリグニンを化学的に溶かし出している」。

 

**化学パルプ(かがくパルプ、水準四: 木材チップを蒸解薬品とともに高温・高圧の密閉容器で煮て、リグニンを化学的に溶かし出すことで繊維を取り出すパルプ)**は、**蒸解釜(じょうかいがま、水準四: 木材チップと蒸解薬品を、高温・高圧の密閉状態で反応させる、工場専用の巨大な圧力容器)**という設備の中で作られる。もっとも広く使われている製法が**クラフト法(クラフトほう、水準四: アルカリ性の蒸解薬品を使い、高温・高圧の蒸解釜でリグニンを溶かし出す化学パルプの製法。ドイツの技術者カール・F・ダール〈Carl F. Dahl〉が1879年に確立したとされる)**である。「クラフト(kraft)」とはドイツ語・スウェーデン語で「強さ」を意味する言葉で、この製法で作られたパルプが機械パルプよりも強い繊維になることに由来するとされている。

 

クラフト法では、木材チップと蒸解薬品(工場が専用に調合し、密閉された蒸解釜の中だけで扱う薬品であり、家庭で再現できる工程ではない)を、およそ150〜170℃程度の高温・高圧下で1〜3時間ほど反応させる。この間にリグニンの大部分が化学的に分解されて溶け出し、セルロース繊維だけが残る。木材の重さのうち繊維として回収できる割合(歩留まり)は45〜50%程度と、機械パルプに比べてかなり低くなるが、その代わりにリグニンをほとんど含まない、強くて長持ちする繊維が得られる。

 

### 黒液の再利用という工場の工夫

 

蒸解釜から出てきた廃液には、溶け出したリグニンや使用済みの薬品が含まれており、これを**黒液(こくえき、水準四: 蒸解釜でリグニンを溶かした後に残る、黒っぽい色をした廃液)**と呼ぶ。多くのクラフト法の工場では、この黒液を専用のボイラーで燃焼させ、そこから発生する熱を工場の発電・蒸気源として再利用しつつ、燃焼後に残った成分から蒸解薬品の主成分を回収して再びチップの処理に使うという、薬品と熱をなるべく工場内で循環させる仕組みが広く採用されている。案内係の職員は「木を煮出した後の残り汁まで燃料に変えてしまう、というのが、この工程が長く使われ続けている理由のひとつなんだ」と説明した。

 

漂白していないクラフトパルプは茶色みを帯びており、この色のまま使われる紙が、封筒や紙袋でよく見かける**クラフト紙(クラフトし、水準四: 漂白していないクラフトパルプで作られた、茶色みを帯びた丈夫な紙)**である。

 

---

 

> **定着量の目安(第四章)**: リグニン・蒸解釜・クラフト法・黒液という4つの用語のつながりと、機械パルプとの歩留まり・強さの違いを説明できるようにするには、比較ドリルを15問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第五章: 漂白 — 白さを作る工程(水準五)

 

### なぜクラフトパルプは茶色いのか

 

コピー用紙のように真っ白な紙を作るには、化学パルプに残ったわずかなリグニンや色素を、さらに取り除く工程が必要になる。この工程を**漂白(ひょうはく、水準五: パルプに残った色素やわずかなリグニンを化学的に分解・除去し、繊維を白くする工程)**と呼ぶ。

 

漂白は、工場内に並んだ複数の密閉タワーを、パルプが順番に通過していく多段階の工程として行われる。1つのタワーだけで白さを一気に作るのではなく、酸素を使ってリグニンをあらかじめ減らす段階、漂白薬品を使う段階、薬品を洗い流す段階などを何段階も繰り返すことで、繊維をできるだけ傷めずに白さを積み上げていく。かつては塩素ガスをそのまま使う方法が広く使われていたが、環境への影響が懸念されたことから、現在では二酸化塩素を使う方式(ECF、塩素ガスを使わない方式)や、酸素・過酸化水素などを中心に使う方式(TCF、塩素をまったく使わない方式)へと、世界的に置き換えが進んできたとされている。

