【転生先】⇒ “初代ウルトラマン”   作:薩摩次郎

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第二話

 ある日、一人の男がこの世を去った。

 

 特に何の不自由もなく、ごくありふれた家庭で育った彼は、近所に住む幼馴染と共に健やかに成長していき、お互いに関わる時間が増えていくにつれて段々と異性として意識し始めるようになってきたかと思いきや、気が付けばあれよという間に結婚という形でゴールインする事となり、その後は無事に待望の赤ん坊も産まれ、自分たちが親となり、育児と仕事を両立させていきながら生活するようになっていった。

 

 ところが幸せな時間というものは、些細なきっかけによって脆くも崩れ去ってしまうものとなっており……。

 

 

――きゃああ!?――

 

――た、大変だ!!だ、誰か救急車を!!――

 

 

 天地が逆転している景色に加え、耳元に届く通行人の悲痛な叫び声が彼の意識を辛うじて維持させつつも、身体に関しては身動き一つすらままならない状態と化していた。

 朝の出勤時の際に、いつもの道を使いながら自転車で通勤するにあたって、突如として道路からはみ出してきた一台の乗用車が自身の元に突っ込んできたのが、つい先程であったことまでは辛うじて覚えている。

 

 強い衝撃音と共に突き飛ばされた肉体は軽々と宙を舞い、硬いコンクリートの地面の上に叩きつけられた痛みに関しても、今でもなお伝わってくる。

 他にも騒然とする人々の声が依然として聞こえてくるものの、打ち所が悪かったのか徐々に視界が暗転し始める。

 

“……参ったな……”

 

 成長した我が子が立派な社会人として就職先の会社に勤めるようになってから早数年。

 かつての同級生の子と結婚し、もうすぐしたら孫が産まれるとの連絡を貰ったばかりなのに、不運にも程があると内心苦笑してしまう。

 

“……こんな形で………俺は死ぬのか……”

 

 せめて孫の顔だけでも見たかったと思いながら薄れていく意識の中で、彼が静かに呟く。

 

 

“……もしも……生まれ変わりが………あるとしたら……………○○になってみてぇな…………”

 

 

 冗談交じりで口にした願い。

 それがまさか本当に叶う羽目になるとは、当の本人も予想だにしなかったであろう。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

「……うぅ……ん……?」

 

 

 意識を取り戻し、ゆっくりと重い瞼を開ける。

 それにより視界に広がる見知らぬ天井に加え、近くにある窓から見える朝焼けの空模様などから何処かの一室であると感じ取ったのか。

 温かいベッドの上で仰向けに寝転がっている状態のまま自ずと辺りを見回す。

 

(……ここは……?)

 

 白を基調とした室内に点滴台や心電図といった医療器具などが確認できたことからすぐさま病室であると理解すると共に、何故自分がこんな所に居るのかという疑問が脳内に生じる。

 それ故に数刻前の出来事を思い出そうと頭を捻らせていると……。

 

(……そうか……僕は、あの巨人に助けられたんだ……)

 

 蘇った記憶の中から特に印象が強かったあの時の巨人について思い返す。

 墜落しそうになった小型ビートルに搭乗していた自身の命を救ってくれた恩人ともいえる存在。

 遥か宇宙の彼方から地球に飛来してきたと思われる彼に対し、少しずつ上半身を起こしてから感謝の意を心の中で述べる。

 

 

「あっ!目が覚めたんですね!」

 

「えっ?」

 

 

 と、次の瞬間。

 突然、病室の扉が開かれるなり、白いナース服を身に着けた一人の看護師が入室する。

 

 恐らく彼の容態を確認するために赴いたのであろう。

 現に、漸く目を覚ました当人の姿を目の当たりにするなり、これでもかと言わんばかりの喜びを露わにしていた。

 

「良かったぁ……すぐに科特隊本部に連絡しますね!」

「あの、ちょっと!」

 

 傍らまで近づいてから改めて無事であることを確認したのちに、足早に立ち去っていく。

 対する彼はというと、自分が此処に運び込まれてからどれくらい経っているのか等の質問を投げかけようとしたが、早々に相手が離れてしまったことから致し方ないと割り切ることにしたのか。

