ジオノーシスの硝煙が未だ銀河に燻る1ヶ月後。惑星セレノーの美しい青い軌道上に、壮観なドロイド艦隊がその姿を現していた。
ドゥークー伯爵からドラヴェナへと与えられたその軍事力は、ミュニファスント級スター・フリゲート10隻、そしてルクレハルク級バトル・シップ2隻という、一個星系を容易に封鎖可能な規模であった。
だが、その美しい陣形の中で、3隻のミュニファスント級だけは異彩を放っていた。中古で著しく傷み、装甲の至る箇所が煤けているその3隻には、本来あるべき独立星系連合の精緻なシンボルがすべて削り取られている。
代わりに不気味なタッチで大きく描かれていたのは、銀河の荒くれ達が掲げる、巨大な海賊の紋章であった。これは、これから行われる極秘の『偽装作戦』のために特別に用意された生贄の船だった。
ミュニファスント級は、全長820m。細身の船体に極めて優れた火力を備えたフリゲート艦であり、内部には最大で15万体のバトル・ドロイドを収容できる。更に特筆すべきは、強力な通信妨害装置を備えている点だ。一度作戦が始まれば、標的となった星系の全通信・連絡を完全に遮断し、孤立無援の地獄へと叩き落とすことができる。
一方、艦隊の背後にそびえ立つ2隻のルクレハルク級は、通商連合の巨大な貨物船を軍艦へと改造したもので、全長3.3km、横幅3km、全高1kmという、文字通り移動する超巨大要塞であった。純粋な火力こそ高くはないが、その真価は圧倒的な積載量にある。
最大でMTT(大型兵員輸送者)550機、AAT(装甲型強襲用戦車)6,250機、C-9979着陸船50機、ドロイド・スターファイター1,500機、そしてバトル・ドロイド33万体をその巨大な円環の腹の中に積み込み可能という、怪物の如き兵員輸送軍艦であった。
通常の戦争であれば、制圧した星から略奪した財貨や資源をこのルクレハルク級の広い船倉へ限界まで積み込み、ドラヴェナの私腹を肥やす予定であった。
しかし、今回のマンダロア侵攻においては話が別だ。目的はあくまでサティーン政権を叩き潰し、デス・ウォッチによる統治をスムーズに成功させること。民衆を余計に刺激する略奪行為は、今回はあえて行わない方針であった。
ドラヴェナは現在、旗艦として指定した無傷のミュニファスント級のブリッジに、メイリスと共に立っていた。豪奢な黒いドレスの裾を揺らしながら、彼女はホログラム・モニターを見つめている。数日前、あの銀河一の賞金稼ぎから連絡があったのだ。
「そろそろお見えになりますわね。私の頼もしい猟犬が」
言葉に応じて、ブリッジのセンサーが小刻みに鳴った。前方から、特徴的な平べったい形状をしたジャンゴ・フェットの愛機《スレーヴI》が接近し、ミュニファスント級の広大なハンガー・ベイへと滑り込んでいく。ドラヴェナはメイリスを引き連れてハンガーへと赴き、《スレーヴI》のタラップから降りてきたジャンゴを出迎えた。
「ご苦労さまですわ、ジャンゴ。手筈通りに動いてくれたのでしょうね?」
「ああ。お嬢ちゃんに言われた通り、きっちり最高の舞台を整えてきたぜ」
ジャンゴはヘルメットを小脇に抱え、不敵に笑った。ドラヴェナは満足そうに頷くと、彼をフリゲート艦の最高級の客室へと案内した。
部屋の扉が閉まると、二人の間には一瞬、奇妙な沈黙が流れた。
ドラヴェナはドゥークー伯爵から、あのカミーノのクローン軍がシディアスのマッチポンプであるという秘密を全て聞かされていた。しかし安易にその全貌を口にすることは、自らの首を絞めることになると理解している。だからこそ、クローン関連の話題には一切触れない。
一方のジャンゴもまた、自らがその素体でありながら、これ以上の余計な政治闘争やシスの暗闇に巻き込まれたくないため、深く詮索するような言葉は口に閉ざしていた。互いの利害が一致した、冷徹な大人の沈黙だった。
ジャンゴはソファーに腰を下ろすと、本題を切り出した。
「約束通り、デス・ウォッチのリーダーであるプレ・ヴィズラと接触した。奴もお嬢ちゃんの提案に飛びついたぜ。作戦の最終確認だ」
ジャンゴが提示した作戦内容は、完璧かつ残虐なものだった。