 

これらの漂白工程は、すべて工場内の密閉された専用設備と、訓練を受けた技術者による管理のもとで行われるものであり、本冊はその手順を家庭向けに示すものではない。漂白という工程が「何のために」「どのような考え方で」段階を踏んでいるかという仕組みの理解にとどめる。

 

### コラム — 真っ白さと紙の丈夫さのトレードオフ

 

漂白の段階を増やすほど紙は白くなるが、その分だけ薬品による処理を繰り返すことになり、繊維がわずかに傷んで弱くなる傾向があるとされている。真っ白なコピー用紙よりも、無漂白のクラフト紙や再生紙の一部が茶色みを残しているのは、白さよりも丈夫さやコスト、環境負荷の低さを優先した設計だと理解すると、色の違いの意味が見えやすくなる。

 

---

 

> **定着量の目安(第五章)**: 漂白が多段階の工程であること、ECF・TCFという置き換えの歴史的な流れを説明できるようにするには、用語ドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第六章: 古紙のリサイクルと脱墨(水準六)

 

### パルパーという巨大なミキサー

 

見学の途中、案内係の職員は古紙(使用済みの新聞や雑誌、コピー用紙)が積まれたエリアに海斗を案内した。「紙は繊維に戻せば、もう一度紙に生まれ変わる。原木から作るパルプ〈バージンパルプ〉に対して、これを古紙パルプと呼ぶ」。

 

古紙は、まず**パルパー(水準六: 古紙を大量の水とともに強く撹拌し、繊維一本一本にまでほぐす、巨大なミキサーのような設備)**に投入され、水と一緒に激しく撹拌されることで、印刷された紙のままの形から、再び水に浮いた繊維の集まり(パルプ)へと戻される。この段階で、ホチキスの針やビニールテープ、粘着物などの異物は、目の粗さが異なる複数の選別機によって取り除かれる。

 

### 脱墨という工程

 

古紙パルプには、印刷に使われたインクの粒子が繊維に付着したまま残っている。これを取り除く工程を**脱墨(だつぼく、水準六: 古紙パルプに残ったインクの粒子を、気泡に付着させて浮かび上がらせ、泡とともに取り除く工程)**と呼ぶ。脱墨槽の中でパルプに細かい気泡を送り込むと、インクの粒子が気泡の表面に付着しやすい性質を利用して、インクが泡とともに水面に浮かび上がり、この泡を上澄みとしてすくい取ることで、繊維からインクだけを分離する。

 

### 繊維は使うたびに短くなる

 

案内係の職員は続けて、「ただし、古紙パルプだけで紙を作り続けることはできない」と説明した。**セルロース繊維は、パルパーで撹拌されるたびに少しずつ短く・弱くなっていく**とされており、リサイクルを繰り返すほど、繊維単体の強さは低下していく。このため、多くの再生紙は古紙パルプにバージンパルプ(原木由来の新しい繊維)を一定割合で混ぜ合わせることで、必要な強さを保っている。「紙は無限にリサイクルできる、というのは言い過ぎで、繊維の寿命というものがある」と職員は付け加えた。

 

---

 

> **定着量の目安(第六章)**: パルパー・脱墨という2つの工程の役割と、「繊維は撹拌のたびに短く弱くなる」という古紙リサイクルの限界を説明できるようにするには、工程順序ドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第七章: 抄紙機 — 水を含んだ繊維の海から一枚の紙へ(水準七)

 

### 一本の巨大な生産ライン

 

工場見学のなかでもっとも規模の大きな設備が、パルプを実際に「紙」という一枚の膜に変える**抄紙機(しょうしき、水準七: パルプを薄く広げ、水を抜き、乾かして一枚の紙に仕上げる、工場内でもっとも長大な生産ライン設備)**だった。フランスの技術者ニコラ=ルイ・ロベール(Nicolas-Louis Robert)が1799年に連続して紙を漉く機械の考案で特許を得たとされ、その後イギリスのフォードリニア兄弟(Fourdrinier brothers)らの資金と改良によって、実用的な抄紙機として広まっていったという経緯が伝えられている。

