仮面ライダーアステラ×仮面ライダーエリシア ひとりぼっちの流れ星 作:teru@T
「───えっ?」
人型が喋った。
いや、
人間の人型だった
大きくてツルリと滑らかな機械の身体。関節とかはケーブルで繋いであって───映画とかに出てくるロボットみたいな人型。
赤く光る目が僕のことをじぃっと見つめている。
いや見た目のことは良いとして問題は。
「なんで僕の名前を知ってるの?」
僕はこの人型を初めて見た。
なのに、さっき、この人型は僕の名前を呼んでいた。
後、僕を見た時、嫌そうな顔をされたのも少し傷付く。初対面のはずなのに。
「決まっているだろう。自分たちの敵のことを調べた。その結果、君に辿り着いただけだ」
「調べたって……後をつけたりしたの?」
「そんな古典的で非効率的なことになんの意味がある?」
良かった、ストーカーされてるのかと思っちゃった。
「警察の情報を
「……ストーカーよりも質が悪かった」
やれやれといった様子の人型。文句を言いたいのは僕の方だ。
───変な気分だ。目の前にいるのは間違いなく人型なのに本当に人と話してるみたいな……。
「あなたはなに……?」
「君たちが言うところの人型だが……君の求めている答えはこれじゃないだろう?」
考え込むような仕草をする人型。
親しみだって覚えそうになるけど油断しちゃいけない。
こうしている彼の足元には未だに血が流れ続ける男の人の死体があるのだから。
「君の問いに対する答えとして名乗る事にしよう。私の名はネビュラ。星の群れを導く者として自ら名付けた名だ。あるいは
パソコン───前に時計から変化した人型もいた事を考えたらいてもおかしくはない。
ハッキングで情報を得ていることやこれだけ賢いのも納得……。
あれ、でもなんでわざわざ自分のことを教えてくれるんだろう?
「さて、わざわざ私の情報を開示した理由だが……大した理由じゃないとも。ただの
「っ! しまっ……!」
ハメられた、そう気付いた時にはネビュラは僕から視線を外して振り返ると歩き出してしまった。
同時に背後から何本もの機械のコードが僕へと迫り、包み込むように周囲を取り囲んだ。
「そこで大人しくしていてくれ。心配しなくともいずれ再び会いに来るさ」
球体のように僕を囲んだコードが僅かな光を遮って暗闇を作り出す。
外から聞こえるネビュラの声が足音と共に遠ざかっていく。
逃げられる───でも、逃がさない。
僕の思いに応える様に腰に光が宿ってベルトの様なものが現れる。
「変身」
光に両手を重ねて左右に開くと薄い水色の光が溢れ、闇を切り裂き、コードの内を光で満たしてゆく。
内側を満たし外へと光が溢れると共に僕の姿が変化していく。より強く、より大きな姿に。
漲った力に任せて取り囲んだコードを握り締めると引きちぎって外へと飛び出した。
視界が開けると同時にネビュラの姿を探して周囲を見回す───いた。
少し離れた壁の近くで何かをしていたネビュラは僕に気づくと舌打ちしてこちらへと振り返る。背後の壁では伸ばしたコードが輪みたいになってその中央が少し光っていた。
「あと僅かだというのに」
腰を落とし、左脚を引いて右腕を地面へと付ける。
うんざりとした様子で振り返るネビュラの元へと駆け出す。
勢いを乗せた拳がネビュラの突き出した拳と正面からぶつかり合った。
硬い……見た目だけじゃなくて本当に身体が金属でできているみたいだ。
「何をしようとしてるのか知らないけどあなたはここで倒す!」
「できるものならやってみるといい! 君の戦い方は分析済みだがな」
殴って、蹴って、相手の攻撃は跳んで避ける。
いつもと同じ様に動けているのに戦いづらい。
僕の動きに合わせて、僕が動き出す少し前にネビュラの腕が脚が触手のようなコードが僕の動きを邪魔するみたいに伸びてくる。
