仮面ライダーアステラ×仮面ライダーエリシア ひとりぼっちの流れ星 作:teru@T
光の通路を抜け出した先は壊されたオフィスの中だった。
机がめちゃくちゃに荒らされてパソコンが散乱している。そして崩れた壁の向こう側は昼間みたいに明るくて───
「……本当に昼間なの?」
やっぱり、過去か未来に来ちゃった? それとも外国……あ、でも、近くの書類が日本語だからそれは違うみたい。
色々と確かめたいのことはあるけどまずはネビュラを見つけないと。
耳を澄ませると外から戦う音とネビュラの声が聞こえてきた。
「あれは……人型?」
翅を広げて青空の下へ飛び出し、眼下を眺める。そこにいたのは5人の人型……の様な人たち。
鳥のようなのが2人とコウモリとてんとう虫みたいなの。
そして黒い蜘蛛みたいな人型……こいつがネビュラの声で喋っている。
4人が1人と戦ってそのうちコウモリとてんとう虫の人型がやられるとその中から出てきたのは2人の人間だった。
「人が変身してた? うぅ、わかんないことばっかりだ……でもまずは」
ネビュラをどうにかする。後のことはそれから考えよう。
そう決めると共に左手に光を集め、金に光る弓を出現させる。
ネビュラへと向けて狙いを定め、光の矢を放った。
******
アステラ。
ネビュラがそう呼んだ金色の鎧を纏う戦士は再び弓を構え、矢をつがえたかのように腕を動かす。
その動きに合わせ光の弦と光の矢が産み出され、引き絞られた矢が放たれる。
しかし、先ほどと異なりアステラの存在に気付いているネビュラは矢の射線と自身の間にゲートを生成する。
「危ない! 後ろ!」
「えっ、後ろ?」
エリシアの声にアステラが咄嗟に背後を振り向く。
アステラの背後に出現した裂け目。
そこから先ほど放った矢がアステラ自身へと迫っていた。
「っ!」
咄嗟に弓を振るい矢を弾き飛ばしたことで事なきを得たアステラ。
「ちっ」と仮面の下で舌打ちするネビュラに対し、今の交錯で遠距離攻撃は不利と直感したアステラは弓を逆手に持ち直す。
「今度こそ、逃さない……!」
「そのまま自滅してくれたら助かったんだがな!」
素早く飛来すると共に振り上げた弓が変化する。
真ん中で内側に折れ、刃が合わさり、一振りの剣へと。
振り下ろされる剣をプロスペクトはサブアーム2本をサソリの針へと変化させ、受け止める。
ギリギリと鍔迫り合い火花を散らす両者。しかし、僅かに剣が針へと食い込みプロスペクトは後退を余儀なくされる。
「押し切れる……!」
「させるわけがないだろう!」
押し切ろうとするアステラだが、その眼前で残った2本のサブアームが裂け目へと消えた。
攻撃を予期し、その場を跳び退くと同時に背後から現れたサブアームが先ほどまでいた場所へと突き刺さる。
再度接近を試みるが複数開いた裂け目からサブアームが伸び、その行く手を阻む。
「鬱陶しい……!」
サブアームを剣で打ち払う、それに合わせて背後からハサミに変化したアームがアステラを捕縛せんと迫る。
それを蹴り上げ、次いで放たれたクモ糸を空へと逃げて回避。
だが、空でも裂け目からは逃れられない。
「そこだ!」
「ッ!」
アームの追撃の対処に追われたその時、アステラの直上に開けられた裂け目からビームが放たれる。
それに合わせ、左右からアステラを捕らえんとハサミが迫る。
完璧にタイミングの合わせられたそれは全てを同時に対処するのは至難の業だ。
《
上空から放たれたビーム、そして左右から迫ったハサミが突如出現した3枚のエネルギーシールドによって阻まれる。
アステラが何事かと思って周囲を見渡せば先程助けた鳥の人型───姿を変えたエリシアが空へと舞い上がり、その手を掲げていた。
