隣で微笑む外道聖女   作:見守る女神

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8話 裏と表と

 何人かが、淀んだ目を花に向けている。俺にお礼を言ってくれた子もいる。息を深く吸い込んで、話しかけた。

 

「いったい、何があったんだ?」

「聞いてないの? 有翼連合の拠点に攻め込んで、当たり前のように負けて死んだんだよ。それで、拠点が見つかったって隠れられちゃったんだって」

 

 凍えそうなほど冷たい目で、花を見ている。これは、どっちだ? 勝手に死んだだけなのか? それとも、ディヴァリアが……?

 せめて、くだらない功名心であってくれ。そう願った瞬間に、自分が何を考えているのか理解した。

 俺は、彼の死を悲しんでいない。悼んでもいない。ただ、ディヴァリアが犯人でなければと祈っていただけだ。

 歯の奥で、変な音が聞こえた。噛み合わない音だった。

 

「最悪だよ。自業自得どころか、迷惑をかけてくるなんてね」

「リオン君に任せておけば、逃げられずに済んだはずっしょ」

 

 誰もが、当たり前のように死者を冒涜している。見ていられなくて、花を隠すような位置に立った。

 

「死人を悪く言うのは、できれば避けてくれると嬉しいな」

「リオン君が優しいのは素敵だけど、あんな奴らにまで優しくしなくてもいいんじゃない?」

「そーそー。死んで当然のクズなんだからさ」

 

 視線に、圧力を感じた。狂信的な何かすら。もはや、何を言っても無駄だろう。これ以上庇ってしまえば、俺だって敵扱いされるかもしれない。そう信じさせるほどの冷たい空気が流れていた。

 

 口を開いて、また閉じる。何かがこぼれようとする前に、扉が開いた。

 

「さて、今日の授業を始めるとしよう。席につくのじゃ」

 

 言われるがままに、席につく。助かったと思ったのか、トドメと感じたのか。自分でも分からない。ただ、シャーナ先生の顔がやけに遠くに見えた。

 

「今回は、心奏遺骸について話していこう」

 

 先生は、また杖をくるりと回す。そして、杖の先から光を出した。軽やかに回されながら、空間に絵が描かれていく。

 それは、ドクロのような形になっていった。

 

「ある条件を満たしたものが亡くなった時、心奏遺骸を残す。もし残せれば、後世まで残る名誉となろう。お主たちが目指すのも、悪くない」

 

 ドクロは消え去っていき、今度は杖の根本を持って先を動かす。また光が動いて、可愛らしいクマが描かれていく。

 死ぬことが名誉、か。とても共感はできそうにないな。

 

「うちの杖のように、誰にでも使えるものもある。スヴェル帝国の玉座のように、特定の人間だけが使えるものもある」

 

 今度はクマの手元に斧が描かれていく。そして、その先に炎も。

 先生の心奏遺骸は、誰にでも使えるものなのだろうか。俺も、心奏遺骸を持てば強くなれるのだろうか。

 首を振って、考えを捨てる。せめて自分の心奏具くらい使いこなせなければ、能力に振り回されるだけ。甘えてはダメだ。

 

「いずれにせよ、心奏の民しか使えぬものじゃ。無心の民と心奏の民の差が広がる原因と言えよう」

 

 別のクマが描かれて、槍が描かれて、一緒に消え去っていく。先生は、笑顔で杖をくるくると回している。

 無心の民。孤児院の子供たちくらいとしか、接したことはない。この世界では、どれほど大きな差があるというのか。実感は、できない。

 

「最強の心奏遺骸は、帝国の玉座と言われておるな。最強の心奏具については、語るまでもあるまい」

「聖女様、本当に強かったですからね」

 

 ディヴァリアの戦いは、多くの生徒が見ていたのだろう。正確には、戦いではなく蹂躙か虐殺ではあったのだが。

 にこやかに頷いた先生は、光を俺の方に放つ。ハートの模様が、胸に描かれた。

 