拳を振り抜く前に腕を掴まれ、勢いが付く前に蹴りを足で止められ、反撃のパンチを避けようと跳んだ足にコードを巻き付けられて地面へと叩きつけられた。
厄介……だけどこれだけ素直に僕の動きを読んでくるなら戦い方はある。
追撃を加えられる前に素早く立ち上がって少しだけ距離を取る。
身体を屈めて姿勢を低くするとそのまま前傾姿勢でネビュラへと駆け出す。
「何度やったところで!」
即座にコードが2本伸びて来る。それを手で弾きながら更に姿勢を低くしてネビュラの懐へ潜り込んで回し蹴りを放つ。
最初から当てるつもりのない蹴りを放ちながらその勢いを利用してぐるりと回転。勢いの方向と足の向きを上へと向けて腕で身体を跳ね上げる。
「たあああっ!」
「なにっ!?」
この攻撃は予想外だったらしく、空中で咄嗟に回避もできなかったネビュラの腹に右脚が突き刺さる。ズシリと硬い腹を蹴り抜いて蹴り飛ばした。
受け身も取れずに地面へと落下したネビュラ。すぐに追撃したかったけど僕も結構無理な体勢で跳び上がったから着地するので精一杯だった。
着地すると起き上がろうとしているネビュラへと再び駆け出した。このまま一気に───。
「舐めるなよ、アステラ!」
「っ! かはっ……!?」
起き上がり様に振るわれるネビュラの拳。それはコードを何重にも巻き付けて二回りは大きくなっていた。
両腕をクロスさせて咄嗟に防御したけどその防御の上から弾き飛ばされ、反対の壁へと叩きつけられてしまう。
腕が痺れて背中が少し痛いけど戦うには問題ない……そう思って顔を上げた時、目の前が一際激しく輝いた。
「今度はなに?」
光の元は壁に作られたコードの輪。
輪の中に光が溢れていた。いくつもの光が混ざり合う極彩色の光───いや、あれは
「ようやく繋がったか。さらばだ、アステラ!」
躊躇うこと無くネビュラはその極彩色の通路へと身を投げ出した。
光に呑まれてすぐにその姿は見えなくなる。
あの通路、時計の人型から貰った時間の中を飛ぶ通路に雰囲気が似てる……なら、どこか別の場所に繋がってる?
追い駆けたとしてどこに繋がってるのかそれに帰ってこれるのか分からない。でも、もしもあの先でネビュラが暴れたらまた被害が出ちゃう……どうすればいいんだろう。
ゆっくりと考えたかったけどそうはできないみたいだ。輪が少しずつ小さくなっている。
「……やっぱり、放って置けない!」
悩むのをやめて僕は輪へと向かって駆け出した。
あの人型は他の人型と色々違ってた。逃がしちゃダメな気がする。
必死に走るけど輪の縮まる速度が早い、このままじゃ間に合わない。
もっと速く、もっと……もっと!
───星が優しく照らす花恵市の夜。
郊外に建つ見捨てられた工場から夜の闇を打ち払う様に黄金の光が瞬いた。
輝きは僅かな時間。
光が幻影であったかのように夜の闇が優しく世界を包み込む。
そしてその日、
******
───羽頃盛市のとある昼下がり。
街の静寂を切り裂くのは猛スピードで駆け抜けていく1台のバイク。
車の間をすり抜け、変わり始めていた信号へと突っ込み交差点を通過する。
ワシの意匠のバイク───スコアダッシャーに跨るのは白衣の女性と1人の少女。
「博士! ちょっとスピード出しすぎ!」
「急いでんだから仕方ないだろ! 喋ると舌噛むぞ!」
「確かに
エリシアが更にスピードを上げたことで
やがて、周囲の様相に変化が訪れる。
ビジネスビルが並び立つ地区に差し掛かるとざわつきながら避難する人や待機している消防車や救急車、そして人が入らないように非常線を張り始めた警察官たち。
エリシアたちが近づくのに気付いた警官たちだが引き止めることはなく逆に道を開けて2人を奥へと通す。
その先で件の人物を見つけたエリシアはスコアダッシャーを停車し、ヘルメットを外しながらバイクから飛び降りた。
