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# BOOK-0358b PC創造大全 第2部: 電子と部品の物理 — 石ころから生まれた計算する石

> 学問の宇宙・PC創造大全(統合大型巻・BOOK-0358)第2部。ガイド役: Fable 5 監修 / Sonnet 5 執筆(脚本班)
> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。
> **安全枠(§16.18・CATALOG_PC創造大全.md §3を継承・絶対厳守)**: 本冊が扱う実験・作例は、乾電池(単三形1.5V・単四形1.5V・角形9V等)およびUSB電源(5V)の範囲に限定する。家庭のコンセントにつながる交流100Vの配線工事・改造は、電気工事士法により電気工事士の資格を持たない者が行うことを固く禁じられている。本冊はその種の実配線の手順を一切示さず、扱うのはあくまで乾電池・USBという低電圧の直流電源だけである。**電源ユニット(PSU)内部は、電源を抜いて通電を止めたあとも高電圧が残るコンデンサを内蔵しているため絶対に開けない**。故障したPSUは分解して直そうとせず、交換するのが唯一の正しい対処である。
> 接続先: →BOOK-0300『実践工学: 回路の読み方と設計 第1巻』(電圧・電流・抵抗・オームの法則という土台の計算はそちらに拠る)、→BOOK-0342『論理回路からCPUへ』(本冊で学ぶ論理ゲートの物理的な作られ方の先、レジスタとCPUへの接続)、→BOOK-0358a『数と論理の土台』(前部・二進法と論理代数という数の言葉)、→BOOK-0358c『市販PCの構造解剖』(次部・本冊で学ぶ部品が実際のPC内部でどう並んでいるか)。
> 水準: 二〜四(電子とは何かという入口から、電圧・電流・抵抗の物理的な正体、半導体・トランジスタ・論理ゲートの物理的な作られ方、抵抗器・コンデンサ・コイルという受動部品の物理、基板〈PCB〉の読み方までを扱う)。

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# BOOK-0358b PC創造大全 第2部: 電子と部品の物理 — 石ころから生まれた計算する石

# BOOK-0358b PC創造大全 第2部: 電子と部品の物理 — 石ころから生まれた計算する石

 

> 学問の宇宙・PC創造大全(統合大型巻・BOOK-0358)第2部。ガイド役: Fable 5 監修 / Sonnet 5 執筆(脚本班)

> トーン規約: GAKUMON_UNIVERSE.md準拠。専門用語は初出で必ず説明する。

> **安全枠(§16.18・CATALOG_PC創造大全.md §3を継承・絶対厳守)**: 本冊が扱う実験・作例は、乾電池(単三形1.5V・単四形1.5V・角形9V等)およびUSB電源(5V)の範囲に限定する。家庭のコンセントにつながる交流100Vの配線工事・改造は、電気工事士法により電気工事士の資格を持たない者が行うことを固く禁じられている。本冊はその種の実配線の手順を一切示さず、扱うのはあくまで乾電池・USBという低電圧の直流電源だけである。**電源ユニット(PSU)内部は、電源を抜いて通電を止めたあとも高電圧が残るコンデンサを内蔵しているため絶対に開けない**。故障したPSUは分解して直そうとせず、交換するのが唯一の正しい対処である。

> 接続先: →BOOK-0300『実践工学: 回路の読み方と設計 第1巻』(電圧・電流・抵抗・オームの法則という土台の計算はそちらに拠る)、→BOOK-0342『論理回路からCPUへ』(本冊で学ぶ論理ゲートの物理的な作られ方の先、レジスタとCPUへの接続)、→BOOK-0358a『数と論理の土台』(前部・二進法と論理代数という数の言葉)、→BOOK-0358c『市販PCの構造解剖』(次部・本冊で学ぶ部品が実際のPC内部でどう並んでいるか)。

> 水準: 二〜四(電子とは何かという入口から、電圧・電流・抵抗の物理的な正体、半導体・トランジスタ・論理ゲートの物理的な作られ方、抵抗器・コンデンサ・コイルという受動部品の物理、基板〈PCB〉の読み方までを扱う)。

 

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## 入口の物語 — 「抵抗器の中身は、結局なにでできているんですか」

 

BOOK-0300で回路図の記号を覚え、オームの法則で電圧・電流・抵抗の関係を計算できるようになった新人技師は、ある日、手のひらに載るほど小さな抵抗器を一つつまみ上げて、先輩にこう尋ねた。

 

「V=I×Rで計算はできるようになりました。でも、この小さな部品の中身は、結局なにでできているんですか。どうして電気の流れを妨げるなんてことが、こんな小さな筒にできるんでしょう」

 

先輩は少し驚いた顔をしたあと、うれしそうに笑った。「いい質問だ。それは、回路図の記号と数式だけでは見えてこない領域の話だな」。先輩は続けた。「電気を流すもの、流さないもの、その中間のもの――この世界の物質は、電気の通しやすさで大きく三つに分けられる。金属のような導体、ゴムのような絶縁体、そしてその中間にある半導体だ。この抵抗器の中身は、実は電気を通しにくい材料でできた細い線や膜でできている。電気を通しにくくする度合いを、材料の種類と太さと長さで調整しているんだ」。

 

「じゃあ、半導体というのは何なんですか。パソコンの中心にあるCPUという部品も半導体でできていると聞いたことがあります」

 

「その通り。半導体こそが、この格納庫の奥にある計算機――パソコンやスマートフォン――のすべての土台になっている材料だ。今日から少し長い旅になるが、電子という粒子の正体から出発して、半導体がどうやって電気の通り方を自在に操れる材料になるのか、その半導体を使ってトランジスタという小さなスイッチがどう作られるのか、そのスイッチを何十億個も組み合わせるとどうしてAND・OR・NOTのような論理回路(→BOOK-0342で扱った内容)が物理的に実現できるのか、そして君がいま手にしている抵抗器や、基板の上に並んでいるコンデンサやコイルが物理的には何をしているのか――この一直線をたどってもらう」。

 

新人技師は、手のひらの上の小さな抵抗器を見つめ直した。ほんの数ミリの部品の中に、これほどの物理が詰まっているとは思っていなかった。「最後には、基板そのものの読み方も扱う。緑色や黒色の板の上に、部品と、細い金属の線(パターン)が並んでいるあの板だ。あれも、ただの飾りではなく、電子を運ぶ配線そのものが印刷された、いわば『固まった回路図』なんだ」。

 

「家を建てるときの設計図と、どこか似ていますね」と新人技師は言った。「基礎があって、柱や梁で骨組みを作って、そこに配線や配管を通して、最後に壁で覆う……。パソコンも、電源という土台があって、マザーボードという骨組みがあって、そこに部品という配線・配管が乗っていて、最後にケースという壁で覆われている」。

 

先輩は目を丸くした。「よく気づいたな。実はこの学問の宇宙全体でも、家の建て方とパソコンの組み立ては、同じ構造を持つものとして並べて教えられている(→BOOK-0346『作る力と生きる力: 建築構造の基礎』)。基礎工事にあたるのが電源(電力という土台を作る部分)、骨組みにあたるのがマザーボード(すべての部品を載せる骨格)、配線・配管にあたるのが基板の銅箔パターンや電線、そして断熱材や壁の仕上げにあたるのが、まさに今日の話に出てきた絶縁体だ。ただし一つだけ、家づくりには存在しない特別な材料がある」

 

「半導体、ですか」

 

「その通り。家の壁や柱には『電気を通す/通さない』の二択で十分だが、パソコンの頭脳になるには、電気の通り方を自在に操作できる、中間の性質を持つ材料が必要になる。それが半導体だ。家づくりの知識だけでは、パソコンの中心にある頭脳の部分までは説明がつかない。今日からの旅は、その『家づくりの知識では足りない部分』——電子・半導体・トランジスタ・論理ゲート——を埋めていく旅でもある」。

 

この一言が、本冊(PC創造大全 第2部)の出発点になる。回路図の記号を読み、オームの法則で数値を計算する力(→BOOK-0300)の先に、その部品一つひとつが物理的になぜそう振る舞うのかを、電子という一番小さな粒子から積み上げていく。すべての実験と検算は、これまでと同じく、乾電池とUSB電源という低電圧の直流の範囲にとどめる。

 

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## 第一章: 電子とは何か — すべての電気現象の主役(水準二)

 

### 原子の中にいる三種類の粒子

 

身の回りのあらゆる物質は、**原子(げんし、水準一: 物質を構成する、それ以上化学的に分解できない最小の単位の粒子)**の集まりでできている。原子の中心には**原子核(げんしかく、水準二: 原子の中心にある、陽子と中性子が集まった非常に小さくて重い部分)**があり、その周りを**電子(でんし、水準二: 原子核の周りに存在し、負の電荷を帯びた、非常に軽い粒子)**という粒子が取り巻いている。原子核の中には、正の電荷を帯びた**陽子(ようし、水準二: 原子核を構成する、正の電荷を帯びた粒子)**と、電荷を持たない**中性子(ちゅうせいし、水準二: 原子核を構成する、電荷を持たない粒子)**が詰まっている。

 

電子が帯びている電荷の大きさは、1個あたりおよそ1.6×10⁻¹⁹クーロン(**クーロン**は電荷の量を表す単位、記号C)という、想像しにくいほど小さな値である。ふつうの原子では、原子核の中の陽子の数と、その周りを回る電子の数が等しいため、原子全体としてはプラスとマイナスが打ち消し合い、電気的に中性(電荷を持たない状態)になっている。電気の現象――電流が流れる、静電気で紙が引き寄せられる、電池が電圧を生み出す――は、すべてこの電子という一粒の粒子が、原子から離れたり、別の原子に移ったり、大勢でいっせいに動いたりすることで起きている。

 

### 自由電子 — 金属の中を動き回れる電子

 

原子の中の電子は、すべてが原子核に強くつなぎ止められているわけではない。金属を作っている原子(銅・アルミニウム・金など)の中には、原子核から比較的離れた軌道を回っており、隣の原子へ簡単に飛び移ってしまえるほど弱くしか束縛されていない電子が存在する。この、特定の原子に属さず金属の内部を自由に動き回れる電子を**自由電子(じゆうでんし、水準二: 金属原子から離れ、金属内部を自由に動き回れる電子)**と呼ぶ。

 

金属が電気をよく通す理由は、まさにこの自由電子の多さにある。銅の内部には、1立方センチメートルあたりおよそ10の22乗個(10兆個をさらに100億倍した数)という桁違いの数の自由電子が詰まっているとされる。電池をつないで電圧という「押す力」を金属線の両端にかけると、この無数の自由電子がいっせいに一方向へ引っ張られ、電子の流れが生まれる。BOOK-0300で電流を「川を流れる水の量」にたとえたが、その水の粒一つひとつの正体が、実はこの自由電子なのである。

 

### 検算1 — 電子1個の電荷から、身近な電流の中を流れる電子の数を見積もる

 

1アンペア(1A)の電流とは、1秒間に1クーロンの電荷が通過することだと定義されている(→BOOK-0005で扱った電流の定義)。電子1個が運ぶ電荷はおよそ1.6×10⁻¹⁹クーロンなので、1秒間に何個の電子が通過すれば1クーロンになるかは、割り算で見積もれる。

 

```

1クーロン ÷ (1個あたり1.6×10⁻¹⁹クーロン) ≈ 6.25×10¹⁸個

```

 

つまり、たった1アンペアという、乾電池を使った簡単な回路でもごくふつうに流れる電流の中でさえ、1秒間におよそ600京(けい)個――6の後にゼロが18個も並ぶ、途方もない数――の電子が通過している計算になる。電子1個1個の電荷はあまりに小さいため、実用的な電流を生み出すには、これほど膨大な数の電子が力を合わせる必要があるのである。

 

### コラム — 電子の移動速度は、実はとても遅い

 

回路のスイッチを入れた瞬間、豆電球やLEDはほとんど一瞬で反応する。この様子を見ると、電子がものすごい速さで導線の中を飛んでいるように感じられるかもしれない。しかし実際には、自由電子1個1個の平均的な移動速度(**ドリフト速度**、水準三: 電圧をかけたときに自由電子の集団が全体としてゆっくり移動していく平均速度)は、驚くほど遅い。1アンペア程度の電流が、太さ1平方ミリメートルほどの銅線を流れるとき、電子1個1個は1秒間に1ミリメートルにも満たない距離しか進まない、という見積もりが物理の教科書でよく紹介される。

 

それでもスイッチを入れた瞬間にLEDが光るのは、導線の中にすでに自由電子がぎっしり詰まっており、片方の端を電圧で押した効果が、電子同士の押し合いを通じてほぼ光の速さに近い速度で導線全体へ伝わるためである。押された最初の電子自体がLEDまで到達しなくても、行列の後ろの人を押すと行列全体がすぐに動き出すのと同じように、電気的な「押す力」の伝わり方と、電子1個1個の移動速度はまったく別物なのである。

 

### 電子殻という「部屋割り」 — 原子番号とシリコンの位置

 

原子核の周りを回る電子は、実はでたらめな軌道を自由に飛んでいるわけではなく、原子核からの距離によって決まった「層」に分かれて存在している。この層を**電子殻(でんしかく、水準二: 原子核の周りで、電子が存在できる決まった層。原子核に近い順にK殻・L殻・M殻…と呼ばれる)**と呼ぶ。それぞれの電子殻に入れる電子の数には上限があり、内側の殻から順に埋まっていく。原子が持つ陽子の数(原子核のプラス電荷の数)を**原子番号(げんしばんごう、水準二: 元素ごとに決まった、原子核の中の陽子の数)**と呼び、この番号によって元素の種類が決まる。

 

シリコンは原子番号14の元素であり、電子殻の並びはK殻に2個、L殻に8個、いちばん外側のM殻に4個という配置になっている。このいちばん外側の殻にある電子(第三章で扱う価電子)の数が4個であることが、シリコンが半導体としての性質を持つ土台になっている。ちなみに、金属の代表格である銅は原子番号29で、いちばん外側の殻には電子が1個しかなく、この1個が結晶全体を自由に動き回る自由電子になりやすい。原子番号という、周期表の上での位置の違いが、導体になるか半導体になるかを大きく左右しているのである。

 

### コラム — 静電気も、電子の移動でできている

 

冬場に金属のドアノブに触れてパチッと感じる静電気も、電子の移動が引き起こす現象である。衣類やカーペットとの摩擦によって、体の表面に電子が余分にたまったり(マイナスに帯電)、逆に電子が不足したり(プラスに帯電)する。金属のドアノブのように自由電子が豊富な導体に近づくと、たまっていた電荷が一瞬で移動し、火花と痛みという形で放電される。この、体にたまった静電気が半導体部品を壊してしまう現象(静電破壊、ESD)については、第十一章の基板の扱い方のところで安全上の注意として改めて詳しく扱う。