「さっきはありがとう! これでお返しできたかな?」
「あ、えっと。ありがとう? えっと……」
「私はえい、じゃなくて今はエリシアって呼んで!」
空中で会話を交わす2人。
それぞれの背後に裂け目ができたことに気付くと会話を打ち切り、お互いに対面から伸びるアームへと刃を振るった。
「ごめんなさい、色々お話聞きたいけど今は
「う、うん。こっちこそ、お願いします。僕は……」
「アステラだよね? そう呼ばれてたから」
「うん、今はそれで……よし、やろう」
アステラの言葉を受け弾けるように2人は左右に散開。複雑な軌跡を描きながら地上のプロスペクトを目指す。
プロスペクトはそれを許すこと無く、エリシアとアステラの周囲に裂け目を開き、2本ずつのアームがそれぞれへと襲いかからせる。
背後から迫ったアームをエリシアが振り返り両手の刃で弾き返す。
アステラも同様にアームへ対処しようとしたその時、自身に追従するように移動するシールドに気づいた。
「行って! 私が全部……止める!」
「! 分かった!」
エリシアの言葉を受け、アステラは速度を上げる。
直後、アステラへと殺到するアームは展開されたシールドが尽く防ぎいだ。
こじ開けられたプロスペクトへの路、風を切り裂きアステラは翔け抜ける。
「届いた……!」
「っ! 厄介な……! だが、1人寄れたとて!」
飛来するアステラに仮面の奥の眼光が忌々しげに歪む。
しかし、やることは変わらない。
裂け目から引き戻したサブアームと自身の肉体を合わせて対処をする。
彼女の動きならば分析し理解しているのだから……そう考えていたプロスペクトの斜め下から斧の刃が振り上げられた。
「なら、2人ならどうだよ!」
「っ! 貴様……!」
咄嗟に腕で刃を防御する。
だが、分厚い斧の刃から放たれる重い一撃が腕の装甲へと食い込む。
「ぐぅ!?」
「えっと、あなたは」
「エリーゼだ! 少し準備していて出遅れたが私も手伝う! 好きに攻めろ!」
「う、うん!」
エリシアと良く似た戦士、エリーゼに促されアステラは思うままに剣を振るう。
4本のサブアームと手足を駆使してアステラの攻撃を捌くプロスペクト。
本来ならば読み切っていた攻撃もエリーゼが振るう斧に邪魔され、防御が間に合わず僅かに掠める。
「くっ、なぜ……なぜ私が押される……!?」
「さっきよりも動きが鈍い。これなら押し切れる!」
「だとさ! 後、私たち2人だけに掛かりきりになってるとまずいと思うけどなぁ!」
「っ!? エリシア……!」
4本のアームをフルに活用して2人に対処していたプロスペクト。
エリーゼの言葉にハッと顔を上げた時にはもう遅かった。
すでにフリーとなっていたエリシアは手に持ったツインラプターを柄で組み合わせ、双刃モードへと切り替え肉薄していた。
「たあああ!」
「やあああ!」
「くぅ……受けるわけには!」
エリシアが振り下ろす刃とアステラが振り上げる剣、その両者がプロスペクトへと迫る。
本来なら回避は間に合わない。
しかし、2人の前からプロスペクトの姿が消失する。
直前に自身の足元へ裂け目を発生させ、そこに落ちることで身を躱したのだ。
「っ、逃げられた……!?」
「どこに……!」
「心配するな。おい、ボブ、煌琉。場所は……そっちか!」
通信越しに位置を確認したエリーゼが示した方向───近くのビルの屋上へと目を向ける。
そこにいたのは片膝をついたプロスペクト。
2人の攻撃は直撃こそしなかったが肩口と脇腹を確かに切り裂き、ダメージを与えていた。
「機を見て撤退するつもりだったがアステラがいるならこのまま攻めきれるぞ」
「うん! それでいいかな?」