「おい、来たぞ温斗!」
「早かったですね……煌琉も妙に焦ってたけど」
「博士すごい飛ばすんですもん! ルシエさんは?」
「彼女はまだ……いや、今来たよ」
温斗の視線の先に迎えへと出していたパトカーが滑り込んでくる。
そこから下車してきたのはプラチナブロンドの髪を揺らし、迷彩柄のオーバーサイズなジャケット羽織った少女、ルシエだった。
盈月がにこやかに手を振るのにあわせ、ルシエも駆け寄りながら手を上げる。
「私が最後だったか……ボブが急かすから昼食を全部食べずに来たんだが……」
「わざわざありがとう。とにかくまずは現状を共有するよ。現場はそこのビルの……あの会社」
温斗が指さした先はとあるオフィスビルの一角、『シューティングスターテクノロジー』という屋号を掲げた場所だった。
それを見たエリシアは「やっぱりか……」とポツリと呟く。
「そこの社員と思われる人から通報があったんだ。
「怪物……スコアノートか?」
「単純に考えればそうだね。ただ、みんなわかってると思うけどレーダーは反応してないんだ」
各々のスマホにはスコアノートの出現を知らせるレーダーが搭載されいている。
レーダーを回避する方法は無いこともないがこれだけわかりやすい出現をして反応しないとは考えにくかった。
「そうだよね。うーん……」
「周辺の避難誘導は進めているからそっちは任せて欲しい。ただ、もう1個気になるのは……そろそろ、そんなに焦ってる理由を教えてくれませんか? エリシアさん」
「別に焦ってるわけじゃ……」
「温斗さんから連絡来てからずっと焦ってるよ、博士。あの会社知ってるの?」
2人に詰め寄られ、更に2人の真似をしてルシエにも詰め寄られたエリシアはバツが悪そうに視線を泳がす。
しかし、その泳いだ視線の先に盈月が回り込み、じぃっと見つめ続けられると観念したようにため息をつく。
「……
「兄さんを挟んで……? あそこはAI開発してるはずだけど……一体何を頼んだんですか?」
「それは───」
エリシアが言葉を続けようとしたその時、ビルの一部が内側から粉砕され、轟音が響いた。
ビルの真下にいた警官たちが慌てて退避するとその上に砕けたコンクリートとガラスの破片が降り注ぐ。
「なんだ!?」
「エーゲツ、あそこに誰かいる」
「えっ!? どこ!?」
ルシエが指さす先は砕けて穴の空いたビルの中。
砂煙で遮られたそこに確かに大柄な人のような影が浮かび上がっている。
直後、人影は砂煙を打ち払い、ビルから飛び降りると盈月たちの前へと着地しその全貌をあらわにした。
ツルリとした銀色の身体とコードやケーブルで接続された関節部を持つ人型の巨体。
赤く輝くアイレンズの瞳が周囲を見回している。
「あれは……」
「ロボットだ!」
「どうやら、あれが件の怪物みたいだね……」
「む……おお、もう集まっていたか」
驚きながらも身構える盈月たち。
機械の怪物───ネビュラは盈月たちに気付くと口元に笑みを浮かべながら上機嫌な様子で盈月たちの方へと視線を向ける。
その手に持つのは帯状の機械、それを見つけたエリシアは目を見開く。
「お前……! それは!?」
「ん、あぁそうだとも。
ネビュラが持つそれは大型のベルト。
中央に巨大な蜘蛛の意匠が携えられたバックルの黒を基調に金の装飾で彩られた機械式のベルトだった。
「まさかアレなんですか? あの会社に頼んでたものは」
「あぁ。正確にはアレの制御用AIを頼んでたんだよ。私と煌琉とボブ、3人で共同制作した新型ドライバー───イマージュクラスターの!」
見せびらかす様に掲げられ、陽光を反射しキラリと光るイマージュクラスター。
あれがドライバーであると聞かされた3人は改めて身構える。
自分たちも使っているそれを持つということはすなわち───。