 

抄紙機の工程は、大きく4つの区間に分かれる。

 

1. **ワイヤーパート(水準七: 目の細かい網状のベルトの上に、水で薄めたパルプを吹き付け、重力と吸引によって水を抜き、繊維の層を作る区間)**: パルプは重さにして99%程度が水という、非常に薄いスープのような状態(紙料)で、ヘッドボックスという装置から動き続ける網の上に均一に吹き付けられる。網の下から水を抜きながら、網の上には少しずつ繊維の層(まだ湿った紙の元)が形作られていく。

2. **プレスパート(水準七: 湿った繊維の層をローラーの間に挟み込み、機械的な圧力で水をさらに絞り出す区間)**: ワイヤーパートを抜けた湿紙(しつし、まだ水分を多く含んだ紙の層)は、複数対のローラーの間を通ることで圧力を受け、水分がさらに絞り出される。

3. **ドライヤーパート(水準七: 蒸気で加熱された多数の金属シリンダーに紙を触れさせながら通し、残った水分を蒸発させて乾かす区間)**: 湿紙は、内部を高温の蒸気で加熱された金属製の円筒(ドライヤーシリンダー)に次々と巻きつくように通され、残った水分を蒸発させて乾燥していく。

4. **カレンダーと巻取り(水準七: 硬いローラーの間に紙を通して表面を平滑にし、最後に大きな一本のロールに巻き取る区間)**: 乾いた紙は、カレンダーと呼ばれる硬いローラーの間を通ることで表面が滑らかに整えられ、最後に**ジャンボリール(水準七: 抄紙機の最後で紙を巻き取る、直径数メートルにもなる大きなロール)**として巻き取られる。

 

現代の大型抄紙機では、この一連の工程を紙が通過する速度が、製品によっては分速1,000メートルを超えることもあるとされ、原料のパルプが投入されてから一枚の紙として巻き取られるまでの時間は、わずか数十秒程度に収まる場合もあるという。

 

海斗は、轟音を立てて動き続ける巨大な機械を見上げながら、「コピー用紙もティッシュも、最初はこの『薄く広げて水を抜く』ところまでは同じなんですね」と聞いた。職員は頷いた。「その通り。分かれ道は、この後の乾かし方と仕上げ方にある」。

 

---

 

> **定着量の目安(第七章)**: 抄紙機の4区間(ワイヤーパート・プレスパート・ドライヤーパート・カレンダーと巻取り)を順番どおりに説明できるようにするには、工程順序ドリルを15問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第八章: 坪量・繊維の向き・紙の種類という設計(水準八)

 

### 坪量という紙の「密度設計」

 

紙の厚みや重さを表す指標として、**坪量(つぼりょう、水準八: 紙1平方メートルあたりの重さ。単位はg/m²)**という数値が使われる。一般的なコピー用紙の坪量はおよそ64〜70g/m²程度とされ、雑誌の本文用紙はそれよりやや軽く、名刺やはがきに使われる厚紙は200g/m²を超えることもある。抄紙機は、ヘッドボックスから吹き付けるパルプの量やワイヤーパートの速度を調整することで、この坪量を製品ごとに作り分けている。

 

### 繊維の向きという性質

 

ワイヤーパートで網の上をパルプが流れる際、繊維はランダムに絡み合いながらも、網が流れる方向にわずかにそろいやすい傾向がある。この方向を**流れ方向(MD、Machine Direction、水準八: 抄紙機の中を紙が流れていく方向。繊維がややそろいやすく、その方向に沿って裂けやすい傾向がある)**、これと直角の方向を**幅方向(CD、Cross Direction、水準八: 流れ方向と直角の方向)**と呼ぶ。紙を手で裂いてみると、流れ方向にはまっすぐ裂けやすく、幅方向にはやや裂けにくくギザギザになりやすい、という違いが見られることがあるのは、この繊維のそろい方に由来するとされている。

 