「……はい!」
それぞれが羽ばたき、屋上へと着地すると武器を構える。
プロスペクトが再度、裂け目を通じて移動したとして3者が手分けすれば追跡は可能だろう。
追い詰められたはずだというのにプロスペクトの仕草に焦りはなく、非常に落ち着いていた。
「もう逃さないよ! イマージュクラスターを返して!」
「いいや、逃げるとも。確かにアステラが追ってきたことで計画にズレは生まれた。だが、そのズレもここまでだ」
「どういうこと?」
「時間切れ、あるいは───」
プロスペクトの言葉に従うかのようにアステラの身体から光が溢れ出す。
内側から発せられた光はアステラの姿を包み、その姿を覆い隠す。
「エネルギー切れだ」
光が爆ぜる様に弾けるとそこにいたのは黒髪の女性───花鹿だった。
その身を包んでいた鎧は消え失せ、手に持っていた剣も消失した。
仮面の下で驚くエリシアとエリーゼ。そして花鹿はそんな視線も気にすることができず何が起こったのか分からないまま、焦った様子で自らの身体を見つめるしかできなかった。
「な、なんで……こんな急に……」
「
「っ! 危ない!」
会話を打ち切ったプロスペクトのサブアームがサソリの針と蜘蛛の腹へと形状を変え、3人へと向けて光弾とクモ糸を乱射する。
アステラとしての姿を失った花鹿が受ければただでは済まないだろう。
咄嗟にエリシアが前に進み出て3枚のシールドを展開。
1発毎の威力はそれほどでもなく、受けることに難はない。
しかし、爆ぜる光と糸が3人からプロスペクトの姿を覆い隠していく。
「君が追ってきた時はどうなるかと思ったがこれで安心だ。では、さらばだ。この力は私が有効活用させて貰うよ」
「くそっ! 逃げんなぁ!」
エリーゼの絶叫に耳を貸すこと無く、弾幕を維持したままプロスペクトは背後に出現させた裂け目の中へ。
途端、激しかった攻撃は嘘のように消え失せ、同時にプロスペクトの姿も消えていた。
咄嗟にエリーゼは2人へと通信を繋ぐ。
『煌琉、ボブ! 奴はどこに行った!?』
『追えてはいる……が』
『向こうも追跡されてるの分かってんだろうな。細かく
『クッソ……とにかく位置だけは把握してくれ。いつまでも変身を維持することは出来ないはずだしな』
『りょーかい。警察も現場対応とか温斗とルシエちゃんを病院に運んだりしてるよ』
通信を終えたエリーゼは花鹿へと目を向ける。
彼女の瞳に映る花鹿の評価は先程までの戦士とは趣の異なるラフな───それこそ、外出に行くような格好の少女あるいは少年。
「……まぁ、放って置く理由もないか。おい、
「えっ、待って。僕も友達を待たせていて……」
「あのネビュラって奴を追ってるのは変わらないんだろ? なら、協力したいから少しだけ付き合え」
「それに助けて貰ったお礼もしたいし!」
困惑した様子の花鹿。
しかし、ここがどこなのか、どうすれば元の場所に戻れるのか分からない花鹿としても情報が欲しい。そして、ネビュラを無視できないことは確かだった。
どうするべきかと悩む花鹿にエリーゼは去る前に一言告げていく。
「それと、ここから降りるなら私たちに従ったほうが楽だと思うぞ?」
今いるのはどこかのビルの屋上。
来る時は自分で飛んできた。しかし、今はその時の翅は失われている。
事情を話せば降ろしては貰えるだろう。だが、面倒なことになるのは間違いない。
「……えっと、よろしくお願いします」
「うん、改めてよろしくね!」
諦めた花鹿はエリシアへと向き直りペコリと頭を下げた。
******
「おーい、戻ったぞ」
「博士おかえりー!」
打ち合わせを終えて盈月の家へと帰宅したエリシア。