まず、ドラヴェナが海賊に偽装させた3隻のミュニファスント級を率いて、マンダロアの美しき首都『サンダーリ』とその周辺へ容赦のない無差別爆撃を敢行する。強力な通信妨害で外部への救援を断ち切り、平和主義にかまけて防衛力を削ぎ落としたサティーン政権の無能さを、民衆の目の前に血と炎で突きつける。
民衆が絶望の極みに達したその時、満を持してデス・ウォッチの軍勢が突入し、海賊に偽装した3隻のフリゲート艦を撃墜。民衆に『救世主たる英雄』として鮮烈に受け入れられる。その後、混乱に乗じてサティーン公爵を捕らえ、完全なる政権交代を成し遂げる。
最後に、マンダロアから1パーセク離れた安全な宇宙空間に待機させておいた残りのミュニファスント級7隻とルクレハルク級2隻を軌道上へと進出させ、鉄壁の防衛線を構築。デス・ウォッチの新政権と独立星系連合が、対等な軍事同盟を結ぶ――。
「素晴らしいわ、完璧なマッチポンプですわね!」
ドラヴェナは琥珀色の瞳をぎらつかせ、愉悦に声を弾ませた。彼女は即座に客室の通信機を起動し、ジャンゴを介してプレ・ヴィズラへとホログラム通信を繋いだ。青白い光の中に現れたのは、マンダロアの伝統的なアーマーに身を包んだ威厳ある男、プレ・ヴィズラだった。
『お初にお目にかかる、セレノーのドラヴェナ令嬢。ジャンゴから話は聞いている。貴女の提示した作戦、我がデス・ウォッチにとってこれ以上ない名誉の舞台だ』
「あら、お褒めに預かり光栄ですわ、ヴィズラ閣下」
ドラヴェナは上品に微笑みながらも、その言葉の刃を研ぎ澄ませた。
「私、貴方たちの『強者こそが正義』という高貴な信念、非常に気に入っておりますの。あのサティーンとかいう、守られるだけの羊の顔色を窺う無能な女など、さっさと引き摺り下ろして徹底的に痛めつけてやるべきですわ」
ヴィズラはバイザーの奥でフッと笑った。16歳の少女とは思えぬその残忍性と、圧倒的なフォースの力を認め、彼もまたドラヴェナに深い敬意を抱いた。
『フン、その通りだ。羊が狼の国を治めるなど、マンダロアの歴史に対する侮辱だ。……令嬢、一つ条件がある。今回の作戦が成功した暁には、例のベスカー合金に関する全ての取引は、貴女個人に限定させてもらう』
「おや、独立星系連合ではなく、私限定に?」
『ああ。連合のあの強欲なエイリアンの商人共は、戦士の魂たるベスカーの価値を理解せん。奴らは信頼できん』
ヴィズラの言葉の意図を、ドラヴェナは瞬時に理解した。実際にベスカーを使ってドロイドを製造するのは連合の技術者達だが、窓口をドラヴェナに絞ることで、貪欲な商人たちが不用意にベスカーを買い占めるのを防ぐという牽制だ。ドラヴェナとしても、それは願ったり叶ったりだった。
「ええ、全く同感ですわ。あの脳足りんの守銭奴共に、貴重なベスカーを無駄に浪費されては困りますもの。例えば、あの安っぽいB1バトル・ドロイドを大量にベスカー製にするような無駄遣いや、自分たちの成金じみた豪邸の壁をベスカー製にするような、至極どうでもいい場面で消費されるなど、絶対に許しませんわ」
『話が早くて助かる。では、マンダロアの空でお会いしよう、令嬢』
「ええ、極上の地獄をお見せいたしますわ」
通信が切れた後。ドラヴェナの顔には、全てを奪い尽くすための凶悪な笑みが戻っていた。彼女はブリッジへと戻ると、控えていたT-シリーズ・タクティカル・ドロイドに向けて冷徹に命じた。
「これより作戦を開始しますわよ。海賊に偽装した3隻のミュニファスント級は、私と共にマンダロアの本星へとハイパージャンプ。残りの7隻とルクレハルク級2隻は、マンダロアから正確に1パーセク離れた座標へハイパージャンプし、息を潜めて待機していなさい。私の信号があるまで、一歩も動くんじゃありませんよ」
「了解シマシタ、ドラヴェナ様。作戦行動ヲ開始シマス」
機械的な復唱とともに、艦隊が静かに動き出す。不穏な光を放つハイパースペースの窓が開き、海賊旗を掲げた3隻のフリゲート艦が、美しき平和の星マンダロアを血の海に染めるべく、虚空へと消え去っていった。