「まさか、変身できるの!?」
「いや、言っただろ。アレはまだ問題がある。そのままじゃ使えないはず……」
「残念だが使えないものを取りに来るほど私は暇ではないのだよ、
「なんで私の名前を……! それにどういうことだそれは!」
「もちろん。こういう事だとも」
ニヤリと口元のパーツを動かし、笑みを作ったネビュラは自身の腰へとイマージュクラスターを押し当てた。
鈍く輝くドライバーから伸びたベルトはネビュラの腰部分の機械へと巻き付き装着される。
そしてネビュラはドライバー中央上部に備えられたボタンを押し込む。
《テレキネスアラクニド!》
《
直後、イマージュクラスターは起動しネビュラの周囲にいくつもの光の蜘蛛の巣が展開された。
「っ! なんで、起動を……!?」
「私に合うようにシステムに介入しただけさ。あぁ、そういえば名乗っていなかったな。私の名はネビュラ。星々を先導する一番星、とでも言っておこうか」
「ネビュラ……!」
「そしてこの先は君たちの流儀に合わせようか───こう言うのだろう? 変身」
《
得意げな笑みを浮かべたネビュラが再度ボタンを押し込み、迎え入れるように両腕を広げると展開されていた蜘蛛の巣が縮小。
ネビュラを包み込むように人型を形成し、その周囲に無数の蜘蛛やダニ、サソリの形状をしたエネルギーが出現した。
人型の上張り付く度に虫たちは黒と金、2色の金属へと変化して装甲を形成してゆく。
黒いアンダスーツの各所に金色の装甲が貼り付き、その背中には金色で彩られた4本のサブアームが携えられる。
《
変身が完了し、黒いアイレンズの奥でネビュラ本来の赤い双眸が怪しく輝く。
サブアームも含めた4対8脚を持つ新たなる戦士が今ここに産声を上げた。
自らの動きを確かめるように手をグーパーと動かす。
「ふむ、なるほど。自らの身を作り変えるのには慣れていたがその上に鎧を纏うというのはこういう感覚か」
「本当に変身しちゃった……」
「さてと変身したからにはこの姿に名がいるな……ふむ、ならばこういうのはどうだろうか」
呆然とする盈月たちを前にして顎へ手を当て考え込むような仕草を見せるネビュラ。
妙案が浮かんだのかネビュラは1つ頷くと蜘蛛が威嚇をするかのように両手を広げてサブアームを展開する。
「この姿の名も君たちの流儀に合わせるとしよう。すなわち、仮面ライダー───仮面ライダープロスペクト。未来の展望を示し体現する。最も優れた者の名だ」
自らに酔い痴れるネビュラ改め仮面ライダープロスペクト。
次から次へと変化する状況に動けずにいる盈月たちを見下すように見回した後に不思議そうに首を傾げる。
「どうした? お前たちも早く変身したらどうだ? 今更隠すことでもないだろう?」
「っ、どうしますか? エリシアさん」
「……どっちにしろドライバーを取り返さなきゃいけないんだ。やるぞ」
「分かった」
「よぉし、みんなやろう!」
覚悟を決めた4人は取り出したイマージュベルトを腰へと装着。
それぞれのリーダーとスコアプレートを取り出した。
盈月が2枚のプレートを取り出し、装填しようとするとハッと気がついたエリシアがそれを止める。
「悪い、盈月。ハウリングライオンのプレートは控えてくれ」
「えっ? どうして?」
「あのプレートの振動攻撃は精密機械と相性が悪い。最悪ドライバーを壊しかねないんだよ」
「そっか。それなら……とりあえずイーグルだけで!」
ライオンプレートを仕舞うとともにイーグルプレートを
それに続いてエリシアたちもプレートを装填、温斗はレディッシュリーダーを起動する。
《
《
《
《
4つの音が重なり合う。
それぞれが構えを取ると各々のリーダーをベルトへと装填した。
『変身!』
《
《フライトイーグル!》
《ブラストホーク!》
《フラッシュレディバグ!