普段ならば1人と1羽が出迎えるのだが今日は珍しく盈月1人が玄関まで出迎えへ来たことにエリシアは首を傾げる。
「ガルダはどうした?」
「ちゃんといるよー。ほら、こっち!」
盈月に引っ張られてやってきたダイニング。
コーヒーの香りが漂い、机には急遽用意したために駄菓子やもてなし用の菓子が雑多に並べられている。
その一角に緊張しているのか行儀良く椅子に腰掛ける花鹿の姿があった。
件のガルダは彼女の緊張をほぐそうとするように彼女の周りをちょこちょこと歩き周り時折、身体を擦り付けている。
物珍しそうに見つめながら恐る恐る手を伸ばすとガルダはそれに従うようにそこへ近づくのでゆっくりと身体を撫でる。
「ピィピィピィー!」
「可愛い……」
「よう、待たせて悪かったな。アステラ」
対面へと座るとエリシアが花鹿へと話を切り出す。
コーヒーを各人に用意した盈月もエリシアの横へと腰掛ける。
するとガルダは名残惜しそうな視線を向ける花鹿の元を離れ、ピョンと盈月の肩に飛び乗った。
「アステラはあの姿の名前で僕は大空花鹿って言います」
「可愛い名前なんですね! 花鹿く……さん?」
「……僕そんなに男の子に見えますか?」
「そ、そんなことないよ! あ、えっと私は日向盈月です! さっきは助けてもらってありがとうございます! 花鹿ちゃん!」
ジト目で睨まれた盈月は両手を合わせ何度も頭を下げる。
我関せずといった様子のエリシアはコーヒーを一口啜り、一息ついていた。
「私はエリシア・フェリキタスだ」
「? えっと、さっき盈月さんがエリシアって名乗ってなかったですか?」
「うん! 仮面ライダーの時は私がエリシア! 博士がエリーゼだよ!」
「名前に関しては色々あったんだよ、気にすんな」
「あの、それなら他にも色々聞きたいんですけどいいですか?」
控えめに手を上げた花鹿にエリシアは頷くことで返す。
「
「どこって私の家……いや、うーん、地名なら羽頃盛市だよ?」
「はごろもし……?」
質問されたエリシアも回答されたはずの花鹿も首を傾げたままな様子にエリシアはため息を吐く。
「よし、花鹿。お前のこと、それにお前の知ってることを話せ。今のままじゃ私たちもどこまで話せば良いのか判断つかないんだ」
「うん、私も聞きたい!」
「えっと、それなら。僕は花恵市に住んでて───」
エリシアに促され花鹿は自らのこと、そして自らがなぜあの場に現れたのかなどを話し始める。
住んでる街のこと、人型のこと、ネビュラのこと、そして花鹿自身のこと。
全てを話したわけではない、だが必要な内容を2人へと共有する。
「光の通路を通ったら外は昼間であそこに出たってこと? あ、日付はどう?」
「ごめん、スマホ見せてもらっても良い? 僕のは調子が悪いみたいで……うん、同じ日付。なら、ここは過去……? でも僕が過去に行った時とちょっと違う感じがしたんだよね」
「え!? 花鹿ちゃん、タイムスリップできるの!?」
「うん。色々……本当に色々あったから」
目を輝かせる盈月だったが花鹿が見せた哀しげな表情に追求の手を止めた。
「それが本当にできるなら今から過去に戻ってネビュラは止められないか?」
「今はできない……えっと、過去へ行くにはアステラに変身しなきゃなんだけど今は何て言うんだろう……力が空っぽになってる感じ? いつもはこんな風にならないのに……」
「そういえば、花鹿ちゃんはどうやってアステラになってるの? 私たちみたいにドライバー使ってなかったよね?」
盈月の問い掛けに花鹿はどう答えるべきか悩んだ。
腕を組み、うーんと唸った末に観念した様に2人の顔を見回す。
「僕も……人型なんだ。アステラは人型としての僕の姿ってことになると思う」
「何? お前が