### 用途に応じた仕上げの違い

 

コピー用紙や雑誌のように印刷の美しさが求められる紙には、表面に**塗工(とこう、水準八: 紙の表面に、粘土鉱物や炭酸カルシウムなどの微粒子を薄く均一に塗り重ね、表面を滑らかにする仕上げ工程)**が施され、インクのにじみを抑えつつ光沢や発色を高めた**塗工紙(とこうし、水準八: 表面に塗工を施した紙。雑誌や写真集などに多く使われる)**として仕上げられることがある。

 

段ボールに使われる**中しん(なかしん、水準八: 段ボールの内部で波型に成形され、2枚の板紙〈ライナー〉の間に挟まれた紙の層)**は、波型に成形されることで、平らな紙よりもはるかに高い圧縮強度を生み出す構造になっている(波型がアーチ状の支えとして働く仕組みは→BOOK-0180『紙の折りと強度』で扱う折り目の構造ともつながりが深い)。同じセルロース繊維の膜であっても、坪量・繊維の向き・表面加工・成形の仕方という設計変数の組み合わせによって、まったく異なる性質の紙が作り分けられていることが、ここまでの見学からもうかがえる。

 

---

 

> **定着量の目安(第八章)**: 坪量・流れ方向(MD)・幅方向(CD)・塗工紙という用語と、段ボールの波型構造が強度を生む理由を説明できるようにするには、用途当てドリルを15問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第九章: ティッシュペーパー専用の抄紙 — ヤンキードライヤーとクレープ加工(水準九)

 

### 「ぎゅっと固める」から「ふんわり仕上げる」への転換

 

見学の最後のエリアで、案内係の職員はティッシュペーパー専用のラインへと海斗を案内した。「ここから先は、コピー用紙の抄紙機とは、乾かし方そのものが違ってくる」。

 

ティッシュペーパーは、コピー用紙のように硬く平らに仕上げるのではなく、柔らかく、かさ高く(見た目の厚みがあるように)仕上げる必要がある。この目的のために、ティッシュ専用の抄紙機では、プレスパートやドライヤーパートに、コピー用紙とは異なる専用の設備が使われている。

 

### ヤンキードライヤーという一本の巨大な熱い円筒

 

ティッシュ抄紙機の心臓部にあたるのが、**ヤンキードライヤー(水準九: 直径数メートルにもなる、内部を蒸気で高温に保たれた一本の巨大な金属シリンダー。湿った紙を表面に押し当てて一気に乾かす、ティッシュ専用の乾燥装置)**である。湿ったままの紙は、このヤンキードライヤーの磨き上げられた高温の表面に押し当てられ、シリンダーが一回転する間に大部分の水分を蒸発させて乾燥する。紙はシリンダーの表面にぴったりと貼りついたまま乾いていく。

 

### クレープ加工という仕上げの核心

 

乾いた紙をヤンキードライヤーの表面からはがし取るのが、**クレープ加工(クレープかこう、水準九: 乾いた紙をヤンキードライヤーの表面から、刃〈ドクターブレード〉で削ぎ落とすように剥がし取り、その際に紙全体を無数の細かいシワに折りたたむ加工)**である。ぴったり貼りついた紙を刃で剥がし取ると、紙は平らなまま剥がれるのではなく、押し縮められるようにして無数の微細なシワ(クレープ)が生まれる。この微細なシワこそが、ティッシュペーパー特有の柔らかさ・伸び・かさ高さを生み出す最大の要因だとされている。

 

海斗は、「ただ剥がすだけで、そんなに手触りが変わるんですか」と驚いた。職員は「試しに、貼ってあるテープをまっすぐ引き剥がすのと、押し縮めるように剥がすのとでは、表面のできあがり方が全然違うだろう。クレープ加工は、それを紙の幅いっぱいで、正確に繰り返しているようなものだ」と説明した。

 

---

 