 今一度、ベッドの上で寝転がった後に天井を見つめながら物思いに耽る。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 暫くして、科特隊本部にハヤタ隊員の意識が戻ったとの連絡が入ったことにより、湖の調査をしていたムラマツキャップ、アラシ隊員、イデ隊員並びに本部の司令室にて待機していたフジ隊員らが、一斉に竜ヶ森から離れた所にある小さな町の病院へと足を運ぶ。

 

 やがて一行が訪れた病室先には、すっかり元気を取り戻した彼が居たため、ここぞとばかりに心配をかけさせた罰としての意味合いも兼ねてなのか、アラシ隊員がヘッドロックをかける。

 

「ハヤタ!お前~!」

「いてて!……すまなかった、アラシ」

「謝って済む問題じゃないだろ!」

「まぁまぁ、アラシ。その辺にしておけ」

 

 自然と和やかな雰囲気が醸し出される。

 それもそのはず、命の危機に瀕していたかもしれなかった彼が、こうして無事に戻ってきたのだ。

 

 先程、彼に手をかけていたアラシもまた、過去に自分でさえも一年落第した科特隊養成所をトップの成績で卒業したあいつが死ぬわけがないと内心では分かっていたはずが、実際に目にするまでは気が気でなかったのか。

 怒りつつも笑みを浮かべていたことから色々と察したのか、何とか技が解かれた所で目の前にいる仲間たちに向けてハヤタが謝罪をする。

 

「ご心配をおかけしてしまい、本当にすみませんでした」

「本当よ!私……気が気でなかったんですよ?」

「……すまなかった、フジ君」

「もぅ……」

 

 薄っすらと涙目になっていたが、その事をいちいち指摘するのは野暮でもあるため、敢えて受け流す。

 対する彼女はというと、彼の意識が回復して本当に良かったと心の底から安堵したのか、ホッと胸を撫で下ろす。

 余程、彼のことが心配であったことが窺えるが、そうこうしている内に彼らの間から件の未確認飛行物体に関する話が持ち上がる。

 

「それはそうと、キャップ。僕が気を失っている間に、例の未確認飛行物体について何か分かったことはありますか?」

「うむ。君が病室で寝ている間に、我々の方で二つの未確認飛行物体について調査をした所、いくつか分かったことがある。ただ、その前に……」

 

 現在に至るまでの調査結果を説明しようとするが、その前に確認すべき事案について問いかける。

 

「ハヤタ。君を見つけ出した若者たちからの証言によれば、赤い光の球……いや巨人が、君の窮地を救ってくれたそうだが、それは本当かね?」

「はい、この目で実際に見ました。僕を救ってくれた、あの巨人は………決して夢なんかじゃなかった」

 

 未だにはっきりと覚えている。

 墜落しそうになった機体を支え、そのまま自分の命までも救ってくれた当時の記憶が今でもなお鮮明に刻まれている。

 

 また朧気ではあるものの、意識を失う前に人の声のようなものが聞こえた気もした。

 だからこそ事実であると真っ直ぐな瞳で彼がそう口にする。

 

「そうか……やはり、本当だったのか」

「信じられないなぁ……ところで、その巨人ってのは、一体何者なんでしょうね?」

「身長が40mもあるとされる宇宙人ですからね。我々の敵か味方かどうかさえ、まだ分かりませんし……」

「あら、味方に決まってますよ。だって、ハヤタさんを助けてくれたんですもの」

 

 彼の命を救ってくれたのだから我々の味方であると、彼女が自信有り気に答える。

 確証が無いにも等しいものではあったが、かといって安易に否定することもできない。

 現に、証人がこの場に居るからだ。

 

「僕も……まだ分からないですけど、フジ君の言うように味方だと思ってます」

「おいおい、お前まで……」

「まぁ、そこまでにしよう。それで、話を戻すが……その後の巨人の行方については、現在のところ不明となっている」

 