途端、花鹿へと向けるエリシアの視線が鋭くなる。
対して、盈月はその目を一層輝かせて机を乗り出した。
「すごい! じゃあ、機械とか使わないでアステラに変身してるんだ! ヒーローみたい! あ、でも悪い人型と戦ってるからみたいじゃなくて本当にヒーローだ!」
「ヒーロー……かは分かんないけど、うん。みんなに傷ついてほしくないから戦ってるよ」
「なら、私たちと一緒! 花鹿ちゃんも”仮面ライダー”だね!」
花鹿の手を取り、パァッと明るい笑みを見せる盈月。
対面に座る花鹿はきょとんと首を傾げていた。
「あの、さっきから気になってたんですけどその仮面ライダーってなんですか?」
「私たちの呼び名だよ! みんなを守るために戦ってる戦士の名前! みんなにもそう呼ばれてるし、博士もそう言ってたよね?」
「みんなのために戦う戦士……それなら、僕もそうなのかな?」
「うん! 少なくとも私は守ってもらったもん!」
盈月の屈託のない笑み、そして肯定的な態度に花鹿は気恥ずかしさを感じながらも応えるように笑みを浮かべる。
一方、エリシアは花鹿を睨むように見つめながらブツブツと何かを考え込んでいるようだった。
「いやそんなこと……だがそう考えた方が色々自然か。何より私たちに
「博士? どうしたの?」
「僕が何か……?」
「ん……いや悪ぃ。ネビュラの言ってたことと花鹿が人型ってのを聞いて1個仮説を思いついたんだ。ただ、かなり突拍子がないが……これが正しいとすると色々納得できるんだ」
すでに聞くつもりの両者に対し、エリシアは「あくまで仮説だぞ」と更に念押した上でコーヒーを飲み干す。
「結論から言うとだ。花鹿とネビュラが来たのは未来でも過去でもましてや他の場所からでもない───他の世界から来たんだ」
「他の世界……!?」
「平行世界、パラレルワールド、別時空、呼び方は色々あるがようはここじゃない世界。そこから来たと私は考えている」
「……確かに突拍子はないけどそういうことをできる人型がいてもおかしくはない……かも」
エリシアの言葉に花鹿は驚くも今までの体験から不可能ではないことへと思い至る。
その肯定を受けてエリシアは仮説の続きを語った。
「そもそも、この説に至ったのはネビュラの言葉だ。”この世界”ってまるで他の世界を知ってるみたいな言い方だった」
「確かに言ってたけどそれだけで?」
「いや、流石にそれだけで仮説は立てるわけ無いだろ。ただ、そうすると不可解な部分に説明がつけられるんだ」
「不可解な部分? どんなの?」
「まず、夜から昼に移動したことだ。ネビュラは必要なこと以外やらないようにしている節があった。なら、未来でよっぽど何か起きてない限り、イマージュクラスターの状態は今と対して変わりなかっただろうから時間移動する理由がない」
エリシアは慣れた様子でリビングに置かれていたメモ用紙とペンを持ってくるとそこへ図にして整理していく。
「次に変身した理由───つまりイマージュクラスターを奪った理由だ」
「? それは戦うためじゃないの?」
「確かにそれで間違いないがアイツは変身しなくても戦えるんだろ? ならなぜ変身する?」
「そっか。言われてみると前戦ったときと戦い方は違うけどそんなに強くなってる感じはしなかった、かな」
ネビュラとプロスペクト、そのどちらとも戦った花鹿はそれぞれの戦い方を思い返す。
両者の装備の違いはあれど強さ自体は大きく乖離していなかった。
「なら、余計に私の仮説は補強されるよ。アイツは花鹿と同じだ」
「僕と同じ?」
「つまり、アイツも元の姿じゃ長くは戦えない。きっと前に試して消耗が激しいことを知ってたんだ。だから花鹿がこうなることも予想していた───こう考えれば全部繋がるんだ」