> **定着量の目安(第九章)**: ヤンキードライヤー・クレープ加工という2つの用語と、「押し縮めて剥がすことでシワが生まれ、それが柔らかさの元になる」という仕組みを説明できるようにするには、用語ドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第十章: 柔らかさを生む工夫 — 繊維の選び方とクレープ比(水準十)

 

### クレープ比という調整つまみ

 

クレープ加工の効き具合は、ヤンキードライヤーの表面速度と、剥がし取られた後の紙の巻き取り速度との比率によって調整される。この比率を**クレープ比(クレープひ、水準十: ヤンキードライヤーの表面速度に対する、クレープ加工後の紙の速度の比率。この比率が生むシワの量が、紙の柔らかさや伸びやすさを左右する)**と呼ぶ。剥がし取られた紙の速度をシリンダーの速度よりも遅く設定するほど、紙はより強く押し縮められ、シワが増えて柔らかく・伸びやすくなる一方、繊維どうしの結びつきがまばらになるため、引っ張り強さはやや低下する傾向がある。工場では、製品ごとに求められる柔らかさと強さのバランスに応じて、このクレープ比を細かく調整している。

 

### 短い繊維を選ぶという設計

 

ティッシュペーパー用のパルプには、第二章で触れた広葉樹(ユーカリなど)由来の、比較的短く柔らかい繊維が好んで使われる。短い繊維は、長い繊維に比べて繊維どうしの絡み合いや結びつきの点や面が少なくなるため、繊維の網目全体がふんわりとほぐれやすく、肌に触れたときの柔らかさにつながるとされている。反対に、コピー用紙や段ボールのように強さを優先する製品では、繊維の長い針葉樹パルプの比率が高められる。

 

### 柔軟剤という添加剤についての注記

 

一部のティッシュペーパーの製造工程では、パルプに少量の柔軟剤(繊維どうしの結びつきをわずかに弱め、柔らかさを高めるための添加剤)が加えられることがあるとされている。この添加剤は、工場のパルプ調製工程の中で、既定の配合として計量・投入される専用の薬品であり、家庭で再現・調合できるものではない。本冊では「そのような添加剤が工場の設計変数のひとつとして存在する」という事実の紹介にとどめ、具体的な薬品名・配合手順は扱わない。

 

### 多層構造という仕上げ

 

市販のティッシュペーパーの多くは、1枚ではなく、薄い紙を2枚(2プライ)や3枚(3プライ)重ねた**多層構造(たそうこうぞう、水準十: 薄い紙を複数枚重ねて1枚の製品として仕上げる構造)**になっている。薄い紙を1枚だけで厚みを出そうとすると、クレープ加工だけに頼ることになり強度が不足しやすいが、薄い紙を複数枚重ねることで、それぞれの層はごく薄いまま、全体としては必要な厚みと強さを両立させやすくなる。

 

---

 

> **定着量の目安(第十章)**: クレープ比・短繊維の選択・多層構造という3つの設計要素が、それぞれどのように柔らかさに関わるかを説明できるようにするには、要素対応ドリルを15問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第十一章: エンボス加工と層の結合(水準十一)

 

### 凹凸をつけて厚みを演出する

 

複数枚重ねた薄い紙を、ただ重ねただけでは、層どうしがずれてしまったり、見た目の厚みが感じられなかったりする。この課題を解決するのが**エンボス加工(えんぼすかこう、水準十一: 表面に凹凸の模様を彫り込んだローラーの間に紙を通し、圧力によって立体的な凹凸模様を転写する加工)**である。

 

エンボス加工には主に2つの役割がある。ひとつは、凹凸の模様そのものによって、紙の見た目の厚み(かさ高さ)を増す効果である。平らな紙よりも、凹凸のある紙のほうが同じ重さでも体積が大きく見え、柔らかそうな印象を与えやすい。もうひとつは、複数の層を重ねた状態でエンボスローラーに通すことで、凹凸の谷の部分で層どうしを部分的に圧着し、接着剤を使わずに層を結びつける**プライボンディング(水準十一: エンボス加工の圧力を利用して、複数の紙の層を部分的に圧着し、剥がれにくくする結合方法)**としての役割である。エンボスの模様がハートや花などの装飾的な図柄になっている製品は、この機能的な圧着と、見た目の意匠づけを同時に達成している。