 曰く、謎の巨人に関しては依然として消息を絶っており、手掛かりも一切見つからなかったとのこと。

 まるで狐にでも化かされたかのような現象とも捉えかねないが、赤い光が降り立ったことに関しては事実であったため、引き続き調査を進めるとのことだったが問題はもう一つの青い光球の方にあると語る。

 

「竜ヶ森の湖に落下した青い光球について、今朝早くからボートを使って湖の上から調査してみたところ、驚くことにあの球体の中には怪獣が眠っていたんだ」

「怪獣ですって!?」

「あぁ。僕が撮った水中カメラに、はっきりとその姿が収められているからな」

 

 科学者であるイデの説明によると湖畔にあるレンタルボート場から一隻ほど借りた後にアラシと共に舟の上から確認をとった所、肉眼でも分かるほどの巨大な青い球体が湖底に鎮座していただけでなく、水中カメラによる撮影で現像された写真には怪獣が体を丸めながら球体の中で眠っている姿が写し出されていたとのこと。

 

 その大きさは推定50m以上であると見なされ、全身は黒い皮膚で覆われており長い尻尾を生やしているほか、背中の突起物の形状からして爬虫類に近い特徴もあったと説明する。

 

「もしそいつが目覚めたりしたら……」

「大変なことになるだろうな」

「キャップ。特殊潜航艇S16号を使って湖底に潜り、今のうちにその怪獣を急襲してみては如何でしょうか?あと、その怪獣が湖から飛び出した所を狙って、ビートルによる頭上からの攻撃を仕掛けてみるのも良いかもしれません」

「なるほど!下から上にかけての総攻撃って訳か!」

「うむ………よし、それで行こう。ハヤタ。体調が戻った所ですまないが、君も参加してくれるか?」

「はい。僕のことなら心配いりません」

 

 湖底に身を隠している怪獣に対する攻撃を企てた彼らは、早速とばかりに行動に移す。

 市民の安全を守るためにも全力を尽くさなければならない。

 それこそが科特隊の使命でもあるのだと……。

 

 

 

 

―――

 

 

 

 

 隊長のムラマツに復帰したハヤタ。

 そして紅一点となるフジ隊員が、怪獣が潜んでいるとされる竜ヶ森湖の付近にまで足を運ばせるなか、残りの二名はというとジェットビートルを使用して一度本部へと帰還し、特殊潜航艇S16号を運搬するための準備に取り掛かる。

 

「よし。では、今から三人で手分けして、まだ残っている市民がいないか調査するとしよう。アラシたちが戻ってきた際には、またここで落ち合おう」

 

「「了解!」」

 

 現場付近に一般市民が居ないかを確認しつつ、宇宙生物の動向を窺う。

 もし誰かが居るとなれば、安全な場所まで避難させるのも仕事の一つ。

 怪獣退治もそうだが、何より市民の命を危険に晒すわけにもいかない。

 

(……この辺は大丈夫そうだな)

 

 現時点では人の姿は見当たらず、湖に関しても特にこれといった変化は見られない。

 しかしながら万が一という可能性も否めなくもないため、引き続き足を動かしながら調査を続ける。

 

 

「……ん?」

 

 

 それが功を制したのか、単独で行動していく内に湖の畔にて佇んでいる一般人を発見する。

 体格や容姿からして男性であることには間違いなく、穿いている紺色のズボンのポケットに手を入れたまま湖の方を眺めている。

 一見すると何の変哲もない一般市民だと思われるが……。

 

(……なんだ?この感じは……)

 

 何故か不思議な体感を味わう。

 それも警戒心などではなく、どちらかといえば最近どこかで会ったような感覚でもあった。

 

 既視感とはまた違う感じではあったものの、とりあえず一旦気持ちを切り替えることにしたのか。

 止めていた足を動かすなり、相手の元へと歩み寄る。

 

 

「あの……」

 

「ん?」

 

 

 胸の中で渦巻く心境に困惑しつつも、ひとまず声をかける。

 当然のことながら相手の男が顔を動かし、面と向かい合う形となるが、それはそれとして。

 