 

### よくある誤解 — 「電気は導線の中に最初から詰まっている水道水」ではない

 

電流を水の流れにたとえる説明(→BOOK-0300)は理解の助けになるが、「電池をつなぐと、電池の中に貯めてあった電子が導線の中を旅して豆電球まで届く」というイメージは誤解を招きやすい。実際には、導線の中にはもともと自由電子がぎっしり詰まっており、電池がしているのは新しい電子を送り込むことではなく、すでにある自由電子の集団全体を、両端から均等に押し動かすことである。電池の中の化学反応は、マイナス極側で電子を放出し、プラス極側で電子を受け取るという形で、導線全体の電子の「押し合いの均衡」を作り出しているのであり、電子1個1個が電池から豆電球まで長い距離を移動しているわけではない。

 

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> **定着量の目安(第一章)**: 原子・原子核・陽子・中性子・電子・自由電子・電子殻・原子番号という8つの用語を、それぞれの役割(電荷の正負・原子核か軌道上か・金属を動き回れるかどうか・殻のどこにあるか)とセットで説明できるようにするには、用語と定義を結びつける対応ドリルを20問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第二章: 電圧・電流・抵抗の物理的な正体(水準二・BOOK-0300継承)

 

### オームの法則を、電子の目線で見直す

 

BOOK-0300では、電圧・電流・抵抗を「川の高低差・水の量・川底の狭さ」というたとえで扱い、V=I×Rというオームの法則で数値を計算する力を身につけた。本章では、その同じ関係式を、自由電子という粒子の目線で見直す。

 

**電圧(でんあつ)**とは、自由電子を押し流そうとする力の大きさである。電池の中では化学反応によって、プラス極とマイナス極のあいだに自由電子の偏りが作られ、この偏りが自由電子を押し出そうとする力――電圧――を生み出している。**電流(でんりゅう)**とは、その力に押された自由電子の集団が、導線の断面をどれだけの勢いで通過していくかを表す量である。そして**抵抗(ていこう)**とは、自由電子が導線の中を進もうとするときに、金属原子や不純物にぶつかって進みにくくなる度合いを表す量である。自由電子は完全に障害物のない空間を進むのではなく、金属を作る原子の格子(規則正しく並んだ原子の並び)にぶつかりながら進んでいく。この「ぶつかりやすさ」こそが、抵抗という量の物理的な正体である。

 

### 抵抗率という材料ごとの個性

 

同じ長さ・同じ太さの導線でも、銅で作るかアルミニウムで作るかによって抵抗の値は変わる。この、材料そのものが持つ「電気の通しにくさの個性」を**抵抗率(ていこうりつ、水準三: 材料そのものが持つ、電気の流れにくさを表す物性値。単位はΩ・m)**と呼ぶ。抵抗率が小さい材料(銀・銅・金など)ほど電気をよく通し、抵抗率が大きい材料ほど電気を通しにくい。抵抗器という部品の抵抗値は、この抵抗率に加えて、電線の長さと太さという二つの幾何学的な条件によって決まる。この関係は第八章で詳しく扱う。

 

### 検算2 — 電子の目線で見直したオームの法則

 

単三形乾電池4本を直列につないだ電源(合計電圧6V)に、抵抗値150Ωの抵抗器1個だけをつないだ回路を考える。流れる電流は、BOOK-0300と同じくオームの法則`I = V ÷ R`で求められる。

 

```

I = 6V ÷ 150Ω = 0.04A(40mA)

```

 

この40mAという電流は、抵抗値150Ωという「自由電子が金属原子にぶつかって進みにくくなる度合い」によって決まった値である。もし抵抗器を、抵抗率がより小さい(=電気を通しやすい)材料で作られたものに変えれば、同じ長さ・同じ太さでも抵抗値は下がり、同じ6Vの電圧でもより大きな電流が流れることになる。オームの法則という数式の裏側には、こうした自由電子とぶつかる原子との相互作用という、具体的な物理現象が存在しているのである。

 

### 電界という「押す力」の空間的な広がり

 

電圧という「押す力」は、実は導線の中に**電界(でんかい、水準三: 電気的な力が働く空間そのものの状態。電圧をかけると導線の内部に生じ、自由電子を押し流す働きをする)**という形で存在している。電池をつなぐと、導線の内部には電池の電圧に応じた強さの電界が瞬時に生まれ、この電界が導線中のすべての自由電子を同時に押し始める。BOOK-0300のコラムで扱った「回路図の記号は共通言語」という考え方と同じように、電圧・電流・抵抗という三つの量は、電界と自由電子という物理的な実体があってはじめて意味を持つ量なのである。

 

### 検算2b — 抵抗を変えたときの電流の変化を、物理的に読み直す

 

検算2と同じ回路(単三形乾電池4本、合計電圧6V)で、抵抗器を150Ωから2倍の300Ωに変えると、電流は次のように変化する。

 

```

I = 6V ÷ 300Ω = 0.02A(20mA)

```

 

抵抗値を2倍にすると電流はちょうど半分になる、というオームの法則が示す関係は、物理的には「自由電子が原子にぶつかる頻度が2倍になり、同じ電界の強さでは半分の速さでしか進めなくなった」と読み替えられる。抵抗器の中の材料や太さを変えることは、自由電子にとっての「進みやすさ」を直接変えていることに等しい。

 

### コラム — 超伝導という極端な例外

 

ごく特殊な材料を、絶対零度(セ氏マイナス273度)に近い極低温まで冷やすと、電気抵抗が測定できないほどゼロに近づく現象が起きることが知られている。この現象は**超伝導(ちょうでんどう)**と呼ばれ、1911年にオランダの物理学者ヘイケ・カメルリング・オネスが水銀を極低温に冷やす実験の中で発見したとされる。超伝導状態では、自由電子が原子にほとんどぶつからずに進めるようになるためだと理解されている。実用化には特殊な冷却設備が必要であり、本冊が扱う乾電池・USB電源の回路とは縁遠い現象だが、「抵抗はゼロにもなり得る」という事実は、抵抗という量が固定不変のものではなく、あくまで自由電子と原子の相互作用の結果であることを裏づける、印象的な例である。

 

### よくある誤解 — 「電圧が高いほど、いつでも危険」ではない

 

電圧という言葉には「危険」というイメージが付きまとうが、危険かどうかを決めるのは電圧の大きさだけではなく、そこから流せる電流の大きさや、体を通る経路にも左右される。乾電池(1.5V〜9V)は電圧としては低く、指で両極に触れても電流が体を流れる経路の抵抗が大きいため、感電の危険はほとんどない。一方で、静電気は瞬間的に数千ボルトという高い電圧になることがあるが、蓄えられている電荷の量(エネルギー)がごくわずかなため、痛みは感じても人体に重大な危険を与えることは通常ない。逆に、交流100Vのコンセントは、電圧の値そのものは静電気よりはるかに低くても、供給できる電流の量(エネルギー)が桁違いに大きいため、感電すると重大な事故につながる。本冊が乾電池・USB電源という低電圧かつ低エネルギーの範囲に実験を限定しているのは、この「電圧の大きさだけでなく、供給できるエネルギーの大きさ」まで含めて安全を考えているためである。

 

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> **定着量の目安(第二章)**: オームの法則`V = I × R`を、自由電子と金属原子の衝突という物理描像とセットで説明できるようにし、電界という概念とあわせて「電圧の危険性は電流・エネルギーの大きさとセットで決まる」という考え方を説明できるようにするには、検算2・検算2bと同じ形式で電圧・抵抗の数値を変えた電流計算ドリルを15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第三章: 導体・絶縁体・半導体 — 電気の通しやすさの三段階(水準二〜三)

 

### 物質を電気の通しやすさで三つに分ける

 

自由に動ける電子(またはそれに相当する電荷の担い手)の数によって、物質は大きく三つのグループに分けられる。**導体(どうたい、水準二: 自由電子が豊富にあり、電気をよく通す物質。銅・アルミニウム・鉄などの金属が代表例)**、**絶縁体(ぜつえんたい、水準二: 自由に動ける電子がほとんどなく、電気をほとんど通さない物質。ゴム・プラスチック・ガラス・空気などが代表例)**、そしてその中間にある**半導体(はんどうたい、水準二: 導体ほど電気を通しやすくはないが、絶縁体ほど電気を通しにくくもない、中間的な性質を持つ物質。シリコン〈ケイ素〉やゲルマニウムが代表例)**である。

 

電気コードの被覆にゴムやビニール(絶縁体)が使われているのは、内部を流れる電流が外に漏れ出さないようにするためであり、逆に配線そのものに銅(導体)が使われているのは、電流をできるだけ損失なく運ぶためである。この使い分けは、身の回りの電気製品のいたるところで見ることができる。

 

### なぜシリコンが「中間」の性質を持つのか

 

**シリコン(ケイ素、水準二: 原子番号14の元素。地球の地殻に酸素の次に多く含まれ、現代の半導体部品のほとんどの土台になっている材料)**は、原子の中でいちばん外側の軌道にある電子(**価電子〈かでんし〉**、水準三: 原子の最も外側の軌道にあり、化学結合や電気伝導に関わる電子)を4個持っている。シリコンの結晶(原子が規則正しく並んだ固体)では、隣り合うシリコン原子同士がこの4個の価電子をそれぞれ共有し合って、がっちりとした結合を作っている。すべての価電子が結合に使われてしまっているため、純粋なシリコンの結晶には、金属のように自由に動き回れる電子がほとんど存在しない。

 

しかし絶対にゼロというわけではない。常温(だいたい室温くらいの温度)では、熱によるわずかな振動エネルギーで、ごくわずかな価電子が結合から外れて自由に動けるようになる。この数は、銅などの金属が持つ自由電子の数と比べると、十桁以上少ないとされる。つまり純粋なシリコンは、金属ほど電気をよく通さないが、完全に電気を通さないゴムやガラスとも違う、まさに「中間」の性質を持つ材料なのである。

 

### 検算3 — 桁で見る、導体・半導体・絶縁体の違い

 

数値そのものを厳密に覚える必要はないが、桁の違いを実感しておくことは、なぜ半導体が「操作可能な中間の材料」として選ばれたのかを理解するうえで役に立つ。

 

```

導体(銅) の自由電子の数の目安: 1立方センチメートルあたり 10の22乗個 前後

半導体(純シリコン)の自由な担い手の目安: 1立方センチメートルあたり 10の10乗個 前後

絶縁体(ガラス等) の自由な担い手の目安: 実用上ほぼゼロとみなせるほど極端に少ない

```

 

導体と半導体のあいだにはおよそ十桁以上、半導体と絶縁体のあいだにはさらに大きな開きがある。この「中間にありながら大きな幅を持つ」という半導体の性質こそが、次章で扱う**ドーピング**という技術によって、電気の通りやすさを人工的に操れる理由になっている。

 

### 温度によって振る舞いが逆になる、という違い

 

導体(金属)と半導体には、温度に対する反応の仕方にも大きな違いがある。金属を温めると、原子の熱振動が激しくなり、自由電子が原子にぶつかりやすくなるため、抵抗値はむしろ上がる。ところが半導体を温めると、熱エネルギーによって結合から外れて自由に動ける電子(と、後述する正孔)の数そのものが増えるため、抵抗値はむしろ下がる。この「温めると電気を通しやすくなる」という性質は金属には見られない、半導体に特有の振る舞いである。

 

### 身の回りの材料を三分類してみる

 

導体・絶縁体・半導体という分類を、実際の製品の中の材料に当てはめてみると、この三分類がいかに身近であるかがよくわかる。

 

```

導体 の例: 銅(電線・基板の配線パターン)、アルミニウム(放熱板・電線)、金(接点メッキ、腐食しにくいため)

絶縁体 の例: ゴム・ビニール(電線の被覆)、ガラス(電柱の碍子)、セラミック(抵抗器の土台)、空気(通常時)

半導体 の例: シリコン(CPU・メモリ・ほとんどのIC)、ゲルマニウム(初期のトランジスタ)、

ガリウムヒ素(高周波用途・一部のLED)、炭化ケイ素(高耐圧の電力用半導体)

```

 

現代のパソコンの中では、基板の配線パターンやヒートシンクに導体(銅・アルミニウム)が、基板そのものやケーブルの被覆に絶縁体(ガラス繊維入り樹脂・ビニール)が、そしてCPU・メモリ・各種ICのチップそのものに半導体(主にシリコン)が、それぞれ適材適所で使われている。パソコン1台は、この三種類の材料の組み合わせでできている、と言っても過言ではない。

 

### よくある誤解 — 「半導体」は部品の名前ではなく材料の性質を表す言葉

 

「半導体を買ってきた」「半導体が壊れた」というように、半導体という言葉があたかも一つの完成した部品の名前であるかのように使われる場面をよく見かける。しかし本章で扱ってきたとおり、半導体とは本来、導体と絶縁体の中間の電気的性質を持つ「材料」を指す言葉であり、その材料を使って作られたダイオードやトランジスタ、集積回路(IC)といった具体的な「部品」とは、厳密には区別される概念である。ニュースなどで「半導体不足」と言うときは、正確には「半導体という材料を使って作られた各種の部品(IC・トランジスタなど)の供給不足」を指している。この言葉づかいの緩さを知っておくと、材料としての半導体(本章の主題)と、その材料から作られる部品(第五章以降で扱うダイオード・トランジスタ・IC)という二つのレベルを混同せずに整理できる。

 

### コラム — 絶縁体にも「限界」がある

 

絶縁体は電気をほとんど通さない材料だが、絶対にどんな電圧でも電流を通さないというわけではない。絶縁体にかける電圧をどんどん高くしていくと、ある電圧を超えたところで絶縁体の内部の結合が壊れ、突然電流が流れてしまう現象が起きる。この現象を**絶縁破壊(ぜつえんはかい)**と呼び、絶縁体が安全に耐えられる電圧の上限を**絶縁耐力**と呼ぶ。雷が空気という本来は絶縁体である気体を切り裂いて地面まで到達するのも、この絶縁破壊の一種である。電子部品や電線の被覆に使われる絶縁体にも、それぞれ安全に使える電圧の上限が定められており、この上限を超える電圧の回路(たとえば交流100V)に低電圧用の部品を流用することは、絶縁破壊による事故につながる危険がある。本冊が乾電池・USB電源という低電圧の範囲に実験を限定しているのは、扱う電圧そのものが、身の回りの一般的な部品の絶縁耐力を大きく下回る、安全な範囲にとどめるためでもある。