 いくらなんでも、愛の証であるはずがない。となると、心ということか。忠告されたのだろうな。俺が歪んでいると。しっかりと刻むように、胸に手を置いた。

 

「さて、今回も実践といこう。好きな相手と組むのじゃ。戦うも良し、見るも良し。心奏具の力を、しっかりと確かめることじゃ」

 

 先生はグラウンドまで先導してくれる。たどり着くと、それぞれが好きな相手を選んで組んでいる様子。ディヴァリアはこちらに手を振ってから、遠くまで離れていった。おそらく、誰とも組む気はない。

 

 周囲を見回すと、サクラとヒカリが近寄ってくるのが見えた。手を上げて、駆け寄っていく。

 

「リオン君、一緒に組みましょう。サクラとなら、きっと良い勝負になりますよ」

「ま、そうね。あんたなら、少しはマシでしょ」

 

 サクラは腕を組んで、他の生徒たちをちらりと見る。そして、少し眉をひそめた。思うところがあるというのが、見て取れる。ヒカリも、悲しそうに目を伏せていた。

 マシというのは、実力だろうか。それとも、態度だろうか。俺は、サクラが認めるだけの何かを示せているのだろうか。

 結局のところ、俺だって染まりかけていた。サクラとヒカリは、自分を保っている。

 本当に、俺はふたりと釣り合っているのか? 同情で合わせてくれているだけなんじゃないのか?

 

 サクラやヒカリを、まっすぐに見れない。すると、サクラは両手で頬をつかんで、彼女の方へと向けてきた。

 

「とりあえず、体でも動かすわよ。あんたが陰気になってると、見苦しいもの」

「まあまあ、サクラ。でも、リオン君。ずっと暗い顔をしていると、心配になるんですよ」

 

 ヒカリは眉を下げている。それを見て、俺までうつむきそうになった。軽く手を握って、抑え込む。そして、できる限りの笑顔を浮かべた。

 

「そうだな。まずは模擬戦で、サクラと高め合っていきたいところだ」

「また変なことを言っているわね……。でも、その方があんたらしいわ。ほら、行くわよ」

 

 手を取られて、模擬戦のための空間へと向かう。ヒカリは少し離れて見守っていた。

 

「さあ、準備はいい? 関係(かか)われ、届いた優しさ(カインドネスオブメモリー)!」

 

 サクラは右手を突き出して、そこに黒いグローブが現れていく。合わせて、俺も両手を前に出す。

 

守護(まも)れ、涙を止めるもの(エンドオブティアーズ)!」

 

 剣と盾を構えると、サクラはグローブを深く握り込む。そして、こちらに拳を向けてきた。

 

「あんたの心奏具だけ知ってるってんじゃ、不公平でしょ。先に教えてあげるわ。あたしの力は、炎。油断したら、心奏夢幻でも心を焼かれちゃうかもね!」

 

 合図もしていないのに、同時に駆け出した。剣を振り下ろすと、サクラが右手のグローブで横から弾き飛ばす。即座に殴りかかってくるので、盾を構える。かいくぐるように上半身を曲げ、顔面めがけて野球ボールくらいの炎を飛ばしてきた。

 

 全力で転がって、なんとか避ける。地面に当たった炎は、俺を飲み込みそうな火柱を上げていた。熱風がこちらにまで飛んできて、汗が吹き出てくる。

 当たっていたら、終わっていたかもしれない。心奏夢幻だから、気合いで耐えられる可能性もあるが。まあ、実戦を考えたら当たった時点で負けか。

 サクラは獰猛な獣のように唇を釣り上げている。

 

「やるわね、リオン。でも、当たり前よね。こんなところで終わっていたら、つまらなかったもの!」

「そう簡単に、負けたりはしない! 甘く見てもらったら困るぞ、サクラ!」

 

 拳でガードされないように、盾を前に振り出す。分厚くしながら、一気に。

 サクラはステップでかわして、空いている部分に炎を飛ばしてきた。また、転がって避ける。

 