 ハヤタが発見した人物は、普段から体を鍛えているのか。

 紺色のズボンに無地の黒シャツ、並びに上衣として着込んでいる深緑のジャケット越しからでも分かるほどの筋肉質な体格が見て取れるほか、足長かつ身長が180㎝以上あるほどの長身となっており、かなりの良いスタイルとなっている。

 

 加えて、黒味がかかった茶髪に少々の顎髭を生やしているほか、顔立ちは二枚目とも言える整った容姿となっていたため、外見に関しては“素晴らしい”の一言に尽きていたが、それとは別に質疑応答に取り組むことにしたのか。

 お互いに目を合わせたままの状態で徐に口を開く。

 

「突然、声をかけてしまい申し訳ございません。私は、科学特捜隊のハヤタと申します。ここで何をされていたんですか?」

「……景色を見ていたところだったんだ。ついさっきまではな」

「……?」

 

 妙な言い草に引っ掛かりを感じたのか、訝しげに眉を顰める。

 まるで何かを知っているかのような口振りでもあったことから間接的に尋問を行うべきだと判断したのか。

 目の前にいる人物に向けて、再び話しかける。

 

「どういうことですか?」

「いや、なに。実は昨日の夜中頃に、空から妙な物体が落ちてきたのを偶然見ちまってな。それがどうも気になって、此処に来たって訳さ」

「そ……そうなんですか……」

 

 ニカッと白い歯を見せながら剽軽な態度を見せる。

 そういった返しをされたからなのか、些か肩透かしにでも食らったかのような気分に陥ってしまう。

 

「朝になるまでずっとここで観察してたんだが……何も変化がなくてな。しょうがないから暇つぶしに此処の景色でも見ようかなと思ったんだが……」

「はぁ……いや、でしたら尚更ここに居ては駄目です。我々の調査によれば、湖の中にいる未確認飛行物体には怪獣が潜んでいるんです。なので、これから攻撃を仕掛けますので、私と一緒に安全な場所まで避難しましょう」

「怪獣が?……それはまずいな」

 

 回りくどく説明するよりも、きっぱりと伝えた方が効果的になる場面もある。

 現に湖を眺めていた男性から理解を示した返事が届いてきたため、良かったと言わんばかりに息を吐く。

 

「では、早速参りましょう。私に付いてきてください」

「あぁ、了解――ッ!」

 

 安全な場所まで案内しようとした矢先のこと。

 突然、相手の男性が動きを止めるなり、湖の方へと目を向ける。

 その唐突な動作に思わず戸惑ってしまうハヤタであったが―――

 

 

「ッ!?」

 

 

 すぐさま彼と同様の反応を示す。

 水が飛沫を上げ、波を打つ音が流れだす。

 耳元に送られてくる情報を元に目を凝らしてみると、広々としている湖の真ん中あたりから複数の小さな水柱が立ち始めていた。

 

 それも湖底から何かがせり上がってくるような勢いから嫌な予感がした瞬間、オレンジを基調とした隊員服の胸元に付属されている流星マークのバッジから途端に通信が入ってきたため、慌ててバッジに備わっている小さなアンテナを引っ張り出した後に応答する。

 

「こちら、ハヤタ!」

《ムラマツだ。ハヤタ、先程アラシからもうすぐこちらに辿り着くとの連絡が入った。すぐに合流地点に戻りたまえ》

「キャップ!それよりも大変なことが起きています!例の怪獣が湖の中から出てこようとしています!」

《なに!?》

 

 上司との交信をしながら警戒していると、遂に恐れていた事態が起きてしまう。

 というのも水しぶきが上がる最中、突如として湖面から鋭い牙をむき出しにしながら咆哮を上げる怪獣の頭部が現れたのだ。

 

(あれが……青い光の球の中に居た怪獣なのか!?)

 

 桁外れの鳴き声に加え、魚眼のような目玉を動かしつつ、黒い体表を見せびらかしながら首から上のみを覗かせる巨大な化け物に戦慄する中、反対に動揺することなく冷静に事の様子を眺めていた男性はというと、隣に居る彼に聞こえないくらいの声量でとある名を呟く。

 

 

 

“ベムラー”……と。

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