 

### 化合物半導体という選択肢

 

シリコン以外にも、複数の元素を組み合わせて作る**化合物半導体(かごうぶつはんどうたい、水準三: 単一の元素ではなく、二種類以上の元素を組み合わせて作られる半導体材料。ガリウムヒ素や炭化ケイ素などが代表例)**が、特定の用途で使われている。ガリウムヒ素(GaAs)は電子の移動速度がシリコンより速く、高周波用の部品やLEDによく使われ、炭化ケイ素(SiC)や窒化ガリウム(GaN)は高い電圧に耐えられる性質を持つため、電源回路の変換効率を高める部品として近年注目されている。とはいえ、製造のしやすさ・コストの低さ・地殻に豊富に存在する点で、シリコンは依然として半導体産業全体の圧倒的な主役であり続けている。

 

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> **定着量の目安(第三章)**: 導体・絶縁体・半導体という3つの分類と、それぞれの自由な電荷の担い手の数の桁違い、そして身の回りの製品への当てはめを説明できるようにするには、身の回りの材料10種類程度を3分類に仕分けるドリルを15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第四章: 半導体をつくる — ドーピングとN型・P型(水準三)

 

### 不純物を混ぜて、電気の通りやすさを操作する

 

純粋なシリコンだけでは、自由に動ける電子の数が少なすぎて、実用的な部品を作るのは難しい。そこで半導体産業では、シリコンの結晶に、ごくわずかな別の元素をきわめて精密な割合で混ぜ込むという技術が使われる。この技術を**ドーピング(水準三: 半導体の結晶に、ごく微量の別の元素〈不純物〉を意図的に混ぜ込み、電気の通りやすさを操作する技術)**と呼ぶ。

 

### N型半導体 — 電子が余る不純物を混ぜる

 

シリコン原子(価電子4個)の結晶に、価電子を5個持つ元素――代表的には**リン(P)**や**ヒ素(As)**――をごくわずかに混ぜると、混ぜられた不純物原子は周囲のシリコン原子と4個の価電子で結合を作るが、残りの1個の価電子は結合に使われず余ってしまう。この余った電子は、周囲の結合にあまり強く縛られていないため、自由電子として動き回りやすい。このように、電子が余る不純物を混ぜてできた半導体を**N型半導体(えぬがたはんどうたい、水準三: 5価の元素を微量に混ぜ、電子が多数派の電荷の担い手になっている半導体。Nは英語のNegative〈負〉の頭文字)**と呼ぶ。

 

### P型半導体 — 電子が足りない不純物を混ぜる

 

反対に、価電子を3個しか持たない元素――代表的には**ホウ素(B)**や**ガリウム(Ga)**――をごくわずかに混ぜると、混ぜられた不純物原子は周囲のシリコン原子と結合を作ろうとしても、価電子が1個足りない。この電子が足りない場所を**正孔(せいこう、ホール、水準三: 半導体結晶の中で、電子が1個欠けてできた「電子の抜け穴」。あたかもプラスの電荷を持つ粒子のように振る舞う)**と呼ぶ。正孔そのものは実体を持つ粒子ではないが、隣の結合から電子が移動してきて穴を埋めると、今度はその隣に新しい穴ができる、という具合に、まるでプラスの電荷を持った粒子が動いているかのように見える。このように、正孔が多数派の電荷の担い手になっている半導体を**P型半導体(ぴーがたはんどうたい、水準三: 3価の元素を微量に混ぜ、正孔が多数派の電荷の担い手になっている半導体。Pは英語のPositive〈正〉の頭文字)**と呼ぶ。

 

### 多数キャリアと少数キャリア

 

N型半導体では自由電子が圧倒的に多く、正孔はごくわずかしか存在しない。逆にP型半導体では正孔が圧倒的に多く、自由電子はごくわずかしか存在しない。それぞれの半導体で数が多いほうの電荷の担い手を**多数キャリア**、少ないほうを**少数キャリア**と呼ぶ。この「多数派と少数派」という考え方は、次章のPN接合を理解するうえでの土台になる。

 

### コラム — ドーピングの割合はどれくらい微量か

 

ドーピングで混ぜる不純物の割合は、シリコン原子100万個から1億個に対して不純物原子1個程度という、想像を絶するほど微量な範囲で精密に制御される。この極端に精密な濃度の制御こそが、現代の半導体製造工程(→BOOK-0358i素材・環境・進化史で詳しく扱う予定)における最大の技術的な難しさの一つになっている。混ぜる不純物の種類・濃度・場所を精密に設計することで、N型とP型を狙った場所に作り分け、次章以降で扱うダイオードやトランジスタという能動部品(後述)を作り上げていくのである。

 

### 結晶格子の中で起きていること — ASCII図で見るドーピング

 

シリコンの結晶は、原子が規則正しく立体的に並んだ格子構造をしている。平面的に簡略化して描くと、ドーピング前後の違いは次のようなイメージになる。

 

```

【純粋なシリコンの結晶(平面簡略図)】

Si - Si - Si - Si Si どうしが4本の結合(価電子4個ずつ)で

| | | | がっちりつながっている。自由に動ける

Si - Si - Si - Si 電子はほとんど存在しない。

 

【リンをドーピングしたN型(5価元素1個を置き換え)】

Si - Si - Si - Si Pの位置だけ結合の相手が1本余る。

| | | | 余った1個の電子(e⁻)が自由電子になり、

Si - P - Si - Si 電気を通しやすくする担い手になる。

|

e⁻(余った電子、自由に動き回れる)

 

【ホウ素をドーピングしたP型(3価元素1個を置き換え)】

Si - Si - Si - Si Bの位置だけ結合の相手が1本足りない。

| | | | 電子が1個欠けた「穴」ができ、これが

Si - B - Si - Si 正孔(ホール)として振る舞う。

|

○(正孔、電子が抜けた穴)

```

 

この図からもわかるとおり、ドーピングとはシリコンの結晶格子の中に、価電子の数がわずかに違う原子を意図的に置き換えて埋め込む作業であり、その置き換えた原子1個の周りだけに、自由電子または正孔という新しい電荷の担い手が生まれる。

 

### 真性半導体と不純物半導体という呼び分け

 

ドーピングを一切行っていない、純粋なシリコンだけでできた半導体を**真性半導体(しんせいはんどうたい、水準三: 不純物を意図的に加えていない、純粋な半導体)**と呼び、ドーピングによってN型やP型に作り分けた半導体を**不純物半導体(ふじゅんぶつはんどうたい、水準三: ドーピングによって意図的に不純物を加えた半導体)**と呼ぶ。実用的な半導体部品のほとんどは不純物半導体であり、真性半導体そのものが単独で部品として使われる場面は多くない。

 

### よくある誤解 — 正孔は「電子の反対の粒子」ではない

 

正孔という言葉から、電子とは正反対の性質を持つ独立した粒子が実在するかのようなイメージを持ってしまいやすい。しかし正孔の実体は、あくまで「電子が1個欠けた場所」であり、独立した素粒子ではない。隣の結合にいる電子が移動してその穴を埋めると、今度は移動元の場所に新しい穴ができる、という具合に、穴という「不在の状態」そのものが、あたかもプラスの電荷を持った粒子のように結晶の中を動き回って見える、という言い換えにすぎない。とはいえ、この「あたかも粒子のように振る舞う」という近似は、P型半導体の電気伝導を計算するうえで極めて実用的であり、正孔を独立した電荷の担い手として扱う考え方は、半導体工学の標準的な手法として広く使われている。

 

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> **定着量の目安(第四章)**: ドーピング・N型半導体・P型半導体・正孔・多数キャリア・少数キャリア・真性半導体・不純物半導体という8つの用語を、価電子の数(5価か3価か)と結びつけて説明できるようにするには、N型/P型の判定ドリル(不純物の価電子数を与えてN型かP型かを答える)を15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第五章: PN接合とダイオード — 電流を一方通行にする物理(水準三)

 

### N型とP型を接合すると何が起きるか

 

N型半導体とP型半導体を一つの結晶の中で隣り合わせに作ると、その境界面に特別な現象が起きる。この境界面を**PN接合(ぴーえぬせつごう、水準三: N型半導体とP型半導体が接する境界面。ダイオードなど多くの半導体部品の動作の土台になる構造)**と呼ぶ。接合した直後、N型側で余っている自由電子の一部が境界を越えてP型側へ拡散し、そこにある正孔と結びついて消え合う(電子と正孔が結びついて電荷の担い手としての性質を失うことを**再結合**と呼ぶ)。同様に、P型側の正孔の一部もN型側へ拡散し、そこの自由電子と再結合する。

 

この拡散と再結合の結果、境界付近には自由電子も正孔もほとんど存在しない、電気を通しにくい薄い領域ができあがる。この領域を**空乏層(くうぼうそう、水準三: PN接合の境界付近にできる、自由電子や正孔がほとんど存在しない薄い領域)**と呼ぶ。空乏層ができる過程で、N型側は電子を失ってわずかにプラスに、P型側は正孔を失ってわずかにマイナスに帯電し、この電荷の偏りが空乏層をそれ以上広げないよう釣り合う向きの電圧(内部電位)を作り出す。

 

### 順方向バイアス — 電流が流れる向き

 

PN接合のP型側に電池のプラス極を、N型側にマイナス極をつなぐと、電池の電圧が空乏層を狭める方向に働く。この、電流が流れやすくなるようなつなぎ方を**順方向バイアス(じゅんほうこうばいあす、水準三: PN接合に対し、電流が流れやすくなる向きに電圧をかけること)**と呼ぶ。空乏層が十分狭まると、N型側の自由電子とP型側の正孔が接合面を越えて自由に移動できるようになり、回路に電流が流れる。

 

### 逆方向バイアス — 電流がほとんど流れない向き

 

反対に、P型側に電池のマイナス極を、N型側にプラス極をつなぐと、電池の電圧は空乏層をさらに広げる方向に働く。この、電流が流れにくくなるつなぎ方を**逆方向バイアス(ぎゃくほうこうばいあす、水準三: PN接合に対し、電流がほとんど流れなくなる向きに電圧をかけること)**と呼ぶ。空乏層が広がるほど、電子と正孔は接合面を越えられなくなり、回路にはごくわずかな漏れ電流しか流れなくなる。

 

### ダイオードの整流作用 — BOOK-0300で扱った記号の物理的な正体

 

BOOK-0300第一章で紹介した**ダイオード**の記号(三角形とその先端の横棒)は、まさにこのPN接合1個をパッケージ化した部品である。三角形が示す「電流が流れてよい方向」とは、P型側からN型側へ向かう順方向のことであり、逆向きにはほとんど電流が流れないという性質を、記号の形そのものが視覚的に表している。この、電流を一方向にだけ流す性質を**整流作用(せいりゅうさよう、水準三: 電流を一方向にだけ流し、逆方向にはほとんど流さない性質)**と呼ぶ。

 

### 検算4 — 乾電池でダイオードの向きを確かめる

 

単三形乾電池1本(1.5V)とLED(発光ダイオードの一種)を使い、順方向につないだ場合と逆方向につないだ場合を比べる。順方向(電池のプラス極をLEDの三角形の底辺側へ)につなげば、LEDの順方向電圧(前述、BOOK-0300検算5で扱った、電流を流すために最低限必要な電圧)を電池電圧が上回っていれば点灯する。逆方向につなぐと、空乏層が広がって電流がほとんど流れないため、LEDは点灯しない。この「向きを変えただけで点いたり点かなかったりする」という現象こそが、PN接合の整流作用を最も手軽に体感できる実験であり、乾電池1本という低電圧の範囲で安全に確かめられる。

 

### コラム — 逆方向の電流がゼロにならない理由

 

逆方向バイアスでも、実際にはごくわずかな電流(逆方向漏れ電流)が流れる。これは、熱によって空乏層の中でもわずかに生じる自由電子や正孔が、電圧に押されて動いてしまうためである。この漏れ電流は実用上ほぼ無視できるほど小さいが、温度が上がるとやや増える性質があり、半導体部品が高温になりすぎると誤動作しやすくなる理由の一つになっている。PCの内部で冷却(ファンやヒートシンク)が重視されるのは、この温度と半導体の動作の関係とも無縁ではない(→BOOK-0358e熱と電源の解析で詳しく扱う予定)。

 

### ツェナーダイオード — わざと逆方向に電流を流す特殊なダイオード

 

ダイオードは基本的に「逆方向には電流を流さない」部品として扱われるが、逆方向バイアスの電圧をどんどん高くしていくと、ある一定の電圧を超えたところで急に電流が流れ始めるという性質がある。この、わざとこの性質を利用するように設計されたダイオードを**ツェナーダイオード(水準四: 逆方向バイアスである電圧〈ツェナー電圧〉を超えると急激に電流が流れ始める性質を持つよう設計された、特殊なダイオード)**と呼ぶ。ツェナー電圧を超えた領域では、電流が変化してもダイオードの両端の電圧がほぼ一定に保たれるという性質があるため、電源回路の中で電圧を一定に保つ**基準電圧源**として使われることが多い。パソコンのマザーボード上の電源回路にも、電圧を安定させる目的でツェナーダイオードやそれに類する部品が使われている。

 

### 整流ダイオードと電源回路 — 交流を直流に変える働き

 

ダイオードの整流作用(電流を一方向にだけ流す性質)は、パソコンの電源ユニット(PSU)の内部で、家庭のコンセントから来る交流を直流に変換する回路の中心的な役割を果たしている。交流は時間とともにプラスとマイナスが入れ替わる電流だが、ダイオードを適切に組み合わせた回路(**整流回路**)を通すと、マイナス方向の成分がプラス方向に折り返され、向きの揃った脈動する直流に変換される。この脈動を第九章で扱うコンデンサが滑らかにし、最終的にパソコンの各部品が必要とする安定した直流電圧が作られる。ただし、この交流を扱う整流回路そのものは、電気工事士の資格が必要な交流100V配線の領域と直結する高電圧回路であり、**PSU内部の実際の整流回路に手を触れることは、本冊の安全枠が固く禁じる範囲である**。本冊で扱うのはあくまで、整流作用という物理現象の仕組みと、乾電池・USB電源(すでに直流に変換済みの低電圧)を使った検算・実践までにとどめる。

 

### コラム — トランジスタ以前、真空管という選択肢

 