 盾を攻撃に使うと、手痛いカウンターを食らいそうだ。きっと、防御は残しておいた方が良い。そう考えていると、俺の唇も持ち上がっていた。

 きっと、今の俺は楽しんでいる。対等に高め合う経験なんて、前世を含めても初めてかもしれない。

 ディヴァリアとなんて、勝負が成立しない。ノエルたちと戦えるはずもない。ゼファーとは殺し合いをしていた。

 

 なら、この機会を全力で楽しまないとな。勝っても負けても、恨みっこ無しだ。

 

「サクラこそ、これで終わらないでくれよ!」

 

 今度は剣を突き出す。拳でずらされて、当たらない。右半身に向けて、炎が飛んでくる。盾で受けると、そこに火柱が上がった。熱波の勢いに、息を吸い込むことすらためらってしまう。

 サクラが拳を振り上げるのが見えて、次は剣を左から薙ぎ払う。サクラはかがんで避けながら、拳を突き出してくる。当然炎が飛んでくるが、なんとか盾が間に合った。

 うまい。単純な能力で、しっかりとこちらの動きを制限してくる。戦いに慣れているというのは、間違いない。

 

「どっちが優勢か、分かってるわよね! そのままじゃ、あんたの負けよ!」

 

 今度は蹴り飛ばそうとしてくる。避ける方向に、先回りするように炎が飛んでくる。転がって避けながら、盾を地面に向けて分厚くしていった。反動で、サクラと距離ができる。全力疾走しても、数秒はかかるはずだ。

 

 さあ、ここからだ。近づいて戦えば、拳と炎の両方に気をつけなければならない。だが、距離を取ってしまえば炎だけでいい。しかも、俺は剣を伸ばして攻撃できる。盾を使っても問題ない。見てから避けるだけの距離はある。

 

 まずは、伸ばした剣でなぎ払う。サクラはかがんでいる。炎が飛んでくるが、軽くかわしつつ、盾を厚くして追撃する。サクラは転がって避けた。

 よし、さっきとは逆だ。全力で避けるだけのサクラと、好きに攻撃できる俺。良い流れが作れたぞ。

 

「まったく、面倒ね! なかなか、いやらしいじゃない!」

「勝負事なんて、嫌がらせをしてこそだろ!」

「大正解、よ! 分かってるじゃない!」

 

 サクラは連続で炎を飛ばしてくるが、軌道を読んでしまえば避けるのは簡単だ。とにかく距離を取ることだけを意識して、剣を伸ばしたり盾を厚くしたりして攻撃していく。

 同様の攻防が何度か続き、舌打ちの音が聞こえた。なかなかに、じれている。

 

 剣を伸ばして突きを放つと、拳で最低限だけずらして駆け寄ってきた。そのまま俺に向かって殴りかかってくる。

 盾で受けようとすると、拳を回り込ませようとしてくる。短くした剣を、拳に合わせていく。

 当たる直前に、剣を太くする。サクラの拳が、軽く弾かれた。その瞬間に、一気に突きを放つ。サクラは気にした様子もなく、俺に炎を飛ばしてくる。

 

 剣がサクラの体を貫き、炎が俺の右半身を焼いた。魂にまで響く熱に、膝をつく。サクラも同じだった。

 

「引き分け、ね。まあ、訓練だからってだけで、実戦なら負けでしょうけど」

 

 そう言いながらも、どこか楽しそうに口元を緩めていた。

 俺は立ち上がって、手を伸ばす。握り返されて、肩を叩かれた。胸が熱くなって、笑顔がこぼれていく。似たような顔を返してくれて、しばらくお互いの手を握り合っていた。

 

「ありがとう、サクラ。良い訓練になったし、何より楽しかったよ」

「ええ。あたしもよ。これからも組む価値は、充分にありそうね」

「お疲れ様でした、ふたりとも。とても見応えがありましたよ」

 