 

### コラム — 凹凸模様が生む見えない通り道

 

エンボスの凹凸は、見た目の厚みや層の結合だけでなく、紙の表面や層のあいだに、水が伝わりやすい微細な溝や隙間を作り出す効果もあるとされる。この「通り道」の役割は、次章で扱う吸水性の工夫と深く関わっている。

 

---

 

> **定着量の目安(第十一章)**: エンボス加工の2つの役割(かさ高さの演出とプライボンディング)を説明できるようにするには、用語ドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 第十二章: 吸水性を生む工程上の工夫(水準十二)

 

### 押し固めると吸水性は下がる

 

案内係の職員は、見学の最後にキッチンペーパー(台所用の厚手の紙)の製造ラインを見せながら言った。「ここまで見てきた工程の多くは、実は吸水性という点では逆効果になりうる」。プレスパートでの圧力や、通常のドライヤーパートでの加熱乾燥は、繊維どうしを押し詰めて密着させる方向に働くため、紙の内部の隙間(水が染み込む通り道)を減らし、結果として吸水性を下げてしまう傾向がある。柔らかさと同様に、高い吸水性を実現するには、繊維をぎゅっと固めない仕上げ方が求められる。

 

### TAD(スルーエアドライ)という乾燥方式

 

この課題に対応する製法のひとつが、**TAD(ティーエーディー、Through-Air Drying、水準十二: 湿った紙を圧力で押しつぶさず、熱風を紙の層に直接通り抜けさせることで乾燥させる方式)**である。従来のドライヤーパートのように紙をシリンダーに押しつけて乾かすのではなく、凹凸のある専用の織物(ファブリック)の上に湿紙を乗せたまま、高温の熱風を紙の層の内部に通り抜けさせて乾燥させる。押しつぶす力がほとんど働かないため、繊維どうしの結びつきがまばらな、ふんわりとかさ高い立体構造がそのまま保たれ、繊維の間に水を取り込む隙間(毛細管、細い管状の隙間を毛細管現象によって液体が伝わっていく構造)が豊富に残る。この製法は設備・エネルギーのコストが従来の乾燥方式より高くなる傾向があるため、主に高級ティッシュペーパーや業務用ペーパータオルなど、吸水性が重視される製品に使われている。

 

### 湿潤紙力剤という工夫

 

通常の紙は、水に濡れると繊維どうしを結びつけていた水素結合がゆるみ、簡単に破れてしまう。台所用のキッチンペーパーのように、濡れた状態で使うことを前提とした製品には、**湿潤紙力剤(しつじゅんしりょくざい、水準十二: 濡れた状態でも繊維どうしの結びつきを保つよう、パルプにあらかじめ加えられる添加剤)**が使われることがあるとされる。これも工場のパルプ調製工程で計量・投入される専用の薬品であり、家庭で扱う工程ではない。湿潤紙力剤を加えた紙は、水に濡れても破れにくくなる一方、繊維をリサイクルする際に繊維どうしの結合をほどきにくくなる、というトレードオフを抱えることも知られている。

 

### 柔らかさと吸水性という2つの目標の折り合い

 

海斗は最後に、案内係の職員に聞いた。「柔らかくて、しかもよく水を吸う紙が、一番いいティッシュってことですか」。職員は少し考えてから答えた。「そう単純でもない。クレープ比を強くしすぎれば柔らかくなるが強さは落ちるし、TAD乾燥はかさ高く吸水性を上げられるがコストが上がる。それぞれの工程が、柔らかさ・強さ・吸水性・コストという複数の目標のあいだで、どこかに折り合いをつけて設計されている。今日見てきた工程の一つひとつが、その折り合いのつけ方の工夫の積み重ねなんだ」。

 

---

 