半導体によるダイオードやトランジスタが実用化される以前、20世紀前半のコンピュータや電子機器では、ガラス管の中の電極に電圧をかけ、真空中を飛ぶ電子の流れを制御する**真空管(しんくうかん)**という部品が、整流や増幅の役割を担っていた。真空管は動作原理こそ半導体部品と大きく異なるが、「電流を一方向にだけ流す(整流)」「小さな信号を大きくする(増幅)」という果たす役割そのものは、ダイオードやトランジスタと共通していた。真空管は寿命が短く、サイズが大きく、消費電力も大きかったため、次章で扱うトランジスタの発明以降、急速に半導体部品へ置き換えられていったとされる(この技術の年代的な移り変わりは→BOOK-0358i素材・環境・進化史で詳しく扱う予定)。

 

### よくある誤解 — ダイオードは「抵抗器の仲間」ではない

 

ダイオードを、単に「電流を流しにくくする部品」という意味で抵抗器の仲間だと誤解してしまうことがあるが、両者の振る舞いはまったく異なる。抵抗器はオームの法則`V = I × R`にしたがい、電圧を2倍にすれば電流もほぼ2倍になるという、電圧と電流が比例する関係を持つ(BOOK-0300・本冊第二章)。これに対しダイオードは、順方向バイアスであれば空乏層がほぼ消えて電流が急激に流れ始め、逆方向バイアスであればほとんど電流が流れないという、電圧と電流が比例しない、大きく非対称な振る舞いをする部品である。この「電圧と電流が比例しない」という性質を持つ部品を**非線形素子(ひせんけいそし、水準三: 電圧と電流が比例の関係にない部品。ダイオード・トランジスタなど多くの半導体部品が該当する)**と呼び、抵抗器・コンデンサ・コイルのような**線形素子**(電圧と電流、あるいは電圧と電荷、電流と磁束が比例の関係にある部品)とは区別して扱われる。この区別は、回路の動作を計算するうえで、単純な比例計算(オームの法則)がそのまま使える部品かどうかを見分ける、実用上重要な視点になる。

 

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> **定着量の目安(第五章)**: PN接合・空乏層・順方向バイアス・逆方向バイアス・整流作用・ツェナーダイオードという6つの用語を、電子と正孔の動きとセットで説明できるようにするには、順方向/逆方向の判定ドリル(電池のつなぎ方を示して電流が流れるか流れないかを答える)を15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第六章: トランジスタ — 増幅とスイッチの部品(水準三〜四)

 

### PN接合を二つ組み合わせる

 

ダイオードがPN接合1個でできているのに対し、**トランジスタ(水準三: 半導体でできた、電気信号を増幅したり、電流のオン/オフを切り替えたりできる部品)**は、PN接合を二つ組み合わせた、より複雑な構造を持つ。もっとも基本的な構造の一つが、N型・P型・N型という順番で半導体を並べた**NPN型トランジスタ**である(P型・N型・P型と並べたPNP型トランジスタもあるが、本冊では動作原理が理解しやすいNPN型を中心に扱う)。

 

NPN型トランジスタの三つの領域には、それぞれ名前が付けられている。**エミッタ(E)**・**ベース(B)**・**コレクタ(C)**の三つの端子(水準三: それぞれ、電子を送り出す領域〈エミッタ〉、電流の流れを制御する薄い領域〈ベース〉、電子を受け取る領域〈コレクタ〉)であり、真ん中のベース領域は、両側のエミッタ・コレクタと比べて極端に薄く作られている点が、トランジスタの動作の鍵になる。

 

### 小さな電流で、大きな電流を制御する — 電流増幅

 

ベースとエミッタのあいだにごくわずかな電流(ベース電流)を流すと、エミッタからベース領域へ大量の自由電子が送り込まれる。ベース領域が極端に薄いため、これらの電子のほとんどはベース領域で正孔と再結合する前に、隣接するコレクタ領域まで一気に通り抜けてしまう。その結果、ベースに流したわずかな電流の何十倍、何百倍もの大きさの電流が、コレクタ―エミッタ間に流れることになる。この、小さな入力電流で大きな出力電流を制御する性質を**電流増幅(でんりゅうぞうふく、水準四: 小さな入力電流の変化によって、それよりはるかに大きな出力電流を制御する働き)**と呼び、出力電流と入力電流の比を**電流増幅率(hFE、水準四: コレクタ電流をベース電流で割った比率。トランジスタごとに定まった値を持つ)**と呼ぶ。

 

### 検算5 — 電流増幅率からコレクタ電流を求める

 

電流増幅率(hFE)が200のトランジスタに、ベース電流として30マイクロアンペア(µA、1µAは100万分の1アンペア。0.00003A)を流したとする。コレクタ電流は、電流増幅率とベース電流の掛け算で求められる。

 

```

IC = hFE × IB = 200 × 0.00003A = 0.006A(6mA)

```

 

ベースにはわずか0.03mA(30µA)しか流していないのに、コレクタには200倍の6mAという電流が流れる計算になる。この「小さな電流で大きな電流を操れる」という性質こそが、トランジスタが**増幅器(信号を大きくする部品)**として使われる理由であり、乾電池(角形9Vなど)を電源としたごく小規模な回路でも、この増幅の様子を体感できる。

 

### スイッチとしてのトランジスタ — デジタル回路への入口

 

トランジスタは、信号を滑らかに大きくする増幅器として使うだけでなく、ベース電流を完全にゼロにしたとき(コレクタ電流もほぼゼロになる状態、**遮断〈しゃだん〉領域**と呼ばれる)と、ベース電流を十分に流したとき(コレクタ―エミッタ間の抵抗がほぼゼロに近づく状態、**飽和〈ほうわ〉領域**と呼ばれる)という、二つの極端な状態だけを使う使い方もできる。この二状態だけを使う使い方こそが、BOOK-0342で扱った「0と1」というデジタル信号の物理的な作り方そのものである。ベース電流のオン/オフだけで、コレクタ側につないだLEDを点灯/消灯させられるという回路は、この「トランジスタ=電子スイッチ」という性質を、乾電池だけで安全に確かめられる典型的な実践解になる(後述する三つの実践解の一つとして扱う)。

 

### MOSFET — 電圧で制御するトランジスタ

 

現代のパソコンの内部で圧倒的に多く使われているのは、ここまで説明したバイポーラトランジスタ(NPN型・PNP型)ではなく、**MOSFET(もすふぇっと、水準四: 金属〈Metal〉・酸化膜〈Oxide〉・半導体〈Semiconductor〉の頭文字を取った、電圧によって電流のオン/オフを制御するトランジスタの一種)**という部品である。バイポーラトランジスタがベース電流という「電流」で制御されるのに対し、MOSFETは**ゲート(G)**という端子にかける「電圧」だけで、**ソース(S)**―**ドレイン(D)**間の電流のオン/オフを制御する。ゲートには電流がほとんど流れ込まないため、消費する電力が小さく、極めて多数の部品を1個のチップに詰め込む必要がある現代のCPU・GPUでは、電圧制御のMOSFETがほぼ標準の部品として使われている。次章の論理ゲートの物理実装は、このMOSFETを土台にして解説する。

 

MOSFETの内部構造は、バイポーラトランジスタとは異なる。ソースとドレインという二つのN型(またはP型)領域を、P型(またはN型)の土台の中に離して作り、その間の表面を極薄の絶縁膜(酸化膜)で覆い、さらにその上に金属または導電性材料でできたゲート電極を重ねた構造をしている。ゲートに十分な電圧をかけると、絶縁膜のすぐ下の土台内部に、ソースとドレインをつなぐ薄い電流の通り道(**チャネル**、水準四: MOSFETでゲート電圧によって形成される、ソース―ドレイン間の電流の通り道)が誘導され、電流が流れるようになる。ゲート電圧をこの通り道が形成される最低限の電圧(**しきい値電圧**、水準四: MOSFETのチャネルが形成され始める、ゲート―ソース間電圧の境目の値)より下げると、通り道は消え、電流はほぼ流れなくなる。

 

### 検算5b — 動作領域を切り替える境目を確かめる

 

前述のバイポーラトランジスタの例(hFE=200)に戻り、今度はベース電流を段階的に増やしたときのコレクタ電流の変化を見てみる。ベース電流が0のとき(遮断領域)、コレクタ電流は0である。ベース電流を少しずつ増やしていくと、`IC = hFE × IB`の関係にしたがってコレクタ電流も増えていく。しかし、電源電圧と外部の抵抗器によって流せる電流には上限があるため、ベース電流をある程度以上増やすと、コレクタ電流はそれ以上増えずに頭打ちになる(飽和領域)。たとえば電源電圧9V・コレクタ側の抵抗器900Ωの回路では、コレクタ電流の上限はオームの法則から`9V ÷ 900Ω = 0.01A(10mA)`程度で頭打ちになると見積もれる。この「増幅が効く範囲(活性領域)」と「頭打ちで完全にオンになる範囲(飽和領域)」、そして「完全にオフの範囲(遮断領域)」という三つの領域を切り替えて使い分けることが、トランジスタを増幅器としてもスイッチとしても使いこなす鍵になる。

 

### 歴史コラム — トランジスタの発明(1947年、ベル研究所)

 

トランジスタは、1947年にアメリカのベル研究所で、ジョン・バーディーン、ウォルター・ブラッテン、ウィリアム・ショックレーの3人によって発明されたとされる。それ以前の増幅・整流の役割を担っていた真空管(第五章コラム参照)と比べて、トランジスタははるかに小型・省電力・長寿命であり、この発明が現代の電子機器・コンピュータの土台を築いたことから、3人は1956年にノーベル物理学賞を受賞したとされる。初期のトランジスタはゲルマニウムを材料に使うことが多かったが、その後、より安定した性能と豊富な原料を持つシリコンを使ったトランジスタが主流になり、現在に至っている。

 

### よくある誤解 — 「トランジスタは電圧を増幅する」とは限らない

 

トランジスタを「電圧を大きくする部品」だと誤解してしまうことがあるが、バイポーラトランジスタが直接増幅しているのは電流である。もちろん、増幅された電流を抵抗器に流せば、その抵抗器の両端に大きな電圧が生じるため、結果として電圧の増幅として利用することもできるが、トランジスタそのものの動作原理はあくまで「小さな電流の変化で、大きな電流を制御する」という電流増幅にある。MOSFETの場合はさらに、制御する側が電流ではなく電圧(ゲート電圧)であるという違いもあるため、「バイポーラは電流で電流を制御し、MOSFETは電圧で電流を制御する」という対比を押さえておくと、両者の違いを混同しにくくなる。

 

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> **定着量の目安(第六章)**: エミッタ・ベース・コレクタという三端子の役割、電流増幅率hFEを使ったコレクタ電流の計算(検算5・検算5bと同じ形式)、活性/飽和/遮断という三つの動作領域、およびMOSFETが電圧制御である点をバイポーラトランジスタの電流制御と対比して説明できるようにするには、増幅率計算ドリルを15問程度と、バイポーラ/MOSFETの違いを問う一問一答を10問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第七章: 論理ゲートの物理的実装 — CMOSでAND・OR・NOTを作る(水準四)

 

### BOOK-0342のスイッチ模型から、実際のトランジスタへ

 

BOOK-0342では、AND回路を「スイッチを直列につないだもの」、OR回路を「スイッチを並列につないだもの」というたとえで説明した。あの説明は、論理の規則(真理値表)を理解するうえでは正確だが、実際のCPUの内部では、機械式のスイッチではなく、前章で学んだMOSFETという電子部品が、電気信号だけで同じ役割を果たしている。本章では、そのMOSFETを使ってNOT・AND・OR回路が物理的にどう組まれているのかを見ていく。

 

### CMOS — PMOSとNMOSを組み合わせる技術

 

MOSFETには、電圧が高いときにオンになる**NMOS(えぬもす、水準四: ゲート電圧が高いときに導通するMOSFET)**と、電圧が低いときにオンになる**PMOS(ぴーもす、水準四: ゲート電圧が低いときに導通するMOSFET)**の二種類がある。この性質の異なる二つを組み合わせて論理回路を作る技術を**CMOS(しーもす、水準四: Complementary MOS〈相補型MOS〉の略。PMOSとNMOSを対にして組み合わせ、消費電力を抑えながら論理回路を実現する技術)**と呼ぶ。現代のCPU・GPU・メモリの内部は、ほぼすべてこのCMOS技術で作られている。

 

### NOTゲート(インバータ)の物理構造

 

もっとも単純な論理ゲートであるNOTゲート(**インバータ**とも呼ぶ)は、PMOS1個とNMOS1個だけで作ることができる。PMOSのソースを電源のプラス側(高い電圧、これを1とみなす)に、NMOSのソースを電源のマイナス側(0V、これを0とみなす)につなぎ、両方のドレインを出力端子として共通につなぐ。そして両方のゲートを、共通の入力端子につなぐ。

 

```

入力が0(低電圧)のとき:

PMOS → オンになる(電圧が低いほどオンになる性質のため)

NMOS → オフになる(電圧が高くないとオンにならない性質のため)

→ 出力は電源のプラス側とつながり、出力=1

 

入力が1(高電圧)のとき:

PMOS → オフになる

NMOS → オンになる

→ 出力は電源のマイナス側(0V)とつながり、出力=0

```

 

入力が0のときPMOSだけがオンになって出力が1になり、入力が1のときNMOSだけがオンになって出力が0になる。この「入力を反転させる」振る舞いこそが、NOT回路の物理的な正体である。BOOK-0342の真理値表(入力0→出力1、入力1→出力0)と、このCMOS回路の振る舞いが完全に一致していることを確かめられる。

 

### ANDゲート・ORゲートの物理構造

 

AND回路・OR回路は、NOT回路よりもやや複雑なMOSFETの組み合わせで作られる。実際の設計では、まず**NANDゲート(なんど、水準四: AND回路の出力をさらに反転させた回路。NOT AND の意味)**や**NORゲート(のあ、水準四: OR回路の出力をさらに反転させた回路。NOT OR の意味)**という、CMOSでは比較的少ないトランジスタ数で作れる回路をまず組み、その出力にさらにNOTゲート(インバータ)を1段つなぐことで、AND回路・OR回路を作るという設計がよく使われる。この「まず反転した回路を作り、もう一度反転して元に戻す」という一見遠回りな手順が使われるのは、CMOS技術ではNAND・NORのほうがAND・ORよりも少ないトランジスタ数で、かつ高速に作れるという物理的な事情があるためである。

 

### CMOSが消費電力を抑えられる理由

 

