STARWARS――銀河の悪意を纏う薔薇   作:鉅鹿

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3話 銀河一の賞金稼ぎと至高の玩具

アサージ・ヴェントレスを新たな弟子として迎えた翌日。セレノーの城内にある広大な演習場には、心地よい乾いた銃声が響き渡っていた。

 

ドゥークー伯爵が傍らに従えているのは、マンダロアのアーマーに身を包んだ銀河一の賞金稼ぎ、ジャンゴ・フェットである。彼は現在、カミーノで進行中のクローン・トルーパーの開発素体であり、同時にドゥークーの私的な傭兵としても暗躍していた。

 

「お義父様、わざわざ私をこんな埃っぽい場所に呼び出して、一体何の用ですの?」

 

ドラヴェナは、お気に入りの黒いレースドレスの裾を厭そうに摘みながら、不機嫌極まりない声をあげた。その琥珀色の瞳は、ドゥークーの隣に立つ装甲服の男を完全に“取るに足りないゴミ”として認識している。

 

「ただの賞金稼ぎではありませんの。フォースも使えない、泥臭い人間を私に紹介してどうしようというのです? 挨拶代わりに首でも撥ねて差し上げましょうか?」

 

いつもの容赦のない見下しと暴言。だが、ジャンゴ・フェットはT字型のバイザーの奥で、微塵も動じることなく冷徹に佇んでいた。数々の修羅場をくぐり抜けてきた彼にとって、高慢な貴族の小娘の脅しなど、そよ風にも及ばない。

 

「ドラヴェナ、口を慎め。彼はジャンゴ・フェット。銀河で最も危険な男だ。その実力、お前のその肥えた目で確かめてみるがいい」

 

ドゥークーが静かに合図を送ると、ジャンゴは無言で頷き、演習場の中央へと歩み出た。同時に、訓練用の高速ドロイドが十数機、不規則な軌道で空中へと射出される。次の瞬間、ジャンゴの背中のジェットパックが爆音を上げて点火した。

 

──シュウウウウウウウッ!

 

強烈な推進力と共に、ジャンゴの身体が矢のように天空へと跳ね上がる。空中を自由自在に、まるで重力など存在しないかのように滑空するその機動力は、フォースによる跳躍とはまた異なる、洗練された“技術”の極致だった。

 

「ほう……?」

 

ドラヴェナの目が、わずかに見開かれる。ジャンゴは空中で鋭く反転しながら、両腰のウエスター34ブラスター・ピストルを瞬時に引き抜いた。

 

──バン!バン!バン!

 

一切の無駄がない、流れるような早撃ち。放たれたエネルギー・ボルトは、目にも留まらぬ速さで回避運動をとっていたドロイド達の急所を、一撃のもとに正確に射抜いていく。一発の無駄弾すらない。空中で繰り広げられるその圧倒的な蹂躙劇は、一種の芸術ですらあった。

 

最期のドロイドが爆散し、ジャンゴが金属音を響かせて静かに着地したとき、演習場には静寂が満ちていた。

 

「素晴らしい……! 素晴らしいわ、ジャンゴ!」

 

沈黙を破ったのは、ドラヴェナの歓喜の叫びだった。彼女は先ほどまでの不機嫌そうな態度をどこへやら、琥珀色の瞳をキラキラと輝かせ、少女のように両手を叩いてジャンゴを絶賛した。

 

「フォースも持たない分際で、これほどの戦闘力! 空中を自由自在に舞い、的を正確にブチ抜くあの火力と射撃力……! ああ、最高にイカしてますわ! 貴方、ただの泥臭い人間かと思えば、極上の猟犬ではありませんの!」

 

独特の罵倒混じりではあったが、それはドラヴェナなりの最大級の賛辞だった。

ジャンゴはヘルメットを脱ぎ、不敵な笑みを浮かべながらドラヴェナを見た。まさか、ドゥークーが手を焼いているという噂の、極悪非道な令嬢からこれほど純粋に賞賛されるとは思っていなかったのだろう。

 

「へえ……お嬢ちゃん、てっきり口だけの贅沢病かと思っていたが、違いのわかる目の持ち主らしいな。評価を改めさせてもらうよ」

 

「ふん、当然ですわ。ワタクシは強い者だけは認めて差し上げますの」

 

