STARWARS――銀河の悪意を纏う薔薇   作:鉅鹿

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今回登場するドロイドは、クローン・ウォーズseason6で活躍した、あのドロイドの強化バージョンです。


4話 黒紅の令嬢と血に飢えた陰謀

ジャンゴ・フェットがベスカー合金の調達に動いてから1ヶ月後。惑星セレノーのプライベート・ポートに、一隻の無骨な大型輸送船が重々しい逆噴射の音を響かせて着陸した。

 

ハッチが油圧の音を立てて開くと、中から出てきたのはジオノーシスの大手ドロイド製造メーカーから派遣された技術者。そして、その後ろに従うようにして歩み出てきた、一機の歪なシルエットを持つドロイドだった。

 

そのドロイドの機体色は禍々しくも美しい、漆黒と真紅。ジオノーシスで製造中の標準的なB2スーパー・バトル・ドロイドとは一線を画す、圧倒的な威容を誇っていた。

 

「ほう……これが」

 

待ちわびていたドラヴェナは、琥珀色の瞳をぎらつかせてその機体を見上げた。

 

両肩には長時間の航空を可能にし、かつ極めて精密な空中制動を実現する巨大なジェットパック。両腕には鋼鉄を易々と歪ませる打撃力と、標的を塵も残さず消し飛ばす四重レーザー砲。更に背部と脚部には、空中での急な方向転換や加速をサポートする補助ブースターが幾重にも備え付けられている。

 

何よりその重厚な外殻を覆っているのは、ジャンゴが文字通り命懸けの闇ルートで調達してきた、鈍い銀光を放つ伝説のベスカー合金であった。その名は『B2スーパー・ロケット・トルーパー』。ドラヴェナの歪んだ理想を具現化した、空飛ぶ殺戮兵器のプロトタイプである。

 

新型ドロイドはドラヴェナの前に進み出ると、金属音を立ててその場に静かに跪き、主への絶対の服従を示した。その傍らで、愛用のヘルメットを小脇に抱えたジャンゴ・フェットが、面白そうに口の端を吊り上げた。

 

「あ、ちなみにそいつ、女性仕様のロジック・プログラムを組み込んであるからな。仲良くしろよ、お嬢ちゃん」

 

「はぁ?」

 

ドラヴェナは、あからさまに嫌そうな顔をしてジャンゴを睨みつけた。

 

「余計なお世話ですわ。何故わざわざ兵器に女性の人格などという、無駄なリソースを割く必要性がありますの?」

 

ジャンゴは肩をすくめ、乾いた笑い声を漏らす。

 

「お嬢ちゃんのその最悪な性格だ、どうせ社交界に友達の1人もいないだろ? 1つくらい、マトモな話し相手を作っとけよ。……まぁ、俺にもボバっていう息子がいるがな。クローンの素体なんて特殊な環境で生まれたせいで、周りに友達なんて作れやしねぇ。そういう奴には、せめて身近に話せる相手が必要なんだよ」

 

「いや、貴方の家庭の事情など一ミリも興味ありませんわ」

 

ドラヴェナは鼻でせせら笑い、ドレスの裾を苛立たしげに翻した。

 

「というか、サラリと私を“友達がいない”と馬鹿にしていらっしゃいませんこと? 何故、この私が他人と馴れ合う必要がありますの? そもそも“友達”とは対等な関係を意味する言葉でしょう。この全銀河において、私と並び立つ者など――」

 

「あー、分かった分かった。やっぱお嬢ちゃんは“ぼっち”なんだな」

 

「失礼なことを言わないでくださいまし!!」

 

ムキになって怒るドラヴェナを見て、ジャンゴは可笑しそうにクスクスと笑う。ドラヴェナはふん、と顔を背けると、跪く鉄の塊を見下ろした。

 

「……ドロイドなど、私の心を満たす玩具に過ぎませんわ。ですが……まぁ、将来的にこの玩具を量産するつもりですの。その時、私の意思を一番によく理解し、交流の深い者が隊長(コマンダー)になった方が、戦場でより連携を取りやすくなりますわね」

 

ドラヴェナはツンと顎をそらすと、B2スーパー・ロケット・トルーパーに向かって冷徹に、しかしどこか満足げに言い放った。

 

「いいでしょう。お前に個体名を授けて差し上げますわ。その名は“メイリス”。有り難く頂戴しなさい」

 

すると、ドロイドの頭部のセンサーが淡く明滅し、通常のB2よりも滑らかで落ち着いた女性的な電子音声が響いた。

 

『……認識しました。個体名“メイリス”。ありがとうございます、ドラヴェナ様。この機体、全て貴女の愉悦のために捧げます』

 

「ガハハ! 記念すべき初友達、メイリスお姉ちゃんの誕生だな! おめでとう!」

 