《アクロバットバット!》
形成されたエネルギーがそれぞれの姿を包み込む。
そして並び立つはエリシア、エリーゼ、レディッシュそしてルシエの4人の戦士。
ルシエが構えを取りレディッシュがイツツボシューターを携える中、エリシアとエリーゼはドライバーを操作する。
《
2人の手元の空間に現れた裂け目。
そこからエリシアは2本の剣、双剣モードのツインラプターをエリーゼは片手斧、アックスモードのデュアルラプターを取り出してプロスペクトへとその切っ先を向ける。
腕を組んで4人が変身するのを待っていたプロスペクト。不気味なことに変身を終えても組んだ腕を解くことはなく、エリシアたちを待ち構えている。
背中のサブアームだけを忙しなく動かすプロスペクトを警戒し、エリシアたちは身構えたまま攻められずにいた。
「ふむ。来ないのならば……こちらから行くとしようか」
痺れを切らしたプロスペクトが先に仕掛ける。
その場から動くことはない。しかし、彼の4本のサブアームの前の空間に丸い裂け目が出現する。
プロスペクトはその裂け目へ向けて4本のサブアームを勢い良く突き刺した。
「きゃっ!?」
「ぐっ!? 後ろから……!?」
「っ!? どうやって!?」
直後、エリシア、レディッシュ、ルシエの3人が
何事が起きたのかと背後に目を向ける。
そこにあったのはプロスペクトのサブアーム。
エリシアたちの背後に出現した4つの裂け目から伸びるそれこそが攻撃の元だった。
「これって……私たちが使ったのと同じ……!?」
「"テレキネスサーキット”……それも使えんのかよ……!」
ただ1人、プロスペクトの能力を知っていたエリーゼは裂け目を見た直後に翼を広げて飛び上がったことでその攻撃を回避していた。
彼女が口にした”テレキネスサーキット”それこそがプロスペクト内部に内蔵された機構。
エリシアたちが武器やスコアプレートの転送に用い、スコアノートたちが移動に用いる
それを自身の戦闘に用いるための機構───それこそがテレキネスサーキットだった。
「当然、それ以外も使えるぞ?」
視線を空のエリーゼへと向けたプロスペクト。
それに合わせて背後のサブアームの形状が変化する。蜘蛛の脚の様だったそれの先端が1本は蜘蛛の腹、もう1本はサソリの針に似た形状へ。
攻撃を予期したエリーゼが動き出した直後、クモ糸と光弾の礫がエリーゼを襲う。
空を旋回し、羽根を乱射して迫る攻撃を撃ち落とす。
「くっ……!」
「ほら、おかわりだ」
「ぐあっ!?」
拮抗を打ち破るように光弾がエリーゼを撃ち落とす。
新たに開いた裂け目を通じて彼女を横から撃ち抜いたのだ。
なんとか空中で体勢を立て直し、墜落だけは免れるエリーゼだがプロスペクトの追撃が彼女へと照準を合わせる。
「させないよ!」
「今度はこちらの番だ!」
プロスペクトを取り囲むように左右へと展開したエリシアとレディッシュ。
挟み込んだ2人は蒼弓モードへと切り替えたツインラプターとイツツボシューターから光の矢と弾丸を同時に放つ。
それを見向きもしないプロスペクト。しかし、放たれた攻撃は新たに開いた裂け目へと飲み込まれプロスペクトを飛び越え対角の2人へと命中する。
「きゃあっ!?」
「愚かな。飛び道具が効かないことすら分からないとは」
「ならば、インファイトに付き合って貰おう」
「むっ」
声の元はプロスペクトの足元。
眼下へと視線を落とせば身体を低く沈めたルシエが跳ね上がるように腕の切っ先、”アクロバットナイフ”を振り上げていた。
咄嗟に身体を後ろに逸らし、攻撃を回避したプロスペクトだが同時に射線がズレてエリーゼへの攻撃も空を切った。
「面白い。そろそろ接近戦も試しておこうと思っていたんだよ」
「これだけ近づければ私の間合いだ」
纏わりつく様に超至近距離から攻撃を繰り返すルシエ。
始めこそプロスペクトを翻弄していたがそれも僅かな時間。変形させていたサブアームを元の形状へと戻し、両手と合わせた合計6本を自在に操るプロスペクト。