> **定着量の目安(第十二章)**: TAD(スルーエアドライ)・湿潤紙力剤という2つの用語と、「押し固めると吸水性が下がる」というトレードオフの構造を説明できるようにするには、用語ドリルを10問程度こなすと、ほぼ定着すると見込まれる。

 

---

 

## 三つの実践解(§16.21) — 薬品を使わずに確かめられる観察と工作

 

理論を、実際に手を動かして確かめる方法を三つ紹介する。いずれも水と身近な道具だけで完結し、薬品を一切使わない、安全な実践解である。

 

1. **手すき紙づくり実践**: 使用済みのコピー用紙や新聞紙を細かくちぎり、水と一緒にミキサー(または手でよくもみほぐす)にかけて繊維をほぐし、目の細かい網(古い洗濯ネットや排水口ネットなどで代用できる)にすくい上げて薄く広げ、水気を切ってから乾かす。第一章・第六章で扱った「繊維をほぐす→薄く広げる→水を抜く」という紙作りの基本の流れを、薬品を一切使わずに自分の手で再現する実践である。

 

2. **裂き方向で繊維の向きを確かめる実践**: 同じ1枚のコピー用紙を、縦方向と横方向でそれぞれ裂いてみて、裂け口がまっすぐになるか、ギザギザになるかを比べる。第八章で扱った流れ方向(MD)と幅方向(CD)による裂けやすさの違いを、実際の紙で確かめる観察である。

 

3. **吸水量の比較実践**: 複数のメーカーやグレードのティッシュペーパー・キッチンペーパーを用意し、同じ量の水(スポイトやスプーンで測った一定量)をそれぞれに垂らし、水滴が広がって染み込むまでの様子や、吸い込める水の量のおおよその違いを比べる。第十二章で扱った、繊維の密度や加工方法によって吸水性が変わるという性質を、実際の製品で確かめる実践である。

 

---

 

## まとめ — 一本の木が、コピー用紙とティッシュに分かれるまで

 

本冊では、コピー用紙とティッシュ箱を両手に持った中学生が製紙工場を見学する物語から出発し、植物繊維・セルロース・パルプという紙の共通の正体(第一章)、原木からチップへの下ごしらえ(第二章)、リグニンを残したまま繊維をほぐす機械パルプ(第三章)、リグニンを化学的に溶かし出すクラフト法(第四章)、白さを作る多段階の漂白(第五章)、古紙を繊維に戻すパルパーと脱墨(第六章)、パルプを一枚の紙に仕上げる抄紙機の4区間(第七章)、坪量・繊維の向き・用途別の仕上げという設計(第八章)、そしてティッシュペーパー専用のヤンキードライヤーとクレープ加工(第九章)、柔らかさを生むクレープ比と繊維選び(第十章)、エンボス加工による厚みと層の結合(第十一章)、吸水性を生むTAD乾燥と湿潤紙力剤(第十二章)までをたどってきた。

 

同じセルロース繊維という原料から出発しながら、「押し固めて平らに仕上げる道」と「押し縮めてふんわり仕上げる道」という2つの分かれ道を歩むことで、コピー用紙とティッシュペーパーというまったく手触りの違う製品が生まれる――この分岐点の理解こそが、本冊が目指した「工場の仕組みを読み解く力」である。パルプ化・漂白・柔軟剤・湿潤紙力剤といった薬品に関わる工程は、いずれも工場内の密閉された専用設備と訓練を受けた技術者によって行われるものであり、本冊はその仕組みの解説にとどめ、家庭での再現手順は一切示していない。

 

---

 

## 章末: 簡易工程図とまとめの階段図

 

まずは、コピー用紙とティッシュペーパーが分かれていく工程を、簡易図で表してみよう。

 

```

[原木] → [皮むき] → [チップ化]

│

┌──────────┴──────────┐

[機械パルプ] [化学パルプ(クラフト法)]

(リグニン残存・安価) (蒸解釜でリグニン除去・強い繊維)

│ │

└──────────┬───────────────┘

[漂白(必要に応じて)]

│

[抄紙機:ワイヤー→プレス→ドライヤー→カレンダー]

│

┌───────────┴───────────┐

[コピー用紙などの道] [ティッシュ専用の道]

押し固めて平らに乾燥 ヤンキードライヤー+クレープ加工

(硬く・平滑・印刷向き) (柔らかく・かさ高い)

│

[多層化+エンボス加工]

│

[TAD乾燥・湿潤紙力剤(高吸水性製品)]