 落ち着いた拍手をしながら、ヒカリは優しげな顔を浮かべて近寄ってくる。自然と休憩の雰囲気になって、俺たちは校舎近くに歩いていく。

 影に入って、少し涼む。隣のふたりを見ると、妙に眩しかった。妙に頭が冷えて、さっきまでの楽しみまで冷え込んでいく。

 

 サクラの髪が、太陽に照らされて輝いている。対する俺は、頭から足元まで真っ暗だ。ただ影ができるだけ。それが、俺たちの差なのだろう。光景として突きつけられて、よく理解できた。

 この影そのものが、俺。サクラすらも染めてしまうかもしれないほどの。

 

 少しだけ、手が動いた。焦がれるように、伸ばそうとした。止めきることも、伸ばし切ることすらもできない。それが、今の俺だった。

 

「リオン君、疲れちゃいましたか? でしたら、私たちが話しますね」

「あたしに勝ったんだから、胸を張りなさいよね。それとも、あたしの炎にやられちゃったの?」

 

 ヒカリもサクラも俺の隣に寄り添ってくれる。当たり前のように持っている優しさは、ディヴァリアとは違う。そして、俺とも。

 どうして、俺はふたりみたいになれない。なんて、言い訳か。正しく現実に向き合う勇気がなかった。だから、結果が出てから気付いた。気付いてしまった。それだけだ。

 だが、輝けるふたりだからこそ、余計な心配をかけてはいけない。笑顔。そう、笑顔だ。

 

「ああ、大丈夫だ。せっかくだから、ふたりの話が聞いてみたいな。もっと、知りたいんだ」

「やっぱり、あんた……。刺されても、知らないわよ?」

 

 サクラの言葉と同時に、胸に何かが突き刺さる感覚がした。長くて黒い髪を振り乱して、笑う女。俺のことを刺して、目を揺らし続けていた女。それが、アーミーナイフを刺してくる。

 息が詰まる。まるで、溺れたみたいだ。そうだ。息を吸わないと。何度も何度も息を吸うと、余計に苦しくなっていく。

 倒れ込みそうになって、何かに抱えられる。そちらを見ると、長くて黒い髪が目に入った。

 悲鳴を上げかけて、背中をさすられる。息を吸って吐くと、目を伏せたヒカリがいた。震えるほどに、拳を握りしめている。

 

 隣を見ると、サクラが背中をさすってくれていた。心配そうに、目を細めてもいた。

 

「リオン、ゆっくり息を吸って、吐いて。あたしも一緒よ。だから、大丈夫なのよ……」

 

 言われた通りに、ゆっくりと息を吸って、吐いていく。そうすると、なんとか落ち着くことができた。刺されたのは前世のことであって、今じゃない。ストーカーなんていない。そばにいるのは、サクラとヒカリだ。

 

「ありがとう、ふたりとも……。急に妙なことになって、悪かったな」

「いえ、気にしないでください。リオン君が我慢し続ける方が、私にとってはつらいことですから」

「苦しい時くらい、誰かに頼ってもいいのよ。あたしはヒカリに助けられてきたし、ヒカリだって同じなんだから」

 

 俺とディヴァリアは、助け合ってこられただろうか。なんて、自明か。うつむきたくなってくるが、できるはずもない。ふたりに余計な心配をかけるだけだ。

 そうだ。今の俺は模擬戦の楽しみで頭がいっぱい。ふたりの話を聞きたくて仕方ないんだ。

 

「話がズレちゃったな。ふたりって、どんな感じで仲良くしてきたんだ?」

「単純と言えば、単純よ。幼馴染だから、ずっと仲良くしてきたのよね」

「サクラは昔から、まっすぐでしたね。私も見習いたいと思ったものです」

「ヒカリはずっと優しかったわよね。あたしのせいで、何度も困らせたでしょうに」

「サクラのおかげですよ。素敵な人がそばにいるから、前を向けたんです」

 

 ふたりとも、穏やかな顔でお互いを見ている。大切な思い出が、いっぱいあるようだ。俺とディヴァリアとは違って。

 目を逸らしそうになって、ポケットの中で拳を握った。

 