その手数がルシエの技術を上回った。
「どうした? 君の間合いなのだろう?」
「っ! くっ……!」
「ほら、私の間合いはこんな程度ではないぞ?」
突き出されたサブアームをルシエが回避する。
その背後に開かれた裂け目へと突き刺されたサブアームはルシエの正面から出現し胸を突き、弾き飛ばす。
距離を取られたルシエは即座に再接近しようとするが四方に開いた裂け目から伸びるサブアームによる攻撃が彼女をその場へと釘付けにする。
「さてと……これも試しておかないとな」
「っ! 逃げろ、ルシエ!?」
エリーゼが叫ぶも四方からの波状攻撃を捌くのに精一杯のルシエはそこから動くことはできない。
それを前にしてプロスペクトはイマージュクラスターのボタンを3度連続で押し込む。
《
直後、ルシエを取り囲むサブアームの形状がサソリのハサミを模した形状へと変化。
四方から彼女を挟み込んだ。
「ぐあああ!?」
ギリギリと万力のように絞め上げその場に留めながらその場を動かないプロスペクトの右脚部へとエネルギーが集約する。
「させるか!」
「やらせないよ!」
必殺技を放とうとするプロスペクトを止めようとエリシアとレディッシュが殺到する。
しかし、2人の攻撃をプロスペクトは意に介さず、刃をいなし、拳を腕で弾きながらエネルギーを集約し続けた。
やがて、最大まで集約すると正面にいたレディッシュをルシエへ向けて蹴り飛ばす。
「ぐあっ!?」
「纏めて受けるが良い」
振り上げた足をその場で振り下ろす。
2人から距離があってもプロスペクトには何の関係もない。
振り下ろされた下には新たな裂け目。その出口はレディッシュの腹の前だった。
《
裂け目を通じて放たれた必殺の一撃がレディッシュを正確に捉える。
「ぐうう!?」
「がはっ!?」
その衝撃はルシエにも伝播し4本のハサミがルシエを離すと2人は勢いのままに吹き飛ばされ、ビルへと叩きつけられた。
地面へとずり落ちると許容量を超えるダメージを受けたために2人の変身が解除されてしまう。
残された温斗とルシエは装甲のおかげで傷こそ軽微だが衝撃によって気を失っていた。
「2人とも!?」
「よそ見とは余裕そうじゃないか。次は君だぞ? 日向盈月───いや、エリシア」
「ッ! 逃げろ!!」
2人を案じて視線を逸らしたエリシア。
その眼前にプロスペクトの腕が迫る。
助け出すためにエリーゼが動くが彼女がたどり着くよりもプロスペクトの攻撃の方が早いことは明らかだった。
応戦のためにプロスペクトへと視線を向けたエリシア。
「───あれは?」
イーグルプレートの能力で強化された視覚がプロスペクトの背後から迫る一筋の光を捉える。
真昼の空であるというのに輝く流星の様に迫る───1本の光の矢だ。
エリシアの視線に気がついたプロスペクトが咄嗟に振り返る。
「まさか……!」
気付くのが遅れ、裂け目を開くのが間に合わないと悟ったプロスペクトはサブアームと両腕、計6本の腕を持って矢を受け止める。
バチバチと火花を散らしながら拮抗する両者。しかし、受け止めるプロスペクトは僅かに押し込まれ後退り、アスファルトを抉る。
やがて勢いの落ちた矢を弾き飛ばす。
その攻防の隙にエリーゼの元へと退避したエリシアに目を向けること無くプロスペクトは矢が飛来した空を見上げていた。
「大丈夫か?」
「う、うん……博士、それよりもアレって」
「あん? あれは……まさか」
プロスペクトが見上げる先へと視線を向けたエリシアとエリーゼ。
その先には太陽の光の照らされた───いや、それにすら負けない輝きを放つ1人の戦士がいた。
三対の水色の薄翅で天に立つは薄翅と同じく水色に輝くラインが奔る黄金の鎧の戦士。
その手に持つのは先ほど矢を放ったであろう黄金の弓。
赤く輝く双眸が見下ろす視線はプロスペクト───ネビュラへと向けられている。
「追ってきていたのか……アステラ!」
「アステラ……」
プロスペクトが呟いた戦士の名。
今はまだ盈月たちがその名の意味を知らぬ彼女の名。