エリシアの仮説は希望的観測や不確定な要素も存在する。
しかし、2人を納得させ、今後の作戦を立てる足掛かりとするには十分な仮説だった。
残ったコーヒーを飲み干すとエリシアは勢い良く椅子から立ち上がる。
「私は
「うん、任せておいて!」
「後、お前もちゃんと休めよ? 明日は朝からリベンジに行くからな」
「リベンジ……! うん、じゃあ、今日は美味しいもの作るね!」
意味をわかっているのかいないのか分からない満面の笑みを浮かべた盈月の返事にエリシアは苦笑する。
その後、1つ咳払いを挟んて様子を眺めていた花鹿へと視線を向けた。
「今言った通り。明日、ネビュラ───いや、プロスペクトと私たちは改めて戦う。花鹿、お前の力はそれまでに戻りそうか?」
「……多分、無理。だと思う」
「そう、か……」
「でも、できることはさせてほしい! ネビュラはえっと僕の世界から来たなら僕がどうにかしなくちゃいけないと思う……から」
戦う力を失っても花鹿の思いはブレていない。
決意の籠った視線に止める様に説得することはできないと悟ったエリシアは大きくため息を吐く。
「危ないのが分かっていても無理するのはどこの奴も同じか……」
「? どういうこと?」
首を傾げる花鹿に対してチラリと盈月へと視線を向けたエリシアだったが「いや、気にするな」とすぐに向き直る。
「お前にやる気があるならこっちも手を尽くす。だから、お前もちゃんと休んどけよ」
「本当に……?」
「あんまり期待はしないでくれよ? ダメ元で運が良ければ……位に思っていてくれ」
そう言い残し、エリシアは部屋を出て自身の家へと向かった。
部屋に残された花鹿はコーヒーへと口を付ける。
エリシアがああ言っていた以上、手掛かりのない今は彼女を信じて待つしかない。
そうしていると、対面の盈月が「うーん、よし!」と勢い良く立ち上がった。
「花鹿ちゃん! おやつ食べたらお買い物にいこっ!」
「お買い物? えっと、何を?」
「えっとね、花鹿ちゃんが増えた分、夕飯と博士用のお夜食の材料も買いたいんだけど一番は……」
盈月はビシィッと花鹿を指差す。
何のことか分からず、花鹿も自身を指差し首を傾げる。
「僕?」
「そう。えっとね、明日に備えて花鹿ちゃんお休みするならうちに泊まるわけでしょ?」
「あ、うん。お世話になります」
「それでね、寝る場所とかお風呂は大丈夫なんだけど……多分、花鹿ちゃんの着れるお洋服がうちにないと思うの。だから、下着も含めて全部買いに行こ?」
洋服。確かに着の身着のままでここまで来た花鹿に着替えがないのは間違いない。
盈月の家に花鹿の服がないのも当たり前だろう。
「……」
改めて盈月をマジマジと見る花鹿。
背の高さもさる事ながら注目を集めるのは服を押し上げる2つの豊満な山。
着痩せする
「こ、これが平行世界の格差……!」
「? ど、どうしたの?」
「気にしないで……ちょっと違いに打ちひしがれてるだけだから……そういえば」
続いていた緊張が解れてきたのか興味から思い浮かんだ疑問。
それが自身のコンプレックスを更に刺激するなど思いもせずに花鹿は口にしてしまった。
「盈月さんって何歳?」
「私? 17歳だよ?」
「っ! と、年下……」
あまりの衝撃にガクリと崩れ落ちる花鹿。
キョトンとした様子の盈月を見ればこちらを貶める意図も傷つけるつもりもない、聞かれたから答えたそれだけだろう。
だが、だがしかし。
「うぅ……ずるい」
出かける支度をはじめた盈月をジト目で見つめながら残ったコーヒーを一気に煽る。
先行きの不安と刺激されたコンプレックスを押し流すように飲み干したそれは心なしか苦味が増していた。