CMOSが現代のチップでほぼ標準的に使われている最大の理由は、消費電力の少なさにある。前述のNOTゲートの動作を見直すと、入力が0のときも1のときも、PMOSとNMOSのどちらか一方は必ずオフになっている。電源のプラス側からマイナス側まで、オンになった経路がつながりっぱなしになることがないため、信号が切り替わらずに安定している状態(**静止状態**)では、理想的にはほとんど電流が流れず、消費電力もごくわずかで済む。実際に電力を消費するのは、入力が0から1へ、あるいは1から0へと切り替わる、まさにその瞬間だけである。この性質のおかげで、何十億個ものトランジスタを1個のチップに詰め込んでも、発熱を実用的な範囲に抑えられる。逆に言えば、CPUが激しく計算をして論理ゲートが高速に切り替わり続けているときほど、消費電力と発熱は増える(→BOOK-0358e熱と電源の解析へ接続)。

 

### NAND1個からANDを作る — 真理値表で確かめる

 

NANDゲート(AND回路の出力を反転させた回路)の出力に、NOTゲートをもう1段つなぐと、AND回路と同じ真理値表を持つ回路が完成する。この様子を、真理値表を並べて確かめてみよう。

 

```

A B NAND(A,B) NOT(NAND(A,B)) = AND(A,B)

0 0 1 0

0 1 1 0

1 0 1 0

1 1 0 1

```

 

NANDの出力をもう一度反転させると、AND回路が本来持つべき真理値表(BOOK-0342検算1の表)と完全に一致する。「反転してから、もう一度反転する」という二段構えの回路が、遠回りに見えて実は最も少ないトランジスタ数でAND動作を実現できる、CMOS設計における定番の作り方になっている。OR回路も同様に、NORゲートの出力にNOTゲートを1段つなぐことで作られる。

 

### XORゲート — 「どちらか一方だけ」を判定する回路

 

AND・OR・NOTの組み合わせで作れる、もう一つの重要な論理ゲートに**XOR回路(排他的論理和回路、水準四: 2つの入力のうち、どちらか一方だけが1のときに出力が1になり、両方とも0または両方とも1のときは出力が0になる回路)**がある。XOR回路は、2進数の足し算で「桁上がりを考えない同じ桁どうしの和」を求める回路(**半加算器**の一部)として使われ、CPUの中で数値を計算する回路(演算装置)の基本部品の一つになっている(→BOOK-0342の先、→BOOK-0358g OSを作る実践や関数を組む部での計算の土台にもつながる)。

 

```

A B 出力(A XOR B)

0 0 0

0 1 1

1 0 1

1 1 0

```

 

### 伝搬遅延 — ゲートの切り替えにはわずかな時間がかかる

 

CMOSゲートの入力が変化してから、出力がそれに応じて変化し終わるまでには、ごくわずかだが確実に時間がかかる。この時間を**伝搬遅延(でんぱんちえん、水準四: 論理ゲートの入力が変化してから、出力が確定するまでにかかるわずかな時間)**と呼ぶ。伝搬遅延が生じる物理的な理由は、MOSFETのゲートに電荷を出し入れするのに時間がかかること(ゲートは第十章で扱うコンデンサとしての性質もあわせ持っている)や、配線パターン自体にもわずかな抵抗と静電容量があることによる。CPUを動かすクロック信号(規則正しく0と1を繰り返す信号)の周波数(1秒間に何回切り替わるかを表す値、単位はヘルツ〈Hz〉)を上げすぎると、論理ゲートが伝搬遅延に間に合わず正しく動作しなくなるため、CPUの動作周波数には、使われているトランジスタの伝搬遅延によって決まる実用上の上限がある。この伝搬遅延を短くする(=より高い周波数で動かせるようにする)ことは、半導体の微細化とともに、CPU開発における中心的な技術目標の一つになっている。

 

### コラム — BOOK-0358a『数と論理の土台』との接続

 

前部(→BOOK-0358a数と論理の土台)では、論理代数(AND・OR・NOTを記号で操作する数学の体系)を、二進法・ビット演算という数の言葉の一部として扱った。本章までの内容は、その論理代数が、紙の上の記号操作にとどまらず、実際にCMOSというトランジスタの組み合わせとして物理的に実現される様子を追いかけたものだと言い換えられる。論理代数の`A AND B`という式は、真理値表という抽象的な規則の集まりであると同時に、本章で見たようなPMOS・NMOSの具体的なオン/オフのパターンでもある。「数式・記号としての論理」と「電子部品の物理的な振る舞いとしての論理」という二つの見方を行き来できるようになることが、次章(集積回路)以降、そしてBOOK-0342のCPU・レジスタの理解を深めるうえでの土台になる。

 

### よくある誤解 — 「もっと速いクロック=もっと速いコンピュータ」とは限らない

 

CPUの性能を語るとき、クロック周波数(1秒間に何回スイッチが切り替わるか)の数字の大きさだけに注目してしまいがちだが、本章で見た伝搬遅延の存在からもわかるとおり、クロック周波数を上げるほど発熱や消費電力も増えるという物理的な制約がある。また、実際のコンピュータの性能は、クロック周波数だけでなく、1回のクロックでどれだけの仕事を進められるか(内部の論理回路の設計効率)、同時にいくつの処理を並行して進められるか(並列度)など、複数の要素の組み合わせで決まる。クロック周波数は本章で扱った物理(伝搬遅延)と直結する重要な指標である一方、それだけでコンピュータ全体の速さを判断することはできない、という点は、次部(→BOOK-0358c市販PCの構造解剖)で仕様表を読み解くうえでも押さえておきたい視点である。

 

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> **定着量の目安(第七章)**: PMOS・NMOS・CMOS・NOTゲート(インバータ)の物理構造、NAND+NOTでANDを作る構成、XOR回路の真理値表、および伝搬遅延がクロック周波数の上限と関係する理由を、自分の言葉で説明できるようにするには、入力0/1を与えてPMOS・NMOSそれぞれのオン/オフと出力を答えるドリルを15問程度と、AND/OR/XORの真理値表を白紙から書き出す練習を10問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第八章: 集積回路(IC)— 何十億個ものトランジスタが1個のチップになる(水準四)

 

### 集積回路とは何か

 

第六章・第七章で見てきたトランジスタやCMOSゲートは、1個1個をばらばらの部品として基板に取り付けることもできるが、現代のパソコンではそれをしない。かわりに、無数のトランジスタ・抵抗器・配線パターンを、1枚のごく小さなシリコンの薄片(**チップ**、または**ダイ**、水準四: 集積回路が作られる、シリコンでできた薄い板状の部品)の上に、一括して作り込んでしまう。この技術で作られた部品を**集積回路(しゅうせきかいろ、IC、Integrated Circuit、水準四: 多数のトランジスタや受動部品を、1枚の半導体チップの上にまとめて作り込んだ部品)**と呼ぶ。CPU・GPU・メモリ・マザーボード上の各種コントローラーなど、パソコンの中で「頭脳」や「記憶」の役割を果たす部品は、そのほとんどがICである。

 

### なぜ1個のチップにまとめるのか

 

トランジスタを1個ずつ独立した部品として作り、配線でつなぎ合わせる方式では、部品数が増えるほど、はんだ付けの箇所や配線の長さが増え、故障の可能性や信号の遅れ、消費電力が増えてしまう。集積回路という技術は、同じシリコンの結晶の上に、ドーピングの位置を精密に設計することで、トランジスタとその配線までを一括して作り込んでしまうことで、これらの問題を根本的に解決した。集積回路の基本的な考え方は、1958年にアメリカの技術者ジャック・キルビーが、1959年にロバート・ノイスが、それぞれ独立に発明したとされ、その後の半導体産業の発展の出発点になったとされている。

 

### 検算8 — トランジスタの数の桁を実感する

 

初期の集積回路に搭載されていたトランジスタの数は数個から数十個程度だったとされるが、現代のCPUに搭載されているトランジスタの数は、桁違いに増えている。仮に、ある世代のCPUに10億個(10の9乗個)のトランジスタが搭載されているとし、その次の世代で2倍の20億個に増えたとすると、増えた個数は次のように計算できる。

 

```

増えた個数 = 20億個 − 10億個 = 10億個(10の9乗個)

```

 

10億個という数は、地球上の人間全員(およそ80億人)の8分の1に相当する数であり、それだけの数の極小のスイッチが、爪の先ほどの大きさのチップの中に詰め込まれていることになる。この「詰め込む密度」を高める技術を**微細化(びさいか、水準四: 半導体チップの中の1個1個のトランジスタを、より小さく作る技術)**と呼び、微細化が進むほど、同じ面積によりたくさんのトランジスタを詰め込める。

 

### ムーアの法則 — 経験則としての指数関数的な増加

 

1965年、アメリカの技術者ゴードン・ムーアは、集積回路に詰め込めるトランジスタの数が、およそ1〜2年ごとに倍増していく傾向にあると指摘したとされる。この経験則は**ムーアの法則(水準四: 集積回路に詰め込めるトランジスタの数が、一定の期間ごとにおよそ倍増していくという経験則。物理法則ではなく、産業の実績に基づく傾向を指す)**と呼ばれ、その後数十年にわたっておおむね成り立ってきたとされる。ただし、ムーアの法則は物理学の法則ではなく、あくまで半導体製造技術の進歩の速さについての経験的な傾向であり、微細化がシリコン原子1個のサイズという物理的な限界に近づくにつれて、従来のペースを維持することが技術的に難しくなってきているとも指摘されている。

 

### 微細化と発熱の関係

 

トランジスタを微細化すると、1個あたりの消費電力(第七章で扱った、切り替わる瞬間に生じる消費電力)は小さくなる傾向にあるが、同じ面積に詰め込めるトランジスタの数が増える分、チップ全体としての消費電力や発熱は必ずしも下がらない。むしろ、より多くのトランジスタを、より高いクロック周波数(第七章で扱った伝搬遅延の裏返しの量)で動かそうとするほど、チップ全体の発熱は増える傾向にある。これが、現代のCPUに大きなヒートシンクや冷却ファンが必要になる理由であり、熱をいかに効率よく取り除くかという設計は、集積回路の性能を引き出すうえで避けて通れない課題になっている(→BOOK-0358e熱と電源の解析で詳しく扱う予定)。

 

### ICの実装形状 — パッケージという「靴」

 

チップそのものは非常に薄くて壊れやすいため、基板に直接はんだ付けすることは少なく、多くの場合、チップを保護しながら基板と電気的につなぐための外装(**パッケージ**、水準四: ICのチップを保護し、基板とチップを電気的につなぐための外装)に収められた状態で流通する。パッケージには、足(リード線)が多数外側に伸びた形のもの、裏面に格子状の小さなはんだボールが並んだ形のもの(**BGA**、Ball Grid Array)など、用途に応じてさまざまな形状がある。CPUのソケットに触れると見える、無数の小さな金属端子の並びも、このパッケージが基板やソケットと電気的につながるための接点である。

 

### ICの分類 — アナログICとデジタルIC

 

集積回路は、扱う信号の種類によって大きく二つに分類できる。0と1という二値の信号だけを扱う**デジタルIC(水準四: 0と1という二値のデジタル信号を扱う集積回路。CPU・メモリ・各種コントローラーなど)**と、電圧や電流を連続的な値として扱う**アナログIC(水準四: 電圧や電流を、0/1に単純化せず連続的な値として扱う集積回路。音声信号の増幅回路、電源電圧を作るレギュレータICなど)**である。パソコンの内部には、CPU・メモリのようなデジタルICだけでなく、電源電圧を安定させるレギュレータIC(第十一章のVRMの中心部品)や、音声信号を扱うオーディオICのような、アナログICも数多く使われている。両方の性質をあわせ持つ**ミックスドシグナルIC**(デジタル信号とアナログ信号を変換する部品など)も、USB通信やディスプレイ出力のような箇所で広く使われている。

 

### コラム — ファブレスとファウンドリという分業体制

 

集積回路を実際に製造するには、超高精度な製造装置が並ぶ巨大な工場(**ファブ**、fabricationの略)が必要であり、その建設・維持には莫大な費用がかかる。この費用の大きさから、現代の半導体産業では、自社ではチップの設計だけを行い、製造そのものは製造専門の企業へ委託する**ファブレス(水準四: 自社で製造工場〈ファブ〉を持たず、設計に特化する半導体企業の事業形態)**という分業体制が広く定着している。設計を請け負う企業を**ファウンドリ(水準四: 他社が設計した集積回路を、委託を受けて製造する専門企業)**と呼ぶ。パソコンに搭載されるCPUやGPUの多くも、設計を行う企業と、実際にシリコンウエハの上にチップを焼き付ける製造企業が、別々の会社であることが一般的になっている(この製造工程の詳細は→BOOK-0358i素材・環境・進化史で扱う予定)。

 

### よくある誤解 — 「トランジスタの数が多いほど、必ず高性能」ではない

 

集積回路のトランジスタ数がしばしば性能の指標として語られるが、トランジスタの数がそのままコンピュータとしての速さに直結するわけではない。同じ数のトランジスタでも、論理回路の設計の工夫(第七章で触れたNAND中心設計の効率化など)によって、少ないトランジスタでより多くの仕事をこなせる場合もあれば、逆に大容量のメモリのように、演算そのものよりもデータを保持する目的でトランジスタ数が多く使われている場合もある。トランジスタ数は集積の密度や製造技術の進み具合を測る一つの指標にはなるが、コンピュータ全体としての実用的な速さ(→BOOK-0358c市販PCの構造解剖・BOOK-0358u性能と計測の技で扱う予定)を測る指標としては、他の要素とあわせて総合的に判断する必要がある。

 

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> **定着量の目安(第八章)**: 集積回路(IC)・チップ・微細化・ムーアの法則・パッケージ・デジタルIC/アナログIC・ファブレス/ファウンドリという用語と、検算8と同じ形式でトランジスタ数の増加量を計算する練習、そして微細化が発熱と表裏一体である理由を説明できるようにするには、用語の対応ドリルを15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第九章: 受動部品I — 抵抗器の物理をもう一段深く読む(水準二〜三)

 

### 能動部品と受動部品

 

ここまで扱ってきたダイオードやトランジスタは、電源から供給された電力を使って信号を増幅したり、スイッチとして働いたりする**能動部品(のうどうぶひん、水準三: 電源からの電力供給を受けて、信号を増幅したりオン/オフを制御したりできる部品。ダイオード・トランジスタ・ICなど)**である。これに対し、抵抗器・コンデンサ・コイルという三つの部品は、それ自体は信号を増幅する働きを持たず、電圧や電流をそのまま受け止めて決まった物理法則どおりに振る舞うだけの**受動部品(じゅどうぶひん、水準二: 電源からの電力供給を必要とせず、電圧や電流を受け身の形で処理する部品。抵抗器・コンデンサ・コイルなど)**と呼ばれる。本章から三章にわたり、この受動部品の物理をそれぞれ掘り下げる。