```

 

続いて、本冊全体の歩みを階段図としてまとめる。

 

```

[水準十二] 吸水性を生む工程上の工夫

TAD(スルーエアドライ)・湿潤紙力剤・トレードオフの折り合い

▲

│ 押し固めない乾燥で隙間を残す

[水準十一] エンボス加工と層の結合

かさ高さの演出+プライボンディング

▲

│ 凹凸で厚みと結合を作る

[水準十] 柔らかさを生む工夫

クレープ比・短繊維の選択・多層構造

▲

│ シワの量と繊維の長さを調整する

[水準九] ヤンキードライヤーとクレープ加工

押しつけて乾かし、剥がしてシワを作る

▲

│ ティッシュ専用の乾かし方への分岐

[水準八] 坪量・繊維の向き・紙の種類の設計

g/m²・MD/CD・塗工紙・段ボールの中しん

▲

│ 用途に応じて仕上げを変える

[水準七] 抄紙機

ワイヤー→プレス→ドライヤー→カレンダー

▲

│ 繊維の海から一枚の紙へ

[水準六] 古紙のリサイクルと脱墨

パルパー・脱墨・繊維は使うたび短くなる

▲

│ 使用済みの紙を繊維に戻す

[水準五] 漂白

多段階タワー・ECF/TCFへの置き換え

▲

│ リグニンと色素を減らして白くする

[水準四] 化学パルプとクラフト法

蒸解釜・黒液の再利用・強い繊維

▲

│ 化学的にリグニンを溶かし出す

[水準三] 機械パルプ

すりつぶしてリグニンを残したまま繊維をほぐす

▲

│ 物理的に繊維をほぐす道

[水準二] 原木から木材チップへ

針葉樹・広葉樹・皮むき・チッパー

▲

│ 原料の下ごしらえ

[水準一] 紙とは何か

植物繊維・セルロース・パルプ・水素結合

 

安全枠: パルプ化・漂白・柔軟剤・湿潤紙力剤に関わる薬品の記述は、すべて工場内の密閉設備の説明にとどめる。家庭での薬品混合・自作合成の手順は一切示さない。

```

 

---

 

## 参照文献(定番教科書・一般資料)

 

1. 紙パルプ製造の標準的な工学教科書群(パルプ化・抄紙・仕上げ加工の工程を扱う、業界団体・大学の教育資料で広く共有されている内容)。

2. カール・F・ダール(Carl F. Dahl)によるクラフト法(サルファイト法に代わる硫酸塩蒸解法)の確立(1879年、ドイツ)に関する製紙技術史の記述。

3. ニコラ=ルイ・ロベール(Nicolas-Louis Robert)による連続製紙機の特許(1799年、フランス)、およびフォードリニア兄弟による実用化の歴史に関する製紙技術史の記述。

4. ティッシュペーパー製造におけるヤンキードライヤー・クレープ加工・TAD(スルーエアドライ)方式に関する、製紙業界の一般的な工程解説資料。

 

---

 

(本冊子は現代学問宇宙図鑑シリーズ BOOK-0347。応用の軌道ステーション群・「作る力と生きる力シリーズ」計算機文明部の第8巻(紙とティッシュペーパーができるまで)。→DIC-0020『紙と印刷の辞典』・→BOOK-0180『紙の折りと強度_折紙工学』・→BOOK-0069『化学派生_化学結合』第1巻を参照。GAKUMON_UNIVERSE.md 進捗台帳・CATALOG_作る力と生きる力シリーズ.mdを参照。)

 




# BOOK-0347 作る力と生きる力: 紙とティッシュペーパーができるまで — 木から繊維、繊維から一枚の膜へ
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定