「ふたりは、本当に良い関係を作れていたんだな。なんというか、嬉しいよ」

「楽しそうな話をしているね。私も混ざっていいかな?」

 

 ディヴァリアが、肩のあたりからひょっこりと顔を出してきた。いたずらっぽく舌を出していて、茶目っ気を感じる。

 こういう顔をできてしまうから、みんな本性に気づかない。感情を理解できないはずなのに、どうして。

 

「聖女様……」

「ディヴァリアでいいよ。リオンが仲良くしているのなら、私も仲良くしたいし」

「ふーん。リオンが仲良くしているのなら、ね」

 

 サクラは腕を組んでいる。少しだけ、ツリ目になりながら。対するディヴァリアは、親しげに微笑みかけている。

 

「理解者ってのは、大事だよね。サクラも、そうなんじゃないの?」

 

  噛み締めるように、語っていた。

 もしかして、お前は自分が涙を流す代わりに、誰かに血を流させていたのか? 誰にも理解されない苦しみが、周囲に吐き出されていたのか?

 そうだとすれば、理解者になってやれなかった俺こそが……。

 ディヴァリアの笑顔が、遠ざかっていくような気がした。足を動かしそうになって、止めた。

 

「あたしにとってのヒカリが、あんたにとってのリオン。そういうことでしょ?」

「うん。きっと私たち、同じ物を抱えていると思うんだ」

「否定は、しないわ。あんたみたいな目、鏡で見たことあるもの」

 

 ふたりは笑顔で向かい合っている。サクラの笑みは、どこか圧を感じさせるようなものだったが。

 今のディヴァリアは、とても甘やかな目をしている。だから、きっと別の状況での話。有翼連合との戦いの時だろうか。

 サクラはきっと、ヒカリに救われた。ディヴァリアのことを、俺は救えたのか? 問うまでもないことだなんて、俺が誰よりも知っているのにな。

 

「なら、私の孤児院に来てほしいな。きっと、良い未来につながると思うよ」

「ぜひ、そうさせてほしいです。ね、サクラ」

 

 ヒカリの方を見ずに、サクラはしばらく目を合わせる。そして、ゆっくりと頷いた。

 

「ええ、構わないわ。よく見せてもらうわね」

「ふふっ、存分に見ていってよ。サクラの視点、気になるな」

「なるほどね。あたしは試金石ってわけ」

「サクラがどう思うかは、私にとっても大事なんだよ。ね、リオン」

 

 ずっと、誰もが笑顔のまま。穏やかなヒカリと、目が笑っていないサクラと、浸透してくるようなディヴァリア。

 ほんのわずかに、身震いをした。ディヴァリアに、そっと手を握られた。

 

「サクラたちなら、みんなも歓迎してくれるはずだ。楽しみだな」

「ふふっ、そうだね。みんな、喜んでくれるよ」

「これだけは言っておくわ。リオンを裏切ったら、あんたはすべてを失って終わる。仮に世界の頂点に立ってもね。同じ物を抱えているなら、分かるでしょう?」

「サクラこそ。あなたが本当に欲しいものは、私に反発しても手に入らない。私が、証拠だよ」

「そこまで……。なるほど。だから、リオンは……」

 

 ちらりと目線を向けてきた。意味深そうに、眉を曲げながら。

 俺の手を握っている力が、やや強くなる。柔らかい感触に包みこまれる感覚は、それでも冷たい。

 決して手を離さないようにしながら、俺は一歩だけ前に出た。

 

「次の休日あたりだよな。ふたりは、大丈夫か?」

「ええ。多少の用事なら、蹴り飛ばしてでも行くわよ」

「サクラの言い方は過激ですけど、私も同じ気持ちです。当日は、よろしくお願いしますね」

 

 ディヴァリアは頷いて去っていく。俺たちは、また授業に戻っていった。孤児院に向かう日を胸に、勉強にも訓練にも力を注げたんだ。

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