 

### 抵抗値を決める三つの要素

 

第二章で触れた抵抗率に加えて、抵抗器の抵抗値は、電流が通る道の「長さ」と「太さ(断面積)」という二つの幾何学的な要素によっても決まる。この関係は次の式で表される。

 

```

R = ρ × L ÷ A

(抵抗値 = 抵抗率 × 長さ ÷ 断面積)

```

 

道が長くなるほど、自由電子が原子にぶつかる回数が増えるため、抵抗値は大きくなる。道が太くなるほど、電子が同時に通れる経路が増えるため、抵抗値は小さくなる(第四章で見た、並列回路の合成抵抗が小さくなる仕組みと同じ発想である)。同じ材質・同じ太さの電線の長さを2倍にすると、抵抗値もちょうど2倍になり、逆に太さ(断面積)を2倍にすると、抵抗値はちょうど半分になる、という比例関係がこの式から読み取れる。

 

実際に流通している抵抗器の多くは、セラミックの棒に、抵抗率の高い炭素の膜や、金属の薄い膜をらせん状に巻きつけて作られている。膜の厚さや巻き方を精密に調整することで、狙った抵抗値を作り出しているのである。BOOK-0300のコラムで扱ったカラーコードは、この精密に作られた抵抗値を、色の帯という形で読み手に伝えるための表示方式だった。

 

### 定格電力の物理的な意味 — 熱としての消費

 

BOOK-0300第六章では、抵抗器の消費電力`P = I² × R`と、定格電力(部品が安全に耐えられる上限)から安全余裕度を計算する方法を扱った。この消費電力の物理的な正体は、自由電子が金属原子にぶつかるたびに、電子が持っていた運動のエネルギーの一部を原子の熱振動へ受け渡している現象、すなわち**ジュール熱(水準三: 電流が抵抗を通過するときに発生する熱。発見者ジェームズ・プレスコット・ジュールにちなむ名称)**である。抵抗器のサイズが大きいものほど定格電力が高いのは、表面積が大きいぶん、発生した熱を空気中へ逃がしやすいためである。

 

### 温度係数 — 抵抗値も温度で変わる

 

第三章で、金属を温めると抵抗値が上がる性質を扱った。抵抗器にもこの性質があり、温度が変化したときに抵抗値がどれだけ変化するかを表す指標を**温度係数(おんどけいすう、水準三: 温度が1度変化したときに、抵抗値がどれだけ変化するかを表す割合)**と呼ぶ。精密な計測が求められる回路では、温度係数の小さい金属皮膜抵抗器が好まれ、逆にこの性質を逆手に取って、温度そのものを測るセンサー(サーミスタなど)として利用する部品もある。

 

### 抵抗器の種類 — 作り方の違いによる使い分け

 

市販されている抵抗器には、作り方の違いによっていくつかの種類がある。**炭素皮膜抵抗器(たんそひまくていこうき、水準三: セラミックの棒の表面に炭素の膜をらせん状に削って作られた、もっとも安価で一般的な抵抗器)**は安価で広く使われる標準品であり、**金属皮膜抵抗器(きんぞくひまくていこうき、水準三: セラミックの棒の表面に金属の膜を使って作られ、炭素皮膜より精度が高く温度係数も小さい抵抗器)**は誤差が小さく安定した精密な用途に向く。より大きな電力を扱う必要がある場所では、金属の線をセラミックの筒に巻きつけて作る**巻線抵抗器(まきせんていこうき、水準三: 金属線をセラミックなどの土台に巻きつけて作られ、大きな電力を扱える抵抗器)**が使われる。そして第十一章で扱う表面実装(SMD)向けには、セラミックの小さな板の上に抵抗値を調整した膜を焼き付けた**チップ抵抗器**が使われ、現代のマザーボードの表面には、この米粒よりもさらに小さいチップ抵抗器が無数に並んでいる。

 

### 可変抵抗器とセンサーとしての抵抗器

 

BOOK-0300で紹介した可変抵抗器は、抵抗の膜の上を摺動子(しゅうどうし、接触しながら動く電極)がスライドすることで、接点の位置に応じて抵抗値を連続的に変化させる部品である。基板の上で工場出荷時に一度だけ微調整する目的で使われる小型の可変抵抗器を、特に**半固定抵抗器(トリマー)**と呼ぶ。また、抵抗値が温度によって大きく変化する性質を逆手に取り、温度センサーとして使う**サーミスタ(水準三: 温度によって抵抗値が大きく変化する性質を利用した、温度センサー用の半導体部品)**、光の強さによって抵抗値が変化する**CDSセル(硫化カドミウムセル、水準三: 光の強さによって抵抗値が変化する性質を利用した、光センサー用の部品)**なども、広い意味では抵抗器の仲間として扱われる。パソコンの内部でも、CPUやマザーボードの温度を監視するセンサーとして、サーミスタに似た仕組みの温度検出素子が使われている。

 

### よくある誤解 — 抵抗値ゼロの導線は「抵抗器がない」のと同じではない

 

回路図の上でただの線として描かれる導線(配線)は、理想的には抵抗値ゼロとして扱われることが多いが、現実の導線には第二章・本章で扱ったとおり、必ずわずかな抵抗率に由来する抵抗値が存在する。太く短い配線であれば、その抵抗値は実用上無視できるほど小さいが、細く長い配線では無視できない電圧降下(BOOK-0300第三章)を生むことがある。パソコンの電源回路で、CPUのすぐ近くまで太い配線パターンや複数のビア(第十二章)を使って電源を引き込むのは、まさにこの配線自体の抵抗による電圧降下を最小限に抑えるためである。「抵抗器という部品が使われていない場所には抵抗が存在しない」というのは誤解であり、あらゆる導線が、程度の差こそあれ、必ずいくらかの抵抗を持っているという理解が、精密な回路設計や基板の読み方には欠かせない。

 

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> **定着量の目安(第九章)**: 能動部品/受動部品の区別、R=ρ×L÷Aという式の比例関係(長さ2倍→抵抗2倍、太さ2倍→抵抗半分)、ジュール熱・温度係数という用語、そして炭素皮膜/金属皮膜/巻線/チップ抵抗器という種類の違いを説明できるようにするには、長さ・太さを変えたときの抵抗値変化を答えるドリルを15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第十章: 受動部品II — コンデンサの物理と時定数(水準三)

 

### 電気を貯める部品の構造

 

BOOK-0300第一章で紹介した**コンデンサ**は、二枚の金属板(電極)のあいだに、電気を通しにくい薄い材料(**誘電体〈ゆうでんたい〉**、水準三: 電気をほとんど通さないが、電圧をかけると内部の電荷の偏りが変化する性質を持つ材料)を挟んだだけの、単純な構造をしている。電極の両端に電圧をかけると、片方の電極にはプラスの電荷が、もう片方の電極にはマイナスの電荷が、誘電体を挟んだまま向かい合う形で蓄えられる。誘電体があるおかげで電荷は電極間を直接移動できず、電荷はそのまま電極の表面に蓄積され続ける。

 

電圧をかけたときに蓄えられる電荷の量は、電極の面積が広いほど、電極間の距離が近いほど、そして誘電体の種類によって決まる**誘電率(ゆうでんりつ)**が大きいほど多くなる。この、コンデンサがどれだけの電荷を蓄えられるかを表す量を**静電容量(せいでんようりょう、水準三: コンデンサが電圧1ボルトあたりに蓄えられる電荷の量。単位はファラド〈F〉)**と呼び、電荷・電圧・静電容量のあいだには`Q = C × V`(電荷=静電容量×電圧)という関係が成り立つ。

 

### 充放電と時定数 — コンデンサはゆっくり満たされ、ゆっくり空になる

 

コンデンサに抵抗器を直列につないで電池をつなぐと、コンデンサの電圧はいきなり電源電圧まで上がるのではなく、はじめは急速に、次第にゆっくりと、指数関数的な曲線を描いて上昇していく。この上昇の速さの目安になる量を**時定数(じていすう、水準三: 抵抗値と静電容量の掛け算で求まる、コンデンサの充放電の速さの目安となる時間。記号τ〈タウ〉、単位は秒。τ=R×C)**と呼ぶ。

 

### 検算6 — 乾電池・抵抗・コンデンサでできるRC回路の時定数

 

単三形乾電池2本を直列につないだ電源(合計電圧3V)に、抵抗値1,000Ω(1kΩ)の抵抗器と、静電容量100µF(マイクロファラド、1µFは100万分の1ファラド。0.0001F)のコンデンサを直列につないだ回路を考える。時定数は、抵抗値と静電容量の掛け算で求められる。

 

```

τ = R × C = 1,000Ω × 0.0001F = 0.1秒(100ミリ秒)

```

 

この回路では、スイッチを入れてから0.1秒が経過した時点で、コンデンサの電圧は最終的に到達する電圧(この場合は3V)のおよそ63%まで充電されている。これは、時定数1回ぶんの時間が経過すると、残りの充電されていない分の電圧のうち、およそ63.2%(正確には1から自然対数の底eの逆数を引いた割合)が埋まるという、時定数という量そのものの定義に由来する性質である。時定数をさらに1回ぶん(合計0.2秒)経過させると、残っていた未充電分のさらに63%が埋まり、電圧はさらに最終値へ近づいていく。

 

### コンデンサの役割 — 平滑化とノイズ除去

 

パソコンの電源回路(→BOOK-0358e熱と電源の解析で詳しく扱う予定)には、非常に多くのコンデンサが使われている。交流を直流に変換した直後の電圧には、細かい脈動(でこぼこ)が残ることが多く、コンデンサはその脈動を吸収して電圧を滑らかにする**平滑化(へいかつか、水準三: 電圧の脈動やノイズをコンデンサで吸収し、電圧の変動を滑らかにすること)**という役割を果たす。基板の上でICのすぐそばに置かれている小さなコンデンサ(**パスコン**、バイパスコンデンサの略称で呼ばれることが多い)も、ICが瞬間的に大きな電流を必要としたときに、電源の電圧が一時的に落ち込むのを防ぐ、いわば「小さな電池」のような役割を果たしている。

 

### 安全上の注意 — コンデンサは電源を切ったあとも電荷を保持する

 

コンデンサは、電圧をかけていた回路の電源を切ったあとも、しばらくのあいだ電荷を保持し続けるという性質がある。特に静電容量の大きなコンデンサや、電源ユニット(PSU)の内部にあるような高電圧のコンデンサは、電源プラグを抜いたあとでも高い電圧が残っていることがある。CATALOG_PC創造大全.mdの安全枠で明記されているとおり、**PSU内部は通電を止めたあとも高電圧が残るコンデンサがあるため絶対に開けない**という注意は、まさにこの「コンデンサが電荷を保持し続ける」という物理的な性質に基づいている。本冊で扱う実験はすべて乾電池・USB電源という低電圧の範囲にとどめ、コンデンサも小容量のものだけを扱うため、この種の危険性は生じない。

 

### コンデンサの種類 — 誘電体の違いによる使い分け

 

コンデンサも抵抗器と同じく、挟む誘電体の材料によっていくつかの種類に分かれる。**セラミックコンデンサ(水準三: セラミックを誘電体に使った、小型で安価なコンデンサ。極性〈プラス・マイナスの向き〉を持たないものが多い)**は小型で価格も安く、基板上のパスコンなどにもっとも多く使われる。**電解コンデンサ(でんかいコンデンサ、水準三: 電極の表面にできた極めて薄い酸化被膜を誘電体として利用する、比較的大きな静電容量を持つコンデンサ。多くは極性〈プラス・マイナスの向き〉を持つ)**は、同じ体積でもセラミックコンデンサよりずっと大きな静電容量を実現できるため、電源回路の平滑化のように大きな静電容量が必要な場所で使われる。ただし極性を持つ電解コンデンサは、逆向きに電圧をかけると内部で異常な化学反応が起き、破損の原因になるため、基板に実装する向きを間違えないことが重要になる。このほか、周波数特性に優れる**フィルムコンデンサ**、小型で安定した**タンタルコンデンサ**なども、用途に応じて使い分けられている。

 

### コラム — マザーボードのコンデンサが膨らむ「電解液漏れ」

 

パソコンを長年使っていると、マザーボードの上に並んだ円筒形の電解コンデンサの頭頂部が、わずかに膨らんでいたり、内部の電解液がにじみ出ていたりすることがある。これは電解コンデンサの内部にある電解液が、経年劣化や過度な熱、あるいは製造時の品質のばらつきによって変質し、ガスを発生させてしまうために起きる現象であり、業界では**電解液漏れ(液漏れ)**または**コンデンサ不良**と呼ばれる。2000年代前半には、粗悪な電解液を使った電解コンデンサが大量に出回り、多くのマザーボードで早期の故障を引き起こした事例が広く知られており、この出来事は「コンデンサ・プレイグ(コンデンサ疫病)」と呼ばれることもある。電解コンデンサの外観(膨らみ・液漏れ)を確認する習慣は、中古のパソコンや古いマザーボードの状態を見極めるうえで、実践的に役立つ知識である。ただし、膨らんだコンデンサを自分で交換する作業は、はんだ付けの技術と、基板や周辺部品を傷つけない配慮が必要な、相応の技能を要する作業であることも付け加えておく。

 

### 検算6b — 静電容量が2倍になると、蓄えられる電荷はどう変わるか

 

`Q = C × V`という関係式を使うと、静電容量が変わったときに蓄えられる電荷がどう変化するかを確認できる。電圧5V(USB電源の電圧)を、静電容量100µF(0.0001F)のコンデンサにかけたときに蓄えられる電荷は、次のように計算できる。

 

```

Q = C × V = 0.0001F × 5V = 0.0005C(0.5ミリクーロン)

```

 

もし静電容量が2倍の200µF(0.0002F)のコンデンサに変えると、同じ5Vの電圧でも、蓄えられる電荷は次のように2倍になる。

 

```

Q = 0.0002F × 5V = 0.001C(1ミリクーロン)

```

 

静電容量が大きいコンデンサほど、同じ電圧でもより多くの電荷を蓄えられるという、静電容量という量の定義そのものを確かめる検算である。

 

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> **定着量の目安(第十章)**: 静電容量・時定数(τ=R×C)・平滑化という用語、セラミック/電解/フィルム/タンタルという種類の違い、そして検算6・検算6bと同じ形式の時定数計算・電荷計算(τ経過後は約63%充電、Q=C×V)を説明できるようにするには、R・Cの値を変えた時定数計算ドリルを15問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第十一章: 受動部品III — コイル(インダクタ)の物理(水準三〜四)