ジャンゴがここぞとばかりに囃し立てる。ドラヴェナは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。

 

「だから友達ではありませんと言っているでしょう! ていうか何故ワタクシが妹なんですの!? 撤回しやがれですわ!」

 

やがて、役目を終えたドロイド製造技術者の輸送船がセレノーの空へと去っていく。それを見届けたジャンゴは、ふと笑みを消し、真剣な目付きで口を開いた。

 

「ところで、お嬢ちゃん。さっきこいつを『量産する』なんて言ってたが……そりゃあ不可能だぜ」

 

「何故ですの?」

 

ドラヴェナは不満げに眉をひそめた。ジャンゴは己の装甲服の胸当てを指で叩く。

 

「ベスカー合金が採掘できるのはマンダロア本星と、その近くにある衛星コンコーディアだけだ。だが今のマンダロア政府のリーダーは、平和主義を掲げるサティーン・クライズ公爵だ。あの頭お花畑の女は、戦争に関わるベスカーの輸出なんて絶対に認めねぇ。たとえ大金を積まれてもな」

 

「へぇ……偽善者の平和主義ほど反吐が出るものはありませんわね」

 

弱者を守ろうとするサティーンの思想に、ドラヴェナは心底からの嫌悪を露わにする。

 

「だからこそ、戦士としての伝統を重んじる過激派の連中は、本星を追われて衛星コンコーディアに引き籠もった。そいつらは今、『デス・ウォッチ』と名乗っている。奴らの信念は“強者こそが正義”。……どうだ、お嬢ちゃん。なかなか気が合いそうな連中だろ?」

 

「強者こそ正義……ええ、それだけは話が合いそうですわね」

 

ドラヴェナは納得したように頷き、だがすぐに疑問を口にした。

 

「なら、何故そのデス・ウォッチとやらは、サティーン政権を武力で転覆させないのですの? 強者なのでしょう?」

 

「奴らはマンダロアの民衆に『血に飢えた侵略者』だと思われたくないのさ。過激派とはいえ、奴らなりに故郷と民を愛してるんだよ。民衆の支持を得て、正当な支配者として君臨したいのさ」

 

ジャンゴの説明に、ドラヴェナは心底理解できないといった風に首を傾げた。

 

「はぁ……? 弱者の民衆を愛する? 支配されるだけの羊の気持ちを慮るなど、どこまでも片腹痛い思想ですわね。理解に苦しみますわ」

 

しかし、ドラヴェナの天才的な悪の脳細胞は、その矛盾した状況から瞬時に最悪の最適解を導き出した。彼女の美しい唇が邪悪な、あまりにも残忍な形へと歪んでいく。

 

「──名案が思いつきましたわ!」

 

ドラヴェナは狂気的な笑みを浮かべ、歓喜に震える声で語り始めた。

 

「デス・ウォッチが民衆から『英雄』として迎え入れられれば、それでいいのでしょう? ならば、海賊船に偽装させた大規模な艦隊でマンダロアを強襲し、街を焼き、民を蹂躙してやればいいのですわ! サティーン政権の無能さのせいで多くの命がゴミのように死に絶え、民衆が絶望のどん底に突き落とされたその瞬間……! デス・ウォッチが民を救う『正義の味方』として華々しく現れる! これで全て解決ですわ!」

 

ジャンゴ・フェットは、バイザー越しにこの十四歳の少女を見つめ、背筋に冷たいものが走るのを覚えた。ただ他人を痛めつけるだけでなく、政治的なマッチポンプの虐殺劇を瞬時に思いつくその冷酷さ。

 

「……だがお嬢ちゃん、その自作自演の『海賊』を演じるには、一星系を脅かすほどの軍隊が必要だぜ」

 

「ええ、分かっておりますわ。ですから、二年後にお義父様のドロイド軍が結成されたその時、私がすぐにデス・ウォッチと手を組んであげますわ。サティーンの首を撥ね、マンダロア政権を転覆させる……ああ、なんて素晴らしい余興かしら!」

 

ジャンゴはしばらく沈黙していたが、やがて不敵に笑った。

 

「ククク……そいつは傑作だ。サティーンの泣きっ面が見られるなら、俺も協力を惜しまねえよ。その時が来たら、俺がデス・ウォッチのリーダー、プレ・ヴィズラへの橋渡し役になってやる」

 

「あら、本当に? ──ありがとう、ジャンゴ。貴方は本当に話のわかる、最高の猟犬ですわ!」

 

ドラヴェナはジャンゴに2度目のお礼を告げ、くすくすと嗤った。その無邪気な感謝の言葉の裏には、2年後にマンダロアの全土を包み込むであろう、地獄の業火が渦巻いていた。

 




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