セレノーの天空を切り裂くように、何条もの光刃が激しく交錯していた。キィィィン、と高周波の金属音が中庭に響き渡り、火花が夜の闇を鮮やかに彩る。
ライトセーバーの訓練に励んでいるのはドラヴェナと、ドゥークー伯爵がサイボーグへと改造し、将来のドロイド軍最高司令官として呼び寄せたグリーヴァス将軍であった。
ドラヴェナは弱者を徹底的に見下し、虫ケラのように踏みにじる悪趣味な少女だが、同時に明確な基準を持っていた。それは“純粋な強者”への敬意である。生身の肉体を捨て、圧倒的な破壊兵器へと変貌を遂げたグリーヴァスの残忍性と戦闘能力を、彼女は高く評価していた。
そしてグリーヴァスもまた、自分を歪んだ改造人間と蔑視せず、むしろその凶暴性を称賛するドラヴェナに対し、奇妙な親近感と深い畏敬の念を抱いていたのである。
「素晴らしいですな、ドラヴェナ令嬢! 貴女の剣技はまさに銀河最強です!」
「あははっ! 将軍、貴方の4本腕の剣技も最高にイカれてますわ! もっと私を楽しませてくださいな!」
グリーヴァスが機械の腕を4本に分割し、緑と青のライトセーバーを凄まじい速度で回転させる。対するドラヴェナは2本の真紅の刃を奔流のごとく振るい、その猛攻を笑いながら受け流していく。
二人の間にあるのは、常人には理解しがたい“残忍な強者同士”の奇妙な調和だった。だが、その狂熱の空間を裂くように、重厚な足音が近づいてきた。
「そこまでにしなさい、2人共」
冷徹な声と共に現れたのは、城の主であるドゥークー伯爵だった。二人は刃を収め、グリーヴァスは即座に直立不動の姿勢を取って頭を下げる。しかし、ドゥークーの後ろから影がもう一つ、音もなく進み出てきた。
それは、青白い肌に刺青を刻んだ、ダソミリアンの若き女性――アサージ・ヴェントレスだった。奴隷や暗殺者として泥水を啜り、激しい憎悪を身に纏った彼女は、鋭い眼光で周囲を睨みつけている。
その姿――特に、一切の毛髪がないその頭部が月光に照らされた瞬間だった。ドラヴェナは一瞬だけ目を丸くすると、次の瞬間、お腹を抱えて盛大に吹き出した。
「ギャハハハハハハハ! お、お腹痛いですわ! 何ですのその格好!? ツルピカ頭のババアのご登場ですわーー!!」
その品性を微塵も感じさせない大爆笑に、グリーヴァス将軍の人工頭脳も即座に反応した。グリーヴァスは元々、ジェダイを酷く嫌悪している。新参者のヴェントレスが生意気な態度で控えているのが気に入らなかったこともあり、ドラヴェナの痛烈な煽りに便乗して、金属の胸板を叩きながら耳障りな笑い声をあげた。
「ゴホッ、ゴホッ! 確かに! ドラヴェナ令嬢の言う通りですな! 頭がツルツルピカピカですな! ガハハハハ! 滑稽極まりない!」
「貴様ら……ッ!!」
当然、ヴェントレスのプライドはズタズタに引き裂かれた。これまで地獄のような環境を生き抜いてきた彼女にとって、初対面でここまで愚弄されたのは初めてだった。激昂したヴェントレスは腰の曲がったライトセーバーに手をかけ、一歩前に踏み出す。
「そのふざけた口、二度と開けないように引き裂いてや――」
だが、ヴェントレスの言葉は途中で完全に凍りついた。ドラヴェナの琥珀色の瞳が、一瞬で底なしの暗黒へと染まる。彼女から放たれたのは、周囲の空気が物理的に重くなったか錯覚するほどの、圧倒的で、純粋な“殺意”のフォースだった。
「ハァ? 生意気言うんじゃありませんよ、ツルピカ頭」
ドラヴェナの声から先ほどまでの楽しげな響きが消え、ドスの利いた冷酷な声が中庭を支配する。彼女の手が、いつでも首を撥ねられると言わんばかりに、ライトセーバーの柄へと伸びていた。戦場を生き抜いてきたヴェントレスの野生の勘が、本能的な警報を鳴らす。
(……こいつ、何だ!? このフォースの化け物じみた密度は……!?)
格の違い。それを魂のレベルで察知してしまったヴェントレスは、額に冷や汗を浮かべる。彼女は屈辱に震えながらも、思わず一歩後ろへと引き下がってしまった。
「ドラヴェナ、そこまでにしなさい。私の客人を怯えさせるな」
ドゥークーが厳格な声で割って入り、フォースの障壁を張ってその場を宥めた。ドラヴェナはつまらなそうにフンと鼻を鳴らし、殺気を霧散させる。
「アサージ・ヴェントレスだ。ジェダイの生き残りであり、私の新しい弟子として迎え入れた。来るべき戦いで、我らの強力な手駒となるだろう」
ドゥークーの紹介を聞いたドラヴェナは、再び信じられないものを見るような目をすると、大口を開けて笑い転げた。
「アッハハハハ! こんなツルピカ頭のクソザコ女が弟子!? お義父様もいよいよ焼きが回りましたわねぇー! ギャハハハハ! どこをどう見たらこれが『強力な手駒』に見えますの? ドロイドの部品にでもした方が、まだ役に立ちますわよ!」
「全くだ! 儂もそう思いますな!」
グリーヴァスも追従して愉快そうに金属音を鳴らす。ヴェントレスは唇を血が出るほど噛み締め、怒りで拳を震わせていたが、先ほどのドラヴェナの底知れぬフォースを思い知った後では、これ以上言葉を返すこともできなかった。
その光景を見つめながら、ドゥークー伯爵は眉間に深い皺を刻み、この日何度目かもわからない溜め息をついた。
(……2年後、本当にこれで共和国に勝てるのだろうか)
軍の最高司令官たるグリーヴァスは、この我が儘な養女にすっかり懐いてしまっている。新しく入った弟子は、初日から徹底的にプライドを叩き潰されて縮こまっている。そして肝心のドラヴェナは、組織の調和など知ったことかとばかりに爆笑している。
これから始まる銀河規模の戦争を前に、身内の頭痛の種は増える一方であった。ドゥークーはただ、天を仰ぎ、セレノーの冷たい夜風をマントに受けるしかなかった。
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