 

### 電流の変化が磁界を生み、磁界の変化が電圧を生む

 

導線を何回も巻いて作った部品を**コイル(インダクタ、水準三: 導線を螺旋状に巻いた部品。電流の変化に対して逆らう向きの電圧を生み出す性質を持つ)**と呼ぶ。導線に電流を流すと、その周りには磁界(磁石の力が働く空間)が生まれる。これは19世紀にハンス・クリスティアン・エルステッドが発見したとされる現象である。コイルのように導線を何回も巻くと、1回巻きごとに生まれる磁界が重なり合い、コイル全体としてより強い磁界を作り出す。

 

さらに、この磁界の強さが時間とともに変化すると、その変化そのものが、コイルの導線に新たな電圧を生み出す。この現象を**電磁誘導(でんじゆうどう、水準三: 磁界の変化によって、導線に電圧が生じる現象)**と呼び、19世紀にマイケル・ファラデーが体系立てて研究したとされる。コイルに流れる電流が変化しようとすると、その変化によって生まれる磁界の変化が、電流の変化を妨げる向きの電圧を自動的に生み出す。この、電流の変化に逆らおうとする性質を**自己インダクタンス(じこいんだくたんす、水準四: コイルが持つ、電流の変化に逆らう向きの電圧を生み出す性質の大きさを表す量。単位はヘンリー〈H〉)**と呼ぶ。

 

### コイルは「電気的な慣性」を持つ部品

 

コイルの性質は、物体の動きにたとえるとわかりやすい。止まっている物体を動かそうとすると、慣性(動きの変化に逆らおうとする性質)のために力が要り、逆に動いている物体を急に止めようとしても慣性のために抵抗を受ける。コイルもこれと同じように、電流を急に増やそうとすると増加を妨げる向きの電圧を、電流を急に減らそうとすると減少を妨げる向きの電圧を、それぞれ自動的に生み出す。抵抗器が「電流の量そのもの」を妨げる部品であるのに対し、コイルは「電流の変化の速さ」を妨げる部品である、という違いを押さえておくと、抵抗器・コンデンサ・コイルという三つの受動部品の役割の違いを整理しやすい。

 

### 検算7 — コイルに蓄えられるエネルギー

 

コイルに電流が流れているとき、その電流を維持するために磁界という形でエネルギーが蓄えられている。このエネルギーは、自己インダクタンスと電流の2乗を使って`E = (1/2) × L × I²`という式で求められる。自己インダクタンス1mH(ミリヘンリー、1mHは1000分の1ヘンリー。0.001H)のコイルに、100mA(0.1A)の電流を流したとする。

 

```

E = 0.5 × 0.001H × (0.1A)² = 0.5 × 0.001 × 0.01 = 0.000005J(5マイクロジュール)

```

 

5マイクロジュールというのはごくわずかなエネルギーだが、コイルは電流という「流れ」そのものをエネルギーとして蓄えられる、抵抗器にはない性質を持つ部品であることがこの式からわかる。

 

### コイルの役割 — ノイズフィルタとチョークコイル

 

コイルは、急激な電流の変化を妨げる性質を利用して、電源回路の中でノイズ(急激で不要な電流の変動)を抑える**フィルタ(ろ波器)**としてよく使われる。パソコンのマザーボードでCPUのすぐそばに並んでいる、黒っぽい小さな部品の列を見たことがある人もいるかもしれない。あれは**チョークコイル(水準四: 電源回路で、電流の急激な変動を抑えるために使われるコイル)**と呼ばれる部品で、CPUに安定した電圧・電流を供給する**VRM(ぶいあーるえむ、Voltage Regulator Module、水準四: マザーボード上でCPU用の電圧を精密に作り出す電源回路のまとまり)**という回路の中心的な部品の一つである。CPUは瞬間的に大きく電流を変化させることがあるため、この変化を滑らかにするコイルの働きが欠かせない。

 

### コイルの芯材料 — 空芯とフェライトコア

 

コイルは、ただ導線を巻くだけでも作れるが(**空芯コイル**、水準四: 磁性体の芯を使わず、空気中に導線を巻いただけのコイル)、導線の内側に磁界を通しやすい材料(**磁性体**)でできた芯を入れると、同じ巻き数でもずっと大きな自己インダクタンスを得られる。パソコンの電源回路でよく使われるのは、鉄と酸素などの化合物を焼き固めた**フェライトコア(水準四: 鉄を含む酸化物を焼き固めて作られた磁性体の芯。電気を通しにくく、高い周波数でも損失が少ないという特徴を持つ)**であり、フェライトは金属の鉄と違って電気そのものはほとんど通さないため、コイルの中に生じる不要な渦電流(うずでんりゅう)による損失を抑えられるという利点がある。マザーボードのVRM部分によく見られる、四角い金属のカバーで覆われた部品の多くは、このフェライトコアを使ったチョークコイルである。

 

### 相互インダクタンスとトランス — 電圧を変換する仕組み

 

2つのコイルを近くに置き、片方のコイルに変化する電流を流すと、その変化する磁界がもう片方のコイルにも電圧を生み出す。この現象を**相互インダクタンス(そうごいんだくたんす、水準四: 一方のコイルの電流変化が、近くに置かれた別のコイルに電圧を生み出す働きの大きさを表す量)**と呼び、この性質を利用して電圧の大きさを変換する部品を**トランス(変圧器、水準四: 2つ以上のコイルを組み合わせ、相互インダクタンスを利用して交流の電圧を変換する部品)**と呼ぶ。パソコンのACアダプターやPSUの内部にも、家庭のコンセントの交流100Vを、扱いやすい電圧に変換するためのトランスに類する部品が使われている。ただし、このトランスが実際に扱う交流100V側の回路は、電気工事士の資格が必要な領域と直結しており、**本冊はこのトランスの内部構造や実際の変換回路の作り方には立ち入らない**。ここで扱うのは、コイルという受動部品が持つ、相互インダクタンスという物理的な性質の存在までにとどめる。

 

### コラム — 非接触充電も電磁誘導の応用である

 

近年のスマートフォンなどで使われる、ケーブルを挿さずに置くだけで充電できる**非接触充電(ワイヤレス充電)**も、本章で扱った相互インダクタンスの応用である。充電台の内部のコイルに交流の電流を流して変化する磁界を作り、スマートフォン側の内部にあるコイルがその磁界の変化を受け取って電圧を生み出す、という原理は、トランスの動作とほぼ同じ仕組みである。充電台とスマートフォンのあいだにケーブルという物理的な接続がなくても、コイルとコイルのあいだの磁界を介したエネルギーの受け渡しは成立する。これも、電磁誘導という第十一章の物理現象が、身の回りの製品の中で実際に活用されている一例である。

 

### よくある誤解 — コイルは「抵抗が低いから電流が流れ放題」ではない

 

コイルは、金属線をただ巻いただけの部品であるため、直流電流に対する抵抗そのものは(巻いた線の長さ・太さから決まる、第九章のR=ρL÷Aによる抵抗値程度の)比較的小さい値になることが多い。しかし、これは「コイルには電流が無制限に流れる」ことを意味しない。第十一章で見たとおり、コイルは電流の急激な変化に対して逆らう向きの電圧を生み出すため、電流を変化させようとする交流や、スイッチを入れた瞬間のような急激な変化に対しては、直流の抵抗値だけでは説明できない「流れにくさ」を示す。この、周波数(変化の速さ)によって電流の流れやすさが変わる性質を**インピーダンス(水準四: 交流回路における、電圧と電流の比を表す量。抵抗に加えて、コンデンサやコイルによる周波数依存の効果を含む)**と呼び、直流だけを扱うオームの法則の抵抗Rを、交流回路向けに拡張した概念として、電子回路のより進んだ学習で登場する。

 

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> **定着量の目安(第十一章)**: 自己インダクタンス・電磁誘導・空芯/フェライトコア・相互インダクタンス・トランスという用語と、検算7と同じ形式のエネルギー計算`E=(1/2)LI²`を説明できるようにするには、L・Iの値を変えたエネルギー計算ドリルを10問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 第十二章: 基板(PCB)の読み方(水準三〜四)

 

### 基板とは「固まった回路図」である

 

ここまで扱ってきた抵抗器・コンデンサ・コイル・ダイオード・トランジスタといった部品は、単独では回路として機能しない。これらの部品を正しい配置で固定し、決まった経路で電気的につなぐための土台になる板を**基板(きばん、プリント基板、PCB〈Printed Circuit Board〉、水準三: 部品を固定し、銅箔で作られた配線パターンによって部品同士を電気的につなぐための板)**と呼ぶ。基板は、絶縁体(多くはガラス繊維を樹脂で固めたもの)の板の表面あるいは内部に、電気を通す銅の薄い膜(銅箔)を、回路図どおりの配線パターンとして焼き付けたものである。回路図が「どの部品とどの部品をどうつなぐか」という論理を紙の上に描いたものだとすれば、基板は、その論理を実際に電子が通れる物理的な経路として固定した、いわば「固まった回路図」だと言える。

 

### 基板の層構造 — 片面・両面・多層

 

もっとも単純な基板は、片面だけに銅箔の配線パターンを持つ**片面基板**である。配線が複雑になり、片面だけでは配線同士が交差してしまう場合は、表と裏の両面に配線パターンを持つ**両面基板**が使われる。さらに複雑なパソコンのマザーボードやグラフィックボードでは、絶縁体の層と銅箔の層を何層にも重ねて貼り合わせた**多層基板(たそうきばん、水準四: 絶縁体と銅箔の層を複数枚重ねて作られた基板。表面だけでなく内部にも配線層を持つ)**が使われる。市販のマザーボードでは4層から十数層程度の多層基板が一般的であり、層が多いほど複雑な配線を詰め込め、電源用の層とグラウンド(基準電位)用の層を専用に確保することで、ノイズを抑えやすくなるという利点もある。

 

異なる層の配線パターン同士をつなぐために、基板に開けられた小さな穴を**ビア(via、水準四: 多層基板の異なる層の配線パターン同士を電気的につなぐために開けられた、金属メッキされた小さな穴)**と呼ぶ。基板の表面を見ただけでは配線がどこにつながっているのかわからない場合、それは配線が内部の層やビアを通って別の場所に抜けているためであることが多い。

 

### 部品の実装方式 — スルーホールと表面実装

 

部品を基板に固定する方式には、大きく分けて二種類ある。部品の足(リード線)を基板に開けた穴に通し、裏側からはんだ付けする**スルーホール実装(水準三: 部品のリード線を基板の穴に通してはんだ付けする実装方式)**と、あらかじめ基板の表面に印刷されたパッド(金属の電極部分)に、リード線のない小さな部品を直接はんだ付けする**表面実装(SMD/SMT、水準三: リード線のない小さな部品を、基板表面のパッドに直接はんだ付けする実装方式)**である。表面実装は部品を極端に小さくでき、基板の両面や高密度な配置にも対応しやすいため、現代のマザーボードやグラフィックボードでは表面実装が主流になっている。抵抗器やコンデンサも、表面実装用のものは数ミリ角、場合によっては1ミリに満たないほど小さく作られている。

 

### シルク印刷と部品番号(リファレンスデジグネータ)の読み方

 

基板の表面には、白色(まれに他の色)のインクで、部品の輪郭や文字が印刷されていることが多い。この印刷を**シルク印刷(水準三: 基板の表面に、部品の位置や向き、部品番号などを示すために印刷される文字や図形)**と呼ぶ。シルク印刷には、部品ごとに割り振られた**部品番号(リファレンスデジグネータ、水準三: 回路図と基板上の部品を対応づけるために、部品の種類ごとに決まった記号と番号を組み合わせて付けられる識別子)**が添えられていることが多く、部品の種類によって使われる記号の頭文字がおおむね決まっている。

 

```

R + 番号(例: R1, R2, …) → 抵抗器(Resistor)

C + 番号(例: C1, C2, …) → コンデンサ(Capacitor)

L + 番号(例: L1, L2, …) → コイル・インダクタ(Inductor)

D + 番号(例: D1, D2, …) → ダイオード(Diode)

Q + 番号(例: Q1, Q2, …) → トランジスタ(Transistorの頭文字はTだが、慣例的にQが使われる)

U + 番号(例: U1, U2, …) → IC(集積回路。Unitに由来するとされる)

```

 

回路図の上のR1という記号と、実際の基板上にシルク印刷されたR1という文字は、同じ1個の抵抗器を指している。この対応づけがあるおかげで、設計者や修理をする人は、回路図を見ながら「この部品は基板上のどこにあるか」を、部品番号を手がかりにして探し出せる。基板の読み方を身につけるとは、この部品番号を手がかりに、回路図という論理と、基板という物理的な配置を、頭の中で行き来できるようになることだと言える。

 

### 電源ラインとグランドプレーン

 

基板の配線パターンをよく観察すると、信号を伝えるための細い配線と、電源やグラウンド(基準電位、0Vとみなす場所)を伝えるための太い配線とが混在していることに気づく。大きな電流を流す必要がある電源ラインは、配線パターン自体の抵抗による電圧降下(BOOK-0300第三章で扱った、電流が流れると部品ごとに電圧が分け合われる現象)や発熱を抑えるため、あえて太く作られることが多い。多層基板では、1層まるごとをグラウンドに専用に割り当てる**グランドプレーン(水準四: 多層基板の中で、1つの層全体をグラウンド〈基準電位〉専用の銅箔で覆った構造)**という設計もよく使われ、ノイズを抑えつつ、どの部品からも最短距離でグラウンドへ到達できるという利点を持つ。

 

### ビアの種類 — 貫通・止まり・埋め込み

 

多層基板のビア(異なる層をつなぐ小さな穴)にも、いくつかの種類がある。基板の表から裏まで完全に貫通する**スルーホールビア(貫通ビア)**がもっとも基本的な形であり、表面近くの層同士だけをつなぎ、途中で止まる**ブラインドビア(止まりビア)**、基板の内部の層同士だけをつなぎ、表からは見えない**ベリードビア(埋め込みビア)**という、より高度な種類も、高密度な配線が求められるマザーボードやグラフィックボードでは使われる。ビアの種類が複数使い分けられている基板ほど、限られた面積の中に複雑な配線を詰め込むための、高度な製造技術が投入されていることを示している。

 

### ソルダーレジストという保護膜と基板の色

 

