銀河の辺境から吹き寄せる不穏な風は、既に共和国の崩壊を予兆させていた。24BBY。各地で沸き起こる分離主義の運動は留まることを知らず、政治的な地殻変動は着々と進んでいる。
そんな激務の合間を縫い、シスの暗黒卿ダース・ティラナスとしての顔を隠し、分離主義運動の指導者として東奔西走していたドゥークー伯爵は、しばしの休息と“ある確認”のために、故郷である惑星セレノーの壮麗な城へと帰還した。
だが彼を待っていたのは、安らぎとは程遠い、あまりにも悍ましく、そして血生臭い“遊戯”の光景だった。
城の奥深くに設けられた、優美な彫刻が施された大理石の中庭。普段であれば心地よい風が吹き抜けるその場所に、今や耳を覆いたくなるような悲鳴と、肉が焦げる不快な臭いが充満していた。
「あはっ! ほらほら、どうなさいましたの? もっと機敏に動きやがれって言っていますのよ、この薄汚い家畜が!」
中庭の中央で、まるで舞台の上の踊り子のように華麗にステップを踏んでいるのは、14歳になるドゥークーの養女――ドラヴェナであった。
漆黒のレースと真紅の薔薇で彩られたゴシック調のドレスを翻し、金髪の美髪を夜風に揺らすその姿は、一見すればどこかの星系の最高級の令嬢そのものだ。しかしその手に握られているのは、禍々しい赤い光刃を放つ2本のライトセーバー。
そして彼女の目の前で、全身を焼き焦がされながら這い回っているのは、ドラヴェナが自身の財力でザイゲリアの奴隷商人から買い叩いた、罪なき奴隷達だった。
「悲鳴の質が単調で退屈極まりないわ!
ドラヴェナの太ももに刻まれた紋様が、彼女の激しい感情に呼応するように、フォースの奔流となって周囲の空気を歪ませる。
彼女が駆使するのは、ライトセーバー戦技の中でも最も攻撃的であり、感情の爆発をそのまま刃へと変える禁忌の型――『ジュヨー』。14歳にしてその域に達した彼女の才能は、かつてドゥークーが見込んだ通り、あのメイス・ウィンドゥやヨーダにも匹敵する底知れぬものだった。
だが、問題はその才能の使い道。そして彼女の“本性”だった。ジジッ、と肉の焼ける音と共に、また一人の奴隷が動かなくなる。ドラヴェナはそれを見て、酷くつまらなそうに鼻で笑うと、死体をゴミのようにフォースで壁へと叩きつけた。
「……やれやれ」
柱の影からその光景を見ていたドゥークーは深く、重い溜め息をついた。彼はジェダイを捨て、シスの暗黒卿となった身だ。銀河を支配するためなら冷酷な決断も下すし、障害となる者は容赦なく排除してきた。
だが、彼の根底にあるのはあくまで“洗練された秩序”と“大義”である。目の前で繰り広げられているような、ただ己の先天的な嗜虐心を満たすためだけの、品性の欠片もない無意味な虐殺は、高貴な元・伯爵の美学から最も遠い場所にあるものだった。
そのドゥークーの気配、あるいは僅かに漏れ出た忌避のフォースを、ドラヴェナの並外れた知覚が捉えた。
「あらー?」
ドラヴェナはピタリと動きを止めると、手の中のライトセーバーを器用に回して消灯し、腰のホルダーへと収めた。そして入り口に立つドゥークーの姿を認めると、まるで無邪気な子供のような――それでいて牙を剥き出しにした猛獣のような、残忍な笑みをその端正な顔に浮かべた。
「お義父様、今戻りましたの? ご連絡もなしに、水臭いですわね。せっかく新しい玩具の壊れ際をお見せしようと思っていましたのに、もう殆ど動かなくなってしまいましたわ」
ドレスの裾を軽く持ち上げ、完璧な
ドゥークーは自身の表情が、僅かに引きつるのを止められなかった。彼はポーカーフェイスの達人であり、パルパティーンの前でさえ動じない鉄の理性の持ち主だが、この養女の“底知れぬ悪意”にだけは、どうしても本能的な嫌悪と恐怖が混ざり合うのを感じてしまう。
「……息災なようで何よりだ、ドラヴェナ。相変わらず、私の城を血で汚すのがお好みのようだな」
ドゥークーはマントを翻し、あえて威厳を保った足取りで、死体が転がる中庭へと歩み進めた。
「ザイゲリアの奴隷を買い占めて何をしているかと思えば。お前のその溢れるフォースの才能は、哀れな弱者を嬲るために与えられたものではないはずだが?」
「何をおっしゃいますの、お義父様」
ドラヴェナは小首を傾げ、琥珀色の瞳を厭らしく光らせた。
「弱者は強者に奪われ、痛めつけられるために存在しているのですわ。私が何を与えられ、何を奪おうと、私の勝手でしょう? それとも、この私に説教をなさるおつもりかしら? ──この、堅物の老いぼれが」
さらりと混ざる罵詈雑言。ドゥークーは眉を顰めたが、ここで怒りを露わにすることは、この狂った少女を更に喜ばせるだけだと知っていた。
「言葉を慎みなさい。私がお前を養子に迎えたのは、その類稀なる才能を、やがて来る『新しい秩序』のために役立てるためだ」
「分かっておりますわよ」
ドラヴェナは、ふ、ふふ、と喉の奥で嗤った。彼女はドゥークーに歩み寄り、その長い爪が伸びた手を、楽しげに宙へと翳してみせた。その視線の先にあるのは、セレノーの夜空の向こう――銀河共和国の領域だった。
「あと2年……でしたかしら? お義父様が着々と準備を進めていらっしゃる、あの忌々しい金属の塊共――ドロイド軍が完成するのは。私、今から待ち遠しくて仕方がありませんの」
ドラヴェナの顔が、愉悦に歪む。人から全てを奪い去る時の、あの悪魔的な笑みだ。
「あの無機質な兵隊共を率いて、共和国の、あの温々と暮らしている無能な連中の星を、片っ端から蹂躙してやりますわ。家を焼き、財産を奪い、命乞いをする貴族たちの顔をこの足で踏みつけて……ああ、想像するだけで全身の血が滾りますわね! 私の前に跪く全銀河の弱者共から、ありとあらゆるものを略奪して差し上げますわ!」
歓喜に震えながら語る養女の姿を見下ろし、ドゥークーは内心で、深く息を吐き出した。
(……私はとんでもない怪物を拾ってしまったのかもしれないな)
アサージ・ヴェントレスのような、憎しみに駆られた暗殺者なら扱いようもある。だが、このドラヴェナは違う。彼女にあるのは、大義でも復讐心でもない。ただ純粋な、底の抜けた“加虐の愉悦”だ。コントロールを誤れば、自分自身すら噛み千切られかねない。
しかし同時に、ドラヴェナのフォースの強大さと鋭利な刃が、来るクローン戦争において共和国を震撼させる最大の凶器になることも、ドゥークーは確信していた。
「……フン、お前のその狂気が、戦場で鈍らぬことを祈るばかりだな。暴れる舞台は、いずれ嫌というほど用意してやる」
「あら、嬉しい。期待しておりますわよ、お義父様」
ドラヴェナは再び残忍に、そしてどこまでも可憐に嗤った。月光に照らされた彼女のドレスの赤は、まるでこれから銀河中に流されるであろう、数多の生命の血の色そのもののようだった。
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