ドラヴェナはふんぞり返ると、すぐにドゥークーの方へと向き直り、我儘に声を弾ませた。

 

「お義父様! ワタクシ、欲しくなりましたわ! あのジャンゴのような戦闘力を持ったドロイドが! 空中を自在に駆け回り、圧倒的な火力で弱者を消し飛ばす、ワタクシ専用の最高級の玩具を今すぐ造らせてちょうだい!」

 

「……無茶を言うな、ドラヴェナ」

 

ドゥークー伯爵は即座に眉をひそめ、困惑の溜め息をついた。

 

「現在、我々の資金とリソースは二年後の大戦に向けた標準型ドロイドの大量生産に注ぎ込まれている。お前が望むような、ジャンゴ並みの機動力と射撃力を両立させた高性能ドロイドを、一から新規開発する余裕など──」

 

「それなら、名案がありますぜ、伯爵」

 

助け舟を出したのは、ジャンゴだった。彼は愛銃をホルダーに収めながら、面白そうに提案する。

 

「今、ジオノーシスで生産ラインが立ち上がっている『B2スーパー・バトル・ドロイド』。あれをベースに改良型を開発してみたらどうだ? 両肩のあたりに特製のジェットパックを仕込んで空中を飛ばせる。武器は、両腕のブラスターじゃ生ぬるい。両手に圧倒的な火力を誇る『四重レーザー砲』を搭載するんだ」

 

ドラヴェナの顔が、期待でみるみるうちに歪んでいく。ジャンゴは更に言葉を続けた。

 

「だが、それだけの重武装だと機動性を保つために装甲を薄くしなきゃならねえ。……どうせなら装甲は『ベスカー合金』にするか? マンダロアの純ベスカーだ。ライトセーバーの刃すら弾く代物だぜ。闇ルートを使えば、俺が調達してきてやるよ」

 

「ベスカー合金!? 本当にいいんですの!?」

 

ドラヴェナは驚きに声を裏返らせた。ベスカーがどれほど希少で、どれほど強固な金属であるかは、高貴な生まれの彼女もよく知っている。ジャンゴは肩をすくめ、不敵に笑った。

 

「お嬢ちゃんのためのサービスさ。俺をそれだけ気に入ってくれたお礼だ」

 

「……ありがとう、ジャンゴ」

 

ドラヴェナは満面の笑みを浮かべ、素直にジャンゴにお礼を言った。その瞬間、隣にいたドゥークー伯爵は驚愕のあまり目を見開いた。

 

常に他者を見下し、奪うことしか頭になく、義父である自分にさえ罵詈雑言を浴びせるあのドラヴェナが、他人に「ありがとう」と感謝を述べたのだ。それはドゥークーにとって、天変地異に等しい衝撃だった。

 

それほどまでに、彼女はこれから造られるであろう新型ドロイド──己の加虐性を満たすための完璧な凶器──を心から楽しみにしている証拠だった。ドゥークーは顎に手を当て、深い思索にふける。

 

(他者を痛めつけることしか脳にないあの娘が、果たしてそのドロイドを大事に扱えるのか? ……いや、試してみる価値はあるな)

 

もし、ドラヴェナがその新型ドロイドを気に入り、己の手足として完璧に戦場で操るようになれば……それは共和国にとって最凶最悪の悪夢となるに違いない。

 

「……よかろう」

 

ドゥークーは静かに頷き、ジャンゴを見た。

 

「ジャンゴ、ベスカーの調達を頼む。ジオノーシスのポグル・ザ・レッサーに連絡を入れ、B2のカスタマイズ・ラインを極秘裏に確保させよう。ドラヴェナ、お前のために銀河最強の鋼鉄の玩具を用意してやる」

 

「あはっ! 嬉しいですわ、お義父様!」

 

ドラヴェナは残忍に、そして少女らしく無邪気に嗤った。

2年後のクローン戦争。その戦場に解き放たれるのはフォースの化け物たる令嬢だけでなく、彼女の我が儘が生み出したベスカーの装甲を纏う空飛ぶ殺戮兵器だ。

 

ドゥークーの胸中にあった不安は、いつしか共和国の破滅を予感させる暗い期待へと変わりつつあった。

 




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございましす。もし「続きが気になる」「この残忍な少女の今後が見たい」と思っていただけましたら、お気に入り登録や評価をいただけますと、執筆の大きな励みになります。
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