基板の表面を見ると、緑色や黒色、赤色などの色がついていることに気づく。この色は、銅箔の配線パターンの上に塗られた**ソルダーレジスト(はんだレジスト、水準三: 基板の銅箔配線を保護し、はんだ付けが不要な場所にはんだが付着するのを防ぐための絶縁性の保護膜)**という膜の色である。ソルダーレジストは、銅箔がむき出しのまま酸化して劣化するのを防ぐと同時に、はんだ付けをする際に、意図しない場所同士が誤って接続されてしまう(**はんだブリッジ**と呼ばれる不具合)のを防ぐ役割も果たしている。基板の色そのものには電気的な意味はなく、製造メーカーや製品によって好みの色が選ばれているにすぎないが、部品を実装するパッド部分だけはソルダーレジストが塗られておらず、銅箔や、酸化防止のためのメッキ(金メッキや、はんだに似た合金のメッキなど)がむき出しになっている。

 

### 回路図と基板図を往復して読む練習

 

基板の読み方を身につける実践的な近道は、簡単な回路図と、その回路が実際に基板の上でどう配置されているかを示した基板図(**アートワーク**とも呼ばれる)を、並べて見比べることである。BOOK-0300第六章で設計したLED点灯回路(乾電池・抵抗器100Ω・LED)を例に取ると、回路図の上ではR1(抵抗器)とD1(LED、ダイオードの仲間として扱われることが多い)が線でつながれているだけだが、基板図の上では、R1・D1というシルク印刷の文字の隣に実際の部品が配置され、その間を銅箔のパターンが物理的な線としてつないでいる。回路図の「論理的なつながり」と、基板図の「物理的な配置」は、同じ回路の二つの異なる表現であり、この二つを行き来して読めるようになることが、次部(→BOOK-0358c市販PCの構造解剖)で実際のマザーボードを読み解く土台になる。

 

### 基板を扱ううえでの安全上の注意 — 静電気とPSU内部

 

半導体部品、特にMOSFETのゲートのように薄い絶縁膜を持つ部分は、人体にたまったわずかな静電気でも簡単に破壊されてしまうことがある。この現象を**静電破壊(ESD、Electro-Static Discharge、水準三: 静電気の放電によって、半導体部品の内部が破壊されてしまう現象)**と呼び、基板や部品を素手で扱う前には、金属に軽く触れるなどして体にたまった静電気を放電しておく作法が広く推奨されている(具体的な組立作業の手順は→BOOK-0358d自作PCの設計と組立で扱う)。第二章のコラムで扱ったとおり、静電気は数千ボルトという高い電圧になることがあり、人体には痛み以上の害を与えないほど蓄えられているエネルギーが小さくても、MOSFETのゲート絶縁膜のように極めて薄い構造にとっては、絶縁破壊(第三章コラム)を起こすのに十分な電圧になり得るのである。

 

### よくある誤解 — 基板が壊れているように見えても、原因は別の部品にあることが多い

 

基板の配線パターン(銅箔)そのものが物理的に切れたり焼け焦げたりする故障は、実際にはそれほど多くない。多くの「基板が壊れた」と見える不具合は、その基板に実装されているコンデンサの液漏れ(第十章コラム)、ICやトランジスタの内部的な劣化・破損、あるいは第十一章で触れたコイル・チョークコイルの断線など、基板そのものではなく、基板上に実装された個別の部品の故障が原因であることが多い。基板の読み方(部品番号・回路図との対応づけ)を身につけておくことは、こうした故障の原因を、基板全体という大きな単位ではなく、R1・C3・Q2といった個別の部品の単位まで絞り込んで特定するための、実践的な手がかりになる(具体的な診断手順は→BOOK-0358rの起動と診断の技で扱う予定)。

 

そして本冊全体を通じて繰り返し述べてきたとおり、基板の中でも**電源ユニット(PSU)の内部基板だけは、たとえ静電気対策をしていても絶対に開けてはならない**。PSU内部には、通電を止めたあとも高電圧を保持し続ける大容量のコンデンサ(第十章)が実装されており、電気工事士のような専門知識と適切な放電手順を持たない者が不用意に触れると、重大な感電事故につながる危険がある。故障したPSUへの唯一正しい対処は、分解や修理を試みず、新品への交換である。本冊が扱う実験・観察の対象は、あくまで乾電池・USB電源(5V)という低電圧の範囲の基板に限られ、PSU内部やAC100Vにつながる基板は、本冊の範囲外として一切扱わない。

 

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> **定着量の目安(第十二章)**: 片面/両面/多層基板の違い、スルーホール/表面実装の違い、R・C・L・D・Q・Uという部品番号の頭文字の対応、ビアの種類、ソルダーレジストの役割を説明できるようにするには、部品番号から部品の種類を答えるドリルを20問程度こなすと、ほぼ完全に定着すると見込まれる。

 

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## 三つの実践解(§16.21) — 低電圧でできる、物理を体感する実験

 

理論と物理描像を、実際に手を動かして確かめる方法を三つ紹介する。いずれも乾電池・USB電源(5V)という低電圧の範囲だけで完結する、安全な実践解である。**交流100Vのコンセントを直接使う実験は本冊では一切扱わない**。

 

1. **ダイオードの向き体感実践(第五章と対応)**: 単三形乾電池1本(1.5V)とLED1個を使い、まず電池のプラス極をLEDの長い足(アノード、P型側に対応する端子)につないで点灯を確かめ、次に電池の向きを逆にして、LEDが点灯しないことを確かめる。同じ部品・同じ電圧なのに、つなぐ向きだけで結果が変わることを目で見て、PN接合の整流作用(電流を一方向にだけ流す性質)を体感する実践である。

 

2. **トランジスタスイッチ体感実践(第六章と対応)**: 小信号用のNPN型トランジスタ1個、角形9V乾電池、LED1個、電流制限用の抵抗器(BOOK-0300の設計手順で計算した値)を用意し、トランジスタのベース端子に別の乾電池(単三形1本など)とスイッチをつないだ小さな回路を作る。ベース側のスイッチを入れるとコレクタ側のLEDが点灯し、切ると消灯する様子を確かめる。ごくわずかなベース電流のオン/オフだけで、LEDを光らせるだけの電流をコレクタ側で制御できることを体感し、「トランジスタ=電子スイッチ」という第六章の説明を、自分の手でつないだ回路で裏づける実践である。

 

3. **コンデンサの放電時間体感実践(第十章と対応)**: 単三形乾電池2本(3V程度)、抵抗値の大きな抵抗器(例えば10kΩ程度)、静電容量の大きな電解コンデンサ(例えば1,000µF程度)、LED1個を直列につないだ回路を作り、いったん十分に充電したあと、電源だけを切り離してコンデンサとLEDと抵抗器だけの閉じた回路にする。電源を切った瞬間にLEDが消えるのではなく、コンデンサに蓄えられていた電荷が抵抗器を通じてゆっくり放電されるあいだ、LEDが少しずつ暗くなりながらしばらく光り続ける様子を観察する。時定数(第十章)という数値が、単なる計算上の値ではなく、目で見える時間の長さとして体感できる実践である。

 

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## まとめ — 電子1個から、基板1枚まで

 

本冊(PC創造大全 第2部)では、電子という一番小さな粒子の正体(第一章)から出発し、電圧・電流・抵抗をその電子の目線で見直し(第二章)、導体・絶縁体・半導体という電気の通しやすさの三段階(第三章)、ドーピングによってN型・P型という性質を作り分ける技術(第四章)、PN接合が電流を一方向にだけ流す仕組み(第五章)、トランジスタが小さな電流(あるいは電圧)で大きな電流を制御する仕組み(第六章)、そのトランジスタをCMOSという形で組み合わせてAND・OR・NOTという論理ゲートを物理的に実現する仕組み(第七章、→BOOK-0342へ接続)、無数のトランジスタを1枚のチップにまとめる集積回路(IC)とムーアの法則(第八章)、そして抵抗器・コンデンサ・コイルという三つの受動部品それぞれの物理(第九〜十一章)、最後に基板(PCB)という「固まった回路図」の読み方(第十二章)までをたどってきた。

 

電子という見えない粒子の振る舞いから出発して、シリコンという石ころのような材料が、なぜ計算という高度な仕事をこなす部品(トランジスタ、そしてその集合体であるCPU)になり得るのか、その道筋を一段ずつ確かめてきたのが本冊である。回路図の記号を読む力(→BOOK-0300)の先に、その記号一つひとつが表す部品の中で実際に何が起きているのかを知ることで、次部(→BOOK-0358c市販PCの構造解剖)で扱う、実際のパソコンの内部にずらりと並ぶ部品たちを、単なる「よくわからない黒い箱の集まり」ではなく、電子・半導体・受動部品という物理法則が積み重なってできた、意味の通った構造として読み解けるようになる。すべての計算・実験は、これまでと同じく乾電池とUSB電源という低電圧の直流の範囲にとどめてある。

 

### 本冊で登場した水準二〜四の用語の全体見取り図

 

本冊だけでも70個近い専門用語が登場したため、章をまたいだ全体の関係を、最後にもう一度整理しておく。「電子・自由電子(第一章)」という一番小さな粒子の話が、「電圧・電流・抵抗・抵抗率(第二章)」という回路の基本量の物理的な正体を説明し、その抵抗率の大小によって「導体・絶縁体・半導体(第三章)」という三分類が生まれる。半導体は「ドーピング・N型・P型・正孔(第四章)」という技術で電気の通りやすさを操作され、N型とP型を接合すると「PN接合・空乏層・整流作用(第五章)」というダイオードの働きが生まれる。PN接合を二つ組み合わせると「エミッタ・ベース・コレクタ・電流増幅・MOSFET(第六章)」というトランジスタになり、トランジスタをCMOSという形で組み合わせると「PMOS・NMOS・NOTゲート・NAND・XOR(第七章)」という論理ゲートが物理的に実現される。この論理ゲートを何十億個も1枚のチップに詰め込む技術が「集積回路・微細化・ムーアの法則(第八章)」であり、これらの能動部品を支える周辺部品として「抵抗器・コンデンサ・コイル(第九〜十一章)」という受動部品があり、最後にすべての部品を配置し配線としてつなぐ土台が「基板・スルーホール・表面実装・部品番号(第十二章)」という物理的な構造になる。この見取り図の中のどの用語も、他の用語との関係の中で意味を持っており、単独で暗記するよりも、この一直線のつながりの中で思い出せるようにしておくと、次部以降の学習がより滑らかになる。

 

---

 

## 章末: 部品の断面図とまとめの階段図

 

まずは第五章で扱ったPN接合の断面を、ASCII図で簡単に表してみよう。

 

```

P型半導体 空乏層 N型半導体

(正孔が多数) (電子・正孔が (自由電子が多数)

ほとんどない)

○ ○ ○ ○ | | ● ● ● ●

○ ○ ○ ○ | 空乏層に | ● ● ● ●

○=正孔 | よって | ●=自由電子

| 電流が |

| 流れにくい|

 

順方向バイアス(P側に+、N側に-): 空乏層が狭まる → 電流が流れる

逆方向バイアス(P側に-、N側に+): 空乏層が広がる → 電流がほとんど流れない

```

 

続いて、本冊全体の歩みを階段図としてまとめる。

 

```

[水準三〜四] 基板(PCB)の読み方(第十二章)

R/C/L/D/Q/Uという部品番号(リファレンスデジグネータ)・多層とビア・ソルダーレジスト

▲

│ 部品を配置し配線として固定する

[水準二〜四] 受動部品I〜III(第九〜十一章・抵抗器・コンデンサ・コイル)

R=ρL÷A、τ=R×C(検算6)、E=(1/2)LI²(検算7)

▲

│ 増幅・スイッチの部品を支える周辺部品

[水準四] 集積回路(IC)とムーアの法則(第八章)

トランジスタ数の増加(検算8)・微細化と発熱の関係

▲

│ 何十億個ものトランジスタを1枚のチップにまとめる

[水準四] 論理ゲートの物理実装(第七章・CMOS・NOT/AND/OR/XOR)

PMOS+NMOSでNOTゲート、NAND+NOTでAND(→BOOK-0342へ接続)

▲

│ 電流・電圧で制御するトランジスタを組み合わせる

[水準三〜四] トランジスタ(第六章・増幅とスイッチ)

IC = hFE × IB(検算5)、MOSFETは電圧制御

▲

│ PN接合を二つ組み合わせる

[水準三] PN接合とダイオード(第五章・整流作用)

順方向バイアス→電流が流れる、逆方向バイアス→流れない

▲

│ N型・P型を接合する

[水準三] 半導体をつくる(第四章・ドーピング・N型・P型・正孔)

▲

│ 導体と絶縁体の中間を人工的に操作する

[水準二〜三] 導体・絶縁体・半導体(第三章・自由な電荷の担い手の桁違い)

▲

│ 材料によって電気の通しやすさが変わる

[水準二] 電圧・電流・抵抗の物理的正体(第二章・検算2、BOOK-0300継承)

▲

│ 自由電子という粒子の目線で見直す

[水準二] 電子とは何か(第一章・電子・自由電子・電荷、検算1)

 

安全枠: 乾電池・USB電源(5V、低電圧の直流)に限定。交流100Vの実配線・PSU内部の開放は一切扱わない。

```

 

---

 

## 参照文献(定番教科書・一般規格)

 

1. 基礎電子物性・半導体工学の標準的教科書(大学初年次・高等専門学校向けに広く使われている、原子構造・自由電子・半導体・PN接合・トランジスタを扱う定番の入門教科書群)。

2. CMOS論理回路設計の標準的教科書(NAND/NOR中心設計、消費電力の考え方を扱う定番教科書群)。

3. プリント基板設計の標準的な入門書・業界資料(層構造・スルーホール/表面実装・部品番号の慣例的な表記法を扱う資料群)。

4. →BOOK-0300『実践工学: 回路の読み方と設計 第1巻』(電圧・電流・抵抗・オームの法則、直列・並列・複合回路、安全余裕度の計算という土台)。

5. →BOOK-0342『論理回路からCPUへ』(AND・OR・NOTのスイッチ模型、真理値表、レジスタとクロックへの接続)。

 

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(本冊子は現代学問宇宙図鑑シリーズ BOOK-0358b。統合大型巻『PC創造大全』(BOOK-0358)物語脊椎・第2部(電子と部品の物理)。前部→BOOK-0358a『数と論理の土台』、次部→BOOK-0358c『市販PCの構造解剖』。CATALOG_PC創造大全.md 設計書・NUMBER_REGISTRY.md進捗台帳を参照。)

 




# BOOK-0358b PC創造大全 第2部: 電子と部品の物理 — 石ころから生まれた計算する石
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